ケサンラ、新しい用量でARIA-Eの発症リスクが有意に減少/リリー

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2025/10/07

 

 日本イーライリリーは2025年9月18日、「認知症の治療現場の今とケサンラの最新使用法に関するメディアセミナー ~新しい投与スケジュールによりARIA-Eの発現割合が低下~」を開催した。「ケサンラ点滴静注液350mg」(一般名:ドナネマブ)は、2024年9月に「アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制」を効能または効果として国内における承認を取得し、同年11月26日に発売された。

 ケサンラの従来の用法および用量は、初回から700mgを4週間隔で3回、その後は1,400mgを4週間隔で少なくとも30分かけて点滴静注するスケジュールであった。一方、抗アミロイドβ抗体薬の投与ではARIA(アミロイド関連画像異常)の発現が懸念される。ARIAは抗アミロイドβ抗体薬の投与に伴って起こるMRIの異常所見の総称で、ARIA-E(浮腫/滲出液貯留)とARIA-H(微小出血/脳表ヘモジデリン沈着)に大別される。このARIA発現のリスク低減を目的に、2025年8月、用法および用量について「通常、成人にはドナネマブ(遺伝子組換え)として初回は350mg、2回目は700mg、3回目は1,050mg、その後は1回1,400mgを4週間隔で、少なくとも30分かけて点滴静注する」と投与量を漸増していくスケジュールへの変更承認を取得した。

 本セミナーの冒頭で、日本イーライリリーの片桐 秀晃氏(研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 本部長)は、「国内の65歳以上の高齢者のうち、2022年時点で認知症または軽度認知障害(MCI)に該当する人は約1,000万人、有病率は27.8%と推計され、日本は超高齢化社会に直面している」と述べたうえで、同社の取り組みとして認知症と共生する社会に貢献すべくまい進する姿勢を見せた。

認知症は早期の治療開始が鍵

 続いて、患者や家族にとっての進行抑制の価値や早期発見・診断の重要性などについて、岩田 淳氏(東京都健康長寿医療センター 副院長)が解説した。まず、一部の患者や家族にある「点滴治療=重症者向け」という認識が、診断・治療開始の遅れを招く原因となることを指摘した。これに対し、専門医の立場ではMCIの段階で速やかにケサンラの投与を開始することが重要とされており、先送りは将来的に投与の適応外となる可能性があるため、MCIを疑う所見があればHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)やMMSE(ミニメンタルステート検査)の結果にかかわらず、早期に受診・専門医への紹介につなげる必要があるとした。そのうえで、こうした早期介入の目的は治療自体ではなく、患者の治療後のQOLを高めることにあると述べた。

薬剤負荷を抑える用量漸増によりARIA-Eが有意に減少

 ケサンラの新しい用法・用量の承認の根拠となった「TRAILBLAZER-ALZ 6試験」の結果や、副作用としてのARIAの発症機序について、猪原 匡史氏(国立循環器病研究センター 副院長・脳神経内科部長)が解説した。TRAILBLAZER-ALZ 6試験とは、アミロイドPET検査により脳内にアミロイドβプラーク沈着が認められた早期アルツハイマー型認知症患者(843例)を対象に、沈着量の変化やARIAの発現割合を検討した多施設共同無作為化二重盲検第III相試験である。被験者を350mg開始群(212例)、700mg開始群(208例)、投与スキップ群(210例)、頻回投与群(213例)の4つの群に無作為に割り付け、同じ総投与量を異なる方法で投与した。

 主要評価項目は24週時までのARIA-E関連事象の発現割合で、700mg開始群と比較して投与24週時のARIA-E関連事象の相対リスクが20%減少する事後確率を算出し、これが事前に規定した閾値(80%)を超えるか否かを検討した。結果、24週時のARIA-E関連事象の発現割合は、350mg開始群で13.7%、700mg開始群で23.7%であり、相対リスク減少率は40.5%、相対リスクが20%減少する事後確率は94.1%と、事前に規定した閾値を上回った。

 副次評価項目について、76週時のMRI検査に基づくARIA-E関連事象の重症度は、700mg開始群と比較して350mg開始群では軽度であり、有意差が認められた(p=0.015、CMH検定)。ベースラインから76週時までの脳内アミロイドβプラークの減少量は、350mg開始群で70.92センチロイド、700mg開始群で72.14センチロイドと同程度であった。

 安全性について、治療開始76週時までの有害事象の発現割合は、350mg開始群で93.9%(199/212例)、700mg開始群で92.3%(191/207例)であった。副作用の発現割合は、350mg開始群で53.8%(114/212例)、700mg開始群で53.1%(110/207例)であった。その中でARIA-Eの発現割合は、700mg開始群が23.2%(48例/207例)であったのに対し、350mg開始群は15.1%(32例/212例)と有意に減少していた。

 ARIAは、血管周囲の排泄経路障害や血液脳関門の破綻によりアミロイドβが蓄積し、そこに抗アミロイドβ抗体薬が投与されるとアミロイドβのクリアランスに伴い一過性に血管外漏出を引き起こすことで発症する。TRAILBLAZER-ALZ 6試験の結果について同氏は、「投与初期の薬剤負荷を抑える漸増法によってアミロイドβのクリアランス経路に見合った段階的な除去が促され、過度な蓄積を避けることでARIAリスク低減に寄与する可能性を示唆している」と述べた。さらに、抗アミロイドβ抗体薬の治療対象者の多くは高齢者であるため、既存の脳微小出血や抗血栓薬の併用などのARIAのリスク因子について理解し、定期的なMRI検査などで処方医と読影医が連携することが重要であるとした。最後に同氏は、MRI検査によりARIAを早期に捉え、高血圧などの血管障害リスクとなりうる生活習慣病のマネジメントを行っていく必要性を強調した。

(ケアネット 小原 夕奈)