ROS1陽性NSCLCで4剤目、タレトレクチニブの特徴は?/日本化薬

提供元:ケアネット

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公開日:2026/01/06

 

 日本化薬は、タレトレクチニブ(商品名:イブトロジー)を2025年11月12日に発売した。タレトレクチニブは、ROS1融合遺伝子陽性非小細胞肺がん(NSCLC)に対するROS1チロシンキナーゼ阻害薬(ROS1-TKI)として、本邦では4剤目の薬剤となる。本剤の発売を機に2025年11月20日に開催されたメディアセミナーでは、林 秀敏氏(近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門 主任教授)がROS1融合遺伝子陽性NSCLC治療の現状や本剤の特徴を解説した。

ROS1融合遺伝子陽性NSCLCの特徴

 ROS1融合遺伝子は、ROS1遺伝子が染色体上でパートナー遺伝子(CD74SLC34A2EZRなど)と再構成することで生じる。ROS1融合遺伝子から産生されるROS1融合タンパクは、ROS1の下流のシグナル伝達経路(ERK1/2、AKTなど)を恒常的に活性化し、腫瘍の増殖が引き起こされる。

 ROS1融合遺伝子の頻度は、NSCLCの1~2%とされる。希少遺伝子異常ではあるが、林氏は「肺がん患者全体の母数が多いため、国内の患者数は2,800~5,600例と推定される。これは急性リンパ性白血病の患者数と同程度である」と述べ、治療法開発の重要性を指摘した。

これまでの治療の現状と課題

 ROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対する治療薬としては、タレトレクチニブの発売前に、クリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブが臨床応用されている。これらの3剤はいずれも高い有効性を有する薬剤ではあるが、課題も存在すると林氏は指摘する。

 ROS1融合遺伝子陽性NSCLCは、脳転移が生じる頻度が高いという特徴があるが、脳転移例への効果は薬剤によって異なり、とくに第1世代のクリゾチニブは脳内移行性が低いという課題がある。また、クリゾチニブやエヌトレクチニブに対する耐性が生じた場合、ROS1-TKIの効果が限定的であるという課題も存在する。さらには、既存の薬剤はめまいなどの神経学的有害事象の発現が多いというアンメットニーズもある。神経学的有害事象にはTRKB阻害が関与していると考えられていることから、ROS1阻害活性を維持しつつTRKBに対するオフターゲット活性を抑え、神経学的有害事象の軽減を目指した薬剤開発が望まれていた。

神経学的有害事象の軽減を目指して開発されたタレトレクチニブ

 今回発売されたタレトレクチニブは、ROS1などに対する阻害活性を有するTKIであり、既存のROS1-TKIと作用機序は同様である。しかし、本剤は野生型ROS1融合タンパクおよびROS1-TKI耐性変異体の両方に対して有効性を示し、脳転移に対しても有効で、神経学的有害事象を軽減することを目指して開発された薬剤である。

 そのため、ROS1-TKI耐性変異の1つであるROS1 G2032R変異体に対しても高い阻害活性を有する。また、本剤のROS1への選択性は、神経学的有害事象との関連が考えられるTRKBの11.0~20.1倍であった。in vitroにおいて、ATP濃度をATPに対する各標的キナーゼのKm値付近に設定したときのROS1、ROS1 G2032R変異体、TRKBに対するIC50値は、以下のとおりであった(タレトレクチニブ、クリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブの順に示す)。

ROS1:0.0732、0.661、0.710、<0.05nmol/L
ROS1 G2032R:0.202、86.2、88.0、0.0946nmol/L
TRKB:1.47、6.75、0.155、<0.05nmol/L

既治療例や脳転移例にも有効

 タレトレクチニブの有効性と安全性は、主に国際共同第II相試験「TRUST-II試験」と、中国で実施された海外第II相試験「TRUST-I試験」で評価された1)。両試験は、ROS1融合遺伝子陽性のNSCLC患者を対象とした試験であり、ROS1-TKI未治療例と既治療例が含まれ、統合解析の対象は273例であった。

 両試験の統合解析では、ROS1-TKI阻害薬未治療の集団(160例)において、主要評価項目の奏効割合(ORR)88.8%、副次評価項目の無増悪生存期間(PFS)中央値45.6ヵ月という良好な成績が示された。とくにPFS中央値について、林氏は「数字上はクリゾチニブやエヌトレクチニブの2倍以上の期間となる」と評価した。

 また、ROS1-TKI既治療の集団(113例)においても、ORR 55.8%、PFS中央値9.7ヵ月という良好な成績が示された。これについて、林氏は「ROS1-TKI既治療例に対する治療選択肢が増えたことは非常に大きい」と述べた。

 脳転移を有する症例に対しても高い頭蓋内奏効割合(未治療集団76.5%、既治療集団65.6%)が確認された。また、主要な耐性変異であるROS1 G2032R変異を有する患者においても、ORR 61.5%と良好な成績が示された。これらについて、林氏は「本剤の有効性が高かったことの一因であると考えられる」と考察した。

 安全性については、有害事象として肝機能障害(AST増加71.9%、ALT増加67.6%)、下痢(63.6%)などの消化器系有害事象の発現が多かったが、これらの多くはGrade1~2であった。また、神経学的有害事象として浮動性めまい(21.3%)がやや多く発現したが、ほとんどがGrade1~2であり、林氏は「TRKBの阻害に関連する有害事象は軽減されていると感じている」と述べた。

 2025年11月に改訂された『肺癌診療ガイドライン2025年版』2)では、既存のROS1-TKI 3剤(クリゾチニブ、エヌトレクチニブ、レポトレクチニブ)と並んで、本剤がROS1-TKI単剤療法の推奨薬の1つとして掲載されている(推奨の強さ:1、エビデンスの強さ:C)。なお、本ガイドラインでは、ROS1-TKIの使用順序については言及されていない。

 以上を踏まえ、林氏は「ドライバー遺伝子変異陽性NSCLCにおいての分子標的治療薬の使い分けとして、安全性を加味しつつ、有効性の高い薬剤から使用するのが基本である」と述べたうえで、「ROS1-TKIの治療歴を問わず、タレトレクチニブがROS1融合遺伝子陽性NSCLCに対して幅広く使用されることが期待される」と締めくくった。

Q&A

 講演後、実臨床での使用に関して林氏に質問したところ、以下の回答が得られた。

Q. 肝機能障害の有害事象が多いが、肝転移のある患者への使用は可能か?
A. 肝酵素の上昇は、薬剤が肝臓で代謝されることに起因する副作用であり、肝転移があるからといって悪影響が増強されるわけではない。ビリルビン値が高いなど、肝機能が著しく悪い場合を除き、肝転移があっても基本的には使用できると考えている。

Q. 他の3剤と異なり、用法・用量に「空腹時投与」とあるが、服用の工夫や指導は?
A. ライフスタイルによるが、私は「朝起きてすぐ、朝食を食べる前に飲んでください」と指導することが多い。これが最もわかりやすく、飲み忘れも防げると感じている。タレトレクチニブは1日1回投与なので、患者の負担も比較的少ないと感じている。

(ケアネット 佐藤 亮)