8.
新調したての精子で体外受精が成功しやすくなる射精してから間もない新調したての精子を使った体外受精(IVF)がどうやら妊娠の成功を増やすようです1,2)。体外受精では、精子を採取する2~7日前に前もって射精しておくことがたいてい男性に指示されます。できるだけ健康な精子が体外受精で受精するようにするためです。精巣で精子がより長く留まるとさまざまな内なる毒素、とくには活性酸素種(ROS)や、汚染物質などの外襲に見舞われる期間も長くなります。それが原因で精子はDNAを傷めて役目を果たせないようになるかもしれません。実際、精巣での滞在期間がより短い精子ほど質が良いのは本当のようです。2年ほど前のメタ解析では、前の射精から4日間以内の不妊男性の精液の質の改善がみられています3)。3年ほど前の別のメタ解析では前の射精後すぐの4時間以内の精子はDNA損傷が少なく、よく動くという結果が得られています4)。さらには、射精控えの期間が短いほどどうやら妊娠しやすくなることが、卵子に精子を直に注入する体外受精(intracytoplasmic sperm injection:ICSI)の1,691回の取り組みを調べた試験で示されています5)。しかし、精子が卵子に泳いで行く昔ながらの体外受精(conventional in vitro fertilization:c-IVF)で射精控えを短くすることに同様の取り柄があるかどうかはよくわかっておらず、c-IVFに最適な射精控えの期間も定まっていません。そこで中国の吉林大学第一病院(First Hospital of Jilin University)のYueying Zhu氏らは、同病院でc-IVFに臨むパートナー500組を募って、射精控え期間を短くすることに取り柄があるかどうかを無作為化試験で調べました。それらの男性はc-IVFの精子回収が先立つ2日以内の射精後の群(射精控え短期群)と標準の2~7日後の群(標準群)に1対1の割合で割り振られました。最終的に射精控え短期群の226組と標準群の227組が試験を完了しました。幸いにして射精控え短期群の妊娠継続(12週間以上の胎児の心臓の活動)達成率は標準群より有意に高く、それぞれ46%と36%でした(p=0.030)。射精から精子回収までの期間が短いことは精子不足でのICSI移行を増やすかもしれないとの懸念は当たらず、精子不足でのICSI移行率は両群で似たり寄ったりでした(それぞれ3%と2%)。今回報告された結果は試験の全容の一部にすぎません。被験者の経過の記録は進行中で、肝要の転帰である生児出生率を含むほかの評価項目が後に報告されます1)。盛りだくさんとはいえ今回の試験は1つの病院で実施されたものであり、多施設でより多くの被験者を募る試験でより短期の射精控えの効果を調べることが今後必要と著者は言っています。まだまだ調べることは多そうですが、より直前に射精しておくことが好調な精子を得る良い手段であることを今回の結果はひとまず示したようです2)。体外受精をしないパートナーの妊娠もそういう新調したての精子で改善するかどうかも今後の試験で判明しそうです。乗り物酔いの薬を米国承認身近な困りごとの薬を米国がここ40年で初めて承認しました6)。承認されたのは乗り物酔いの嘔吐を防ぐ飲み薬です。米国の製薬会社Vanda Pharmaceuticalsが開発しました。商品名はNereusです。Nereusは吐きそうな動き(motion)がある出来事(event)の1時間ほど前に1回きり経口服用します7)。その成分tradipitantは化学療法の悪心嘔吐の予防に使われる薬と同様にニューロキニン遮断作用を担います。米国の沿岸で被験者に船に乗ってもらった2つの第III相試験(Motion SyrosとMotion Serifos)でNereusの効果が裏付けられています。それらの試験で同剤投与群の嘔吐の発生率はプラセボ群の半分足らずで済みました8,9)。向こう数ヵ月のうちにNereusを米国で発売するとVanda社は同剤承認を知らせる先月末30日のニュースに記しています6)。参考1)Trigger-Day Ejaculation Improves Conventional in vitro fertilization Outcomes: A Prospective Randomized Controlled Trial. The Lancet on SSRN. 2025 Dec 2.2)IVF success may depend on how long men abstain from ejaculation / NewScientist3)Du C, et al. Andrology. 2024;12:1224-1235.4)Barbagallo F, et al. J Clin Med. 2022;11:7303.5)Gupta S, et al. J Hum Reprod Sci. 2021;14:273-280.6)Vanda Pharmaceuticals Announces FDA Approval of NEREUSTM(tradipitant)for the Prevention of Vomiting Induced by Motion7)NEREUS PRESCRIBING INFORMATION8)Polymeropoulos VM. et al. Front Neurol. 2025;16:1550670. 9)Vanda Pharmaceuticals Reports Positive Results from a Second Phase III Study of Tradipitant in Motion Sickness / PRNewswire