Lancet委員会では、2017年より認知症の修正可能なリスク因子に関する研究結果を報告しており、最新の研究結果は2024年に公開されている。そこでは、修正可能なリスク因子として14因子が挙げられ、難聴と高LDLコレステロール(LDL-C)が最も影響の大きな因子とされた1)。では、これらの因子の日本人における影響はどうだろうか。その疑問に答える研究結果が、和佐野 浩一郎氏(東海大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授)らによって、The Lancet Regional Health – Western Pacific誌2026年1月号で報告された。本研究では、日本人は難聴が最も影響が大きく、14因子を合計すると最大で38.9%(グローバル研究は45%)が理論上予防可能であることが示された。
研究グループは2024年のLancet委員会の報告に基づき、14の修正可能なリスク因子(教育歴の低さ、難聴、高LDL-C、うつ、外傷性脳損傷、身体不活動、糖尿病、喫煙、高血圧、肥満、過度の飲酒、社会的孤立、大気汚染、未治療の視力低下)を調査対象とした。日本の国民健康・栄養調査や大規模コホート研究などのデータを用いて、各リスク因子の日本国内での該当割合を推定し、集団寄与危険割合(PAF)※1 および潜在的影響割合(PIF)※2 を算出した。これにより、本邦における認知症予防の潜在的規模を定量的に評価した。
※1:あるリスク因子が存在しなかったと仮定した場合に、どれだけの割合で疾患発生が予防できた可能性があるかを示す指標
※2:あるリスク因子を一定割合減らしたと仮定した場合に、どれだけの割合で疾患発生が減少する可能性があるかを示す指標
主な結果は以下のとおり。
・全14因子を考慮した場合、認知症の38.9%が理論上予防可能であると推計された。影響が大きい因子(PAFが大きい因子)は、難聴、身体不活動、高LDL-Cであった。詳細は以下のとおり(括弧内はグローバル研究の数値を示す)。
<早期(early life)>
教育歴の低さ:1.5%(5%)
<中年期(midlife)>
難聴:6.7%(7%)
身体不活動:6.0%(2%)
高LDL-C:4.5%(7%)
糖尿病:3.0%(2%)
高血圧:2.9%(2%)
うつ:2.6%(3%)
喫煙:2.2%(2%)
過度の飲酒:1.3%(1%)
外傷性脳損傷:0.8%(3%)
肥満:0.7%(1%)
<老年期(late life)>
社会的孤立:3.5%(5%)
大気汚染:2.5%(3%)
未治療の視力低下:0.6%(2%)
・PIFについて、危険因子を一律に10%低減させた場合は4.7%(約20.8万人)の認知症が予防され、20%低減の場合は9.2%(約40.8万人)予防されると推計された。
本研究結果について、著者らは「日本における認知症予防戦略として、とくに聴覚ケア、身体活動の促進、代謝関連疾患の管理を優先すべきであることを示唆している。2024年に施行された認知症基本法や今後の認知症施策の具体化に向けて、これらの知見が科学的根拠として活用されることが期待される」とまとめている。
(ケアネット 佐藤 亮)