「患者力」を上げるため、医師ができること

提供元:ケアネット

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公開日:2020/02/03

 

 ネット上の情報に振り回され、代替医療に頼ろうとする患者、自分で何も考えようとせず、すべてお任せの患者、どんな治療も拒否する患者…。本人がそう言うならば仕方がないとあきらめる前に、医師にできることはあるのか。2020年1月12~13日、「第1回医療者がリードする患者力向上ワークショップ」(主催:オンコロジー推進プロジェクト、共催:Educational Solution Seminar、アストラゼネカ)が開催された。本稿では、東 光久氏(福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)、上野 直人氏(テキサス大学MDアンダーソンがんセンター)、守田 亮氏(秋田厚生医療センター)による講演の内容を紹介する。

まず患者の自己解決力を信じ、自信を与え、力をつける手伝いをする

 「患者力を高める」、「患者をエンパワメントすべき」。近年よく耳にするようになったこれらの言葉だが、具体的に何を指すのか。東氏はまず、この2つの言葉について以下のようにまとめた。

「患者力」とは
 自分の病気を医療者任せにせず、自分事として受け止め、いろいろな知識を習得したり、医療者と十分なコミュニケーションを通じて信頼関係を築き、人生を前向きに生きようとする患者の姿勢

「Patient Empowerment」とは
 患者が、患者力を自主的に発揮できるように、医療者が援助すること

「前回何を話したか覚えていますか?」から診察をスタートしてみる

 自身もがんを経験した上野氏は、「振り返ると私自身も決して高い“患者力”を持った患者ではなかった」と話す。専門医の自分でさえ難しかった感情のコントロールや後悔のない選択を、医療従事者はどうやってサポートしていけばよいのか。同氏は患者力を高めるために重要なスキルを、「コミュニケーション」「情報の吟味」「自己主張」の3つに分けて、患者力向上に向けて医療者ができることについて具体的に整理した。

コミュニケーション
・焦らせない、慢性疾患のスタンスで接する(決断を急がせない/急かす態度をとらない/パソコンをいじりながら話さない):同氏は、医師の中には「早く決めてほしい」という気持ちが顔に出ている人もいると指摘。
・医師が話した内容を取得させる(録音・録画・同伴者と来院することを推奨):医師のほうから、録音の準備をしてきたらどうですか?と声がけする。
・質問上手にさせる(質問をあらかじめ準備させる/質問のために別の時間を設定/質問を評価する):質問票を作ってくるように言って、質問が明確でないときはどこが明確でないのかを指摘する=ともにスキルアップ。

情報の吟味
・話す内容をできる限り分かりやすくする(専門用語は原則禁止だが、キーワードは専門用語と一般用語を両方伝える/図を多用):専門用語を正しく伝えることで、検索したときにヒットする情報が大きく変わる。
・医師が話した内容を消化させる(医療者に説明してみてもらう←間違いや勘違いがあれば指摘/家族や友人に自分で説明してもらう):毎回診察のはじめに、前回何を話したか覚えているかを確認する。
・標準治療の意味を理解させる(標準治療かそうでないかを説明/標準治療でない場合は、その理由をていねいに説明/臨床試験とは何かを説明):あらかじめ優良なサイトを紹介する、気になった情報があればプリントアウトして持ってきてほしいと伝えることも重要。

自己主張
・治療法を自分で選べるようにサポート(選択肢を数多く与えるだけではなく、優先順位とともに伝える):なぜその優先順位なのかを説明する。
・自分の希望を伝えられるようサポート(価値観・職歴・趣味を知る努力):価値観は常に変化するので、治療開始直後の希望が変化していないとはかぎらない。医療者は常に患者から情報を引き出す努力が必要。
・恐れないチャレンジをサポート(標準治療と臨床試験の違いを教育/臨床試験のオプションを提示/セカンドオピニオンについての教育と提示):ただし、人には詳しく聞きたい気分のときと聞きたくない気分のときがある。最初に「今日は詳しく聞きたいですか?」と尋ねるのも一手。

劇的な治療効果が、医師の目を曇らせている?

 「先生、皮膚にボツボツができて辛いです…」「この薬を使うと出る患者さんが多いんです。これだけ治療効果があるので、やめるのはもったいないですよ」。こんな診察風景に覚えはないだろうか。守田氏は、近年分子標的薬による治療の進歩が著しい肺がん領域を例に、医師と患者が感じる副作用のギャップについて講演した。

 肺がん領域で使われるEGFR-TKIの副作用で多くみられるのが下痢や皮疹、爪の異常だが、生存に大きな影響は及ぼさないという点で医師は治療効果をどうしても優先させがちになる。しかし、がん患者が感じる副作用の“つらさ”についてのアンケート1)では、皮膚や爪の異常に対して感じるつらさは決して小さくなかった。さらにそのつらさを医療者に伝えたかという問いに対して、4割が伝えていないと答えていた。

 また、同アンケートで約8割以上の人が「医療者に伝えられなかった」と答えたのが、“経済的なつらさ”だった。同氏が診療に従事する秋田県では農業従事者が多く、ある時期は集中的に働かないと年間収入が激減するので、その期間中は抗がん剤を休みたいという申し出があったという。治療効果という観点ではマイナスであっても、治療を続けていく患者自身にとっては譲れない点であるケースもありうる。そして、医師が真摯に「治すために」と強調するほど、経済的な問題点は言い出しにくくなってしまう。

 医師は臨床試験における担当医判断による有害事象の発生状況を判断基準とすることが多いが、客観的評価であるCTCAEと患者自身の主観的な訴え(patient report)の間には差があることが報告されている2)。守田氏は、この隙間を埋めるために、医師のほか各職種がそれぞれの専門性を生かして患者力向上に取り組んでいくことが重要として、講演を締めくくった。

(ケアネット 遊佐 なつみ)