医学生の燃え尽きとアイデンティティの関連/BMJ

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2022/04/06

 

 医学生が経験する不当な扱いは、燃え尽き症候群(burnout)と関連することが指摘されている。米国・イェール大学公衆衛生大学院のBethelehem G. Teshome氏らは、医学生のアイデンティティの複数の側面(性・人種/民族・性的指向)を考慮して、その不当な扱いや差別との関連を検討し、複数の周縁化されたアイデンティティを持つ医学生は、在学中に不当な扱いや差別を受けることが多く、それが燃え尽き症候群と関連する可能性があることを示した。研究の成果は、BMJ誌2022年3月22日号に掲載された。

米国の3万人の学生の後ろ向きコホート研究

 研究グループは、学部教育における医学生への不当な扱い、燃え尽き症候群、複数の周縁化されたアイデンティティの関連を評価する目的で、横断的調査と後ろ向きコホート研究を行った(米国国立一般医科学研究所[NIGMS]などの助成を受けた)。

 対象は、米国医学校協会(AAMC)の認定を受けた米国の140の医学校を、2016年と2017年に卒業した3万651人であった。

 歴史的に周縁化されたアイデンティティの個々の組み合わせに基づいて、自己申告による性、人種/民族、性的指向の違いによるグループ別の検討が行われた。多変量線形回帰モデルを用い、Oldenburg Burnout Inventory for Medical Students(16項目)で評価された燃え尽き症候群の2つのディメンション(疲労、離脱)に関して、不当な扱いと差別を考慮しつつ、固有のアイデンティティを持つグループと燃え尽き症候群との関連が解析された。

不当な扱いと差別は、LGBの非白人女性で最も多い

 3つの周縁化されたアイデンティティ(女性、非白人、レスビアン/ゲイ/バイセクシュアル[LGB])を持つ学生で、複数の種類の不当な扱いを繰り返し経験したとの回答(299人中88人[29.3%]、p<0.001)および複数の種類の差別を繰り返し経験したとの回答(299人中92人[30.6%]、p<0.001)の割合が最も高かったのに対し、異性愛の白人男性の学生では前者が7.8%、後者は1.8%といずれも最も低かった。

 また、疲労は、周縁化されたアイデンティティの数が増えるほど平均スコアが高くなった。さらに、LGBの非白人女性は、異性愛の白人男性と比較した場合の不当な扱いや差別による疲労の平均スコアの差が最も大きかった(補正後平均差:1.96、95%信頼区間[CI]:1.47~2.44)。

 不当な扱いや差別は、すべてのアイデンティティ・グループで疲労の程度を高めたが、個々のアイデンティティ・グループと燃え尽き症候群との関連を完全に説明することはできなかった。

 一方、離脱の平均スコアは、不当な扱いや差別により、非白人の学生は白人の学生に比べて高く(補正後平均差:0.28、95%CI:0.19~0.37)、LGBの学生は異性愛の学生よりも高かった(0.73、0.52~0.94)。対照的に、女性の学生は、他の周縁化されたアイデンティティの有無にかかわらず、離脱の平均スコアが低かった(例:男性と比較した女性の補正後平均差:-0.76[95%CI:-0.85~-0.68]、異性愛の白人男性と比較した異性愛の非白人女性の補正後平均差:-0.41[-0.54~-0.29]など)。

 女性の学生で不当な扱いと差別の補正を行うと、女性の学生における効果が大きくなったことから、負の交絡との関連性が示唆された。

 著者は、「これらの知見は、周縁化されたアイデンティティに対する不当な扱いや差別が燃え尽き症候群の発現に一定の影響を及ぼしている可能性を示唆する。また、アイデンティティの一面にのみ注目すると、複数の周縁化されたアイデンティティを持つ学生が学習環境で経験する被害の程度を過小評価する可能性も示された」とまとめている。

(医学ライター 菅野 守)