デクスメデトミジン、心臓手術後の心房細動やせん妄を抑制せず/Lancet

麻酔導入時から24時間継続するデクスメデトミジンの持続注入は、心臓手術の回復過程にある患者の術後の心房細動やせん妄を減少しないことが明らかになった。米国・クリーブランドクリニックのAlparslan Turan氏らが、多施設共同無作為化プラセボ対照試験「DECADE試験」の結果を報告した。心房細動とせん妄は心臓手術後の一般的な合併症であり、デクスメデトミジンは鎮静剤としてユニークな特性を有しており、これら合併症のリスクを減少させる可能性があった。著者は、「デクスメデトミジンは、心臓手術を受ける患者の心房細動やせん妄の減少のために投与すべきではない」とまとめている。Lancet誌2020年7月18日号掲載の報告。
術後の心房細動とせん妄の発生率を、デクスメデトミジンとプラセボで比較
研究グループは、米国の大学病院6施設において、心拍数が50回/分以上で人工心肺を用いた心臓手術を予定している18~85歳の患者を登録し、デクスメデトミジン群またはプラセボ(生理食塩水)群のいずれかに、1対1の割合に施設で層別化し無作為に割り付けた。患者、看護に携わる者、評価者は治療に関してすべて盲検化され、治験薬は薬局または本試験に参加していない他の研究協力者が準備し、治験責任医師および担当医師は割付について完全に盲検化された。
投与は、0.1μg/kg/時で外科切開前に開始し、人工心肺終了時に0.2μg/kg/時へ増量した後、術後は0.4μg/kg/時で術後24時間まで維持投与とした。
主要評価項目は、集中治療室入室から術後5日または退院のどちらか早いほうまでの期間における心房細動およびせん妄の発生で、intention-to-treat解析を実施した。
有意差はないが、心房細動をわずかに減らすもせん妄はわずかに増加
2013年4月17日~2018年12月6日の期間に患者が登録された。予定患者の83%が登録された時点で実施した5回目の中間解析で無益性(futility)が認められたため、本試験は早期中止となった。798例が無作為化を受けたが(デクスメデトミジン群400例、プラセボ群398例)、各群2例が同意を撤回したため解析対象は794例となった。心房細動の発生率は、デクスメデトミジン群30%(121/397例)、プラセボ群34%(134/395例)であり、有意差はなかった(相対リスク[RR]:0.90、97.8%信頼区間[CI]:0.72~1.15、p=0.34)。また、せん妄の発生率は、プラセボ群12%に対し、デクスメデトミジン群で17%と増加したが、有意差は認められなかった(1.48、0.99~2.23)。
安全性の評価項目は、治療を要する臨床的に重要な徐脈と低血圧症、心筋梗塞、脳卒中、創部感染、肺塞栓症、深部静脈血栓症、および死亡であった。デクスメデトミジン群で394例中21例(5%)、プラセボ群で396例中8例(2%)に重篤な有害事象が報告され、死亡はデクスメデトミジン群1例(<1%)、プラセボ群1例(<1%)であった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)
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