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降圧薬による認知症リスクの低下、ARB vs.Ca拮抗薬~日本人大規模データ

 降圧薬の「種類」の違いが、血圧低下とは独立して認知症リスクに影響するかについては、十分に明らかになっていなかった。今回、統計数理研究所/総合研究大学院大学の野間 久史氏らが実施した65歳以上を対象とした標的試験エミュレーションの結果、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の新規開始はカルシウム拮抗薬(CCB)の新規開始に比べて、認知症、とくに血管性認知症のリスクが低いことが示された。Alzheimer’s & Dementia誌2026年8月号に掲載。 本研究では、19自治体の医療・健診情報を統合した約505万人の大規模医療データベースであるLIFE Studyの2014年4月~2024年9月のデータから、新規にARBまたはCCBによる高血圧治療を開始した65歳以上の認知症ではない成人を対象に、標的試験エミュレーションによりARB開始群とCCB開始群の認知症リスクを比較した。打ち切りや競合する死亡イベントを考慮し、重み付け離散時間ハザードモデルを用いてintention-to-treatおよびper-protocol効果を推定した。 主な結果は以下のとおり。・最終的に5万2,019例(ARB群1万7,860例、CCB群3万4,159例)が解析対象となり、追跡期間中央値3.6年の間に3,524件の新規認知症が確認された。・達成された血圧レベルが同等であったにもかかわらず、ARB群はCCB群と比較して認知症全体の発症リスクが低かった(ハザード比[HR]:0.916、95%信頼区間[CI]:0.852~0.985)。・血管性認知症(129イベント)では、ARB群でより大きなリスク低下が認められた(HR:0.617、95%CI:0.409~0.930)。・アルツハイマー病(2,231イベント)では、ARB群で低い傾向は認められたものの、統計学的に有意ではなかった(HR:0.930、95%CI:0.849~1.018)。・5年後の認知症累積発症率は、ARB群が8.0%、CCB群が8.8%であった。・治療中の収縮期血圧および拡張期血圧は両群でほぼ同等であった。 著者らは、「これらの結果は、ARB群で認められた認知症リスクの低下が、より血圧が下がったことだけでは説明しにくいことを示している。とくに血管性認知症で強い関連がみられたことから、ARBが脳血管の老化、微小血管障害、血管内皮障害などに影響する可能性が考えられる」と考察している。

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過去30年における認知症診療と介護の変遷【温故知新30年】

講師紹介30年前は治療薬もなく、認知症診療「夜明け前」の時代認知症の臨床と介護の近代史を振り返る。30年前とは1996年だが、これ以前のわが国の歴史的な認知症観は、新村 拓著『痴呆老人の歴史―揺れる老いのかたち』1)に詳しい。さて1999年に国内発売されたドネペジル(商品名:アリセプト)はわが国で最初のアルツハイマー病治療薬である。それまでは素手で認知症と戦っている状況だった多くの医師にとって、本剤発売は大きなトピックであった。というのは、認知症医学はともかく、治療薬のない医療現場は患者・医師にとって「夜明け前」だったからだ。これは高齢化の進行・認知症者の増加が社会問題になってからも長く続いたのである。もっとも、すでに社会的には芽生えがあった。嚆矢となるのは、1972年有吉 佐和子氏による『恍惚の人』2)の出版だろう。これが認知症の実態を初めてわが国に広めた。また「認知症の人と家族の会」(旧:呆け老人をかかえる家族の会;1980年発足)という今日に続く自助組織が生まれた。一方わが国における医学・医療上の端緒は、1986年に発足した老年精神医学研究会だろう。これは1988年に日本老年精神医学会に改組した。そして後に日本認知症学会も生まれる。上記の「夜明け前」のころは、日本の家族制度の名残で家族介護が当然とみなされ、さほど長くなかった平均寿命により認知症者は少なかった。そのため、認知症への世間的な注目は少なかった。また国家財政的には、北欧の福祉国家に比べて、家族介護による認知症者の支えは「日本の隠し財産」という声もあった。2000年介護保険制度施行、2004年「痴呆」から「認知症」へ2000年になると、高齢者の介護を社会全体で支えることを目的に介護保険制度が施行された。また同じ年に判断能力が不十分な高齢者を法的に支援する制度である成年後見制度も発足した。そもそも、認知症者は自分では介護保険の申請・契約はできない。そこでこの制度を用いれば、判断能力が低下し、契約能力に問題があっても必要な介護サービスを受けられるのである。それだけによく両制度は両輪だとされる。筆者の亡き母は、晩年、認知症にかかり、要介護5まで悪化した末に窒息死したが、終末の5年間は介護保険によるデイサービス、特別養護老人ホームと典型的なコースを歩んだ。それだけに母の葬儀の時に、「介護保険制度がなかったら、うちは一家離散だったよ」と振り返ったほど、たっぷりと介護保険サービスのお世話になった。さて「痴呆」という病名は東京帝国大学医科大学精神科教授を務めた呉 秀三氏が明治時代にドイツ語Demenzの訳語として「痴呆」を採用したことに由来する。とくに「痴」という字は知(知能)にやまいだれを付けた字で、知能・知性の病を意味する。行政や医療の場で使われていたこの「痴呆」という病名が、2004年12月に「認知症」という新呼称に改まった。この背景には、「認知症の人と家族の会」などの当事者団体が、「痴呆」の「痴」にも「呆」という漢字にも「ばか」「おろか」という意味があり、人の尊厳を傷つけ偏見を生むとして、呼称の変更を強く要望していたことがあった。実は類似の先行例があり、日本精神神経学会は「精神分裂病」の病名を、2002年8月に「統合失調症」へ変更している。旧病名は「精神が分裂する病気」と誤解されやすく、人格否定的で患者や家族に心理的負担を与えるとして、より適切な表現への変更が患者サイドから求められていたのである。改めて、医療の原点は当事者にあると思う。2012年→2022年、認知症・MCI者数の変化と日本特有の背景因子何の病気であれ、疫学知見、とくに患者数の把握は医療行政の基本になる。高齢化世界一といわれるわが国には全国規模の認知症患者数調査は久しくなかった。2012年、初の全国調査により、認知症者数が462万人、その前駆状態(MCI)者が400万人と発表された。そして2022年には第2回の全国調査の報告がなされた。それによれば、高齢者の総数は増えているのに認知症者の総数は10年前よりも多少減少していた。ところが、MCI者については1.4倍と大きな増加を認めていたのである(参考図)。世界的にも近年、認知症は減っているという報告はある。そしてその背景として、予防法の啓発や危険因子となる生活習慣病のコントロール法の普及などが指摘されることもある。画像を拡大するこうした意見にも説得力があるが、筆者は日本の場合、対象となる人口集団の相違が大きいと思う。というのは、第2回調査では、第1回調査で対象に含まれていなかった第2次世界大戦後のベビーブーマーまたは団塊の世代と呼ばれる年代の人々の割合が高いのである。この大きなグループをなす人々は、調査当時まだ比較的若かったため、認知症には至らずMCIレベルにとどまっていたのだろう。一方、第1回調査で認知症であった人の平均年齢は80歳以上であったから、10年後にはすでに多くが死亡していた可能性がある。こうしたことが、認知症者の数は減り、MCI者が増えた1つの理由ではないかと考える。2024年に施行された「認知症基本法」の正式名称は「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」という。この法律は、認知症の方が尊厳を保ちつつ、希望をもって自分らしく暮らせる「共生社会」の実現を目指して制定された。この「共生社会」の説明は、なんとなくしっくりこない。むしろ、認知症の人と家族の会が以前から提唱してきた「呆けても普通に生きられる社会」のほうが筆者にはスッキリする。本法には、3つの大きな意義があるとされる。「共生社会」の実現を国の義務としたこと、つまり認知症になってもこれまでどおり地域や社会で共に暮らす(共生する)ための環境づくりを国や自治体に義務付けた。本人の「意思決定」と「社会参加」を重視し、認知症になっても本人の意思が尊重され、希望する生活が続けられるよう、バリアフリー化や権利保護を推進している。さらに家族への支援として、本人だけでなく、支える家族が孤立しないための相談体制やケアの充実も盛り込まれている。この3つの意義を読んで改めて感心した。というのは、昔なら認知症介護は私事だったが、それを国が自らに義務付けているからである。もし筆者が江戸時代に、「母が呆けて在宅介護に苦労しています。お上からのお助けをお願いしたい」と申し出たらどうなっただろう。「親の恩を忘れて母への忠孝に努めようとしないうえに、私事の助けをお上に求めるとはなんたる不届きもの」となっても不思議ではない。抗Aβ抗体薬の登場と、今後の治療薬開発最後は、新たなアルツハイマー病治療薬の抗Aβ抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)である。その効果は、症状を30%弱低減し、6~7ヵ月ほど症状の進展を止める。最大の副作用は、ARIAと呼ばれる脳血管の出血や血管周囲の浮腫である。以上の概要は残念ながら、多くの人が期待していたような根本治療薬の域には届いていない。最近の発売までこうした薬を指す用語は、米国食品医薬品局(FDA)がいう疾患修飾薬(Disease Modifying Drug:DMD)であった。ところが発売後は、こうした薬剤は抗Aβ抗体薬と呼ばれている。DMDとは病気がもつ本来の進行を変える力をもつ薬という意味であった。その域には届かず、むしろ薬の作用機序を示す抗Aβ抗体薬という用語のほうが適切と考えられたのかもしれない。実際の使い方では、ドネペジルなどの従来薬にこうした新薬の併用が一般的である。つまり前者は弱った脳に鞭をいれて活性化するもので、後者は進行に歯止めをかけようとするものである。終わりに現在、新薬の開発において、伝統的なアミロイドやタウから、シナプス変性や脳内の慢性炎症などに注目が移りつつある。こうした動きは病気の原因を叩くだけでなく、より現実的に、病勢を阻み、症状を軽減する方向に向かっていると思われる。1)新村 拓. 痴呆老人の歴史―揺れる老いのかたち. 法政大学出版局;2002.2)有吉 佐和子. 恍惚の人. 新潮社;1972.

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食事のタイミングと日本人の認知症リスクとの関係~LIFE研究

 食事のタイミングと認知症についてのエビデンスは限られている。九州大学の川口 健悟氏らは、深夜の夕食および朝食抜きと、認知症の発症との関連を検討した。GeroScience誌オンライン版2026年7月28日号の報告。 本研究には、2016年4月~2021年3月の19自治体におけるレセプトデータを含むLIFE研究(Longevity Improvement & Fair Evidence Study)のデータが用いられた。深夜の夕食(就寝前2時間以内の夕食を週3回以上)および朝食抜き(週3回以上)については、健康診断時に評価し、「あり」または「なし」として解析した。すべての原因による認知症の発症は、ICD-10のコードを用いてレセプトデータから特定した。関連性の推定には、死亡を打ち切りとして扱う原因別Cox比例ハザードモデルを用い、ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)を算出した。その際、ベースライン時の人口統計学的因子、生活習慣、併存疾患について事前に規定した調整を行った。 主な結果は以下のとおり。・対象者28万3,166例(平均年齢:72.8±5.5歳、女性の割合:58.5%)のうち、深夜の夕食は3万6,609例(12.9%)、朝食抜きは1万7,727例(6.3%)で報告された。・フォローアップ期間中、認知症の発症は1万8,056例、死亡は1万6,390例であった。・深夜の夕食(HR:1.17、95%CI:1.12~1.20)および朝食抜き(HR:1.13、95%CI:1.06~1.20)のいずれも、すべての原因による認知症の発症リスク上昇と関連していた。 著者らは「日本人高齢者を対象とした大規模コホートにおいて、深夜の夕食および朝食抜きは、すべての原因による認知症の発症リスク上昇と関連していた。通常の健康診断で食事のタイミングを評価することは、認知症予防戦略において重要な意味を持つ可能性がある。しかし、これらの因果関係の特定には、さらなる研究が求められる」としている。

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第334回 メトホルミン使用と認知症リスク低下が無作為化試験の長期追跡で関連

無作為化試験の被験者の22~24年間の追跡で、メトホルミン使用と認知症リスク低下が関連しました1,2)。1950年代の終わりごろに2型糖尿病(T2D)治療に使われるようになったメトホルミンはいまだにその第1選択薬の座にあり、2022年の調べでは世界のおよそ1億5千万例が日々メトホルミンを服用しています3)。メトホルミンの認知機能への影響は一貫していません。英国のプライマリケア診療記録を調べた2012年の報告では、メトホルミンの長期使用とアルツハイマー病リスク上昇の関連が示されています4)。オーストラリアでの試験ではメトホルミン使用と認知障害が関連しました5)。逆に、英国のT2D患者21万例ほどを調べた試験では、メトホルミン使用と認知症リスク低下が関連しました6)。また、12の観察試験のメタ解析では、メトホルミン長期使用とアルツハイマー病を含む神経変性疾患リスク低下の関連が認められています7)。小規模で短期間ではあるものの、2つの無作為化試験でメトホルミン使用と認知機能指標の改善も示されています8,9)。米国・ニューヨーク市のコロンビア大学のJose Luchsinger氏らは、より確かな裏付けを得るべく、1990年代後半に3千例超(3,234例)を募ったDiabetes Prevention Program(DPP)試験とその後継試験の合計20年を超える追跡結果を使って、メトホルミンが果たして認知症リスクを下げるかどうかの検討を試みました。DPP試験には血糖値が高めでT2Dを生じる恐れが大きい25歳以上の成人が参加し、メトホルミン、プラセボ、低カロリー/低脂肪食や定期的な運動を実行する強力な生活習慣介入(intensive lifestyle intervention:ILS)のいずれかの群に割り振られました。2002年にNEJM誌に掲載された解析でメトホルミンやILSのT2D予防効果が裏付けられ、試験の本来の目的を達成しました10)。DPP試験の被験者の9割近い2,779例は同試験に続くDPP Outcomes Study(DPPOS)に参加し、全員がILSを受けました。また、DPP試験でメトホルミンに割り振られた被験者は、DPPOS試験でメトホルミン使用を2021年まで続けることができました。その翌年以降の2022~24年に認知機能が十分に検討できた被験者1,483例(年齢中央値:74歳)を解析したところ、メトホルミン使用患者の認知症の発生率がプラセボやILSに割り振られた患者に比べて6割ほど低いことが示されました。メトホルミン、プラセボ、ILS群の認知症の発生率はそれぞれ1.9%、3.5%、4.2%でした。認知機能異常の割合が低かったことを試験の難点として著者が言及しているとおり、解析対象の1,483例のうち認知症になったのはわずか48例(3.2%)のみでした。そういう欠点があるとはいえ数十年もの患者追跡は希少で貴重であり、今回の結果はメトホルミンの予防効果を一層裏付けたとKarolinska Instituteの認知症研究者Miia Kivipelto氏は述べています2)。今やLuchsinger氏は最も一般的な認知症のアルツハイマー病をメトホルミンで防げるかどうかを18ヵ月間の無作為化試験で調べています。試験はMetformin in Alzheimer's Dementia Prevention(MAP)と呼ばれ、糖尿病ではない健忘型軽度認知障害(aMCI)患者326例が組み入れられています11)。Luchsinger氏は本年中の結果報告を目指しています2)。Kivipelto氏は生活習慣介入単独やそれに加えてメトホルミンも服用することで認知症を減らせるかどうかを調べる無作為化試験を率いています。MET-FINGER12)と呼ばれるその試験の結果は再来年2028年に判明する見込みです2)。参考1)Wander PL, et al. medRxiv. 2026 Aug 7. [Epub ahead of print]2)Diabetes drug metformin may halve the risk of dementia / NewScientist3)Triggle CR, et al. Metabolism. 2022;133:155223.4)Imfeld P, et al. J Am Geriatr Soc. 2012;60:916-921.5)Moore EM, et al. Diabetes Care. 2013;36:2981-2987.6)Zheng B, et al. Alzheimers Dement. 2023;19:5681-5689.7)Zhang Y, et al. Diabet Med. 2022;39:e14821.8)Luchsinger JA, et al. J Alzheimers Dis. 2016;51:501-514.9)Koenig AM, et al. Alzheimer Dis Assoc Disord. 2017;31:107-113.10)Knowler WC, et al. N Engl J Med. 2002;346:393-403.11)Metformin in Alzheimer's Dementia Prevention (MAP) / ClinicalTrials.gov12)MET-FINGER study / Imperial

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レカネマブ、実臨床でも安全性は臨床試験とおおむね一致

 Sally Osmerさんは、最先端のアルツハイマー病治療薬レカネマブ(商品名:レケンビ)による治療を受ける機会があることを知り、迷わず受け入れた。Osmerさんはアルツハイマー病の家族歴があり、74歳のときに早期アルツハイマー病と診断された。診断当初、彼女は特に症状を自覚していなかったが、画像検査と遺伝子検査から診断が確定したという。Osmerさんは、「アルツハイマー病と診断されたときは、とてもショックを受けた。体は健康なのに脳はゆっくりと衰えていくと考えると、とても怖い。ただ、早期に発見できたのは幸運だったし、治療を開始できたことも嬉しく思っている」と話している。 実臨床でレカネマブによる治療を受けた患者を追跡した新たな研究で、同薬の使用によるアミロイド関連画像異常(amyloid-related imaging abnormalities;ARIA)の発生時期や発生頻度、有害事象の発生頻度は臨床試験とおおむね同様で、ARIAの有無による認知機能の変化にも有意差は認められなかったことが示された。Osmerさんも、そうした患者の1人である。専門家の間では、レカネマブによる治療に伴い、脳の腫れや出血を引き起こすのではないかと懸念する声もあった。研究グループは、「今回の実臨床で得られた結果から、この薬の安全性と有効性は臨床試験の結果とほぼ一致することが示された」と結論付けている。米デューク大学医学部神経学・病理学分野のAndrew Liu氏らによるこの研究結果は、8月7日付で「Neurology Open Access」に掲載された。 レカネマブの実臨床での使用が進み、その経験も複数報告されているが、ARIAの発生時期や重症度、患者背景による発生リスク、認知機能への影響などについては十分に明らかになっていない。Liu氏らは今回、2023年5月から2025年6月にかけてデューク大学でレカネマブによる治療を受けた患者のデータを後ろ向きに解析し、ARIAの発生とその経過、重篤な有害事象および死亡の発生状況を調べるとともに、認知機能への影響とその発生予測因子についても評価した。対象患者は230人(平均年齢73.6歳、女性50.9%)で、このうち68%は軽度認知障害(MCI)であり、67.4%はアポリポタンパク質E ε4アレル(APOE ε4)の保有者だった。 追跡期間の平均は396日で、その間に49人(21%)が治療を中止した。また、56人(24.3%)にARIAが認められた。ARIA-E(浮腫/滲出液貯留)とARIA-MH(微小出血)は治療開始の約10週後に発生のピークがあり、また中等度から重度のARIAは治療開始の12〜24週後に認められた。臨床的に重要な有害事象は72人(31.3%)に発生し、5人が死亡した。このうち2人の死亡はARIAに関連していた。12カ月間の認知機能の変化は、ARIAあり群となし群の間で有意差はなかったが、対象者全体で、MoCA(モントリオール認知評価)スコアは1カ月当たり0.107点低下していた。ARIA-Eの発生リスクは、APOE ε4非保有者と比べてAPOE ε4保有者で高く、特にε4を2コピー持つ患者ではオッズ比が4.81(P=0.014)に達した。また、男性でもリスクが高い傾向が見られたが、統計学的に有意ではなかった(オッズ比2.40、P=0.075)。 Osmerさんはレカネマブによる治療を1年以上受けているが、重篤な副作用は経験していない。Osmerさんは、「今の生活や将来について多くの不安を抱えてきたが、レカネマブによる治療を受けていることで、間違いなく希望を感じられるようになった。これまでアルツハイマー病について想定されていたよりも良い未来が待っているのではないかと思える」と話し、治療により日々の生活に大きな安心感を得ていることを報告している。 Liu氏は、「われわれが明らかにしたのは、実臨床においても、患者を慎重に選び、綿密にモニタリングすれば、約80%の患者が少なくとも1年間はレカネマブによる治療を継続できるということだ。重要なのは、治療に関連する副作用の大半は時間の経過とともに改善し、追加の薬剤投与や入院を必要としないことである」とニュースリリースで述べている。研究グループは現在、ARIAに関連する脳画像上のわずかな変化をより早期にかつ一貫して検出することを目的としたAI画像解析ツールの開発に取り組んでいる。

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スタチンとARBの併用で認知症リスクは低下するのか

 高血圧と脂質異常症は、認知症の修正可能な危険因子であり、スタチンと降圧薬の併用は保護的な効果をもたらす可能性がある。しかし、特定の薬剤の組み合わせに関するエビデンスは依然として限られている。オーストラリア・タスマニア大学のEyayaw Ashete Belachew氏らは、アンジオテンシンII(Ang-II)産生を増加させる降圧薬(Ang-II産生促進薬)とスタチンの併用と、Ang-II産生を減少させる降圧薬(Ang-II産生抑制薬)とスタチンの併用を、認知症リスクとの関連について比較検討した。International Journal of Geriatric Psychiatry誌2026年8月号の報告。 オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の大規模な地域住民コホートである45 and Up Studyのデータを用いて、プロスペクティブに検討を行った。対象は、高血圧および脂質異常症を有し、スタチンと降圧薬を併用している45歳以上の患者であった。対象患者を、スタチンとAng-II産生促進薬(アンジオテンシンII受容体拮抗薬[ARB]、サイアザイド系利尿薬、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬[DHP-CCB])の併用群と、スタチンとAng-II産生抑制薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬[ACEI]、β遮断薬[BB]、非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬[非DHP-CCB])の併用群に分類した。薬剤への曝露は、服薬期間割合(PDC、80%以上)に基づき判定した。1対1の傾向スコアマッチングを用いて、両群のベースライン特性をマッチングさせた。食事、身体活動、併存疾患、併用薬で調整したハザード比(HR)を推定するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・マッチングを行った3万4,610例(各群1万7,305例、平均年齢65.8±8.8歳、平均フォローアップ期間12.4±5.1年)を対象とした解析において、スタチンとAng-II産生促進薬の併用群は、スタチンとAng-II産生抑制薬の併用群と比較し、認知症リスクの12%低下(HR:0.88、95%信頼区間[CI]:0.79~0.98)および全死亡リスクの13%低下(HR:0.87、95%CI:0.82~0.93)との関連が認められた。・ロスバスタチンまたはアトルバスタチンとAng-II産生促進薬の併用は、シンバスタチンとAng-II産生促進薬の併用と比較し、より大きな有益性を示した(各々、HR:0.43[95%CI:0.36~0.50]、HR:0.74[95%CI:0.64~0.84])。・これらの効果は男女ともに一貫して認められた。しかし、保護的な関連は65~74歳の年齢層でのみ観察された。また、ARBを含む併用療法は、ACEIを含む併用療法と比較し、より優れた有益性を示した。・死亡を競合リスクとして考慮したモデルを含む感度分析においても、これらの結果は頑健であった。 著者らは「スタチンとAng-II産生促進薬の併用は、認知症リスクの低下と関連していた。とくに、ロスバスタチンまたはアトルバスタチンとARBの併用で、より大きな有益性が確認された。このことは、認知機能への有益性が治療選択の判断材料となりうることを示唆している。今後は、ランダム化比較試験によってこれらの知見を検証し、その根底にあるメカニズムを解明する必要がある」としている。

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湿布と間違えた!何の中毒?【中毒診療の初期対応】第11回

<今回の症例>年齢・性別89歳・女性患者情報アルツハイマー型認知症および高血圧にて、精神科クリニックで1日あたりリバスチグミン貼付薬18mgおよびアムロジピン5mgを処方されていた。救急搬送2日前に腰痛を訴えたため、長女と整形外科クリニックを受診しケトプロフェンテープ40mg 10袋(7枚入り)、およびアセトアミノフェンが600mg分2(28日分)で処方されていた。搬送当日の16時頃、長女が買い物から帰宅すると、意識が朦朧とし嘔吐を繰り返していたため、救急要請された。初診時(17時)は気道開通、呼吸数20回/分、SpO2 96%(室内気)、血圧166/94mmHg、心拍数128bpm、意識レベルJCS20、瞳孔左右1.5mm同大、対光反射±、体温36.6℃であった。傾眠状態で、嘔吐を繰り返し、発汗著明、便失禁を認めた。腹部の聴診では腸蠕動音の亢進を認めた。検査値・画像所見末梢血では、WBC 12.40×103/mm3、Hb 12.8g/dL、Ht 36.6%、Plt 124×103/mm3、生化学検査では、TP 7.3g/dL、AST(GOT)16IU/L、ALT(GPT)14IU/L、LDH 146IU/L、CPK 68IU/L、AMY 242IU/L、Glu 124mg/dL、BUN 11mg/dL、Cr 0.7mg/dL、Na 140mEq/L、K 4.0mEq/L、Cl 102mEq/L、血清コリンエステラーゼ(ChE)52IU/L、動脈血ガス(室内気)では、pH 7.382、PaCO2 40.2Torr、PaO2 78.3Torr、HCO3- 22.4mmol/L、BE -1.2mmol/L、乳酸値2.0mmol/Lであった。頭部CTでは中等度の脳萎縮を認めた。心電図では洞性頻脈を認めた。<問題1><解答・解説はこちら>1. リバスチグミン臨床症状および血清ChE値の低下によりリバスチグミン中毒を疑って全身検索したところ、腰部にリバスチグミン貼付薬18mgが計12枚貼られていた。直ちにすべてを除去し、輸液療法のみで経過観察した。翌日の9時には気道開通、呼吸数14回/分、SpO2 96%(室内気)、血圧146/82mmHg、心拍数72bpm、意識レベルJCS 0、瞳孔左右3.5mm同大、対光反射+、体温36.2℃となり、下痢、嘔吐、発汗も消失した。薬は長女が管理していたが、長女の留守中に腰痛がひどくなり、リバスチグミン貼付薬を見つけて、誤って大量に貼付したと推測された。長女に薬の管理を徹底するように促して第3病日に軽快退院となった。神経終末より遊離したアセチルコリン(ACh)はアセチルコリンエステラーゼ(AChE)によってコリンと酢酸に分解される。リバスチグミンなどのカーバメートはAChEの活性部位を構成しているセリンの水酸基にカルバミル基を結合させてカルバモイル化することによってAChEを失活させる。ただし、この反応は可逆的で、しばらくすると自然に加水分解されて、カルバミル基がとれて脱カルバモイル化されるので、アセチルコリンエステラーゼの活性は、数分から長くても6時間で自然回復する。AChEが失活すると、自律神経系、神経・筋接合部、中枢神経系の神経終末でAChが蓄積してムスカリン性およびニコチン性ACh受容体が過剰刺激されて、ムスカリン様症状、ニコチン様症状、および中枢神経症状が生じる。これらは急性コリン作動性症候群(Acute cholinergic syndrome)と呼ばれている(図1)。(図1)急性コリン作動性症候群画像を拡大するただし、非可逆的にAChEを失活させる有機リンに比べて、重症度は低く、症状の持続時間は短い。また、カーバメートはAChEのみならずChEの活性も低下させるが、血清ChE値は有機リンのように著明に低下せず、低下または正常範囲である(表1)。(表1)有機リン中毒とカーバメート中毒画像を拡大する解毒薬・拮抗薬として、アトロピン硫酸塩がある。これはムスカリン受容体拮抗薬であるので、ムスカリン様症状にのみ有効である。気管支分泌物の増加や気管支攣縮による喘鳴を認めれば重症度に応じてアトロピン硫酸塩2~4mg(小児では0.05~0.10mg/kg)をボーラスで静注する。その後は気管支分泌物量や喘鳴が改善するまで15分ごとに繰り返し投与する。有機リン中毒に比べて、カーバメート中毒に要するアトロピンの総投与量は少ない(表1)。なお、第4回で取り上げた有機リンのうち、基本構造P=S結合のあるものは、肝臓で代謝されてP=O結合となりAChEと反応するため、毒性の発現は遅延する。しかし、カーバメートは代謝産物ではなく、そのものがAChE阻害作用を持つので毒性の発現は速い。本症例では、縮瞳、下痢、嘔吐、発汗、腸蠕動音亢進といったムスカリン様症状、頻脈、高血圧といったニコチン様症状、傾眠といった中枢神経症状を認めた。一方で、気管支分泌物の増加や気管支攣縮による喘鳴はみられなかったため、アトロピン硫酸塩を使用せずに輸液療法のみで経過観察し、翌日には中毒症状は消失した。リバスチグミン中毒の過去の症例報告でも、頻脈および高血圧といったニコチン様症状はよく見られている。 1) 上條 吉人編. 臨床中毒学 第2版. 医学書院. 2023.

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アルツハイマー病と強く関連したのは、高血圧より低血圧?

 アルツハイマー病(AD)と関連する心血管疾患(CVD)のサブタイプが特定され、最も強く一貫した関連が見られたのは低血圧であったという研究結果が、「Journal of the American Heart Association(JAHA)」6月16日号に掲載された。 米ミシガン工科大学のAili Toyli氏らは、UKバイオバンク(対象者50万2,133人)とAll of Us研究プログラム(対象者28万7,011人)という2つの大規模なバイオバンクにおいて、ADと11種類のCVDサブタイプとの関連を検討した。 解析の結果、両コホートにおいて、ほとんどのCVDサブタイプがADと有意に関連していた。最も強く一貫した関連が見られたのは低血圧であったが、低血圧はAD研究において比較的検討が進んでいないCVDサブタイプである。ADと高血圧、ADと脳梗塞との強い関連も一貫して認められた。一方、急性心筋梗塞とADとの間には有意な関連は見られなかった。遺伝学的解析では、特にAPOE、MAPT、心筋構造および血管機能に影響を及ぼす遺伝子の近傍領域において、AD関連形質とCVD関連形質との間に共通の遺伝子座が見られた。 Toyli氏は、「高血圧と比べ、低血圧は全体的に注目されておらず、そのためデータや研究上の関心も少ないと考えられる。ADとCVDとの関連の背後にある可能性のある生物学的機序を理解するためには、詳細な研究が必要である。両者を結びつける特定の経路が明らかになれば、ADが発症する前に介入し、そのつながりを断つことができる可能性がある」と述べている。

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日本人片頭痛患者の特徴と治療パターンが判明~OVERCOME研究

 片頭痛が個人の生活に及ぼす負担は、その人の背景と関連している。しかし、日本においては、年齢、性別、就労状況、収入、家族の介護といった要因と患者報告アウトカム(PRO)や片頭痛の治療パターンとの関連に関するエビデンスは限られている。大分・おおば脳神経外科・頭痛クリニックの大場 さとみ氏らは、日本における片頭痛の疫学・治療・ケアに関する観察研究であるOVERCOME(Japan)第2回研究のデータを用い、人口統計学的サブグループごとの片頭痛による負担および治療薬の使用状況について解析を行った。Pain and Therapy誌オンライン版2026年7月14日号の報告。 研究参加者は、自身の人口統計学的・臨床的特性に加え、Headache Impact Test-6(HIT-6)、片頭痛障害評価尺度(MIDAS)、Migraine-Specific Quality of Life Questionnaire version 2.1(MSQ v2.1)、片頭痛発作間欠期負担スケール(MIBS-4)、Impact of Migraine on Partners and Adolescent Children ScaleといったPRO尺度への自己報告を行った。また、片頭痛に対するOTC薬および処方薬の使用状況、頭痛に関連する費用についても報告した。性別、就労状況、月経関連片頭痛の有無および頻度、個人および世帯の年間収入、年齢、高齢者の介護状況の各項目について、記述統計を報告した。 主な結果は以下のとおり。・女性、無職、月経関連片頭痛、個人または世帯収入の低さ、高齢者の介護を行っていることは、片頭痛による負担を増大させ、処方薬の使用に影響を及ぼす傾向がみられた。・具体的には、男性は女性と比較し、トリプタン製剤(11.7%vs.8.7%)、予防薬(18.3%vs.11.2%)の使用率が高い傾向が認められた。・また、無職の女性ではMIDASグレードIVの割合が最も高く(14.1%)、月経関連片頭痛を有する女性は、そうでない女性と比較し、MIBS-4で重度の負担と判定される割合が高い傾向が認められた(36.3%vs.27.8%)。・さらに、家族の介護を行っている患者は、行っていない患者と比較し、MIBS-4で重度の負担と判定される割合(39.2%vs.26.0%)や処方薬の使用率が高い傾向が認められた。・性別は、就労状況や収入のサブグループ内においても、片頭痛による負担や治療パターンに影響を及ぼしていることが示唆された。 著者らは「これらのデータは、特定の社会人口統計学的グループにおいて、片頭痛による負担がより大きく、効果的な治療やケアへのアクセスが制限されている可能性があることを示唆している。本研究の結果が、医療従事者や社会全体での片頭痛患者の特定、臨床ケアにおける潜在的な格差の解消に役立つことが期待される」と結論付けている。

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【GET!ザ・トレンド】難治性てんかん診療の最前線(後編)

開頭のジレンマを打開する新たなアプローチ血管内にカテーテルやガイドワイヤーを通す技術は1950年代から脳神経外科の日常診療で行われており、その先端から脳波を記録するアイデアは昔からありました。しかし、安定した記録などの技術的課題からなかなか実現には至っていませんでした。近年、技術が進化し、筑波大学の松丸氏らのグループが開発した「EP-01(未承認品)」という脳血管内電極の医師主導治験は患者登録まで完了しました。この治験は難治性てんかんの術前検査の一環として、頸静脈から頭蓋内の静脈洞に電極を留置して脳波を記録できるかを確認するために実施されました。世界でも血管内ステント電極を用いたブレイン・マシン・インタフェース(BMI)の研究が発表されるなど、多くの人が脳血管内電極の可能性に注目しています。血管内に機器を入れる点では侵襲的ですが、頭蓋骨に穴を開ける開頭や穿頭の手技と比較すれば、はるかに低侵襲といえます。患者の負担が大幅に軽減されることが期待されています。図 脳血管内電極EP-01(未承認品)画像を拡大する検査や専門施設への紹介をためらわせる「壁」を下げる「脳の血管からのアプローチ(脳血管内電極)」という新しい技術が実際の診療に導入されれば、臨床現場や患者の未来はどう変わるのでしょうか? 非常に明確なのは、検査や専門施設への紹介をためらわせる「壁」が劇的に下がるということです。難治性てんかんの手術を検討する際、片側に明確な異常があり焦点がはっきりしているケースでは、頭蓋内電極検査をスキップして手術に進めます。しかし、両側から異常脳波が出ているケースやMRIで異常が見つからないケースなど、どうしても頭蓋内に電極を入れて精査すべき患者も多くいます。もし血管からのアプローチによって検査の侵襲が低くなれば、開頭への恐怖感やリスクを避けてきた患者にとって、これは間違いなく大きなメリットになります。そして重要なのは、その恩恵が患者や家族だけでなく、「主治医である医師」にも及ぶという点です。てんかんは患者数が多く、主治医が専門医とは限らないのが実情です。非専門医が、大きな身体的負担を強いる検査を勧めることには葛藤が伴います。しかし、負担の少ない脳血管内電極が普及すれば、主治医が外科治療を行う専門施設へ患者を紹介する際の「心理的なバリア」も大きく下がるはずです。実用化に向けた課題この脳血管内電極が今すぐすべての患者に使えるわけではなく、実用化に向けてクリアすべき課題も存在します。治験段階では、1本のガイドワイヤーの先に電極が1個だけついたものを、片側に最大3本(両側で最大6本)留置して検査を行いました。具体的には、海綿静脈洞や横静脈洞といった頭蓋内の静脈です。前述の医師主導治験の主な対象患者は「側頭葉てんかんの患者」でした。側頭葉てんかんの場合、脳の奥深くの内側構造が焦点になっていることが多いため、海綿静脈洞に置いた電極でそこをピンポイントでチェックするのが主目的でした。そのため、現在の留置方法や電極数では、側頭葉以外のさまざまな脳領域まで細かく同定することは残念ながらまだできません。したがって、今後の大きな課題の1つ目は、記録できる電極数を増やし「空間解像度」を少しでも高めていくことです。より多くのポイントから同時に細かく脳波を記録できるようになれば、この技術の意義はさらに高まります。 2つ目は、大脳皮質の静脈など「より脳に近い細い静脈へのアプローチ」です。事前の動物実験や慎重な臨床研究が不可欠ですが、皮質静脈の枝を遡り、多様な焦点に対して多点に留置できるようになれば、診断能力の飛躍的な向上を意味します。BMIと「治療可能な認知症」へのブレークスルー脳血管内電極という技術が確立された暁には、てんかん治療の枠を越え、他の医療分野にも大きなブレークスルーをもたらすと考えられており、非常に楽しみな領域です。まず1つ目の可能性は、BMIやBCIへの応用です。すでに注目を集めていますが、脳血管内電極は脳の活動を記録するだけでなく、将来的には脳へ刺激を送ることも可能になるでしょう。脳とコンピュータをつなぐきわめて負担の少ないインターフェースとして、大きなポテンシャルを秘めています。そして2つ目が、最近注目を集めている「てんかんと認知症(アルツハイマー病)の関わり」における活用です。昔からアルツハイマー病はてんかんの合併率が高いと言われてきました。数年前、「卵円孔電極」という特殊なテクニックを使ってアルツハイマー病患者の脳波を調べたところ、通常の頭皮脳波では検出できない「てんかん性の異常波や発作活動」が検出されたという興味深い報告がありました。これは、認知症と診断されている人の中に、側頭葉てんかんが原因で認知機能を落としている患者が一部いるということです。そうした患者は、適切な抗発作薬を使用することで認知機能が改善する、つまり「治療可能な認知症」である可能性を示しています。こうした患者を見つけ出して治療につなぐことができれば大きな希望となりますが、そのためだけに「開頭や穿頭して電極を入れるか? 」と問われれば、身体的負担が大きすぎます。そのときに大きな威力を発揮するのが脳血管内電極です。頭蓋骨を開けず、血管からアプローチして深部の異常波をキャッチできるこの技術なら、認知症の患者に対してもより安全に検査を行えるようになるはずです。臨床医の皆さまへ てんかんの診断や治療は日々進歩しており、検査や治療へ進むためのハードルは着実に下がりつつあります。数十年前は「開頭切除」しかなかった外科治療も、現在ではより身体的負担の少ない低侵襲な電気刺激療法など、多様な選択肢が広がっています。日々お忙しい中で専門外の知識をアップデートし続けることは容易ではないかもしれませんが、医療は絶えず進歩しています。この記事をきっかけに最新治療に関心を持っていただき、患者が新たな治療へと踏み出す「最初のハードル」を共に下げていただければと切に願っております。また現在、日本からの新しい医療技術の発信が減少し、円安などの経済的要因も相まって、海外の最新技術を国内に導入することさえ困難になりつつある危機的な現状があります。だからこそ、日本独自の技術をしっかりと開発し、世界へ発信していくことがこれまでに増して重要です。今回ご紹介した日本初の画期的なアプローチである「脳血管内電極」が実用化されれば、てんかん診療、ひいては世界の医療を大きく変える可能性を秘めています。次世代の希望となるこの新たな挑戦を、ぜひ温かい目で見守っていただければ幸いです。>>前編に戻る

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認知症のない期間、高血圧・糖尿病・喫煙の3因子で13年短縮

 高血圧、糖尿病、喫煙といった血管リスク因子は認知症や早期死亡に関連することが知られているが、これらが重複した際、認知症を発症せずに過ごせる期間(認知症のない生存期間)がどれほど短縮するのかは明らかでなかった。中国・清華大学のJiaqi Hu氏らの研究グループは、米国の大規模な動脈硬化リスクコミュニティ研究の解析から、中年期における血管リスク因子の蓄積が認知症のない生存期間を最大12.6年短縮させることを明らかにした。Neurology Open Access誌2026年9月号に掲載。 本研究では、米国4地域で実施された「Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究」の参加者のうち、55歳時点で認知症がない1万2,409例(平均年齢56.2歳、女性56.0%)を対象に前向きコホート研究を行った。ベースライン時(1990~92年)における3つの主要な血管リスク因子(糖尿病、高血圧、現喫煙)の保有数(0~3個)を評価し、2022年まで継続的に追跡調査した。追跡期間中央値26.3年における認知症発症および認知症のない死亡について、競合リスクを考慮した制限付き平均生存期間(RMST)解析を用いて、55歳から95歳までの期間における「認知症のない生存期間」を推定した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中に3,008例が認知症を発症し、5,238例が認知症を発症せずに死亡した。・血管リスク因子が0個の群と比較して、3個の群では認知症の発症リスクが2.69倍(ハザード比[HR]:2.69、95%信頼区間[CI]:1.94~3.73)、認知症のない死亡リスクが5.61倍(HR:5.61、95%CI:4.67~6.74)と有意に上昇した。・55歳から95歳までの認知症のない生存期間は、血管リスク因子が0個の群で平均30.1年(95%CI:29.9~30.4)であったのに対し、1個で26.3年、2個で21.0年、3個の群では17.5年(95%CI:16.3~18.7)とリスク因子の増加に伴い段階的に短縮した(最大12.6年の短縮)。・認知症のない生存期間には性別や人種による差も観察され、リスク因子3個の群では女性(18.1年)が男性(16.6年)より長く、白人(19.6年)に比べて黒人(16.0年)で短かった。 著者らは、中年期の血管リスク管理によって認知症のない生存期間を最大12.6年延ばせる可能性があると指摘している。血管リスクが認知症発症と早期死亡の双方に及ぼす影響を「年数」という指標で提示することは、心血管と脳の健康を共に維持する予防戦略において、患者の動機付けに役立つアプローチになると結論付けている。

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閉塞性睡眠時無呼吸、記憶力低下・認知症リスクと関連

 閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、本人の記憶機能低下や認知症リスクと関連する可能性が示された。モナシュ大学(オーストラリア)のGabriel Abdelmessih氏らは、2,795人の40~70歳の成人を対象とする研究を行い、OSAと、記憶力低下や認知症リスクとの関連性を調査した。その詳細がアルツハイマー病協会発行の「Alzheimer's & Dementia」に6月29日付で掲載された。 研究の結果、OSAを有する参加者は、OSAがない参加者と比べて記憶機能が低下していた。特に、治療を受けていないOSA患者では記憶成績の低下が認められた一方、治療を受けているOSA患者ではOSAがない人との間に有意な差は認められなかった。また、OSAを有する参加者では、認知症リスクを評価するCAIDEスコアも高かった。 OSAは睡眠中に気道が狭くなることで、いびきや呼吸障害を引き起こす病気である。この疾患が認知機能や認知症リスクと関連する可能性は、これまでにも指摘されていた。OSAは脳への酸素の供給を阻害し、睡眠サイクルを乱すことで、脳機能に影響を与える可能性があるためだ。しかし、OSA患者は肥満、高血圧、高コレステロール血症など、認知症のほかのリスク因子を併せ持っていることが多いため、OSA自体が認知機能や記憶力にどの程度影響を及ぼしているのかを把握することが困難であった。 今回の研究では、それらのリスク因子を考慮に入れることで、その疑問の答えに近づいた。年齢、性別、教育歴、OSA治療の影響を調整した解析では、OSAは記憶成績の低下と関連していた。一方、血管・生活習慣などの認知症リスク因子を含む修正版CAIDEリスクスコアを追加調整すると、OSAと記憶機能との関連は有意ではなくなった。また、OSAを有する参加者では、OSAがない参加者と比べてCAIDEリスクスコアが高かった。 研究者らはまた、アルツハイマー病のリスクを高めることが知られている遺伝子であるAPOE ε4アレルを考慮した検討も行った。その結果、OSAのみを有する人、またはOSAとAPOE ε4の両方を有する人では、OSAもAPOE ε4も持たない人と比べてCAIDEスコアが高かった。一方、APOE ε4のみを有する人では、有意な差は認められなかった。 論文の筆頭著者であるAbdelmessih氏は、「OSAはよくある病気で、治療可能であるにもかかわらず、診断されていない患者も少なくない。また、認知症のリスクとの関連はあまり考慮されていない。われわれの研究結果は、中年期にOSAを発見して適切に治療・管理することが、脳の長期的な健康を支える重要な機会となる可能性を示唆している」と述べている。なお、OSAは睡眠検査によって診断され、治療には、減量や生活習慣の改善のほか、持続陽圧呼吸療法(CPAP)やマウスピースなどが用いられる。

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認知症リスクが下がる2つの運動~日本の前向き研究

 運動は認知症予防に効果があると考えられているが、運動の種類によって認知症リスクとの関連が異なるかどうかは不明である。今回、日本体育大学/筑波大学の永田 康喜氏らが実施した、地域在住高齢者を対象とした前向き観察研究の結果、筋力トレーニング(筋トレ)やゲートボールが、運動していない群と比較して認知症発症リスクが有意に低いことが示された。Geriatrics & Gerontology International誌2026年8月号に掲載。 本研究では、日本の地域在住高齢者5,074人を対象に、2013年6月(プレベースライン)および2017年8月(ベースライン)に郵送調査を実施し、2021年7月まで最長4年間追跡した。認知症の判定は厚生労働省の全国標準化尺度を使用した。17種類の運動への参加状況を調べ、参加者が150人以上存在した5種類の運動(体操、ウォーキング、ゲートボール、ゴルフ、筋トレ)について、非運動群と比較した認知症発症のハザード比(HR)をRobust分散推定量を用いた多変量調整Cox比例ハザードモデルで算出・解析した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間(中央値:4.0年)の間に、5,074人中430人(8.5%)が認知症を発症した。・筋トレ(調整後HR:0.26、95%信頼区間[CI]:0.08~0.81)、ゲートボール(調整後HR:0.68、95%CI:0.46~0.99)では、非運動群と比べ有意な認知症発症リスクの低下が認められた。・体操、ウォーキング、ゴルフでは、有意なリスク低下は認められなかった。 本結果から、著者らは「ゲートボールや筋トレへの取り組みは、高齢者における認知症予防に有用である可能性が示唆される」と結論している。

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【GET!ザ・トレンド】難治性てんかん診療の最前線(前編)

難治性てんかんがもたらす社会生活の壁薬物治療で発作を十分に抑えられない「難治性てんかん」の患者は、日本に約30万人存在するといわれています。こうした患者は、発作自体の苦痛や危険に加え、社会生活において主に以下の3つの深刻な困難に直面しています。1つ目は「運転の制限による生活への支障」です。自動車の運転には「意識障害や運動障害を伴う発作が2年以上ないこと」などの厳格な法的基準が設けられています。難治性てんかんの場合、この条件を満たすことが難しく、免許の取得や更新ができません。地方など車社会においては、これが通勤や日常生活に直結する非常に大きな壁となります。2つ目は「就労の困難さと経済的不安」です。ある病院の調査では、患者の約33%が未就労であり、その多くが「就労希望はあるものの支援を受けられていない」状態にあることがわかっています。発作のコントロールへの不安や、職場での理解不足といった精神的な困難さが、社会参加へのハードルを高くしています。3つ目は「セルフスティグマ(自己への偏見)による孤立」です。患者自身が「発作を見られるのは恥ずかしい」「他人に迷惑をかける」とネガティブに思い込み、病気を隠したり支援を求めることを自ら諦めたりしてしまいます。これが自己効力感や生活の質(QOL)の低下を招き、社会的な孤立を深める要因となっています。外科治療が持つ、人生を変える本当の意味社会的な困難を抱える難治性てんかんの患者にとって、外科治療は単なる症状緩和にとどまらず、「人生を根本から好転させる可能性」を秘めています。適切な外科治療を行えば、約7割の患者で発作の消失が期待できます。たとえば、発作の原因となっている脳の異常部位を取り除く「焦点切除術」などの根治術が成功すれば、長年制限されていた就労や自動車の運転への道が開けます。何よりも「いつ発作が起きるかわからないという恐怖」から解放される意味は大きいです。つまり外科治療とは、服薬量の減少による副作用の軽減や、何よりもこの恐怖からの解放をもたらし、患者が自立した生活を取り戻すためのきわめて重要なステップとなります。臨床現場で感じる「壁」や「ジレンマ」難治性てんかんの患者にとって外科治療は大きな希望ですが、臨床現場においては、手術に至るまでの過程にさまざまな「壁」や「ジレンマ」が存在します。最大の壁は、適切な時期に専門施設へ紹介されていないことです。適切な抗発作薬を2種類使用しても発作が抑制されない場合、薬剤抵抗性と判断されます。しかし実際には、医療者も患者も外科治療を最終手段と考えがちで、長年薬の変更が繰り返されるケースが少なくありません。評価が遅れれば、事故のリスクや認知機能の低下に加え、就学・就労機会の喪失など社会的孤立が深刻化し、手術で発作が止まったとしても失われた社会生活を取り戻せなくなる恐れがあります。また、「専門施設への紹介=すぐに手術が決定する」という誤解も壁です。専門施設は、多職種チームで詳細な検査と検討を行い、薬の見直しや手術を見送る結論を出すこともあります。「手術を迷うから行かない」のではなく、「まず評価を受け、どんな選択肢があるかを知る」場所なのです。外科治療は最後の手段ではなく、標準的な治療選択肢の1つであると社会全体で共有していく必要があります。さらに、手術の手前にある侵襲的なモニタリング(頭蓋内脳波検査)の壁も大きなジレンマでした。従来は頭蓋骨を大きく開ける検査が行われ、患者の身体的・精神的苦痛や紹介医の葛藤を生み、専門施設への紹介をためらわせる一因になっていました。しかし最近では、定位的頭蓋内脳波(SEEG)が国内でも普及しつつあります。これは小さな穴から脳深部に直接電極を留置する手法で、患者の負担や恐怖を大幅に軽減しつつ、安全・正確に焦点を同定できるようになっています。このように術前の壁を下げる着実な進歩が続く中、医療の最前線では、さらに身体的負担の少ない最新技術が進歩しています。後編では、新たな非侵襲的なアプローチに迫ります。>>後編に続く

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認知症サポート制度「チームオレンジ」のメリットとは?

 「チームオレンジ」とは、日本政府の認知症施策推進大綱で掲げられた、認知症に関する国家的な取り組みである。本取り組みは、認知症と共に生きる人やその家族と、研修を受けた地域ボランティア(オレンジサポーター)をつなぐものである。オレンジサポーターは、日常生活における実践的な支援を行うとともに、地域の支援ネットワークの構築を促進する。2023年までに本取り組みは、全国で約1,900のチーム、3万3,000人のサポーターを擁する規模に拡大したが、オレンジサポーターが自身の役割を通じてどのような有益性を感じているかについては、これまで十分に明らかにされていなかった。札幌医科大学の横山 和樹氏らは、札幌市におけるサポーターの実際の経験を通じて、チームオレンジがもたらす有益性について検討した。BMC Geriatrics誌オンライン版2026年7月16日号の報告。 札幌市内の8つの地域拠点から、目的的サンプリングによって選定された16人のオレンジサポーターを対象に質的内容分析を実施した。半構造化インタビューは、2024年12月~2025年3月に行われた。データの収集と分析は、データが十分に集まるまで継続した。 主な結果は以下のとおり。・2つの主要なテーマが特定された。・第1のテーマである「オレンジサポーターがチームオレンジで得た学び」は、次の4つのカテゴリーで構成されていた。(1)認知症と共に生きる人やその家族の「人としての尊厳」の尊重(2)多様なニーズの理解と支援(3)認知症と共に生きる人やその家族の強みの発見(4)協働を通じた地域社会へのインクルージョンの促進・第2のテーマである「オレンジサポーターが認識したチームオレンジの包括的な有益性」には、次の3つのカテゴリーが含まれていた。(1)日常生活における認知症への意識の高まり(2)相互依存的な貢献を通じたエンパワーメント(3)活動を通じた精神的なウェルビーイングの向上 著者らは「チームオレンジは、サポーターが認知症と共に生きる人と関わるための前向きな認識や実践的なスキルを養うと同時に、個人のエンパワーメントや精神的なウェルビーイングの向上を実感できる場として機能していると考えられる。日本独自の文化的背景に根差し、政策に基づいたモデルであるチームオレンジは、国際的な認知症にやさしい地域づくりの取り組みを発展させるうえで応用可能な知見を提供しており、高齢者におけるケア改善、社会参加の促進、社会的孤立に関連する健康リスクの低減といった点においても重要な示唆を含んでいる」と結論付けている。

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長期的な経済的逆境は認知機能低下や脳構造変化と関連か

 経済的逆境は、精神的なストレスを増大させるだけでなく、脳の老化と関連する可能性があるーーそんな研究結果が報告された。若年成人期から中年期にかけて慢性的に経済的困窮を抱えていたり世帯所得が低かった人は、53歳時点で実施された認知機能検査の成績が低い傾向にあることが示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のJacques Wels氏らによるこの研究は、7月23日付で「Innovation in Aging」に掲載された。 持続的な経済的逆境が認知機能の加齢に伴う変化や脳の健康に長期的にどのような影響を及ぼすのかは、十分に明らかになっていない。そこでWels氏らは、英国の1946年出生コホート(2,759人)を対象に、26~53歳時の経済的逆境(世帯所得の低さ、経済的困窮)と、53歳時の認知機能、53歳から69歳までの認知機能の変化との関連を解析した。さらに、69~71歳時に脳MRI検査を受けた一部の参加者では、経済的逆境と高齢期の脳構造との関連も調べた。参加者には、26歳、43歳、53歳時点での世帯所得に加え、36歳、43歳、53歳時点で経済的困窮の有無について質問した。 その結果、世帯所得が低い状態や経済的困窮を経験することが多かった人では、53歳時点における情報処理速度や言語記憶の成績が低かった。これらの人では、53歳以降の言語記憶の低下速度は比較的緩やかだったが、これは53歳時点ですでに認知機能スコアが低かったことによるものと考えられた。さらに、MRI解析からは、持続的な低世帯所得は、脳の萎縮に伴い拡大することが知られている脳室容積の増大と関連することも示された。経済的逆境と脳構造の変化との関連は、男性、幼少期に社会経済的状況が不利だった人、アルツハイマー病の遺伝的リスク因子であるAPOE ε4保有者でより強く認められた。 研究グループは、本研究で対象としたコホートの世代では、男性が家計の担い手と見なされることが多かったため、経済的逆境の影響をより強く受けた可能性があると考察している。また、喫煙や飲酒などの健康に好ましくない生活習慣が多かったことも影響した可能性があるとしている。 Wels氏は、「認知機能の加齢による変化を検討したこれまでの研究の多くは、経済的逆境を単一時点でしか評価していない。本研究では、数十年にわたるデータを用いたことで、認知機能に大きな影響を及ぼすのは一時的な困難ではなく、長年にわたる経済的逆境の積み重ねであることが明らかになった」とニュースリリースで述べている。 一方、論文の上席著者であるUCL公衆衛生・実験医学部門教授のPraveetha Patalay氏は、「今回の結果は、経済的逆境に直面している人々を支援し、慢性的な貧困を減らすことが、将来的な認知機能低下や認知症リスクの低減につながる可能性を示唆している」との見解を示している。

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テレビ視聴の多さは脳萎縮と関連

 「テレビばかり見ていると脳がだめになる」という母親の小言は、あながち的外れではないようだ。新たな研究で、テレビを頻繁に視聴することは、複数の脳領域の体積の減少や白質高信号体積の増加と関連することが示された。一方、座位で仕事をすることは、白質高信号体積の減少や複数の脳領域の体積が大きいことと関連していた。白質高信号とは、脳小血管病などによる白質の変化を反映するMRI所見で、白質病変とも呼ばれている。米南カリフォルニア大学(USC)人類進化生物学プログラムのNatan Feter氏らによるこの研究結果は、7月10日付で「Alzheimer’s & Dementia: The Journal of the Alzheimer’s Association」に掲載された。 Feter氏は、「われわれはこれまで、人々に座りっぱなしの時間を減らすよう勧めてきた。しかし今回の結果から、専門家はその推奨を、座位時間だけでなく座っている間の活動内容にも広げる必要があると考えるかもしれない。座位中の活動の種類によって、脳の健康への影響が異なる可能性があるからだ」と述べている。 この研究では、心血管と脳の健康を長期間追跡している「Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)」研究に参加した1,712人(平均年齢53歳、女性57%)のデータを解析し、座位行動と脳構造との関連を検討した。座位行動として、余暇にテレビを見る頻度と座位で仕事を行う頻度を質問票により評価した。また、脳構造の指標として、前頭葉や後頭葉などの皮質領域、視床・尾状核・被殻・淡蒼球から成る皮質下領域に加え、アルツハイマー病(AD)で早期から変化が現れやすい領域(ADシグネチャー領域)、および白質高信号の体積をMRIで測定した。 年齢や性別、身体活動、BMI、糖尿病、喫煙、飲酒などの共変量を調整して解析した結果、テレビを「頻繁に見る」と回答した人は、「ほとんど/全く見ない」と回答した人と比べて、前頭葉、後頭葉、およびADシグネチャー領域の体積が小さいこと、ならびに白質高信号体積が大きいことと関連していた。一方、「いつも座位で仕事を行う」と回答した人では「座位で仕事をほとんど/全くしない」と答えた人と比べて、白質高信号体積が小さいこと、ならびに頭頂葉、後頭葉、および前頭葉の体積は有意に大きいことと関連していた。男女別に解析したところ、座位での仕事が多いことと前頭葉の皮質体積が大きいこととの関連は男性でのみ認められるなど、座位行動と脳構造の指標との関連には男女差が見られた。 研究グループは、「医師は、患者にもっと体を動かすことを勧めるだけでなく、テレビの視聴時間を減らすことについても助言すべきかもしれない。それ以上に望ましいのは、座位で過ごすのであれば、テレビ視聴の代わりに脳を刺激する活動を取り入れることだろう」と述べている。

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「震え」と「振るえ」、どっちを使う?【脳がととのう 神経内科学講座】第4回

<今回のモヤっとPoint>どんな「ふるえ」なら、パーキンソン病を疑うの?震えと振るえ、違いがあるの?はじめに日常診療では「ふるえていた」と報告を受けることがしばしばあります。あまり意識せずに使っているこの「ふるえ」という言葉ですが、医学的には何をさしているのでしょうか? 日本語として「ふるえ」は、国語辞典を引いてみると「ぶるぶると揺れ動くこと」や「身震いすること」といった意味を持っています。たとえば、寒さや恐怖、興奮などによって、自分の意思とは関係なく体の一部または全身が小刻みに揺れ動く現象をさすようですが、皆さんが臨床で使っている「ふるえ」もこれと同じでしょうか? 今回は、この用語の定義や臨床的な意義について整えていきましょう。「振るえ」と「震え」ふるえの漢字表記には「振るえ」と「震え」があります。脳神経内科医の視点で「振るえ」と聞けば、それは「振戦(tremor)」なのだろうと想起します。一方で、「震えていました」と聞けば、それはきっと「シバリングなのかな?」とか「ミオクローヌス」「もしかして痙攣発作?」などと脳裏に浮かびます。ちなみに、前者の振戦を呈する代表的な神経疾患にパーキンソン病があるのはご存じでしょう。もちろん、ふるえがあるからといって、パーキンソン病とは限りません。だからこそ、非専門医の先生にとってふるえの評価は悩みどころの一つではないでしょうか?臨床でのふるえ、まずは「振るえ」と「震え」でどう使い分けるか―このモヤモヤを解決してみましょう。そのためには、言葉の定義やどういった病態を想定しているのかを先に整理できるようになることが不可欠です。その観点では、振戦、ミオクローヌス、シバリングの3つを押さえておきましょう。振戦とは「リズム」と「反復」まず、臨床で大事なことは、ふるえ=すべて振戦ではないという点です。なぜなら、振戦には少なくとも次の3要素が必要だからです。【振戦の3要素】不随意involuntary本人の意図しない律動性rhythmic一定のリズムで(ある程度規則的で)振動性oscillation一定の軸を中心に反復するつまり、単に「体が勝手に動いている」とか「突然ピクっとなる」といった類の動きは、震えているように見えても振戦とは言いません。必要なのは一定のリズムであること、そしてそれが往復する運動として繰り返されていることです。この“リズムが一定”の例えとして、「貧乏ゆすり」が近いものとして挙げられます。一定のリズムで足や膝を揺らしていますよね。ほかのたとえでいえば、あの「高橋名人のボタン連打」のような動きも、一定のサイクルで繰り返される動きですね(ベテラン世代の先生なら共感!?)。逆にリズムが不規則なのは振戦ではありません。イメージとしては、雨が降り出した時に「雨粒が屋根や窓に当たる、パラ、パラパラッ、パ、パラパララ…」のようなものをさし、後述するミオクローヌスなどがこれに該当しえます。―Step1. 振戦かな? まずはリズムがあるかどうかというわけで、ふるえをみたら、まずは「振戦」らしさである「一定のリズム感」があるかどうかをチェックしましょう。不随意運動にはいろんな種類がありますが、非専門医の場合には振戦とミオクローヌスの判断が付けば十分だと思います(下図)。画像を拡大する―Step2. 振戦だと思ったら振戦にはたくさんの鑑別疾患があるのですが、コモンなものでは本態性振戦があり、そのほかには薬剤性、アルコール離脱、小脳性、機能性などもあります*1。よって、家族歴の確認、新規処方された薬剤、アルコール摂取歴などの臨床背景を確認することで、ある程度は振り分けることができます。臨床では、まずは服薬歴と飲酒歴を確認して、問題ないようなら次に、その振戦が静止時に出ているのか、動作時に出ているのかをチェックするとよいでしょう。*1甲状腺機能亢進症、低血糖、カフェイン、β刺激薬、薬剤関連(リチウム、バルプロ酸Na、SSRI/SNRI、ドパミン遮断薬)なども重要な鑑別材料―Step3. その振戦は本当に「静止時」ですか?そして、「振戦かな?」と診察中に感じた際には、静止時振戦かどうかを確認することがとても大事です。なぜなら真の静止時振戦は、パーキンソン病を疑う根拠になるからです*2。*2ただしパーキンソン病を考える前提として、寡動や無動が必須で、そこに静止時振戦または筋強剛を伴うことが重要ですでは、静止時の振戦とはどのようなものか、ポイントは以下の3つです。随意的に賦活されておらず重力に抗して保持されていない完全に支持された身体部位に生じる振戦なんだか、とても難しく感じたかもしれませんが、要は完全に脱力した無意識の状態であることが前提であり、「意図して筋肉を収縮させておらず、重力に抗した姿勢を保ってもいない身体部位に出る振戦」を静止時振戦と呼ぶのです。よく間違えやすいのが、「じっとしていてくださいね」と呼びかけて、安静を指示して確認する方法ですが、これだと完全に本人が静止しているかわかりません。なぜなら、じっとしていようと意識することで余計に力が入ってしまう人がいるからです。なお、注意を逸らしたときに振戦が消失したり、逆にリズムが変化したり、動きに変化があったり、奇妙な変動がある場合には、機能性振戦(心因性)も考えます。―Step4. 注意をそらすとよい本人が意識すればするほど力が入ることがあるため、振戦が「静止時」なのかを確認するには、本人に、ふるえのことを忘れてもらう必要があります。もちろん、「忘れてください」なんて野暮なことは言ってはいけません。その掛け声によりむしろ意識して振るえが止まらなくなったりします。要はほかのことに注意をそらせばよいわけで、「眼球運動」の神経診察がこれに該当します。「しっかり追ってくださいね」と指示しながらゆっくり指先を追視させます。そうすると、本人は手のことを忘れて真面目に追視をするのですが、この際に、無意識に本人の手先に振るえが出現していないかを検者は周辺視野で確認しましょう。このように無意識に、動かしていない身体の部位に出現する振戦を「静止時振戦」と呼びます*3。*3昔は「安静時振戦」とよく呼んでいましたが、現在は、静止時振戦が正しい神経学的な用語です。英語ではresting tremor<脳がととのう具体例>「じっとしていてもふるえているので、静止時振戦と考えます」「MMSEの検査で100から順に7を引く計算をさせているときに、右手がリズミカルにふるえていて、静止時振戦のようでした」不規則なふるえでは、リズムが一定ではない、つまりイレギュラーな不随意運動に該当するものに何があるかというと、代表的な不随意運動の1つとしてミオクローヌスがあります。これは、自分の意思と無関係に瞬発的な筋収縮が生じる症候をさします(第1回:無意識に使う「ピクつき」)*4。*4ミオクローヌスには陰性ミオクローヌスというのがあり、持続している筋活動が一瞬途切れることで生じるもので、後述するアステリクシスがそれに該当しますなおミオクローヌスが不規則に、かつ高頻度で出現していれば、あたかもブルブルと「震えている」ように見えることがあります。実際に「ふるえていました」と報告を受けて診に行くと「ミオクローヌスだった」ということも少なくありません。急性期診療であれば、代謝性脳症や薬剤性のミオクローヌス、蘇生後脳症の症例などで、頻発するミオクローヌスに遭遇することがあるので、文脈を意識すると病態を把握しやすいでしょう。続いて、「震え」という表現がしっくりくる病態には、シバリングやTMA(Transient myoclonic state with asterixis in elderly patients)などがあります。前者は時に振戦様に見えることがありますが、発熱、悪寒戦慄、低体温、敗血症、輸血・輸液反応、薬剤反応などの全身状態と関連して出現するので、臨床的な病歴やバイタルサインが重要でしょう。一方、後者は高齢者で急性に起こる「身震い様の不随意運動」で、内訳としてはミオクローヌスとアステリクシス(固定姿勢保持の障害)です。ベンゾジアゼピンの投与で反応性が良好になることが多いです。今回のスッキリ同じ「ふるえ」でも「振るえ」と「震え」はニュアンスが異なる違いの一つにリズムがあり、「振戦」は一定のリズム静止時振戦はパーキンソン病を疑うけれど、本当に静止時なのか確認が必要

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抗アミロイドβ抗体薬、投与前のAPOE遺伝子検査考慮を追記/厚労省

 2026年8月17日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、抗アミロイドβ抗体薬であるドナネマブおよびレカネマブの「警告」および「重要な基本的注意」の項に、アミロイド関連画像異常(ARIA)のリスク管理などを目的とした「投与開始前のAPOE遺伝子検査の実施考慮」などが追加された。 アルツハイマー病による軽度認知障害(MCI)および軽度認知症患者を対象とした臨床試験や国内外の症例データにおいて、「アポリポ蛋白E対立遺伝子4(APOEε4)ホモ接合型キャリアの患者でARIA(ARIA-浮腫/滲出液貯留[ARIA-E]およびARIA-脳微小出血・脳表ヘモジデリン沈着症・脳出血[ARIA-H])の発現割合、画像上の重症度、症候性ARIAの発現割合がより高い傾向」にあることが認められている。 そのため、製造販売後調査、国内副作用報告、承認時の臨床試験、海外添付文書、ガイドラインなどを調査し、専門委員の意見も聴取した結果、ApoEε4ホモ接合型キャリアで ARIA の発現割合が高い傾向が認められたこと、また、2026年7月にAPOE遺伝子検査が保険収載されたことから、本剤の投与開始前にAPOE遺伝子検査の実施を考慮し、リスクの高いホモ接合型キャリア等を把握した上で患者および家族・介護者に十分な情報提供と説明を行うとともに、適切なリスク管理体制を築くことが適切と判断された。 対象医薬品および改訂内容は以下のとおり。◯ドナネマブ(遺伝子組換え、商品名:ケサンラ)◯レカネマブ(遺伝子組換え、同:レケンビ)警告 「ApoE ε4ホモ接合型キャリアの患者でARIAの発現割合が高かったことから、本剤の投与開始前に、APOE遺伝子検査の実施を考慮すること」を追記。重要な基本的注意 「ARIAのリスク管理のために、原則として本剤の投与開始前に、APOE遺伝子検査の実施を考慮すること。考慮した結果、投与開始前に検査を実施しなかった場合においても、本剤投与中に必要と考える場合には検査の実施を検討すること。遺伝子検査にあたっては、承認された体外診断用医薬品を用い、最新のガイドライン等を参考にAPOE遺伝子検査の意義について患者及び家族・介護者に十分に説明し、同意を得ること」を追記。

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相続は「争族」か「争続」か?―患者の死後に問われる「意思能力」判定の4つのポイント【外来で役立つ!認知症Topics】第44回

高齢社会の進行に伴う認知症の人の増加とともに、相続に関わる診断書や意見書が必要になることが増えてきた。こうした場合に求められる最も大切なことは、本人に「意思能力」があるか否かを医学的根拠に基づいて判定することだ。「意思能力」とは法律用語で、自分の行う契約などの行為の意味や結果を正しく理解し、判断できる知的な能力を指す。つまり、自分が行う契約締結や遺言書作成などがどのような結果をもたらすかを、正しく認識・判断できる能力のことである。以下では、医師としてこうした判定を求められた場合を想定して述べる。筆者の経験では、そのようなケースは2つに大別される。被相続人(財産を譲る人)が「生存しているか」あるいは「すでに死亡しているか」である。前者の場合は、ご本人と直接面談したり認知機能テストを行ったりすればよいので、話は比較的スムーズだ。容易でないのは後者である。とくに、問題となっている時点(遺言書作成時など)の能力や状況に関するデータが乏しかったり、まったくなかったりする場合である。この「時点」とは、たいていは遺言書が作成された時期を指すが、書の内容が明らかになるのは本人が亡くなった後だからだ。本人が亡くなった後に意思能力の有無を判断する「4つの要素」 意思能力の有無は、医師の診断書に書かれた医学的判断と、行動や契約内容といった事実関係に基づく法律的判断の両面を総合的に考慮して、裁判所が判断する。実務上、具体的には以下の4つの要素が大切だとされる。1. 精神状態・認知機能の評価まず基本となるのが、医師の診察に基づく評価と、改訂長谷川式(HDSR)やミニメンタルステート(MMSE)などの定量的なデータである。実務において、この認知機能と深く関わってくるのが「成年後見制度」だ1)(2028年ごろには改正法が施行される予定である2,3))。現行制度では軽いほうから「補助」「保佐」「後見」の3段階がある。法曹界における意思能力の判断原則は、「補助=能力あり」「後見=能力なし」とスッキリしているが、中間の「保佐」は裁く裁判官にとっても判断が悩ましいようだ。筆者が保佐レベルと判断しても、裁判官の判断はケースバイケースだが、私見ながら「HDSRが20点以上は補助」「9点以下は後見」「その間(10~19点)が保佐」という暗黙の了解や通念があるようにも思える。なお、担当医による記載では、認知症の進行度、長期的な症状の変化などいわゆる現病歴からの判断や考察が中心になるが、幻覚・妄想やうつ症状の有無も裁判官にとって重要な判断材料となり得る。困るのは、認知機能に関するデータが乏しい場合だ。そんなときにまず想起すべきは、介護保険の主治医意見書や介護保険認定調査票といった「公文書」である。とくに後者は詳細で、金銭の扱いや契約に関わる能力も評価されている。それらがなければ、かかりつけ医の診療録や看護記録、デイサービスの連絡帳、さらには故人の日記や手帳、手紙なども有用な情報源となる。2. 当時の知的能力でわかる「契約・行為の難易度」だったか?意思能力は一律に決まるものではなく、「その行為の難易度」によっても左右される。今後施行予定の改正後見制度でも、まさにこの「行為の難易度に応じた判断力を有するか否か」が鍵となっている。たとえば、医師が「中等度の認知症」と考えたケースを例にとる。コンビニで買い物をするくらいなら問題なかろう。しかし、相続となると話は難しくなってくる。「不動産はすべて長男に、現金はすべて次男に、株券はすべて三男に譲る」という遺言書があったとする。もしそれらすべてが等価ならよいが、現実にはまずあり得ない。一見シンプルな分け方に見えても、子供の誰かが自分に有利になるように、知的能力が低下した被相続人を口説いた可能性も考えられるからだ。3. 当時の言動・状況のリアルな記録(動画・録音など)遺言書や高額な契約に関わる意思能力の有無が問われるケースでは、当時のリアルな記録(動画・録音など)が強力な証拠になり得る。筆者の自験例では、弁護士の立ち会いのもと、自分の言葉でしっかり意図を話している様子を動画と音声で記録し、それを証拠として提出して有効だったことがある。これに比べると証拠能力は劣るものの、写真・日記・メモ・家族の証言なども役立つ可能性がある。4. 契約内容の「合理性」「なぜその選択をしたのか?」という動機や背景の自然さも大切だ。判決文ではよく「合理的」という言葉が使われる。たとえば2人兄弟で、長男はこれまで親の世話をせずに、被相続人のお金を少なからず使った。対して次男は、夫婦でよく面倒をみて自分のことを支えてくれて、経済的依存もなかったとする。この状況で「次男への贈与を厚くする」という遺言なら「合理的」だろう。逆に、そのような長男であると判明しているにもかかわらず、「長男に厚く遺産を譲る」としていれば、不自然であり合理的とは思えない。 今回は、主に故人となった人の生前の意思能力の判定におけるポイントについて述べた。なお実際のケースによっては、HDSRやMMSEの得点と意思能力の判定結果が必ずしも一致せず、乖離することもあり得ることを付け加えておきたい。 1) 法務省. 成年後見制度・成年後見登録制度 2) 法務省. 「民法等の一部を改正する法律」(成年後見及び遺言の制度の見直し)について. 令和8年6月30日 3) 厚生労働省. 成年後見制度の見直し等について. 令和8年1月19日

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