加齢に伴う難聴は、認知症の修正可能なリスク因子の1つとされるが、脳構造の変化や遺伝的背景との相互作用については不明な点が多かった。米国・テキサス大学サンアントニオ校のFrancis B. Kolo氏らの研究によると、中年期以降の軽微ないし軽度の難聴であっても、脳容積の減少、白質高信号量の増加、認知症発症リスクの上昇と有意に関連していることが明らかになった。とくにアルツハイマー病のリスク遺伝子であるAPOE ε4アレル保有者において、正常聴力者よりも、軽微以上の難聴者のほうが、認知症発症リスクが約3倍も高いことが示された。JAMA Network Open誌2025年11月5日号に掲載。
本研究では、Framingham Offspring Study参加者を対象に、第6回検査(1995~98年)で実施された純音聴力検査のデータをベースラインとして解析を行った。解析は目的に応じて以下の2つの重複するサンプルを用いて行われた。
・サンプル1(脳構造・認知機能解析群):1,656例(平均年齢58.1歳[範囲 29.7~85.6])。聴力検査後の第7~8回検査でMRIおよび神経心理学的検査を実施し、脳の構造的変化と認知機能の推移を評価した。
・サンプル2(認知症発症リスク解析群):935例(平均年齢67.6歳[60.0~85.6])。聴力検査時点で60歳以上の参加者を対象に、最長15年間にわたる認知症発症の有無を追跡した。
難聴の定義は、良聴耳の平均聴力レベルに基づき、正常(0~16dB)、軽微(16~26dB)、軽度(26~40dB)、中等度以上(>40dB)とした。
主な結果は以下のとおり。
【サンプル1の解析結果】
・軽度以上の難聴がある群は、正常~軽微の難聴がある群と比較して、全脳容積が有意に小さく(β:-4.10[標準誤差[SE] 1.76]、p=0.02)、遂行機能も低下していた(β:-0.04[SE 0.01]、p=0.009)。
・軽微以上の難聴がある群では、正常聴力群と比較して、白質高信号量の増加が有意に高かった(β:0.03[SE 0.01]、p=0.03)。
【サンプル2の解析結果】
・15年間の追跡期間中に118例(12.7%)が認知症を発症した。軽微以上の難聴がある群は、正常聴力群と比較して、認知症の発症リスクが高かった(ハザード比[HR]:1.71、95%信頼区間[CI]:1.01~2.90、p=0.045)。
・APOE ε4アレルを1つ以上保有する人における解析では、軽微以上の難聴がある群は、正常聴力群と比較して、認知症発症リスクが高かった(HR:2.86、95%CI:1.12~7.28、p=0.03)。一方、APOE ε4非保有者では、難聴による有意なリスク上昇は認められなかった。
・軽微以上の難聴がある人において、補聴器を使用していない群では、正常聴力群と比較して、認知症リスクが有意に高かった(HR:1.72、95%CI:1.02~2.91、p=0.043)。補聴器を使用している群ではリスクの有意な上昇は認められなかった。とくにAPOE ε4保有者において、補聴器を使用していない群では、正常聴力群と比較して、認知症リスクの有意な上昇が認められた(HR:2.82、95%CI:1.11~7.16、p=0.03)。
本研究により、中年期以降の難聴は、たとえ軽度であっても脳容積の減少および認知症リスクと関連していることが示された。とくにAPOE ε4保有者においてその影響が大きいことから、著者らは、遺伝的リスクの高い集団に対する早期の聴覚スクリーニングと、補聴器による介入が認知症予防戦略として重要であると結論付けている。
(ケアネット 古賀 公子)