日本発エビデンス|page:8

日本人コロナ患者で見られる肥満パラドックス

 日本人では、肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスク因子ではない可能性を示唆するデータが報告された。肥満ではなく、むしろ低体重の場合に、COVID-19関連死のリスク上昇が認められるという。下関市立市民病院感染管理室の吉田順一氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Medical Sciences」に9月11日掲載された。  古くから「肥満は健康の敵」とされてきたが近年、高齢者や心血管疾患患者などでは、むしろ太っている人の方が予後は良いという、「肥満パラドックス」と呼ばれる関連の存在が知られるようになってきた。COVID-19についても同様の関連が認められるとする報告がある。ただし、それを否定する報告もあり、このトピックに関する結論は得られていない。吉田氏らは2020年3月3日~2022年12月31日までの同院の入院COVID-19患者のデータを用いて、この点について検討した。

HER2+進行乳がん高齢患者への1次治療、T-DM1 vs.標準治療(HERB TEA)/SABCS2023

 HER2陽性進行乳がん患者の1次治療として標準的なHPD(トラスツズマブ+ペルツズマブ+ドセタキセル)療法は、高齢患者では有害事象により相対用量強度を維持できないケースやQOLが損なわれるケースがある。そのため、毒性は低く、有効性は劣らない高齢者における新たな治療オプションが求められる。国立国際医療研究センター病院の下村 昭彦氏は、HPD療法とトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)を比較した第III相HERB TEA試験(JCOG1607)の結果を、サンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2023)で報告した。

レビー小体型認知症とアルツハイマー病の鑑別におけるCISの診断精度

 レビー小体型認知症(DLB)の国際診断基準に取り入れられているcingulate island sign(CIS)は、アルツハイマー型認知症(AD)との鑑別診断に用いられる。最近の研究では、DLBにおけるCIS比は、ミニメンタルステート検査(MMSE)スコアに応じて変化することが示唆されている。東京慈恵会医科大学の浅原 有揮氏らは、DLBとADを鑑別において、CIS比の診断精度(感度および特異度)がMMSEスコアに応じてどのように変化するかを評価するため、本研究を実施した。Journal of the Neurological Sciences誌2023年12月15日号の報告。

糖質制限or脂質制限、向いている食事療法を予測/京都医療センター

 米国糖尿病予防プログラム(DPP)やフィンランド糖尿病予防研究では低脂肪食が糖尿病に有効との報告がある一方で、糖質制限が減量に有効であるとの報告もある。それでは、目の前の患者さんにどのような食事療法を指導していけばいいのだろうか。  この問題を解決するために、坂根 直樹氏(京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室)らの研究グループは、PwCグループが開発した膵臓・肝臓・脂肪など臓器間のネットワークを含めたシミュレーションモデル(機序計算モデル)を用いて、糖尿病の食事療法の個別化分析を行った。PLoS One誌2023年11月30日の報告。

抗うつ薬治療抵抗性うつ病に対するブレクスピプラゾール補助療法~国内第II/III相ランダム化比較試験

 抗うつ薬への治療反応が不十分であることは、効果的なうつ病治療の妨げとなる。関西医科大学の加藤 正樹氏らは、抗うつ薬治療で効果不十分な日本人うつ病患者を対象に、ブレクスピプラゾール補助療法の投与量、有効性、安全性を評価するため、国内第II/III相ランダム化比較試験であるBLESS試験を実施した。Psychiatry and Clinical Neurosciences誌オンライン版2023年11月7日号の報告。  BLESS試験は、8週間の単盲検期間では抗うつ薬治療で効果不十分であった日本人治療抵抗性うつ病患者を対象としたプラセボ対照ランダム化多施設共同並行群間第II/III相試験である。SSRI/SNRI治療で効果不十分なうつ病患者を対象に、6週間のブレクスピプラゾール1mg、2mgまたはプラセボの補助療法を行う群にランダムに割り付けられた。治療抵抗性うつ病患者の定義は、1~3の抗うつ薬治療では、ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)合計スコア14以上と効果不十分であった患者とした。主要エンドポイントは、Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)合計スコアのベースラインからの変化とした。副次的エンドポイントは、MADRSによる治療反応、寛解率、臨床全般印象度の改善度(CGI-I)スコアとした。安全性は、とくに抗精神病薬の有害事象に関して包括的に評価した。

日本の大学病院の外来における睡眠薬の処方傾向

 日本では、不眠症治療のための1日当たりの睡眠薬の投与量が年々増加しており、睡眠薬治療への過度な依存が大きな問題となっている。久留米大学の加藤 隆郎氏らは、自院において、1年間で3種類以上の睡眠薬を減量・中止するために必要な要因の検討を試みた。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2023年11月9日号の報告。  次の2つの調査が実施された。調査1では、2013年1月~2019年3月に一般外来および精神科外来を受診したすべての患者の診療データをレトロスペクティブに調査し、3種類以上の睡眠薬の処方頻度を評価した。調査2では、2013年4月~2019年3月に精神科外来を複数回受診し、3種類以上の睡眠薬を処方されたすべての患者の診療データをレトロスペクティブに調査し、その後1年間の睡眠薬と向精神薬の処方変化を評価した。

精神科医の統合失調症薬物治療ガイドライン順守と患者の労働時間

 統合失調症は社会的機能不全を伴う精神障害であり、患者の労働時間の短縮などさまざまな課題を引き起こす。国立精神・神経医療研究センターの伊藤 颯姫氏らは、精神科医のガイドライン順守と統合失調症患者の労働時間との関連を調査した。統合失調症の薬物治療ガイドラインを精神科医がどの程度順守しているかを測定するため、本研究の研究者らは患者ごとの精神科医のアドヒアランスに関する治療適合度(individual fitness score:IFS)を最近開発した。しかし、精神科医のアドヒアランス向上が、労働時間などの患者の社会的機能アウトカムの改善にどの程度関連しているかは、依然としてよくわかっていなかった。Schizophrenia (Heidelberg, Germany)誌2023年11月7日号の報告。

非インスリン療法患者のisCGMによるHbA1c改善には治療満足度が関与

 インスリン療法を行っていない2型糖尿病患者が間歇スキャン式持続血糖測定(isCGM)を使用すると、早ければ使用開始の翌週から血糖管理が有意に改善すること、HbA1c改善幅は治療継続に関する満足度の高さと相関することなどが明らかになった。名古屋大学大学院医学系研究科内分泌・糖尿病学の尾上剛史氏、有馬寛氏らによる論文が、「Primary Care Diabetes」に10月9日掲載された。  現在、保険診療でisCGMを使用できるのはインスリン療法を行っている患者のみだが、有馬氏らはインスリン療法を行っていない2型糖尿病患者でもisCGM使用によって血糖コントロールが改善することを、多施設共同無作為化比較試験の結果として既に報告している。今回の論文は、そのデータを詳細に事後解析した結果の報告。

コロナ緊急事態宣言は国内大学生の抑うつレベルに影響を及ぼさなかった?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下での大学生の抑うつレベルの推移を解析した結果、計4回発出された緊急事態宣言は、大学生の抑うつレベルに有意な影響を及ぼしていなかった可能性を示すデータが報告された。むしろ、4月の新年度のスタートが、大学生の抑うつレベルに影響を与えていることが確認されたという。名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野の白石直氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of General Psychiatry」に10月10日掲載された。

パンデミックで急性アルコール中毒による救急搬送が有意に減少

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最中に、急性アルコール中毒による救急搬送件数が有意に減少していたことが明らかになった。住民の飲酒量が多いことで知られる高知県のデータを解析した結果であり、高知大学医学部環境医学の南まりな氏、災害・救急医療学の宮内雅人氏らによる論文が、「Alcohol」に9月20日掲載された。  COVID-19パンデミックにより人々の生活が一変し、それにより救急搬送される患者の傾向にも変化が生じている。例えば交通事故による外傷が減り、ストレスが発症に関与しているたこつぼ心筋症が増えたことなどが報告されている。一方、飲酒行動に関しては、飲食店の時短営業や入店制限などによる飲酒機会の減少と、ストレス負荷による自宅での飲酒量の増大という相反する影響が考えられるが、南氏らが2020年春というパンデミック初期に高知県で行った研究では、急性アルコール中毒による救急搬送が減少していたことが明らかになっている。今回の研究では、パンデミックが長期化した以降もそのような傾向が継続しているのか否かを検証した。

非定型抗精神病薬の胃腸穿孔・腸閉塞リスク~MID-NETデータに基づく医薬品安全性評価

 胃腸穿孔・腸閉塞は、抗精神病薬によって引き起こされる有害事象の1つであるが、添付文章上の警告情報については、各抗精神病薬により異なっている。医薬品医療機器総合機構の長谷川 知章氏らは、非定型抗精神病薬を処方された患者における胃腸穿孔・腸閉塞リスクを評価するため、日本の医療情報データベースMID-NETのリアルワールドデータを用いて、ネステッドケースコントロール研究を実施した。Therapeutic Innovation & Regulatory Science誌オンライン版2023年10月29日号の報告。  調査期間は、2009~18年。非定型抗精神病薬を処方された患者における胃腸穿孔・腸閉塞リスクを、定型抗精神病薬を処方された患者と比較し、評価を行った。

若~中年での高血圧、大腸がん死亡リスクが増加~NIPPON DATA80

 高血圧とがんリスクとの関連についての報告は一貫していない。今回、岡山大学の久松 隆史氏らが、日本人の前向きコホートNIPPON DATA80において、高血圧と胃がん、肺がん、大腸がん、肝がん、膵がんによる死亡リスクとの関連を調査したところ、30~49歳における高血圧は、後年における大腸がん死亡リスクと独立して関連していることがわかった。Hypertension Research誌オンライン版2023年11月22日号に掲載。  研究グループは、NIPPON DATA80(厚生労働省の循環器疾患基礎調査1980年)において、ベースライン時に心血管系疾患や降圧薬服用のなかった8,088人(平均年齢48.2歳、女性56.0%)を2009年まで追跡。喫煙、飲酒、肥満、糖尿病などの交絡因子で調整したFine-Gray競合リスク回帰を用いて、血圧が10mmHg上昇した場合のハザード比(HR)を推定した。また、逆の因果関係を考慮し、追跡開始後5年以内の死亡を除外して解析した。

「遺伝子パネル検査で治療法が見つからない」は誤解?/日本肺癌学会2023

 肺がん遺伝子検査は、「コンパニオン診断→標準治療→CGP検査(遺伝子パネル検査)」という流れで行われる。CGP検査は、標準治療が終了あるいは終了見込みとなった段階で保険診療での使用が可能とされている。しかし、検査が受けられる病院が限られていたり、保険適用となるのは生涯で1回のみということもあったりすることから、肺がん患者においては十分に普及しているとは言い難い。そこで、近畿大学病院における肺がん患者のCGP検査の実態が調査された。その結果、非小細胞肺がん(NSCLC)患者では、想定以上にCGP検査後に遺伝子検査結果に基づく次治療へ到達していたことが明らかになった。

持続性うつ病と関連する要因

 うつ病は、再発・再燃を繰り返す慢性疾患である。うつ病の症状慢性化や双極性障害への診断変化を予測するためにも、患者背景を理解することは、臨床上重要である。関西医科大学の越川 陽介氏らは、持続性うつ病、再発、双極性障害への診断変化と関連する臨床的および社会人口学的特徴を特定するため、本研究を実施した。Heliyon誌2023年10月13日号の報告。  対象は、2年間のフォローアップ調査を伴う6週間のランダム化比較試験に登録されたうつ病患者197例。多重ロジスティック回帰分析を用いて、持続性うつ病(PDD)、再発、双極性障害への診断変化と関連する臨床的および社会人口学的特徴を分析した。  主な結果は以下のとおり。

2週間のジョギングなどが冷え性と睡眠の質を改善/山口県立大学

 日常生活における女性の悩みの1つに冷え性がある。とくに若年の女性では、通年を通じて困っている人も多い。こうした症状の改善にはどのような方法があるのだろうか。山口県立大学の山崎 文夫氏(看護栄日常生活における女性の悩みの1つに冷え性がある。養学部 教授)らの研究グループは、冷え症の若年女性を対象に、ジョギングなどの有酸素運動介入をすることが、睡眠の質を改善し、冷えによる不定愁訴を減少させるかどうかの検討を行った。その結果、短期の有酸素運動は末梢四肢冷感症状を緩和し、主観的な睡眠の質を改善した。Journal of Physiological Anthropology誌2023年9月29日の掲載。

日本における慢性疼痛・片頭痛患者の医療アクセスへの障壁

 慢性疼痛および片頭痛は、患者のQOLや生産性の低下などの経済的な負担が大きいにもかかわらず、十分に治療されていないケースが少なくない。治療を受けない理由を明らかにすることは、介護を求める行動を改善するための介入を可能にするためにも重要である。しかし、日本において、疾患特有の治療を受けない理由に関する報告は限られている。順天堂大学の唐澤 佑輔氏らは、慢性疼痛および片頭痛を有する未治療の患者における医療アクセスへの障壁を明らかにするため、調査を行った。その結果から、痛みに伴うリスクとその原因、安価な治療選択肢の利用の可能性、適切な治療施設へのアクセスについて患者教育を行うことで、治療率が向上する可能性が示唆された。Frontiers in Pain Research(Lausanne, Switzerland)誌2023年10月3日号の報告。

関節リウマチに対するJAK阻害薬、実臨床下で有効性を確認

 関節リウマチ(RA)に対する治療薬の中では比較的新しいJAK(ヤヌスキナーゼ)阻害薬は、その効果を疑問視する声があったものの、実臨床下において全般的に大きな効果を上げていることが、新たな研究で明らかになった。JAK阻害薬は、体内での炎症に関わっているサイトカインの細胞内伝達に必要な酵素であるJAKの働きを阻害することで炎症を制御する内服薬。神戸大学医学部附属病院の林申也氏らによるこの研究結果は、「Rheumatology」に11月1日掲載された。  RAは、免疫系が体内の関節組織を誤って攻撃することにより引き起こされる自己免疫疾患で、関節の痛み、腫れ、こわばりなどを引き起こす。炎症が全身に広がると、時間の経過とともに、心臓、肺、皮膚、目など、体の他の部位にも問題が生じる可能性がある。RA治療薬の多くは、免疫反応の一部を標的とすることで関節障害の進行を遅らせる。JAK阻害薬もそのような治療薬の一つだ。しかし、本研究には関与していない、米Rheumatology AssociatesのStanley Cohen氏は、「JAK阻害薬は、RA治療の第一選択肢とは考えられていない」と言う。

回復期リハビリテーション病棟でのせん妄に対する向精神薬の減量

 川崎こころ病院の植松 拓也氏らは、同施設の回復期リハビリテーション病棟に転院してくる患者さんの多くが、急性期病棟入院時にせん妄に対する向精神薬処方が行われている現状を踏まえ、精神科医、薬剤師、リハビリテーション医が協力し、向精神薬減量への取り組みを行った。その結果から、急性期病棟で処方されている向精神薬の種類および用量を回復期リハビリテーション病棟で減量できる可能性があることを報告した。Neuropsychopharmacology Reports誌オンライン版2023年10月26日号の報告。  対象は、2021年4月~2022年3月に川崎こころ病院の回復期リハビリテーション病棟を退院した患者88例。診療記録より基本的情報および向精神薬処方状況を抽出した。

肥満は胆道がんの発症・死亡に関連~アジア人90万人のプール解析

 肥満と胆道がんの関連について、愛知県がんセンターの尾瀬 功氏らがアジア人集団のコホート研究における約90万人のデータをプール解析した結果、BMIと胆道がん死亡率の関連が確認された。さらに肥満は胆石症を介して胆道がんリスクに影響を与え、胆石症がなくても胆道がんリスクを高める可能性があることが示唆された。International Journal of Cancer誌オンライン版2023年11月15日号に掲載。

地域のソーシャルキャピタルと認知症発症との関連~日本老年学的評価研究データ分析

 近年、社会や地域における、人々の信頼関係・結びつきを意味するソーシャルキャピタルという概念が注目されている。個人レベルでのソーシャルキャピタルは、認知機能低下を予防するといわれている。また、コミュニティレベルでのソーシャルキャピタルが、認知症発症に及ぼす影響についても、いくつかの研究が行われている。国立長寿医療研究センターの藤原 聡子氏らは、日本人高齢者を対象とした縦断的研究データに基づき、コミュニティレベルのソーシャルキャピタルと認知症発症との関連を調査した。その結果から、市民参加や社会的一体感の高い地域で生活すると、高齢女性の認知症発症率が低下することが示唆された。Social Science & Medicine誌2023年12月号の報告。