超悪玉脂肪酸はコントロールできるのか?/日本動脈硬化学会

提供元:ケアネット

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公開日:2019/12/18

 

 超悪玉脂肪酸の別名を持つトランス脂肪酸。この摂取に対し、動脈硬化学会が警鐘を鳴らして早1年が経過したが、農林水産省や消費者庁の脂肪酸の表示義務化への姿勢は、依然変わっていないー。2019年12月3日、日本動脈硬化学会が主催するプレスセミナー「飽和脂肪酸と動脈硬化」が開催され、石田 達郎氏(動脈硬化学会評議員/神戸大学大学院医科学研究科循環器内科学)が「食事由来(外因性)の脂質を考える」について講演。脂質過多な患者と過少な患者、それぞれの対応策について語った。

脂質コントロールの落とし穴
 日本人の血中コレステロール上昇の原因は“食生活の欧米化”で片付けられがちである。そこで、石田氏は食事による血中コレステロール濃度の変動に影響する因子(1:飽和脂肪酸の過剰摂取、2:トランス脂肪酸の摂取、3:不飽和脂肪酸の摂取不足、4:コレステロールの摂取量と吸収効率、5:植物ステロールや食物繊維などによる影響)を提示。「これまでの指導は卵など単独食品の摂取制限を強調するものだった」とし、「食事による種々の因子があるなかで、医療者は血中コレステロール値の変動をさまざまな角度で見ることが大切。以前のようにLDL-CやHDL-Cなどのコレステロールにだけ着目して指導するのは理想的ではない」と、述べた。また、「脂質の種類(コレステロール、中性脂肪、脂肪酸[飽和、不飽和])の区別がつかない患者には、何にどんな成分がどのくらい含まれているのかを含めた丁寧な指導が必要」と、説明した。

 たとえば、飽和脂肪酸は過剰摂取すると血中LDL-C値の上昇や炎症を惹起する作用があり、『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版』第4章の包括的リスク管理の食事療法のCQにおいて、“適正な総エネルギー摂取量のもとで飽和脂肪酸を減らすこと、または飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置換することは血清脂質の改善に有効で、冠動脈疾患発症予防にも有効である(エビデンスレベル:1+、推奨レベル:A)”と、記載されているが、 “飽和脂肪酸摂取を極度に制限することは、脳内出血の発症と関連する可能性がある”と併記されている。また、厚生労働省が策定し来年発刊予定の『食事摂取基準2020年版』1)では、飽和脂肪酸の目標量は18歳以上では7%未満(エネルギー比率として)と設定されている。

 この目標量を達成するために有用なのが、『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版』である。このガイドではコレステロールと飽和脂肪酸の含有比率の表が掲載され、コレステロール含有量は低いが飽和脂肪酸含有量が高い食品としてチーズやバラ肉など、コレステロール含有量も飽和脂肪酸含有量も低いものとして赤肉や牛乳などが記されている。しかし、ここで問題なのは、日本の加工食品には脂肪酸の含有量が明記されていないこと、コレステロール含有量の低い食品を摂取しても、トランス脂肪酸摂取によりコレステロールが上昇してしまうことである。これに対し同氏は、「食品1つ1つに脂肪酸含有量が明記されていないため、摂取過多・過少に関する問題は医療者と患者だけでは解決できない」と、国民の力だけでは基準順守が不可能なことを言及した。

結局、誰の仕事?脂肪酸摂取の適正化
 では、誰が脂肪酸摂取の適正化を行うべきなのか。本来は身体に良い不飽和脂肪酸も工場での加工段階でトランス脂肪酸(超悪玉脂肪酸)に変化してしまうのだから、製造・販売過程での適正化がなされなければ、医療者や患者の努力は水の泡である。同氏は「日本の現状では個人の意思に関係なく摂取してしまう。食品産業全体が責任を持って減少に取り組むべき。何らかの法規制も必要」と、主張した。

 海外では脂肪酸の表記は当たり前となっており、国全体で摂取を避ける取り組みが行われている。近年、日本人においても超悪玉脂肪酸の心血管疾患へのリスクが報告されている2)。そして、つい先日発表された日本の久山町研究でも、認知症リスクへ超悪玉脂肪酸の影響が示され3)、海外メディアに取り上げられ脚光を浴びた。この研究では、超悪玉脂肪酸の血中濃度が高い人ではアルツハイマー病リスクが75%も上昇することが明らかとなった。同氏によると、この研究は古典的な食事内容調査ではなく、トランス脂肪酸の血中濃度に注目した点が科学的信頼性を高めたと評価されたのだという。実際に、マーガリン、コーヒークリーム、アイスクリーム、せんべい類などのように超悪玉脂肪酸を多く含む食品を摂取している人では、超悪玉脂肪酸の血中濃度が高くなる傾向があった。

 一方で、飽和脂肪酸自体はエネルギー源としても重要であり、適度に摂取することに問題はない。同氏は「食事摂取量が少なくなる高齢者はフレイルリスクも高いため、若者と同じような脂肪の摂取制限だけの指導を行ってはいけない」とし、患者対応時には以下の点に留意し、複合的に指導するよう求めた。

・飽和脂肪酸は、血中コレステロールを増やすため、動物性脂肪の食べ過ぎに注意する。
・トランス脂肪酸(超悪玉脂肪酸)は、飽和脂肪酸よりさらにコレステロール増加作用が強い。
・不飽和脂肪酸のなかでもオリーブ油、サフラワー油、高オレイン酸紅花油は血清脂質の改善作用が報告されている。
・青魚に含まれるEPAやDHAは最も身体に良い。
・2型糖尿病患者、腎不全/透析患者、スタチン長期服用患者、高コレステロール血症患者、冠動脈疾患患者などではコレステロール吸収が亢進しており、血中コレステロールが上がりやすい。
・高齢者のように脂肪の摂取量が極めて少ない方もいる。

 最後に同氏は、「脂質異常治療戦略のあり方には、欧米化する食生活の中で国民全体の摂取量を適正化することと、個々の患者の脂質値を改善することの2つ視点を分けて考え、臨床現場ではリスクに応じたきめ細やかな指導を心がけるべき」と、締めくくった。

(ケアネット 土井 舞子)