高リスクくすぶり型多発性骨髄腫への治療がもたらすベネフィット/J&J

提供元:ケアネット

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公開日:2026/03/16

 

 抗CD38抗体ダラツムマブ(商品名:ダラキューロ)において、2025年11月に高リスクのくすぶり型多発性骨髄腫(SMM)における進行遅延の適応が追加され、多発性骨髄腫の診断指標であるCRAB症状(高カルシウム血症、腎機能障害、貧血、骨病変)が確認される前に治療を開始することが可能となった。これを受け、2026年2月25日に開催されたJohnson & Johnson(ヤンセンファーマ)の記者説明会において、福岡大学の高松 泰氏がSMMの治療開始基準とその課題を、日本赤十字社医療センターの鈴木 憲史氏がSMM治療の意義とAQUILA試験の結果を解説した。

SMMの診断基準と治療開始時期

 多発性骨髄腫は、形質細胞への初期遺伝子異常によって前がん状態であるMGUS(意義不明の単クローン性免疫グロブリン血症)になり、2次的な遺伝子異常によりSMMへ、さらに遺伝子異常が重なることで多発性骨髄腫に進展すると考えられている。

 かつてMP療法で治療していた時代の試験において、CRAB症状の出現前に治療しても生存期間を延長しなかったことから、CRAB症状の有無でSMMと多発性骨髄腫に分けられ、CRAB症状の出現後(多発性骨髄腫に進行後)に治療開始することが標準治療になった。その後、2014年にIMWG(International Myeloma Working Group)の診断基準が改訂され、CRAB症状がなくとも、進行リスクがきわめて高いバイオマーカー(SLiM:骨髄形質細胞割合≧60%、血清遊離軽鎖[FLC]比≧100、MRIで局所性骨病変2ヵ所以上のいずれか)を満たす患者は、2年以内に80%以上が多発性骨髄腫に進行する可能性が高いため、多発性骨髄腫として治療を開始することになった。

 高松氏は、「SMMと診断された場合、その後つらい症状が出現することがわかっているなら、症状出現前に治療を開始して出現しないようにしてほしいと思うのではないか」と述べ、早期の治療開始の意義を強調した。

高リスクSMMの適切な抽出のためのリスク層別化の課題

 早期の治療介入が適切なSMM患者を選ぶためには、急速に進行する患者を精度高く抽出することが重要になる。これまでMayo Clinic基準(M蛋白量、FLC比、骨髄形質細胞割合の3因子)やPETHEMA基準(骨髄中の異常形質細胞の割合、M蛋白以外のγグロブリン値の2因子)などが提唱されてきたが、両基準でリスク評価が一致する割合は28.6%に留まり、Mayo Clinic基準で低リスクと診断された患者が、PETHEMA基準で高リスクに分類されてしまう例もあったという。

 また、次世代シーケンサーによるゲノム解析(MAPK経路、DNA修復経路、MYC変異)によるリスク層別化も可能となっているが、高松氏は、リスク因子として抽出されているゲノム変異の種類が異なる点や実臨床では高額過ぎることを課題として指摘した。現在、世界で主流の分類は、2020年にIMWGで提唱された「血清M蛋白量」「血清FLC比」「骨髄形質細胞割合」「細胞遺伝学的異常」の4因子を用いたリスク分類である。

 高松氏は、「CRAB症状出現前に治療を開始したほうが副作用を軽減でき、より安全に治療できる可能性が高くなると考えられるため、早期の進行が予測される患者には、早期に治療介入することは妥当な方法ではないか。ただし、高リスク患者を精度高く抽出する方法を見つけることが今後の課題」とまとめて、講演を終えた。

SMM治療におけるShared Decision Makingの重要性

 鈴木氏は、症状がないときに治療を開始することについて、副作用と効果、通院回数を考慮し、開始を待つ患者もいるが、IMWG 2020モデルの高リスク患者の多発性骨髄腫への2年進展率が72.5%であると伝えると治療を希望する患者が多いと述べ、治療に際しては、治療選択肢とエビデンス、メリットとデメリットについて患者・家族と共通の理解を持ち、十分に話し合って決めていく「Shared Decision Making(SDM)」が重要であることを強調した。

ダラツムマブによる進展抑制効果~第III相AQUILA試験

 鈴木氏は、SMM治療におけるダラツムマブの承認の根拠となった国際共同第III相AQUILA試験の結果を紹介した。同試験は高リスクSMM 390例を対象に、ダラツムマブ単独投与(皮下投与、サイクル1~2:週1回、サイクル3~6:2週に1回、サイクル7~:4週に1回)群と経過観察群を比較したものである。高リスクの基準は(1)血清M蛋白30g/L以上、(2)IgA型、(3)IgA、IgM、IgGのうち2種類のuninvolved Ig減少を伴う免疫不全、(4)involved/uninvolved血清遊離軽鎖比が8以上100未満、(5)クローナルな骨髄形質細胞が50%超かつ60%未満で測定可能病変を有する、のうち1つ以上満たす場合としている。この条件について、鈴木氏は「免疫不全の有無をみているのが注目すべき点」と指摘した。

 主要評価項目の無増悪生存期間(PFS)において、ダラツムマブ群は有意な延長を示した(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.36~0.67、p<0.0001)。また、CRAB症状出現を疾患進行(PD)イベントとしたときのPFSも明らかに差が認められた(HR:0.29、95%CI:0.16~0.52)。有害事象は、ダラツムマブ群で肺炎(3.6%)、COVID-19(1.6%)など、経過観察群で敗血症や発熱などが認められた。

 日本人集団の5年PFS解析では、ダラツムマブ群が63.1%、経過観察群で40.8%であった(HR:0.25、95%CI:0.10~0.65)。全体集団より日本人集団のほうでHRが小さいことについて、鈴木氏は「体重の違いや患者の治療に対する真面目さもあるのだろう」と考察している。

 最後に鈴木氏は、「多発性骨髄腫に対する新薬が次々と開発され、初発例に使用可能になり、MRD陰性も達成し治癒も期待されるようになってきた。さらに機能的治癒だけではなく、発症を遅らせ、場合によっては予防も期待されるようになるまで進んできた」と治療の進歩を振り返り、「If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.」(早く行きたければひとりで行け、遠くへ行きたければみんなで行け)という、協力とチームワークの重要性を説くアフリカのことわざを紹介し、「医師、患者、製薬業界の連携によりここまで来れた」と結んだ。

(ケアネット 金沢 浩子)