米国の「食事ガイドライン(Dietary Guidelines for Americans:DGA)」は、学校給食などをはじめとした国民の栄養摂取の指針となるもので、米国農務省(USDA)と米国保健福祉省(HHS)が5年ごとに改訂している。2026年1月7日に最新版(2025~2030年版)が発表され、大きな内容変更が話題となっている。
改訂版の中心となるメッセージは、「Eat real food(本物の食物を食べよう)」で、全体を通じて「ホールフード」(加工されていない/加工が最小限の食品、全粒粉穀物など)の摂取が推奨されている。従来のDGAは、基本的に塩分や糖分といった1日の栄養目標値の範囲内であれば、あらゆる食品の選択肢が許容されるものとしてきたが、この方針を大きく転換した。主な改訂点は以下のとおり。
1)超加工食品・精製炭水化物・添加糖類:初の制限推奨
避けるべき、あるいは制限すべき食品として、「高度に加工された食品(highly processed foods)」(化学添加物が添加された肉などで、一般に「超加工食品」と呼ばれるもの)や精製炭水化物(クッキー、白パン、シリアルなど)が明記された。添加糖類の制限も強化され、出生~4歳は「添加糖類を避ける」、5~10歳は「一切推奨しない」という内容が盛り込まれた。
2)脂質:飽和脂肪10%上限は維持
飽和脂肪は総エネルギーの10%を超えないという推奨は前版から継承された一方で、「healthy fats(健康的な油脂)」として、オリーブ油に加えてバターや牛脂も選択肢として例示された。
3)乳製品:小児で「全乳」を明確に推奨
小児の1歳以降では「whole milk(全脂肪乳)」がエネルギーや脳発達に重要と明記。これに基づいて「学校給食を低脂肪・無脂肪乳から全脂肪乳を戻す運動(Whole Milk for Healthy Kids Act)」の関連法が提出されている。
4)タンパク質の増強
食事におけるタンパク質の摂取量を、従来の推奨である体重1kg当たり0.8g/日から1.2~1.6g/日に引き上げた。
一方、本ガイドラインが発表されると、医療や栄養の専門家から批判の声が上がった。
JAMA誌はオンライン版2026年1月14日号の「Perspective1)」でガイドラインの概要を紹介、ホールフード推奨や超加工食品の制限に対しては一定の評価をしつつ、突然の方針転換を「科学ではなく政治によるもので一貫性がない」とし、タンパク質の増加推奨もエビデンスに基づいておらず特定の業界を利するものだとし、実際の学校給食などの変革プロセスも不確実である点などを批判している。
Lancet誌はオンライン版2026年2月16日号の「Correspondence2)」「Comment3)」で、DGAが従来の栄養学の蓄積やエビデンスの扱いから外れており、「政策(予算・制度)と推奨内容の組み合わせが、結果的に健康を悪化させかねない」と警鐘を鳴らしている。
米国心臓病学会(ACC)も2026年1月27日付で解説記事4)を発表し、タンパク質の摂取量の推奨が大きく上がったが、これは独立組織である「食事ガイドライン諮問委員会(DGAC)」が事前にまとめた報告に含まれていないなど、エビデンスとの不一致や策定プロセスの不透明性に対する疑問を表明している。
CareNet.comのコラム「NYから木曜日」でこれまでの多くの米国の医療・健康問題を取り上げてきた米国・マウントサイナイ医科大学 老年医学科の山田 悠史氏に今回のガイドラインの問題点について聞いた。
「正しさ」と「問題」が混在するゆえの「タチの悪さ」
――今回の改訂ガイドラインの主な推奨事項として、以下が挙げられます。
・「リアルフード」の重視(自然食品を推奨し、超加工食品を徹底的に排除する)
・タンパク質の増量(体重1kg当たり1.2~1.6g/日という、従来の推奨量を上回る目標値を設定)
・脂肪の質の再定義(全脂肪乳製品を推奨、調理油としてオリーブオイルに加え、バターや牛脂の使用を肯定)
・添加糖と添加物の排除(1食当たりの添加糖を10g以下に制限。着色料、保存料、人工甘味料などの化学添加物を避けるよう警告)
確かに、「超加工食品の過剰摂取是正」や「添加糖の削減」という点では公衆衛生的にも正しい方向を向いています。しかし、脂質に関するアドバイスでは矛盾があったり、過剰なタンパク質推奨がされていたりするなど、科学と政治の混同といった問題がみられます。
この正しさと問題の「混在」が一般の人が見抜くのを難しくしていて、「タチが悪い」と思います。
たとえば、脂質に関するアドバイスの矛盾として、ガイドラインは「飽和脂肪酸の摂取は総カロリーの10%未満に抑えるべき」と従来の基準を踏襲する一方で、「バターや牛脂」を調理油の選択肢として推奨し 、「全脂肪乳製品」を推奨しています。
バターや牛脂は飽和脂肪酸の主要な供給源であり、これらを積極的に推奨しながら「10%未満」という目標を達成することは、一般消費者にとって極めて困難です。多くの質の高いシステマティックレビューは、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸(植物油など)に置き換えることで心血管疾患リスクが低減することを示唆していますが、ガイドラインでは植物性種子油への言及を避け、動物性脂肪を肯定するバイアスがかかっています。これは現在の栄養疫学のコンセンサスとは異なり、国内産業支援の色が見え隠れします。
タンパク質に関しては、一般成人に対して「体重1kg当たり1.2~1.6g」の摂取を推奨しています。参考までに現在の米国の推奨量は0.8g/kgです。確かに、1.2~1.6g/kgという数値は、アスリートや高齢者のサルコペニア予防には有益であるエビデンスが存在しますが、一般人口全体に対する一律の推奨としては多過ぎる可能性があります。
とくに慢性腎臓病の未診断者も多い状況下で、高タンパク食を無差別に推奨することは一定数の人をリスクにさらすことになる可能性があります。また、この目標を達成するために赤肉摂取が増加した場合、大腸がんや心血管疾患のリスクとの関連も考慮すべきでしょう。「人々の健康と地球の健康」を両立させるアプローチとも逆行しています。赤肉や全脂肪乳製品の推奨は、温室効果ガス排出量の観点から環境負荷が高く、現代の栄養ガイドラインが考慮すべきグローバルな課題を無視しています。
通常、米国の食事指針は、外部の委員会による数年にわたるシステマティックレビューを経て策定されますが、本ガイドラインは「トランプ政権のリーダーシップの下、常識を取り戻す」 と明記されており、政治的意図が前面に出ています。エビデンス以上に「国内農業支援」を進めたい狙いが透けて見えるガイドラインです。――
(ケアネット 杉崎 真名)