世の中を丁寧に眺めると病気に気付ける

提供元:ケアネット

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公開日:2019/06/27

 

 バイオジェン・ジャパン株式会社は、6月13日に都内において希少疾病である脊髄性筋萎縮症(以下「SMA」と略す)の啓発を目的に同社が製作した短編映画『Bon Voyage ボン・ボヤージ ~SMAの勇者、ここに誕生~』の完成記念メディアセミナーを開催した。

 SMAは、運動神経に変化が起こり、次第に筋肉の力が弱くなり、生活に影響を及ぼす疾病である。そして、同社は、SMAの治療薬ヌシネルセンナトリウム(商品名:スピンラザ髄注)を製造・販売しているが、SMAの存在がまだ社会へ浸透していないことから、同社が短編映画を制作したものである。

 作品は、SMAIII型の患者さんが抱える病識から診断に至るまでの課題をリアルに再現。そして、正確な診断をきっかけに自身と向き合い、夢に向かってさらに力強く生きていく姿を描いている。

気付きにくい成人発症のSMAIII型
 映画の試写のあと、疾患の概要について齋藤 加代子氏(東京女子医科大学附属遺伝子医療センター 所長・特任教授)が「脊髄性筋萎縮症(SMA)について」をテーマに講演を行った。

 SMAは、SMN1遺伝子の欠失により、運動神経に変化が起こり、次第に筋力が低下し、生活に影響を及ぼす疾患であり、わが国では指定難病となっている。罹患率は、10万例に1~2例と考えられ、約1,400例の患者が推定されている。

 本症では、発症年齢や運動機能によって、次のI~IVの4つの型に分類される。

・I型:生後6ヵ月までに発症。成長後の最高到達運動機能では座位ができない。
・II型:生後1歳6ヵ月までに発症。成長後の最高到達運動機能では立位ができない(座位はできる)。
・III型:生後1歳6ヵ月以降で発症。成長後の最高到達運動機能は支えなしで歩ける。(a型:生後18ヵ月~3歳までに発症/b型:3歳以降に発症)
・IV型(成人型):20歳以降で発症。運動発達は正常範囲。

 とくにIII型のSMAについて、IIIa型では10歳までに患者の約半数が、IIIb型では30歳までに患者の約半数が歩行機能を失うこともあり、学校診断や健康診断でいかに早期に発見し、治療介入できるかが重要だという。

 同氏は、成人のIII型の症例(52歳・女性)を示し、13歳で発症し、当初「神経原性筋萎縮症」と診断され、47歳の確定診断まで34年を要したという例を紹介した。なかなか社会に浸透していないIII型の特徴として、「運動機能障害がゆっくりと進行すること」「下肢から上肢に徐々に筋力の低下がみられること」「手の震え、筋肉のぴくつきがあること」がある。また、よく間違われる疾患として、「肢帯型筋ジストロフィー」「筋萎縮側索硬化症」「球脊髄性筋萎縮症」があり、確定診断には、血液による遺伝学的検査が必要になる。

 最後に齋藤氏は、「治療薬の進歩もあり、治療の選択肢も多くなった。できる限り早期介入が求められる。医療者も患者もさまざまなWEBサイトをみて学び、本症を理解してもらいたい」と希望を語り、レクチャーを終えた。

病気に周りが気付く、患者は自分から診療へ飛び込むことが大事
 続いて、本作の完成にあたりトークセッションが行われ、三ッ橋 勇二監督、主演の中島 広稀氏、出演者でSMA患者の上田 菜々氏、演技指導で同じく患者の下島 直宏氏、そして、医学監修の齋藤氏が登壇し、作品の意図、制作の裏話や作品への思いなどが語られた。

 中島氏は「患者の発症から診断まで1年分を15分に詰め込んだ作品で、演技ではSMAIII型特有の歩き方が難しかった。演じていて心の問題を感じた。患者さんはひとりで悩みを抱えないことが大事」と感想を述べた。

 下島氏は、「完成した作品をみて『人生を走馬灯のように感じた』」と述べ、発症から診断確定までの自身の軌跡を振り返った。「診断では医師との出会いが大事で、自分で診療へ飛び込んでいかないと診断につながらない」と助言を寄せた。

 上田氏は、「撮影は、仲良く、楽しくできた。小学生のときにSMAと診断され、引きこもるようになったが、美容に興味を持ち、すこしずつ社会に出られるようになった。作品では、患者さんの悩みや家族の葛藤も描かれていて、最後のシーンでは鳥肌が立った」と作品への賛辞を送った。

 齋藤氏は、「SMAは社会に出て活躍できる疾患なので、患者さんは前向きに良い人生を送ることが重要。患者さんは自分を責めず、精神的に良い状態を保つことが大切。また、SMAの症状を見かけたら周りが気付いて、診療を勧めるなど声がけをすることが大事」と語った。

 三ッ橋氏は、「作品を通じて、社会に気付きを与えることができたらと思う」と述べ、SMAについては「世の中を丁寧に眺めることで、周りの人の病気に気付くことが大事だと思う」と作品への思いを語った。

 なお、本作は、国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」で上映されるほか、下記のサイトから視聴ができる。

(ケアネット 稲川 進)