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治療法、どこまでの説明が必要?【医療訴訟の争点】第16回

症例患者の罹患する疾患に対して複数の治療法が存在するも、患者の状態から選択が困難と考えざるを得ない治療法が存在することもある。そのような治療法についても医師は説明義務を負うのか。本稿では、医師が“選択は困難”と考えた治療法の説明義務が争点となった東京地裁令和4年12月9日判決を紹介する。<登場人物>患者女性(87歳)原告患者の子(次男)被告基幹病院、脳神経内科担当医、脳神経内科部長事案の概要は以下の通りである。平成24年2月29日午前10時頃コンビニエンスストアの駐車場で倒れているところを発見午前10時45分頃被告病院に救急搬送。救急医の診察時、(1)失語の状態で発語はまったく見られない、(2)痛み刺激に対し、左上下肢は動くが、右上下肢に動きは見られない、(3)左共同偏視(両目が左を向いて固定された状態)、(4)右バビンスキー反射(足の裏をこすると足の親指が上を向いてしまう状態)陽性の所見。救急医は脳神経内科にコンサルト。神経内科医(被告医師)が診療を担当し、(1)右注視麻痺、(2)右顔面筋力低下、(3)右上下肢動きなし、(4)失語の状態にある旨の所見を確認した。頭部CTで出血所見はなく、脳梗塞と診断された。被告医師は、患者が87歳と高齢であり、広範な脳のダメージが示唆され重症例であることから、アルテプラーゼによる静注血栓溶解(rt-PA)療法の施行は困難と判断した。また、血液検査の結果、クレアチニンは0.95mg/dL(基準値0.47mg/dLないし0.79mg/dL)、血中尿素窒素は17mg/dL(基準値8mg/dLないし22mg/dL)であり、腎機能障害が認められたことから、腎障害や高齢者における致死的副作用の報告が多いエダラボンの適応ではないと判断した。被告医師は、患者の長男に対し、患者の病状説明を行い、診断は脳梗塞と考えること、治療は、抗凝固療薬の点滴によるが、出血の危険性が高いと判断されれば使用しないこと等を説明した。なお、長男から、被告医師に対し、rt-PA療法やエダラボン投与に関する質問やこれらの治療の要望はなかった。MRI検査にて深部白質にDWI高信号が認められるとの所見であったことから、被告医師は、本件患者はアテローム血栓性脳梗塞である可能性が高いと判断し、アルガトロバンの投与による抗凝固療法を行うことを決定した。4月25日本件患者は要介護5の認定5月7日リハビリテーション病院へ転院令和元年12月23日老衰により死亡実際の裁判結果本件では、(1)rt-PA療法に係る問診・診断義務違反および説明義務違反、(2)エダラボンの投与に係る診断義務違反、説明義務違反および治療義務違反が争点となったが、裁判所は以下の判断をし、原告の請求をいずれも棄却した。(1)rt-PA療法に係る問診・診断義務違反及び説明義務違反について原告は、本件患者にはrt-PA療法の適応があったことから、被告医師はその実施に向けて、未発症時刻の確認、NIHSSによる重症度評価及び頭部CTの画像診断といった問診・診断を行い、原告らに対し同療法について説明する義務を負っていた旨を主張した。これに対し、裁判所は以下の点を指摘し、「未発症時刻の確認、NIHSSによる重症度評価及び頭部CTの画像診断を行うまでもなく、本件患者に対しrt-PA療法を実施しないとした被告医師の判断は、医学的合理性に基づくものというべきであり、医師の裁量を逸脱するものとは認められない」とした。本件患者が、当時87歳であり、本件当時の「rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針(2005年10月)」において慎重投与とされる基準(75歳)を大きく上回っていたこと。被告医師が本件患者を診察した際の状態は、右注視麻痺、右顔面筋力低下、右上下肢動きなし、失語の状態にあるというものであり、NIHSSによる評価はともかく、前頭葉、頭頂葉並びに側頭葉に関連し得る広い範囲に及ぶ脳のダメージが示唆され、脳梗塞の中でも重症と評価できるものであったこと。治療指針のチェックリストの1項目でも慎重投与とされる基準に該当すれば、適応の可否を慎重に判断することとされ、とくに高齢、重症例では治療成功率は低く、症候性頭蓋内出血の危険性も高くなると考えられるとされていること。その上で、原告らがrt-PA療法の実施可能性等について強い関心を有し、これを被告医師に伝えていたとは認められないことを指摘し、「被告医師が、本件患者やその家族に対しrt-PA療法について説明すべき義務を負うとは認められない」と結論付けた。(2)エダラボンの投与に係る診断義務違反、説明義務違反及び治療義務違反について原告は、本件患者に対しエダラボンを投与することが可能であり、被告医師は、本件患者の腎機能の評価を行ってエダラボンを投与し、原告らに対しエダラボンについて説明する注意義務を負っていた旨を主張した。これに対し、裁判所は、以下の点を指摘し、「87歳という高齢で、高度に近い中等度の腎機能障害が認められた本件患者に対しエダラボンを投与しないとした被告医師の判断は、医学的合理性に基づくものというべきであり、医師の裁量を逸脱するものとは認められない」とした。本件当時87歳、体重は48kgであり、血液検査の結果、クレアチニンの値は0.95mg/dLであるなど、高度に近い中等度の腎機能障害を来していたといえること。エダラボンは、腎機能障害、高齢者には慎重投与とされていること。とくに80歳以上の高齢者においては、致命的な経過をたどる例が多く報告され、製薬会社が緊急安全情報を発していること。その上で、原告らがエダラボンの投与について強い関心を有し、これを被告医師に伝えていたとは認められないことを指摘し、「被告医師が、本件患者やその家族に対しエダラボンについて説明すべき義務を負うとは認められない」と結論付けた。注意ポイント解説本件は、高齢脳梗塞患者における急性期治療の選択と説明義務の範囲が争われた事案であり、裁判所は、当時の診療指針や添付文書に示された「慎重投与」基準を踏まえ、rt-PA療法やエダラボン投与といった積極的治療は、副作用リスクが高いとされる高齢・重症例では、医学的裁量に基づく非実施が正当とされ得るとして、医師の判断を尊重する判断をした。また、説明義務の発生についても、患者や家族らがその治療法に強い関心を示し、それを医師に伝えていたわけではないことを指摘し、医師が「適応がないと判断した治療」については説明義務が生じないとした。これは、説明義務の範囲があくまで医療水準に照らした「実施を検討すべき治療」に限られることを示すものといえる。もっとも、本件は、いずれの治療を選択するにしても直ちにその適応を判断しなければならないものであったため、時間をかけた検査の要否や、治療法の採否につき、医師の裁量が認められたとの要素があると考えられる。患者の状態・症状等から「慎重投与」の基準をわずかに逸脱するにとどまっていたり、副作用リスクが高いとの報告がされていなかったりすれば、医師の裁量は狭まることとなり、ほかにありうる治療法としてrt-PA療法やエダラボン投与につき、説明をする義務があったとされる可能性がある点に留意する必要がある。また、今回問題となったrt-PA療法は、本件当時(平成24年=2012年)は、75歳以上は慎重投与とされていたが、その後、慎重投与は80歳以上となるなど、年齢の点は緩和されるなど変化が生じている。同様に、エダラボンの投与についても、本件当時よりも報告例の集積がされた結果、投与に対する考え方にも変更がありうるところである。このため、本判決の判断が現在も同様に当てはまるとは限らず、いずれにしても診療時の医学的知見を踏まえ、患者の状態を考慮した上での判断となることに留意が必要である。医療者の視点今回の裁判所の判断は、臨床現場における医師の判断プロセスを尊重したものであり、実臨床の感覚に近いものと言えます。本件の87歳というご高齢の患者さんのように、複数のリスクを抱えている方への治療方針の決定は、常に難しい判断を迫られます。とくに脳梗塞急性期のrt-PA療法は、有効性が期待される一方で、重篤な出血のリスクを伴います。当時のガイドラインで75歳以上が慎重投与とされていた中、87歳で、かつ臨床症状から重症と判断される患者さんに対して、治療の利益よりも不利益が上回る可能性を重くみて治療を実施しない、という判断は、多くの医師が同様の結論に至る可能性のある、医学的合理性に基づいたものと考えられます。エダラボン投与に関しても、腎機能障害や高齢者への慎重投与が求められており、医師の判断は妥当なものであったと判断されたのでしょう。一方で、裁判所が「家族が強い関心を示していなかったため、説明義務はなかった」と判断した点については、実臨床では注意が必要です。訴訟上の義務は発生しないとしても、患者さんやご家族との信頼関係を築く上では、たとえリスクが高く実施が難しいと判断した治療法であっても、そのような選択肢が存在すること、そしてなぜそれを選ばないのかを丁寧に説明することが望ましいからです。後から「なぜあの治療法の説明をしてくれなかったのか」という不信感につながることを避けるためにも、積極的な情報提供が重要になる場面は少なくありません。医療技術やガイドラインは日々更新されるため、常に最新の情報を収集し続ける姿勢が不可欠です。その上で、個々の患者さんの状況に応じた最善の選択肢を、ご本人やご家族と共に考えていく丁寧な対話こそが、訴訟リスクを低減し、より良い医療を実現する鍵となるでしょう。Take home message治療選択においては、ガイドラインや添付文書において慎重投与とされているケースについて、その選択をしない医師の裁量的判断が尊重される場合もあるため、これらの記載内容を常にアップデートしておく必要がある。医師の裁量に基づく非実施が医学的合理性を有する治療法については、患者や家族らがその治療法に強い関心を示してない場合には、説明義務違反はないとされることもある。

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第37回 ありふれた転倒が引き起こす「見逃せない頭部外傷」【救急診療の基礎知識】

●今回のPoint1)転倒は「ありふれた外傷」ではない!2)初診時のCT所見が正常でも油断は禁物!3)慢性硬膜下血腫は予後良好とは限らない!【症例】80歳男性。施設職員が部屋を訪れると、ベッド上で普段と様子が異なる状態を発見した。しばらく様子をみていたが、症状が改善しないため、職員の付き添いのもと車椅子で外来を受診した。●受診時のバイタルサイン意識E4V4M5/GCS血圧142/90mmHg脈拍78回/分(整)呼吸18回/分SpO296%(RA)体温36.6℃瞳孔3.5/3mm +/+頭部外傷の現状救急外来では外傷患者を診療する機会が多いですが、その多くは激しい交通事故ではなく、高齢者の自己転倒です。自宅や路上でつまずいて転倒し、体動困難のため受診し、精査の結果、大腿骨近位部骨折と診断される症例は非常に多いと思います。そして、それ以上に多いのが頭部外傷です。外傷症例の約3分の1が頭部外傷であり、とくに75歳以上の高齢者ではその頻度が非常に高いのが現状です1)。高齢者が平地で転倒し、頭部を打撲して救急外来を受診するケースは日常的に見られます。その多くは軽症頭部外傷(Glasgow Coma Scale [GCS]14~15)です。頭部外傷の診療では、Canadian CT Head Rule(CCHR)などを参考に頭部CT検査の必要性を判断することが一般的です。しかし、CCHRはもともと「意識障害、意識消失、健忘を認める症例」を対象としており、それに満たない症例では個別の判断が求められます。わが国ではCT機器が広く普及し、また初療を担当する医師が研修医や非専門医であることも多いため、頭部CT検査が比較的多くオーダーされているのが現状です。もちろん、検査の必要性を常に考慮することは重要ですが、患者自身が画像検査を希望する場合も少なくありません。そのため、「不要だから撮らない」と突き放すよりも、検査の意義や限界を丁寧に説明し、納得のうえで方針を決定することが望ましいといえます。中等症以上の頭部外傷(GCS≦13)*ではCT検査後に入院管理となることが多いですが、軽症頭部外傷の場合には帰宅となるケースが多いでしょう。その際、今後起こり得る合併症として慢性硬膜下血腫(CSDH)の可能性を説明することが多いと思いますが、どのような点を意識して説明しているでしょうか。具体的な数値とともに整理しておきましょう。*わが国では頭部外傷のうちGCS14~15点を軽症頭部外傷と定義しますが、海外では13~15点を軽症と分類しています。軽症頭部外傷後の頭蓋内出血リスクとその経過軽症頭部外傷患者で頭部CT検査を行い、とくに異常所見が認められなかった場合、その後に頭蓋内出血を新たに認めることは、どの程度あるのでしょうか。慢性硬膜下血腫は、頭部外傷後数週間を経て発症するものと定義されていますが、それより早期に頭蓋内出血を生じる場合があります。外傷直後のCT検査で異常を認めないにもかかわらず、数時間から数日後に新たに出血を呈する病態を「遅発性頭蓋内出血」と呼びます。この遅発性出血の発生率はおおむね0.3%程度であり、発症までの期間は3~5日が一般的な数字です。抗血栓薬服用の有無で発生率に有意差はなく、これらの結果からルーティンの入院や再CT検査は不要とされています2)。一方、初診時に急性硬膜下血腫(ASDH)を認めた患者(平均71.4歳、男性56.7%)では、慢性硬膜下血腫への移行率は約5.5%と報告されています。抗凝固薬の使用や、初回入院時に穿頭ドレナージを受けたか否かは有意な関連を示しませんでした3)。さらに、慢性硬膜下血腫に対して穿頭ドレナージを施行した症例を対象とした解析では、急性硬膜下血腫の約12~13%が慢性硬膜下血腫へ移行していたと報告されています4)。また、慢性硬膜下血腫症例のうち、画像上で急性硬膜下血腫を先行していたものは37%に過ぎず、残り63%は急性期出血を伴わず発生しているとの報告もあります5)。すなわち、初診時の頭部CTで異常を認めない場合、早期に出血を生じることは極めてまれです。しかし、その後に慢性硬膜下血腫へと移行するか否かは、初期血腫量や抗血栓薬使用、基礎疾患などの要因により異なり、経過を丁寧に追わなければ判断が難しいといえるでしょう。慢性硬膜下血腫の実像慢性硬膜下血腫と聞くと、高齢者が頭部外傷後に意識変容や歩行障害を認め来院し、穿頭ドレナージ術を行い帰宅。比較的予後が良い疾患に感じるかもしれませんが、本当にそうでしょうか?わが国の慢性硬膜下血腫の現状をお伝えしておきましょう。平均年齢は76歳、男性が68%と多くを占めます。70歳以上が78%を占め、とくに80歳代が37%と最多です。90%以上が穿頭ドレナージを受け、開頭術を要したのは1.5%でした6)。意識障害は54%に認められ、加齢とともに頻度が増加します。高齢者の意識障害の原因として脳卒中などを含めた神経救急の割合は20%程度ですが、急性経過の意識障害では慢性硬膜下血腫も重要な鑑別疾患の1つです。高齢化が進むわが国においては、「なんとなく普段と違う」といった訴えであっても、慢性硬膜下血腫を念頭に置く必要があります。もちろん、症状を説明しうる他の原因がある場合には過度に懸念する必要はありませんが、外傷歴がない、あるいは確認できないからといって安易に否定してはいけません。退院時に予後良好(mRS**0~2)であったのは全体の72%にとどまり、すなわち約3割は介助を要する状態です。けっして「予後良好」とは言えず、年齢とともに悪化傾向を示します。自宅退院率は70歳未満では90%以上ですが、80歳代では約30%に低下します6)。**modified Rankin Scale(mRS):脳卒中などの後遺症による日常生活動作の自立度を0~6の7段階で評価するスケールです。0は「症状なし」、6は「死亡」を意味します。1~2は軽度の後遺症で自立生活が可能、3~5は介助を要する段階を示します。最後に「頭部外傷の経過観察は丁寧に」慢性硬膜下血腫は、けっして「軽い病気」ではありません。高齢化の進行とともに、その発症頻度は今後さらに増加していくと考えられます。高齢者は筋力や視力の低下に加え、基礎疾患や多剤内服を抱えていることが多く、転倒リスクが常に存在します。転倒後の対応はもちろん重要ですが、そもそも転倒を防ぐための予防的な取り組みこそが最も効果的です。医療現場では、頭部CT検査の撮影閾値がやや低くなることは止むを得ませんが、受傷機転を丁寧に確認し、CT検査で異常を認めなくても「時間を味方につけた対応」を意識することが大切です。小さな転倒が大きな転帰を左右することがあります。だからこそ、「ありふれた外傷」を軽視せず、経過を丁寧に見守る姿勢が求められます。 1) Shibahashi K, et al. World Neurosurg. 2021;150:e570-e576. 2) Chenoweth JA, et al. JAMA Surg. 2018;153:570-575. 3) Wasfie T, et al. Am Surg. 2022;88:372-375. 4) Liebert A, et al. Neurosurg Rev. 2024;47:247. 5) Edlmann E, et al. J Neurotrauma. 2021;38:2580-2589. 6) Toi H, et al. J Neurosurg. 2018;128:222-228.

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帯状疱疹ワクチンは心臓病、認知症、死亡リスクの低減にも有効

 帯状疱疹ワクチンは中年や高齢者を厄介な発疹から守るだけではないようだ。新たな研究で、このワクチンは心臓病、認知症、死亡のリスクも低下させる可能性が示された。米ケース・ウェスタン・リザーブ大学医学部の内科医であるAli Dehghani氏らによるこの研究結果は、米国感染症学会年次総会(IDWeek 2025、10月19〜22日、米アトランタ)で発表された。 米疾病対策センター(CDC)によると、米国では3人に1人が帯状疱疹に罹患することから、現在、50歳以上の成人には帯状疱疹ワクチンの2回接種が推奨されている。帯状疱疹は、水痘(水ぼうそう)の既往歴がある人に発症するが、CDCは、ワクチン接種に当たり水痘罹患歴を確認する必要はないとしている。1980年以前に生まれた米国人の99%以上は水痘・帯状疱疹ウイルスに感染しているからだ。 水痘・帯状疱疹ウイルスは、数十年間にわたって人の免疫システム内に潜伏し、その後、再び活性化して帯状疱疹と呼ばれる痛みやチクチク感、痒みを伴う発疹を引き起こす。水痘への罹患経験がある人なら年齢を問わず帯状疱疹を発症する可能性があるが、通常は、ストレスにさらされ、免疫力が低下している50歳以上の人に多く発症する。 Dehghani氏らは、米国の107の医療システムから収集した17万4,000人以上の成人の健康記録を分析し、帯状疱疹ワクチン接種者の健康アウトカムをワクチン非接種者のアウトカムと比較した。ワクチン接種者は接種後3カ月〜7年間追跡された。 その結果、帯状疱疹ワクチンの接種により、以下の効果が得られる可能性が示された。・血流障害による認知症のリスクが50%低下・血栓のリスクが27%低下・心筋梗塞や脳卒中のリスクが25%低下・死亡リスクが21%低下 Dehghani氏は、「帯状疱疹は単なる発疹ではない。心臓や脳に深刻な問題を引き起こすリスクを高める可能性がある。われわれの研究結果は、帯状疱疹ワクチンが、特に心筋梗塞や脳卒中のリスクがすでに高い人において、それらのリスクを低下させる可能性があることを示している」とニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、これまでの研究でも、帯状疱疹への罹患が心臓や脳の合併症を引き起こす可能性のあることが指摘されているという。専門家は、この新たな知見は、帯状疱疹ワクチンが帯状疱疹そのものだけでなく、それらの合併症の予防にも役立つ可能性があることを示唆しているとの見方を示している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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日本における認知症診断、アイトラッキング式認知機能評価の有用性はどの程度か

 認知機能低下および認知症に対する効率的なスクリーニングツールは、多くの臨床医や患者に求められている。大阪大学の鷹見 洋一氏らはこれまで、アイトラッキング技術を用いた新規認知機能評価ツールの認知症スクリーニングにおける有用性について報告している。今回、アイトラッキング式認知機能評価(ETCA)アプリのタブレット版を開発し、プログラミング医療機器(SaMD)としての臨床的有用性を検証するための臨床試験を実施し、その結果を報告した。GeroScience誌オンライン版2025年10月20日号の報告。 対象は、認知症患者および非認知症者。2020年12月〜2021年7月に参加者を募集した。参加者は、ETCAアプリを使用し、現在に最も広く用いられているスクリーニング検査であるミニメンタルステート検査(MMSE)も併せて実施した。主要アウトカムは、ETCAとMMSEのスコア間の相関とした。主要副次的アウトカムは、ETCAの実施時間、検査関連負担に関する質問票による評価、各サブスコア間の相関とした。認知症検出精度は、探索的に評価した。 主な内容は以下のとおり。・全解析対象者での解析結果から、両検査の合計スコア間に強い正の相関が認められた(r=0.831、95%信頼区間:0.743〜0.891、p<0.0001)。・ETCAの実施時間中央値は254.0秒であり、参加者の70%超がMMSEと比較し、ETCAアプリによる検査関連負担が少ないまたは同程度であると回答した。・すべてのサブスコアにおいて有意な相関が認められた。・ETCAは、認知症患者の検出においてAUC 0.864を達成した。 著者らは「ETCAアプリのタブレット版は、迅速な認知機能評価ツールであり、臨床的に有用であることが示された」とし、これらの結果に基づき、ETCAアプリは日本においてSaMDとして薬事承認されるに至った。

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ホスピスでよく使われる薬は認知症患者の死亡リスクを増加させる

 ホスピスでケアを受けているアルツハイマー病および関連認知症(ADRD)患者に対するベンゾジアゼピン系薬剤(以下、ベンゾジアゼピン)および抗精神病薬の使用は、患者の死を早めている可能性のあることが新たな研究で示された。ホスピス入所後にベンゾジアゼピンまたは抗精神病薬の使用を開始したADRD患者では、使用していなかった患者と比べて180日以内に死亡するリスクがそれぞれ41%と16%高いことが示されたという。米ミシガン大学の老年精神科医であるLauren Gerlach氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Network Open」に10月14日掲載された。 ホスピスケアは、もともとは死期の近いがん患者の精神的・身体的苦痛を緩和するために作り出されたが、今ではその対象は認知症などの他の末期疾患患者にも広がっている。研究グループによると、ホスピスに入所するADRD患者の割合は、1995年の1%未満から2023年には25%にまで増加している。しかし、ADRDはがんと比べると、長期にわたり予測不可能な経過をたどるため、ホスピス入所患者が必ずしもすぐに死亡するわけではない。実際、これらの患者の約20%は、ホスピス入所条件である予後6カ月を超えて生存し、ケアプログラムを終えていると研究グループは述べている。 研究グループによると、ホスピス入所患者の興奮、不安、せん妄の管理ではベンゾジアゼピンや抗精神病薬が処方されることが多い。しかし、これらの薬の使用は、転倒や混乱、鎮静のリスクを高め、患者の生活の質(QOL)に影響を及ぼす可能性がある。 この研究でGerlach氏らは、ホスピス施設に処方箋の報告が義務付けられていた2014年7月1日から2018年9月30日までの間の全国のメディケアデータを分析した。対象は、ホスピス入所前の6カ月間にベンゾジアゼピンや抗精神病薬の使用歴がないADRD患者13万9,103人(平均年齢87.6歳、女性75.8%)とした。ホスピス入所時にベンゾジアゼピンおよび抗精神病薬の使用リスクが高いとされた患者はそれぞれ10万58人と11万4,933人で、入所後、4万7,791人(47.8%)と1万5,314人(13.4%)で実際に薬の使用が開始されていた。患者のホスピス滞在日数の平均は130日を超えていた(ベンゾジアゼピン使用患者で136.4日、抗精神病薬使用患者で154.0日)。 ベンゾジアゼピンと抗精神病薬の使用患者と非使用患者を1対1でマッチングしたペア(ベンゾジアゼピンで2万6,872ペア、抗精神病薬で1万240ペア)を抽出して、それぞれの薬の使用と死亡との関連を検討した。その結果、使用患者では非使用患者と比べて、薬の使用開始後180日以内に死亡するリスクが、ベンゾジアゼピンでは41%、抗精神病薬では16%、有意に上昇することが示された。 Gerlach氏は、「こうした早期の処方パターンは、これらの薬が個々の患者に合わせて調整されるのではなく、標準的なホスピスケアの実践の一部として使用されているケースがあることを示唆している」と述べている。その上で同氏は、「ホスピス滞在期間中に認知症患者に使用する薬は、QOLを低下させるのではなく、向上させるものでなければならない」と話す。さらに同氏は、「メディケアのホスピス給付は、加入者のほとんどががん患者で、病状の経過が短く予測可能であることを想定して設計されている。病気の進行が何年にもわたることがあるADRD患者に適したケアモデルと処方ガイドラインが必要だ」と指摘している。

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日本人男性、認知機能と関連する肥満指標は?

 地域在住の日本人中高年男性において、さまざまな肥満指標と認知機能との関連を調査した結果、腹部の内臓脂肪面積/皮下脂肪面積比(VSR)が低いと認知機能が低いことが示された。滋賀医科大学の松野 悟之氏らがPLoS One誌2025年10月23日号で報告した。 これまでの研究では、内臓脂肪組織が大きい人は認知症リスクが高く、内臓脂肪組織が認知機能低下と関連していたという報告がある一方、内臓脂肪組織と認知機能の関係はなかったという報告もあり一貫していない。この横断研究では、滋賀県草津市在住の40~79歳の日本人男性を対象とした滋賀動脈硬化疫学研究(Shiga Epidemiological Study of Subclinical Atherosclerosis)に参加した853人のうち、Cognitive Abilities Screening Instrument(CASI)に回答し、CTで腹部の内臓脂肪面積と皮下脂肪面積を測定した776人のデータを解析した。参加者をVSRの四分位で分け、共分散分析を用いて各四分位群のCASI合計スコアおよび各ドメインスコアの粗平均値および調整平均値を潜在的交絡因子を調整して算出した。 主な結果は以下のとおり。・776人の平均年齢は68.4歳であった。・BMI、内臓脂肪面積、皮下脂肪面積の四分位群間でCASI合計スコアに有意差は認められなかったが、多変量調整モデルでは、VSRが最も低い第1四分位群(Q1)の参加者のCASI合計スコアの平均(89.5)は、第3四分位群(Q3)の参加者の平均(90.9)より有意に低く、低いVSRが低い認知機能と独立して関連していた。 著者らは「本研究の結果は、比較的肥満度の低い日本人男性においては、内臓脂肪組織と皮下脂肪組織を個別に評価するのではなく、VSRに注目する必要があることを示唆する」と結論している。

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機内における急病人の発生頻度は?~84の航空会社での大規模調査

 2025年には約50億人が民間航空機を利用すると予測されている。航空機内での急病(機内医療イベント)は、医療資源が限られ、専門的な治療へのアクセスが遅れるという制約の中で対応が必要となる。米国・デューク大学のAlexandre T. Rotta氏、MedAireのPaulo M. Alves氏らの研究グループは、84の航空会社が参加した大規模な国際データを分析し、機内医療イベントの発生頻度や、航空機の目的地変更につながる要因などを明らかにした。JAMA Network Open誌2025年9月29日号に掲載。 本研究では、2022年1月1日~2023年12月31日の期間に地上支援センターへ報告された、航空会社84社7万7,790例の機内医療イベントを対象に観察コホート研究が実施された。 主な結果は以下のとおり。・全7万7,790例の機内医療イベントにおいて、その発生頻度は乗客100万人当たり39例、フライト212便当たり1例の割合であった。・急病になった乗客は、女性が54.4%、年齢中央値43歳(IQR 27~61)であった。・機内医療イベントによる航空機の目的地変更は1.7%(1,333例)発生した。・全イベントのうち312例(0.4%)が死亡し、年齢中央値69歳(IQR 55~79)であった。急性心疾患による死亡が276例(88.5%)を占め、これらの死亡例において心肺蘇生法が実施されていた。・医療経験を持つ乗客ボランティアは、32.9%(2万5,570例)の医療イベントを支援した。また、目的地変更となった1,333例のうち1,056例(79.2%)、死亡に至った312例のうち246例(78.9%)でボランティアの関与があった。・目的地変更の主な原因は、神経系疾患(542例、40.7%)と心血管系疾患(359例、26.9%)であった。・目的地変更のオッズが高かったのは、脳卒中疑い(調整オッズ比[aOR]:20.35、95%信頼区間[CI]:12.98~31.91)、急性心疾患(aOR:8.16、95%CI:6.38~10.42)、意識変容(aOR:6.96、95%CI:5.98~8.11)であった。・全イベントにおける主な医療介入として、酸素療法(40.8%)、非麻薬性鎮痛薬(15.2%)、制吐薬(14.9%)が使用された。 本研究により、機内医療イベントは従来考えられていたよりも頻繁に発生していることが示された。世界的に航空旅客数が増加し続ける中、機内医療イベントは今後も避けられない課題であり、著者らはこれらの知見が、航空会社の方針、乗務員の訓練、緊急時対応プロトコルの改善に役立つ可能性があると結論付けている。

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認知症/MCI患者に対する抗コリン薬の使用率は?

 認知機能が低下している高齢者は、抗コリン作用を有する薬剤の累積使用による副作用の影響を受けやすいとされている。しかし、このような患者における入院リスクに関する研究は依然として限られており、入院の具体的な原因に焦点が当てられていない場合が多い。マレーシア・University MalayaのRenuka Rahoo氏らは、軽度認知障害(MCI)または認知症の高齢者における抗コリン薬の負担とその役割、さらに入院リスクおよび入院理由との関連を調査した。Clinical Interventions in Aging誌2025年9月25日号の報告。 本後ろ向き研究は、2022年に物忘れ外来を受診したMCIまたは認知症の高齢者を対象に実施した。社会人口学的情報、併存疾患、認知機能評価、機能評価、神経精神症状、服薬歴に関するデータを電子カルテから収集した。抗コリン薬による負担は、抗コリン作用負荷(ACB)スコアを用いて評価した。ACBスコアと入院リスクとの関連を評価するため、Cox比例ハザード分析を用いた。入院の根本原因は、異なるACBスコア群間で比較した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象となった高齢者は合計657例、平均年齢は80.66±7.39歳。・抗コリン薬の使用率は35.5%、ACBスコアの平均値は0.8±1.3であった。・ACBスコアが高い高齢者は、抗コリン薬による負担のない場合と比較し、介護施設入居、神経精神症状の発現、認知機能および身体機能の低下、処方薬数の増加との関連が認められた。・単変量解析では、ACBスコアが1~2の高齢者は、入院リスクが高かった(ハザード比:1.84、95%信頼区間:1.17~2.90)。しかし、交絡因子を調整後、この関連性は減少した。・入院理由は、肺炎(5.7%)が最も多く、次いで急性腎障害(3.8%)、せん妄(2.6%)、転倒(2.6%)であった。・とくに、重篤な心血管イベントまたは褥瘡感染で入院した高齢者は、ACBスコアが有意に高かった。 著者らは「MCIまたは認知症の高齢者の3人に1人は抗コリン薬を使用しており、これは健康状態を悪化させる可能性がある」とし「これらの知見は、この脆弱な集団における抗コリン薬の負担を最小限に抑えるために、定期的な服薬レビューと減薬戦略の重要性を強調している」と結論付けている。

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質の低い睡眠は脳の老化を早める

 質の低い睡眠は脳の老化を加速させ、その一部は全身の炎症を介して引き起こされている可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。睡眠の質を5段階で評価するスコアが低い人ほど脳の老化が早いことが示されたという。カロリンスカ研究所(スウェーデン)の神経生物学、ケア科学、社会学分野のAbigail Dove氏らによるこの研究結果は、「eBioMedicine」に9月30日掲載された。 Dove氏は、「健康的な睡眠スコアが1点低下するごとに、脳年齢と実年齢の差は約6カ月拡大した。睡眠不足の人の脳は、脳年齢が実年齢より平均で1歳進んでいるようだ」と同研究所のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、英国の一般住民を対象とした大規模コホート研究であるUKバイオバンクの参加者から抽出した2万7,500人(平均年齢54.7歳、女性54.0%)を対象に、健康的な睡眠パターンと脳年齢との関係、さらにその関係が全身の炎症によってどの程度媒介されるのかが検討された。参加者の睡眠の質は、健康的な睡眠の特徴(朝型、7〜8時間の睡眠時間、不眠がない、いびきをかかない、日中の過度な眠気がない)のスコア(0〜5点)を合計し、睡眠パターンを健康的(4〜5点)、中間(2〜3点)、不健康(0〜1点)の3群に分類した。試験開始時の睡眠パターンは、不健康が898人(3.3%)、中間が1万5,283人(55.6%)、健康的が1万1,319人だった。炎症レベルは、血液サンプルを用いて、複数の炎症マーカーを組み合わせた「INFLAスコア」で評価した。脳年齢は、平均8.9年間の追跡後に脳MRIからAIモデルで推定し、脳年齢から実年齢を引いた脳年齢ギャップ(BAG)を算出した。 健康的な睡眠スコアを連続変数として解析した結果、スコアが低いほどBAGが有意に大きく、健康的な睡眠スコアが1点低下するごとに脳年齢が実年齢より約0.48歳高くなる傾向が認められた。睡眠パターンを3群に分類して解析すると、睡眠パターンが「健康的」に分類された人と比較して、「中間」に分類された人ではBAGが0.24歳、「不健康」に分類された人では0.50歳、それぞれ有意に高いことが明らかになった。さらに媒介分析では、INFLAスコアがこれらの関連の6.81%と10.42%を媒介していることが示された。 Dove氏は、「われわれの研究結果は、睡眠不足は脳の老化を加速させる可能性があり、その根本原因の一つが炎症であることを示唆している。睡眠の質は調整可能であることから、より健康的な睡眠によって脳の老化の加速、ひいては認知機能の低下さえも防ぐことができる可能性がある」と話している。 Dove氏らは、睡眠不足は、主に睡眠中に働く脳の老廃物除去システムを阻害する可能性があると指摘する。その結果、アルツハイマー病と関連付けられているアミロイドβやタウタンパク質など、脳内の有害物質の濃度が上昇する可能性があるのだという。さらに、睡眠不足は心臓の健康に影響を及ぼし、それが脳の健康に悪影響を及ぼしている可能性も考えられるとしている。 ただし研究グループは、本研究において睡眠不足と脳の老化の関連は示されたものの、直接的な因果関係が証明されたわけではないと指摘している。

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日本人における気圧の変化と片頭痛との関係

 獨協医科大学の辰元 宗人氏らは、日本の健康保険請求データベースの大規模データと気象データを照合し、気圧変化の大きい季節が片頭痛発症に及ぼす影響を調査するため、レトロスペクティブコホート研究を実施した。Frontiers in Neurology誌2025年9月10日号の報告。 本研究では、JMDC請求データと日本の気象データを用いて分析した。片頭痛の診断歴を有する患者を対象とし、片頭痛と最初に診断された医療機関の所在地に基づいて8つの地域サブグループに分類した。片頭痛発症までの期間(各季節の初日からトリプタンが処方されるまでの期間と定義)を、気圧変化が最も大きい季節と最も小さい季節で比較した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象は、2万6,777例。・8つの地域全体において、夏季の気圧変化が最も小さかった。・一方、7つの地域では冬季に最も大きな気圧変化がみられ、1つの地域では秋季に最も大きな気圧変化がみられた。・いずれの地域においても、気圧変化が最も大きかった季節と最も小さかった季節の間で生存曲線に差は認められなかった。・Cox回帰分析では、性別と年齢を含む最小調整モデルにおいて、気圧変化が最も大きかった季節のハザード比は0.970(95%信頼区間[CI]:0.951〜0.989)であった。・一方、8つの共変量を含む完全調整モデルでは、気圧変化が最も大きかった季節のハザード比は1.294(95%CI:1.007〜1.663)であった。 著者らは「本研究では、気圧変化の大きい季節と片頭痛発症との間に有意な関連は認められなかった。今後の研究では、より詳細な分析を行うために、都道府県レベルを超えて、より詳細な居住地データを検討する必要がある」としている。

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第34回 10代のSNS利用増、認知テストのスコア低下と関連か?米国大規模調査が示す懸念と対策の必要性

「若者のSNS利用は良いこと? 悪いこと?」この問題をめぐる議論は、世界中の教育者の間で熱を帯びていると言っていいでしょう。SNSが心に悪影響を与えるという研究があれば、「測れるほどの影響はない」という反論も出ます。そんな混沌とした状況が、子供たちや家庭を守るための明確なルール作りを遅らせてきた側面は否めません。そんな中、JAMA誌に掲載された最新の研究は、私たちに新たな視点を与えてくれます1,2)。今回の記事では、思春期初期のSNS利用時間の増加が、10代の認知能力にどのような影響を与えているのかについて明らかにしたこの研究について解説していきます。SNS利用時間の追跡、10代の利用パターン今回ご紹介する研究は、アメリカで行われている大規模な追跡調査「Adolescent Brain Cognitive Development (ABCD) Study」のデータをもとにしています。研究チームは、6,554人の子供たちを9歳から13歳まで追跡しました。そして、彼らが3年間にわたって、具体的に「ソーシャルメディア(SNS)」にどれくらいの時間を費やしているか、その利用パターンの違いを分析したのです。その結果、子供たちのSNS利用には、大きく分けて3つの異なるグループがあることがわかりました。まず、過半数の子供たち(57.6%)は、「ほとんど、あるいはまったく使わない」グループに属していました。彼らのSNS利用時間は非常に少なく、13歳時点でも1日の平均利用時間はおよそ18分にとどまりました。次に大きなグループ(36.6%)は、「低い頻度で(徐々に)増加する」パターンを示しました。9歳時点では利用時間が少なかったものの、年齢とともに増え、13歳時点では1日の平均利用時間がおよそ78分に達していました。少数派ながら見過ごせないグループ(5.8%)は、「高頻度で(急激に)増加する」経過をたどりました。彼らの利用時間も最初は少なかったのですが、その後急激に増加し、13歳時点では1日の平均利用時間が3時間以上と、他のグループに比べて突出して長くなっていました。ここで重要なのは、これらの時間はあくまで「SNS」の利用時間であり、ゲーム、動画視聴、学習目的でのコンピュータ利用など、他のスクリーンタイムは含まれていないという点です。SNS利用と脳のパフォーマンス次に研究チームは、これらの異なるSNS利用パターンが、13歳時点での認知能力とどのように関連しているかを調べました。認知能力の測定には、米国国立衛生研究所が開発した標準化されたテストが用いられました。そして、分析に当たっては、研究開始時点(9歳)での認知スコアを考慮に入れることで、もともとあった能力差が結果に影響するのを最小限に抑えました。その結果、一貫した傾向が見られました。「ほとんど、あるいはまったく使わない」グループと比較して、「低頻度で増加する」グループと「高頻度で急増する」グループの両方が、13歳時点でいくつかの重要な認知テストにおいて低いスコアを示したのです。具体的には、以下の項目で有意な差が見られました。読解認識文章を読む能力に関連絵画語彙言語知識を測る絵画シーケンス記憶出来事を覚える能力を測る総合スコア全体的な認知能力を示すさらに、これらの差には「量反応関係」のような傾向が見られました。つまり、「高頻度で急増する」グループは、「低頻度で増加する」グループよりも、基準となる「ほとんど使わない」グループとのスコア差が大きい傾向があったのです。ただし、この結果を解釈するには注意も必要です。統計的には意味のある差(偶然とは考えにくい差)でしたが、標準化されたスコアで見ると、実際の点差は比較的小さかったのです。また、3つのグループすべての平均スコアは、年齢相応の「平均的な範囲」内に収まっていました。では、この「小さな差」は重要ではないのでしょうか? 必ずしもそうとは言えません。集団レベルで見ればわずかな認知能力の平均的な違いでも、実社会では大きな影響をもたらす可能性があるからです。たとえば、平均的に課題を終えるのに時間がかかるようになったり、数学や読解のような積み重ねが必要な科目で遅れが出やすくなったり、学業への意欲そのものが低下したりするかもしれません。とくに、今回の研究で影響が見られたのが、語彙力や読解力といった、学習や経験を通じて獲得される能力(結晶性知能と呼ばれる)であったことは、この懸念を裏付けているようにみえます。なぜ関連が? 考えられる理由この研究は、SNS利用時間の増加と認知スコアの低さの間に「関連がある」ことを示しましたが、SNSが認知スコア低下の「原因である」と証明したわけではありません。しかし、研究者たちは、その関連性を説明できるいくつかの有力なメカニズムを挙げています。一つは「置き換え仮説」です。SNSの画面をスクロールしている時間は、本来であれば宿題、読書、趣味、あるいは学校での活動など、認知能力の発達にとってより有益な活動に使われたかもしれない時間です。SNSがこれらの活動時間を奪ってしまうことが、とくに言語知識系のスコア低下につながっているのではないかと考えられます。もう一つの重要な要因は「睡眠」です。思春期は脳が劇的に発達する時期であり、質の高い睡眠は学習、記憶の定着、感情のコントロールに不可欠です。しかし、SNSプラットフォームは、絶え間ない通知、アルゴリズムによって無限に続くフィード、刺激的なコンテンツなどで、若者の就寝時間を遅らせ、夜中の睡眠を妨害することが知られています。慢性的な睡眠不足が、注意力や学習能力に直接的な悪影響を与えている可能性があります。もちろん、逆の関係性も考えられます。つまり、もともと認知能力があまり高くない若者が、退屈しのぎや、アルゴリズムに惹きつけられやすいといった理由で、SNSにより多くの時間を費やすようになる可能性です。原因と結果の関係をはっきりさせるには、さらなる研究が必要でしょう。政策を動かすのに「十分な証拠」と言えるのか?このように、まだ解明されていない点や研究上の限界はあるものの、今回の研究結果は、既存の証拠と合わせて考えれば、社会的な対策の導入を正当化するのに「十分な証拠」なのかもしれません。エビデンス自体の強固さに疑問がついたとしても、政策決定は、証拠の確かさだけでなく、問題の緊急性、対策を講じること・講じないことの利益と不利益、実現可能性などを総合的に考慮して判断しなければならないからです。SNSには、社会的なつながりを育んだり、疎外された若者を支援したりといった潜在的な利点もあるでしょう。しかし、利益追求を第一とするプラットフォーム企業が、本質的に子供の利益を最優先する動機を持っているわけではないとも指摘されています。そして、今回の研究で示唆された発達上のコストを考えれば、行動を起こさないことのリスクは大きいとも論じられています。実際、かつて鉛への曝露に関する研究が、比較的小さな認知能力への影響を示唆しただけでも、大きな政策変更や公衆衛生上の対策につながった例もあります。それならば、今回観察された認知能力の差も、政策立案者が真剣に受け止めるべきなのかもしれません。年齢制限、より安全性を考慮したプラットフォーム設計基準、企業への説明責任の強化といった規制措置が、今こそ必要なのかもしれません。さらなる研究が待たれる一方、今回の研究は、思春期初期という脳の発達にとって極めて重要な時期におけるSNS利用が、無視できない認知的コストを伴う可能性を強く示唆しています。若者の健全な発達をデジタル時代にどう守っていくか。今こそアクションを検討すべき重要な問いだと言えるでしょう。 参考文献 1) Nagata JM, et al. Social Media Use Trajectories and Cognitive Performance in Adolescents. JAMA. 2025 Oct 13. [Epub ahead of print] 2) Madigan S, et al. Developmental Costs of Youth Social Media Require Policy Action. JAMA. 2025 Oct 13. [Epub ahead of print]

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第290回 慢性疲労症候群の正確な血液検査を開発

慢性疲労症候群の正確な血液検査を開発原因がはっきりしない難病の筋痛性脳脊髄炎(ME)の血液検査が開発され、少人数の試験でかなり優秀な性能を示しました1-3)。重い疲労感、動作後の倦怠感、認知障害、自律神経機能障害を特徴とし、患者をひどく弱らせるMEは慢性疲労症候群(CFS)とも呼ばれ、しばしばME/CFSと表記されます。最もよく使われる定義によるとME/CFSの有病率は1%弱(0.89%)と推定され4)、それが本当なら世界人口80億人のうち実に7千万例強がME/CFSを患っています5)。しかし、報告されている有病率は手段によって大きく異なり、より客観的な診断基準の確立が急務です4)。ME/CFSを引き起こす根本的な仕組みは不明ですが、顕著な特徴の1つとして免疫不調を示すことが知られており、免疫系の一員の末梢血単核細胞(PBMC)を使ってその病理や発症の仕組みが検討されています。英国のOxford BioDynamics社のEpiSwitchという技術を使った先立つ研究で、筋萎縮性側索硬化症、関節リウマチ、前立腺がん、大腸がんに特有のPBMCの染色体構造(chromosomal conformation、CC)が同定されています。同社は同郷の大学University of East Anglia(UEA)と組み、EpiSwitchを使ってME/CFSに特有のDNAの折り畳まれ方、つまりCCを探すことを試みました。重度のME/CFS患者47例と健康な61例の血液検体を調べたところ、期待どおりME/CFSに特有のCCが見つかり、200のCC特徴に基づく検査Episwitch CFSが開発されました。ME/CFS患者24例とそうでない45例の合計69例で検証したところ、Episwitch CFSの検出感度は92%、特異度は98%、そして正確度は96%でした。すなわち69例のうち誤診は3例のみでした。ME/CFSが示す免疫不調の病状と一致し、免疫や炎症の伝達と強く関連する一連のゲノム変化も見つかっています。それらの変化は治療手段の開拓や治療の向き・不向きを予想するのに役立ちそうです。EpiSwitchを利用した検査はすでに販売されています。1つは前立腺がん診断用で、94%の正確度を誇ります。もう1つはがんの免疫チェックポイント阻害薬(PD-1/PD-L1阻害薬)の効果を予測するもので、正確度は85%です。Episwitch CFSは健康な人とME/CFS患者をかなり正確に区別できることが示されましたが、他の慢性炎症疾患と区別できるかは不明であり、今後調べる必要があります。また、今回の試験は重度ME/CFS患者を対象としており、軽度~中等度のME/CFS患者でもEpiswitch CFSが通用するかどうかも調べなければなりません。Episwitch CFSがどれだけ頼りになるかは、それらの課題を踏まえたより大人数を募っての多施設試験で判明するでしょう。やがてEpiswitch CFSが現場で活用され、それぞれの患者により適した効果的な治療が実現することを願うと今回の研究を率いたUEAのDmitry Pshezhetskiy氏は言っています2)。 参考 1) Hunter E, et al. J Transl Med. 2025;23:1048. 2) Revolutionary blood test for ME / Chronic Fatigue unveiled University of East Anglia in Norwich 3) First proposed blood test for chronic fatigue syndrome: what scientists think / Nature 4) Lim EJ, et al. J Transl Med. 2020;18:100. 5) Vardaman M, et al. J Transl Med. 2025;23:331.

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アルツハイマー病のアジテーションに対するブレクスピプラゾール〜RCTメタ解析

 アルツハイマー病に伴うアジテーションは、患者および介護者にとって深刻な影響を及ぼす。セロトニンとドパミンを調整するブレクスピプラゾールは、潜在的な治療薬として期待されるが、最近の試験や投与量の違いにより、最適な有効性および安全性についての見解は、一致していない。ブラジル・Federal University of ParaibaのJoao Vitor Andrade Fernandes氏らは、アルツハイマー病に伴うアジテーションの治療におけるブレクスピプラゾールの有効性および安全性を用量特異的なアウトカムに焦点を当て評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Indian Journal of Psychiatry誌2025年9月号の報告。 アルツハイマー病に伴うアジテーションにおいてブレクスピプラゾールとプラセボを比較したRCTを、PubMed、Embase、Cochrane Libraryよりシステマティックに検索した。主要有効性アウトカムには、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコアの変化を用いた。安全性アウトカムには、治療関連有害事象(TEAE)、重篤な有害事象(SAE)、死亡率を含めた。メタ解析は、ランダム効果モデルを用いて実施し、平均差(MD)、オッズ比(OR)、95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・4つのRCT、1,710例を分析対象に含めた。・ブレクスピプラゾール2mg群は、プラセボ群と比較し、CMAIスコア(MD:-5.618、95%CI:-7.884〜-3.351、p<0.001)およびCGI-Sスコア(MD:-0.513、95%CI:-0.890〜-0.135、p=0.008)の有意な低下が認められた。・低用量(0.5〜1mg)群では、有効性が限定的であった。・TEAEは、ブレクスピプラゾール2mg群でより多く認められたが(OR:1.554、95%CI:1.045〜2.312、p=0.030)、SAE(OR:1.389、p=0.384)および死亡率(OR:2.189、p=0.301)はプラセボ群と有意な差が認められなかった。 著者らは「ブレクスピプラゾール2mgは、許容できる安全性プロファイルを有しており、アルツハイマー病に伴うアジテーションの軽減に有効である」と結論付けている。

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脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕

近年の知見を反映し52項目を改訂!2022年1月から2023年12月までの2年間に発表された論文のうち「レベル1のエビデンス」「レベル3以下だったエビデンスがレベル2となっていて、かつ、とくに重要と考えられるもの」を採用する方針で、該当する項目(140項目中52項目)を改訂しました。主な改訂点「改訂のポイント」を新設担当班長・副班長がまとめた「改訂のポイント」を各章の冒頭に新設しました。前版から改訂した箇所や改訂の経緯などについて把握する際に、ぜひご活用ください。近年の知見をタイムリーに・広範囲に反映各疾患の治療選択肢として登場したGLP-1受容体作動薬や抗アミロイド抗体治療薬に対する知見、諸々の背景を持つ患者さんへのDOAC(直接作用型経口抗凝固薬)や抗血小板薬による治療の知見、日進月歩ともいえるMT(経動脈的血行再建療法)の臨床研究成果など、近年の知見を反映した改訂を行いました。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕定価8,800円(税込)判型A4判頁数352頁発行2025年8月編集日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会ご購入はこちらご購入はこちら

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寝たきり原因第1位「脳卒中」、最新治療アクセス改善と患者支援の最前線/日本脳卒中学会・日本脳卒中医療ケア従事者連合・日本脳卒中協会

 日本脳卒中学会、日本脳卒中医療ケア従事者連合、日本脳卒中協会の主催による「脳卒中メディアフォーラム」が10月15日に開催された。杏林大学医学部脳卒中医学 教授の平野 照之氏が司会を務めた。「脳卒中・循環器病対策基本法」および「脳卒中と循環器病克服5か年計画」に基づき、(1)脳卒中医療体制の整備、(2)地域多職種連携、(3)患者・家族支援と社会への啓発活動という3つの柱に沿って、各団体の理事長から最新の取り組みが報告された。1. 医療体制の整備:地域格差を埋める「遠隔医療」が鍵 最初に、日本脳卒中学会 理事長の藤本 茂氏(自治医科大学内科学講座神経内科学部門 教授)が「脳卒中・循環器病対策基本法と脳卒中と循環器病克服5か年計画に基づく脳卒中医療の整備」をテーマに発表した。 超高齢社会を迎えた日本において、脳卒中は死因の第4位、そして重度の要介護(要介護レベル4・5)に至る原因の第1位を占めている。年間で医療費約1.8兆円、介護費約1.9兆円が費やされており、社会全体で取り組むべき喫緊の課題となっている。 脳梗塞の超急性期治療は、時間との戦いとなる。発症から数時間以内に行われる血栓溶解薬(rt-PA)の投与や、カテーテルで血栓を回収する機械的血栓回収療法は、後遺症を大きく左右する。rt-PA静注療法を24時間365日提供できる体制を整えたのが「一次脳卒中センター(PSC:Primary Stroke Center)」であり、さらに高度な血栓回収療法まで常時対応可能なのが「PSCコア施設」である。 藤本氏の報告によると、これらの認定施設は全国に広がり、救急車で60分以内にPSCへ到達できる人口の割合は99%に達した。しかし、より高度な治療が可能なPSCコア施設へ30分以内に到達できる割合は82.8%に留まり、依然として地域による医療格差が存在する。とくに地方や僻地・離島では治療の機会を逃すケースが少なくない。 この課題の解決策として注目されているのが、遠隔医療(テレストローク)だ。専門医がいない地域の病院(スポーク施設)にいる患者を、専門医がいる中核病院(ハブ施設)から情報通信機器を通じて診断・支援する仕組みである。これにより、rt-PA投与の判断・実施や、血栓回収療法のための適応判断が迅速に行えるようになる。 令和6年度の診療報酬改定でもこの遠隔連携が評価されるようになり、超急性期脳卒中加算の見直しが行われ、脳血栓回収療法連携加算(5,000点)が新設された。今後、専門医がいない地域でも再灌流療法を受けられる体制の全国的な整備が加速すると期待される。学会は、現在15.8%にとどまる再灌流療法の施行率を、まずは20%以上に引き上げることを目標に掲げている。 また、急性期医療と並行して、患者・家族への支援体制の充実も図られている。その中核を担うのが、PSCコア施設などに設置されている「脳卒中相談窓口」だ。ここでは、多職種の専門スタッフが、急性期から退院後の生活までを見据え、リハビリテーションや介護、社会福祉サービスに関する情報提供や相談支援をワンストップで行う。活動の標準化のため『脳卒中相談窓口マニュアル』も作成された1)。相談件数は年々倍増しており、患者や家族の不安に寄り添う重要な拠点として全国的に活発化している。2. 地域多職種連携:「総合支援センター」をハブに、切れ目のない支援を 続いて、日本脳卒中医療ケア従事者連合 理事長の宮本 享氏(京都大学医学部附属病院特任病院教授 脳卒中療養支援センター長・もやもや病支援センター長)が、「脳卒中・心臓病等総合支援センターをハブとした地域多職種連携」をテーマに発表した。 脳卒中患者の支援は、急性期病院を退院して終わりではない。むしろ、その後の回復期、生活期におけるリハビリや再発予防、社会復帰支援こそが重要となる。宮本氏は、これを実現するためには、医師、看護師、理学療法士、医療ソーシャルワーカー(MSW)など、多様な専門職が組織的に連携する必要があると強調した。 その司令塔となるのが、各都道府県に設置が進む「脳卒中・心臓病等総合支援センター」だ。宮本氏は、同センターが脳卒中と心臓病という2つの循環器疾患を対象とすることを説明しつつ、とくに急性期後の回復期・生活期においては、両者で必要とされる医療システムが大きく異なるため、それぞれに特化した支援体制の構築が重要であると述べた。このセンターの役割は、個々の患者を直接支援するだけでなく、地域のハブとして、どの医療機関にかかっても標準化された質の高い情報提供や相談支援が受けられる体制を構築することにある。 先進的な事例として紹介された京都府では、総合支援センターが中心となり、以下のような多職種・地域連携のネットワークを構築している。・きょうとサンナイ会:「ならない(予防)・手遅れにならない(急性期治療)・まけない(リハビリ)」をコンセプトにした患者・家族向けの情報発信の場。府内の各病院がそれぞれの「サンナイ会」を持つことで、標準化された情報をニューズレターなどの形で広範な患者・家族に届けるネットワークを形成している。・脳卒中相談窓口連携会議:府内49の急性期・回復期病院のMSWが定期的に情報交換。患者が抱える共通の課題(例:「装具難民」問題、嚥下リハビリ外来の情報不足など)を共有し、地域全体の資源マップを作成・共有することで、どの病院でも同じ情報を提供できる体制を整えている。・かかりつけ医・薬局との連携:京都府医師会や薬剤師会と協力し、「脳卒中生活期かかりつけ医・かかりつけ薬局」の登録制度を開始。かかりつけ医やかかりつけ薬局が患者に最も身近な相談窓口となり、患者が退院後も地域で安心して療養を続けられるよう整備している。 しかし、この重要な役割を担う総合支援センターの運営は、都道府県の予算に大きく依存している。専従職員の雇用や諸活動費など事業継続に必要な年間1,000万円以上の予算が確保できているのは13都道県のみという厳しい現実も報告された。持続可能な支援体制の構築には、行政による安定した財政支援が不可欠だという。3. 啓発と患者支援:当事者の「声」を社会に届ける 最後に、日本脳卒中協会 理事長 峰松 一夫氏(医誠会国際総合病院 病院長)が「脳卒中に関する啓発・患者支援活動」について発表した。 日本脳卒中協会は、市民への啓発と、患者・家族に寄り添う支援活動の両輪で脳卒中対策に取り組んでいる。啓発活動の柱は、毎年10月の「脳卒中月間」だ。今年の標語「過信より 受診で防ぐ 脳卒中」を掲げ、全国でキャンペーンを展開する2)。10月29日の「世界脳卒中デー」には、東京都庁舎をはじめ全国50以上のランドマークを脳卒中のシンボルカラーであるインディゴブルーにライトアップし、市民の関心を呼び掛ける3)。 続いて峰松氏は、脳卒中の主要な後遺症の一つである「失語症」への社会的な理解の必要性について語った。失語症は、話す・聞く・読む・書くことが困難になる症状で、その多くが脳卒中に起因する。しかし、その存在や当事者が直面する困難(契約や法的手続きでの不利益など)は十分に知られておらず、「脳卒中・循環器病対策基本法」に対策が盛り込まれたものの具体的な支援はまだ始まっていない。協会は、まずこの症状への認知度を高めることが急務であると訴えた。 患者支援では、当事者の「孤立」を防ぎ、「声」を社会に届けるための取り組みが進んでいる。脳卒中サロンは、患者や家族が互いの経験を語り合い、支え合うピアサポートの場。会員の高齢化で患者会が減少する中、急性期病院と回復期病院が連携してサロンを立ち上げるモデル事業を全国5県で展開。そのノウハウをまとめた『脳卒中サロン 設立・運営マニュアル』をウェブで公開し、全国への普及を目指している4)。 続いて、自らも脳卒中経験者である日本脳卒中協会副理事長 川勝 弘之氏が、脳卒中スピーカーズバンクの活動について語った5)。この活動は、脳卒中経験者自身が「語り部」となり、自らの体験を学校や職場で伝える活動だ。2025年現在、30人のメンバーにより構成されている。内閣府の調査では、国民の95.7%が脳卒中を「怖い」と感じる一方で、若年層の半数以上が生活習慣を「改善するつもりはない」と回答している。専門家による難しい話ではなく、「当事者のリアルな言葉」こそが、人々の行動変容を促す力を持つ。しかし、メンバーの意欲は高まるものの、市民公開講座などの講演の機会はまだまだ少なく、活動の認知度向上が課題であるという。 フォーラムの最後には、今後も3団体が連携し、脳卒中という大きな課題に対し、医療の進歩だけでは不十分であり、地域社会全体で患者を支え、予防意識を高めていくという強いメッセージが示された。

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第33回 帯状疱疹ウイルスが脳を蝕む可能性? 1億人超のデータが示す結果と「ワクチン」という希望

多くの人が子供の頃にかかる「水ぼうそう」。その原因ウイルスである水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)が、治った後も体内に静かに潜み続け、数十年後に「帯状疱疹(たいじょうほうしん)」として再活性化することはよく知られています。しかし、この身近なウイルスが、将来の認知症リスクと深く関わっているかもしれない。そんな可能性を示唆する大規模な研究結果が、権威ある医学誌Nature Medicine誌に発表されました1)。アメリカの1億人を超える医療記録を分析したこの研究は、帯状疱疹の発症やその予防ワクチンが、認知症リスクにどう影響するのかを、かつてない規模で明らかにしています。この記事では、その研究結果の内容と私たちの健康維持にどう活かせるのかを解説していきます。神経に潜むウイルス「VZV」と帯状疱疹水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV)は、ほとんどの成人が体内に持っている非常に一般的なウイルスです。初めての感染では「水ぼうそう」として発症しますが、症状が治まった後もウイルスは神経節(神経細胞が集まる場所)に潜伏し、生涯にわたって体内に存在し続けます。そして、加齢やストレス、免疫力の低下などをきっかけに、この潜んでいたウイルスが再び活性化することがあります。これが「帯状疱疹」で、体の片側に痛みを伴う水ぶくれが現れるのが特徴です。VZVは神経を好むウイルスであるため、帯状疱疹後神経痛のような長期的な痛みを引き起こすこともあります。近年、このVZVのような神経に入り込むウイルスが、認知症の発症に関与しているのではないかという証拠が集まりつつありました。VZVが脳内で炎症を引き起こしたり、アルツハイマー病の原因とされるアミロイドβのような異常タンパク質の蓄積を促したりする可能性が、実験室レベルの研究で示唆されていたのです。しかし、これが実際どれほどのリスクになるのかは、はっきりとはわかっていませんでした。1億人の記録が示す「帯状疱疹と認知症」の密接な関係今回の研究チームは、この疑問に答えるため、アメリカの巨大な電子カルテデータベースに着目しました。7,000以上の病院やクリニックから集められた、1億人以上の匿名化された個人の医療記録を、2007~23年にわたって追跡調査したのです。研究チームは、最新の機械学習技術を駆使し、年齢、性別、人種、持病、服用薬、生活習慣(喫煙など)、さらには医療機関へのアクセス頻度など、認知症リスクに影響しうる約400もの因子を厳密に調整しました。これにより、「帯状疱疹(VZVの再活性化)」という要因が、他の要因とは独立して認知症リスクにどれだけ影響するかを、高い精度で評価することを試みました。その結果、驚くべき関連性が次々と明らかになりました。まず、帯状疱疹を経験した人は、そうでない人と比べて、将来的に認知症と診断されるリスクが高いことが示されました。さらに興味深いことに、帯状疱疹を1回経験した人に比べ、2回以上繰り返した人では、認知症リスクが7〜9%も高かったのです。これは、ウイルスの再活性化による体への「負担」が大きいほど、認知症リスクも高まる可能性を示唆しています。しかし、この研究はリスクだけでなく、希望の光も示しています。帯状疱疹を予防するためのワクチンを接種した人は、接種していない人と比較して、認知症リスクが明らかに低かったのです。とくに、より効果の高い不活化ワクチン(商品名:シングリックス)を2回接種した場合では、認知症リスクが27%低減していました。とくに注目すべきは、過去に使用されていた生ワクチンの効果に関する分析です。このワクチンは帯状疱疹予防効果が時間とともに薄れることが知られていますが、研究チームがワクチン接種後15年間にわたって追跡したところ、帯状疱疹予防効果の低下と、認知症リスク低減効果の消失が、見事に相関していました。これは、「ワクチンでVZVの再活性化を抑えること」こそが、認知症リスク低減のメカニズムであることを裏付ける結果と言えます。加えて、帯状疱疹になりやすいとされる高齢者や女性においては、ワクチン接種による認知症リスクの低減効果が、全体集団よりもさらに大きい傾向が見られました。これらの結果は、さまざまな角度から帯状疱疹が認知症の進行に関わる「修正可能なリスク因子」である可能性を強く示唆しています。ただし、この研究は非常に大規模で説得力がありますが、いくつかの限界点も認識しておく必要があります。最大の点は、これが「観察研究」であるということです。つまり、「帯状疱疹の予防」と「認知症リスクの低減」の間に強い関連性を示しましたが、ワクチン接種が原因となって認知症を防いだ、という因果関係を完全に証明したわけではありません。研究チームは、考えうる他の要因の影響を統計的に最大限排除しようと試みていますが、未知の因子が影響している可能性はゼロではありません。また、電子カルテのデータに依存しているため、診断の精度や記録の網羅性にも限界があります。私たちの生活にどう活かす?この研究は、認知症予防の新たな可能性を提示するものです。認知症の原因は複雑で、遺伝や生活習慣など多くの要因が絡み合っていますが、帯状疱疹もその一つとして無視できない存在である可能性があるのです。今回の研究結果は、帯状疱疹ワクチンが認知症を「直接」予防すると断定するものではありませんが、ワクチンが帯状疱疹の発症を効果的に抑えることは明らかになっており、その結果として認知症リスクを低減する可能性が強く示唆されました。とくに日本でも現在主流となっている不活化ワクチン(シングリックス)は、高い予防効果が長期間持続すると明らかになっています。そのため、50歳以上の方は、帯状疱疹そのものの予防(さらに、厄介な神経痛の予防)という観点からも、認知症リスクを下げる観点からも、ワクチン接種について相談する価値があると言えるでしょう。また、過去に帯状疱疹を経験したことがある方は、この研究結果を踏まえ、他の認知症リスク因子(高血圧、糖尿病、喫煙、運動不足など)の管理にも、より一層注意を払うことが勧められるということなのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Polisky V, et al. Varicella-zoster virus reactivation and the risk of dementia. Nat Med. 2025 Oct 6. [Epub ahead of print]

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認知機能低下リスクを考慮した高齢者の適切な睡眠時間は

 睡眠時間は、認知機能に重要な役割を果たしており、認知機能の低下と密接に関連している。しかし、中国人を対象に睡眠時間と認知機能の関係について検討した研究は、これまで十分ではなかった。中国・北京中医薬大学のGuolin Guo氏らは、中国の中高年における睡眠時間と認知機能の関連性を評価するため、横断的研究を実施した。JMIR Human Factors誌2025年9月8日号の報告。 China Health and Retirement Longitudinal Study 2020に参加した1万5,526例のデータを用いて、エピソード記憶、思考力、総合的認知機能を含む3つの複合指標を用いて認知機能の評価を行った。また、対面インタビューにより、自己申告による夜間の睡眠時間のデータも取得した。人口統計学的、ライフスタイル、健康関連の共変量を考慮し、多重一般化線形回帰モデルを用いて調整した。 主な結果は以下のとおり。・分析対象1万5,526例のうち、女性は53.02%(8,232例)、男性は46.98%(7,294例)、平均年齢は61.5±9.27歳であった。・1晩の睡眠時間が4時間以下(β=-1.85、95%信頼区間[CI]:-2.07~-1.62)、5時間(β=-0.55、95%CI:-0.78~-0.33、p<0.001)、9時間(β=-1.78、95%CI:-2.17~-1.39)、10時間以上(β=-3.01、95%CI:-3.39~-2.63)と回答した人は、認知機能と有意な負の相関関係が認められた。・調整モデルでは、10時間以上の長時間睡眠が全般的な認知機能に対する悪影響がより顕著であり(β=-3.01、95%CI:-3.39~-2.63、p<0.001)、次いで4時間以下の極端に短い睡眠(β=-1.85、95%CI:-2.07~-1.62、p<0.001)が顕著であった。 著者らは「睡眠時間と全般的な認知機能低下の間に逆U字型の関係があることが明らかとなった。これは、睡眠時間が短い場合でも長い場合でも、認知機能を注意深くモニタリングする必要があることを示唆している。したがって、公衆衛生戦略においては、とくに文化的に特有の状況において、加齢に伴う認知リスクを軽減するために、適度な睡眠の促進を優先すべきである」と結論付けている。

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若者の片頭痛、30年間で世界的な負担が急増

 片頭痛は、10〜24歳のAYA世代の心身的健康に重大な影響を及ぼす疾患である。中国・北京中医薬大学のYanPi Li氏らは、1990〜2021年のAYA世代における片頭痛の発症率、有病率、障害調整生存年(DALY)の世界的傾向を評価し、予防および政策の指針となるエビデンスを提供するため、本研究を実施した。Frontiers in Neurology誌2025年9月1日号の報告。 過去30年間(1990〜2021年)の204の国と地域におけるAYA世代の片頭痛負担を性別、年齢、社会人口統計指数(SDI)、地域、年別に層別化した世界疾病負担(GBD)2021研究より、データを取得した。本評価では、発症率、有病率、DALYの分析を行った。 主な結果は以下のとおり。・過去30年間で、AYA世代における片頭痛の世界的負担は、絶対症例数で著しく増加していた。・発症率は23.50%、有病率は24.82%、DALYは24.94%の増加が認められた。・これらが増加しているにもかかわらず、全体の罹患率および年齢調整罹患率(ASR)は、比較的安定しており、人口増加と高齢化が主要な要因であることが示唆された。・女性および高SDI地域では、負担が一貫して高かった。しかし、増加率は男性のほうが高く、男女間の格差は徐々に縮小していた。・年齢別では、10~14歳の罹患率が最も高く(45.9%)、次いで20~24歳の有病率(39.8%)、DALY負担(39.9%)が高かった。・21地域のうち、年齢調整発生率(ASIR)は西ヨーロッパ(人口10万人当たり2,272.50人)、年齢調整有病率(ASPR:人口10万人当たり2万7,542.29人)および年齢調整DALY率(ASDR:人口10万人当たり1,011.78人)は中南米の熱帯地域が最も高かった。・国別では、ベルギーのASIR(人口10万人当たり2,758.02人)が最も高く、ブラジルではASPR(人口10万人当たり2万7,592.69人)およびASDR(人口10万人当たり1,013.43人)が最も高かった。・2035年までの予測では、ASIR、ASPR、ASDRはさらに上昇すると予測された。 著者らは「世界の片頭痛負担は急増しており、SDIの高い地域で片頭痛の負担が大きい一方、SDIの低い地域では過小診断の可能性が示唆された。10~14歳の若年層、とくに女性で発症率が高い要因として、ホルモンや社会的要因の影響が考えられる。今後、ASRの低下が予測されるものの、症例数自体は増加傾向にあり、医療アクセス、性別に応じた対策、学校主導プログラムなどの精密な介入が求められる。片頭痛ケアと予防への公平なアクセスを促進するとともに、大気汚染、長時間のスクリーンタイム、慢性的ストレス、学業のプレッシャーなど、新たなリスク要因に関する研究を推進するためにも、世界規模での緊急の取り組みが必要とされる」と結論付けている。

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たとえ少量でも飲酒は認知症リスクを高める

 どんな量であっても飲酒は認知症リスクを高める可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。予防効果がある可能性が指摘されていた少量のアルコール摂取でさえ、認知症リスクを下げる可能性は低く、リスクは摂取量に応じて増加することが示されたという。英オックスフォード大学のAnya Topiwala氏らによるこの研究結果は、「BMJ Evidence Based Medicine」に9月23日掲載された。 研究グループは、「この研究結果は、軽度の飲酒が認知症予防に効果的である可能性を示した過去の研究に疑問を投げかけるものだ。われわれの研究結果は、種類を問わず、飲酒が認知症リスクに有害な影響を及ぼすことを裏付けており、これまで示唆されていた適度な飲酒の予防効果を裏付けるエビデンスは認められなかった」と述べている。 この研究では、米国(US Million Veteran Programme)と英国(UKバイオバンク)で行われた2つの大規模研究に参加した総計55万9,559人(試験開始時の年齢56〜72歳)のデータを用いて、飲酒と認知症との関連が検討された。平均追跡期間は、米国コホートで4年、英国コホートで12年であった。 追跡期間中に1万4,540人が認知症を発症し、4万8,034人が死亡していた。まず、対象者のアルコール摂取量と認知症との関連を見たところ、U字型の関連が認められた。具体的には、アルコールを摂取しない人、大量摂取者(1杯=エタノール約14gとした場合、週40杯以上)、およびアルコール使用障害のある人は、軽度摂取者と比べて認知症リスクが有意に高く、大量摂取者ではリスクが41%、アルコール使用障害のある人では51%、それぞれ増加していた。 しかし、対象者の認知症とアルコール摂取に関する遺伝的リスクを考慮すると、アルコール摂取量に関係なく、摂取量が増えるにつれてリスクは着実に上昇することが示された。具体的には、対数変換した1週間当たりのアルコール摂取量が1標準偏差増えるごとに、認知症リスクは15%増加し、遺伝的にアルコール使用障害になるリスクが2倍の人では認知症リスクは16%増加していた。 研究グループは、「アルコール使用障害の人口罹患率を半減させることで、認知症の症例を最大16%減らすことができる可能性がある。この結果は、認知症予防政策においてアルコール摂取量の削減が戦略となり得ることを明示している」と記している。 さらに、認知症を発症した人では、診断前の数年間はアルコール摂取量が少なかったことも明らかになった。このことから研究グループは、過去の研究では、適度な飲酒に認知症の予防効果があることが示唆されていたが、実際には、早期の脳機能低下がアルコール摂取量の減少につながっていたのであり、観察された効果は因果の逆転に陥っていた可能性が高いとの見方を示している。 こうしたことを踏まえて研究グループは、「本研究で観察された認知症診断前のアルコール摂取量の減少パターンは、特に高齢者集団において、観察データから因果関係を推測することの複雑さを強調している」と記している。この研究結果は、アルコール摂取と認知症に関する研究では逆因果関係と残余交絡を考慮することの重要性を浮き彫りにしており、アルコール摂取量を減らすことが認知症予防の重要な戦略となる可能性があることを示唆している」と結論付けている。

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