ピロリ菌検査・除菌、普及の成果と残された課題/日本消化器病学会

提供元:ケアネット

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公開日:2026/05/27

 

 2013年にHelicobacter pyloriH. pylori)感染胃炎への除菌治療が保険適用となってから10年以上が経過し、感染検査と除菌治療は一般化した。H. pylori感染者は急速に減少傾向にあるが、新たな課題も生じているという。2026年4月16~18日に開催された第112回日本消化器病学会総会では、「ヘリコバクター・ピロリ診療の課題と将来展望」と題したパネルディスカッションが行われ、2024年刊行の「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン(改訂版ガイドライン)」作成委員会委員長の下山 克氏(青森県総合健診センター所長)が基調講演を行った。

1)P-CABの普及――除菌率向上の一方で、検査結果への影響に注意

 近年のH. pylori除菌では、ボノプラザンに代表されるP-CABが中心的役割を担っている。P-CABは従来のPPIと比べ強力かつ安定した酸分泌抑制作用を持ち、除菌率改善に大きく寄与した。改訂版ガイドラインでも、1次除菌レジメンとして、P-CAB+アモキシシリン+クラリスロマイシンの7日間投与を推奨している。

 一方、PPI/P-CAB使用下では菌のウレアーゼ活性が低下し、実際には菌が残っていても尿素呼気試験(UBT)、迅速ウレアーゼ検査(RUT)は検査上陰性(偽陰性)となる可能性がある。血清ペプシノゲン(PG)濃度もPPI/P-CABに影響されるため、これらの検査については「PPI/P-CABは2週間の休薬期間を設けた上で検査を行うこと」を推奨している。これ以外の検査法は影響を受けにくく、休薬なしでも実施可能だ。またPPIは便中抗原測定法、核酸増幅法の検査結果に影響を与えにくいとされているものの
、P-CABの影響についてはエビデンスがなく、キットごとの検証が必要となる。

2)検査キットの問題――ラテックス法の陰性高値に注意

 改訂版ガイドラインでは「血清抗H. pylori抗体検査の陽性結果からH. pylori除菌治療を開始できるか?」というクリニカルクエスチョン(CQ)に対し、「血清抗体陽性はH. pylori現感染のみを反映するものではないため、その結果のみで除菌治療を行わないことを推奨する」としている。UBT、便中抗原検査、PCR検査は、現在胃内に菌がいるかどうかを見る“現感染検査”である一方、血清抗H. pylori抗体検査は、患者の免疫反応を見る検査であり、過去の感染歴も反映する。そのため抗体陽性=現感染ではなく、偽陽性が生じやすい。

 さらに問題となるのが、血清抗H. pylori抗体検査の中でのEIA法とラテックス法の違いである。従来から用いられてきたEIA法では、感染者と未感染者の分布が比較的明瞭に分かれる。一方、簡便で近年健診領域で広く使われているラテックス法は、EIA法と抗体価の分布が異なるので、EIAと同様の「陰性高値」を設定してはならない。「ラテックス法ではカットオフ以上でも現感染なしのケースが多い」との報告もあり、EIA法と同じ感覚でカットオフを扱うのは危険であることは周知されたい。改訂版ガイドラインでも、検査法ごとの特性を理解し、偽陽性または偽陰性が疑われる場合には、ほかの検査を組み合わせることが必要である、としている。

3)薬剤感受性の問題――「Smart Gene」への期待

 除菌治療では、クラリスロマイシン(CAM)耐性率の上昇が大きな問題となっている。改訂版ガイドラインでは、1次除菌としてP-CAB+アモキシシリン+CAMによる7日間3剤療法を第一選択としている。しかし、CAM耐性例では除菌失敗率が高い。CQでは除菌治療開始前に薬剤感受性検査を行い、CAM耐性であればメトロニダゾールなどの使用を推奨している。薬剤感受性検査は保険適用であるとされているものの、社会保険診療報酬支払基金の各支部の判断で査定される場合があり、普及を妨げる一因となっていた。しかし、2026年2月に厚労省から「P-CAB+アモキシシリン+メトロニダゾール」を「CAM耐性ヘリコバクター・ピロリ菌の一次除菌を目的に」処方した場合、当該使用事例を審査上認めるとの通達が出ており、この点はクリアされた。

 さらに注目されているのが、PCRベース迅速診断機器「Smart Gene」である。Smart GeneではH. pylori感染診断、CAM耐性遺伝子検出を同時に行うことができ、Smart Geneを用いた感受性別除菌により、高い除菌成功率が得られたとの報告が増加している。さらに便検体を用いたSmart Geneも近く発売予定であり、小児や健診領域での応用が期待される。

4)ペニシリンアレルギー例――依然エビデンス不足の領域

 通常の1次除菌ではアモキシシリンを使用するが、ペニシリンアレルギー症例では使用できない。そのため、P-CAB+CAM+メトロニダゾールなど複数の代替レジメンが試みられている。しかし、まだエビデンスが不足しており、改訂版ガイドラインでもレジメン例は提示したものの、「現時点での推奨提示は困難である」としている。とくに感受性別の除菌データが少なく、今後の前向きランダム化臨床試験が必要だ。

5)胃がん検診・人間ドック時――「胃がんなし」でもリスク説明が重要

 胃がん検診や人間ドックにおける内視鏡画像・胃X線画像もH. pylori感染の診断に有用である。日本ヘリコバクター学会が会員に対して行ったアンケート(n=258)では、94%の医師が胃がん検診受診者や上部消化管内視鏡受検者に対してH. pylori感染診断を行っており、同時検査が浸透していることが確認できた。

 さらに、内視鏡施行医へのアンケート(n=309)では、背景胃粘膜診断の重要性が改めて確認された。回答者の72%が「背景胃粘膜診断を記録する項目が必要」、21%が「胃炎の京都分類まで記載すべき」と、あわせて9割以上がH. pylori関連胃炎診断の重要性を認知していた。また95%が「患者には、胃がんの有無だけでなく、H. pylori関連胃炎の有無について伝えるべき」だと回答した。患者側に多い誤解が「H. pylori感染なし、あるいは除菌済みであれば、胃がんリスクはなくなる」というものだ。実際には、萎縮性胃炎や腸上皮化生を伴う胃粘膜を有する症例を中心に胃がんリスクは残存しており、患者にこの点を周知し、定期的な検診受診を促す必要がある。

6)胃がん検診見直し――若年者一律検診は再考の時代

 現在、日本における胃がん検診の対象年齢は「50歳以上(当面は40歳以上でも可)」となっている。しかし、H. pylori除菌の普及や感染率の低下とあわせ、日本人の胃がん罹患率は急激に低下している。とくに40歳未満の若年層における胃がん罹患率は10万人当たり0.3~0.4と「万に一つもない」レベルに達している。結果として、職域健診などで行われている若年未感染者への一律バリウム検診は、放射線被曝、偽陽性、不必要な内視鏡精査と費用などの不利益が利益を大きく上回りつつある。今後は、とくに若年世代において、画像検診よりもH. pylori感染診断と除菌へ重点を移すべきだろう。

7)英語版ガイドラインへの期待――日本型H. pylori戦略を世界へ

 改訂版ガイドラインは英語版も刊行された。H. pylori感染者全員を原則除菌対象とし、若年段階での検査・除菌を推奨する日本独自の胃がん予防戦略は、世界でも有用と考えられる。耐性菌が少ない国・地域や、低・中所得国における除菌治療、胃がん予防を目的とした除菌普及に役立つものとして、英語版ガイドラインの普及に期待したい。

 このほか今後の課題としては、偽陽性が疑われるときのもう1つの検査実施の保険適用、3次除菌のレジメン、ボノプラザン+アモキシシリン療法、H. pylori以外の感染菌(Non-Helicobacter pylori Helicobacter[NHPH])胃炎の検討などがある。H. pylori未感染者が増加する現在、胃がん対策は「全員一律」から、「感染歴・背景胃炎・耐性菌を踏まえた個別化医療」へ移行しつつある。改訂版ガイドラインは、その方向性をより明確に示したものであり、今後のさらなるエビデンス蓄積に期待したい。

(ケアネット 杉崎 真名)