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1.

PPIやNSAIDsの併用、ICIの有効性に影響せず

 免疫チェックポイント阻害薬(ICI)治療中、プロトンポンプ阻害薬(PPI)、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などの一般的な併用薬が治療効果に影響するとの報告があるが、その因果関係には議論がある。米国・ミシガン大学のDaria Brinzevich氏らは、米国退役軍人保健局(VHA)の全国データベースを用い、非小細胞肺がん(NSCLC)患者における一般的併用薬とICI治療成績の関連を検証した。Cancer誌オンライン版2025年12月15日号掲載の報告。 2005~23年に治療を受けたStageIVのNSCLC患者のうち、1次または2次治療でICI(n=3,739)または化学療法(n=6,585)を受けた患者を対象とした。20種類の薬剤クラス(PPI、ヒスタミンH2受容体拮抗薬、抗菌薬、スタチン、β遮断薬、ACE阻害薬/ARB、NSAIDs、オピオイド、ステロイド、抗凝固薬など)について「治療開始前3ヵ月内の処方」を併用と定義した。主要評価項目は全生存期間(OS)とTTNT(次治療開始までの期間)と併用薬の関連で、傾向スコアに基づく重み付けを用いたCox比例ハザードモデルで解析した。ICI群で名目上有意(p<0.05)な関連が認められた薬剤については、化学療法群でも同様の解析を行い、非特異的な影響を検証した。 主な結果は以下のとおり。・ICI群は男性が97%、60~79歳が81%、ICI+化学療法併用が45%、1次治療が71%だった。対照群(化学療法群)は多くの背景因子でICI群と類似していたが、59歳以下が24%(ICI群9.4%)と若年者が多く、併存疾患もやや少なかった。・ICI群において、20の薬剤クラスの中で15はOSと、14はTTNTと有意な関連を示さなかった。一方で、ループ利尿薬、抗凝固薬、オピオイド、ペニシリン系およびフルオロキノロン系抗菌薬はOS不良と関連した。しかし、これらの関連は化学療法群でも同様に認められ、ICIの特異的な影響ではないことが示唆された。これらの薬剤はICI群においてTTNTの悪化とも関連したが、化学療法群でも同様の関連性が観察された。・抗菌薬(1点)、PPI(1点)、ステロイド(2点)から構成される「immunomodulatory drug score」もICI群でOSおよびTTNT不良と関連したが、化学療法群でも同様の関連が認められた。すなわち、同スコアはICI効果修飾因子ではなく、一般的な予後指標である可能性が高いと考えられた。 著者らは、「本研究では、一般的に処方される併用薬がStageIV NSCLCにおけるICIの有効性を変化させることは認められなかった。従来報告されてきた併用薬とICI効果の関連の多くは、疾患重症度や基礎疾患など、未測定の交絡因子による可能性が高い。ICI治療中であっても、併存疾患の治療を過度に制限する必要はない可能性が示唆される」としている。

2.

筋強直性ジストロフィー1型、del-desiranが有望/NEJM

 筋強直性ジストロフィー1型(DM1)は、常染色体優性遺伝性の進行性神経筋疾患であり、DMPK遺伝子の3'-非翻訳領域におけるCTGリピートの伸長によって発症する。本症は、身体機能障害を引き起こし、余命を短縮させるが、承認された治療法はない。米国・Virginia Commonwealth UniversityのNicholas E. Johnson氏らは「MARINA試験」において、本症の治療薬として開発中の抗体-オリゴヌクレオチド複合体delpacibart etedesiran(del-desiran[AOC 1001])の筋組織への送達が一部の患者で確認され、異常な選択的スプライシング(ミススプライシング)の改善を示唆するデータを得たことを報告した。del-desiranは、抗体部分がトランスフェリン受容体1を、オリゴヌクレオチド部分がDMPK遺伝子mRNAを標的とする。研究の成果は、NEJM誌2026年2月19日号で発表された。米国の無作為化プラセボ対照第I/II相試験 MARINA試験は、米国の8施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照第I/II相試験(Avidity Biosciencesの助成を受けた)。2021年10月~2022年9月に、年齢18~65歳、遺伝子診断でDM1と診断され、DMPK遺伝子のCTGリピートが100回以上に伸長した患者38例(平均年齢42[±12.9]歳、女性28例[74%])を登録した。 本試験は2つのパートから成り、パートAではdel-desiran 1mg/kg体重を1回静脈内投与する群(6例)またはプラセボ群(2例)に、パートBではdel-desiran 2mg/kg体重を3回(1、43、92日)静脈内投与する群(9例)、同4mg/kg体重を3回(同)静脈内投与する群(13例)、またはプラセボ群(8例)に無作為に割り付けた。 主要エンドポイントは安全性であった。副次エンドポイントは、del-desiranの薬物動態・薬力学的プロファイル、および1mg群では投与43日目、2mg/4mg群では投与92日目(2回目投与後49日目)における下流の異常スプライシングパターンの変化とした。重篤な有害事象の1件が試験薬関連と判定 38例中35例に軽度または中等度の有害事象が発現した。プロトコールで規定された投与中止基準に該当した患者はいなかった。投与期間中に、del-desiranの投与を受けた患者のうち5例以上に発現した有害事象は、筋生検に伴う痛み、貧血、新型コロナウイルス感染症、頭痛、悪心であった。 2mg群の1例と4mg群の1例に、重篤な有害事象が1件ずつ発現した。前者は試験薬との関連はないと判定された。後者では、初回投与後24時間以内に記憶力低下と視覚障害の症状が発現し、数日後の頭部MRI検査で視床外側膝状体核領域の両側性の虚血とそれに続く出血性変化の可能性が推定され、試験薬関連と判定されたためその後の投与を中止した。 これにより、米国食品医薬品局によって新規の患者登録が一時的に停止されたが、すでに登録されていた参加者は投与の継続が許可された。この停止措置は、その後解除されている。DMPK mRNAの低下率は3つの用量で同程度 筋生検標本におけるDMPK mRNAレベルの変化率は、del-desiran 1mg群で-46%、2mg群で-44%、4mg群で-37%といずれも同程度に低下し、プラセボ群では0.9%増加した。また、低分子干渉RNA(siRNA)の血漿中最大濃度および曲線下面積は用量の増量に比例して増加し、尿中からは微量のsiRNAが回収された。 ベースラインからの平均複合ミススプライシングスコアの減少率は、1mg群で3%、2mg群で17%、4mg群で16%、プラセボ群で7%であり、2mgおよび4mg群におけるミススプライシングの改善が確認された。 著者は、「総DMPK mRNAの明らかな減少と、オルタナティブスプライシング調節の回復は、siRNAが筋組織に送達されたことを示すと考えられる」「これらのデータは、臨床研究の継続を支持するものである」としている。 現在、MARINA試験を完了した参加者を対象に、より長期の治療効果を評価する目的で、非盲検下の延長試験が進行中で、並行してdel-desiran 4mg/kg体重の8週ごとの投与を評価する二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験(HARBOR試験)が進められているという。

3.

IgA腎症〔IgA nephropathy〕

1 疾患概要■ 概念・定義IgA腎症は、糸球体性血尿や蛋白尿などの検尿異常が持続し、腎生検で腎糸球体メサンギウム領域を中心としたIgA優位の免疫グロブリン沈着を認め、全身性疾患や慢性疾患など明らかな原因疾患を伴わない原発性糸球体腎炎である。確定診断には腎生検が必須である。■ 疫学IgA腎症は、世界で最も頻度の高い原発性糸球体腎炎であり、わが国を含む東アジアでとくに多いとされる。わが国では学校検尿や健康診断が普及しているため、無症候性血尿・蛋白尿を契機に若年~中年で診断される例が多い。一方、欧米では症候性の症例や腎機能障害を伴って初めて診断される例が多いとされる。■ 病因病因としては、「粘膜免疫異常により過剰産生された糖鎖異常IgA1が、自己抗体や補体と免疫複合体を形成し、糸球体メサンギウムに沈着して炎症と線維化を惹起する」というマルチヒット仮説が提唱されている。遺伝的素因も関与しており、HLA領域や粘膜免疫関連遺伝子の関連が報告されている。■ 症状多くは自覚症状に乏しく、持続する顕微鏡的血尿・軽度蛋白尿のみである。上気道感染や消化管感染の数日後に肉眼的血尿(褐色尿、コーラ色尿)を来す例が典型的である。進行例では浮腫、高血圧、倦怠感など慢性腎臓病(CKD)としての症状が出現する。■ 分類組織学的には腎糸球体メサンギウム増多所見が主体であるが、半月体形成、分節性硬化、全節性硬化など多彩な像をとる。病理重症度評価にはOxford分類(MEST-Cスコア)が広く用いられており、メサンギウム・管内細胞増多、分節性硬化、尿細管萎縮/間質線維化、半月体の有無を評価する。■ 予後かつての長期追跡では、診断後20年で約4割が慢性腎不全に至ると報告され、決して良性の腎炎ではないことが明らかとなった。近年では、早期発見・レニンアンギオテンシン(RA)系阻害薬の普及などにより予後は改善しつつあるが、蛋白尿が持続する例や腎機能障害を伴う例では依然としてCKD進行のリスクが高い。国際IgA腎症予測ツール(International IgAN Prediction Tool)により、臨床所見とMEST-Cスコアを組み合わせた予後予測も行われている。2 診断■ 検査1)尿検査持続する顕微鏡的血尿(尿定性検査に加え、尿沈査分析が必要。しばしば赤血球円柱がみられる)程度の異なる蛋白尿(しばしば0.3~1g/日程度から始まり得る)急性上気道炎や消化管感染後の一過性肉眼的血尿(褐色尿、コーラ色尿)2)血液検査血清クレアチニン、推算糸球体ろ過量(eGFR)で腎機能を評価する。血清IgA値はしばしば高値だが、診断的特異性は高くない。補体価は通常正常であり、低補体血症では他疾患を考慮する。3)腎生検IgA腎症の確定診断には腎生検が必要である。腎生検は、確定診断のみならず予後や治療反応性を予測する上でも重要である。光顕でメサンギウム増殖性糸球体腎炎を示し、免疫蛍光法でメサンギウム優位のIgA沈着(しばしばC3が共に沈着)を認める(図1、2)。病理重症度評価にはOxford分類(MEST-Cスコア)が広く用いられており、メサンギウム・管内細胞増多、分節性硬化、尿細管萎縮/間質線維化、半月体の有無を評価する(表)。「KDIGO 2025国際ガイドライン」では、IgA腎症が疑われる成人で蛋白尿0.5g/日以上が持続する場合、腎生検を考慮することが推奨されている。図1 IgA腎症の代表的な光顕所見画像を拡大する画像を拡大するa:メサンギウム細胞増多(↑)とメサンギウム基質増生(*)b:メサンギウムへの半球状沈着物(↑)c:管内細胞増多を示す糸球体糸球体毛細血管内の細胞数が増加し、管腔が狭小化している(↑)d:係蹄壊死この糸球体では毛細血管基底膜が断裂し(↑)、フィブリンの析出(*)がみられるe:細胞性半月体この糸球体の半月体は、ほとんどが細胞成分で占められているf:線維細胞性半月体この半月体は細胞成分10%以上50%未満で、細胞外基質は90%未満であるg:線維性半月体この半月体は細胞成分10%未満で、細胞外基質が90%以上を占めているh:分節性硬化点線で囲まれた部分に硬化がみられ、硬化はすべての係蹄には及んでいない(参考文献1、2より引用)図2 蛍光抗体法(IgA)画像を拡大する主にメサンギウム領域にIgAが高度に沈着している(参考文献1より引用)表 IgA腎症Oxford分類画像を拡大する■ 鑑別診断IgA腎症と類似する状態として、以下の疾患などと鑑別する必要がある。菲薄基底膜病、アルポート症候群など遺伝性血尿疾患IgA血管炎(ヘノッホ-シェーンライン紫斑病):紫斑、腹痛、関節痛など全身症状を伴う。感染関連糸球体腎炎(とくにMRSA感染に伴うIgA優位の感染関連糸球体腎炎)ループス腎炎など他の自己免疫性腎炎慢性肝疾患に伴う二次性IgA沈着症家族歴を含む臨床背景、血清学的検査、腎生検での所見を総合して診断する。3 治療■ 治療の基本方針治療の第1目標は、蛋白尿をできるだけ低く抑え(目標0.5g/日未満、理想的には0.3g/日未満)、腎機能低下速度を生理的なレベル(年間eGFR低下1mL/分/年未満)に近付けることである。■ 腎保護療法すべての患者に以下の腎保護療法が基本となる。生活習慣介入:減塩(食塩<6g/日が目安)、適正体重の維持、禁煙、適度な運動。血圧管理:目標<130/80mmHg(蛋白尿が多い例ではさらに厳格に)。RA系阻害薬:ACE阻害薬またはARBは蛋白尿減少と腎保護効果のエビデンスがあり、IgA腎症でも第1選択である。SGLT2阻害薬:糖尿病の有無にかかわらずCKD進行抑制効果が示されており、蛋白尿を伴うIgA腎症では追加投与が推奨されている。■ 免疫抑制療法腎保護療法を十分に行っても蛋白尿が持続し、腎機能低下が進行する例では免疫抑制療法を検討する。副腎皮質ステロイド(グルココルチコイド):わが国のガイドラインでは、中等度以上の蛋白尿や組織学的重症例で、一定期間のステロイド療法が推奨されている。ただし、糖尿病、肥満、感染など副作用リスクが高い症例では慎重な適応判断が必要である。扁摘+ステロイドパルス療法:わが国では、口蓋扁桃摘出術とステロイドパルス療法の併用が長年行われており、蛋白尿の寛解や長期予後改善を示す国内データが蓄積している。その他の免疫抑制薬:シクロスポリン、ミコフェノール酸モフェチル(MMF)などについては一定の効果報告もあるが、エビデンスは限定的であり、難治例や特別な状況に限って専門医のもとで検討されるべきである。■ 高リスク例・特殊病型急速進行性糸球体腎炎像(半月体多数、急激なeGFR低下)を示す例では、ステロイド大量療法にシクロホスファミドなどを併用する血管炎に類似した治療が行われるが、エビデンスは限られている。ネフローゼ症候群を呈する微小変化病合併IgA腎症などでは、ステロイド単独でも反応性が良い場合が多い。4 今後の展望■ 新たな診断・予後マーカー血中の糖鎖異常IgA1(galactose-deficient IgA1)やそれに対する自己抗体、補体関連マーカーなどがIgA腎症に特異的なバイオマーカー候補として研究されているが、現時点では診断や治療選択に用いる標準検査としては確立していない。国際IgAN予測ツールや病理MEST-Cスコアを活用したリスク層別化が進み、今後は個々の患者に応じた治療強度の決定に応用されることが期待される。■ 新規治療薬近年、IgA腎症の病態(粘膜免疫・補体・腎保護)を標的とした新規薬剤の開発が急速に進んでいる。標的放出型ブデソニド(Nefecon):回腸末端の腸管関連リンパ組織に到達するよう設計された経口ステロイドで、病的IgA1産生の抑制を目的とする。海外第III相試験では蛋白尿減少とeGFR低下抑制が示され、欧米などで承認されているが、わが国ではまだ使用できない。デュアルET-A/AT1受容体拮抗薬(sparsentan):ARB作用に加えエンドセリン受容体拮抗作用を併せ持ち、蛋白尿減少とeGFRスロープ改善を示している。補体阻害薬:経口補体因子B阻害薬iptacopanをはじめ、C5、C3、レクチン経路などを標的とした薬剤がIgA腎症で検証されており、一部は海外で承認されつつある。B細胞/BAFF・APRIL経路阻害薬:自己抗体産生抑制を目的としたataciceptや他の抗BAFF/APRIL抗体が臨床試験段階にある。「KDIGO 2025国際ガイドライン」では、「病的IgA産生と免疫複合体形成を抑える治療」と「すでに生じたネフロン喪失に伴うCKDの進行を抑える治療」を並行して行う2本立ての治療戦略が提案されている。わが国でも、支持療法にSGLT2阻害薬などを組み合わせつつ、新規薬剤が順次導入されれば、より早期から蛋白尿を強力に抑え、長期腎予後のさらなる改善が期待される。5 主たる診療科腎臓内科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報難病情報センター IgA腎症(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)患者会情報難病治験ウェブ(難病に関する治験情報を簡単検索、医療従事者向けのまとまった情報)1)厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業(難治性疾患政策研究事業)難治性腎障害に関する調査研究班 編集. エビデンスに基づくIgA腎症診療ガイドライン 2020. 2020:東京医学社.2)厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業:進行性腎障害に関する調査研究班報告 IgA腎症分科会 IgA診療指針-第3版-補追 IgA腎症組織アトラス.日腎会誌. 2011;53:655-666.3)KDIGO 2025 Clinical Practice Guideline for the Management of Immunoglobulin A Nephropathy (IgAN) and Immunoglobulin A Vasculitis (IgAV).公開履歴初回2026年2月27日

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高血圧アプリの有効性決定因子が明らかに/Hypertension

 苅尾 七臣氏(自治医科大学内科学講座循環器内科学 教授/自治医科大学附属病院循環器センター センター長)らが高血圧治療補助アプリを用いた研究「B-INDEX研究」を実施し、ベースライン血圧値とは無関係に、高齢・減塩・初期の体重減少が治療アプリ(デジタルセラピューティクス:DTx)による効果的な血圧低下の予測因子であることを明らかにし、「DTxによる高血圧治療では、最初の4週間が重要」と示唆した。Hypertension誌2026年1月号掲載の報告。 本研究は、高血圧患者を対象とした12ヵ月間の多施設共同介入研究で、DTx介入による家庭血圧低下効果の決定要因を調査。6ヵ月間のDTx介入期間、その後6ヵ月間のDTx介入終了期間を設定し、家庭血圧、体重と体組成、身体活動、睡眠パターンについて、各種デジタル機器を用いて毎日測定した。今回、6ヵ月間のDTx介入期間のデータ解析結果に、DTx介入終了後6ヵ月の追跡データを加えた。 主な結果は以下のとおり。・解析対象は高血圧患者198例で、平均年齢54.9±10.6歳、男性57.1%、平均BMI 26.7±5.3 kg/m2、降圧薬服用者57.6%であった。・対象者が服用していた降圧薬の種類は、カルシウム拮抗薬43.4%、ARB 35.9%、利尿薬7.6%と続いた。・ベースライン時点の血圧は、診察室血圧141.7±12.5mmHg、家庭血圧(朝)137.1±12.5mmHg、家庭血圧(夕)129±15.8mmHgであった。・最初の4週間で血圧の顕著な低下が認められた(朝の家庭血圧SBP/DBP:-6.2/-2.6mmHg)。・混合モデルを解析した結果、ベースラインの家庭血圧、高齢、自己効力感スコア、自己申告による食塩摂取量の減少、および軽度の初期体重減少(4週目で-0.5kg)が、6ヵ月後の家庭血圧低下の有意な決定因子であることが示された。 なお、本研究は、自治医科大学がAMED(日本医療研究開発機構)の令和4年度「予防・健康づくりの社会実装に向けた研究開発基盤整備事業(ヘルスケア社会実装基盤整備事業)」に係る公募に応募して採択されたものである。

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LDHでHFrEFの予後予測?

 乳酸脱水素酵素(LDH)は、肝臓をはじめ、心臓、肺などほぼ全身の組織に細胞質酵素として存在する。これまで循環器領域では心筋梗塞の指標として用いられているが、このほど、LDHの上昇が心不全(HF)の予後予測に重要であることが明らかになった。英国・心臓財団グラスゴー心血管研究センターの小野 亮平氏らがGALACTIC-HF試験対象者を解析した結果、LDHの上昇が左室駆出率の低下した心不全 (HFrEF)の臨床アウトカムの上昇と独立して関連性を示したという。 JACC:Heart Failure誌オンライン版 2026年1月15 日号掲載の報告。 研究者らは、細胞障害の非特異的な指標であるLDH とHFrEFの臨床的特徴などを評価するため、GALACTIC-HF試験*データを用い、LDHと臨床アウトカムの関係を解析した。主要評価項目は初回心不全イベントの発生または心血管死。予後予測モデルPREDICT-HFにLDHを追加した場合のリスクモデル精度は、C統計量、統合判別改善度(IDI)、純再分類改善度(NRI)を用いて算出した。また、LDH高値は250U/L超と定義した。*HFrEF患者における選択的心筋ミオシン活性化薬omecamtiv mecarbiの有効性・安全性を評価する国際第III相二重盲検ランダム化プラセボ対照多施設共同試験 主な結果は以下のとおり。・GALACTIC-HF試験の8,179例(外来患者6,138例を含む)のベースラインのLDHデータを用いた。・対象者の主な組み入れ基準は、(1)左室駆出率35%以下、(2)NYHA心機能分類II~IV、(3)利尿ペプチド(NT-proBNPなど)のレベル上昇、(4)1年以内の入院または緊急受診を伴うHFを経験した入院患者/外来患者であった。・本対象者のLDH高値例は、女性が多く、重症HFであった。また、血清クレアチニン、肝酵素、クレアチンキナーゼ、NT-proBNP、高感度トロポニンIの上昇も認められた。・対象者を四分位群に分類したところ、血清LDHの中央値は第1四分位群(Q1)155U/L、第2四分位群(Q2)183U/L、第3四分位群(Q3)207U/L、第4四分位群(Q4)253U/Lであった。・主要評価項目のハザード比(HR)について、LDHが最も低いQ1と比較すると、Q2はHR1.15(95%信頼区間[CI]:1.02~1.31)、Q3はHR1.39(95%CI:1.23~1.58)、Q4はHR1.84(95%CI:1.62~2.08)であった。・ほかの予後変数などの調整後もLDHの上昇は臨床アウトカムの悪化と独立して関連していた。・ベースラインのLDHをPREDICT-HFモデルに追加すると、3つの指標(C統計量、IDI、およびNRI)全体における主要評価項目の予測精度が改善された。

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炭酸脱水酵素阻害薬は睡眠時無呼吸症候群を改善(解説:山口佳寿博氏/田中希宇人氏)

本邦における閉塞性睡眠時無呼吸症候群の疫学と治療の現状 本邦における閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA:Obstructive Sleep Apnea)の人口当たりの発症頻度は男性で3~7%(40~60代に多発)、女性で2~5%(閉経後に多発)と報告されており、男女合わせて500万例以上、総人口の約4%にOSA患者が存在すると考えられている。本邦における成人OSAに対する有効な治療法としては経鼻/経口の持続陽圧呼吸(CPAP:Continuous Positive Airway Pressure)が中心的位置を占める。CPAP不適あるいは不認容の非肥満(BMI<30kg/m2)患者に対する植込み型舌下神経(XII神経)電気刺激も有効な方法である。その他、比較的軽症のOSA患者に対するマウスピースや特殊な原因に対する耳鼻科的・口腔外科的手術/処置が有効な場合もある。いずれにしろ、OSA患者に施行されている治療はCPAPに代表される機械的治療が中心であり、現在のところ、有効性が確認され、かつ、保険適用を受けた薬物治療は存在しない。 本邦におけるOSA患者に対するCPAPの導入率はCPAP必要患者の15%前後と低く、米国の70%を大きく下回っている。その意味で、本邦におけるOSA患者に対する治療は不十分であり、OSAを“扇の要”として関連する種々の疾患(病的肥満、糖尿病、治療抵抗性高血圧、冠動脈疾患、心房細動、心不全、脳卒中、大動脈解離、認知症など)の管理に少なからず影響を与えている(OSAを頂点とするMetabolic Domino現象)。さらに、OSA患者では明確な機序不明であるがメラノーマ、腎臓がん、膵臓がんなどの悪性腫瘍の発生率が高いことも注意すべき事項の1つである。以上の諸点を鑑みると、今回論評の対象としたRanderath氏らの論文で明らかにされた内服の炭酸脱水酵素(CA:Carbonic Anhydrase)阻害薬のOSA抑制効果は近未来のOSAに対する治療を質的に変化させる可能性がある。抗糖尿病薬GIP/GLP-1受容体作動薬であるチルゼパチド(商品名:マンジャロ)もOSAを改善することが報告されている(Malhotra A, et al. N Engl J Med. 2024;391:1193-1205.)。しかしながら、チルゼパチドは、あくまでも肥満の軽減を介して2次的に無呼吸頻度を低下させるものであり、OSA自体を1次的に改善させるものではない。それ故、チルゼパチドは今回の論評には含めない。 睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)には中枢性のもの(CSA:Central Sleep Apnea)も存在するが、その頻度はOSAに比べ有意に低いこと(SAS全体の10%以下)、発症機序に不明な点が多いことなどから本論評においては詳細な評価を割愛した。炭酸脱水酵素(CA)と睡眠時無呼吸の関係 CAは生体細胞に広く分布し、細胞内代謝の結果として産生されるCO2とH2Oとの反応を触媒しH2CO3を産生する。H2CO3はH+とHCO3ーに自然解離し、HCO3ーはクロライド・シフトを介して細胞外に排出、H+は細胞内の蛋白に吸着され細胞内pHは一定に維持される(生理的pH下ではγ-グロブリン以外の蛋白は陰イオンとして存在しH+と結合)。生体には臓器特異的に15~16種類に及ぶCAのアイソザイムが存在することが報告されており、各臓器において細胞内pHの恒常性維持に寄与している。このような細胞内環境下でCAの活性を阻害すると、細胞内でのCO2処理が遅延し細胞内CO2濃度が上昇、細胞内アシドーシスが招来される。その結果として、脳幹部(延髄、橋)に局在する呼吸中枢神経群(延髄表層に存在するCO2感受性の中枢化学受容体を含む)のCO2感受性が亢進し、換気応答が活性化される。さらに、細胞内アシドーシスは咽頭/喉頭に存在する上気道筋群の筋緊張を維持する。以上の機序を介して、CAの阻害は睡眠時の閉塞性無呼吸の発生を1次的に抑制するとされているが、これ以外の未知の機序が関係する可能性も指摘されている。CA阻害薬の分類と臨床 臨床的に使用可能なCA阻害薬には点眼薬と内服薬の2種類が存在する。点眼薬(商品名:ドルゾラミド、ブリンゾラミドなど)は主として眼圧低下と緑内障治療薬として使用される。内服薬のうち1954年に緑内障治療薬としてFDAに承認された歴史的薬剤であるアセタゾラミド(商品名:ダイアモックス)は静注薬としても使用可能であり、緑内障以外にてんかん、メニエール病、急性高山病、尿路結石症の発作予防など幅広い保険適用を獲得している。最近認可された内服CA阻害薬として本論評の対象としたスルチアム(商品名:オスポロット)が存在するが、スルチアムは、本邦においては精神運動発作(てんかん)のみに使用が限定されている。CA阻害薬のOSAに対する治療効果-大規模研究の結果 SAS(OSA、CSA)発症にかかわる重要な因子としてCAが関与する化学反応が長年注目されてきたが確証が得られるには至らなかった。しかしながら、2020年、Christopher氏らはアセタゾラミド内服薬のSAS抑制効果に関して28研究(OSA:13研究、CSA:15研究)を基にメタ解析を施行した(Schmickl CN, et al. Chest. 2020;158:2632-2645.)。彼らの解析結果によると、アセタゾラミド内服(36~1,000mg/日)によってSAS患者の無呼吸/低呼吸指数(AHI:Apnea-Hypopnea Index)が37.7%(絶対値として13.8/時)低下すること、さらには、AHIの低下はOSA患者とCSA患者でほぼ同等であることが示された。アセタゾラミドによる無呼吸抑制効果は投与量依存性を示し、薬剤量が高いほど顕著であった。Christopher氏らの解析結果は、アセタゾラミドの内服がOSAのみならずCSAの治療にも有効である可能性を示している。 本論評の対象としたRanderath氏らの論文は、OSAに対するCA阻害薬スルチアムの効果を解析した第II相二重盲検無作為化プラセボ対照用量設定試験(FLOW試験)の結果を報告した(欧州5ヵ国、28病院における治験)。対象は未治療、中等症以上のOSA患者298例で、プラセボ群(75例)、スルチアム100mg群(74例)、同200mg群(74例)、同300mg群(75例)の4群に振り分けられた。観察期間は、薬物投与量が一定になってから12週間(薬剤投与開始から15週間)と設定された。スルチアムの1日1回就寝前投与は、AHI、夜間低酸素血症、日中の傾眠傾向(Epworth Sleepiness Scaleによる評価)などOSAに付随する重要な症状を用量依存的に改善した。スルチアム投与によって重篤な有害事象は認められなかったが、知覚異常を中心とする中等症以下の多彩な有害事象が発生した。“治療効果と副反応”の比はスルチアム200mgの連日投与で最も高く、この用量がOSA治療に最も適していると結論された。 以上のように、OSA治療におけるCA阻害薬の有効性が実証されつつあり、本邦においてもCPAPにかわる新たな治療法としてCA阻害薬の内服治療の有効性を検証する臨床治験が早急に実施されることを期待するものである。この問題に関連して、2025年4月、本邦の塩野義製薬は米国Apnimed社と合弁会社を設立し(Shionogi-Apnimed Sleep Science)、睡眠時無呼吸症候群に対するスルチアムを含めた新たな薬物治療戦略を世界レベルで開始しており、今後の動向が注目される。

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再発・難治性多発性骨髄腫へのiberdomide+低用量シクロホスファミド+デキサメタゾンの第II相試験(ICON)/Lancet Haematol

 2~4ラインの治療歴のある再発・難治性多発性骨髄腫に対するiberdomide+低用量シクロホスファミド+デキサメタゾン(IberCd)の現在進行中の前向き単群第II相非盲検試験(ICON試験)において、追跡期間25.4ヵ月で無増悪生存期間(PFS)中央値が17.6ヵ月と良好であったことを、オランダ・アムステルダム自由大学のCharlotte L. B. M. Korst氏らが報告した。Lancet Haematology誌2026年1月号に掲載。 iberdomideは、経口セレブロンE3リガーゼモジュレーターであり、レナリドミドやポマリドミドとは薬理学的に異なりセレブロンとの親和性が高いため、直接的な抗腫瘍効果と免疫刺激効果をもたらすことが示されている。本試験は、オランダの8施設で実施され、対象は2~4ラインの治療歴がある再発・難治性多発性骨髄腫(レナリドミド耐性)患者(18歳以上、WHO PS 0~2)で、経口iberdomide(28日サイクルの1~21日目に1.6mg/日)、経口低用量シクロホスファミド(1~28日目に50mg/日)、経口デキサメタゾン(週1回40mg、75歳超は20mg)を進行するまで投与された。また、全例に血栓予防としてアスピリンもしくはcarbasalate calciumを連日経口投与した。静脈血栓塞栓症の既往がある患者には、低分子量ヘパリンのみ皮下注射した。主要評価項目はPFSで、治療開始した全例で有効性と安全性を評価した。 主な結果は以下のとおり。・2021年2月17日~2023年7月7日に、61例が登録されIberCd治療を受けた(女性29例、男性32例)。前治療ライン数の中央値は3(範囲:2~5)で、52例(85%)がtriple-class exposed、27例(44%)がtriple-class refractoryであった。50例が中止(うち39例は進行)したが、全例を主要解析対象集団に含めた。・中央値25.4ヵ月(四分位範囲:19.7~31.6)の追跡期間後、PFS中央値は17.6ヵ月(片側95%信頼区間:16.6~19.9)であった。・全例において、Grade3~4の有害事象で最も頻度が高かったのは好中球減少症(56%)および感染症(34%)であった。重篤な治療関連有害事象は25例(41%)で報告され、感染症が最も頻度が高かった。治療関連死はCOVID-19による1例だった。 著者らは「IberCdは再発・難治性多発性骨髄腫に対する有効な経口剤のみの併用レジメンで、臨床的に意義のある有効性を示した。本レジメンは2~4ラインの治療歴を有する患者にとって有用な治療選択肢となり、既存治療と比較して良好な結果を示した」としている。

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第300回 新調したての精子で体外受精が成功しやすくなる

新調したての精子で体外受精が成功しやすくなる射精してから間もない新調したての精子を使った体外受精(IVF)がどうやら妊娠の成功を増やすようです1,2)。体外受精では、精子を採取する2~7日前に前もって射精しておくことがたいてい男性に指示されます。できるだけ健康な精子が体外受精で受精するようにするためです。精巣で精子がより長く留まるとさまざまな内なる毒素、とくには活性酸素種(ROS)や、汚染物質などの外襲に見舞われる期間も長くなります。それが原因で精子はDNAを傷めて役目を果たせないようになるかもしれません。実際、精巣での滞在期間がより短い精子ほど質が良いのは本当のようです。2年ほど前のメタ解析では、前の射精から4日間以内の不妊男性の精液の質の改善がみられています3)。3年ほど前の別のメタ解析では前の射精後すぐの4時間以内の精子はDNA損傷が少なく、よく動くという結果が得られています4)。さらには、射精控えの期間が短いほどどうやら妊娠しやすくなることが、卵子に精子を直に注入する体外受精(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)の1,691回の取り組みを調べた試験で示されています5)。しかし、精子が卵子に泳いで行く昔ながらの体外受精(conventional in vitro fertilization:c-IVF)で射精控えを短くすることに同様の取り柄があるかどうかはよくわかっておらず、c-IVFに最適な射精控えの期間も定まっていません。そこで中国の吉林大学第一病院(First Hospital of Jilin University)のYueying Zhu氏らは、同病院でc-IVFに臨むパートナー500組を募って、射精控え期間を短くすることに取り柄があるかどうかを無作為化試験で調べました。それらの男性はc-IVFの精子回収が先立つ2日以内の射精後の群(射精控え短期群)と標準の2~7日後の群(標準群)に1対1の割合で割り振られました。最終的に射精控え短期群の226組と標準群の227組が試験を完了しました。幸いにして射精控え短期群の妊娠継続(12週間以上の胎児の心臓の活動)達成率は標準群より有意に高く、それぞれ46%と36%でした(p=0.030)。射精から精子回収までの期間が短いことは精子不足でのICSI移行を増やすかもしれないとの懸念は当たらず、精子不足でのICSI移行率は両群で似たり寄ったりでした(それぞれ3%と2%)。今回報告された結果は試験の全容の一部にすぎません。被験者の経過の記録は進行中で、肝要の転帰である生児出生率を含むほかの評価項目が後に報告されます1)。盛りだくさんとはいえ今回の試験は1つの病院で実施されたものであり、多施設でより多くの被験者を募る試験でより短期の射精控えの効果を調べることが今後必要と著者は言っています。まだまだ調べることは多そうですが、より直前に射精しておくことが好調な精子を得る良い手段であることを今回の結果はひとまず示したようです2)。体外受精をしないパートナーの妊娠もそういう新調したての精子で改善するかどうかも今後の試験で判明しそうです。乗り物酔いの薬を米国承認身近な困りごとの薬を米国がここ40年で初めて承認しました6)。承認されたのは乗り物酔いの嘔吐を防ぐ飲み薬です。米国の製薬会社Vanda Pharmaceuticalsが開発しました。商品名はNereusです。Nereusは吐きそうな動き(motion)がある出来事(event)の1時間ほど前に1回きり経口服用します7)。その成分tradipitantは化学療法の悪心嘔吐の予防に使われる薬と同様にニューロキニン遮断作用を担います。米国の沿岸で被験者に船に乗ってもらった2つの第III相試験(Motion SyrosとMotion Serifos)でNereusの効果が裏付けられています。それらの試験で同剤投与群の嘔吐の発生率はプラセボ群の半分足らずで済みました8,9)。向こう数ヵ月のうちにNereusを米国で発売するとVanda社は同剤承認を知らせる先月末30日のニュースに記しています6)。参考1)Trigger-Day Ejaculation Improves Conventional in vitro fertilization Outcomes: A Prospective Randomized Controlled Trial. The Lancet on SSRN. 2025 Dec 2.2)IVF success may depend on how long men abstain from ejaculation / NewScientist3)Du C, et al. Andrology. 2024;12:1224-1235.4)Barbagallo F, et al. J Clin Med. 2022;11:7303.5)Gupta S, et al. J Hum Reprod Sci. 2021;14:273-280.6)Vanda Pharmaceuticals Announces FDA Approval of NEREUSTM(tradipitant)for the Prevention of Vomiting Induced by Motion7)NEREUS PRESCRIBING INFORMATION8)Polymeropoulos VM. et al. Front Neurol. 2025;16:1550670. 9)Vanda Pharmaceuticals Reports Positive Results from a Second Phase III Study of Tradipitant in Motion Sickness / PRNewswire

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アテゾリズマブ、胸腺がんに対する適応追加/中外

 中外製薬は2025年12月22日、アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)について、胸腺がんに対する適応追加の承認を取得したことを発表した。 本承認は、切除不能な胸腺がん患者48例を対象に、1次治療としてアテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセルの有効性および安全性を評価した医師主導国内第II相試験「MARBLE試験」の成績に基づくものである。 本試験における主要評価項目の独立中央判定に基づく奏効割合は56.3%(95%信頼区間:41.2~70.5)であり、副次評価項目の無増悪生存期間の中央値は9.6ヵ月であった。 電子化された添付文書の改訂により追加された「効能又は効果」「用法及び用量」の記載は、以下のとおり。4. 効能又は効果(一部抜粋)〈テセントリク点滴静注1200mg〉 ○切除不能な胸腺癌6. 用法及び用量(一部抜粋)〈切除不能な胸腺癌〉カルボプラチン及びパクリタキセルとの併用において、通常、成人にはアテゾリズマブ(遺伝子組換え)として1回1,200mgを3週間間隔で点滴静注する。

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鉱質コルチコイド受容体拮抗薬(MRA)とSGLT2阻害薬の併用が慢性腎臓病(CKD)治療の基本となるか(解説:浦信行氏)

 CKDに対する腎保護効果に関して、従来はアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の使用が基本であった。また、一層の腎保護効果を期待してこの両者の併用も分析されたことがあったが、作用機序が近いこともあって相加効果は期待し難かった。 最近はMRAやSGLT2阻害薬の腎保護効果が次々と報告されるようになり、それぞれ複数の薬剤で有意な効果が報告されている。この両者の併用効果に関しては、2型糖尿病に伴うCKDを対象としたフィネレノンとエンパグリフロジン併用のCONFIDENCE試験が先行して行われ、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)で相加効果が確認されている。フィネレノンは従来のMRAとはMRへの結合の際の立体構造の変化が異なると報告され、その結果、高K血症の発症が少ないとされたが11.4%に認めた。エンパグリフロジンとの併用で9.3%に減少すると報告されたが、期待されたほど少なくはなかった。 このたびは、MRAのbalcinrenoneとSGLT2阻害薬のダパグリフロジン併用の腎保護効果を、2型糖尿病の有無にかかわらずUACR陽性のCKDで検討した(MIRO-CKD試験)。その結果は2025年11月27日配信のジャーナル四天王に概説されているが、ダパグリフロジン単独群より22.8~32.8%のUACRの有意な減少効果を示した。また、サブ解析では2型糖尿病の有無にかかわらず同等の効果を示し、腎機能障害の程度にかかわらず同等の効果を示している。問題は高K血症であるが6~7%にとどまり、ダパグリフロジン単独群の5%と大差がなく、対象324例で重症例はなかった。その機序は不明だが、尿中Na/K比に有意な変化はなかったことからbalcinrenoneによるK排泄の変動が大きくなかったと考えられるが、MRに対する他MRAとの相違の有無などの可能性は考察されていない。今後は、より多数例でより長期の試験が望まれ、ハードエンドポイントでの評価が望まれる。

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balcinrenone/ダパグリフロジン配合薬、CKD患者のアルブミン尿を減少/Lancet

 疾患進行リスクの高い慢性腎臓病(CKD)患者において、balcinrenone/ダパグリフロジン配合薬はアルブミン尿の減少においてダパグリフロジン単独投与に対する優越性が示され、忍容性は良好で、カリウムへの影響も軽微であり、予期せぬ安全性の懸念は認められなかった。オランダ・フローニンゲン大学のHiddo J. L. Heerspink氏らMIRO-CKD study investigatorsが、北米・南米、アジア、欧州の15ヵ国106施設で実施した第IIb相無作為化二重盲検実薬対照用量設定試験「MIRO-CKD試験」の結果を報告した。新規ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)であるbalcinrenoneは、小規模な臨床試験においてSGLT2阻害薬ダパグリフロジンとの併用によりアルブミン尿を減少させる傾向が示されていた。Lancet誌2025年11月22日号掲載の報告。12週時の尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の相対変化量を評価 研究グループは、推定糸球体濾過量(eGFR)が25mL/分/1.73m2以上60mL/分/1.73m2未満、尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が100mg/g超5,000mg/g以下、および血清カリウム値が3.5mmol/L以上5.0mmol/L以下の成人患者を、balcinrenone 15mg/ダパグリフロジン10mg(balcinrenone 15mg併用)群、balcinrenone 40mg/ダパグリフロジン10mg(balcinrenone 40mg併用)群またはプラセボ/ダパグリフロジン10mg(ダパグリフロジン単独)群のいずれかに1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 いずれも12週間投与した後、8週間休薬し投与中止後の効果も評価した。 ACE阻害薬またはARBの投与を受けている場合、スクリーニング前の少なくとも4週間、安定用量を投与されている患者は参加可能であった。 有効性の主要エンドポイントは、無作為化され少なくとも1回以上試験薬の投与を受けた患者における、ベースラインから投与12週時までのUACRの相対変化量とした。15mg併用および40mg併用ともダパグリフロジン単独に対して優越性を示す 2024年5月1日~12月18日に、613例がスクリーニングされ、適格基準を満たした324例が無作為化された(balcinrenone 15mg併用群108例、balcinrenone 40mg併用群110例、ダパグリフロジン単独群106例)。患者背景は、平均年齢64.6歳(SD 12.4)、女性110例(34%)、男性214例(66%)、アジア系103例(32%)、黒人またはアフリカ系アメリカ人23例(7%)、白人183例(56%)、平均eGFRは42.2mL/分/1.73m2(SD 10.5)、UACR中央値365mg/g(四分位範囲:157~825)で、56%がSGLT2阻害薬を服用していた。 主要エンドポイントにおいて、balcinrenone 15mg併用およびbalcinrenone 40mg併用のダパグリフロジン単独に対する優越性が認められた。ダパグリフロジン単独群に対する12週時におけるベースラインからのUACRの相対変化量は、balcinrenone 15mg併用群で-22.8%(90%信頼区間[CI]:-33.3~-10.7、p=0.0038)、balcinrenone 40mg併用群で-32.8%(90%CI:-42.0~-22.1、p<0.0001)であった。 高カリウム血症の有害事象は、balcinrenone 15mg併用群で6%(7/108例)、balcinrenone 40mg併用群で7%(8/110例)、ダパグリフロジン単独群で5%(5/106例)に発現した。低血圧および腎イベントの有害事象は少なく、治療群間で類似しており、重篤な事象は認められなかった。死亡が2例報告されたが、いずれも最終投与から28日以上経過後であった。

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HER2+早期乳がんの術前療法、T-DXd→THPが標準治療を上回るpCR率(DESTINY-Breast11)/ESMO2025

 DESTINY-Breast11試験において、再発リスクの高いHER2陽性(+)早期乳がん患者の術前療法として、トラスツズマブ デルクステカン(T-DXd)投与後のパクリタキセル+トラスツズマブ+ペルツズマブ併用療法(THP療法)は、ドキソルビシン+シクロホスファミド投与後にTHP療法を行う現在の標準治療(ddAC-THP療法)に比べて、統計学的に有意かつ臨床的に意義のある病理学的完全奏効(pCR)の改善を示したことを、ドイツ・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンのNadia Harbeck氏が欧州臨床腫瘍学会(ESMO Congress 2025)で発表した。 DESTINY-Breast11試験は、高リスクのHER2+早期乳がん患者における術前療法としてのT-DXdの有効性と安全性を検討する第III相試験。患者は、(1)T-DXdのみを投与する群、(2)T-DXdに続いてTHPを投与する群、(3)ddACに続いてTHPを投与する群のいずれかに無作為に割り付けられた。なお、独立データモニタリング委員会の勧告により、T-DXd単独群への登録は2024年3月12日に中止された。・試験デザイン:第III相多施設共同非盲検無作為化試験・対象:高リスク(cT3以上でN0~3またはcT0~4でN1~3または炎症性乳がん)で未治療のHER2+早期乳がん患者・試験群(T-DXd-THP群):T-DXd(5.4mg/kg、3週間間隔)を4サイクル→THP療法を4サイクル 321例・対照群(ddAC-THP群):ddAC療法を4サイクル→THP療法を4サイクル 320例・評価項目:[主要評価項目]盲検下中央判定によるpCR(ypT0/Tis ypN0)[副次評価項目]盲検下中央判定によるpCR(ypT0 ypN0)、無イベント生存期間(EFS)、無浸潤疾患生存期間、全生存期間、安全性など・データカットオフ:2025年3月12日 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の年齢中央値はT-DXd-THP群50歳およびddAC-THP群50歳、アジア人が49.8%および49.1%、HER2ステータス IHC3+が87.2%および88.4%、HR+が73.5%および73.4%、cT0~2が54.8%および58.8%、リンパ節転移ありが89.4%および87.8%であった。・主要評価項目であるpCR率は、T-DXd-THP群67.3%、ddAC-THP群56.3%であった。絶対差は11.2%(95%信頼区間[CI]:4.0~18.3、p=0.003)であり、T-DXd-THP療法は統計学的に有意かつ臨床的に意義のあるpCRの改善を示した。このベネフィットはHR+でもHR-でも同様に認められた。・残存腫瘍負荷(RCB)インデックス0~Iとなったのは、T-DXd-THP群81.3%、ddAC-THP群69.1%であった。このベネフィットもHR+でもHR-でも同様に認められた。・EFSはT-DXd-THP群で早期から良好な傾向がみられた(ハザード比:0.56、95%CI:0.26~1.17)。24ヵ月EFS率は、T-DXd-THP群96.9%(95%CI:93.5~98.6)、ddAC-THP群93.1%(95%CI:88.7~95.8)であった。・Grade3以上の有害事象(AE)はT-DXd-THP群37.5%およびddAC-THP群55.8%、重篤なAEは10.6%および20.2%に発現した。治療中断に至ったAEは37.8%および54.5%であった。・薬剤関連と判断された間質性肺疾患/肺臓炎はT-DXd-THP群4.4%(Grade3以上:0.6%)およびddAC-THP群5.1%(同:1.9%)、左室機能不全は1.3%(同:0.3%)および6.1%(同:1.9%)に発現した。 これらの結果より、Harbeck氏は「T-DXd-THP療法はddAC-THP療法よりも有効性が高く、毒性が少ない術前療法であり、高リスクのHER2+早期乳がんの新たな標準治療候補となる可能性がある」とまとめた。

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未治療のマントル細胞リンパ腫、イブルチニブ+リツキシマブがPFS改善/Lancet

 未治療のマントル細胞リンパ腫において、イブルチニブ(BTK阻害薬)+リツキシマブ(抗CD20抗体)の併用療法は免疫化学療法と比較して、無増悪生存期間(PFS)を有意に改善したことが、英国・University Hospitals Plymouth NHS TrustのDavid J. Lewis氏らENRICH investigatorsが行った無作為化非盲検第II/III相優越性試験「ENRICH試験」の結果で示された。イブルチニブは、初回治療の免疫化学療法に上乗せすることでPFSの延長が示されている。ENRICH試験では、60歳以上の未治療のマントル細胞リンパ腫患者を対象に、化学療法を併用しないイブルチニブ+リツキシマブ併用療法と、標準的な免疫化学療法(R-CHOP療法[リツキシマブ、シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、プレドニゾロン]またはリツキシマブ+ベンダムスチン)を比較した。著者は、「本検討はわれわれが知る限り、イブルチニブ+リツキシマブ併用の有効性を実証した初の無作為化試験である」としたうえで、「マントル細胞リンパ腫の高齢患者の初回治療として、イブルチニブ+リツキシマブ併用を新たな標準治療と見なすべきである」と述べている。Lancet誌オンライン版2025年10月3日号掲載の報告。英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で評価 ENRICH試験は、英国、スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマークの66施設で行われた。60歳以上で未治療のマントル細胞リンパ腫(Ann-Arbor分類StageII~IV、ECOG-PSスコア0~2)の患者を、イブルチニブ+リツキシマブ群(介入群)またはリツキシマブ+免疫化学療法群(対照群)に1対1の割合で無作為に割り付けた。試験担当医師が選択した免疫化学療法で層別化した。 介入群の被験者は、無作為化前に選択された免疫化学療法の適合スケジュール(R-CHOP療法21日ごと、またはリツキシマブ+ベンダムスチン療法28日ごと)に基づき、イブルチニブ560mgを1日1回経口投与+各サイクル初日にリツキシマブ375mg/m2の静脈内投与を6~8サイクル投与した。 R-CHOP療法は、21日サイクルの初日にシクロホスファミド750mg/m2、ドキソルビシン50mg/m2、ビンクリスチン1.4mg/m2を投与、各サイクル1~5日目にプレドニゾロン100mgを投与した。リツキシマブ+ベンダムスチン療法は、各サイクル1日目と2日目にベンダムスチン90mg/m2を投与し、各サイクルの1日目にリツキシマブ375mg/m2を投与する組み合わせで構成された。 導入期終了時に反応を示した両群の全患者は、8週ごと2年間、リツキシマブの維持投与を受けた。また介入群に割り付けられた患者は、疾患進行または許容できない毒性が出現するまでイブルチニブの投与が継続された。 主要評価項目は、試験担当医師の評価に基づくPFSで、選択した免疫化学療法で層別化を行い、ITT集団で解析が行われた。追跡期間中央値47.9ヵ月のPFS中央値、リツキシマブ+免疫化学療法よりも優れる 2016年2月15日~2021年6月30日に、397例が無作為化された。このうちR-CHOP療法の無作為化前選択は107例(27%)、リツキシマブ+ベンダムスチン療法の無作為化前選択は290例(73%)であった。 全体で、199例が介入群に、198例が対照群(R-CHOP療法53例、リツキシマブ+ベンダムスチン療法145例)に無作為化された。年齢中央値は、介入群74歳(四分位範囲:70~77)、対照群74歳(70~78)であった。296例(75%)が男性、101例(25%)が女性であり、人種に関するデータは収集されなかった。 追跡期間中央値47.9ヵ月の時点で、PFS中央値は介入群が対照群よりも有意に優れることが示された(補正後ハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.52~0.90、p=0.0034)。また、介入群のR-CHOP療法群に対するHRは0.37(95%CI:0.22~0.62)、同リツキシマブ+ベンダムスチン療法に対するHRは0.91(0.66~1.25)であった。 導入期および維持期を通じて、Grade3以上の有害事象が報告されたのは、介入群67%、対照群70%であった。

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第32回 世界の使用者1億人超…WHOが警鐘を鳴らす電子タバコの罠と、若者を蝕む「見えざる害」の正体

「紙タバコより安全」、「禁煙につながる」。そんなイメージとともに世界中で急速に普及した電子タバコ。しかし、その楽観的な見方に、世界保健機関(WHO)が公式に「待った」をかけました。WHOが初めて発表した推計によると、世界の電子タバコ使用者は1億人を突破したそうです。とくに深刻なのは若年層への普及です。13~15歳だけでも少なくとも1,470万人が使用していて、その使用率は上の年代の9倍にも達するといいます。WHOのテドロス事務局長は「タバコ業界は、新たな製品で若者を積極的にターゲットにしている」と、強い懸念を表明しました1)。これまで漠然と「害が少ない」と思われてきた電子タバコの裏側で、今、何が起きているのでしょうか。論文を基に、その深刻なリスクについて考えていきたいと思います2)。科学が暴く電子タバコの深刻なリスク電子タバコが市場に登場した際、従来の医薬品や医療機器に求められるような厳格な毒性試験や長期的な安全性試験は行われませんでした。製造基準や安全基準も確立されていないまま、「タバコ製品」の一つとして市場に広まったというのが実情なのです。しかし、その後の研究で、この「安全神話」は次々と覆されていきます。これまでよく報道されてきたのは、急性の健康被害でしょう。さまざまな急性リスクが報告されていますが、たとえば、製品の爆発による重度の火傷や顔面の外傷、ニコチン過剰摂取による急性中毒、突然の深刻な肺疾患に至るケースまで数多くの健康被害が報告されています。とくに、米国で多発した「電子タバコまたはベイピング製品使用関連肺損傷(EVALI)」は、入院や死亡例も確認されています。さらに、バター風味などを出すために使われる香料「ジアセチル」は、職業的に吸入すると閉塞性細気管支炎という重い肺の病気を引き起こすことが知られていますが、この物質が多くの電子タバコ製品に含まれていることも判明しています。長期的なリスクについても、科学は警鐘を鳴らし続けています。心臓・血管への影響毎日の電子タバコの使用が、心筋梗塞のリスクを著しく高めるという調査結果があります。使用によって心拍数や血圧が上昇し、動脈が硬くなることも確認されています。呼吸器への影響電子タバコの使用者は、気管支炎の症状を訴えるリスクが高いことがわかっています。さらに、慢性気管支炎や肺気腫(COPD)、喘息といった呼吸器疾患の新規発症との関連も指摘されています。がんのリスクがんの発症には長い年月がかかるため、人間での直接的な証拠はまだありません。しかし、研究室レベルでは不穏な兆候がみえています。電子タバコ使用者の尿からは、膀胱がんと関連する発がん物質が検出されています。さらに、マウスを電子タバコの煙に長期間さらした実験では、肺腺がんや膀胱の異常な細胞増殖が有意に多くみられました。禁煙の救世主か、依存への新たな入口か?「禁煙のため」という理由で電子タバコに切り替える人は少なくありません。しかし、WHOが「禁煙補助具として推奨しない」と明確に述べているように、その効果には大きな疑問符がついています。これまでの研究では、電子タバコの使用者は、むしろ禁煙に成功する確率が低いという結果が示されています。また、一度禁煙に成功した人が電子タバコを使い始めると、再び紙タバコに戻ってしまう「喫煙への逆戻り」のリスクが高まることも報告されています。結局のところ、電子タバコはニコチン依存からの脱却を助けるのではなく、依存を維持、あるいは別の形の依存に置き換えているに過ぎないケースが多いようなのです。若者にとっては、さらに深刻な「ゲートウェイ(入口)」となっています。実際、電子タバコを使用した経験のある若者は、そうでない若者に比べて、その後に紙タバコを吸い始める確率が3.5倍も高かったことが示されています。ニコチンには、脳の報酬系を変化させ、他の薬物への依存を促す作用があることが知られており、電子タバコがアルコールや他の薬物乱用への入口となることが懸念されているのです。巧妙化するタバコ産業の戦略WHOが指摘するように、タバコ産業が若者を新たなターゲットにしていることは、製品のデザインからも明らかです。コンピュータのUSBメモリにそっくりな製品や、ペン、パーカーの紐、さらには喘息の吸入器に見せかけた製品まで登場しています。これらは、学校や家庭など、使用が禁止されている場所で、親や教師の目を盗んで使用することを容易にするでしょう。フルーティなフレーバーやおしゃれなデザインは、タバコの有害性への警戒心を解き、若者にとっての心理的なハードルを大きく下げます。こうして、タバコ産業は、失われつつある紙タバコの顧客層を補うため、新たな世代をニコチン依存に取り込もうとしているのです。そして、依存ができれば、長期安定したサブスクリプションが完成というわけです。結論として、電子タバコは決して「安全な代替品」ではありません。科学的なエビデンスは、急性中毒や急性の肺疾患といった短期的なリスクから、心臓病、慢性気管支炎、がんといった深刻な長期的リスクまで、数多くの健康被害の可能性を示しています。禁煙効果が疑問視される一方で、若者を別の形でニコチン依存へと誘う「ゲートウェイ」としての役割が強く懸念されています。私たち一人ひとりが、巧妙なマーケティングに惑わされることなく、科学的根拠に基づいた冷静な判断を下し、とくに次代を担う若者をこの新たな脅威から守っていく必要があるのでしょう。 参考文献・参考サイト 1) NHK. 世界で電子たばこを使用する人 推計で1億人超える WHO報告書 2) Farber HJ, et al. Harms of Electronic Cigarettes: What the Healthcare Provider Needs to Know. Ann Am Thorac Soc. 2021;18:567-572.

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新薬が血圧コントロール不良の慢性腎臓病患者に降圧効果

 アルドステロンというホルモンを合成する酵素を阻害する新薬のバクスドロスタットの投与により、既存の薬では高血圧をコントロールできなかった慢性腎臓病(CKD)患者の収縮期血圧が約5%低下したとする第2相臨床試験(FigHTN)の結果が報告された。米ユタ大学保健学部のJamie Dwyer氏らによるこの研究結果は、米国心臓協会(AHA)のHypertension Scientific Sessions 2025(9月4〜7日、米ボルチモア)で発表されるとともに、「Journal of the American Society of Nephrology」に9月6日掲載された。Dwyer氏は、「CKDと高血圧を抱えて生きる人にとって、この研究結果は励みになる。この2つの病状はしばしば同時に進行し、危険な悪循環を生み出す」と述べている。 CKDと高血圧は密接に関連しており、適切に管理されない場合、心筋梗塞、脳卒中、心不全、腎不全への進行などの深刻な転帰を招く可能性がある。副腎から分泌されるアルドステロンは、体内でのナトリウムと水分の保持を促すことで血圧の上昇を引き起こす。このホルモンが過剰になると、時間の経過とともに血管の硬化と肥厚が起こり、心臓の損傷や腎臓の瘢痕化につながる可能性があり、高血圧と慢性腎臓病の両方に悪影響を与え得る。 今回の試験では、CKDを有し、ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害薬またはARB(アンジオテンシンII受容体拮抗薬)による治療を受けても高血圧が十分にコントロールされていない195人の患者(平均年齢66歳、女性32%)を対象に、バクスドロスタットの有効性が検討された。対象患者の選定基準は、座位収縮期血圧が非糖尿病患者で140mmHg以上、糖尿病患者で130mmHg以上、かつ尿アルブミン/クレアチニン比(UACR)が100mg/g以上とした。患者は、26週間にわたり低用量(0.5mgから最大1mgまで漸増)のバクスドロスタットを投与する群(低用量群)、高用量(2mgから4mgまで漸増)の同薬を投与する群(高用量群)、およびプラセボを投与する群(プラセボ群)にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、26週時点の座位収縮期血圧のベースラインからの変化量とされた。 ベースライン時の平均収縮期血圧は151.2mmHg、平均推算糸球体濾過量(eGFR)は44mL/分/1.73m2、UACRの中央値は714mg/gであった。26週間後のプラセボ群と比べた収縮期血圧の低下の幅は、バクスドロスタット投与群全体で−8.1mmHg(P=0.003)、低用量群で−9.0mmHg(P=0.004)、高用量群で−7.2mmHg(P=0.02)であった。 また、バクスドロスタット投与群では、プラセボ群と比較して、UACRが55.2%減少した。尿中のアルブミン値が高いことは、心臓病や腎臓病の予測因子と考えられている。Dwyer氏は、「これは、バクスドロスタットによる治療により長期的な利益を得られる可能性を期待させる結果だ」と指摘。「尿中アルブミン値の減少は、バクスドロスタットが腎障害進行の遅延にも役立つ可能性があることを示している。この可能性は現在、2つの大規模な第3相試験で評価されているところだ」とコメントしている。 バクスドロスタットの投与に伴い最も多く見られた副作用は血中カリウム濃度の上昇で、バクスドロスタット投与群の41%に発生したのに対し、プラセボ群ではわずか5%だった。ただし、ほとんどの症例は軽度から中等度であった。 AHAの高血圧および腎臓心血管科学委員会の前委員長である米ペンシルベニア大学ペレルマン医学部のJordana Cohen氏は、「高血圧やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系の亢進を伴うCKD患者を対象とした試験で、薬剤への耐性が良好で、血圧とアルブミン尿の両方に効果があったことは、非常に心強い。この薬剤クラスは、CKD患者の高血圧管理に画期的な変化をもたらす可能性がある」とAHAのニュースリリースの中で述べている。なお、本研究は、バクスドロスタットの開発元であるアストラゼネカ社の資金提供を受けて実施された。

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低リスク急性心筋梗塞、PCI後1ヵ月でアスピリンは中止可能か/NEJM

 低リスクの急性心筋梗塞で、血行再建術を受けた後、合併症の発現なく1ヵ月間の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を完了した患者では、1年後(無作為化から11ヵ月後)の心血管・脳血管イベントの発生に関して、P2Y12阻害薬単剤療法はDAPTに対し非劣性であり、出血イベントの発生率は低減したことが示された。イタリア・University of Padua Medical SchoolのGiuseppe Tarantini氏らTARGET-FIRST Investigatorsが、多施設共同非盲検無作為化対照比較試験「TARGET-FIRST試験」の結果を報告した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2025年8月31日号で発表された。欧州40施設で1,942例を登録 TARGET-FIRST試験は、最新の薬剤溶出性ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)を受け、虚血イベントや出血イベントのリスクが低い急性心筋梗塞患者の抗血小板療法において、DAPTを1ヵ月間行った時点でのアスピリン早期中止の、DAPT継続に対する非劣性を検証する目的で、2021年3月~2024年3月に、欧州の40施設で参加者を登録して行われた(フランス・MicroPortの助成を受けた)。 対象は、年齢18歳以上、急性心筋梗塞発症から7日以内に生体分解性ポリマーを用いたrapamycin(和名:シロリムス)溶出性ステント(MicroPort製)による血行再建術が成功し、その後1ヵ月間、虚血イベントや大出血イベントの発現なしにDAPT(P2Y12阻害薬[プラスグレル、チカグレロル、クロピドグレルから選択]+アスピリン)を完了した患者であった。 被験者を、アスピリンの投与を中止してP2Y12阻害薬単剤に移行する群、またはDAPTを継続する群に、1対1の割合で無作為に割り付け、11ヵ月間投与した。 1,942例を登録し、P2Y12阻害薬単剤群に961例、DAPT継続群に981例が無作為化された。PCI施行から無作為化までの期間中央値は37日であった。全体の平均(±SD)年齢は61.0(±10.6)歳、78.4%が男性で、14.5%が糖尿病、38.7%が高血圧、27.8%が高コレステロール血症を有していた。 無作為化の時点で、P2Y12阻害薬は74.0%でチカグレロル、20.9%でプラスグレル、5.1%でクロピドグレルが処方されていた。また、97.0%がスタチン、79.1%がβ遮断薬、76.7%がACE阻害薬またはARBの投与を受けていた。主要複合アウトカムは非劣性 主要アウトカムは、無作為化から11ヵ月の時点での全死因死亡、心筋梗塞、ステント血栓症、脳卒中、大出血(BARC出血基準タイプ3または5)の複合とした。非劣性マージンは1.25%ポイントと定義した。 11ヵ月後の主要アウトカムのイベントは、P2Y12阻害薬単剤群で20例(2.1%)、DAPT継続群で21例(2.2%)に発現し(群間差:-0.09%ポイント、95%信頼区間[CI]:-1.39~1.20、非劣性のp=0.02)、P2Y12阻害薬単剤群のDAPT継続群に対する非劣性が示された。 主要アウトカムの個別の構成要素のイベント発生状況は次のとおりだった。(1)全死因死亡(P2Y12阻害薬単剤群0.4%vs.DAPT継続群0.2%、ハザード比[HR]:2.04[95%CI:0.37~11.14])、(2)心筋梗塞(0.7%vs.1.1%、0.72[0.27~1.88])、(3)ステント血栓症(definiteまたはprobable)(0.1%vs.0%)、(4)脳卒中(0.3%vs.0.2%、1.53[0.26~9.18])、(5)大出血(0.7%vs.0.7%、1.02[0.36~2.91])。BARCタイプ2、3、5の出血イベントが有意に改善 主な副次アウトカムであるBARC出血基準タイプ2、3、5の出血イベントは、DAPT継続群で54例(5.6%)に発生したのに対し、P2Y12阻害薬単剤群では25例(2.6%)と有意に少なく(HR:0.46、95%CI:0.29~0.75、優越性のp=0.002)、P2Y12阻害薬単剤群の優越性を確認した。 重篤な有害事象の頻度は両群で同程度であり、P2Y12阻害薬単剤群で108例(11.2%)に144件、DAPT継続群で122例(12.4%)に157件が報告された。 著者は、「今回得られた知見は、虚血イベントや出血イベントのリスクが低い患者を慎重に選択した集団における、早期の解剖学的に完成度の高い血行再建術という特定の条件下で解釈すべきであり、広範で異質性の高い患者集団に直接的に一般化できるものではない」としている。

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主要5クラスの降圧薬、単剤・併用の降圧効果を定量化/Lancet

 オーストラリア・University of New South WalesのNelson Wang氏らは、主要5クラスの降圧薬の降圧効果およびそれらの組み合わせによる降圧効果の定量化を目的に、無作為化二重盲検プラセボ対照試験のシステマティックレビューとメタ解析を行った。降圧薬のあらゆる組み合わせについて、期待される降圧効果の強固な推定値を提示し、その降圧効果の程度を低強度・中強度・高強度に分類可能であることを示した。著者は、「得られた知見は、世界中の高血圧治療を受ける人々の、不良な血圧コントロールを改善するための処方決定に役立つ情報となるだろう」と述べている。Lancet誌2025年8月30日号掲載の報告。診察室SBPの低下を定量化、各療法の降圧効果の強度を低・中・高に分類 研究グループは、成人参加者がアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、β遮断薬、Ca拮抗薬、利尿薬のいずれかまたは組み合わせの投与を受けた無作為化二重盲検プラセボ対照試験を対象に、システマティックレビューとメタ解析を行った。適格基準は、追跡期間は4~26週、降圧薬治療(投与量と種類)が血圧のフォローアップ前4週間以上にわたり固定していること、治療群間の収縮期血圧(SBP)の平均群間差を算出するために診察室血圧が利用できることとした。クロスオーバー期間のウォッシュアウト期間が2週間未満のクロスオーバー試験は除外した。 データベースの公開~2022年12月31日に発表された適格試験を、Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、Epistemonikosを検索して特定した。さらに検索の更新を行い、2023年1月1日~2025年2月28日に発表された試験を含めた。 主要アウトカムは、プラセボと比較した実薬治療の診察室SBPの低下(ベースラインから最長追跡時点[最短4週]までの平均SBP変化量の差)とした。 降圧効果は、ベースライン血圧(包含試験全体の平均ベースライン血圧154/100mmHg)により標準化し、固定効果メタ解析を用いて平均差と95%信頼区間(CI)を推算した。また、単剤・併用それぞれの薬物療法を、SBPのベースライン値154mmHgからの低下の程度で、低強度(<10mmHg低下)、中強度(10~19mmHg低下)、高強度(≧20mmHg低下)に分類した。あらゆる降圧薬の併用療法の有効性を計算するモデルを開発し、2剤併用または3剤併用の外部試験で検証した。標準用量単剤療法、SBP低下8.7mmHg、79%が低強度 解析には、484試験の10万4,176例が含まれた。平均年齢は54歳(SD 8)、男性5万7,422例(55%)、女性4万6,754例(45%)であり、平均追跡期間は8.6週(SD 5.2)であった。 平均して、標準用量での単剤療法によるSBP低下は8.7mmHg(95%CI:8.2~9.2)であった。クラス別では、ACE阻害薬6.8mmHg、ARB 8.5mmHg、β遮断薬8.9mmHg、Ca拮抗薬9.5mmHg、利尿薬10.8mmHg。複数のメタ解析で薬剤クラスによってかなりの異質性が認められ(I2>50%)、同一クラスでも薬剤間の有効性は異なることが示唆された。 また、単剤療法では用量倍増で、SBPは追加で1.5mmHg(1.2~1.7)低下した。用量反応性はβ遮断薬が最も小さく0.5mmHg、Ca拮抗薬が最も大きく2.6mmHgだった。 さらに、単剤療法ではベースラインSBPが10mmHg低下するごとに、降圧効果は1.3mmHg(95%CI:1.0~1.5)低下したが、薬剤クラス間で差がみられた。 降圧の程度は、標準用量での単剤療法57種のうち45種(79%)が低強度に分類された。標準用量2剤併用療法、SBP低下14.9mmHg、58%が中強度、11%が高強度 平均して、標準用量での2剤併用療法によるSBP低下は14.9mmHg(95%CI:13.1~16.8)であった。併用する両剤の用量倍増で、SBPは追加で2.5mmHg(1.4~3.7)低下した。 降圧の程度は、2剤併用療法の異なる薬剤・用量の組み合わせ189種のうち、110種(58%)が中強度に分類され、21種(11%)が高強度に分類された。 あらゆる併用療法の有効性モデルを外部試験で検証した結果、SBPの予測値と測定値の間に高い相関関係があることが示された(r=0.76、p<0.0001)。

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降圧薬で腸管血管性浮腫の報告、重大な副作用を改訂/厚労省

 2025年9月9日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などの降圧薬で重大な副作用が改められた。 今回、ACE阻害薬、ARB、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)および直接的レニン阻害薬の腸管血管性浮腫について評価した。その結果、「血管性浮腫の一種である腸管血管性浮腫についても、潜在的なリスクである可能性があること」「国内外副作用症例において、腸管血管性浮腫に関連する報告が認められていない薬剤もあるものの、複数の薬剤において腸管血管性浮腫との因果関係が否定できない症例が認められていること」「医薬品医療機器総合機構で実施したVigiBaseを用いた不均衡分析において、複数のACE阻害薬およびARBで『腸管血管性浮腫』に関する副作用報告数がデータベース全体から予測される値より統計学的に有意に高かったこと」を踏まえ、改訂に至った。◆例:アジルサルタンの場合[重大な副作用]血管浮腫顔面、口唇、舌、咽・喉頭等の腫脹を症状とする血管性浮腫があらわれることがある。↓血管性浮腫顔面、口唇、舌、咽・喉頭等の腫脹を症状とする血管性浮腫があらわれることがある。また、腹痛、嘔気、嘔吐、下痢等を伴う腸管血管性浮腫があらわれることがある。 対象医薬品は以下のとおり。<ACE阻害薬>アラセプリル(商品名:セタプリル錠)イミダプリル塩酸塩(同:タナトリル錠)デラプリル塩酸塩(同:アデカット錠)トランドラプリル(同:オドリック錠)ペリンドプリルエルブミン(同:コバシル錠)<ARB>アジルサルタン(同:アジルバ錠)イルベサルタン(同:アバプロ錠)オルメサルタン メドキソミル(同:オルメテック錠)カンデサルタン シレキセチル(同:ブロプレス錠)バルサルタン(同:ディオバン錠)アジルサルタン・アムロジピンベシル酸塩(同:ザクラス配合錠)イルベサルタン・アムロジピンベシル酸塩(同:アイミクス配合錠)イルベサルタン・トリクロルメチアジド(同:イルトラ配合錠)オルメサルタン メドキソミル・アゼルニジピン(同:レザルタス配合錠)カンデサルタン シレキセチル・アムロジピンベシル酸塩(同:ユニシア配合錠)カンデサルタン シレキセチル・ヒドロクロロチアジド(同:エカード配合錠)テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩(同:ミカムロ配合錠)テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩・ヒドロクロロチアジド(同:ミカトリオ配合錠)テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド(同:ミコンビ配合錠)バルサルタン・アムロジピンベシル酸塩(同:エックスフォージ配合錠)バルサルタン・シルニジピン(同:アテディオ配合錠)バルサルタン・ヒドロクロロチアジド(同:コディオ配合錠)ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド(同:プレミネント配合錠)<ARNI>サクビトリルバルサルタンナトリウム水和物(同:エンレスト錠)<直接的レニン阻害薬>アリスキレンフマル酸塩(同:ラジレス錠) このほか、メサラジン(同:ペンタサ、アサコール ほか)、サラゾスルファピリジン(同:アザルフィジン、サラゾピリン ほか)アダリムマブ(同:ヒュミラ ほか)、イピリムマブ(同:ヤーボイ)・ニボルマブ(同:オプジーボ)、メロペネム水和物(同:メロペン)に対しても、それぞれ重大な副作用などが追加された。

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irAE治療中のNSAIDs多重リスク回避を提案【うまくいく!処方提案プラクティス】第68回

 今回は、免疫チェックポイント阻害薬による免疫関連有害事象(irAE)の治療でステロイド投与中の高齢がん患者に対し、NSAIDsによる多重リスクを評価して段階的中止を提案した事例を紹介します。複数のリスクファクターが併存する患者では、アカデミック・ディテーリング資材を用いたエビデンスに基づくアプローチが効果的な処方調整につながります。患者情報93歳、男性基礎疾患肺がん(ニボルマブ投与歴あり)、急性心不全、狭心症、閉塞性動脈硬化症、脊柱管狭窄症ADL自立、息子・嫁と同居喫煙歴40本/日×40年(現在禁煙)介入前の経過2020年~肺がんに対してニボルマブ投与開始2025年3月irAEでプレドニゾロン40mg/日開始、その後前医指示で中止2025年6月3日irAE再燃でプレドニゾロン40mg/日再開処方内容1.プレドニゾロン錠5mg 8錠 分1 朝食後2.テルミサルタン錠40mg 1錠 分1 朝食後3.クロピドグレル錠75mg 1錠 分1 朝食後4.エソメプラゾールカプセル10mg 2カプセル 分1 朝食後5.フロセミド錠20mg 1錠 分1 朝食後6.スピロノラクトン錠25mg 1錠 分1 朝食後7.フェブキソスタット錠10mg 1錠 分1 朝食後8.リナクロチド錠0.25mg 2錠 分1 朝食前9.ジクトルテープ75mg 2枚 1日1回貼付本症例のポイント本症例は、93歳という超高齢で複数の基礎疾患を有するがん患者であり、irAE治療のステロイド投与とNSAIDsの併用が引き起こす可能性のある多重リスクに着目しました。患者は肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の副作用であるirAEに対して、プレドニゾロン40mg/日という高用量ステロイドの投与を受けていました。同時に疼痛管理としてNSAIDsであるジクトルテープ2枚を使用していました。一見すると症状は安定していましたが、薬剤師の視点で患者背景を詳細に評価したところ、見過ごされがちな重大なリスクが潜んでいることが判明しました。第1に胃腸障害リスクです。高用量ステロイドとNSAIDsの併用は消化性潰瘍の発生率を相乗的に増加させることが知られており、93歳という高齢に加え、既往歴も有する本患者ではとくにリスクが高い状況でした。第2に心血管リスクです。患者には急性心不全や狭心症の既往があり、さらに閉塞性動脈硬化症も併存していました。NSAIDsは心疾患患者において心血管イベントのリスクを増加させるため、この併用は極めて危険な状態といえました。第3の最も注意すべきは腎臓リスク、いわゆる「Triple whammy」の状況です。NSAIDs、ループ利尿薬(フロセミド)、ARB(テルミサルタン)の3剤併用は急性腎障害の発生率を著しく高めることが報告されており、高齢者ではとくに致命的な合併症につながる可能性がありました。これらの多重リスクは単独では見落とされがちですが、患者の全体像を包括的に評価することで初めて明らかになる重要な安全性の問題です。医師への提案と経過患者の多重リスクを評価し、服薬情報提供書を用いて医師に処方調整を提案しました。現状報告として、irAE治療でプレドニゾロン40mg/日投与中であり、ジクトルテープ2枚使用で疼痛は安定しているものの、複数のリスクファクターが併存していることを伝えました。懸念事項については、アカデミック・ディテーリング※資材を用いて消化性潰瘍リスク(ステロイドとNSAIDsの併用は潰瘍発生率を有意に増加)、心血管リスク(NSAIDsは既存心疾患患者で心血管イベントリスクを増加)、Triple whammyリスク(3剤併用による急性腎障害発生率の増加)について説明しました。※アカデミック・ディテーリング:コマーシャルベースではない、基礎科学と臨床のエビデンスを基に医薬品比較情報を能動的に発信する新たな医薬品情報提供アプローチ 。薬剤師の処方提案力を向上させ、処方の最適化を目指す。提案内容として段階的中止プロトコールを提示し、ジクトルテープ2枚から1枚に減量、2週間の疼痛評価期間を設定、疼痛悪化がないことを確認後に完全中止するという方針を説明しました。将来的な疼痛悪化時のオピオイド導入準備と疼痛モニタリング体制の強化についても提案しました。医師にはエビデンス資料の提示により多重リスクの危険性について理解が得られ、段階的中止プロトコールが採用となり、患者の安全性を優先した方針変更となりました。経過観察では1週間後にジクトルテープ1枚に減量しましたが疼痛悪化はなく、2週間後も疼痛コントロールが良好であることを確認し、3週間後にジクトルテープを完全中止しましたが疼痛の悪化はありませんでした。現在も疼痛コントロールは良好で、多重リスクからの回避を達成しています。参考文献1)日本消化器病学会編. 消化性潰瘍診療ガイドライン2020(改訂第3版). 南山堂;2020.2)Masclee GMC, et al. Gastroenterology. 2014;147:784-792.3)Lapi F, et al. BMJ. 2013;346:e8525.

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全年齢で130/80mmHg未満を目標に、『高血圧管理・治療ガイドライン2025』発刊/日本高血圧学会

 日本高血圧学会は『高血圧管理・治療ガイドライン2025』(以下、JSH2025)を8月29日に発刊した。6年ぶりとなる今回の改訂にあたり、大屋 祐輔氏(琉球大学名誉教授/高血圧管理・治療ガイドライン2025作成委員長)と苅尾 七臣氏(自治医科大学循環器内科学部門 教授/日本高血圧学会 理事長)が降圧目標や治療薬の位置付けと選択方法などについて、7月25日に開催されたプレスセミナーで解説した。 本書は高血圧患者(140/90mmHg以上)のほか、高値血圧(130~139/80~90mmHg)、血圧上昇に伴い脳心血管リスクが高まる正常高値血圧以上(120/80mmHg以上)のすべての人を対象に作成され、Clinical Question(CQ)全19項目が設けられた。主な改訂点は(1)降圧目標を合併症などを考慮し全年齢「130/80mmHg」*へ、(2)降圧薬選択におけるβ遮断薬の復活、(3)治療の早期介入と治療ステップ、(4)治療アプリの活用など。各パラグラフで詳細に触れていく。*診察室血圧130/80mmHg未満、家庭血圧125/75mmHg未満個別性に配慮し、全年齢で130/80mmHg未満を目指す 日本高血圧学会は2000年から四半世紀にわたってガイドラインを作成し、高血圧の是正問題に力を入れてきた。しかし、高所得国における日本人の高血圧有病率は最も不良であり、昨今の罹患率は2017年の推計値とほぼ同等の4,300万例に上る1)。そこで、今回の改訂では、国民の血圧を下げるために、“理論でなく行動のためのもの、シンプルでわかりやすい、エビデンスに基づくもの”という理念を基に、正常血圧の基準(120/80mmHg未満)や、高血圧の基準(140/90mmHg以上)などの数値は欧米のガイドラインを踏まえて据え置くも、JSH2025作成のために実施されたシステマティック・レビューならびにメタ解析の結果から脳心血管病発症リスクを考慮し、「原則的に収縮期血圧130mmHg未満を降圧目標とする」とした(第2部 5.降圧目標[p.67~69]、CQ4、8、9、12、14参照)。 これについて大屋氏は「降圧目標130/80mmHg。これが本改訂で押さえておくべき値である。前版の『高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)』では75歳以上の高齢者、脳血管障害や慢性腎臓病(蛋白尿陰性)を有する患者などは有害事象の発現を考慮して140/90未満と区別していた。しかし、これまでの国内外の研究からも高値血圧(130~139/80~89mmHg)でも心血管疾患の発症や死亡リスクが高いことから、高血圧患者であれば、120/80mmHg以上の血圧を呈するすべての者を血圧管理の対象とする。また、降圧目標も75歳以上の高齢者も含めて、診察室血圧130/80mmHg未満に定めることとした。ただし、大屋氏は「一律に下げるのではなく、副作用や有害事象に注意しながら個別性を考慮しつつ下げる」と注意点も強調している。 JSH2019発刊後も高血圧の定義が140/90mmHg以上であるためか、降圧目標をこの値に設定して治療にあたっている医師が少なくない。「130/80mmHg未満を目標に、血圧レベルや脳心血管病発症の危険因子などのリスクを総合的に評価し、個々に応じた治療計画を設定することが重要」と同氏は繰り返し強調した。苅尾氏も「とくに朝の血圧上昇がさまざまなリスク上昇に影響を及ぼしているにもかかわらず、一番コントロールがついていない。ガイドライン改訂と血圧朝活キャンペーンを掛け合わせ、朝の血圧130未満の達成につなげていく」と言及した。β遮断薬の処方減に危機感 高血圧に対する治療介入は患者を診断した時点が鍵となる。まず治療を行うにあたり、脳心血管病に対する予後規定因子(p.65、表6-1)を基に血圧分類とリスク層別化(同、表6-2)を行い、そのリスク判定を踏まえて、初診時血圧レベル別の高血圧管理計画(p.67、図6-1)から患者個々の血圧コントロールを進めていく。実際の処方薬を決定付けるには、主要降圧薬の積極的適応と禁忌・重要な注意を要する病態(p.95、表8-1)、降圧薬の併用STEPにおけるグループ分類(p.95、表8-2)を参考とする。今回の改訂では積極的適応がより具体的になり、脳血管障害はもちろん、体液貯留や大動脈乖離、胸部大動脈瘤の既往にも注意を払いたい。 そしてもう1つの変更点は、降圧薬のグループ分類が新設されたことである。「治療薬の選択については、β遮断薬を除外した前回の反省点を踏まえ、単剤でも脳心血管病抑制効果が示されている5種類(長時間作用型ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬)を主要降圧薬(グループ1、以下G1降圧薬)に位置付けた(表8-2)」と大屋氏は説明。とくにβ遮断薬の考え方について、「JSH2019では糖尿病惹起作用や高齢者への適応に関してネガティブであったが、それらの懸念は一部の薬剤に限るものであり、有用性と安全性が確立しているビソプロロールとカルベジロールの使用は推奨される。また、耐糖能異常を来す患者への投与について、前版では慎重投与となっていたが重要な注意の下で使用可能な病態とした」とし、「各薬剤の積極的適応、禁忌や注意すべき病態を考慮するために表8-1を参照して処方してほしい。もし積極的適応が表8-1にない場合には、コラム8-1(p.96)のアドバイスを参考にG1降圧薬を選択してもらいたい」ともコメントした。 また、治療を進めていく上では図8-1の降圧薬治療STEPの利用も重要となる。G1降圧薬の単剤投与でも効果不十分であれば2剤併用やG2降圧薬(ARNI、MR拮抗薬)の処方を検討する。さらに降圧目標を達成できない場合にはG1・G2降圧薬から3剤併用を行う必要がある。ただし、それでも効果がみられない場合には、専門医への紹介が考慮される。 なおMR拮抗薬は、治療抵抗性高血圧での追加薬として有用であることから、実地医家の臨床上の疑問に応える形でクエスチョンとしても記されている(p.181、Q10)。薬物療法は診断から1ヵ月以内に 続いて、大屋氏は治療介入のスピードも重要だとし、「今改訂では目標血圧への到達スピード(薬物投与の時期)も押さえてほしい」と話す。たとえば、低・中等リスクなら生活習慣の改善を実施して1ヵ月以内に再評価を行い、改善がなければ改善の強化とともに薬物治療を開始する。一方、高リスクであれば生活習慣の改善とともにただちに薬物療法を開始するなど、降圧のスピードも考慮しながらの管理が必要だという。 ただし、急性腎障害や症候性低血圧、過降圧によるふらつき、高カリウム血症などの電解質異常といった有害事象の出現に注意が必要であること、高齢者のなかでもフレイルや要介護などに該当する患者の対応については、特殊事例として表10-4に降圧指針(p.151)が示されていることには留意したい。利用者や対象者を明確に、血圧管理にアプリの活用も 本書の利用対象者は多岐にわたるため、各利用対象を考慮して3部構成になっている。第1部(国民の血圧管理)は自治体や企業団体や一般市民など、第2部(高血圧患者の管理・治療)は実地医家向け、第3部(特殊な病態および二次性高血圧の管理・治療)は高血圧、循環器、腎臓、内分泌、老年の専門医療に従事する者やその患者・家族など。 新たな追加項目として、第7章 生活習慣の改善に「デジタル技術の活用」が盛り込まれた点も大きい。高血圧治療補助アプリは成人の本態性高血圧症の治療補助として2022年9月1日に保険適用されている。苅尾氏が降圧目標達成に向けた血圧管理アプリの利用について、「デジタル技術を活用した血圧管理に関する指針が発刊されているが、その内容が本ガイドラインに組み込まれた(CQ7)。その影響は大きい」ともコメントしている。現在、日本高血圧学会において、製品概要や使用上の注意点を明記した『高血圧治療補助アプリ適正使用指針(第1版)』を公開している。 同学会は一般市民への普及にも努めており、7月25日からはYouTubeなどを利用した動画配信を行い、血圧目標値130/80mmHgの1本化についての啓発を進めている。あわせてフェイク情報の拡散問題の解決にも乗り出しており、大屋氏は「フェイク情報を放置せず、正確な情報提供が必要だ。本学会からの提言として、『高血圧の10のファクト~国民の皆さんへ~』を学会ホームページならびに本書の付録(p.302)として盛り込んでいるので、ぜひご覧いただきたい」と締めくくった。

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