elective PCIの抗血小板療法としてクロピドグレルとチカグレロルに差はない?(解説:上田 恭敬 氏)-1346

提供元:臨床研究適正評価教育機構

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公開日:2021/01/27

本記事のコメンテーター

上田 恭敬( うえだ やすのり ) 氏

国立病院機構大阪医療センター 循環器内科 科長

J-CLEAR評議員

 安定冠動脈疾患患者のelective PCIにおいて、周術期の虚血性合併症を減少させるために、クロピドグレルよりもチカグレロルのほうが優れているか否かを検討するための無作為化比較試験であるALPHEUS試験が、フランスとチェコの49病院が参加して実施された。

 対象患者はクロピドグレル群(ローディング量300~600mg、維持量75mg/日)とチカグレロル群(ローディング量180mg、維持量180mg/日)に無作為に割り付けられ、48時間以内(または退院まで)のPCI-related type 4の心筋梗塞・傷害を主要評価項目とし、同じく48時間以内(または退院まで)の出血性イベント(major bleeding)を主要安全性評価項目としている。

 クロピドグレル群954症例とチカグレロル群956症例が登録され、主要評価項目も主要安全性評価項目も群間に有意差がないことが示された。ただし、30日間のminor bleedingはチカグレロル群で有意に多かった(11%対8%、p=0.007)。この結果から、著者らはelective PCIにおける標準的な抗血小板療法としてクロピドグレルを使用することが支持されたと結論している。さらに、メタ解析の結果から、elective PCIにおいて、クロピドグレルより強力なP2Y12阻害薬であるチカグレロルやプラスグレルを使用することに有用性はないと議論している。

 この結果自体に異議はないが、その解釈には日本人としてかなり違和感を感じる。まず、本試験はPCI周術期の心筋梗塞・傷害によって評価しているが、退院後の抗血小板療法の効果や、単剤に変更する際にP2Y12阻害薬を残す可能性も考慮すると、さらに長期の影響も考慮すべきで、それらを検討せずに周術期の結果だけからクロピドグレルを推奨するのは無責任な解釈に思える。次に、遺伝的にCYP2C19 loss-of-function allelesを持つ人が多い東アジアでは、クロピドグレルの効果が不十分となることの影響が想定されるが、そのことはLimitationで一言触れているだけで、その影響を無視した結論である。次に、日本のプラスグレルの量は海外の量とは異なって日本人用に選ばれた量であり、上記遺伝子多型のためにクロピドグレルの効果が不十分な人でも十分な効果が得られるようになるだけで、いずれの薬剤でも十分な効果が得られる人では同程度の抗血小板効果が得られる量となっている。すなわち、日本において、プラスグレルはクロピドグレルより強力な抗血小板療法ではない。最後に、著者らも述べているように、ローディングで投与された人は約半数のみで、効果発現が早いチカグレロルの優位性が十分評価できていない可能性がある。以上より、elective PCIであっても、本試験の結果はクロピドグレルの使用を推奨する根拠とならないと思われる。

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