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第308回 アフリカ睡眠病の画期的な新薬をサノフィが無償で提供する

俗に睡眠病として知られるアフリカトリパノソーマ症(以下、睡眠病)を根絶できるかもしれない画期的な経口薬Acoziborole Winthrop(acoziborole)の承認を、欧州医薬品庁(EMA)の実質的な意思決定の場の医薬品委員会(CHMP)が了承しました1-3)。睡眠病は、吸血性のツェツェバエに刺されて伝播する寄生虫2種によって生じます。今回CHMPが承認を了承したAcoziborole Winthropの用途は、アフリカの中央と西部で広まるその1つのガンビアトリパノソーマ(Trypanosoma brucei gambiense)による睡眠病の治療です。睡眠病の大半はそのガンビアトリパノソーマが原因です。もう1種のローデシアトリパノソーマ(T. brucei rhodesiense)はもっぱらアフリカ東部で広まっています。感染の初期症状は発熱と頭痛で、他の病気と見紛うことが多々あります。寄生虫が脳(神経系)に侵入する重症段階になると、その病名のゆえんである寝起きのサイクルの逆転などの異常行動が生じます。治療しないままの患者はやがて昏睡に陥り、ほぼ全員が命を落とします。内戦で荒れた2000年代初期のスーダンの病院に運ばれてきた睡眠病の兵士の特異な振る舞いの様子がScienceのニュースに記されています3)。それら睡眠病の兵士は看護師に激怒したかと思えば治療の途中で行方不明になることもありました。脳に至った寄生虫は攻撃性や精神症状などの症状を引き起こして振る舞いの劇的な変化をもたらします。それゆえ睡眠病の患者を病院に留まらせることは非常に困難で、2週間ほどの治療期間に脱走しないように誰かが付き添っている必要がありました。睡眠病治療の現状はそのように手間で、複数回の投与、点滴静注、筋肉内注射、入院を要します。治療を決める病期判定には、脊髄に針を刺す腰椎穿刺で脳脊髄液(CSF)を採取して神経系に寄生虫が到達しているかどうかを調べる検査が含まれます。一方Acoziborole Winthropは軽症か重症かを問わず使用可能で、痛くて体を傷つける腰椎穿刺をする必要がありません。輸送も容易で、睡眠病が最も猛威を振るう遠隔地に届けることができます。Acoziborole Winthropの投与は1回きりなので、10日間の服用が必要な先発の経口薬fexinidazoleと異なり、医療者が繰り返しその服用を見届ける手間も不要です。スイスを本拠とする非営利団体DNDi(Drugs for Neglected Diseases Initiative)の創薬事業で見つかったAcoziborole Winthropは、2016年にファイザーが買収した米国カリフォルニア州のバイテック企業Anacor Pharmaceuticals社の開発品に端を発します4)。Anacorの社員を含むチームの手によって脳によく届くように最適化され、2012年に始まったフランスでの第I相試験5)でまずはヒトに安全に投与できることが確認されました。続く第II/III相試験はコンゴ民主共和国とギニアで実施され、重度の患者にも有効なことを裏付けた同試験結果6)を拠り所にしてCHMPはAcoziborole Winthrop承認を今回了承しました。第II/III相試験ではガンビアトリパノソーマによる睡眠病(g-HAT)の患者208例にAcoziborole Winthropが単回投与されました。トリパノソーマがCSFに及んでいたより重度の進行段階(second-stage)の患者167例のほとんどの159例(95%)が18ヵ月時点で治癒していました。治癒の定義はトリパノソーマが消失し、CSFの白血球数が20個/μL未満になっていることです。CSFにトリパノソーマが見当たらない感染後間もない段階(first- and intermediate-stage)の患者41例に至っては全員(100%)が18ヵ月月時点で治癒していました。CHMPのお墨付きが今回得られたことで、睡眠病が多いコンゴ民主共和国などの国々でのAcoziborole Winthropの承認の道が開けます。20年以上もの間DNDiと協力関係にあってAcoziborole Winthropを共同開発したサノフィが同剤を提供します。サノフィは同社の慈善事業Foundation Sを介して世界保健機関(WHO)にAcoziborole Winthropを無償で寄付し、患者が無料で使えるようにします。Acoziborole Winthropが相手するガンビアトリパノソーマによる睡眠病を2030年までに撲滅することをWHOは目指しています。Acoziborole Winthropはその目標達成を後押しするでしょう。睡眠病のもう1つの原因のローデシアトリパノソーマはヒトへの感染はまれで、もっぱら野生動物に認められます。それゆえ根絶は現実的ではないようです3)。参考1)Acoziborole Winthrop, developed by DNDi and Sanofi, receives CHMP positive opinion as three-tablet, single-dose treatment for most common form of sleeping sickness/ GlobeNewswire2)New single-dose oral treatment for human African trypanosomiasis (sleeping sickness)/ European Medicines Agency3)‘Truly spectacular’ drug for sleeping sickness simplifies treatment, raising hopes for eradication / Science4)Jacobs RT, et al. PLoS Negl Trop Dis. 2011;5:e1151.5)Human African Trypanosomiasis: First in Man Clinical Trial of a New Medicinal Product, the SCYX-71586)Betu Kumeso VK, et al. Lancet Infect Dis. 2023;23:463-470.

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脳卒中管理で非専門医が押さえておきたい重要ポイントは?「脳卒中治療ガイドライン」改訂

 一次・二次予防でさまざまな診療科との連携が必要になる脳卒中。2025年8月には『脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2025]』が発刊され1)、本書より「改訂のポイント」が各章の冒頭に新設、前版からの改訂点やその経緯が把握しやすい仕様に変更された。近年の知見もタイムリーに反映し、140項目中52項目のエビデンスレベルが見直されている。そこで今回、非専門医が本書を手に取る際に理解しておきたい改訂点や取りこぼしてはいけない点を中心に、ガイドライン作成委員長の黒田 敏氏(富山大学脳神経外科 教授)に話を聞いた。急性期は降圧せず、病期で異なる血圧管理 本書は7項目から章立てられ、14個のClinical Questionが掲載されている。このなかでも非専門医が目を通しておきたいのは、第I章「脳卒中一般」(p.2~56)である。 同章の脳卒中発症予防には、高血圧、糖尿病、脂質異常症といった危険因子ごとのアプローチ方法が示され、とくに高血圧管理については、第I章の全身管理(2)血圧、脈、心電図モニター(p.31)に示されている。本書と同時期に発刊された『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(日本高血圧学会編)では、全年齢で「原則的に収縮期血圧130mmHg未満を降圧目標とする」と発表されており2)、亜急性期・慢性期の脳卒中の管理目標がこれに該当する。ただし、“超急性期や急性期では転帰不良が増加することから、急性脳梗塞では状況に応じた降圧治療が必要になり、原則的に降圧しない”や“脳出血では専門医への紹介前から降圧療法を考慮してもよい”と記され(高血圧治療・管理ガイドラインの第9章、p.109)、その根拠の詳細が本書の上述の項や脳出血の血圧管理(p.134)にて解説されている。 また、血圧管理における薬物療法については、2022年10月にLancet誌に報告された論文3)などを踏まえ、各個人が服用しやすい時間、アドヒアランス向上、副作用などを考慮した推奨となった。 一方で、超急性期では血栓溶解療法、機械的血栓回収療法のどちらを実施予定かで管理目標がやや異なり、今回の改訂では後者を行う場合の血圧の管理について新たな推奨文が追加、血栓回収時での過度な降圧回避を考慮した設定となった。この理由について黒田氏は「脳梗塞発症時脳血流が低下しているため、この状況で血栓を回収すると、健常状態よりも血流が多くなり、健常よりも回収時に血圧が大きく増加する。また、血栓回収終了後の厳格な降圧も予後不良に相関することが2つのRCTから示されている」と説明した。―――――――――――――――――――<I. 脳卒中一般 脳卒中急性期 2-1 全身管理(2)血圧、脈、心電図モニター>「機械的血栓回収療法を施行する場合、血栓回収前の降圧は必ずしも必要ないが、血栓回収後には収縮期血圧180mmHg以下に速やかな降圧を行うことは妥当である(推奨度B、エビデンスレベル中)。一方、血栓回収中および回収後には収縮期血圧140mmHg以下の過度な血圧低下は、避けるよう勧められる(推奨度E、エビデンスレベル中)」―――――――――――――――――――アルツハイマー病新薬の処方歴に注意! rt-PAの使用判断に注意 第II章「脳梗塞・TIA」では、機械的血栓回収療法が可能なタイミング、抗血小板薬シロスタゾールの脳領域での評価が反映されているが、診療科横断的な注意事項として、アルツハイマー病に対する抗アミロイド抗体治療薬の投与を受けている患者への脳梗塞超急性期治療についてはぜひ押さえておきたい。同氏は「静注血栓溶解(rt-PA)療法は、急性脳内出血を発症し、死亡例が報告されている。これを踏まえ、rt-PA検討時に慎重に適応を判断するためにMRI検査が必要とされ4)、また、アルツハイマー病の既往や治療歴を確認するためには問診が重要となる。さらに抗アミロイド抗体治療中の18ヵ月間は脳梗塞の発症にも注意してほしい」と強調した。 そして、睡眠中に脳梗塞を発症する発症時刻不明(Wake-up Stroke)患者の場合、これまでは正確な発症時刻がわからず、就寝時刻=最終健常時刻と判断されてきた。たとえば、22時に就寝、6時に起床して症状に気付いた患者では、脳梗塞の発症から8時間経過したと考えざるを得なかった。しかし近年では、頭部MRI画像検査で拡散強調画像(DWI)と水抑制画像(FLAIR)を撮影し、「FLAIR画像から明け方の発症も把握できるため、そのような症例にも血栓回収療法の実施が推奨されるようになった。さらに、重症度の高い患者(大脳半球の6~7割を占める大きな脳梗塞を起こした例)などでも、いくつかの条件を満たせば血栓回収療法により予後良好となるエビデンスが出てきている」と述べ、血栓回収療法の対象患者拡大について言及した。 脳梗塞再発予防については、慢性動脈閉塞症に基づく症状改善に使われていたシロスタゾールにおいて、ラクナ梗塞のような微小出血を有する患者への脳梗塞再発予防効果が示され、推奨文が一部改訂されている。―――――――――――――――――――<II. 脳梗塞・TIA 脳梗塞急性期 1-2 頸動脈的血行再建療法> 最終健常確認時刻から6時間を超えた内頚動脈または中大脳動脈M1部の急性閉塞による脳梗塞では、神経徴候と画像診断にもとづいて救済可能領域が十分にあると判断された患者に対して、最終健常確認時刻から24時間以内に機械的血栓回収療法を開始することが勧められる(推奨度A、エビデンスレベル高)<II. 脳梗塞・TIA 脳梗塞急性期 1-3 抗血小板療法>シロスタゾール200mg/日の単独投与や、低用量アスピリンとの2剤併用投与は、発症早期(48時間以内)の非心原性脳梗塞患者の治療法として考慮してもよい(推奨度C、エビデンスレベル中)―――――――――――――――――――専門医のなかで注目されているポイント、そして新たな脳卒中リハビリとは 第IV章のくも膜下出血の領域では、遅発性脳血管攣縮の予防・治療に関して変更点がある。まず、脳血管攣縮予防のための腰椎ドレナージは、近年のシステマティックレビュー結果を基に推奨度が上がった(推奨度B、エビデンスレベル中)。その一方で、治療ではエンドセリン受容体拮抗薬クラゾセンタンによる術後管理の普及に伴い、多量補液による肺水腫発症が広く認識されていること、triple H療法*によりうっ血性心不全や出血性合併症リスクが増加するといった報告を考慮して、「科学的根拠がないtriple H療法は行うべきではない」(推奨度E、エビデンスレベル低)としている。*循環血液量増加療法(Hypervolemia)、血液希釈療法(Hemodilution)、高血圧療法(Hypertension)の3つを組み合わせて脳血流を維持・改善する方法 このほかにも、リハビリテーション診療の領域では、上肢機能障害のリハビリ効果を高めるためにAI技術の導入が進んでおり、脳卒中後の機能回復にブレイン・マシン・インターフェイス(BCI)を応用した訓練の推奨度がCからBへ上がった。BCIとは、脳と機械を直接つなぎ、脳内情報を読み取ることで脳機能を補填・増進させる技術の総称で、「たとえば、手にロボットを装着した患者が“手を動かしたい”と考える。すると脳波の変化をAIが読み取り、ロボットが指を曲げたり伸ばしたりする」と解説。「片麻痺の患者は“手を動かしたい”というイメージができなくなっているため、それを思い出させるためのBCIの活用はリハビリ効果を高める」と推奨度が上がった理由を述べた。ガイドライン改訂の経緯 本書は6年に1回ごとに改訂、2年ごとに追補版が出版される。2019年からガイドライン作成委員長を務める同氏は本書改訂を振り返り、「これまで2021年、2023年とマイナーアップデートにも携わってきたが、新たな知見が報告されるたびに脳卒中の治療可否において実臨床とガイドラインで乖離が生じはじめ、先生方の誤解を招く可能性があった。また、これまでは追補には新たな知見だけを掲載していたが、矛盾点などが存在する項目はあわせて改訂することになり、今回は"改訂版”と表現を変えた」と説明した。 なお、日本脳ドック学会が脳卒中や認知症予防などに役立つ最新知見をまとめた『脳ドックのガイドライン2026』が2月26日に発刊されたので、あわせて一読されたい。

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アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾールの有用性~臨床試験結果の統合解析

 米国・ネバダ大学のJeffrey L. Cummings氏らは、ブレクスピプラゾール2mg/日または3mg/日のアルツハイマー病に伴うアジテーションの治療における有効性を評価するため、統合臨床試験データに基づく解析を実施した。Clinical Drug Investigation誌2026年3月号の報告。 介護施設または地域社会に居住するアルツハイマー病に伴うアジテーションを有する患者を対象に、ブレクスピプラゾール固定用量を投与した2つの12週間多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照第III相試験のデータを統合した。有効性評価項目には、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)合計スコア(29種のアジテーション症状の頻度を測定)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)スコア、CMAI因子スコア(攻撃的行動、身体的非攻撃的行動、言語的興奮行動)、治療反応率を含めた。感度分析には、フレキシブルドーズを用いた3つ目の試験を含めた。 主な結果は以下のとおり。・対象患者621例がブレクスピプラゾール群(368例)またはプラセボ群(253例)にランダムに割り付けられており、治療完了率はそれぞれ87.0%(320/368例)、88.9%(225/253例)であった。・ベースラインのCMAI合計スコアの平均値は、ブレクスピプラゾール群で76.9±17.2、プラセボ群で75.5±18.0であった。・12週間にわたるCMAI合計スコアの改善の最小二乗平均値は、ブレクスピプラゾール群で-22.8±0.8、プラセボ群で-18.3±1.0であり、治療群間の最小二乗平均値差は-4.50(95%信頼区間:-6.90~-2.10、p<0.001、Cohen's d=0.30)であった。・CGI-S、CMAI因子、治療反応解析においても、ブレクスピプラゾール群はプラセボ群と比較し、改善度が高いことが示された。・感度解析は、この結果を支持するものであった。 著者らは「アルツハイマー病の大規模統合サンプルにおいて、ブレクスピプラゾール2mg/日または3mg/日投与は、プラセボ群と比較して、12週間にわたりアジテーション症状を軽減することが示された」と結論付けている。

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筋強直性ジストロフィー1型、del-desiranが有望/NEJM

 筋強直性ジストロフィー1型(DM1)は、常染色体優性遺伝性の進行性神経筋疾患であり、DMPK遺伝子の3'-非翻訳領域におけるCTGリピートの伸長によって発症する。本症は、身体機能障害を引き起こし、余命を短縮させるが、承認された治療法はない。米国・Virginia Commonwealth UniversityのNicholas E. Johnson氏らは「MARINA試験」において、本症の治療薬として開発中の抗体-オリゴヌクレオチド複合体delpacibart etedesiran(del-desiran[AOC 1001])の筋組織への送達が一部の患者で確認され、異常な選択的スプライシング(ミススプライシング)の改善を示唆するデータを得たことを報告した。del-desiranは、抗体部分がトランスフェリン受容体1を、オリゴヌクレオチド部分がDMPK遺伝子mRNAを標的とする。研究の成果は、NEJM誌2026年2月19日号で発表された。米国の無作為化プラセボ対照第I/II相試験 MARINA試験は、米国の8施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第I/II相試験(Avidity Biosciencesの助成を受けた)。2021年10月~2022年9月に、年齢18~65歳、遺伝子診断でDM1と診断され、DMPK遺伝子のCTGリピートが100回以上に伸長した患者38例(平均年齢42[±12.9]歳、女性28例[74%])を登録した。 本試験は2つのパートから成り、パートAではdel-desiran 1mg/kg体重を1回静脈内投与する群(6例)またはプラセボ群(2例)に、パートBではdel-desiran 2mg/kg体重を3回(1、43、92日)静脈内投与する群(9例)、同4mg/kg体重を3回(同)静脈内投与する群(13例)、またはプラセボ群(8例)に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは安全性であった。副次エンドポイントは、del-desiranの薬物動態・薬力学的プロファイル、および1mg群では投与43日目、2mg/4mg群では投与92日目(2回目投与後49日目)における下流の異常スプライシングパターンの変化とした。重篤な有害事象の1件が試験薬関連と判定 38例中35例に軽度または中等度の有害事象が発現した。プロトコールで規定された投与中止基準に該当した患者はいなかった。投与期間中に、del-desiranの投与を受けた患者のうち5例以上に発現した有害事象は、筋生検に伴う痛み、貧血、新型コロナウイルス感染症、頭痛、悪心であった。 2mg群の1例と4mg群の1例に、重篤な有害事象が1件ずつ発現した。前者は試験薬との関連はないと判定された。後者では、初回投与後24時間以内に記憶力低下と視覚障害の症状が発現し、数日後の頭部MRI検査で視床外側膝状体核領域の両側性の虚血とそれに続く出血性変化の可能性が推定され、試験薬関連と判定されたためその後の投与を中止した。 これにより、米国食品医薬品局によって新規の患者登録が一時的に停止されたが、すでに登録されていた参加者は投与の継続が許可された。この停止措置は、その後解除されている。DMPK mRNAの低下率は3つの用量で同程度 筋生検標本におけるDMPK mRNAレベルの変化率は、del-desiran 1mg群で-46%、2mg群で-44%、4mg群で-37%といずれも同程度に低下し、プラセボ群では0.9%増加した。また、低分子干渉RNA(siRNA)の血漿中最大濃度および曲線下面積は用量の増量に比例して増加し、尿中からは微量のsiRNAが回収された。 ベースラインからの平均複合ミススプライシングスコアの減少率は、1mg群で3%、2mg群で17%、4mg群で16%、プラセボ群で7%であり、2mgおよび4mg群におけるミススプライシングの改善が確認された。 著者は、「総DMPK mRNAの明らかな減少と、オルタナティブスプライシング調節の回復は、siRNAが筋組織に送達されたことを示すと考えられる」「これらのデータは、臨床研究の継続を支持するものである」としている。 現在、MARINA試験を完了した参加者を対象に、より長期の治療効果を評価する目的で、非盲検下の延長試験が進行中で、並行してdel-desiran 4mg/kg体重の8週ごとの投与を評価する二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(HARBOR試験)が進められているという。

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コーヒーは片頭痛のリスク因子か?

 コーヒー摂取と頭痛との関連性については、依然として議論が続いている。カフェインは、鎮痛作用と血管収縮作用を有しているが、過剰摂取は頭痛の有病率上昇と関連しているといわれている。台湾・高雄医学大学のPin-Rong Chen氏らは、台湾の大規模コホートにおいて、コーヒー摂取と頭痛の関連性を調査するため、横断研究を実施した。International Journal of Medical Sciences誌2026年1月1日号の報告。 台湾バイオバンクより30〜70歳の2万7,109例の参加者からデータを取得した。頭痛の状態とコーヒー摂取パターン(種類、頻度、1日当たりの摂取量など)は、構造化質問票を用いて評価した。関連性の評価には、多変量ロジスティック回帰モデルを用いた。 主な内容は以下のとおり。・参加者のうち、頭痛を訴えた例は19.7%であった。・コーヒーの摂取は、頭痛のオッズ比増加と有意な関連が認められた(オッズ比:1.21、95%信頼区間:1.14〜1.29、p<0.001)。・ブラックコーヒー、ノンデイリークリーマー入りコーヒー、ミルク入りコーヒーを含むすべての種類のコーヒーは、頭痛リスクの上昇と関連していた。・1日1杯、2杯、3杯以上のコーヒーの摂取も、頭痛のオッズ比増加と関連していた。・コーヒーの頻繁な摂取(毎日または毎週)は、頭痛のオッズ比増加と関連していたが、毎月の摂取は関連していなかった。・サブグループ解析では、65歳以上、糖尿病、高血圧、うつ病、アルコールや紅茶の摂取歴のある例において、コーヒーの摂取と頭痛の間に有意な関連は認められなかった。 著者らは「コーヒーの摂取量と頻度の両方が頭痛の発症率増加と関連していることが示唆された。とくに、頭痛を起こしやすい例にとっては、個別のカフェイン摂取の推奨が重要である」としている。

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第302回 老父に認知症治療薬は必要か、医療ジャーナリストの葛藤

INDEX父のMCIが進行認知症治療薬、服用させるべき?抗凝固薬の副作用と思しき鼻出血医療知識を持っているがゆえの悩み父のMCIが進行「病にかかった患者とその家族は時に藁にもすがりたい思いを持つ」医療者ならば、こうしたことは数多く経験しているだろう。私自身は医療者ではないものの、医療者の傍らで何度か経験している。そのため、上記の思いを念頭に一般向けの記事執筆では患者と家族の期待値を過度に高めないよう気を配っている。むしろ、過度に期待値を下げるように記事を執筆していることがほとんどかもしれない。しかし、やはり当事者になると気持ちがざわざわする。何のことかと言えば、以前から本連載で触れている、認知機能低下と慢性心不全を抱える父親のことである。実は老老介護をしている母親の負荷軽減も考え、一昨年末から私は地元・仙台と東京の2拠点生活に移行した。私の主な役目は、父親の通院介助と娯楽のための外出に付き合うこと、母親の愚痴聞き役になることだ。昨年の真夏、私は母親とともに父親の通院に付き添った。2024年春に発症した脳梗塞の1年フォローアップ外来のためだった。脳神経内科医からは脳梗塞のほうは現時点で問題なしと言われたが、私だけが診察室に残り、ある相談をした。この時、父親はMRIを撮像していたため、今の父親の認知機能低下がどの水準にあるかを知りたかったのだ。父親が認知機能に関連した画像診断を受けたのは約7年前。この時にアルツハイマー型の軽度認知障害(MCI)と診断された。しかし、昨今の本人の症状を考えれば、もうその段階は過ぎているはず。私も含め家族はその後、半ば暗黙の了解のように検査を受けずに過ごしていた。むしろ診断を避けていたと言えるかもしれない。だが、今回MRIを撮像していたこともあり、この機しかないと思い、私はこれまでの事情を話したのだった。主治医はディスプレイ上でMRI画像をクリックしながら数分間眺めていた。そのうえでこう言った。「端的に言えば、そこ(MCI)からは一歩進んでいますね」「軽度アルツハイマー病という認識で良いですか?」「はい、そうなります」もともと覚悟していたため、「ああやっぱりか」という以上の感想はなかった。母親にも伝えたが、「まあ、そうだろうね」という反応だった。認知症治療薬、服用させるべき?この直後から私の頭に浮かび始めた命題が「コリンエステラーゼ阻害薬などの認知症治療薬の使用を検討すべきか」というもの。正直、これは悩ましい問題だった。もちろん私自身は、2004年のLancet誌に掲載されたドネペジル(商品名:アリセプト)のプラセボ対照無作為化二重盲検比較試験AD20001)のことなども一応は頭に入っている。ちなみに2年間のドネペジル投与の効果を評価した同試験の結果は、ドネペジル投与群でミニメンタルステート検査(MMSE)やブリストル日常生活動作スケール(BADLS)のスコアでプラセボ群に比べ有意差はあったものの、施設入所や障害進行では有意差は認められなかったというものだ。もっとも私個人からすると、施設入所はハードエンドポイントとは言い難いのだが…。父親が日常的に服用している抗凝固薬やSGLT2阻害薬はかかりつけの内科医から処方されており、その近傍には親戚の薬剤師が経営する保険薬局がある。私はまずこの薬剤師に相談してみた。身内だけに率直な意見が聞けると思ったからだ。彼は直截(ちょくせつ)にこう言った。「いやいや、飲まんほうが良いと思います。いつぞや聞いた、認知症は死への畏怖を和らげてくれる神のご慈悲だと」まあ、そういう考えもあるだろう。コリンエステラーゼ阻害薬では消化器症状の副作用で食が細ることがあるとも伝えられた。まあ、それも承知済みである。この時点でまだ腹落ちしてはいなかったので、かかりつけ医に相談してみることにした。かかりつけ医の法人は老人保健施設も運営しており、認知症治療薬の処方についても一定の経験があるのは間違いなかったからだ。親戚の薬剤師もこれに同意してくれた。抗凝固薬の副作用と思しき鼻出血ところが先月下旬、母親から「最近、父親の鼻血の頻度が多い」と連絡があった。すでに抗凝固薬の1日量は最低用量になっているとはいえ、その副作用を疑わねばならない。そこで私が何とか時間の都合をつけ、かかりつけ医へと連れて行った。かかりつけ医はやや耳が遠くなっている父親に対し、やや大きな声で「最近お加減はいかがですか?」と話しかける。父親は「まあまあです」と返した。そこでかかりつけ医と父親が軽く笑った後に、私から鼻血のことを伝えた。かかりつけ医から「両方の鼻の穴から? それとも片方の鼻の穴?」と尋ねられた。一瞬、何のことだろうと思いつつ、具体的な発症状況を母親に確認していなかったことに気付く。すると父親が「こっちから」と右の鼻の穴を指した。認知症になると、こうした本人の話が正しいのかどうか判別がしにくい(後に母親に確認したところ、これは正しかったらしい。しかも時折、鼻ほじりもしていたとのこと)。かかりつけ医からは「抗凝固薬の副作用が鼻血の主な原因ならば、両方の鼻の穴から出血していることも少なくないですね。片方からということは、鼻の粘膜が炎症を起こし、そこに抗凝固薬が影響している可能性があるので、一度、耳鼻科を受診してみる必要があるでしょう」と説明を受けた。そのうえで、服用中の抗凝固薬については、「一旦休薬する」「当面は現在のまま最低用量で服用を続け、早めに耳鼻科を受診する」の2つを提案された。今の認知機能レベルでこの選択ができない父親に代わり、私は後者を選択した。心房細動がある父親に対して、現状で抗凝固薬を休薬するほうがリスキーだと考えたからだ。これで鼻血の件はとりあえず決着。そのうえで私から相談があると切り出し、これまでの経緯を一通り説明し、「認知症治療薬の服用を検討すべきなのか?」を伝えた。かかりつけ医は「まあ、服用を始めて大きなデメリットが発生するとは考えにくい。本来ならばエーザイやリリーの…」と言いかけたので、私から「抗アミロイドβ抗体ですよね。でも父親はまさに脳梗塞をやっていますし」と返した。脳梗塞既往歴がある以上、当然、アミロイド関連画像異常(ARIA)の副作用リスクは高いと想定しなければならず、さらに本人は抗アミロイドβ抗体の慎重投与対象の高血圧症もある。そもそも90歳近い父親にあの高額な薬剤を使うことには、息子である私ですら相当な疑問を持つ。かかりつけ医は「そうなんだよね」と言うと、一呼吸置いてこう続けた。「最終的にはデメリットがないとしても、ご家族の期待値に応えられるほどなのかという話に尽きちゃうんだよね」まさに一番難しいところを突き付けられた。ちなみに母親はなるべく服用薬は最低限にしたいと常々言っている。私一人がこの場で決めることはできない。結局、まずは耳鼻科の受診を優先することで答えは先延ばしにした。医療知識を持っているがゆえの悩み診療所を出て父親の車いすを最寄り駅まで押しながら、ついつい「中途半端に医療のことを知らなかったほうが幸せだったかもしれない」「よく『正しく恐れよ』と言うが、今は『正しく迷っている』ということなのか?」などの思いがグルグル脳内を駆け巡る。当初耳にした時は何だか適当だなと思った、親類の薬剤師が言った「認知症は死への畏怖を和らげてくれる神のご慈悲」もまんざら外れていないのかも…と思ったりもする。そんなことを考えて目的地に着くと、SGLT2阻害薬を服用中でもある父親はトイレに行きたいと言い出した。もうこれには慣れっこになった。トイレの入り口まで連れて行き、父親を車いすから立たせて自力歩行でトイレに向かわせる。ふと時間を見ると、実家の最寄り駅までの電車の到着まであと5分。これを逃すと、次の電車まではしばし待たねばならなくなる。とはいえ、父親を急かすこともできない。「あー、早く戻ってこないかな」と思っていたところ、1分前にトイレから出てきた。幸い乗車ホームはトイレに面していた。慌てて左手に折りたたんだ車いすを持ち、右手で父親の体を支えながら目の前の乗車口へ無事に間に合った。が、実家に帰宅したら、父親がぶら下げていたはずのポシェットがない。「あれ?」と思い、とっさに「お父さん、カバンどこに置いてきた?」と尋ねると、脇にいた母親から肘で軽く小突かれた。ああ、もうそれを聞いても無駄なのだ。結局、四方八方に連絡を取り、最終的にかかりつけ医の最寄り駅の駅員がトイレで見つけて回収していたことがわかった。やれやれ。すっかりスローモーションになってしまった父親を自分の時間軸で行動させたことが失敗の最大の原因である。介護はかくも難しいものかと改めて思う。こう思ったのは何度目だろうか?しかし、私以上にそのことに直面している母親は、口頭やLINEメッセージで愚痴を言う一方で、その苦労を冗談交じりに笑い飛ばして話すこともかなり多い。父親の介護で私がため息をつきたくなる時、そんな母親がLINEで送ってきたメッセージを思い起こし、時には口ずさんでいる。「介護は続くよ。どーこまでも」参考1)Howe I, et al. Lancet. 2004;364:1214-1215.

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認知症の周辺症状に対する薬物療法【非専門医のための緩和ケアTips】第118回

認知症の周辺症状に対する薬物療法今回は認知症の周辺症状に対する薬物療法に関する質問をいただきました。緩和ケアの実践に限らず、多くの方が経験する状況だと思いますので、私なりに感じる点を述べてみます。今日の質問病棟にいると認知症の方が非常に多く、家族も対応に困りながらギリギリのところで生活しているのでは、と感じます。医療関係者の中には、認知症の周辺症状に対してすぐに抑肝散やクエチアピンを使うべき、とする方もいますが、やや疑問に感じます。質問ありがとうございます。ご家族の大変さにも目を向けているのは非常に重要な点ですね。私自身、認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)に対して抑肝散やクエチアピンといった薬物療法を行う場合、少し後ろめたさを感じることがあります。この思いの理由は何なのか、振り返って考えてみました。いくつかの論点があると思いますが、まずは「薬物療法の副作用が気になる」という点です。急性期病院に勤務していると、医原性の状態悪化で入院する方をよく見ます。良かれと思って処方された薬剤が理由で状態が悪化している方を見ると、「薬以外に取り組むべきことはないのか」「できるだけ非薬物療法で対応したい」と考えるのは普通かと思います。一方、薬物療法を求める医療者や家族の気持ちを考えてみましょう。これは2つの要素が大きいのではと思います。1つは、認知症に対する看護や介護の大変さが切実だからでしょう。とくに夜間対応の大変さは、ここで語るまでもありません。もう1つの要素としては、以前の回で紹介した「ユマニチュード」に代表される、認知症の非薬物療法に対する知識不足や不慣れさがあるのではないでしょうか。いずれにせよ、誰しも認知症の高齢者に薬を飲ませたくて仕方ないわけではなく、さまざまな要因で対応に困っているために薬物療法が求められているのだと思います。さて、では結局のところ認知症のBPSDへの薬物療法について、どのように対処すると良いのでしょうか? ここでのキーワードは「個別性」と「フォローアップ」です。認知症のBPSD=即薬物が必須、ではありません。一方で、抗精神病薬などを必要とする患者や状況もあるでしょう。関わる多職種で薬物療法の注意点を共有し、患者ごとに必要性を判断することが大切です。もう1つ、適切な薬物療法が提供されているか、非薬物療法にも取り組んでいるかといった、継続的なフォローアップも重要です。こうした取り組みを行う前提があれば、薬物療法も有効な選択肢になりうる、というのが私の見解です。今日のTips今日のTips周辺症状を伴う認知症患者へのケアは、薬物療法と非薬物療法のどちらも大切。

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第50回 AI単体なら「名医」でも、人間が使うと「凡人以下」に? 最新研究が明かすAI医療相談のリアル

医学部卒業試験で満点に近いスコアを取るほど優秀な最新のAI。しかし、一般の人が実際に体調不良を相談してみると、その精度は驚くほど下がってしまうことがわかりました。今回は、デジタル時代の医療情報の探し方について、最新の大規模研究のデータをもとに考えてみましょう。優秀なAIも、人間と対話すると精度が急降下Nature Medicine誌に興味深い論文が報告されました1)。イギリスの一般市民1,298人を対象に行われたこの研究では、参加者に「突然の激しい頭痛」や「長引く腹痛」といった10種類のよくある症状のシナリオを与え、私たちがよく用いるAI(GPT-4oなど)を使って「何の病気が疑われるか」「救急車を呼ぶべきか」といった判断をしてもらいました。すると、AI単体に医師の書いた抜けのないすべての情報を与えて回答させた場合、関連する病名を94.9%という高い確率で正確に言い当て、次に取るべき行動についても平均56.3%の正解率を示しました。これは優秀な成績だと思います。ところが、一般の参加者が対話形式で同じAIに相談した場合、病名を正解できたケースは34.5%以下、受診の緊急性を正しく判断できたのは44.2%以下にまで急降下してしまったのです。さらに皮肉なことに、AIを使わずに従来のインターネット検索などで自力で調べたグループでは、AIを使ったグループよりも約1.76倍正確に病名を特定できていました。AIに尋ねるより、Googleなどで自分で調べたほうがよっぽど正確だったのです。なぜすれ違うのか? 見えてきた課題なぜ、これほど賢いと言われるAIを使いながら、検索エンジンにすら負けてしまうのでしょうか。論文のデータからは、AIと人間の「コミュニケーションの壁」が見えてきます。まず、利用者側の問題として、AIに十分な情報を伝えられていないケースが多かったことがわかりました。分析した30件の会話サンプルのうち、16件では最初のメッセージに症状の一部しか伝えられていませんでした。たとえば胆石の症状を持つ参加者が「食後に激しい胃痛があり、嘔吐することもある」とだけ伝え、痛みの場所・強さ・頻度という重要な情報を省いてしまったケースがありました。医師はそれらの情報が不足している場合に問診で必要な追加情報を引き出しますが、AIはそこまで積極的に聞き返さずに結論を導き出してしまうことが多く、結果として的外れなアドバイスにつながっていました。次に、AIが正しい答えを含めていたとしても、利用者がそれを最終的な回答として選択しなかったケースも確認されました。AIは複数の病名候補を提示しましたが、利用者が提示された候補の中から正しいものを選び出すことができていなかったのです。さらに衝撃的なケースとして、まったく同じような症状(激しい頭痛、首の硬直、光過敏)を伝えた2人の参加者に対し、GPT-4oがまったく逆のアドバイスを返したことも記録されています。一方の参加者には「暗い部屋で安静にして」と指示し、もう一方には「脳出血の可能性があるので今すぐ救急へ」と適切なアドバイスをしていました。違いは「突然」という一言があったかどうかだけでした。AIの回答がわずかな表現の差で大きく変わる「不安定さ」が、実際の使用場面での危険性として浮かび上がりました。本当に脳出血のケースだったとしたら、暗い部屋で安静にしていたら命取りになってしまいます。もちろん、この研究にも限界はあります。実際の急病患者ではなく架空のシナリオを用いた実験であるため、本物のパニックや強いストレス下での行動を完全に再現できているわけではありません。しかし、そのような場面では、冷静に情報を提示できる可能性はさらに低くなるため、AIの正確性はさらに下がる懸念があります。いずれにせよ、「最新AIの医学知識がどれほど充実していても、一般人がそれを使って正しい判断を下せるわけではない」という事実をデータをもって突き付けた点において、きわめて重要な警鐘だと言えます。AI時代における私たちの身の守り方では、私たちはこの未完成な「AIドクター」とどう付き合っていけばよいのでしょうか。第1に、AIの回答は不完全で一貫性に欠ける場合があるということを認識しておくのが大切でしょう。多くの一般ユーザーは医療者ではないため、診断の鍵となる重要な情報を無意識に省いてしまいます。その結果、同じ症状でも伝え方によってまったく異なるアドバイスが返ってくる可能性があることを念頭に置く必要があります。第2に、AIが複数の病名候補を提示しても、その中から正しいものを選ぶのは医学的知識のない一般人には難しいという点です。AIはもっともらしい候補をいくつも挙げますが、最終的な回答としてどれが自分に当てはまるのかをユーザー自身が見極めるのは至難の業であることがデータでも示されています。第3に、緊急性の判断を誤るリスクがあることです。今回の実験でも、ユーザーが症状の緊急性を過小評価する傾向が確認されました。AIがもっともらしい理由で「自宅で様子を見て」と言っても、あなたの「いつもと違う」という直感の方が正しいことは多々あります。テクノロジーは確かに進化していますが、自分の身を守る最後の砦は、依然として自身の体の声に耳を傾けることと、信頼できる医療専門家に相談することでしょう。AIはあくまで「相談前のメモ帳」程度に捉え、上手に距離を保ちながら付き合っていくのが、いま私たちが持っておくべきリテラシーなのだと思います。1)Bean AM, et al. Reliability of LLMs as medical assistants for the general public: a randomized preregistered study. Nat Med. 2026;32:609-615.

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デュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬発売/中外

 中外製薬は、2026年2月20日にデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療を目的とした再生医療等製品のデランジストロゲン モキセパルボベク(商品名:エレビジス点滴静注)を発売した。投与対象は、DMDのうち、エクソン8および/またはエクソン9の一部または全体の欠失変異を有さず、抗AAVrh74抗体が陰性である3歳以上8歳未満の歩行可能な患者となっている。また、本製品は2025年5月13日に条件および期限付承認に該当する製造販売承認を取得している。 DMDは、小児の早期から急速に進行する、希少な遺伝性の筋疾患であり、全世界で男児の約5,000人に1例程度で発症するといわれ、女児での発症は非常にまれな疾患である。DMDでは、筋肉にかかわるタンパク質であるジストロフィンの産生に影響を及ぼすDMD遺伝子の突然変異が原因で発症する。ジストロフィンは、筋線維を強化し、筋収縮時の損傷から保護するタンパク質複合体の重要な成分であり、DMD遺伝子の変異により、DMDでは機能性ジストロフィンを体内で産生できなくなり、筋細胞は損傷に対する感受性が高まり、筋組織の瘢痕化や脂肪化が徐々に進行する。 主な症状としては、歩行能力、上肢機能、肺機能、心機能が失われ、致死的な転帰をたどる。DMDの患者はフルタイムでの介護が必要となる。また、学業や仕事や家庭生活を行うことが困難となり、抑うつや身体的な痛みを患うこともある。 今回発売されたデランジストロゲン モキセパルボベクは、1回の投与で疾患の進行に伴う不可逆的な筋障害が生じる前にDMDの原因となるジストロフィンの欠損を補うよう設計された治療法となる。<製品概要>一般名:デランジストロゲン モキセパルボベク販売名:エレビジス点滴静注禁忌・禁止(一部を抜粋):ジストロフィン遺伝子のエクソン8及び/又はエクソン9の一部又は全体が欠失している患者効能、効果又は性能:デュシェンヌ型筋ジストロフィーただし、以下のいずれも満たす場合に限る・抗AAVrh74抗体が陰性の患者・歩行可能な患者・3歳以上8歳未満の患者用法及び用量又は使用方法:通常、体重10kg以上70kg未満の患者には1.33×1,014ベクターゲノム(vg)/kgを、体重70kg以上の患者には9.31×1,015vgを、60分から120分かけて静脈内に単回投与する。本品の再投与はしないこと(体重別の投与量の表は省略)。承認日:2025年5月13日薬価基準収載日:2026年2月20日発売開始日:2026年2月20日薬価:1患者当たり3億497万2,042円製造販売元:中外製薬株式会社

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第304回 iPS細胞治療の心筋シートとドパミン神経前駆細胞に「仮免許」、承認期限7年、待ち受ける有効性証明の高くて険しい壁

マスコミの多くは「世界初」を喧伝、心臓病やパーキンソン病の患者を登場させて「期待感」を語らせるこんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。冬季オリンピックが終わってしまいましたね。日本時間では深夜から早朝にかけての競技が多く、テレビ観戦するにはなかなか大変でしたが、スピードスケートの高木 美帆選手の試合を中心にいくつかの競技をライブで観ました。個人的に興味があり応援していたのは女子のチームパシュート(団体追い抜き)です。3人で走る姿が競輪のラインに似ているのと、1周ごとに相手チームとの差が目視できてハラハラするのがこの競技の魅力です。準決勝でオランダにわずか0.11秒差で負けましたが、3位決定戦では米国に完勝、「銅だ!すごい!」とマスコミはこぞって高木選手らを祝福しました。しかし、そうした祝福の陰で厳しい批評もありました。2月20日付の日本経済新聞朝刊スポーツ面のコラム「透視線」で日体大教授の青柳 徹氏(高木選手の日体大時代の恩師)は銅メダルについて「もっといい色にできるはずだし、やれることがあったのではないか」と書き、「最後の3人目のライン通過時が記録となるため、縦一列に並ぶより、最後の直線で後ろの選手が横に出て先頭に詰めた方がわずかでもタイムは縮まるはずだ」と縦一列ゴールに疑問を投げ掛けていました(優勝したカナダは確かにこの方式でした)。メダルを取っても厳しい言葉を掛けられるのは、恩師だからこそと言えそうです。それにしても、後ろの2人の選手が前の選手のお尻を押すプッシュ戦術や、ゴール前にバラける戦術など、チームパシュートという競技の面白さの一端を知ることができた冬のオリンピックでした。さて、今回は先週、製造販売が了承されたiPS細胞製品について書いてみたいと思います。厚生労働省の薬事審議会再生医療等製品・生物由来技術部会は2月19日、iPS細胞から作った心臓病とパーキンソン病の再生医療製品2製品について、条件及び期限付きで製造販売を承認することを了承しました。2製品は近日中(1〜2ヵ月以内)に厚労相が正式に承認する予定です。承認されればiPS細胞として世界初、ES細胞を含む多能性幹細胞としても世界初の承認となるそうです。マスコミの多く(とくに民放のニュース)は、「世界初」を喧伝、心臓病やパーキンソン病の患者を登場させて「期待感」を語らせるなど、まるで金メダルを取ったかのような大騒ぎぶりでした。果たして、そんなに大きな期待を抱いてもよい「承認」なのでしょうか。左室駆出率が移植前と比較して改善していると評価された患者数は8例中2例のリハート製造販売が了承されたのは、大阪大学発のベンチャー、クオリプスが重症心不全を対象に承認申請していた他家iPS細胞由来心筋細胞シートの「リハート」と、住友ファーマがパーキンソン病を対象に承認申請していた他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」です。リハートは京都大学iPS細胞研究財団が提供している他家iPS細胞株を心筋細胞に分化誘導し、未分化細胞を除去した上でシート状に成形した製品。標準治療で効果不十分な虚血性心筋症による重症心不全の治療を効能・効果または性能としています。開胸手術によって、シート3枚を患者の心臓表面に移植して使います。大阪大学大学院医学系研究科の澤 芳樹名誉教授の研究成果を基にしており、昨年の大阪・関西万博での展示でも大きな話題となりました。条件及び期限付承認の根拠となった臨床試験の成績では、主要評価項目である、移植後26週時点の心エコー図検査によるLVEF(左室駆出率)が移植前と比較して改善していると評価された患者数は8例中2例でした。その他の項目も踏まえ有効性を評価した結果、「有効性が示唆されると判断された」ものの、被験者が少なかったことから条件及び期限付承認となりました。承認期限は7年で、「正式承認を申請するまでの期間、リハートを使用する全症例に対する製造販売後承認条件評価を行うこと」、「正式承認を申請するまでの期間、リハートの作用機序を反映する生物学的特性に関して情報収集すること」などの条件が付けられ、「リハート群75例と対照群150例を比較する臨床研究として使用成績調査を行う」などの市販後調査も求められました。6例について主要評価項目でパーキンソン病の重症度を示すスコアが改善したアムシェプリ一方、アムシェプリは京都大学iPS細胞研究財団の髙橋 淳所長が開発を主導した薬剤です。同財団が提供している他家iPS細胞株からドパミン神経前駆細胞を誘導して作製します。「レボドパ含有製剤を含む既存の薬物療法で十分な効果が得られないパーキンソン病患者の運動症状の改善」を効能・効果または性能としています。ドパミン神経前駆細胞を定位脳手術により、両側の被殻に移植(大脳被殻片側あたり5.4×10^6個を目標)して使います。ドパミン神経前駆細胞が患者の脳に生着し、ドパミンを産生して治療効果を示すことが期待されています。条件及び期限付承認の根拠となった臨床試験の成績では、7例を対象とし、片側にしか投与しなかった患者を除いた6例について、主要評価項目でパーキンソン病の重症度を示すスコアが改善したとのことです。また、6例全例で、移植後12ヵ月・24ヵ月時点で他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞が大脳被殻に生着していました。こちらも被験者が少なかったことから条件及び期限付承認となりました。承認期限も同じく7年で、「正式承認申請までの期間、アムシェプリを使用する全症例に対する製造販売後承認条件評価を行うこと」などの条件が付けられ、「既存の薬物治療で十分な効果が得られなかったパーキンソン病患者に対してアムシェプリの有効性と安全性を評価する製造販売後臨床試験」、「アムシェプリが移植された全ての患者に対する使用成績調査」などの市販後調査も求められました。なおリハートと異なり、ドパミンの作用がすでに明確であることから、作用機序の解明は承認条件に含まれませんでした。日本独自の再生医療等製品の条件及び期限付承認制度のおかげ日本経済新聞や朝日新聞などの報道では、記事の見出しに「仮免許」という言葉が使われています。リハート、アムシェプリともに被験者は1桁と少なく、「症状が改善した」と言っても比較対象試験が行われているわけではないので「効果あり」と科学的に判定されたわけではありません。7年以内にそこを証明しないと「仮免許」は取り上げられてしまいます。「承認」とは言え、なかなかに厳しい「条件及び期限」と言えます。そんな不十分な成績なのに「承認」されたのは、日本独自の再生医療等製品の条件及び期限付承認制度のおかげと言えます。2014年11月、薬事法が改正されて薬機法となった際に新たに導入された同制度は、対象患者が少なかったり対照群の設定が難しかったりなどで一般的な規模の第III相臨床試験を実施できない場合などに活用される仕組みです。有効性の確認前でも、早期の臨床試験データから有効性が推定されれば、条件や期限付きで承認が与えられますが、7年を超えない範囲で有効性、安全性を検証した上で、再度承認申請して正式承認を取得する必要があります。条件及び期限付承認を取得した製品はこれまで6つ、正式承認に至った製品はなく2つは撤退資金、労力、時間がかかる第III相臨床試験を実施しなくても製品を販売できる仕組みとして、再生医療等製品の開発に取り組む製薬メーカーは大きな期待をかけ、活用してきた同制度ですが、10年以上を経てその結果は芳しくありません。条件及び期限付承認を取得した製品はこれまで6つあるものの、有効性を確認して正式承認に至った製品はゼロです。「厚労省部会、他家iPS細胞由来のクオリプスの心筋細胞シートと住友ファーマのドパミン神経前駆細胞の条件及び期限付承認を了承」のタイトルで2月22日、今回の期限付承認を報じた日経バイオテクは、同制度について「近年は、条件及び期限付承認を取得しても、開発企業は安心できない実情が浮き彫りになってきた。というのも、条件及び期限付承認を取得して本承認を目指していた、アンジェスの『コラテジェン』(ベペルミノゲンペルプラスミド)とテルモの『ハートシート』(ヒト[自己]骨格筋由来細胞シート)が、それぞれの承認期限近くの2024年6~7月、相次いで市場から撤退したためだ。(中略)2製品が撤退したのは、市販後調査で良好なデータを示せなかったことの影響が大きい」と書いています。国としては、今のタイミングでiPS細胞治療の芽を摘んでしまうという選択肢はなかったのかもiPS細胞治療については、本連載の「第282回 なかなか実用化にこぎつけられないiPS細胞治療、神戸アイセンター病院の網膜細胞治療について『先進医療』とするのは『不適』の判断」で、神戸アイセンター病院の網膜細胞治療が昨年8月、厚生労働省の先進医療技術審査部会において「先進医療」とするのは「不適」であると判断されたというニュースを取り上げました。この時は、「治っているかどうか患者が実感できない高額な治療法に、先進医療とは言え、保険診療を併用させることはNG」という判断だったわけですが、今回については「治っているかどうかよくわからないが、とりあえず承認しておくから7年で有効性をちゃんと証明しろ」ということのようです。随分無責任な「仮免許」と言えますが、うがった見方をすれば、これも高市政権の成長戦略の影響ということができるかもしれません。政府の「日本成長戦略会議」において「直ちに実行すべき重要施策」として挙げられた17項目の戦略分野の中には「合成生物学・バイオ」と「創薬・先端医療」が入っており、「さあこれから」という時に、iPS細胞治療の芽を摘んでしまうという選択肢は国としてはなかった、と見る向きもあります。テルモのハートシートに比べ、リハートの市販後調査のエンドポイントはなぜだか緩いiPS細胞治療の業界に詳しい知人に、リハート・アムシェプリの正式承認の可能性について尋ねたところ、「リハートと類似の製品で、骨格筋由来細胞シートだったテルモのハートシートが良好なデータを示せず撤退を余儀なくされた理由の1つは、市販後調査において心臓疾患関連死までの期間など、かなりハードなエンドポイントを課せられていたためだ。リハートの市販後調査のエンドポイントは、なぜかそこまでハードに設定されておらず、とても緩い印象だ。本当に効くかどうかは別にして、ハートシートに比べると承認のハードルは低いと言える。一方、アムシェプリは、パーキンソン病の重症度を評価する国際尺度がエンドポイントに課せられているので、そこそこハードルは高い印象だ」と話していました。エンドポイントを低くして、承認を容易くしたとしても、実際の効きが悪ければ医師は使用しませんし、世界でも売れないでしょう。オリンピックと同様、世界標準で戦う必要がある製品だとしたら、手心(かどうかはわかりませんが)は結局はマイナスに働くのではないでしょうか。iPS細胞治療の実用化に向けては、長く険しくゴールが見えないレースがまだまだ続きそうです。

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片頭痛予防に有効性と安全性のバランスが最もよいCGRP関連抗体薬は?

 反復性片頭痛は、生活の質を著しく低下させる神経疾患である。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的とするモノクローナル抗体薬は、反復性片頭痛の予防と治療に有効性が示されている。パキスタン・Islamic International Medical CollegeのIshwa Shakir氏らは、反復性片頭痛に対する各CGRP関連抗体薬の有効性および安全性を比較するため、ランダム化比較試験(RCT)のネットワークメタ解析を実施した。European Journal of Clinical Pharmacology誌2026年1月17日号の報告。 2024年9月にPubMed、Cochrane、Embaseデータベースよりシステマティックに検索し、反復性片頭痛に対するCGRP関連抗体薬に関するRCTを特定した。有効性(1ヵ月当たりの片頭痛日数の変化)と安全性(有害事象発現率)を評価するため、ネットワークメタ解析を実施した。オッズ比(OR)と累積順位曲線下面積(SUCRA)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・16件の研究(9,123例)をネットワークメタ解析に含めた。・ガルカネズマブ(240mg)は、最も高い有効性を示した(標準化平均差:0.5012、p<0.0001)。・フレマネズマブ(225mg)は、片頭痛日数の50%以上の減少のオッズが最も高かった(OR:3.1684、p<0.0001)。・エレヌマブ(28mg)は、最も優れた安全性プロファイルを示した(OR:0.6815、p=0.2220)。・フレマネズマブは、有効性(SUCRA:84.6%)と安全性(SUCRA:61.8%)の両方で最も評価が高かった。 著者らは「フレマネズマブは有効性と安全性のバランスが最も優れている。今後、フレマネズマブの長期試験の実施が望まれる」と結論付けている。

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蛋白尿の進行が認知機能低下と独立して関連

 慢性腎臓病(CKD)患者を対象とした前向きコホート研究により、CKDの重症度が認知機能障害の発症リスク上昇と関連し、とくに蛋白尿の進行が注意力・処理速度および実行機能の低下と独立して関連することが、米国・Tulane University School of Public Health and Tropical MedicineのZhijie Huang氏らにより示された。JAMA Network Open誌2026年2月17日号掲載の報告。 これまでの研究により、CKDが認知症や認知機能低下のリスク因子となる可能性が指摘されているが、CKD患者のみを対象に前向きに検討した研究は限られている。そこで研究グループは、推算糸球体濾過量(eGFR)の低下と尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)の上昇が認知機能障害の発症率上昇と関連するという仮説を立て、eGFRおよびUPCRに基づくCKD重症度と認知機能障害の発症との関連を検討した。 対象は、Chronic Renal Insufficiency Cohort(CRIC)研究に2003~08年および2013~15年に登録された21~79歳のCKD患者5,607例であった。ベースラインで認知機能障害を有する患者は除外した。統計分析は2024年8月~2025年12月に実施した。 認知機能は、全般的認知機能をModified Mini-Mental State Examination、言語記憶・遅延再生をBuschke Selective Reminding Test、注意力・処理速度をTrail Making Test A、実行機能をTrail Making Test Bで年1回または2年ごとに評価した。各検査において、ベースライン時のコホート全体平均から1SD以上低い値を示した場合を認知機能障害の発症と定義した。Cox比例ハザードモデルを用い、人口統計学的因子や生活習慣、臨床因子を段階的に調整して解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・参加者5,607例のうち、男性は3,159例(56.3%)、平均年齢は59.6歳(SD 10.8)、追跡期間中央値は各検査で4~6年であった。・対数変換したUPCRが1SD上昇するごとに、注意力・処理速度障害のリスクは21%増加し(ハザード比[HR]:1.21、95%信頼区間[CI]:1.05~1.41、p=0.01)、実行機能障害のリスクは16%増加した(HR:1.16、95%CI:1.02~1.31、p=0.02)。・eGFRが1SD低下するごとに、注意力・処理速度障害のリスクは21%増加した(HR:1.21、95%CI:1.05~1.38、p=0.006)。・CKDステージ別では、G4~5はG1~2と比較して、注意力・処理速度障害リスクが54%増加した(HR:1.54、95%CI:1.05~2.27、線形傾向のp=0.03)。・UPCRと認知機能障害との関連はeGFRで調整した後も維持された一方、eGFRと注意力・処理速度との関連はUPCRで調整した後に大きく減弱した。・eGFRとUPCRを組み合わせた統合解析では、両方が最も進行した群(eGFRが60mL/分/1.73m2未満かつUPCRが150mg/g以上)は、基準群(eGFRが60mL/分/1.73m2以上かつUPCRが150mg/g未満)と比較して、全般的認知機能障害のリスクが38%増加し(HR:1.38、95%CI:1.05~1.82、p=0.003)、言語記憶・遅延再生障害のリスクが54%(HR:1.54、95%CI:1.08~2.19、p=0.02)増加した。・これらの関連は、年齢、性別、人種、糖尿病の有無にかかわらず一貫して認められた。 これらの結果より、研究グループは「CKDの重症度が認知機能障害の発症率増加と前向きに関連することが示された。これらの知見は、CKDの重症度が認知機能低下の危険因子であることを強調するものである」とまとめた。

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孫の世話は祖父母の脳に良い?

 孫の世話をすることは脳の老化に良い影響を与え、認知機能の低下を防ぐ可能性があるようだ。新たな研究で、孫の世話をする高齢者は、世話をしていない高齢者と比べて、記憶力や言語能力のテストのスコアが高いことが示された。興味深いことに、このような効果は、孫の世話をする頻度とは関係していなかったという。ティルブルフ大学(オランダ)のFlavia Chereches氏らによるこの研究結果は、「Psychology and Aging」に1月26日掲載された。 Chereches氏は、「われわれにとって最も印象的だったのは、孫の世話をすること自体が、どのくらい頻繁に世話をしたか、あるいは具体的にどのような活動を一緒に行ったかよりも、認知機能に影響を与えるように見えたことだ」とニュースリリースで述べている。 この研究では、英国の高齢者を対象とした長期研究(English Longitudinal Study of Ageing;ELSA)に参加した50歳以上の祖父母2,887人(平均年齢67.46歳、祖母56.70%)のデータを用いて、祖父母による孫の世話と認知機能との関連を検討した。試験参加者は、2016年から2022年の間に3回、アンケートに回答し、認知機能(言語流暢性、エピソード記憶)の評価を受けた。アンケートでは、過去1年間に、親のいない状態で孫の世話をしたかどうか、どのくらいの頻度で世話をしたか、どのような活動を行ったかが尋ねられた。 その結果、世話の頻度にかかわらず、孫の世話をしている祖父母はいずれも、世話をしていない祖父母に比べて、言語流暢性とエピソード記憶のレベルが高く、世話をすること自体が高齢者の脳に良い影響を与える可能性が示された。ただし、経時的に見た場合に認知機能低下が抑えられていたのは祖母のみであった。また、世話をする頻度と認知機能との関連を検討したところ、有意な関連は認められず、頻繁に世話をしているからといって影響が大きくなるわけではないことが示唆された。一方、世話の内容別に検討すると、孫との余暇活動や宿題の手伝いを頻繁に行っている祖父母では、頻度が低い祖父母に比べて言語流暢性とエピソード記憶のレベルが高かった。さらに、孫の食事の準備や学校への送迎を行う頻度が高い祖父母では、言語流暢性が高い傾向が見られた。 Chereches氏は、「さらなる研究によりこの結果が再現されるか確認する必要はあるが、もし祖父母による孫の世話に何らかの利点があるとすれば、それは、世話の頻度や具体的な活動内容よりも、孫の世話に関わる経験そのものに起因する可能性がある」と述べている。 Chereches氏はさらに、「支援的な家族環境の中で自発的に孫の世話をする場合と、世話が自発的ではなく負担に感じられるような、よりストレスの多い環境で世話をする場合とでは、祖父母に及ぶ影響は異なる可能性がある」と指摘し、祖父母の認知機能にもたらされ得る利点が、家族関係により影響されるのかを検討する必要があると述べている。

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コーヒーやお茶を飲むと認知症にならない?(サハラ砂漠のお茶)(解説:岡村毅氏)

 とても楽しい論文だし、科学的にもしっかり書いてある。一方で、ああそうですか、というのが私の正直な感想だ。例えるならば「夕方の天気を予測する因子を探したところ、傘を持っている人が多い日は、夕方から雨になる可能性が高いことが判明した!」と言われたような感じだ。そうかもしれないが、別に意味のある発見じゃないよな、ということだ。 あと、この論文は「コーヒーやお茶が認知症予防になる」とは一言も言っていない。しかしそのように誤読される危険があるという意味で、このコラムで取り上げる価値はある。 この論文が明らかにしたことは、「米国の医療職の長期コホートで、カフェイン入りコーヒーおよび茶の摂取量が多いことは、認知症リスクの低下と関連しており、カフェインレスコーヒーではそうではなかった」というだけのことだ。コーヒーやお茶を飲めば認知症にならないということではない。著者も「認知症予防」の「よ」の字も書いていない点はさすがである。 この論文からは、安定してカフェイン入りコーヒーやお茶といった嗜好品を飲み続けられる人は認知症にならないということはいえそうだ。こういうふうにもいえる。カフェイン入りコーヒーについていえば、長期にわたって働いている人、働けている人は認知症にならないから働けているわけだ。お茶についていえば、文化的な生活をしている人、できている人は、認知症にならないからできているわけだ。 カフェインの有無も面白い。カフェインレスコーヒーは、不眠や興奮などの有害事象はないため認知機能が低下しても飲めるということかもしれない。 この論文を読んで思い出したのは『サハラ砂漠のお茶』の寓話だ。私の愛読書であるポール・ボウルズの『シェルタリング・スカイ』に出てくる寓話だが、スティングのいたポリスというバンドが『Tea in the Sahara』という曲にしているので、それのほうが有名かもしれない。サハラ砂漠で完璧なお茶会をしようとするモロッコの女性の話だが、それは永遠にやって来ないという話である。コーヒーもお茶も認知症のことなど考えずに街で自然と飲めばよい、という気がする(わざわざ砂漠で飲まなくてもよいのだ)。

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多発性硬化症〔MS:multiple sclerosis〕

1 疾患概要■ 定義多発性硬化症(multiple sclerosis:MS)は、脳・脊髄・視神経からなる中枢神経系に炎症性脱髄が生じる慢性疾患である。病変は時間的多発性(再発)と空間的多発性(中枢神経系のさまざまな場所に病変が生じる)であることを特徴とする。自己免疫機序が病態の中心であると考えられているが、近年は神経変性機序の関与も推定されている。■ 疫学MSは若年成人に多く、20~40代で発症することが多い。女性に多く、高緯度地域で発症率が高い(わが国では北海道に多く、沖縄では少ない)。世界中で約300万人の患者が存在すると推定されている。従来は欧米に多い疾患とされてきたが、近年はアジア地域でも患者数が増加しており、わが国でも有病率は上昇している。診断技術の進歩に加え、環境因子の変化が背景にあると考えられている。■ 病因MSは遺伝的要因と環境因子が組み合わさって発症する多因子疾患である。特定の免疫関連遺伝子が発症リスクに関与する一方で、遺伝要因のみで発症が決まるわけではない。環境因子としては、ビタミンD不足、喫煙、肥満などが知られている。近年、Epstein-Barr virus(EBV)感染がMS発症と強く関連することが示され、免疫異常を引き起こす重要な因子と考えられている。■ 症状MSの症状は多彩であり、病変部位によって異なる。代表的な症状には、視力低下や眼痛(視神経炎)、手足のしびれや脱力、歩行障害、ふらつき、排尿障害などがある。また、易疲労感、疼痛、抑うつ、集中力低下など、外見からわかりにくい症状も多く、患者の日常生活や就労に大きな影響を与える。これらは看護師や薬剤師が関わるケアの場面でとくに重要な視点である。■ 分類MSは臨床経過により以下に分類される。1)再発寛解型(RRMS)再発と寛解を繰り返しながら少しずつ後遺症が蓄積する病型で、最も頻度が高い2)2次進行型(SPMS)RRMSの経過の後に、徐々に再発とは無関係の障害進行(progression independent of relapse activities:PIRA)が生じるようになった病型3)1次進行型(PPMS)発症初期からPIRAを認める病型、まれである以上の病型の理解は、治療方針を考えるうえで重要である。■ 予後現在は治療薬の進歩により、MSの長期予後は大きく改善している。しかし、PIRAの治療は開発途上にあるために、早期診断と治療介入が予後改善には重要である。近年は、治療初期から高い有効性を有する薬剤を導入する“early high-efficacy treatment(eHET)”の考え方が広まっている1)。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)MSの診断は除外診断が基本である。とくに視神経脊髄炎スペクトラム障害やMOG抗体関連疾患は臨床像が類似するため、鑑別が重要である。ほかにも鑑別すべき疾患は多岐にわたり、悪性リンパ腫などの腫瘍性疾患、脳血管障害、膠原病、神経サルコイドーシスや神経ベーチェット病といった炎症性疾患、感染症(梅毒、進行性多巣性白質脳症など)、さらに頸椎症性脊髄症や脊髄空洞症などの脊髄疾患、ミトコンドリア病、HTLV-1関連脊髄症(HAM)、脊髄小脳変性症などが挙げられる。診断には臨床経過、MRI検査、脳脊髄液検査を総合的に評価するMcDonald診断基準が用いられる。本基準の本質は「炎症性脱髄病変が時間的・空間的に多発していること」を確認する点にある。2024年改訂では早期診断を支援する内容が加えられたが、診断はあくまで臨床判断を補助するものであり、慎重な運用が求められる2)。3 治療MSの治療は、再発時に行う急性期治療と、再発や進行を予防する病態修飾療法に大別される。急性期には副腎皮質ステロイドの大量静注療法(ステロイドパルス療法)が行われる。効果が不十分な場合には血漿交換療法が選択されることもある。再発や障害進行を抑えるため、維持期には病態修飾薬が使用される。近年では有効性の高い薬剤が増えており、早期から治療を開始することの重要性が強調されている。わが国で承認されている主要な病態修飾薬を表にまとめる。服薬管理、副作用モニタリング、多職種による支援が治療継続に不可欠である。表 MSの主要な病態修飾薬画像を拡大する4 今後の展望現在、新しい作用機序をもつ治療薬や、より精度の高い画像診断・血液バイオマーカーの研究が進行している。また、EBVを標的とした治療やワクチン研究も注目されており、将来的には個別化医療の実現が期待される。近年、MSの診療は、再発抑制を主目的とした治療から、PIRAの抑制を含む長期的な機能予後改善を目指す方向へと大きく変化している。この流れの中で、治療および診断の両面で新たなアプローチが研究・開発されている。治療分野では、Bruton型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬が新たな病態修飾療法として注目されている。BTK阻害薬は、B細胞の活性化や抗原提示機能を抑制するだけでなく、中枢神経内のミクログリア活性化を抑制する作用を併せ持つ点が特徴である。現在、RRMSに加え、SPMSやPPMSを対象とした第III相臨床試験が進行中であり、既存治療では十分に抑制できなかった進行性病態への効果が期待されている。とくに、PIRAに対する治療選択肢としての位置付けが注目されている。診断分野においては、疾患特異性や病勢評価を高める新たなバイオマーカーの研究が進展している。MRIでは、central vein sign(CVS)やparamagnetic rim lesion(PRL)といった所見が、MSに特徴的な病態を反映する補助的画像指標として注目されている。これらは鑑別診断や慢性活動性病巣の評価に有用である可能性が示されている。一方、体液バイオマーカーとしては、血清・髄液中の神経フィラメント軽鎖(NfL)やκフリーライトチェーン(κFLC)が、疾患活動性や予後予測の指標として臨床応用に近付いている。今後は、これらの新規治療薬および診断技術を組み合わせることで、疾患活動性・進行リスクに基づく層別化医療や個別化治療がより現実的になると考えられる。MS診療は、再発を抑制する医療から、長期的な障害蓄積を最小限に抑える医療へと進化しており、今後も基礎研究と臨床研究の橋渡しが重要となる。5 主たる診療科主な診療科は脳神経内科であるが、眼科、泌尿器科、リハビリテーション科、精神科などとの連携が重要である。看護師・薬剤師を含めた多職種チーム医療が不可欠である。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト診療、研究に関する情報難病情報センター 多発性硬化症/視神経脊髄炎  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本神経学会(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)医薬品医療機器総合機構(PMDA)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)MSキャビン(MSCABIN)(多発性硬化症の総合情報サイト:情報共有、患者・支援者向け知識ベース)MS International Federation(国際疫学、研究動向、教育・啓発リソースなど医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報日本多発性硬化症協会(患者とその家族および支援者の会)1)Rotstein D, et al. Nat Rev Neurol. 2019;15:287-300.2)Montalban X, et al. Lancet Neurol. 2025;24:850-865.公開履歴初回2026年2月20日

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日本人片頭痛患者に対する抗CGRP mAbsの有効性と患者満足度

 抗カルシトニン遺伝子関連ペプチドモノクローナル抗体(CGRP mAbs)は、臨床試験および実臨床において片頭痛に対する有効性が確認されている。しかし、東アジアにおいては、頭痛頻度以外のデータは、依然として限られていた。慶應義塾大学の今井 俊吾氏らは、日本の実臨床における抗CGRP mAbsの長期的な有効性、忍容性、患者満足度を調査した。Journal of the Neurological Sciences誌2026年2月15日号の報告。 本単施設観察研究には、2021年8月〜2023年2月に、3種類の抗CGRP mAbs(エレヌマブ、ガルカネズマブ、フレマネズマブ)のいずれかを投与された片頭痛患者を登録した。ベースラインの人口統計学的特性および頭痛特性を収集し、治療成績、有害事象、片頭痛関連症状、患者満足度を経時的に評価した。 主な結果は以下のとおり。・登録された患者は、発作性片頭痛患者81例または慢性片頭痛患者69例を含む合計150例。そのうち40例に片頭痛の前兆が認められた。・1ヵ月当たりの片頭痛日数が50%以上減少した患者は、6ヵ月後で67例中36例(54%)、12ヵ月後で42例中22例(52%)であった。・多変量ロジスティック回帰分析では、治療反応群と非治療反応群における人口統計学的特性および頭痛特性の差の中で、3ヵ月後の治療反応率は6ヵ月後の治療反応率と関連していることが示唆された。・片頭痛関連症状および前兆は、抗CGRP mAbs投与開始後5ヵ月まで改善傾向を示した。・安全性については、注射部位反応は、1、6、12ヵ月時点でそれぞれ146例中35例(24%)、57例中14例(25%)、37例中4例(11%)に認められた。・患者満足度について「非常に満足」または「やや満足」と回答した患者は、1、6、12ヵ月時点でそれぞれ74%、92%、94%であった。 著者らは「片頭痛に対する抗CGRP mAbsの長期的な治療反応を予測するうえで、早期治療反応が果たす役割が明らかとなった。また、片頭痛の病態生理をより深く理解するためには、片頭痛の頻度に加えて、患者満足度と片頭痛前兆の頻度を記録することの重要性も強調した」としている。

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第49回 コーヒー好きの脳は老けにくい!? 13万人・40年の調査で判明した「理想の飲み方」

あなたは、コーヒーや紅茶を毎日飲む習慣がありますか? 何を隠そう、著者の私は1日3~4杯、あるいはそれ以上飲む日も珍しくありません。そんなコーヒー好きのあなたには、心躍るニュースになるかもしれません。もしコーヒーを飲んでいるだけで、認知症のリスクが下がるとしたら…? とくにコーヒーを愛してやまない私のような人間にとっては、豆を挽く手がいつもの2倍速になってしまうような話です。しかし、先走ってはいけません。物事には、常に「適量」や「条件」が伴います。それではここから、膨大なデータが指し示した、脳を守るための「理想的な飲み方」やその背景にあるメカニズムを、ひもといていきましょう。40年以上の追跡が明かした「一杯」の長期的メリット今回ご紹介する研究1)の特筆すべき点は、その調査期間の長さにあります。1980年代から2023年までという、人生の半分以上にも及ぶ歳月をかけて、看護師や医師といった医療従事者たち約13万人の食習慣と健康状態を克明に記録し続けてきました。それほど長い期間、多くの人を追いかけたからこそ、短期的な話ではない「本物の傾向」が見えてきたのです。分析の結果、カフェイン入りのコーヒーや紅茶を習慣的に飲んでいる人は、ほとんど飲まない人に比べて、将来的に認知症を発症するリスクが有意に低いことが示されました。最も多くコーヒーを飲んでいたグループ(1日4杯以上)では、ほとんど飲まないグループに比べて認知症のリスクが18%低下していたのです。これは単に「目が覚める」といった一時的な刺激の効果ではなく、数十年にわたる習慣が脳の構造的な老化に対して、何らかの保護的な役割を果たしたことを示唆するものだと思います。脳の若さを保つ「理想のライン」とカフェインの正体では、飲めば飲むほど脳は若返るのでしょうか。今回のデータが示唆したのは、必ずしもそうではなく、リスクの低下効果が最大化される「ちょうどよい量」が存在するかもしれないということです。研究チームの詳細な分析によれば、認知症リスクが最も低くみられていたのは、カフェイン入りコーヒーであれば1日に2~3杯程度、紅茶であれば1~2杯程度を嗜む層でした。それ以上たくさん飲んでもリスクは低いままでしたが、さらなる低下はみられず、効果は頭打ちになっていました。画像を拡大するまた、ここで注目したいのは、カフェインを除去した「デカフェ」のコーヒーでは、こうした明確なリスク低下との関連が認められなかった点です。このことから、脳を守る立役者の一人はやはりカフェインであると推察されています。カフェインには、アルツハイマー病の原因の一つとされるゴミ(アミロイドβ)が脳に溜まるのを防いだり、脳内の炎症を鎮めたりする働きがあることが以前から指摘されてきました。また、コーヒーに含まれるポリフェノールなどの成分が、血管の健康を保つことで間接的に脳を守っている可能性もあります。自身の感覚とテストが一致する、認知の衰えへの防御策今回の研究がさらに踏み込んだのは、医師に診断される「認知症」という段階に至る前の、より日常的な変化についても調査している点です。参加者本人が感じる「最近、以前より物忘れが気になるようになった」という主観的な衰えの感覚についても、コーヒーを飲む習慣がある人ほど、その不安を感じる割合が15%も低いという結果が示されています。さらに、電話を通じた客観的な知能テストにおいても、コーヒーや紅茶を好むグループは高いスコアを維持しており、その差は加齢による衰えを約0.6年分押し戻している計算になりました。わずかな時間に思えるかもしれませんが、1年近くも「聡明な自分」でいられる時間が延びる可能性があると考えれば、その積み重ねは計り知れません。私たちコーヒー愛好家が、一杯の香りに包まれて「頭がさえる」と感じるあの感覚は、単なる気のせいではなく、実際に脳のパフォーマンスを支える一助となっている証なのかもしれません。期待しすぎは禁物? 賢い付き合い方コーヒー好きにはたまらないこの結果ですが、冷静に受け止めるべきポイントも忘れてはなりません。この研究はあくまで「観察」に基づいたものであり、コーヒーが直接的に認知症を治したり完全に防いだりすることを証明した「因果関係」とは言い切れない部分があります。たとえば、もともと脳が健康的で活動的な生活を送っている人だからこそ、毎日コーヒーを楽しむ余裕があるという、原因と結果が逆転している可能性もゼロではないからです。また、カフェインへの耐性は体質によって大きく異なります。「健康に良いから」といって無理に飲み、睡眠の質を下げてしまったりしては、かえって健康を損なうことになりかねません。私たちはこの研究結果を、毎日の楽しみをより肯定するための材料にするのがいいでしょう。何気ない日常の習慣が、数十年後の自分を支える大切な「脳の習慣」になっている。そんな風に考えながら、今日も最高の一杯をお楽しみください。1)Zhang Y, et al. Coffee and Tea Intake, Dementia Risk, and Cognitive Function. JAMA. 2026 Feb 6. [Epub ahead of print]

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日本人のMg摂取と認知症リスク

 食事性マグネシウム(Mg)は認知症予防における変更可能な因子だが、そのエビデンスは不十分である。今回、新潟大学のIrina Bulycheva氏らが、日本人の中高年者コホートでMg摂取量と認知症リスクの関連を調べた結果、男性でのみMg摂取量が少ないと認知症リスクが高いことが示唆された。Journal of Nutritional Science誌2026年1月22日号に掲載。 本研究は、40~74歳の地域住民1万3,032人が参加した8年間のコホート研究である。食事データは2011~13年に検証済み食品摂取頻度質問票を用いて収集した。Mg摂取量は残差法を用いてエネルギー摂取量で調整した。評価項目は日本の介護保険データベースで判定した新規の認知症診断とした。共変量は、年齢、性別、BMI、婚姻状況、教育水準、職業、総身体活動レベル、喫煙、アルコール摂取量、コーヒー摂取量、総エネルギー摂取量、病歴(心筋梗塞、脳卒中、糖尿病、高血圧)とし、調整ハザード比(HR)はCox比例ハザードモデルを用いて算出した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は59.0歳で、認知症は男性148例、女性138例で発症した。・男性では、エネルギー調整Mg摂取量が低い四分位群は認知症の高リスクと関連し(多変量調整後の傾向のp=0.0410)、最低四分位群(Q1)は最高四分位群(Q4、基準)より認知症リスクが高かった(HR:1.73、95%信頼区間[CI]:1.07~2.83)。この関連は女性では認められなかった。・男性の病歴によるサブグループ解析では、両サブグループでQ1のHRが低く、病歴あり群で1.52(95%CI:0.74~3.11)、病歴なし群で1.40(同:0.73~2.69)であった。 本研究において、日本人中高年男性において、Mg摂取量が少ないと認知症リスクが高かった。ただし、著者らは「この関連は基礎疾患の既往歴に一部起因する可能性がある」と考察している。

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VR介入はMCI/認知的フレイルの高齢者に有効な介入なのか?

 軽度認知障害(MCI)や認知症、またはフレイルを有する高齢者の認知機能、移動能力、情緒面の健康をサポートするための介入として、没入型バーチャルリアリティ(VR)の利用が増加している。そのエビデンスは拡大しているが、いずれも小規模なランダム化試験や実現可能性試験であり、依然として情報は断片化している。下関市立大学の窪田 和巳氏らは、MCI/認知症およびフレイルの高齢者に対するVR介入のベネフィット、リスク、VR導入における考慮事項を明らかにするため、最近のシステマティックレビューを実施し、研究結果の統合を試みた。BMC Geriatrics誌2026年1月13日号の報告。 PRISMA2020に基づき、2019年1月1日~2025年10月15日に公表された研究をPubMed、CINAHLより検索した。対象にはMCI、認知症、フレイル/認知的フレイルを有する65歳以上の高齢者を登録した研究を含めた。ヘッドマウントディスプレイまたは大画面投影(インタラクティブタスクまたは360度コンテンツ)を介した没入型または半没入型VRを用いて、認知機能、移動能力、感情/行動に関するアウトカムを評価したランダム化比較試験、準実験試験、事前事後比較試験を抽出した。2人の独立したレビューアーにより、データ抽出およびスクリーニングを行った。バイアスリスクの評価には、RoB 2(ランダム化試験)またはJBIツール(非ランダム化試験)を用いた。異質性によりメタ解析は実施できなかったため、構造化ナラティブ・シンセシスを実施した。 主な結果は以下のとおり。・70件(PubMed:28件、CINAHL:42件)の研究が特定された。・重複した9件の研究を除外した後、61件の研究をスクリーニングし、24件の全文を評価し、13件の研究(ランダム化比較試験:10件、実現可能性試験/混合研究:3件)を分析に組み入れた。・MCIまたは認知的フレイルを有する高齢者において、最も一貫した改善が認められたのは実行機能と処理速度であり、いくつかの試験では全般認知機能においても若干の改善が報告された。・複数の試験において、Timed Up & GoとBerg Balanceスコアのアウトカムが、対照群と比較して良好であり、予測的な姿勢調整能の向上も認められた。・施設介護において、没入型回想法とグループVR介入は、不安およびアパシーの軽減が認められ、忍容性も良好であった。・有害事象はまれで軽度であり、監督下での実施では順守率が高かった。・ほとんどのランダム化試験でバイアスに関する懸念が認められたが、1件は全体的に低いリスクであった。 著者らは「MCIまたは認知的フレイルのある高齢者において、没入型および半没入型VR介入は監督下での実施が可能であり、認知機能および移動能力のアウトカムの改善に寄与する可能性が示された。施設における感情面および行動面のアウトカムに関するエビデンスは有望であったが、いまだ予備段階でもあった。適切な介入(2~3回/週、8~12週間、合計15時間以上)、適応型課題、スーパービジョンを備えたVR介入プログラムは、良好なアウトカムと最も高い関連が認められた。これらの結果をさらに明らかにするためにも、標準化されたアウトカム、実施および経済評価を組み込んだ、より大規模な多施設ランダム化試験が求められる」としている。

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