サイト内検索|page:1

検索結果 合計:473件 表示位置:1 - 20

1.

TAVI後の脳卒中リスクを低減する目的でのルーチンでの脳塞栓保護デバイスの使用は推奨されない(解説:加藤貴雄氏)

 BHF PROTECT-TAVI試験は、経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)における脳塞栓保護(CEP)デバイスの有効性を検証した英国での7,600例規模の大規模無作為化比較試験である(Kharbanda RK, et al. N Engl J Med. 2025;392:2403-2412)。CEPデバイス(Sentinel)の使用群と非使用群において、TAVI後72時間以内または退院までの脳卒中発症率に有意な差はなかった。この結果は、先行研究である北米・欧州・オーストラリアを中心に約3,000例で行われた、PROTECTED TAVR試験の結果と一致しており(Kapadia SR, et al. N Engl J Med. 2022;387:1253-1263)、TAVI後の脳卒中リスクを低減する目的でのルーチンでの使用は推奨されない結果であった。安全性に差はなかった。 本邦では「脳塞栓保護システムの適正使用に係る指針」が経カテーテル的心臓弁治療関連学会協議会から昨年出され、画像検査所見から、「大動脈弁の著しい石灰化又は上行弓部大動脈のアテローム病変によりTAVR時の脳塞栓症のリスクが高いと思われる患者」、または、既往歴から、「末梢血管疾患の既往・慢性腎臓病(透析含む)の既往・脳卒中の既往」があること、が適応評価に考慮されるべき項目として挙げられている。フィルターが留置される部分、すなわち左総頸動脈または腕頭動脈のいずれかに70%を超える狭窄や拡張・解離のない患者に用いることも重要である。高リスク患者に適正に用いることが重要で、高リスク患者に対象を絞った臨床試験も必要と思われる。

2.

降圧薬の種類と心血管リスク、ARB vs.CCB vs.利尿薬vs.β遮断薬

 血圧が良好にコントロールされている高齢高血圧患者において、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)およびカルシウム拮抗薬(CCB)の長期使用は、サイアザイド系利尿薬やβ遮断薬と比較して、心血管イベントの複合アウトカムに対してより大きなベネフィットをもたらす可能性が示唆された。中国・北京協和医学院のXinyi Peng氏らは、STEP試験の事後解析として、ARB、CCB、サイアザイド系利尿薬、β遮断薬という4つの降圧薬クラスに焦点を当て、それらの長期投与と心血管リスクの関連について評価した。BMC Medicine誌2025年7月1日号掲載の報告より。 本研究は、脳卒中の既往のない60~80歳の中国人高血圧患者を対象としたSTEP試験のデータを用いて実施された。追跡不能となった234例および無作為化後に血圧記録が得られなかった20例を除外し、最終的に8,257例が解析対象となった。各降圧薬クラスについて、相対的曝露期間(薬剤投与期間/イベント発生までの期間)を算出した。 主要アウトカムは、脳卒中の初回発症、急性冠症候群(ACS)、急性非代償性心不全、冠動脈血行再建術、心房細動、心血管死の複合とされた。副次アウトカムは、これら主要アウトカムの各構成要素であった。各アウトカムに対するハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)は、Cox回帰分析により算出した。 主な結果は以下のとおり。・追跡期間中央値3.34年において、主要アウトカム解析の結果、ARBまたはCCBへの相対的曝露期間が長いほど、心血管複合リスクが有意に低下することが明らかになった。・ARBへの相対的曝露期間が1単位増加するごとに、主要アウトカムのリスクは45%低下した(HR:0.55、95%CI:0.43~0.70)。CCBへの曝露においてはリスクが30%低下した(HR:0.70、95%CI:0.54~0.92)。・利尿薬は中間的な結果を示した(HR:1.02、95%CI:0.66~1.56)。・一方で、β遮断薬の相対的曝露期間が長いほど、主要アウトカムのリスクは有意に上昇した(HR:2.20、95%CI:1.81~2.68)。・副次アウトカムに関しては、ARBおよびCCBの相対的曝露期間が長いほど、全死亡および心血管死のリスクが有意に低下していた。さらにARBの相対的曝露期間の長さは、脳卒中、ACS、主要心血管イベント(MACE)のリスク低下と関連していた。・相対的曝露期間の1単位増加当たりのHRは、主要アウトカム、MACE、脳卒中のいずれにおいても、ARBがCCBより一貫して低く(いずれもp<0.05)、より大きなベネフィットを示した。 著者らは、「本事後解析の結果は、ARBおよびCCBの長期投与が、利尿薬およびβ遮断薬と比較して、高齢の高血圧患者における複数の心血管イベントについて良好な予後と関連する可能性を示唆した。さらに、ARBはCCBよりも大きな心血管ベネフィットをもたらすことが推察された」とまとめている。一方、β遮断薬の長期投与が心血管リスクの上昇と関連を示したことについては、医学的適応による選択バイアスを反映している可能性があるとしている。

3.

肥大型心筋症治療のパラダイムシフト【心不全診療Up to Date 2】第3回

肥大型心筋症治療のパラダイムシフトKey Point肥大型心筋症(HCM)の病態理解は、サルコメア蛋白遺伝子異常による「心筋の過収縮とエネルギー非効率性」を根源とする疾患へと深化している診断には心エコーやMRI、遺伝子検査が有用で、AI解析も注目されているサルコメアを直接制御する初の病態修飾薬、心筋ミオシン阻害薬を深掘りはじめに肥大型心筋症(hypertrophic cardiomyopathy:HCM)は、高血圧症や弁膜症などほかの心疾患では説明できない“左室ないし右室心筋の肥厚を呈する最も頻度の高い遺伝性心疾患”である(図1)。(図1)肥大型心筋症の定義画像を拡大する左室流出路閉塞(LVOTO)の有無、心不全症状、致死性不整脈リスクなど、その臨床像は極めて多様性に富む。これまでの治療は対症療法が中心であったが、近年、疾患の根源的病態であるサルコメアの機能異常に直接作用する心筋ミオシン阻害薬(Cardiac Myosin Inhibitor:CMI)が登場し、治療は大きな転換期を迎えている。「2025年改訂版 心不全診療ガイドライン」においてもHCMは独立した項目として扱われ、とくに治療アルゴリズムが大きく更新された。本稿では、この最新ガイドラインの知見を基に、HCMの病態、診断、そしてCMIを中心とした最新治療について概説する。最新治療を理解するための病態生理HCMの病態理解は、単なる「心筋の肥厚」から「サルコメアの機能異常」へと深化している。HCMの多くは、心筋収縮の基本単位であるサルコメアを構成する蛋白(βミオシン重鎖、ミオシン結合蛋白Cなど)の遺伝子変異に起因する1)。これらの変異は、心筋ミオシンのATPase活性を亢進させ、アクチンとミオシンが過剰に架橋(クロスブリッジ)を形成する「心筋の過収縮」状態を引き起こす。この過収縮はATPの過剰消費を招き、心筋のエネルギー効率を著しく低下させる。結果として、心筋は相対的なエネルギー欠乏と弛緩障害に陥り、心筋虚血、線維化、そして代償的な心筋肥厚が進行する。この一連の病態カスケードが、LVOTO、拡張障害、不整脈といった多彩な臨床像の根源となっている。CMIをはじめとする最新治療は、この上流にある「サルコメアの過収縮」を是正することに主眼を置いている。最新の診断方法HCMの診断は、画像検査、バイオマーカー、遺伝学的検査を組み合わせた包括的アプローチで行われる。画像診断:心エコー図検査が基本であり、15mm以上の最大左室壁厚(家族歴があれば13mm以上)が診断の契機となる。LVOTO(安静時・バルサルバ法や運動など生理的誘発時圧較差)、僧帽弁収縮期前方運動(systolic anterior movement:SAM)、拡張機能、左房容積などの評価が必須である。心臓MRI(CMR)は、心エコーで評価困難な心尖部等の形態評価に加え、ガドリニウム遅延造影(LGE)による心筋線維化の検出・定量評価に優れる。LGEの存在とその広がりは突然死リスクの重要な修飾因子であり、リスク層別化に不可欠である2)。バイオマーカー:最新のガイドラインでは、BNP/NT-proBNPが全死亡予測や治療モニタリングに有用(推奨クラスIIa)、高感度トロポニンも予後の推測に有用(推奨クラスIIa)とされている。また、肥大型心筋症の鑑別として、血清・尿中のM蛋白(ALアミロイドーシス診断のため)やα-ガラクトシダーゼ活性(α-GAL、ファブリー病診断のため)の測定も推奨されている(推奨クラスI)。遺伝学的検査:2022年に保険収載され、その重要性は増している。原因遺伝子の同定による確定診断、血縁者に対するカスケードスクリーニング(発症前診断)、そして予後予測への応用が期待される。サルコメア遺伝子変異陽性例は陰性例に比して予後不良であることが報告されており、精密医療の実現に向けた重要な情報となる。AI技術の応用:人工知能(AI)は、HCM診断の各側面でその応用が進んでいる。たとえば心電図解析では、AIが人間の目では捉えきれない微細な波形パターンからHCMを極めて高い精度で検出し、専門医が「正常」と判断した心電図からでもHCMを見つけ出す可能性が指摘されている3,4)。また、AIが心エコー図画像から心筋線維化(LGE)の存在を予測したり、CMR画像からLGEを専門家と同等の精度で自動的に定量化したりすることで、リスク評価を支援することが報告されている5-7)。遺伝子検査の分野では、病的意義が不明な遺伝子バリアント(VUS)の病原性を予測するAIモデルにより、HCMの診断率が向上し、家族スクリーニングや治療判断の補助としての有用性が示されつつある8)。治療治療戦略は、LVOTOの有無と左室駆出率(LVEF)に基づき選択される。(図2)(図2)肥大型心筋症の治療フローチャート画像を拡大する1. 閉塞性肥大型心筋症(HOCM)に対する治療LVOTO(安静時または負荷で30mmHg以上)を認める症候性HOCMが薬物治療の主対象となる。薬物療法:LVOTO(安静時または負荷で30mmHg以上)を認める症候性HOCMが薬物治療の主対象となる。第一選択薬として非血管拡張性のβ遮断薬、忍容性がなければ非ジヒドロピリジン系のカルシウム拮抗薬が推奨される(いずれもClass I)。効果不十分な場合、従来Naチャネル遮断薬であるシベンゾリン(保険適用外使用)などが使用されてきた。これに対し、ガイドラインでは新たにマバカムテンがClass Iで推奨された。心筋ミオシン阻害薬心筋ミオシン阻害薬(Cardiac Myosin Inhibitor:CMI)は、心筋収縮の中心的役割を担うサルコメアを標的とした新規治療薬として注目されている。代表的な薬剤には、初の経口選択的CMIであるマバカムテン(商品名:カムザイオス)および次世代CMIとして米国で承認審査中のaficamtenがある9)。CMIは心筋ミオシン重鎖のATPase活性を抑制し、アクチン-ミオシン間の架橋形成を減少させることで濃度依存的に心筋収縮力を低下させる。これにより、心筋過収縮状態のエネルギー効率を改善し、拡張機能の正常化が期待される10,11)。この薬理作用を基盤として、CMIはHCMや、左室駆出率(LVEF)が正常~亢進した心不全(HF with supranormal EF:HFsnEF)など、心筋の過収縮や拡張障害が病態の中核をなす疾患に対する治療薬として注目され、複数のRCTで検証されてきた(表1)。(表1)心筋ミオシン阻害薬を用いた代表的なRCTs画像を拡大するHCMを対象としたRCTでは、CMIが左室流出路圧較差の有意な改善、NT-proBNPの低下、運動耐容能(peak VO2)や症状(NYHAクラス)の改善など、多面的な臨床効果を示している。また近年では、CMI治療中の病態変化を非侵襲的かつ連続的に評価する手法として、AI技術を応用した心電図解析(AI-ECG)の有用性が報告されている。とくに、標準的な12誘導心電図に対して機械学習を用いてHCMの検出や重症度を定量化するAI-ECGスコアは、新たなバイオマーカーとして注目されており、CMI治療のモニタリングツールとしての活用が期待されている12)。さらに、HCMと同様に心筋の過収縮等が関与するHFsnEFにおいても、CMIの応用可能性が検討されている。HFsnEF患者に対して行われたEMBARK-HFpEF試験においては、マバカムテンがNT-proBNP値や心筋トロポニン値の減少と関連し、治療中にLVEFが持続的に低下することは確認されず、安全性に関する一定の知見が得られたと報告されている(表1)。また、NYHAクラスや拡張機能の改善も報告され、次世代CMIであるMYK-224を用いた現在進行中の第II相AURORA-HFpEF試験(NCT06122779)などの結果が待たれている。なお、マバカムテンの使用にあたっては本連載(第2回)でも触れた通り、 日本循環器学会(JCS)からはマバカムテンの適正使用に関するステートメントも発表されており、その導入には厳格な管理体制が求められる。<マバカムテンの適正使用>本剤は心収縮力を低下させるため、適正使用が極めて重要である。対象はNYHA II/III度の症候性HOCM患者で、投与前にLVEFが55%以上であることの確認が必要である。過度のLVEF低下が重大な副作用であり、心エコーでの頻回なモニタリング下で慎重な用量調節が必須とされる。CYP2C19およびCYP3A4で代謝されるため、併用薬にも注意を要する。本剤の管理には、心不全診療ガイドラインのほか、専門医や施設要件を定めた適正使用ステートメントの遵守が求められる。2. 非閉塞性肥大型心筋症(nHCM)に対する治療LVOTOを認めないnHCMの治療はLVEFによって層別化される。LVEF≧50%の場合: β遮断薬やベラパミルなどによる対症療法が中心となる。LVEF<50%(拡張相HCM)の場合: HFrEFの標準治療(ACE阻害薬/ARB/ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)が推奨される。3. 非薬物治療薬物治療抵抗性の症候性HOCMに対しては、外科的中隔心筋切除術(Myectomy)や経カテーテル的中隔アブレーション(ASA)といった中隔縮小術がClass Iで推奨されている。このようにCMIの登場は、HCM治療を対症療法から病態そのものを標的とする新たな時代へと導いた。最新の知見とガイドラインに基づいた適正使用により、個々の患者の予後を最大限に改善していくことが、今後のHCM診療における重要なテーマである。 1) Arbelo E, et al. Eur Heart J. 2023;44:3503-3626. 2) Green JJ, et al. JACC Cardiovasc Imaging. 2021;5:370-377. 3) Ko WY, et al. J Am Coll Cardiol. 2020;75:722-733. 4) Desai MY, et al. JACC Clin Electrophysiol. 2025;11:1324-1333. 5) Akita K, et al. Echo Res Pract. 2024;11:23. 6) Fahmy AS, et al. Radiology. 2020;294:52-60. 7) Navidi Z, et al. PLOS Digit Health. 2023;2:e0000159. 8) Ramaker ME, et al. Circ Genom Precis Med. 2024;17:e004464. 9) Chuang C, et al. J Med Chem. 2021;64:14142-14152. 10) Braunwald E, et al. Eur Heart j. 2023;44:4622-4633 11) Hartman JJ, et al. Nat Cardiovasc Res. 2024;3:1003-1016. 12) Siontis KC, et al. JACC Adv. 2023;2:100582.

4.

ST合剤処方の際の5つのポイント【1分間で学べる感染症】第30回

画像を拡大するTake home messageST合剤、特徴的な副作用を理解して、慎重に使用しよう。ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)は、幅広い抗菌スペクトラムを持つ重要な抗菌薬です。便利な反面、使用方法や副作用について十分理解しておくことが重要です。今回は、ST合剤処方で重要な5つのポイントを一緒に勉強していきましょう。成分ST合剤は、「トリメトプリム80mg」と「スルファメトキサゾール400mg」を含有しています。1対5の固定比率で調整されており、これに基づいて用量を計算します(後述)。スペクトラムメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含むグラム陽性菌およびグラム陰性桿菌に対して有効です。また、ニューモシスチスやトキソプラズマ、サイクロスポラなどもカバーします。適応疾患ST合剤は、MRSA感染症、膀胱炎、尿路感染症、ニューモシスチス肺炎(予防・治療)などに適応があります。ステロイド長期使用患者ではニューモシスチス肺炎の予防で使用されることも多いため、なじみのある方が多いかもしれません。また、リステリア感染症、ノカルジア症に対する選択肢として検討されることもあります。副作用見掛け上のクレアチニンの上昇が報告されていますが、これは実際の腎機能悪化を反映していない場合もあります。ST合剤の成分のうち、トリメトプリムは尿細管上皮細胞の「有機アニオントランスポーター」を阻害します。これにより尿細管クレアチニンの分泌が阻害され、血清クレアチニンが上昇するといわれています。しかし、ST合剤は真の急性腎障害(AKI)を来すこともあり注意が必要です。機序としては間質性腎炎や急性尿細管壊死などが報告されています。また、カリウムの上昇も認められ、とくにACE阻害薬やARBを併用している患者、重度腎障害がある患者では、高カリウム血症のリスクが高まるために注意が必要です。そのほか、食思不振、皮疹、消化器症状がみられることもあります。用量計算ST合剤の用量はトリメトプリムの含有量を基準に計算されます。感染症の重症度や患者の腎機能に応じて調整が必要です。たとえば、ニューモシスチス肺炎に対する治療として用いる場合、トリメトプリム換算で15~20mg/kgを1日に3~4回に分けて投与するため、体重65kgの患者さんの場合であれば、65kg×15mg=975mg(80mg×12錠=960mg)が必要です。以上、ST合剤は一般的に安全に使用される抗菌薬ですが、副作用を含めた上記のポイントを十分に念頭に置いておく必要があります。1)Gleckman R, et al. Pharmacotherapy. 1981;1:14-20.2)Cockerill FR 3rd, et al. Mayo Clin Proc. 1987;62:921-929.3)Nakada T, et al. Drug Metab Pharmacokinet. 2018;33:103-110.4)Fralick M, et al. BMJ. 2014;349:g6196.5)UpToDate. Trimethoprim-sulfamethoxazole: An overview. (last updated: Apr 25, 2025.)

5.

高齢者への不眠症治療、BZD使用で睡眠の質が低下

 高齢者の不眠症治療は、ベンゾジアゼピン系薬剤(BZD)およびベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZRA)の頻繁な使用と関連しており、慢性的な使用により睡眠調節や認知機能に悪影響を及ぼすことが報告されている。しかし、高齢者の記憶において、きわめて重要であるNREM低周波波動(SO)および紡錘波に対するBZD/BZRAの影響については、ほとんどわかっていない。カナダ・Concordia UniversityのLoic Barbaux氏らは、BZD/BZRAの慢性的な使用が、睡眠メカニズム、脳波の相対的パワー、SOおよび紡錘波の特性、結合に及ぼす影響について調査した。Sleep誌オンライン版2025年6月17日号の報告。 高齢被験者101例(年齢:66.05±5.84歳、年齢範囲:55〜80歳、女性の割合:73%)を対象に、習慣化ポリソムノグラフィー(PSG)後2夜目のデータを解析し、睡眠良好群(28例)、不眠症群(26例)、BZD/BZRA慢性使用不眠症群(47例、ジアゼパム換算6.1±3.8mg/回、週3夜超)の3群に分類した。睡眠構造、脳波(EEG)相対スペクトル、関連する脳波活動について、SOおよび紡錘波、そしてそれらの時間的結合に焦点を当て、包括的に比較した。 主な結果は以下のとおり。・BZD/BZRA慢性使用不眠症群は、不眠症群および睡眠良好群と比較し、N3持続時間が短く、N1持続時間とスペクトル活動が高く、睡眠構造が乱れ、睡眠関連脳振動の同期性に変化が認められた。・探索的相互作用モデルでは、1回の使用量がより高用量での慢性的な使用が、睡眠の微小構造および脳波スペクトルのより顕著な乱れと相関していることが示唆された。 著者らは「BZD/BZRAの慢性的な使用は、睡眠の質の低下と関連していることが示唆された。このようなマクロレベル、微細構造レベルでの睡眠調節の変化は、高齢者におけるBZD/BZRAの使用と認知機能低下との関連性に影響を及ぼしている可能性がある」と結論付けている。

6.

PPI・NSAIDs・スタチン、顕微鏡的大腸炎を誘発するか?

 顕微鏡的大腸炎は、高齢者における慢性下痢の主な原因の1つであり、これまでプロトンポンプ阻害薬(PPI)や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)、スタチンなどの一般的に用いられる薬剤との関連が指摘されてきた。しかし、スウェーデンで実施された全国調査の結果、これらの薬剤のほとんどは顕微鏡的大腸炎のリスクを増加させない可能性が示唆された。本研究は、Hamed Khalili氏(米国・マサチューセッツ総合病院)らの研究グループによって実施され、Annals of Internal Medicine誌オンライン版2025年7月1日号で報告された。 研究グループは、スウェーデンの65歳以上の住民280万例超の処方、診断、生検データなどを用いて本研究を実施した。本研究ではtarget trial emulationのデザインを用いて、顕微鏡的大腸炎との関連が指摘されているPPI、NSAIDs、SSRI、スタチン、ACE阻害薬、ARBの各使用群と非使用または代替薬使用群を比較した。主要評価項目は12ヵ月、24ヵ月時点における顕微鏡的大腸炎の累積発症率とした。 主な結果は以下のとおり。・すべての群において、12ヵ月、24ヵ月時点の顕微鏡的大腸炎の累積発症率は0.5%未満であった。・PPI(vs.非使用)、NSAIDs(vs.非使用)、スタチン(vs.非使用)、ACE阻害薬(vs.カルシウム拮抗薬)、ARB(vs.カルシウム拮抗薬)の使用は、顕微鏡的大腸炎の発症リスクを上昇させなかった。・12ヵ月時点における顕微鏡的大腸炎の発症リスクは、SSRI群がミルタザピン群と比較してわずかに高かった(リスク差:0.04%、95%信頼区間:0.03~0.05)。ただし、SSRI群は大腸内視鏡検査の施行率が高く、サーベイランスバイアスの可能性が示唆された。 本研究結果について、著者らは「顕微鏡的大腸炎の引き金となることが疑われてきた薬剤の大半について、因果関係を示すエビデンスは得られなかった」と述べている。

7.

TAVIへの脳塞栓保護デバイス、手技関連脳卒中を低減するか/NEJM

 経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)は、手技に関連した脳卒中のリスクがあるが、脳塞栓保護(cerebral embolic protection:CEP)デバイスにより脳循環における塞栓形成が減少し、脳卒中の発生率が低下する可能性があるという。英国・John Radcliffe HospitalのRajesh K. Kharbanda氏らBHF PROTECT-TAVI Investigatorsは、「BHF PROTECT-TAVI試験」において、TAVI単独と比較してTAVI+CEPデバイスは、72時間以内の脳卒中の発生率を低減せず、障害を伴う脳卒中や重症脳卒中、死亡率の改善ももたらさないことを示した。研究の詳細は、NEJM誌2025年6月26日号に掲載された。英国の無作為化対照比較試験 BHF PROTECT-TAVI試験は、英国の33施設が参加した盲検下にアウトカムの評価を行う非盲検無作為化対照比較試験であり、2020年10月~2024年10月に患者の無作為化を行った(英国心臓財団とBoston Scientificの助成を受けた)。 年齢18歳以上で、大動脈弁狭窄症と診断され、TAVIが予定されており、治療医の判断でCEPデバイス(Sentinel、Boston Scientific製)の使用が臨床的、解剖学的に適格とされた患者を対象とした。これらの患者を、TAVI+CEPデバイスによる治療を受ける群(CEP群)、またはTAVI単独を受ける群(対照群)に、1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、TAVI施行後72時間以内または退院のいずれか早いほうの時点における脳卒中とした。副次アウトカムも改善せず 7,635例(平均[±SD]年齢81.2[±6.5]歳、女性38.7%)を登録し、3,815例をCEP群、3,820例を対照群に割り付け、それぞれ3,798例および3,803例を修正ITT集団として解析の対象とした。 主要アウトカムは、CEP群で2.1%(81/3,795例)、対照群で2.2%(82/3,799例)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(群間差:-0.02%ポイント[95%信頼区間[CI]:-0.68~0.63]、p=0.94)。 副次アウトカムはいずれも両群間に差はなかった。TAVI施行後6~8週以内における障害を伴う脳卒中(修正Rankinスケールスコア[0~6点、高点数ほど障害の重症度が高い]が2点以上で、手技施行前のベースラインのスコアから1点以上の上昇と定義)は、CEP群で1.2%(47/3,795例)、対照群で1.4%(53/3,799例)に発生した(群間差:-0.2%ポイント[95%CI:-0.7~0.4])。 また、TAVI施行後72時間以内または退院のいずれか早いほうの時点における重症脳卒中(NIHSSスコア[0~42点、高点数ほど脳卒中の重症度が高い]が10点以上と定義)は、CEP群で0.5%(18/3,795例)、対照群で0.5%(19/3,799例)に発生した(群間差:0.0%ポイント[95%CI:-0.3~0.3])。 TAVI施行後72時間以内または退院のいずれか早いほうの時点における死亡は、CEP群で0.8%(29/3,795例)、対照群で0.7%(26/3,799例)に発生した(群間差:0.1%ポイント[95%CI:-0.3~0.5])。有害事象や合併症も同程度 有害事象および臨床的合併症の発現状況は両群で同程度であった。重篤な有害事象は、CEP群で3,789例中22例(0.6%)に24件、対照群で3,803例中13例(0.3%)に13件の発生を認めた。退院時までに発生したアクセス部位合併症は、CEP群で3,772例中304例(8.1%)、対照群で3,776例中290例(7.7%)にみられた(群間差:0.4%ポイント[95%CI:-0.8~1.6])。 著者は、「試験開始時に参加施設の3分の1がこのCEPデバイスの使用経験を持っていた。各施設で、最初の100例とその後の症例でデバイス展開の成功率を比較したところ、成功率は2つの集団で類似しており、脳卒中の発生率も同様であった。また、各施設のデバイス展開成功率を患者募集時期の四分位で解析したところ、同様の傾向を認めた。これは、CEP技術が各施設で成功裏に導入されたことを示唆する」としている。

8.

第250回 高齢者薬物療法ガイドライン10年ぶり改訂、慎重投与薬と開始推奨薬を更新/老年医学会

<先週の動き> 1.高齢者薬物療法ガイドライン10年ぶり改訂、慎重投与薬と開始推奨薬を更新/老年医学会 2.転院搬送GLを改訂、病院救急車・民間搬送活用で救急逼迫緩和へ/厚労省 3.医療差し控えも選択肢、尊厳守る終末期ケアを/日本老年医学会 4.マイナ保険証スマホ対応拡大9月から本格化、導入費用も支援/厚労省 5.医療政策左右する参院選がスタート、診療報酬改定がカギに/日医ほか 6.高齢者世帯が3割超、単身900万世帯に、支援体制構築が急務/厚労省 1.高齢者薬物療法ガイドライン10年ぶり改訂、慎重投与薬と開始推奨薬を更新/老年医学会日本老年医学会は10年ぶりに『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025』を改訂し、「特に慎重な投与を要する薬物」と「開始を考慮するべき薬物」のリストを更新した。主に75歳以上の高齢者や要介護者を対象に、薬物有害事象のリスク軽減を目的とする。新たな知見や800を超える論文を基に改訂され、多職種連携や高齢者総合機能評価(CGA)の活用も重視されている。「特に慎重な投与を要する薬物」には、糖尿病治療で使用が広がるGLP-1受容体作動薬やGIP/GLP-1受容体作動薬が追加され、吐き気・下痢・体重減少といった副作用がサルコペニアやフレイルを悪化させるリスクが指摘された。また、ベンゾジアゼピン系睡眠薬や抗不安薬、抗精神病薬、NSAIDs、利尿薬、抗糖尿病薬など28系統が慎重投与リストに含まれる。その一方で、H2受容体拮抗薬はリストから削除された。「開始を考慮するべき薬物」には、COPD治療薬のLAMA、LABA、副作用が少ないβ3受容体作動薬やPDE5阻害薬が追加された。ACE阻害薬やARB、DMARDsは削除された。さらに、「日本版抗コリン薬リスクスケール」が初めて導入され、抗コリン作用を持つ薬剤158種のリスクを3段階で評価。ポリファーマシー対策や服薬支援に役立つ指標となる。ガイドラインでは、患者のADL、認知機能、生活状況を多職種で共有し、処方の見直しや必要最小限の薬物療法への移行を推奨。漫然と処方し続けることによる健康リスクを防ぐことが求められている。医療現場では、薬剤の必要性を常に再評価し、患者個別の状況に応じた柔軟な対応が重要だ。 参考 1) 高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2025(日本老年医学会) 2) 「日本版抗コリン薬リスクスケール(JARS)WEB版評価ツール」 公開のお知らせ(同) 3) 高齢者に「慎重な投与を要する薬」リスト公表 老年医学会が改定(毎日新聞) 4) 10年ぶりに改訂された「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」、どう変わった?日経メディカル) 2.転院搬送GLを改訂、病院救急車・民間搬送活用で救急逼迫緩和へ/厚労省救急搬送件数が3年連続で過去最多の記録を更新する中、消防庁と厚生労働省は『転院搬送ガイドライン』を改訂し、救急車の適正利用を推進する新たな方針を示した。今回の改訂では、緊急性の低い転院搬送において、医療機関が病院救急車や救急救命士を活用し、医療主導で搬送体制を整備することを明記し、2024年度の診療報酬改定で新設された「救急患者連携搬送料」の活用も促している。一方、消防庁の調査では、民間の患者等搬送事業者による転院搬送が2024年度に35万7,265件となり、前年比11.7%増と大きく伸びた。事業所数も増加し、救急現場の逼迫緩和に一定の効果を示している。消防庁は、患者等搬送事業者の一覧を各消防本部のホームページに掲載するよう周知し、市民への認知度向上にも努めている。限られた救急資源を本当に必要な事案に投入するためには、医療機関・民間搬送事業者・消防の役割分担が不可欠であり、地域ごとの合意形成と搬送体制整備が喫緊の課題となっている。 参考 1) 転院搬送における救急車の適正利用の推進について(厚労省) 2) 転院搬送GL、病院救急車の活用追加 消防庁・厚労省が改訂(MEDIFAX) 3) 患者等搬送事業者の転院搬送、12%増の36万件 24年度 消防庁(CB news) 3.医療差し控えも選択肢、尊厳守る終末期ケアを/日本老年医学会日本老年医学会は6月27日、人生の最終段階における医療・ケアに関する「立場表明2025」を発表した。2001年、2012年に続く改訂で、75歳以上が2,000万人を超える超高齢社会を背景に、「すべての人が最期まで『最善の医療・ケア』を受ける権利を持つ」と明言した。病気や障害を問わず緩和ケアの推進を掲げ、医療やケアの選択は「本人の満足」を基準とすべきと訴えている。年齢による差別(エイジズム)に反対し、がん以外の心疾患、腎不全、認知症などでも緩和ケアの重要性が増していると指摘。とくに認知症では苦痛の訴えが困難なことから啓発の必要性を強調した。人生の最終段階は、病状や老衰が不可逆的で回復困難な状態にあり、医療・ケアチームが本人の意向を尊重した上で、人生の「最終章」と捉えられる場合と定義。本人の尊厳や苦痛への配慮から、医療行為の差し控えや終了も選択肢とし、その判断は安楽死や自殺ほう助とは異なるとした。胃ろうや人工呼吸器の使用については慎重な検討を求める一方で、急変時の治療は「生命の擁護」に必要と位置付けている。 参考 1) 高齢者の人生の最終段階における医療・ケアに関する立場表明2025(日本老年医学会) 2) 病気問わず緩和ケア推進を 人生の最終段階、学会見解(共同通信) 4.マイナ保険証スマホ対応拡大9月から本格化、導入費用も支援/厚労省厚生労働省は、マイナンバーカードと健康保険証を一体化した「マイナ保険証」をスマートフォンで利用できる仕組みの全国展開を進めている。7月から関東15の医療機関で実証実験が始まり、9月以降、環境が整った施設から順次導入される。専用のカードリーダー購入費用は8月から補助され、病院3台、薬局や診療所1台が目安となる。iPhone・Android双方が対応し、スマホ単体での本人確認と資格確認が可能となる。従来の保険証では他人利用や有効期限切れの問題があったが、スマホ化で厳密な本人確認と医療データ活用が期待される。一方、マイナンバーカード本体と電子証明書は2025年から大量の更新期限を迎え、更新忘れによる保険証利用不可や医療機関でのトラブルが懸念されている。政府は次期カードへの切り替えや周知も進め、マイナ保険証の利用率向上と医療DXの推進を目指す。利便性の向上とともに、制度理解と更新手続きの周知が急務となっている。 参考 1) スマホでマイナ保険証利用 医療機関の導入費用補助へ 厚労相(NHK) 2) スマホ搭載のマイナ保険証、受け付け機器導入費を補助 厚労省(日経新聞) 3) スマホを使った「マイナ保険証」の実証実験スタート スマホ1台で保険診療が受けられる(ITmedia) 4) マイナンバーカード2025年問題 迫る2つの期限切れ、何が起きる?(日経新聞) 5.医療政策左右する参院選がスタート、診療報酬改定がカギに/日医ほか2025年7月3日に公示された第27回参議院議員選挙は、医療・介護・福祉の未来を左右する重要な選挙として、医療関係団体が強い関心を寄せている。日本医師会の松本 吉郎会長は「わが国の医療・介護・福祉の未来を問う選挙」と位置付け、診療報酬改定や財源確保の必要性を訴えている。とくに2025年度補正予算や2026年度診療報酬改定に向け、物価高や賃金上昇に対応した医療機関経営の安定化が急務とされている。日本病院会の相澤 孝夫会長も、日病の提言に賛同する候補を積極的に支援する方針を示し、病院経営支援や入院基本料引き上げ、かかりつけ医機能強化を訴えた。また、釜萢 敏氏(日本医師会副会長)が組織内候補として比例区から出馬し、「医療施設の突然の崩壊防止」「医療従事者の処遇改善」に全力を尽くす決意を表明した。一方、政府は「骨太の方針2025」で社会保障費の伸びを一定程度容認しつつも、医療費抑制策を打ち出している。その一環としてOTC類似薬の保険適用除外が検討され、患者負担増加への懸念が高まっている。これに対し医療界からは、必要な治療薬の負担増が患者の健康や生活を脅かすと反対の声が上がっている。今回の選挙には医師資格保持者20人が立候補し、医療・介護・福祉に関する政策が争点となっている。とくに日本医師会の政治団体である日本医師連盟が擁立した釜萢氏は、新型コロナ対応や医療現場の声を政治に届ける実績を持ち、今後は「持続可能な医療提供体制」「限りある財源の公平な配分」に注力するとしている。日医は40万票超の得票を目指し、医療界の結束を呼び掛けている。OTC薬の保険適用除外による国民負担増問題や、診療報酬改定の行方など、参院選後も医療界と政治の関係は緊密な対応が求められる。医師としての視点からも、医療政策と財源確保への理解と関心が重要となる。 参考 1) 釜萢常任理事を次期参議院選挙比例区(全国区)の推薦候補者として擁立することを決定(日医) 2) 日医・松本会長 参院選は「我が国の医療・介護・福祉の未来を問う選挙」 医療財源の確保に決意(ミクスオンライン) 3) 石破政権「医療費改悪」でOTC類似薬が保険適用除外へ 解熱剤は40倍、湿布薬は36倍に自己負担額増加 “安く作れるクスリの保険適用”をなぜやめるのか(マネーポストWEB) 6.高齢者世帯が3割超、単身900万世帯に、支援体制構築が急務/厚労省厚生労働省が発表した2024年「国民生活基礎調査」によると、全国の世帯総数は約5,482万5,000世帯で、65歳以上の高齢者がいる世帯は約2,760万世帯と半数を超え、単身の高齢者世帯は初めて900万世帯を突破し、過去最多となった。とくに75歳以上の高齢者や女性の割合が高く、孤立や生活支援の必要性が指摘されている。一方、18歳未満の子供がいる世帯は約907万世帯と過去最少で、全体の16.6%に止まった。生活が「苦しい」と感じている世帯は全体の6割に上り、子供がいる世帯では64.3%ととくに高く、物価高の影響も背景にある。子育て世帯の母親の就業率は80.9%と過去最高となり、正規雇用34.1%、非正規36.7%と、生活維持のため女性就労が不可欠な状況が鮮明になっている。また、副業・兼業の普及は進まず、実施者は全体の3%に止まっており、労働時間管理の煩雑さが障壁となっている。政府は2026年の労働基準法改正を目指し、労働時間の通算管理の見直しを検討。高齢化、子育て世帯の減少、生活苦、人手不足など、多層的な社会課題が浮き彫りとなっている。 参考 1) 2024(令和6年) 国民生活基礎調査の概況(厚労省) 2) 高齢者世帯 数・割合とも過去最高-厚労省(CB news) 3) 子育て世帯「母親が仕事」8割超す 厚労省調査で過去最高(日経新聞) 4) 65歳以上の「単身高齢者」 初めて900万世帯超える 厚労省(NHK)

9.

2型糖尿病合併慢性腎臓病におけるフィネレノン+エンパグリフロジン併用療法:アルブミン尿の著明な改善―CONFIDENCE研究は腎アウトカムの予測にも“CONFIDENT”といえるか?(解説:栗山哲氏)

本論文は何が新しいか? CONFIDENCE研究では、2型糖尿病(T2DM)に合併する慢性腎臓病(CKD)の初期治療において、非ステロイド型選択的ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(nsMRA)であるフィネレノンと、SGLT2阻害薬(SGLT2i)であるエンパグリフロジンの併用療法が、それぞれの単独療法と比較して尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)を有意に低下させることが示された。これまで、フィネレノンとSGLT2iの併用療法をT2DMに伴うCKDの初期段階で評価したエビデンスは限られており、この点において本研究は新規性を有する。CONFIDENCE研究の背景 T2DMに伴うCKD患者に対する腎保護療法の第1選択は、ACE阻害薬やARBなどのRAS阻害薬である。これは、2000年代に実施されたRENAAL、IDNT、MARVAL、IRMA2といった大規模臨床試験によって裏付けられている。2015年以降、SGLT2iにおいて、EMPA-REG OUTCOME、CANVASなどの試験で心血管イベントや複合腎エンドポイント(EP)の改善が相次いで報告された。SGLT2iではさらに、DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYなどの試験により、非糖尿病性CKDに対しても心腎保護効果を有するエビデンスが蓄積されている。 一方、ステロイド型ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)については、2000年ごろにRALES(スピロノラクトン)やEPHESUS(エプレレノン)により、重症心不全や心血管死に対する有用性が示されたが、これらは腎関連のハードEPについては検討されていない。その後、新世代のnsMRAであるエサキセレノンおよびフィネレノンが開発された。このうち、エサキセレノンはT2DMに伴う早期CKD患者においてUACRの低下効果が認められているが、現在の適応は高血圧症のみであり、尿蛋白陽性例やeGFRが低下した症例では原則として使用できない。これに対しフィネレノンは、FIGARO-DKD、FIDELIO-DKD、そして両試験を統合解析したFIDELITYにおいて、心血管イベントおよび複合腎EPに対する有用性が示されている。なお、nsMRAとSGLT2i併用の同様の研究は、フィネレノンとダパグリフロジン併用でも行われ、UACRの相加的減少効果として報告されている(Marup FH, et al. Clin Kidney J. 2023;17:sfad249.)。 これらのエビデンスを踏まえ、2024年のKDIGOガイドラインでは、フィネレノンはRAS阻害薬およびSGLT2iに上乗せ可能な薬剤として、T2DMに伴うCKDの早期における心・腎保護の「新たな選択肢」として推奨されている(推奨の強さ:弱い、エビデンスレベル:高い、リスクとのバランスを考慮したうえでの判断)(Levin A, et al. Kidney Int. 2024;105:684-701.)。病態生理学的見地から、T2DMに合併するCKDにはミネラルコルチコイド受容体(MR)の過剰活性化が心・腎障害を惹起することから、MR抑制効果の優れたnsMRAに対する理論的期待は大きい。 CONFIDENCE研究は、以上の背景を踏まえ、フィネレノンとSGLT2iの併用療法の有効性および安全性を評価することを目的として実施された。登録症例数は約800例、観察期間は180日間である。腎疾患領域の臨床研究の課題 腎疾患領域における臨床研究の報告数は、循環器系や神経系など、他の医学分野と比較してきわめて少ない(Palmer SC, et al. Am J Kidney Dis. 2011;58:335-337.)。その主な要因としては、CKDにおいて治療目標となるバイオマーカーが乏しいこと、CKDステージ早期と末期で適切な腎予後のサロゲートEPを設定する必要があること、などが挙げられている。CKDにおける「真のEP」としては、透析導入、腎関連死、腎不全などがある。一方で、サロゲートマーカーとしては、血清クレアチニン(Cr)の倍加速度、推算糸球体濾過量(eGFR)、eGFRの40%以上の低下などが用いられ、これらは複合腎EPとして適宜設定される。UACRは、容易に短期間でも観察可能なサロゲートマーカーであり、研究費の削減や実施期間の短縮に資する利便性も高い。しかしながら、サロゲートEPは本来、真のEPと強く関連していなければ優れた予後予測因子とはいえない。この点において、UACRは早期のマーカーとしては、UACR>300mg/g・Crを超える腎疾患以外は適切な腎アウトカムの予測因子とまではいえない(濱野高行. 日本腎臓学会誌. 2018;60:577-580.)。 本論文の著者の1人であるHeerspink氏は、本試験で仮に複合腎EPを評価項目とする場合は4万例以上のサンプルサイズと長期観察が必要となること、またUACRは優れたサロゲートではないものの一定の予測的価値があること、などを踏まえ、UACRを主要評価項目として採用したと述べている。CONFIDENCE研究からのメッセージと今後の方向性 CONFIDENCE研究は、「腎アウトカムの予測にも“CONFIDENT”といえるか?」―この問いには議論が必要である。Agarwal氏はイベントリスクに対する媒介解析の結果から、フィネレノンを用いた早期介入による複合腎イベント低下の多くの部分がUACR抑制作用により媒介されていることから、アルブミン尿抑制の重要性を強調している(Agarwal R, et al. Ann Intern Med. 2023;176:1606-1616.)。また、2025年6月に開催された欧州腎臓学会においても、短期的なUACRの変化が長期的な腎保護効果と関連することに言及し、「併用療法の新時代が到来した」との論調の講演もあった(Liam Davenport. Medscape. June 5, 2025.)。 しかしながら、「フィネレノン+SGLT2iの早期導入によるUACR低下」を「長期的な腎アウトカムを改善すること」に全面的に外挿するのは無理がある。ちなみに、本研究でeGFRの初期低下(Initial drop or dip)に注目すると、14日目において併用群では−6.1mL/分/1.73m2の低下がみられた(SGLT2i単独群では−4.0mL/分/1.73m2)。この併用群におけるInitial drop後のeGFRスロープには、観察期間である180日目においては緩徐化がみられず、この点からは腎保護効果は支持されない。一方で、有害事象の観点からは、一定のメリットが示唆される。高カリウム血症の発現率は、併用群で25例(9.3%)、フィネレノン単独群で30例(11.4%)と、併用群で15~20%程度相対的に低下していた。これは、SGLT2iが高カリウム血症のリスクを抑制する可能性を示した先行研究の知見と一致しており、一定のベネフィットとして評価できる可能性がある。 今後、フィネレノンとSGLT2iの早期併用による腎保護効果の有無を明らかにするためには、長期間かつ大規模に複合腎EPを設定した追試検証が必要と思われる。

10.

大手術前のRAS阻害薬の継続/中止、心血管リスク有無での判断は?

 昨年JAMA誌に掲載されたStop-or-Not試験では、非心臓大手術前のレニン-アンジオテンシン系阻害薬(RASI:ACE阻害薬またはARB)の継続と中止のアウトカムを比較し、全死因死亡と術後合併症の複合アウトカムに差は認められなかった。しかし、術前の心血管リスク層別化がこの介入に対する反応に影響を与えるかどうかは依然として不明である。そこで、米国・カリフォルニア大学サンフランシスコ校のJustine Tang氏らはStop-or-Not試験の事後解析を行い、術前の心血管リスクが患者の転帰に影響を与えないことを明らかにした。JAMA Cardiology誌オンライン版2025年6月25日号に短報として掲載された。 本研究は、術前の心血管リスク層別化が非心臓大手術前のRASI管理戦略に影響を及ぼすかどうかを評価するため、Stop-or-Not試験(フランスの病院40施設において、2018年1月~2023年4月にRASIによる治療を3ヵ月以上受け、心臓以外の大手術を受ける予定の患者を対象に行われたランダム化比較試験)の事後解析を行った。主要評価項目は、全死因死亡と術後合併症の複合。副次評価項目は、主要心血管イベント(MACE)および急性腎障害であった。なお、心血管リスク層別化は、ランダム化前に改訂版心リスク指標(revised cardiac risk index:RCRI)、ベイルート・アメリカン大学(AUB)-HAS2心血管リスク指数、および収縮期血圧を用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・2,222例(年齢中央値[IQR]:68歳[61~73]、女性:771[35%])のうち、1,107例がRASI継続群に、1,115例がRASI中止群に無作為に割り付けられた。・RCRIでは、592例が低リスク(0点)、1,095例が中低リスク(1点)、418例が中高リスク(2点)、117例が高リスク(3点以上)に分類された。・AUB-HAS2心血管リスク指数では、1,049例が低リスク(0点)、727例が中低リスク(1点)、333例が中高リスク(2点)、113例が高リスク(3点以上)に分類された。・計2,132例が術前収縮期血圧の四分位群に分けられた。・術後合併症およびMACEのリスクはRCRIスコアによって異なったが、RASIの継続と中止戦略は、術後合併症のリスク上昇とは関連していなかった。 研究者らは本結果を踏まえ、「非心臓大手術前のRASI継続/中止の決定は、患者の術前の心血管リスク評価によって左右されるべきではない」としている。

11.

非定型うつ病に対する薬理学的治療の比較〜ネットワークメタ解析

 非定型うつ病は、気分反応性、過眠、鉛様の麻痺を含む非常に一般的なサブタイプであり、メランコリックうつ病との異なる治療アプローチが求められる。イタリア・University School of Medicine of Naples Federico IIのMichele Fornaro氏らは、これまで実施されていなかった非定型うつ病に対する薬理学的治療についてのネットワークメタ解析を実施した。European Neuropsychopharmacolojy誌2025年7月号の報告。 PubMed/Central、ClinicalTrials.gov、Embase、Psycinfo、Scopus、WebofScienceより、PRISMAに準拠したシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。共通主要アウトカムは、抑うつ症状の変化(標準化平均差:SMD)、治療反応、すべての原因による治療中止(許容性:リスク比[RR])。忍容性は副次的アウトカムとした。バイアスリスクおよびglobal/local inconsistenciesを測定し、エビデンスに対する信頼性評価によりネットワークメタ解析(CINeMA)を行った。 主な結果は以下のとおり。・抽出された2,214件のうち、適格なRCT21件を含め、20件をネットワークメタ解析に含めた。・有効性については(16件、903例、12種の治療)、phenelzineのみがプラセボよりも有効であった(SMD:−1.13、95%信頼区間[CI]:−2.14〜−0.49)。・phenelzine、moclobemide、isocarboxazid、イミプラミン、セレギリン、セルトラリン、fluoxetineは、ノルトリプチリンよりも優れていた(SMD:−4.54[95%CI:−8.02〜−1.07]〜−3.08[95%CI:−5.42〜−0.75])。・治療反応については(13件、1,442例、7種の治療)、phenelzine(RR:2.58、95%CI:2.02〜3.31)、セルトラリン(RR:2.25、95%CI:1.01〜4.99)、moclobemide(RR:2.16、95%CI:1.12〜4.19)、fluoxetine(RR:1.89、95%CI:1.30〜2.76)、イミプラミン(RR:1.76、95%CI:1.35〜2.28)は、プラセボよりも優れ、phenelzine(RR:1.56、95%CI:1.25〜1.96)はイミプラミンよりも優れていた。・許容性については、プラセボと比較し、有意な治療の差は認められなかった。・分析力の喪失による可能性が高く、CINeMA全体の評価が低い/非常に低いため、高リスクバイアスおよびITTの試験を除外した場合には、感度分析の結果に対し、プラセボよりも優れる介入はないと考えられる。 著者らは「非定型うつ病に対してphenelzineは、他の薬剤よりも優れている可能性がある。また、いくつかの薬剤はプラセボよりも有効であり、ノルトリプチリンは他の薬剤よりも悪化のリスクが高かった。これらの結果を明らかにするためにも、より高品質の研究が求められる」と結論付けている。

12.

降圧薬服用は、朝でも夜でもお好きなほうに―再び(解説:桑島巖氏)

 「降圧薬の服用は朝か夜か?」の問題については、2022年にLancet誌上で発表されたTIME studyのコメントで発表しているが、今回JAMA誌に発表されたGarrisonらのBedMed randomized clinical trial論文でもまったく同じコメントを出さざるを得ない。 TIME studyと同様、本研究でも降圧薬の時間薬理学を理解していれば、服薬は朝(6~10時)でも夜(20~0時)でもどちらも同じ結果(心血管イベント、心血管死)をもたらすというのは当然の結論である。降圧薬の心血管予防効果は24時間にわたる降圧効果の持続と相関することはすでに知られており、現在処方されている降圧薬のほとんどは血中濃度に依存して降圧効果を発揮するが、24時間以上持続する降圧薬はアムロジピンとサイアザイド系、非サイアザイド系降圧利尿薬のみである。ACE阻害薬やARBはいずれも24時間持続性がない。 本試験はオープン試験(PROBE法:結果の評価はブラインド)であることから、診療現場では、患者の降圧が不十分であれば複数の降圧薬を併用することになる。本研究においてはACE阻害薬、ARBが各々30%前後使用されているが、カルシウム拮抗薬や利尿薬あるいは配合剤(combination pill)も高頻度で使用されていることから、これらの持続性の高い降圧薬の併用により、朝服用でも夜服用でも持続的降圧が得られたために、エンドポイントに差が認められなかった。TIME studyと同じ結果であるのは当然である。 現場では、患者さんの飲み忘れがないような選択をすることが重要である。

13.

降圧薬で腎臓がんリスク上昇、薬剤による違いは?

 降圧薬が腎臓がんのリスク上昇と関連するというエビデンスが出てきている。さらに降圧薬の降圧作用とは関係なく腎臓がんリスクを上昇させる可能性が示唆されているが、腎臓がんの危険因子である高血圧と降圧薬の腎臓がんへの影響を切り離して評価したエビデンスは限られている。今回、米国・スタンフォード大学医療センターのMinji Jung氏らのメタ解析で、降圧薬と腎臓がんリスクが高血圧とは関係なく関連を示し、そのリスクはCa拮抗薬において最も高いことが示唆された。BMC Cancer誌2025年6月6日号に掲載。 本研究では、2025年1月までの降圧薬使用と腎臓がんとの関連を調査した観察研究を検索した。高血圧とは独立した降圧薬の影響を明らかにするため、高血圧を考慮した群と考慮しない群で層別解析を実施した。ロバスト分散推定を用いたランダム効果モデルを用いてメタ解析を実施し、統合相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・39研究が適格研究とされた。・高血圧を考慮した推定値に基づいた場合、降圧薬は腎臓がんリスク上昇と関連していた。・高血圧を考慮した場合の降圧薬のクラス別のRR(95%CI)は、ARBが1.15(1.00~1.31)、β遮断薬が1.09(1.03~1.16)、Ca拮抗薬が1.40(1.12~1.75)、利尿薬が1.36(1.20~1.55)と、腎臓がんリスク上昇と関連し、Ca拮抗薬が最もリスクが高かった。ACE阻害薬は1.19(0.93~1.52)と有意な関連は認められなかった。

14.

レカネマブによる治療はメモリークリニックでも可能

 レカネマブ(商品名レケンビ)は、アルツハイマー病(AD)の進行抑制に有効な初めての抗アミロイドβ抗体薬として、2023年に米食品医薬品局(FDA)に承認された。しかし、承認前の臨床試験で、この薬剤は脳浮腫や脳出血などの副作用を伴うことが示されたことから、実用化には懸念の声も寄せられていた。こうした中、レカネマブに関する新たなリアルワールド研究により、記憶に関する専門クリニック(メモリークリニック)でも副作用をコントロールしながら安全にレカネマブによる治療を行えることが示された。論文の上席著者である米ワシントン大学医学部神経学教授のBarbara Joy Snider氏らによるこの研究結果は、「JAMA Neurology」に5月12日掲載された。 Snider氏らは、2023年8月1日から2024年10月1日の間にワシントン大学記憶診断センターでレカネマブによる治療(2週間ごとに10mg/kgを静脈内注射)を開始した、早期症候性AD患者234人(平均年齢74.4歳、女性50%)を追跡調査し、メモリークリニックでのレカネマブによる治療の実現可能性と安全性を評価した。主要評価項目は、点滴関連反応、アミロイド関連画像異常(ARIA)、および治療の中止であった。 234人中194人は、レカネマブによる治療を4回以上、MRI検査を1回以上受けており、ARIAのリスクがあると見なされた。平均6.5カ月の治療期間中に、194人中42人(22%)にARIAが確認された。このうち22人(15%)では浮腫・滲出が見られ(ARIA-E)、出血・鉄沈着を伴うもの(ARIA-H)と伴わないものの両方が含まれていた。また、13人(6.7%)はARIA-Hだった。症状を伴うARIAは11人(5.7%)に見られた。このうち2人(1.0%)は入院を要するほどの重度の臨床症状を呈したが、残りは数カ月以内に改善し、微小脳出血を呈した患者や死亡した患者はいなかった。234人中23人(9.8%)がさまざまな理由で治療を中止しており、10人(4.3%)はARIAを原因とする中止だった。 Snider氏は、「レカネマブによる治療では、副作用に対する懸念が治療の遅れにつながる可能性がある」と指摘する。そして、「この研究は、メモリークリニックが、重篤な副作用を経験する可能性のある少数の患者を含め、患者にレカネマブを安全に投与し、適切にケアするためのインフラと専門知識を備えていることを示している」との見方を示している。 一方、論文の共著者の1人である、ワシントン大学医学部神経学准教授のSuzanne Schindler氏は、「レカネマブを投与された患者の大半で、この薬に対する認容性は良好だった」と述べている。その上で、「ADの症状が非常に軽度の患者ではレカネマブによる治療のリスクが低いことを示した本研究結果は、患者と医療提供者が治療のリスクをよりよく理解するのに役立つ可能性がある」と付け加えている。

15.

DLBCLの予後予測、1次治療後のPhasED-Seqを用いたctDNAによるMRDが有用~前向き多施設共同研究/ASCO2025

 1次治療を受けるびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)患者の予後予測に、治療終了時におけるPhasED-seq(phased variant enrichment and detection sequencing)を用いた循環腫瘍DNAによる測定可能残存病変(ctDNA-MRD)検出が有用であることが、全国規模の前向き多施設共同研究で示された。オランダ・Amsterdam UMC Location Vrije UniversiteitのSteven Wang氏が米国臨床腫瘍学会年次総会(2025 ASCO Annual Meeting)で発表した。 本研究では、オランダとベルギーの50施設を超える医療機関で1次治療を受けるDLBCL患者の前向きリアルワールドコホートにおいてctDNA-MRDを評価した。患者は根治目的の1次治療(R-CHOPまたはDA-EPOCH-R)を受け、無増悪生存期間(PFS)および全生存期間(OS)におけるMRDの有無の予後予測的意義を評価した。フェーズドバリアントはベースラインのサンプル(FFPE検体または治療前の血漿サンプル)から同定し、ctDNA-MRD検出には治療終了時の血漿サンプルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・登録された172例のうち評価可能な患者は163例で、うち160例(98%)でフェーズドバリアントの同定に成功した。年齢中央値は67歳(範囲:18~88歳)、男性が64%であった。DLBCLが90%、高悪性度B細胞リンパ腫/変異型低悪性度非ホジキンリンパ腫が9%、原発性縦隔大細胞型B細胞リンパ腫/血管内大細胞型B細胞リンパ腫が2%であった。90%がR-CHOP療法を受け、免疫化学療法の6サイクルを完了した。 ・治療終了時のctDNA-MRD陽性は、PFS(ハザード比[HR]:11.03、95%信頼区間[CI]:6.27~19.40、p<0.0001)およびOS(HR:7.38、95%CI:3.72~14.62、p<0.0001)の予後不良を予測した。・Ann Arborステージが進行期もしくはIPIスコアが高い患者は、治療終了時にctDNA-MRD陽性となる可能性が高かった。・標準的な予測因子であるIPIスコアと治療終了時のPET-CTとの比較において、IPIスコア(HR:1.61、95%CI:0.93~2.79、p=0.086)、PET-CT(HR:5.31、95%CI:2.87~9.82、p<0.0001)に比べ、ctDNA-MRD(HR:11.03、95%CI:6.27~19.40、p<0.0001)が最もPFSの予後を予測した。・治療終了時にPETで完全代謝寛解(CMR)を達成していない患者における3年PFSは、ctDNA-MRD陰性で64%、陽性で4%であった。CMRを達成した患者の3年PFSは、ctDNA-MRD陰性で89%、陽性で36%で、再発の大部分が1次治療後1年以内であった。・治療終了時のctDNA-MRDと1次治療後の再発時期との相関関係をみたところ、1年以内に再発した患者の80%はctDNA-MRDが陽性であるのに対し、1年を超えて再発した患者のうち陽性は22%だった。 Wang氏は「これらの結果は1次治療中のDLBCL患者におけるctDNA-MRDの予後予測の価値を明らかにし、ctDNA-MRDがPET-CTを超える残存病変のエビデンスを提供することが示された」とし、「本研究は1次治療中のDLBCL患者における奏効評価の標準的な構成要素として、PhasED-seqによるctDNA-MRDの統合を支持するもの」と結論した。

16.

医学的に説明困難な身体症状【日常診療アップグレード】第31回

医学的に説明困難な身体症状問題72歳男性。3ヵ月前から始まった夜間の息苦しさを主訴に来院した。高血圧、糖尿病、逆流性食道炎で近くのクリニックに通院中である。バルサルタン(ARB)、シタグリプチン(DPP-4阻害薬)、ランソプラゾール(PPI)を内服中である。血液検査、尿検査、心電図、心エコー検査、上部内視鏡検査で異常を認めない。説明が非常に難しい苦しみで、ある時にスッとよくなるという。バイタルサインは正常で、身体診察でも異常はない。患者は心疾患を心配している。冠動脈CT検査をオーダーした。

17.

フィブラート系薬でCKDリスクは増加、死亡リスクは低下

 フィブラート系薬の服用が腎機能や死亡に及ぼす影響を検討した結果、フィブラート系薬は慢性腎臓病(CKD)発症リスクの増加と関連する一方で、末期腎不全(ESKD)発症および死亡リスクの低下と関連していたことを、米国・Harbor-UCLA Medical Centerの高橋 利奈氏らが明らかにした。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2025年4月7日号掲載の報告。 フィブラート系薬は血清クレアチニンの急激な上昇を引き起こす可能性があるが、腎アウトカムの評価は追跡期間の短い研究では困難である。さらに、特定の腎アウトカムに関する研究は限られており、それらの結果も一貫していない。 そこで研究グループは、フィブラート系薬の新規処方とCKDやESKDの発症、死亡との関連を調べるため、米国退役軍人省の研究データベース(68万8,382例)を用いた後ろ向きコホート研究で、最大14年間にわたり追跡・分析を行った。人口統計学的因子、主な併存疾患、eGFRを含む臨床検査値、アルブミン尿、服用薬で調整し、Cox比例ハザードモデルおよびFine-Grayモデルを用いて関連を検討した。 主な結果は以下のとおり。・5万8,773例がフィブラート系薬を新規で服用開始した。全体の平均年齢は59(SD 13)歳で、フィブラート系薬服用患者は男性や喫煙者が多く、併存疾患を有する頻度も高かった。・完全調整モデルでは、フィブラート系薬の服用は、非服用と比較してCKDリスクの上昇と関連していた(ハザード比[HR]:1.21、95%信頼区間[CI]:1.19~1.24)。・フィブラート系薬の服用は、死亡リスク(HR:0.91、95%CI:0.89~0.93)およびESKDリスク(0.80、0.71~0.92)の低下と関連していた。 これらの結果より、研究グループは「フィブラート系薬が腎アウトカムと生存に及ぼす潜在的な利点を裏付けるにはさらなる研究が必要である」とまとめた。

18.

サイアザイドに重大な副作用追加、ループ利尿薬は見送り/厚労省

 2025年5月20日、厚生労働省より添付文書の改訂指示が発出され、該当医薬品の副作用の項などに追記がなされる。サイアザイド系、ループ利尿薬の全16製品を検討 スルホンアミド構造を有する炭酸脱水酵素阻害薬(経口剤、注射剤)、サイアザイド系利尿薬について、「急性近視、閉塞隅角緑内障および脈絡膜滲出」に関する国内外の副作用症例や公表文献の評価などから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。これまで海外では、サイアザイド系利尿薬(サイアザイド類似利尿薬含む)およびアセタゾラミドを含む利尿薬について、急性近視、閉塞隅角緑内障および脈絡膜滲出に関するリスク評価または措置が行われており、スルホンアミド構造を有する医薬品と急性近視、閉塞隅角緑内障および脈絡膜滲出のリスクとの関連性を示唆する報告が挙がっていた。なお、ループ利尿薬3製品(フロセミド、トラセミド、アゾセミド)については、改訂が検討されたが指示には至らなかった。※2025年5月26日20時、本文中に誤りがあり、一部修正(フロセミド、トラセミド、アゾセミドを削除)しました。 改訂の対象医薬品は全13製品(サイアザイド系利尿剤、同成分とARBの配合剤)で、9製品の添付文書の「重要な基本的注意」の項目に「急性近視、閉塞隅角緑内障、脈絡膜滲出」に関する注意を、また、「副作用」の重大な副作用の項に「脈絡膜滲出」あるいは「急性近視、閉塞隅角緑内障、脈絡膜滲出」が追記される。その他の4製品については、ほかのサイアザイド系薬剤で副作用が現れた旨の報告が追記される。<対象医薬品>※2025年5月26日20時、フロセミド、トラセミド、アゾセミドを削除しました。・アセタゾラミド(商品名:ダイアモックス錠ほか)・アセタゾラミドナトリウム(同:ダイアモックス注射用)・インダパミド(同:ナトリックス錠ほか)・メフルシド(同:バイカロン錠ほか)・ヒドロクロロチアジド(同:ヒドロクロロチアジド錠)・ベンチルヒドロクロロチアジド(同:ベハイド錠)・トリクロルメチアジド(同:フルイトラン錠ほか)・カンデサルタン シレキセチル・ヒドロクロロチアジド(同:エカード配合錠LD/HDほか)・テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド(同:ミコンビ配合錠AP/BPほか)・テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩・ヒドロクロロチアジド(同:ミカトリオ配合錠)・バルサルタン・ヒドロクロロチアジド(同:コディオ配合錠MD/EXほか)・ロサルタンカリウム・ヒドロクロロチアジド(同:プレミネント配合錠LD/HDほか)・イルベサルタン・トリクロルメチアジド(同:イルトラ配合錠LD/HD)ドンペリドン、妊婦禁忌が削除 このほか改訂指示が出されたものとして、ドンペリドンの「禁忌」から妊婦または妊娠している可能性のある女性が削除される。 厚生労働省の妊婦・授乳婦を対象とした薬の適正使用推進事業の情報提供ワーキンググループ(WG)は、「女性が妊娠に気付いていなかった場合に、結果的に妊婦に対して本薬を処方される事例が一定数存在しており、そのような事例において、妊娠判明後に本薬が妊婦禁忌であることを知った女性が妊娠を継続するかどうか不安を抱え、人工妊娠中絶を選択する可能性がある」ことを指摘。また、『産婦人科診療ガイドライン-産科編2023』において、「妊娠初期のみに使用された場合、臨床的に有意な胎児への影響はないと判断してよい医薬品」として本薬の記載があること、当該ガイドラインにて本薬の服用により奇形発生の頻度や危険度が上昇するとは考えられない旨の根拠が示されている点などを踏まえて、今回の判断に至った。

19.

降圧薬の心血管リスク低減効果、朝服用vs.就寝前服用/JAMA

 降圧薬の就寝前服用は安全であるが、朝の服用と比較して心血管リスクを有意に低減しなかったことが、カナダ・University of AlbertaのScott R. Garrison氏らが、プライマリケアの外来成人高血圧症患者を対象として実施した無作為化試験で示された。降圧薬を朝ではなく就寝前に服用することが心血管リスクを低減させるかどうかについては、先行研究の大規模臨床試験における知見が一致しておらず不明のままである。また、降圧薬の就寝前服用については、緑内障による視力低下やその他の低血圧症/虚血性の副作用を引き起こす可能性が懸念されていた。今回の結果を踏まえて著者は、「降圧薬の服用時間は、降圧治療のリスクやベネフィットに影響を与えない。むしろ患者の希望に即して決めるべきである」とまとめている。JAMA誌オンライン版2025年5月12日号掲載の報告。カナダのプライマリケアで試験、朝服用vs.就寝前服用を評価 研究グループは、降圧薬の朝服用と就寝前服用の、死亡および主要心血管イベント(MACE)に与える影響を、プラグマティックな多施設共同非盲検無作為化・エンドポイント評価者盲検化試験で調べた。被験者は、カナダの5つの州にある436人のプライマリケア臨床医を通じて集めた、少なくとも1種類の1日1回投与の降圧薬の投与を受けている地域在住の成人高血圧症患者であった。募集期間は2017年3月31日~2022年5月26日、最終追跡調査は2023年12月22日であった。 被験者は、すべての1日1回投与の降圧薬を朝に服用する群(朝服用群)もしくは就寝前に服用する群(就寝前服用群)に1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要複合アウトカムは、全死因死亡またはMACE(脳卒中、急性冠症候群または心不全による入院/救急外来[ED]受診)の初回発生までの期間であった。あらゆる予定外入院/ED受診、視覚機能、認知機能、転倒および/または骨折に関連した安全性アウトカムも評価した。主要複合アウトカムイベントの発生、安全性に有意差なし 計3,357例が無作為化された(就寝前服用群1,677例、朝服用群1,680例)。被験者は全体で女性56%、年齢中央値67歳であり、併存疾患は糖尿病が18%、冠動脈疾患既往が11%、慢性腎臓病が7%であった。また、単剤治療を受けている被験者が53.7%であり、降圧薬の種類はACE阻害薬36%、ARB 30%、Ca阻害薬29%などであった。 全体として追跡調査期間中央値4.6年において、主要複合アウトカムイベントの発生率は、100患者年当たりで就寝前服用群2.30、朝服用群2.44であった(補正後ハザード比[HR]:0.96、95%信頼区間[CI]:0.77~1.19、p=0.70)。 100患者年当たりの主要アウトカムの項目別発生率(死亡:就寝前服用群1.11 vs.朝服用群1.28[補正後HR:0.90、95%CI:0.67~1.22、p=0.50]など)、あらゆる予定外入院/ED受診の発生率(23.26 vs.25.15[0.93、0.85~1.02、p=0.10])および安全性について、両群間で差は認められなかった。とくに、転倒の自己申告率(4.9%vs.5.0%、p=0.47)や100患者年当たりの骨折(非脊椎骨折:2.18 vs.2.40[0.92、0.74~1.14、p=0.44]、大腿骨近位部骨折:0.27 vs.0.43[0.65、0.37~1.15、p=0.14])、緑内障の新規診断(0.60 vs.0.54[1.13、0.73~1.74、p=0.58])、18ヵ月間の認知機能低下(26.0%vs.26.5%、p=0.82)について差はみられなかった。

20.

カフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関連

 アルツハイマー病は、世界的な健康問題として深刻化しており、疾患進行に影響を及ぼす可能性のある改善可能な生活習慣因子への関心が高まっている。この生活習慣因子の中でも、カフェイン摂取は潜在的な予防因子として期待されているものの、そのエビデンスは依然として複雑であり、完全に解明されていない。パキスタン・Rehman Medical InstituteのZarbakhta Ashfaq氏らは、カフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関連性についてのエビデンスをシステマティックにレビューし、評価した。Cureus誌2025年3月20日号の報告。 2024年10月までに公表された研究をPubMed/MEDLINE、Embase、Web of Science、Cochrane Libraryなどの主要データベースより、包括的に検索した。ヒトを対象にカフェイン摂取とアルツハイマー病進行との関係を検証した研究をレビューに含めた。品質評価では、観察研究にはニューカッスル・オタワ尺度、その他の研究には適切なツールを用いた。 主な内容は以下のとおり。・カフェイン摂取量が多い(1日当たり200mg超)場合と認知機能低下およびアルツハイマー病進行のリスク低下との間に一貫した関連性が示唆された。・血漿カフェイン濃度が1,200ng/ml超の場合、軽度認知障害(MCI)から認知症への移行リスクの低下と顕著な関連が認められた。・メンデルランダム化試験では、遺伝的に予測される血漿カフェイン高濃度がアルツハイマー病に対する保護作用を有することが示唆された。オッズ比は0.87(95%信頼区間:0.76〜1.00)であったが、統計学的に有意な差は認められなかった。 著者らは「全体として、現在のエビデンスは、とくにMCI患者において、適度なカフェイン摂取がアルツハイマー病への移行に対し保護的に働く可能性があることを示している。この関係は、用量依存的であると考えられ、遺伝的要因や摂取時期の影響も関係している可能性がある。適切なカフェイン摂取戦略を確立し、最も効果が得られる可能性の高い集団を特定するためにも、適切に設定されたプロスペクティブ研究や臨床試験などが必要であろう」としている。

検索結果 合計:473件 表示位置:1 - 20