vericiguat、HFpEF患者の身体機能制限を改善せず/JAMA

提供元:ケアネット

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公開日:2020/11/02

 

 左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)で、代償不全がみられる患者の治療において、新規の経口可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激薬vericiguatはプラセボと比較して、身体機能制限を改善せず、6分間歩行距離(6MWD)の延長にも有意な差はないことが、カナダ・アルバータ大学のPaul W. Armstrong氏らが実施した「VITALITY-HFpEF試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年10月20日号に掲載された。HFpEF患者は、死亡や入院のリスクとともに、運動耐容能や生活の質(QOL)の低下のリスクが高い。vericiguatは、サイクリックグアノシン一リン酸(cGMP)を直接的に産生させ、内因性一酸化窒素に対する可溶性グアニル酸シクラーゼの感受性を回復させるという。

vericiguatを2用量で評価するプラセボ対照無作為化第IIb相試験

 研究グループは、HFpEF患者の治療におけるvericiguatの有効性を、カンザスシティー心筋症質問票(KCCQ)の身体機能制限スコア(PLS)を用いて評価する目的で、多施設共同二重盲検プラセボ対照無作為化第IIb相試験を行った(BayerとMerck Sharp & Dohmeの助成による)。

 対象は、年齢45歳以上、慢性HFpEFと診断され、左室駆出率(LVEF)≧45%またはNYHA心機能分類クラスII/III度の症状がみられ、直近6ヵ月以内に代償不全(心不全による入院または非入院での心不全に対する利尿薬静脈内投与)が認められ、ナトリウム利尿ペプチド値が上昇し、標準治療を受けている患者であった。

 被験者は、標準治療に加え、vericiguat 15mgまたは10mgを1日1回経口投与する群またはプラセボ群に、1対1対1の割合で無作為に割り付けられ、24週の治療が行われた。

 主要アウトカムは、ベースラインから24週時のKCCQ PLS(0~100点、点数が高いほど身体機能が良好)の変化とした。副次アウトカムは、ベースラインから24週時の6MWDの変化であった。

vericiguatは2用量とも主要・副次アウトカムを達成できず

 2018年6月~2019年3月の期間に、21ヵ国167施設で789例(平均年齢72.7歳[SD 9.4]、385例(49%)が女性、平均LVEFは56%、N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド値[NT-proBNP]中央値1,403pg/mL)が登録され、vericiguat 15mg群に264例、vericiguat 10mg群に263例、プラセボ群には262例が割り付けられた。761例(96.5%)が試験を終了した。

 ベースラインおよび24週時の平均KCCQ PLSは、vericiguat 15mg群がそれぞれ60.0点および68.3点、vericiguat 10mg群が57.3点および69.0点、プラセボ群は59.0点および67.1点であり、各群の最小二乗平均変化量はvericiguat 15mg群が5.5点、vericiguat 10mg群が6.4点、プラセボ群は6.9点だった。KCCQ PLSの群間の最小二乗平均差は、vericiguat 15mg群とプラセボ群が-1.5点(95%信頼区間[CI]:-5.5~2.5、p=0.47)、vericiguat 10mg群とプラセボ群は-0.5点(-4.6~3.5、p=0.80)であり、いずれも有意な差は認められなかった。

 また、ベースラインおよび24週時の6MWDの平均値は、vericiguat 15mg群がそれぞれ295.0mおよび311.8m、vericiguat 10mg群が292.1mおよび318.3m、プラセボ群は295.8mおよび311.4mであり、各群の6MWDの最小二乗平均変化量はvericiguat 15mg群が5.0m、vericiguat 10mg群が8.7m、プラセボ群は10.5mだった。6MWDの群間の最小二乗平均差は、vericiguat 15mg群とプラセボ群が-5.5m(95%CI:-19.7~8.8、p=0.45)、vericiguat 10mg群とプラセボ群は-1.8m(-16.2~12.6、p=0.81)であり、いずれも有意な差はみられなかった。

 有害事象は、vericiguat 15mg群が65.2%、vericiguat 10mg群が62.2%、プラセボ群は65.6%で発生した。症候性低血圧が、vericiguat 15mg群の6.4%(17例)、vericiguat 10mg群の4.2%(11例)、プラセボ群の3.4%(9例)に認められた。失神は、それぞれ1.5%(4例)、0.8%(2例)、0.4%(1例)で発現した。全死因死亡率は、3.8%(10例)、5.7%(15例)、2.7%(7例)であり、心血管死亡率は、3.0%(8例)、4.6%(12例)、1.5%(4例)だった。

 著者は、「本試験の理論的根拠は、以前に行われた無作為化第II相試験であるSOCRATES-PRESERVED試験のKCCQ PLSデータの探索的な事後解析に基づくが、この試験の結果は偶然の作用によってもたらされた可能性がある」としている。

(医学ライター 菅野 守)

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コメンテーター : 安斉 俊久( あんざい としひさ ) 氏

北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学教室 教授

コメンテーター : 安斉 俊久( あんざい としひさ ) 氏

北海道大学大学院医学研究院 循環病態内科学教室 教授