生物医学雑誌に掲載された論文の執筆者は、引用したエビデンスを「最近の(recent)」と表現することが多いが、この言い回しの裏にある引用文献の実際の発表年代を定量化した例はまれだという。スペイン・La Paz University HospitalのAlejandro Diez-Vidal氏とJose R. Arribas氏は、1,000編の論文を調査し、「最近の」引用文献はその発表と引用の時期に中央値で4年のずれがあり、ほぼ5編に1編の割合で発表が引用の時期より10年以上古く、「最近の」はきわめて弾力性に富む表現として使用されていることを明らかにした。BMJ誌2025年12月11日号クリスマス特集号「WORDS AND MEANINGS」掲載の報告。
20の“recent”を含む表現でPubMedを検索
研究チームは、生物医学論文と、その論文で「最近」との記述で引用される過去の研究との時間的な隔たりを定量化する目的で、後ろ向き研究を実施した(特定の助成は受けていない)。
事前に定義した20の「最近」表現(recent article、recent evidence、recent literature、recent research、recent studyなど)に基づき、構造化PubMed検索を行った。
「最近の」という表現が、直接的に引用と結び付いている英語の生物医学論文(全文掲載)1,000編を解析の対象とした。これらの論文と、その参照先である「最近の」研究との時間的な隔たりを年単位で評価した。
177編(17.7%)が、10年以上前の研究を「最近」と表現
引用された「最近の」研究の発表年代は大きく異なっていた。また、研究の発表から引用までの時間差は、0年から最長で37年に及んだ(平均5.53年、中央値4年[四分位範囲:2~7])。著者は、「37年の時間差は、この論文の執筆者が『最近』を『ルネサンス』と混同したのではないかと疑わざるを得ない」と指摘している。
最も多かった時間差は1年(159編[15.9%])であった。「最近」として、10年以上前の研究を引用した論文が177編(17.7%)あり、20年以上前の研究を引用した論文が26編(2.6%)あった。
時間差の幅は、専門分野によって異なる
引用パターンは専門分野によって異なっていた。集中治療学、感染症学、遺伝学、免疫学、放射線医学では、発表から引用までの時間差(中央値)の幅が小さかった(約2年)。著者は、「この分野は、新たな病原体やゲノム、抗体が絶えず出現するため、過去を振り返る余裕がないのかもしれない」と冗談めいた論評をしている。一方、腎臓学、獣医学、歯学では、この時間差の幅がかなり大きかった(8.5~14年)。
また、内科、外科、疫学などの分野については、著者は「基礎研究の成果が、数十年にわたり臨床的に有用であり続けることに留意すべきだろう。このような分野の出版物では、発表から引用までの時間差の長さは陳腐化を意味するのではなく、重要なエビデンスの持続性を反映している」と指摘し、「とはいえ、『最近の』よりも正確な用語を用いることで、この違いをより適切に表現できるかもしれない」と考察している。
高IFのジャーナルほど、より新しい研究を引用
表現別では、「最近のアプローチ(recent approach)」「最近の発見(recent discovery)」「最近の研究(recent study)」は古い研究と関連し、「最近の出版物(recent publication)」「最近の記事(recent article)」はより新しい研究の引用との結び付きが強かった。
また、引用までの時間差の長さは地域間で類似しており、時間の経過とともに徐々に短くなり、最新の出版物で最も短かった。さらに、インパクトファクター(IF)が高い(≧12)ジャーナルほど、より新しい研究を引用していた。
著者は、「『最近の』という用語は、真に最新のエビデンスを示す信頼できる指標というより、柔軟な修辞的装置として機能することが多いと示唆される」「本研究の知見は、この表現の廃止を求めるものではないが、執筆者は使用前に一呼吸置くこと――真に最近なのか、単に修辞的に都合がよいだけなのかを考える一瞬の時間を持つこと――を提唱したい」「読者と査読者は、『最近の』をうのみにせず、実際の時間差を厳密に確認すべきである」としている。
(医学ライター 菅野 守)