青少年トランスジェンダーへの医療ケア、どうあるべき?

提供元:ケアネット

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公開日:2023/05/30

 

 米国を中心に、トランスジェンダー(出生時点の身体と自認の性別が一致していない人)をはじめとした性的マイノリティーに対する社会制度・配慮がどうあるべきかという議論が高まっている。トランスジェンダーを肯定した医療や制度整備を進めることを目的に、医学・法学などの専門家で構成される国際的非営利組織「世界トランスジェンダー保健専門家協会(World Professional Association for Transgender Health:WPATH)は、独自に「トランスジェンダーとジェンダー多様な人々の健康のためのケア基準」を作成している。10年ぶりの更新となる第8版(SOC-8)が2022年9月に発表され、JAMA誌2023年5月18日号にそのサマリーが公開された。

 冒頭には「トランスジェンダー及び性別の多様な患者は、適切に訓練された医療従事者から、偏見のないケアを受けるべきである。ジェンダーを肯定するプライマリ・ケアには、予防ケア、メンタルヘルス及び物質使用障害のスクリーニング、ホルモン療法、および非医学的/非外科的なジェンダー肯定的介入に関する教育が含まれる」と記され、幼少期、思春期の経時的なケアから、アセスメント、ホルモン療法、手術、メンタルヘルスといったテーマ別のケアへの提言、さらに教育や制度といった社会的側面までが網羅されている。

 SOC-8は「トランスジェンダーと性別の多様な患者は、しばしば医療的ケアの障壁に直面している」とし、これらの格差に対処することを求めている。さらに「本基準が依拠するエビデンスは拡大しており、性別を確認するためのホルモン療法や外科的介入に関連するポジティブな結果を示す研究がある」としている。さらに、トランスジェンダーの健康を改善するために、スティグマ、差別、人権侵害に対処することの重要性を強調している。

 現在大きな争点となっているのは、青少年期のトランスジェンダーに対する医療の提供だ。青少年期(主に13~17歳を指す)におけるトランスジェンダー関連の医療ニーズは高まっているものの、関連した医療、とくに乳房切除や性的縫合手術などの外科的医療について、何歳から提供すべきなのかについての見解はさまざまだ。

 実際、米国では中南部を中心とした10以上の州が、未成年に対してトランスジェンダーを肯定する医療(ホルモン療法・関連手術など)を提供することを禁止しており、これに違反した医療者は罰金や免許剥奪、懲役を含む罰則が科せられる。この5月には全米第2の人口を抱えるテキサス州においても同様の法案が可決されており(知事の署名と施行決定はこれから)、これを受けて医療者団体やトランスジェンダー団体が反対声明を出すなど、国を二分する議論となっている。

(ケアネット 杉崎 真名)