121.
神経遮断作用を担う2つの薬の組み合わせがサルの体温を下げて脳卒中後の脳損傷を減らし、ヒトに投与する試験段階に進んでいます1,2)。その2つは1950年代から体温を下げることが知られる3)抗精神病薬のクロルプロマジンと抗ヒスタミン薬のプロメタジンです。英語表記での頭文字をとってC+Pと呼ばれるその組み合わせが脳の活動と糖代謝を抑制して、いわば冬眠のような状態を作り出すことで脳卒中から神経を守る働きを担いうることが、2019年のラットでの検討で示されています4)。また、2022年に報告された研究では、C+Pがラットの体温を36℃未満に下げて脳梗塞病変を減らしました5)。動物での検討が進む一方で、ヒトにC+Pを経口投与した臨床試験結果が早くも2019年に報告されています。試験には急性虚血性脳卒中患者64例が参加し、およそ半数の34例にはプラセボ、30例には低用量のC+Pが投与されました。治療期間は2週間で、クロルプロマジンとプロメタジンの1日量はどちらも多くて50mgでした(25mgを1日2回)。残念ながら機能的アウトカムの改善はみられませんでしたが、幸いにも深刻な有害事象はありませんでした6)。同試験の著者に名を連ねる米国・ウェイン州立大学(Wayne State University)のYuchuan Ding氏を含むチームは、先立つ研究をなぞって小型動物のマウスでC+Pの効果を改めて検証し、続いて新たな試みとしてより大型の動物のサルでC+Pの効果を検討しました。C+Pはサルの深部体温をマウスでの検討と同様に下げ、グルコース代謝を抑え、脳卒中での脳の損傷を減らしました。脳損傷が減ったおかげかサルは腕を使って食べ物を引き寄せる動作がより素早く、C+Pは運動機能も改善したようです。サルの体温を安全に引き下げた無毒性量(no observed adverse event level:NOAEL)からヒトでも安全に効果を発揮しうるクロルプロマジンとプロメタジンの最大用量が100mgと推定され、その用量を含む4つの用量が2024年11月に始まった第I相試験7)で検討されました。試験には急性虚血性脳卒中患者32例が参加し、標準治療に加えて最高用量(100mg)のC+Pが静注された患者に限って体温がつかの間下がりました。脳損傷を減らす効果や神経/身体機能を改善する効果は認められませんでしたが、被験者数32例ばかりの本試験では効果の確証は叶わなかったと著者は言っています1)。試験でC+Pは12時間かけて点滴されました。深部体温を十分下げるには投与速度がゆっくり過ぎたのかもしれません2)。よって新たな試験ではより短時間かより高用量の投与で有意な体温低下を達成できるかどうかを調べる必要があります。1時間での急速点滴がより体を冷やして確かな効果を発揮するかどうかを調べる試験に研究者らは早速取り掛かっています2)。参考1)Xu S, et al. Sci Transl Med. 2026;18:eady7847.2)Chilling the body with drugs could limit brain damage from stroke / NewScientist3)BURN JH. Proc R Soc Med. 1954;47:617-621.4)Guan L, et al. Curr Neurovasc Res. 2019;16:232-240.5)Guan L, et al. Biomolecules. 2022;12:851.6)Zhu H, et al. J Neurosurg Sci. 2019;63:265-269.7)Study on Hibernation-like Therapy Based on Mechanical Thrombectomy(CHILL-1) / ClinicalTrials.gov