現在、政府が『骨太の方針2025』で言及した「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直しの在り方」についての議論が活発化している。この議論は今に始まったことではなく、OTC医薬品の自己判断による服用が医療アクセス機会の喪失を招き、受診抑制による重症化・救急搬送の増加といった長期的な医療問題に発展する可能性をはらんでいるため、30年以上前からくすぶり続けている問題である。
さらに、日本社会薬学会第43年会で報告された国内の疫学研究「頭痛専門外来患者における市販薬の鎮痛薬服用状況:問診票を用いた記述疫学研究」からは、OTC類似薬の利用率増加が依存性成分の摂取促進に繋がりかねないことが明らかされた(参照:解熱鎮痛薬による頭痛誘発、その原因成分とは)。つまり、OTC医薬品の使用促進が依存性成分摂取者の増加を招く恐れもあることから、今回、上述の研究の共同研究者で市販薬の情報基盤を構築する平 憲二氏(プラメドプラス/京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野)にOTC医薬品を取り巻く現状や世界的情勢などについて話を聞いた。
OTC医薬品が拠り所、頭痛患者の実情
日本神経学会が問題視するOTC医薬品の不適正使用による「薬剤の使用過多による頭痛(medication-overuse headache:MOH)」増加の背景を踏まえて行われた上述の研究から、重症頭痛患者にとってOTC医薬品が心身の拠り所となっている実態が明らかにされた。同時に、解熱鎮痛薬に含まれる依存性成分とされる以下3成分のいずれかを対象患者の約9割が摂取していたことも示された。
<3つの依存性成分>
・アリルイソプロピルアセチル尿素(ア尿素、鎮静催眠成分)
・ブロモバレリル尿素(ブ尿素、鎮静催眠成分)
・カフェイン
平氏は「とくに
ア尿素は教科書に載っていない危険な成分で、一部の国では違法薬物とみなされる。2023年5月にオーストラリア薬品・医薬品行政局(TGA)がア尿素を全面規制
1)し、日本からのイブの輸入規制をかけている。また、2025年4月には韓国でもア尿素が麻薬類成分リストに記載された。なお、米国では血小板減少性紫斑病の発症を契機に1939年にすでに規制がなされている状況
2)」と説明した。それに対し日本の場合、「濫用等のおそれのある医薬品の取扱い」に対する規制を課しているものの、本リストに記載されているのは、依存性成分のうち「ブ尿素のみ」であるため、医療者にも
ア尿素のリスクが認知されていない点を同氏は指摘した
3)。
ア尿素配合製剤による国内死亡例
なお、日本では規制が弱く認知度の低いア尿素であるが、その配合製剤による中毒死例が2014年に報告されている
4)。
<剖検例>――――――――――――――
年齢・性別:20代・女性
自宅アパートのトイレで、死亡しているところを発見された。
死者は、老人施設で介護ヘルパーとして働いていたが、約2ヵ月前に辞職し、単身で犬・猫とともに生活していた。また、片頭痛を有しており、市販の解熱鎮痛薬を常用していた。部屋から市販の解熱鎮痛薬(イブプロフェン+ア尿素+無水カフェインの合剤)約450錠分の空き箱・空きシートが発見された。いずれの成分も検出された。
※長期にわたってア尿素配合製剤の服用を継続し、最終的にカフェイン中毒で亡くなった。
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同氏は「ア尿素やブ尿素はモノウレイド系催眠鎮静薬に区分されるが、いずれも抗不安作用があるため、頭痛頻度の多い使用者においては連用しないよう慎重な対応が必要となる。飲んですぐに眠くなるわけではない
*ため、“眠くなるのが薬のせいかわからない”と話す患者もいる」とコメントした。それならば、製品パッケージをチェックしてア尿素などの依存性成分の摂取回避に努めたい。しかし、同氏はイブA錠を例示しながら、「販売製品のパッケージ(裏)に小さい文字で“イブプロフェンの鎮痛作用を高める鎮静成分”として記載されているものの、添付文書にはア尿素が催眠鎮静薬である旨の明確な記載はなされておらず、“隠し成分“のような状況」であることを示し、「パッケージ(表)や添付文書での明記」や「臨床医や薬剤師によるア尿素・ブ尿素の認知と催眠鎮静成分であることの周知」により、MOHなどの薬剤性疾患の予防につなげる必要があることを強調した。
*<参考:各成分の半減期>ア尿素14.28±5.81時間(参考値)、ブ尿素2.5時間(ただし臭素の半減期は12日)
市販薬の最新情報をパッケージ写真付きでチェック
このように、ア尿素やブ尿素、そしてカフェイン含有製剤が海外では時代遅れな製品として「
不適切製品」として扱われる一方で、日本は「
不適正使用」としての注意喚起にとどまる。そこで同氏は
クスリ早見帖プロジェクトを始動し、現場で実用性を高められるよう市販薬情報を詰め込んだ『
クスリ早見帖ブック 市販薬1000』などを制作している。これについて、「製品画像で確認してもらい、すぐに成分のわかる本がほしかった。診断精度の向上とカルテへの正しい記載を目指して制作している」と解説した。
本プロジェクトでは、OTC医薬品の製薬企業の協力のもと、年4回発行されるクスリ早見帖季刊誌やクスリ早見帖WEBの制作も行っており、将来的には医療用医薬品のデータを含めた医薬品に関する「痒い所に手が届く」医療現場向けの情報源を作ることを目指している。市販薬の名称や画像の一覧を「早見」することで、目的の市販薬を素早く見つけることが可能であるため、患者とのコミュニケーションを円滑にするために有用なツールである。
医療者が患者の服用する真のOTC医薬品を把握できるようこのツールを現場へ普及させたい同氏は、今後の研究課題として「ア尿素配合製剤由来の薬剤の使用過多による頭痛の推計患者数や薬剤疫学研究(リスクと予後)を推進していきたい。また、薬効薬理/薬物動態などのデータがないため追加研究が必要」と語った。
(ケアネット 土井 舞子)