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レポーター紹介ここ数年、ASCO Annual Meetingでは、高齢者機能評価(Geriatric Assessment:GA)や、GAで明らかになった脆弱性に対するサポートの有用性を検証する研究が発表され、老年腫瘍学の領域を大いに盛り上げてきた。ASCO2026では、日常診療を大きく変えるような重要な試験(pivotal study)は多くなかったものの、高齢患者をどのように評価して治療選択に結びつけるか、GAを忙しい日常診療の中でどう使える形にするか、さらに、がんを患う高齢者(以下、高齢がん患者)に多い老年症候群にどのように介入するか、という観点から興味深い研究が報告されていた。その中から、筆者が興味深いと感じた研究を抜粋して紹介する。高齢がん患者をどう評価するか - 「fitかどうか」ではなく「どこが脆弱か」をみる高齢がん患者の診療で最も悩ましいのは、「この患者さんに標準的ながん治療を行ってよいのか」という問いである。暦年齢だけで判断すべきではないことは、すでに多くの医療者が理解している。しかし、では何をもって積極的治療に適していると判断し、何をもって慎重な治療選択が必要と考えるべきなのか。この問いに答えるのは、日常診療でも臨床試験でも、いまだに簡単ではない。この問いに答えるために、欧州の老年腫瘍学では、GAを用いて高齢がん患者を、fit、vulnerable、frailと分類することがある。しかし、もともとfitやfrailは老年医学の用語であり、腫瘍学の用語ではない。老年医学では、『自立度』を軸として、「健常(fit)」、「要介護状態(disability)」、その中間を「フレイル(frailty)」と分類することが多い(注:老年医学の領域でも定義は定まっていない)。一方、腫瘍学では、『がん治療の適応』を軸として、「若年者と同じ標準治療ができる(fit)」、「非常に弱い治療や緩和・支持療法ならできる(frail)」、その中間を「用量などを調整した弱い治療ならできる(vulnerable)」と分類することが多い(図)。図 日常診療における高齢者の分類方法画像を拡大する脆弱な高齢者に対するエプコリタマブ+R-mini CVP(#7002)この問題を考えるうえで、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)を有する脆弱な高齢者を対象としたエプコリタマブ+R-miniCVPに関する試験は興味深かった1)。脆弱な高齢者を対象として、アントラサイクリンを抜いたR-miniCVP(リツキシマブ+減量シクロホスファミド+ビンクリスチン+プレドニゾロン)に抗CD3/CD20二重特異性抗体であるエプコリタマブを併用する治療の有用性を評価した第II相試験が実施された。特筆すべきは、脆弱な高齢者を定義する際に、simplified Geriatric Assessment(sGA)というツールを用いたところである。sGAでは、年齢(閾値:80歳)、日常生活動作(ADL)、手段的日常生活動作(IADL)、併存症(CIRS-Gを使用)を組み合わせて、患者をfit、unfit、frailに分類する。DLBCL患者に用いられてきた簡便なツールであり、予後と関連することが示されている2)。本試験の中間解析において、この集団におけるエプコリタマブ+R-miniCVPの有望な結果が示されたが、老年腫瘍学的には、高齢者機能評価の一種であるsGAを用いて対象集団を定義したという点が興味深い。すなわち、この試験におけるunfit/frailとは、漠然と「高齢で弱っている患者」を指す言葉ではなく、標準的なアントラサイクリンを含んだレジメンに適しているかどうかを高齢者機能評価で規定したという点で興味深いのである。一方で、sGAは実用的である反面、分類は大まかであると言える。たとえば80歳以上であれば、ADL、IADL、併存症に大きな問題がなくてもfitには分類されない。より多面的に高齢がん患者を評価する試みも必要である。高齢がん患者をより多面的に分類するツール(FI-CGA-10)の検討(#1656)このような問題意識に対して、日本から高齢がん患者をより多面的に分類するツールの有用性を評価する研究が報告された3)。治療方針決定前にGAを実施された高齢者1,630例を対象として、日本の研究グループが開発したツール「FI-CGA-10」が、予後を予測するかを評価した前向きコホート研究である。FI-CGA-10は、認知機能、気分、コミュニケーション能力(視力+聴力)、移動能力、転倒、栄養、ADL、IADL、社会支援の有無、併存症の10領域から構成される。その合計点数に基づき、患者をfit、pre-frail、frailに分類する4)。本研究の結果、fit群をreferenceとすると、pre-frail群の死亡ハザード比は2.26、frail群では5.06であった。また、年齢、性別、がん種、病期を含むモデルにFI-CGA-10を加えることで、1年全生存率の予測精度を示す指標(C-index)は、0.70から0.76に改善した。ここまでは単なる予後因子解析にみえるが、重要なのは、FI-CGA-10が「どのような患者が脆弱なのか」を、単一の指標ではなく複数の領域から評価している点である。高齢患者の評価では、Performance Statusや年齢だけでは不十分であり、身体機能、日常生活機能、栄養状態、認知・心理面、社会的背景などを含めて総合的に捉える必要があることは以前から指摘されてきた。FI-CGA-10は、そのようなGAの考え方を、実際に予後予測に利用できる形に整理した試みといえる。すなわち、「どのような評価を用いれば高齢患者を分類できるのか」という問いに対して、本研究はGAを基盤とした多面的評価が有力な選択肢であることを示している。前編まとめこのようにASCO2026では、高齢患者をどのように分類し、治療判断に結びつけるか検討する演題が複数報告されていた。ただし、ここで重要なのは、「予後が悪い患者」と「治療から利益が得られない患者」は同じではないという点である。FI-CGA-10でfrailと分類されたからといって、必ずしも治療強度を下げるべきとは言えず、G8低値だからといって、特定の治療を控えるべきとも限らない。高齢がん患者の評価は、治療の可否を機械的に決めるための「線引き」ではなく、患者の医学的・機能的状況を整理し、奏効率や生存期間中央値だけでは捉えきれない治療の利益と負担を共有するための「対話の土台」と捉えるべきである。治療によって何を得たいのか、どの程度の有害事象や通院負担を許容できるのか、残された時間をどのように過ごしたいのかによって、適切な選択は大きく異なる。どの高齢患者が積極的治療に適しているのか。その問いに対する明快な答えはまだない。しかし、ASCO2026で報告された一連の研究は、fit、unfit、frailなどの分類で単純に線を引くのではなく、患者の脆弱性を多面的に評価し、その人にとって意味のある治療選択を考えるShared Decision Makingにつなげることの重要性を示していたと言える。後編に続く1)Chihara D, et al. Phase 2 trial of epcoritamab in combination with rituximab-mini CVP for older unfit/frail or anthracycline-ineligible adult patients with newly diagnosed diffuse large B-cell lymphoma: Interim futility analysis.2)Merli F, et al. Simplified Geriatric Assessment in Older Patients With Diffuse Large B-Cell Lymphoma: The Prospective Elderly Project of the Fondazione Italiana Linfomi. J Clin Oncol. 2021;39:1214-1222.3)Nishijima TF, et al. Validation of a 10-item frailty index based on a comprehensive geriatric assessment (FI-CGA-10) for predicting survival in older adults with cancer.4)Nishijima TF, et al. A 10-Item Frailty Index Based on a Comprehensive Geriatric Assessment (FI-CGA-10) in Older Adults with Cancer: Development and Construct Validation. Oncologist. 2021;26:e1751-e1760.