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腹部脂肪は乾癬リスクを高める?

 乾癬患者の多くは過体重であり、体脂肪レベルの増加が乾癬リスクを高めると考えられているが、新たな研究で、体全体の脂肪よりも腹部の脂肪の方が乾癬発症のより強い警告サインである可能性が示された。この傾向は男性よりも女性で顕著だったという。英キングス・カレッジ・ロンドン(KCL)セント・ジョンズ皮膚科学研究所の皮膚科医であるRavi Ramessur氏らによるこの研究結果は、「Journal of Investigative Dermatology」に5月27日掲載された。 Ramessur氏は、「乾癬の発症には、体幹部の脂肪、特にウエスト周りの脂肪が重要な役割を果たしているようだ。この結果は、乾癬を発症しやすい人や乾癬が重症化しやすい人の特定方法や乾癬の予防・治療戦略の立て方に重要な示唆を与える」と話している。 乾癬は皮膚の炎症性慢性疾患で、赤く盛り上がった発疹(紅斑)と、それを覆う銀白色の鱗屑がフケのようにポロポロと剥がれ落ちること(落屑)を主な特徴とし、かゆみを伴うこともある。乾癬は肥満と因果関係があることが示唆されており、特に重症例においてその関連は強いとされている。しかし、乾癬リスクが体脂肪の分布状況により異なるのかは明らかになっていない。 Ramessur氏らは、UKバイオバンク参加者33万6,806人(うち乾癬患者9,305人)のデータを分析して25種類の脂肪の指標を調べ、それぞれが乾癬とどのように関連しているかを検討した。脂肪の指標には、体重、BMIやウエスト周囲径などの人体測定指標、生体電気インピーダンス法で測定された体脂肪量、体脂肪率などの体組成指標、MRIやDXA(X線吸収測定法)で評価された脂肪量や脂肪分布のデータがあった。 その結果、乾癬との関連で最も大きな効果サイズを示した5つの指標のうちの4つ(ウエストヒップ比、腹部脂肪率、総腹部脂肪組織指数、およびウエスト周囲径)は、中心性肥満の指標であることが明らかになった。また、体内総脂肪量の指標の中で最も効果サイズが大きかったのは、生体電気インピーダンス法で測定された体脂肪率であった。これらの結果は、中心性肥満が乾癬のリスク要因として重要であることを強調している。さらに、中心性肥満と乾癬の関連は、男性よりも女性で顕著であることも示された。 Ramessur氏は、「さまざまな体脂肪の指標において乾癬との強い関連が一貫して見られ、特に女性においてその影響が顕著であることには驚かされた。両者の関連は、乾癬の発症に寄与する未解明の生物学的メカニズムが存在する可能性を示唆しており、さらなる研究が必要だ」と述べている。 本研究の付随論評を執筆した米ペンシルベニア大学ペレルマン医学大学院乾癬・光線療法治療センター所長のJoel Gelfand氏は、「本研究結果は、オゼンピックやゼップバウンドなどのGLP-1受容体作動薬が乾癬予防の手段となり得ることを示唆するものだ」との見解を示す。同氏は、「乾癬と肥満の強い関係、そしてGLP-1受容体作動薬が乾癬の罹患率を低下させ得るという新たな可能性は、乾癬に対する同薬剤の治療効果を検討するための大規模臨床試験の実施を促すものだ。皮膚と関節の症状だけに焦点を当てる現行の乾癬治療は、乾癬と肥満、心血管代謝疾患の密接な関係についての理解が進む中で今や時代遅れと言える」と付随論評の中で述べている。

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第17回 米国10代で肥満症治療薬「セマグルチド」使用が50%急増、期待と懸念が交錯

アメリカの若者の間で深刻化する肥満。この問題に対し、新しい治療の選択肢として登場したGLP-1受容体作動薬の肥満症治療薬セマグルチド(商品名:ウゴービ[Wegovy])の使用が、10代の若者たちの間で急増しています。ロイター通信が報じた最新のデータによると、その使用率は昨年1年間で50%増加しました1)。これは、長年有効な対策が限られていた若年層の肥満治療における大きな転換点であると同時に、専門家の間では期待と懸念の意見が交錯しています。深刻化する肥満と「最後の手段」としての新薬このニュースの背景には、米国の若者をめぐる深刻な健康問題があります。現在、米国の12~19歳の約23%、約800万人が肥満であるとされ、この割合は1980年の5%から大幅に増加しています。肥満は将来の糖尿病や心臓病のリスクを高めるため、長年、食事療法や運動といったライフスタイルの改善が推奨されてきましたが、それだけでは効果が不十分なケースが少なくありませんでした。こうした状況の中、製薬大手ノボ ノルディスク ファーマの開発したセマグルチドが、2022年後半に12歳以上の青少年への使用を承認されました。この薬には強力に食欲を抑える効果があり、臨床試験で高い有効性が示されています。米国小児科学会(AAP)も2023年1月に、12歳以上の肥満の子供に対し、生活習慣の改善と並行して減量薬を使用することを推奨するガイドラインを発表しています2)。こうした流れが、医師や患者家族の間でセマグルチドに対する信頼感を高め、使用の拡大につながったとみられています。50%増でも「氷山の一角」、使用率が示す現実ロイターが報じた分析によれば、セマグルチドの処方率は2023年の青少年10万人当たり9.9件だったのが、昨年(2024年)には14.8件と50%増加し、今年(2025年)の最初の3ヵ月では17.3件にまで伸びています。このデータは、全米130万人の12~17歳の電子カルテを分析したものです。しかし、この数字はまだ「氷山の一角」にすぎないという指摘もあります。実際、肥満の青少年は10万人当たり推定2万人いるとされており3)、現在の処方率はそのごくわずかにすぎません。残る長期的な安全性への懸念使用が拡大する一方で、懸念の声も上がっているのは事実です。とくに、体の発達において重要な時期にある青少年への長期的な影響については、まだデータが十分ではないという懸念です。また、これらの薬は使用を中止すると体重が元に戻る可能性があり、長期にわたって使い続ける必要があるかもしれないという課題も指摘されています。製造元のノボ ノルディスク ファーマは、臨床試験においてセマグルチドが「成長や思春期の発達に影響を与えるようにはみえなかった」として、その安全性と有効性に自信を示していますが、十分なエビデンスがあるとはいえません。確かにセマグルチドの登場は、これまで有効な手段が乏しかった青少年の肥満治療に大きな希望をもたらしています。しかし一方で、長期的な安全性や費用、そして「痩せ薬」として安易に使用されている現状への懸念など、社会が向き合うべき課題は少なくありません。この新しい治療法が、今後どのように若者たちの健康に影響を与えるのか、慎重に見守っていく必要があるでしょう。 参考文献・参考サイト 1) Terhune C, et al. Wegovy use among US teens up 50% as obesity crisis worsens. Reuters. 2025 Jun 4. 2) Hampl SE, et al. Clinical Practice Guideline for the Evaluation and Treatment of Children and Adolescents With Obesity. Pediatrics. 2023;151:e2022060640. 3) CDC. Childhood Obesity Facts. 2024 Apr 2.

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デスモプレシン、重大な副作用にアナフィラキシー追加/厚労省

 厚生労働省は2025年6月24日、男性の夜間頻尿や中枢性尿崩症治療薬として使用される脳下垂体ホルモン薬のデスモプレシン酢酸塩水和物(以下、デスモプレシン)と甲状腺・副甲状腺ホルモン薬のチアマゾールに対して、添付文書の改訂指示を発出した。副作用の項に重大な副作用を新設し、デスモプレシンの経口剤と点鼻剤の両剤形においてアナフィラキシーの追記が、チアマゾールには急性膵炎の追記がなされた。なお、デスモプレシンの点鼻剤には、合併症・既往歴等のある患者の項にもアナフィラキシーの発現について追記がなされた。 対象製品は以下のとおり。デスモプレシン酢酸塩水和物(経口剤) ミニリンメルトOD錠25μg、同50μg ミニリンメルトOD錠60μg ミニリンメルトOD錠120μg、同240μg<重大な副作用> アナフィラキシーデスモプレシン酢酸塩水和物(点鼻剤) デスモプレシン点鼻スプレー2.5μg「フェリング」 デスモプレシン・スプレー10協和 ほか<合併症・既往歴等のある患者> 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者 治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しないこと。アナフィラキシーが発現するおそれがある。<重大な副作用> アナフィラキシー 本剤のアナフィラキシー関連症例を評価した結果、デスモプレシン(注射剤)とアナフィラキシーとの因果関係が否定できない症例が集積したこと(令和7月4月8日改訂指示通知)から、経口剤および点鼻剤の使用上の注意を改訂することが適切と判断された。ただし、中枢性尿崩症の効能を有する点鼻剤(デスモプレシン点鼻スプレー2.5μg「フェリング」)については代替薬がなく、禁忌を設定した場合に医療現場で不利益を被る可能性が考えられたため、点鼻剤については「禁忌」の項への追記は行わず、「合併症・既往歴等のある患者」の項にのみの追記とし、治療上やむを得ないと判断される場合を除き、投与しない旨の注意喚起を追記することが適切と判断された。チアマゾール メルカゾール錠2.5mg、同5mg メルカゾール注10mg<重大な副作用> 急性膵炎 上腹部痛、背部痛、発熱、嘔吐などの症状、膵酵素異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。 急性膵炎関連症例および疫学文献などを評価した結果、本剤と急性膵炎との因果関係が否定できない症例が集積したこと、本剤と急性膵炎との関連を示唆する疫学文献が複数報告されていることから、使用上の注意を改訂することが適切と判断された。

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女性の低体重/低栄養症候群(FUS)は社会で治療する疾患/肥満学会

 日本肥満学会は、日本内分泌学会との合同特別企画として、6月6日(金)に「女性の低体重/低栄養症候群(Female Underweight/Undernutrition Syndrome:FUS)-背景、現況、その対応-」のシンポジウムを開催した。シンポジウムでは、なぜ肥満学会が「女性の痩せ」を問題にするのか、その背景やFUSの概念、対応などが講演された。わが国の肥満の統計から見えてきた「女性の痩せ問題」 「なぜ、肥満学会が『痩せ』を問題とするのか」をテーマに同学会理事長の横手 幸太郎氏(千葉大学 学長)が講演を行った。 わが国のBMI25以上の成人肥満人口は男性では31.7%、女性では21%あり、なかでもBMI30以上の高度肥満が増加している。とくにアジア人では、より低いBMIから肥満に関連する健康障害が生じることから「肥満症診療のフローチャート」や「肥満症治療指針」などを定め、『肥満症診療ガイドライン2022』(日本肥満学会 編集)で広めてきた。 これらの作成の過程で、わが国の20~39歳の女性では、BMI18.5以下の人口が多く、女性の痩せすぎが顕著であることが判明した。痩せすぎると健康障害として免疫力の低下、骨粗鬆症、不妊、将来その女性から産まれてくる子供の生活習慣病リスクなどが指摘されている。また、近年では、糖尿病や肥満症治療で使用されるGLP-1受容体作動薬などが痩身などの目的で適応外の人に使用されることで、消化器症状、栄養障害、重症低血糖などの健康障害の報告もされている。こうした状況に鑑み、「肥満症治療薬の安全・適正使用に関するワーキンググループ」を立ち上げ、適正使用の啓発に努めてきた。こうした関連もあり、同学会が健康障害への介入ということで、「FUSの概念を提唱し、診療すべき疾患と位置付けていく」と経緯の説明を行った。診断基準、治療法の確立で低体重/低栄養の健康被害をなくす 「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の概念提唱の背景」をテーマに小川 渉氏(神戸大学大学院医学研究科橋渡し科学分野代謝疾患部門 特命教授)が、FUS概念提唱の背景を講演した。 肥満と低体重はともに健康障害のリスクであり、メタボリックシンドロームは肥満と関連し、サルコペニアは痩せと関連するという疫学データを示した1)。 また、低体重や低栄養が健康障害リスクであることの認知は高齢者医療を除き、まだ不十分であり、医療制度や公衆衛生対策では肥満対策が現在も重視され、高齢者以外の低体重/低栄養のリスクは学術的・政策的にも軽視されていると指摘した。たとえば具体的な健康障害として、肥満も低体重も月経周期の長さや規則性に悪影響を来すことが知られており、若年女性におけるBMIと骨密度の関係では、いずれの年代でもBMIが20を下回ると急激に骨塩量が低下するという2)。 そして、わが国の若年女性の低体重/低栄養に関わる問題として、20代女性の2割がBMI18.5以下と低体重率が高いこと、月経周期異常、骨量減少、貧血などの低体重で多くみられる健康障害があること、健康障害を伴うような痩身への試みとして「GLP-1ダイエット」に代表される「痩せ志向」などがある。とくに「GLP-1ダイエット」は、法律、倫理、臨床上の問題が絡む複合的な課題であると警鐘を鳴らした。 今後の展開として、小川氏は低体重/低栄養の学術上の課題として、低体重(BMI18.5以下)の定義へのさらなる科学的エビデンスの集積とともに、疾患概念確立のために他の関連する学会とのワーキンググループによる活動を行うという。 疾患概念・定義の確立の意義としては、「一定の疾患概念に基づくエビデンスの収集、低体重/低栄養と健康障害に関する社会的認知の向上から診断基準の作成、介入・治療法の確立、健診などでの予防体制整備、教育現場や社会への啓発活動が行われ、健康障害がなくなるようにしたい」と展望を語った。親の一言が子供の「痩せ志向」を助長させる可能性 「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)の対応~アカデミアの役割と社会へのアプローチ~」をテーマに田村 好史氏(順天堂大学院スポーツ医学・スポートロジー/代謝内分泌内科学 教授)が、FUSの概要説明と痩身願望が起こる仕組み、そして、今後の取り組みについて講演した。 はじめに本年4月17日に発表された「女性の低体重/低栄養症候群(FUS)ステートメント」に触れ、FUSは18歳以上で閉経前までの成人女性を対象に、低栄養・体組成の異常、性ホルモンの異常、骨代謝異常など6つの大項目の疾患や状態がある場合の症候と定義されていると述べた。現時点では、基準を定めるエビデンスの不足から枠組みを提示するにとどめ、摂食障害や二次性低体重(たとえば甲状腺機能亢進症など)は除かれ、閉経後の女性や男性は含まないと説明した。 FUSの原因としては、ソーシャルメディア(SNS)やファッション誌などのメディアの影響、体質による痩せ、貧困などの社会経済的要因など3つが指摘され、とくに痩せ願望は小学校1年生ごろから生じているという報告もある。 とくにこうした意識は保護者などから「太っちゃうよ」など体型に関する指摘や友人の「痩せた?」などの会話と相まってSNSなどのメディアの影響で熟成され、痩せ願望へとつながると指摘する。 こうした痩身志向者への対応では、体型の正しい理解を促進するために教育介入が必要であると同時に、体質による痩せには定期的な骨密度測定や血液検査、栄養指導などの健康管理が、社会・経済的要因の痩せでは社会福祉の充実が必要と語る。また、その際にFUSの提唱が新しいスティグマ(差別・偏見)とならないように留意が必要とも述べた。 今後の方向性と提言として、診断基準確立のためにガイドラインの策定、健診制度への組み込みで骨量低下の早期発見、教育・産業界との連携で適切な体型イメージ教育や諸メディアとの連携、内閣府の取り組みとして戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)との連携が必要と4項目を示した。 おわりに田村氏は、現在進行しているSIP事業(2023~27年度)として「女性のボディイメージと健康改善のための研究開発」の一端を披露し、「痩せが美しいという単一価値の変更」のために、FUSに該当する女性の疫学調査、学校での教育事業例を紹介した。啓発活動では「マイウェルボディ協議会」を設立し、「医学的に適正な体型を自分の意志で選択できる世界を目指して社会概念の変化を促していきたい、そのために社会的な機運を上げていきたい」と抱負を語り、講演を終えた。 講演後の総合討論では、会場参加の医師などから「子供の摂食障害の問題」「親の痩せているほうがよいという意識の問題」などが指摘された。また、骨量の最高値が30歳前後であることの啓発と若年からの骨密度測定などの必要性が提案されるなど、活発な話し合いが行われた。

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第272回 悪名高きピロリ菌の有益なアミロイド疾患防御作用を発見

悪名高きピロリ菌の有益なアミロイド疾患防御作用を発見ピロリ菌は身を寄せる胃の上皮細胞にIV型分泌装置を使って毒素を注入します。CagAという名のその毒素の意外にも有益な作用をカロリンスカ研究所主体のチームが発見しました1-3)。その作用とはタンパク質の凝集によるアミロイドの形成を阻止する働きです。アミロイドはアルツハイマー病、パーキンソン病、2型糖尿病、細菌感染などの数々の疾患と関連します。CagAはそれらアミロイド関連疾患の治療手段として活用できるかもしれません。ピロリ菌が住まうヒトの胃腸は清濁入り交じる細菌のるつぼです。消化や免疫反応促進で不可欠な役割を担うヒトに寄り添う味方がいる一方で、胃腸疾患や果ては精神不調をも含む数多の不調を引き起こしうる招かれざる客も居着いています。ピロリ菌は世界の半数ほどのヒトの胃の内側に張り付いており、悪くすると胃潰瘍や胃がんを引き起こします。腸の微生物に手出しし、細菌の代謝産物の生成を変える働きも知られています。ピロリ菌がヒトに有害なことはおよそ当たり前ですが、カロリンスカ研究所のチームが発見したCagAの新たな取り柄のおかげでピロリ菌を見る目が変わるかもしれません。ピロリ菌はCagAを細胞に注入してそれら細胞の増殖、運動、秩序を妨害します。ヒト細胞内でCagAはプロテアーゼで切断され、N末端側断片と病原性伝達に寄与するC末端側断片に分かれます。カロリンスカ研究所のGefei Chen氏らは構造や機能の多さに基づいてN末端側断片(CagAN)に着目しました。大腸菌や緑膿菌などの細菌が作るバイオフィルムは宿主の免疫細胞、抗菌薬、他の細菌を寄せ付けないようにする働きがあります。バイオフィルムは細菌が分泌したタンパク質がアミロイド状態になったものを含みます。ピロリ菌は腸内細菌の組成や量を変えうることが知られます。その現象は今回の研究で新たに判明したCagANのバイオフィルム形成阻止作用に起因しているのかもしれません。緑膿菌とCagANを一緒にしたところ、バイオフィルム形成が激減しました3)。アミロイド線維をより作るようにした緑膿菌のバイオフィルム形成もCagANは同様に阻止しました。CagANの作用は広範囲に及び、細菌のアミロイドの量を減らし、その凝集を遅らせ、細菌の動きを鈍くしました。ピロリ菌で腸内細菌が動揺するのは、ピロリ菌の近くの細菌がCagANのバイオフィルム形成阻止のせいで腸内の殺菌成分により付け入られて弱ってしまうことに起因するかもしれないと著者は考えています1)。バイオフィルムを支えるアミロイドは細菌の生存を助けますが、ヒトなどの哺乳類の臓器でのアミロイド蓄積は種々の疾患と関連します。病的なアミロイド線維を形成するタンパク質は疾患ごとに異なります。たとえばアルツハイマー病ではアミロイドβ(Aβ)やタウ、パーキンソン病ではαシヌクレイン、2型糖尿病は膵島アミロイドポリペプチドがそれら疾患と関連するアミロイド線維を形成します。CagANはそれらのタンパク質のどれもアミロイド線維を形成できないようにする働きがあり、どうやらタンパク質の大きさや電荷の差をものともせずアミロイド形成を阻止しうるようです。Googleの人工知能(AI)AlphaFold 3を使って解析したところ、CagANを構成する3区画の1つであるDomain IIがアミロイド凝集との強力な結合相手と示唆されました。Domain IIを人工的に作って試したところ、アルツハイマー病と関連するAβのアミロイド線維形成がきっちり阻止されました。アミロイド混じりのバイオフィルムを作る薬剤耐性細菌感染やアミロイド蓄積疾患は人々の健康に大きな負担を強いています。今回の研究で見出されたCagANの取り柄がそれら疾患の新たな治療法開発の足がかりとなることをChen氏らは期待しています2,3)。 参考 1) Jin Z, et al. Sci Adv. 2025;11:eads7525. 2) Protein from bacteria appears to slow the progression of Alzheimer's disease / Karolinska Institutet 3) A Gut Pathogen’s Unexpected Weapon Against Amyloid Diseases / TheScientist

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GLP-1受容体作動薬使用時にすべき生活習慣介入の優先事項とは

 肥満症の治療にGLP-1受容体作動薬が使用される際に、その効果を維持などするために患者の食事や運動など生活習慣に引き続き介入する必要がある。米国・タフツ大学フリードマン栄養科学政策学部のDariush Mozaffarian氏らの研究グループは、GLP-1受容体作動薬を使用する際に、食事内容や生活習慣介入での優先事項をアメリカ生活習慣病医学会、アメリカ栄養学会、肥満医学協会、および肥満学会の団体とともに共同指針として策定した。この指針はThe American Journal of Clinical Nutrition誌2025年5月29日号オンライン版に掲載された。GLP-1受容体作動薬の使用でも引き続き生活習慣介入は必要 研究グループは、GLP-1受容体作動薬を使用する際、食事による栄養摂取とほかの生活習慣介入に関する事項について文献を評価し、関連するトピック、優先事項、および新しい方向性を特定した。  主な結果は以下のとおり。・GLP-1受容体作動薬は臨床試験で体重を5~18%減少させているが、リアルワールドの分析ではやや低い効果を示し、複数の臨床的な課題が示されている。・安全性などの課題では、とくに消化器系の副作用、カロリー制限による栄養不足、筋肉や骨の減少、長期的なアドヒアランスの低さとその後の体重増加、高コストによる効果の低さがある。・多くの実践ガイドラインでは、肥満成人に対しさまざまな根拠に基づく食事療法と行動療法を推奨しているが、GLP-1受容体作動薬との併用は広く普及していない。・先述の課題に対応するための優先事項には以下の項目がある。(a)体重減少と健康に関する目標を含む患者中心のGLP-1受容体作動薬の導入(b)通常の食習慣、感情要因、摂食障害、関連する医療状態を含んだベースラインスクリーニング(c)筋力、運動機能、体組成評価を含む総合的な検査(d)社会的健康決定要因のスクリーニング(e)有酸素運動、筋力トレーニング、睡眠、精神的ストレス、薬物使用、社会的つながりを含む生活習慣の評価・GLP-1受容体作動薬使用中は、消化器系副作用への栄養的・医療的管理が重要であり、変化した食事の好みや摂取量への対応、栄養不足の予防、有酸素運動と適切な食事による筋骨格量の維持、補完的な生活習慣介入も不可欠である。・サポート戦略として、グループベースでの患者訪問、管理栄養士によるカウンセリング、遠隔医療およびデジタルプラットフォーム、「食事は薬」への啓発などの介入が挙げられる。・肥満の程度にかかわらず薬剤へのアクセス、食事と栄養への不安、栄養と調理に関する知識は、GLP-1受容体作動薬を用いた者に影響を及ぼす。・今後の研究の重点領域には、内因性GLP-1の食事による調節、アドヒアランス向上の戦略、使用中止後の体重維持のための栄養上の優先事項、組み合わせまたは段階的による集中的な生活習慣管理、臨床的肥満の診断基準が挙げられる。 以上から研究グループは、「エビデンスに基づく栄養と生活習慣の介入戦略は、GLP-1受容体作動薬による肥満治療における主要課題に対処する上で重要な役割を果たし、臨床医が患者の健康向上を促進する上でより効果的になることを可能にする」と結んでいる。

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精神疾患を併存している肥満者は減量治療抵抗性/日本糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 肥満や肥満症の患者では、うつ病、不眠などの精神疾患を併存しているケースが多い。こうした併存症は診療の際にアドヒアランスなどに影響するなど、臨床現場では治療の上で課題となっている。また、精神疾患が体重の増加などにも影響することが指摘されている。 そこで本稿では「口演153 境界型糖尿病6」から「精神疾患合併が肥満患者の体重変化および糖代謝に与える影響」(演者:石川 実里氏[国立病院機構京都医療センター臨床研究センター内分泌代謝高血圧研究部])をお届けする。精神疾患併存の肥満症患者にはチームで診療にあたる 石川 実里氏、浅原 哲子氏らの研究グループは、自院の「肥満・メタボリック外来」に来院した患者で、精神疾患を併存している肥満症患者の体重変化とインスリン抵抗性に与える影響を検討した。 心血管疾患のハイリスク群である肥満症患者では、精神疾患を併存していることが多く、精神疾患の併存は、その心理ストレスや精神疾患治療薬の影響から、減量治療を困難にし、同時にストレスによるコルチゾール分泌増加は、内臓脂肪蓄積やインスリン抵抗性増悪に寄与している可能性がある。 そこで、2004~19年に京都医療センター肥満・メタボリック外来を初診で受診した174例(減量入院実施などで14例除外)を対象に、6ヵ月後、12ヵ月後の体重・糖代謝関連指標の変化と精神疾患合併の関連を検討した。 対象の中で精神疾患を併存している患者は30例、併存していない患者は144例だった。また、合併する精神疾患の種類としては、「うつ病」「不眠症」「統合失調症」「双極性障害」の順に多くみられた。患者の39%が男性、61%が女性だった。平均BMIは33.8であった。糖尿病合併例は28.2%と約3割に見受けられた。 主な結果として、精神疾患合併群の体重減少率は12ヵ月時点で非合併群より有意に低かった。さらに、体重減少とHbA1cの改善に相関がみられ、非糖尿病合併群でも同様の結果がみられた。糖尿病非合併の肥満患者において、精神疾患非合併群のみ、6ヵ月後、12ヵ月後ともに、初診時よりHbA1cは有意に減少していたが、群間差はみられなかった。 考察として、肥満症の患者では脳内炎症が惹起され、セロトニン産生が抑制されることから、うつ状態が進み、また同時に肥満が進行する可能性が示唆されている。さらに、心理ストレスは、食欲を制御する視床下部や報酬系を介して摂食量を増加させる可能性がある。 石川氏は研究結果から、「精神疾患を併存した肥満患者は、減量治療抵抗性であることが多く、精神科などとの連携を含めたチーム医療が減量成功と患者のQOL向上に寄与すると考えられる」と述べ、口演を終えた。

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軽度・短期間のAKIでも腎機能が長期的に悪化

 急性腎障害(AKI)後の長期的な腎機能悪化リスクを調査したシステマティックレビューおよびメタ解析の結果、AKIが軽度で持続期間が短い患者であっても慢性腎臓病(CKD)の発症および進行リスクは有意に高く、糖尿病や高血圧の既往、急性透析の必要があった場合などではさらにリスクが増大していたことを、オランダ・ユトレヒト大学医療センターのDenise M. J. Veltkamp氏らが明らかにした。Nephrology Dialysis Transplantation誌オンライン版2025年5月27日号掲載の報告。 AKIは、CKDや腎不全、主要腎有害事象(死亡、透析依存など)と関連するが、どのような患者においてリスクが増大するかは依然として不明である。そこで研究グループは、AKIのステージや持続期間、患者特性などが腎予後に与える影響を明らかにするためにシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。 PubMedおよびEmbaseを用いて、AKI患者と非AKI患者を少なくとも1つの重要なアウトカムで比較検討し、最低1年間の追跡調査を行った研究を系統的に検索した。ハザード比(HR)とオッズ比(OR)はランダム効果モデルを用いて統合し、患者背景の異質性はサブグループ分析およびメタ回帰分析を用いて検証した。 主な結果は以下のとおり。・70件の研究の183万8,668例(うちAKI患者は16万5,715例)を解析対象とした。すべての研究の質は中~高であった。・AKI患者では、非AKI患者よりも、CKD発症および進行リスク、腎不全リスク、主要腎有害事象リスクが高かった。 -CKD発症 AKI群25.8%vs.非AKI群8.7%、HR:2.36(95%信頼区間[CI]:1.77~2.94) -CKD進行 AKI群43.1%vs.非AKI群35.6%、HR:1.83(95%CI:1.26~2.40) -腎不全 AKI群2.9%vs.非AKI群0.5%、HR:2.64(95%CI:2.03~3.25) -主要腎有害事象 AKI群59.0%vs.非AKI群32.7%、OR:2.77(95%CI:2.01~3.53)・3日未満の短期間のAKIでもCKD発症リスクが高かった(OR:2.37[95%CI:1.68~3.07])。・ステージ1の軽度のAKIでもCKD発症リスクが高かった(HR:1.49[95%CI:1.44~1.55])。・糖尿病や高血圧、冠動脈疾患の既往、心血管手術を受けた患者、急性透析を必要とした患者では、CKD発症または進行リスクが高かった。 研究グループは「これらの結果は、AKI後の腎機能低下を速やかに認識し、腎保護のための介入を開始するための個別化されたフォローアップ戦略を開発する必要性を強調している」とまとめた。

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第16回 認知症介護者は将来の認知症リスクが高い? 米国の研究が示す、介護者の見過ごされがちな健康問題

急速な高齢化が進む日本で、認知症は多くの人にとって身近な課題でしょう。家族が認知症と診断され、介護に奮闘している方も少なくないと思います。そんな中、その献身的な介護が、実は介護者自身の将来の健康、とくに「脳の老化」のリスクを高めている可能性があるとしたら…。米国から出された報告は、まさにこの事実を指摘し、警鐘を鳴らしています1)。介護者が抱える、見過ごされがちな認知症リスク要因米国・アルツハイマー協会のPublic Health Center of Excellence on Dementia Risk Reductionおよびミネソタ大学のPublic Health Center of Excellence on Dementia Caregivingという機関が、2025年6月12日に発表した報告書によれば、認知症患者を介護する人の5人中3人近く(59%)が、自分自身の認知症発症の可能性を高めるリスク要因を少なくとも1つ抱えていることが明らかになりました。さらに、4人に1人(24%)は2つ以上のリスク要因を抱えている、ともされています。この報告書は、2021~22年に米国の47州で収集されたデータを分析したものです。その結果、認知症患者の介護者は一般の人と比べて、脳の老化に関連する5つのリスク要因を持つ割合が高いことがわかりました 。具体的な数値は以下の通り。喫煙(30%高い)高血圧(27%高い)睡眠不足(21%高い)糖尿病(12%高い)肥満(8%高い)一方、唯一「身体活動を欠く」という点については、介護者の方が一般の人より9%低いという結果でした。これは、介護そのものに伴う身体的な負担や活動が影響している可能性が高いと見られています。こうした結果は、認知症患者の介護者が家族や友人のケアに追われるあまり、自分自身の健康を見過ごしがちになってしまう傾向を表しているのかもしれません。とくに深刻な「若い世代の介護者」の健康リスクこの報告書がとくに強い懸念を示しているのが、若い世代の介護者です。若い介護者は、同世代の他の人と比べて、複数の認知症リスク要因を持つ可能性が40%も高いことがわかりました。さらに詳細に各要因を見ると、その差は驚くべきものでした。若い介護者は同世代の非介護者と比較して、喫煙する可能性が86%高い高血圧である可能性が46%高い一晩の睡眠時間が6時間未満であると報告する可能性が29%高いという結果でした。これは、仕事や子育てといったやるべきことに加えての介護負担が、心身にきわめて深刻な影響を及ぼしていることを示唆しています。介護者を社会全体で支えるために今回ご紹介した報告書は、単にリスクを指摘するだけでなく、今後の対策の方向性も示唆しています。介護者の中でどの認知症のリスク要因が多いかを知ることで、資源や介入策の優先順位付けをし、調整することができるからです。また、今回の報告書は、介護者の負担が精神的なストレスにとどまらず、身体的リスク、ひいては介護者自身の将来の認知症リスクにまでつながることを示唆した点で重要です。これはもはや、個人や家庭内の問題ではなく、社会全体で取り組むべき公衆衛生上の課題といえるでしょう。介護は誰にとっても他人事ではありません。介護者が孤立せず、自分自身の健康にも目を向けることができるよう、周囲の理解とサポート、そして行政による的を絞った支援策の充実が急がれます。今回のニュースは、介護者への負担がさまざまな形で自身の健康リスクにまでつながっていることを改めて私たちに教えてくれています。参考文献・参考サイト1)Public Health Center of Excellence on Dementia Risk Reduction. Risk Factors for Cognitive Decline Among Dementia Caregivers 2021-2022 Data from 47 U.S. States. 2025 Jun 12.

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中年期の体重減少の維持は将来の慢性疾患の予防となる

 中年期の体重増減とその後の糖尿病をはじめとする慢性疾患の発症、死亡について、どの程度の関連があるのだろうか。この課題について長期的な観点からの研究報告は少なかった。このテーマについて、フィンランド・ヘルシンキ大学のTimo E Strandberg氏らの研究グループは、約2万3,000人を対象に中年期の体重減少の維持が、その後の健康障害に与える影響について複数のコホート研究から解析した。その結果、中年期の持続的な体重減少は、薬剤などの介入がなくとも長期的に2型糖尿病以外の慢性疾患のリスクの低下や心疾患などの死亡率の低下に寄与することがわかった。この報告は、JAMA Network Open誌2025年5月1日号に掲載された。体重減少を維持できれば心血管疾患やがん、喘息の予防につながる可能性 研究グループは、中年期(40~50歳)の健康な時期におけるBMIの変化と、後年の疾患発症率および死亡率との長期的な関連性を検討することを目的に、英国のホワイトホールII研究(WHII:1985~1988年)、フィンランドのヘルシンキ・ビジネスマン研究(HBS:1964~1973年)、フィンランド公共部門研究(FPS:2000年)の3つのコホート研究のデータ解析を行った。 この3つの研究で参加者の最初の2回の体重測定結果に基づき、中年期のBMIの変化について「BMIが25未満を持続」「BMIが25以上から25未満へ変化」「BMIが25未満から25以上へ変化」「BMIが25以上の持続」の4つのグループに分類した。疾患発症率と死亡率のアウトカムを追跡調査し、データ解析は2024年2月11日~2025年2月20日に行われた。 WHIIとFPSでは、2型糖尿病、心筋梗塞、脳卒中、がん、喘息、または慢性閉塞性肺疾患を含む新規発症の慢性疾患が評価され、HBSでは全原因の死亡率が評価された。 主な結果は以下のとおり。・3つのコホートの総参加者は2万3,149人。・WHIIからは4,118人(男性72.1%)が参加し、初回受診時の年齢中央値(四分位範囲:IQR)は39(37~42)歳だった。・HBSからは男性2,335人が参加し、初回受診時の年齢中央値(IQR)は42(38~45)歳だった。・FPSからは1万6,696人(女性82.6%)が参加し、初回受診時の年齢中央値(IQR)は39(34~43)歳だった。・追跡期間の中央値(IQR)は22.8(16.9~23.3)年で、初回評価時の喫煙、収縮期血圧、血清コレステロールを調整した後、WHIIの参加者で体重減少を経験した群は、持続的に肥満していた群と比較し、慢性疾患の発症リスクが低下していた(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.35~0.78)。この結果は、アウトカムから糖尿病を除外した後も再現された(HR:0.58、95%CI:0.37~0.90)。・FPSでは追跡期間中央値(IQR)は12.2(8.2~12.2)年で、HRは0.43(95%CI:0.29~0.66)だった。・HBSで体重減少に関連した延長した追跡期間中央値(IQR)は35(24~43)年で、HRは0.81(95%CI:0.68~0.96)であり、死亡率の低下と関連していた。 これらの結果から研究グループは、「手術や薬物療法による体重減少介入がほとんど存在しなかった時代に実施された調査である。中年期の体重減少の維持は、持続的な肥満と比較し、2型糖尿病以外の慢性疾患のリスク低下および全死亡率の低下と関連していた」と結論付けている。

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2型DMとCKD併存、フィネレノン+エンパグリフロジンがUACRを大幅改善/NEJM

 2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(CKD)患者の初期治療について、非ステロイド性MR拮抗薬フィネレノン+SGLT2阻害薬エンパグリフロジンの併用療法は、それぞれの単独療法と比べて尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の大幅な低下に結び付いたことを、米国・Richard L. Roudebush VA Medical CenterのRajiv Agarwal氏らCONFIDENCE Investigatorsが報告した。同患者における併用療法を支持するエビデンスは限定的であった。NEJM誌オンライン版2025年6月5日号掲載の報告。併用療法と各単独療法のUACR変化量を無作為化試験で比較 研究グループは、CKD(eGFR:30~90mL/分/1.73m2)、アルブミン尿(UACR:100~5,000mg/gCr)、2型糖尿病(レニン・アンジオテンシン系阻害薬服用)を有する患者を、(1)フィネレノン10mg/日または20mg/日(+エンパグリフロジンのマッチングプラセボ)、(2)エンパグリフロジン10mg/日(+フィネレノンのマッチングプラセボ)、(3)フィネレノン+エンパグリフロジンを投与する群に1対1対1の割合で無作為に割り付けた。 主要アウトカムは、対数変換した平均UACR値のベースラインから180日目までの相対変化量であった。安全性も評価した。180日時点で併用群のUACRは単独群より29~32%低下 ベースラインで、UACRは3群で同程度であった。UACRのデータが入手できた被験者(フィネレノン単独群258例、エンパグリフロジン単独群261例、併用群265例)におけるUACR中央値は579mg/gCr(四分位範囲:292~1,092)であった。 180日時点で、併用群のUACRは、フィネレノン単独群よりも29%有意に大きく低下し(ベースラインからの変化量の差の最小二乗平均比:0.71、95%信頼区間:0.61~0.82、p<0.001)、エンパグリフロジン単独群よりも32%有意に大きく低下した(0.68、0.59~0.79、p<0.001)。 単独群または併用群のいずれも、予期せぬ有害事象は認められなかった。 試験薬の投与中止に至った有害事象の発現頻度は、3群とも5%未満だった。症候性低血圧の発現は併用群の3例で報告され、急性腎障害の発現は合計8例(併用群5例、フィネレノン単独群3例)であった。高カリウム血症の発現は併用群25例(9.3%)、フィネレノン単独群30例(11.4%)で、相対的に併用群が約15~20%低かった。この所見は、重度の高カリウム血症のリスクがSGLT2阻害薬により抑制されることが示されている先行研究の所見と一致していた。

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セマグルチドは代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)の予後を改善する(解説:住谷哲氏)

 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)が代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)へ、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)が代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)へと呼称が変更されてから約2年が経過した。“alcoholic”および“fatty”が不適切な表現であるのが変更の理由らしい。この2年間に米国のFDAは甲状腺ホルモン受容体β作動薬であるresmetiromをMASHの治療薬として条件付きで承認している。わが国でresmetiromの承認に向けて治験が開始されているか否かは寡聞にして筆者は知らないが、本論文で用いられたセマグルチドはわが国でも使用可能であり臨床的意義は大きい。 本試験ESSENCEはpart1およびpart2から構成されており、本論文はセマグルチド投与72週後のMASHの組織学的変化を主要評価項目としたpart1についての報告である。part2の主要評価項目は240週後のcirrhosis-free survivalとされており、part1はESSENCEの中間解析の位置付けである1)。 これまでにMASHへの薬物介入を試みた試験としては、ピオグリタゾンまたはビタミンEの有効性を検討したNASH-CRNがある2)。本論文と同じく組織学的変化を主要評価項目としたが、ビタミンEはプラセボに比較して有意な組織学的改善を認めたがピオグリタゾンでは認めなかった。しかしこの試験では2型糖尿病患者は対象から除外されており、試験の結果が2型糖尿病患者に適用できるかは不明であった。一方、本試験では患者の56%と半数以上が2型糖尿病を合併しており、Supplementにあるサブグループ解析では2型糖尿病の有無で有効性に差はない。したがって、2型糖尿病を合併したMASHでもセマグルチドは有効と考えられる。 組織学的改善は代替エンドポイントであり、厳密にはpart2終了後のcirrhosis-free survivalの結果を待つ必要がある。しかし、MASH患者の予後を決定する要因として心血管イベントは無視できない。これまでのセマグルチドの臨床試験の結果から、おそらくMASH患者の心血管イベントもセマグルチドの投与により有意に減少する可能性は高い。したがって、代替エンドポイントではあるがMASH治療薬としてのセマグルチドは現時点で正当化されると思われる。わが国でも早期の承認が期待される。

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災害時にLINEを活用し糖尿病患者の命を守る/糖尿病学会

 日本糖尿病学会の第68回年次学術集会(会長:金藤 秀明氏[川崎医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科学 教授])が、5月29~31日の日程で、ホテルグランヴィア岡山をメイン会場に開催された。 今回の学術集会は「臨床と研究の架け橋 ~translational research~」をテーマに、41のシンポジウム、173の口演、ポスターセッション、特別企画シンポジウム「糖尿病とともに生活する人々の声をきく」などが開催された。 地震や洪水などの自然災害が発生した場合、糖尿病患者、とくにインスリン依存状態の患者はインスリンの入手などに困難を来し、生命の危機に直面するケースが予想され、災害時に患者の様子や不足する薬剤をいかに把握するかが、課題となっている。 そこで本稿では「口演62 災害医学」から「糖尿病患者に対するLINEによる双方向性の情報伝達システムの構築」(演者:西田 健朗氏[熊本中央病院糖尿病・内分泌・代謝内科])をお届けする。災害時に困る患者の居場所、健康状態の把握の一助となるLINE 2016年に発生した熊本地震を経験した熊本中央病院の西田氏が JADEC DiaMAT推進委員会を代表して、災害時に役立てることができるLINEを利用した双方向情報伝達システムの構築について口演を行った。 日本糖尿病協会(JADEC)と日本糖尿病学会は協働して、自然災害などから糖尿病患者を守る取り組みを強化している。具体的には、糖尿病医療支援チーム(DiaMAT:Diabetes Medical Assistance Team)を創設し、災害発生時に災害派遣医療チーム(DMAT)などの後方支援や被災者への直接支援などを行う体制の構築を目指している。 この災害時の情報伝達体制構築の一環として、わが国で普段から広く使用されている通信アプリ“LINE”を基盤にしてシステムを構築した。システムでは、アカウント管理の簡便性からJADEC本部のアカウントのみを作成し、患者が登録していく方式で双方向の情報伝達を行っている。LINEにはインスリン依存状態の患者などから登録をしてもらい、氏名や住所などの個人情報や自分の病状、かかりつけ医療機関や処方薬局などを細かく入力してもらうようにした。 2025年5月28日現在で1,517人の患者などが登録しており、登録に際しては使用しているインスリンの入力ができる。災害時には、必要なインスリンやデバイスなどの情報をJADEC事務局に連絡することができ、JADEC事務局は位置情報で患者の位置を把握、インスリンやデバイスの搬送での活用が期待されている。 実際にこうした情報システムが稼働するのか、患者のニーズを満たしているのかの検証を西田氏らは、2024年9月1日(防災の日)に訓練として行った。 LINE登録者約300人中87人、医師5人が訓練に参加し、登録者が事務局との双方向通信を行った。訓練では、登録者のLINE操作や事務局の内容確認が行われたほか、必要により個別の質問には医師が対応した。 訓練後のアンケートについて、「登録者の満足度」は5点中4.15点であり、「このLINEを紹介したい」は5点中4.44点であり、肯定的な意見が多数を占めていた。また、登録者の自由記載では、「使われている言葉が難しい」「インスリンの入手について安心材料になった」などの課題や感想を聞くことができた。 西田氏は、「今後はさらにLINEシステムを向上させ患者の位置情報から、災害時に患者へ必要なインスリンや治療薬を届けることができるようにシステム構築を進めていく」と展望を語った。

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多疾患併存はうつ病リスクを高める?

 慢性疾患との闘いは人を疲弊させ、うつ病になりやすくするようだ。新たな研究で、長期にわたり複数の慢性疾患を抱えている状態(多疾患併存)は、うつ病リスクの上昇と関連することが明らかにされた。リスクの大きさは慢性疾患の組み合わせにより異なり、一部の組み合わせでは特にリスクが高くなることも示されたという。英エディンバラ大学一般診療学分野教授のBruce Guthrie氏らによるこの研究結果は、「Communications Medicine」に5月13日掲載された。 Guthrie氏らは、UKバイオバンク研究参加者のうち、ベースライン時に1つ以上の慢性疾患を有していた37〜73歳の成人14万2,005人のデータを、69種類の慢性疾患の有無に基づき分類した。次いで、4種類のクラスタリング手法を比較検討し、最適と判断されたモデルを選定した。その後、ベースライン時にうつ病の既往のなかった14万1,011人(うち3万551人はベースライン時に身体疾患のなかった対照)を対象に、多疾患併存の特徴による分類(クラスター)ごとに、その後のうつ病発症との関連を比較検討した。 平均6.8年に及ぶ追跡期間中に、5,904人(4.2%)がうつ病を発症していた。心疾患や糖尿病などの心代謝疾患を多く含むクラスターは全対象者に占める割合が特に高く、全体の15.5%、女性では19.7%、男性では24.2%に上った。うつ病発症のハザード比は、加齢黄斑変性・糖尿病での1.29から、極めて多岐にわたる慢性疾患での2.42(女性2.67、男性2.65)までの範囲であり、ほとんどのクラスターで身体疾患のない人と比べて高かった。対象者全体で顕著なリスク上昇が見られたのは、片頭痛(同1.96)、呼吸器疾患(同1.95)、心血管疾患・糖尿病(同1.78)などであった。男女別で分けて見ると、セリアック病などの消化器疾患は男女の双方で(男性:同2.06、女性:同1.83)、心血管疾患・慢性腎臓病・痛風は男性において(同1.87)うつ病リスクを大幅に上昇させていた。一方、女性では、関節や骨の健康問題がうつ病リスクを大幅に上昇させていた(同1.81)。 Guthrie氏は、「医療では身体的健康と精神的健康を全く別のものとして扱うことが多いが、この研究は、身体疾患を持つ人におけるうつ病の発症をより適切に予測し、管理する必要があることを示している」と述べている。 一方、論文の筆頭著者であるエディンバラ大学のLauren DeLong氏は、「身体的健康状態とうつ病の発症の間には明確な関連が見られたが、この研究はまだ始まりに過ぎない。本研究結果が他の研究者にも刺激を与え、身体的健康状態と精神的健康状態の関連性を調査・解明するきっかけになることを期待する」と述べている。

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第86回 相関と回帰って?【統計のそこが知りたい!】

第86回 相関と回帰って?医療の現場で臨床試験の結果を解釈する上で、統計学の知識は不可欠です。とくに、「相関」と「回帰」という2つの基本的な統計手法は、臨床デ-タの分析において重要な役割を果たします。今回は、基本的な統計の道具である「相関」と「回帰」をはっきり区別して、理解しておきましょう。これらの概念を簡潔に解説し、その臨床現場での応用例についても解説します。■相関とは?相関は、「2つの変数間の関係の強さと方向を示す統計的尺度」です。この尺度は、一方の変数の変化が他方の変数の変化とどのように関連しているかを示します。主に相関は、変数間に直線的な関連性があるかどうかを調べるために用いられます。■相関係数相関関係の度合いは、相関係数によって数値化されます。この係数は、-1~+1までの範囲で表され、+1は完全な正の相関を意味し、-1は完全な負の相関を意味します。係数が0に近いほど、変数間の相関は弱いことを示します。正の相関一方の変数が増加すると、もう一方の変数も増加します。負の相関一方の変数が増加すると、もう一方の変数が減少します。無相関 2つの変数間には関連性はみられません。■相関の見方と限界相関は関係の存在を示すものであり、因果関係を意味するものではありません。「相関関係は因果関係を示さない」という原則は、デ-タ解析において非常に重要です。つまり、2つの変数が相関しているからといって、一方が他方を引き起こしているわけではない可能性があります。■相関の利用例医療分野では、さまざまな生理的指標や病状の間に相関を見つけ出すことで、潜在的な健康リスクを予測する手がかりを得ることができます。たとえば、体重と糖尿病のリスクとの間には正の相関があることが知られています。相関分析は、医療研究だけでなく、経済学、社会科学、工学など幅広い分野で応用されています。これにより、研究者は複雑なデ-タセットの中から意味のあるパタ-ンを抽出し、有効な介入策の策定に役立てることが可能です。このように、相関はデ-タの関連性を理解する上で基本的かつ強力なツ-ルですが、その解釈には慎重な分析が必要です。相関が高いからといって、それが直接的な原因と結び付くわけではなく、第三の変数や他の多くの要因によって影響を受けることがあります。■回帰とは?回帰分析は、「従属変数と1つまたは複数の独立変数の間の関係をモデル化して分析する統計的方法」です。回帰の主な目的は、独立変数の値に基づいて従属変数の値を予測することです。この方法は、医学を含むさまざまな分野で広く使用されており、結果を理解し予測するために重要です。■回帰の種類1)線形回帰これは最も単純な形式の回帰で、従属変数と独立変数の間に線形関係を仮定します。従属変数が連続的で正規分布している場合に使用されます。線形回帰の方程式はY=a+bXです。ここで、Yは従属変数、Xは独立変数、aは切片、bは傾きです。このモデルは、デ-タにみられる線形関係に基づいてYを予測します。2)ロジスティック回帰従属変数がカテゴリ-デ-タで、通常は二値です(例:病気の有無)。ロジスティック回帰は、独立変数に基づいて二値反応の確率を推定します。リスクモデリングや診断テストにおいて、臨床現場でとくに有用です。3)重回帰1つ以上の独立変数を含み、複数の予測因子を扱うことができる、より複雑なモデルを提供します。臨床研究において、結果は多くの要因によって影響を受けるため、非常に関連性が高いです。■臨床研究での応用回帰分析は、どの因子が結果の重要な予測因子であり、これらの異なる因子がどのように相互作用するかを理解するのに役立ちます。たとえば、臨床試験では、研究者は重回帰を使用して、さまざまな人口統計学的およびライフスタイルの変数が新薬の有効性にどのように影響するかを決定することがあります。■回帰が重要である理由1)予測と意思決定回帰モデルは予測のための強力なツ-ルです。変数がどのように相互接続されているかを理解することにより、医療専門家は患者ケアに関する情報に基づいた決定を下すことができます。2)リスク要因の特定疾患のリスク要因を特定し、定量化するには回帰分析が不可欠です。たとえば、ロジスティック回帰を使用して、喫煙が肺がんのリスクをどの程度増加させるかを研究者が見つけ出すことができます。3)治療効果の向上回帰を使用して臨床試験デ-タを分析することにより、研究者は治療プロトコルを最適化し、反応パタ-ンに基づいて患者のサブグル-プに治療を調整することができます。4)資源の配分予測因子を理解することで、医療設定での効率的な資源配分が可能になります。たとえば、高リスク患者をより集中的なケアやフォロ-アップのために優先するなどです。回帰分析は、このように医療研究の分野で欠かせないツ-ルです。これにより、臨床医と研究者はデ-タから意味のある結論を導き出すことができ、ケアの質と治療の効果を高めることが可能になります。■相関と回帰の臨床での応用臨床現場では、これらの統計手法を用いて、さまざまな健康指標間の関連を明らかにし、効果的な治療法を導き出します。たとえば、高血圧患者における薬剤の効果を評価する際に回帰分析が用いられることがあります。また、相関分析を通じて、特定の症状と生活習慣の間の関連を探ることができます。■統計の理解が臨床に役立つ理由統計手法を理解することは、臨床試験の結果を正確に解釈し、それを基に適切な医療判断を下すために不可欠です。相関や回帰分析によって、デ-タからより確かな情報を引き出し、患者さん一人一人に最適な治療を提供するための強力な道具となります。このように、相関と回帰は単なる統計的概念に止まらず、臨床医が日々直面する課題を解決するための重要なツ-ルです。統計学が提供する洞察を活用することで、より質の高い医療を実現することが可能となります。■さらに学習を進めたい人にお薦めのコンテンツ「わかる統計教室」第4回 ギモンを解決! 一問一答質問12 重回帰分析とは?質問18 ロジスティック回帰分析とは?統計のそこが知りたい!第42回 相関分析とは?第46回 単相関係数とは?第48回 単回帰式の求め方は?

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コンサルテーション―その1【脂肪肝のミカタ】第4回

コンサルテーション―その1Q. プライマリ・ケアから消化器科へのコンサルテーション基準は?代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は本邦で2,000万人以上と対象が多い疾患のため、医療経済面からも全症例に詳細な検査を行うことは困難である。消化器専門家の立場からは、肝がんの高危険群である肝臓の線維化進行が疑われる症例の拾い上げをすることが重要である1-3)。プライマリ・ケアにおいては、肝臓の線維化進展の簡便な指標としてFibrosis-4(FIB-4) indexや血小板数による消化器科へのコンサルテーションが勧められている1-3)。FIB-4 index1.3未満はかかりつけ医、1.3以上で消化器科へのコンサルテーションとしているが、高齢者では線維化進行度に寄らず全体的にFIB-4 index高値を示す傾向がある。欧州、米国共にガイドラインで65歳以上は2.0以上をコンサルテーションとしており1,2)。高齢者の多い本邦においても、消化器科コンサルテーション基準を変えていく必要がある(図)。(図)プライマリ・ケアから消化器科へのコンサルテーション画像を拡大する1)Rinella ME, et al. Hepatology 2023;77:1797-1835.2)European Association for the Study of the Liver (EASL) ・ European Association for the Study of Diabetes (EASD) ・ European Association for the Study of Obesity (EASO). J Hepatol. 2024;81:492-542.3)日本消化器病学会・日本肝臓学会編. NAFLD/NASH診療ガイドライン2020. 南江堂.

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PCI後DAPT例の維持療法、P2Y12阻害薬が主要有害心・脳血管イベント抑制に有効/BMJ

 経皮的冠動脈インターベンション(PCI)施行後の抗血小板薬2剤併用療法(DAPT)を終了した患者では、アスピリン単剤療法と比較してP2Y12阻害薬単剤療法(チカグレロルまたはクロピドグレル)は、大出血のリスク増加を伴わずに、心筋梗塞と脳卒中のリスク低下に基づく主要有害心・脳血管イベント(MACCE)の発生率の低下をもたらすことが、イタリア・University of CataniaのDaniele Giacoppo氏らによるメタ解析で明らかになった。研究の成果は、BMJ誌2025年6月4日号で報告された。5件の無作為化試験のメタ解析 研究グループは、PCI施行後のDAPTを終了した患者におけるP2Y12阻害薬単剤療法とアスピリン単剤療法の有効性の比較を目的に、無作為化臨床試験の個々の参加者のデータを用いてメタ解析を行った(スイス・Cardiocentro Ticino Instituteなどの助成を受けた)。 医学関連データベースを用いて、冠動脈疾患患者でPCI施行後の虚血性イベントの2次予防として、P2Y12阻害薬またはアスピリンの単剤療法について検討した無作為化試験を検索した。 主要アウトカムはMACCE(心血管死、心筋梗塞、脳卒中の複合)とし、主要複合アウトカムとして大出血(BARC type 3または5)も評価した。副次アウトカムは有害心・脳血管イベントの複合(NACCE、主要アウトカムと主要複合アウトカムの組み合わせ、および個々のアウトカム[全死因死亡、心血管死、心筋梗塞、脳卒中、definiteまたはprobableステント血栓症、消化管出血など])とした。 PCI施行後に、推奨されたDAPTレジメン(期間中央値12ヵ月)を終了した患者を、P2Y12阻害薬単剤療法またはアスピリン単剤療法に割り付けた5件(ASCET、CAPRIE、GLASSY、HOST-EXAM[韓国の37施設5,438例]、STOPDAPT-2[日本の90施設3,009例])の無作為化試験(合計1万6,117例)を解析の対象とした。治療必要数は45.5例 ベースラインの年齢中央値は65歳(四分位範囲[IQR]:57~73)、23.8%が女性、28.6%が糖尿病、14.6%が中等症~重症の慢性腎臓病を有していた。P2Y12阻害薬は、58.7%がクロピドグレル、41.3%がチカグレロルであった。また、患者の48.9%が欧州または北米の試験の参加者で、51.1%は東アジアの試験の参加者だった。 追跡期間中央値1,351日(IQR:373~1,791)の時点で、アスピリン単剤群に比べP2Y12阻害薬単剤群はMACCEのリスクが有意に低かった(混合効果モデルよる1段階解析のハザード比[HR]:0.77[95%信頼区間[CI]:0.67~0.89、p<0.001]、多変量混合効果モデルによる1段階解析の補正後HR:0.77[0.67~0.89、p<0.001]、変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:0.77[0.67~0.89、p<0.001])。有益性を得るための治療必要数は45.5例(95%CI:31.4~93.6)だった。NACCEのリスクも有意に低い 大出血は両群間で有意な差を認めなかった(混合効果モデルよる1段階解析のHR:1.26[95%CI:0.78~2.04、p=0.35]、多変量混合効果モデルによる1段階解析の補正後HR:1.12[0.74~1.70、p=0.60]、変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:1.15[0.69~1.92、p=0.59])。 また、NACCE(変量効果モデルに基づく2段階解析のHR:0.84[95%CI:0.73~0.98]、p=0.03)、心筋梗塞(0.69[0.55~0.86]、p=0.001)、脳卒中(0.67[0.51~0.88]、p=0.003)は、アスピリン単剤群に比べP2Y12阻害薬単剤群で発生リスクが低かった。 著者は、「これらの結果は、複数の感度分析で確認され、P2Y12阻害薬単剤群の有効性は心筋梗塞と脳卒中の有意な減少に起因していた」「大出血と全出血は、両群間で有意差を認めなかったが、試験間で著明な異質性が検出された」としている。

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定期的な診察で心不全患者の全死亡リスクが低下

 心不全(HF)患者の5人に2人は、心不全の重症度にかかわりなく循環器専門医の診察を定期的に受けていないことが、新たな研究で明らかになった。この研究では、専門医の診察を年に1回受けているHF患者では翌年の死亡リスクが24%低下することも示されたという。ナンシー大学病院(フランス)臨床研究センターのGuillaume Baudry氏らによるこの研究結果は、「European Heart Journal」に5月18日掲載された。 HFとは、心臓のポンプ機能が低下し、体が必要とする酸素や栄養を十分に送り届けられない状態を指す。Baudry氏は、「通常、HFを治すことはできないが、適切な治療を行えば症状を何年もコントロールできることが多い」と欧州心臓学会(ESC)のニュースリリースの中で述べている。 この研究では、HF患者の予後と管理を、利尿薬の使用およびHFによる入院歴(HF hospitalization;HFH)という基準で分類して調査した。対象は、過去5年間にHFの診断を受け2020年1月時点で生存が確認されたフランスのHF患者65万5,919人(年齢中央値80歳、女性48%)。これらの患者は、1)過去1年以内のHFHあり(20.4%)、2)1〜5年前にHFHあり(27.6%)、3)HFHはないがループ利尿薬の使用あり(28.3%)、4)HFHもループ利尿薬の使用もない(23.7%)、の4群に分類された。予後の指標は、全死亡、HFH、および両者の複合アウトカムとし、期間は2020年1月1日から2022年12月31日までの間とした。 その結果、2020年に循環器専門医の診察を受けた対象者の割合は59%にとどまることが明らかになった。診察を受けた割合と診察回数(中央値2回)は、4群間で似通っていた。全死亡リスクは、「HFHもループ利尿薬の使用もない」群と比較して、「HFHはないがループ利尿薬の使用あり」群で1.61倍、「1〜5年前にHFHあり」群で1.83倍、「過去1年以内のHFHあり」群で2.32倍であった。HFHリスクと複合アウトカム(HFHまたは全死亡)のリスクについても同様の傾向が見られた。 また、全死亡リスクは、2019年に循環器専門医の診察を受けなかった群を基準とした場合、1回の受診で24%、2~3回の受診で31%、4回以上の受診で38%の低下という具合に、受診回数が増えるほど有意に低下した。一方で、HFHリスクは、受診回数が増えてもわずかに上昇する傾向を示した(調整ハザード比1.01~1.04)。循環器専門医を1回受診した場合と受診しなかった場合の1年間の全死亡リスクの差(絶対リスク差)は、4群間でおおむね一貫しており、「HFHもループ利尿薬の使用もない」群の6.3%から「1〜5年前にHFHあり」群の9.2%までの範囲だった。 Baudry氏は、「本研究結果は、臨床的に安定して見えるHF患者においても、専門医によるフォローアップが潜在的に重要であることを浮き彫りにしている。特に、最近入院していた患者や利尿薬を使用している患者は、循環器専門医の診察を受けることを積極的に考慮してほしい」と述べている。 論文の上席著者であるナンシー大学病院のNicolas Girerd氏は、「HF患者が循環器専門医の診察を受けない理由はいくつも考えられる。本研究では、例えば、高齢者や女性、糖尿病や肺疾患といった他の慢性疾患を抱える患者は、専門医の診察を受ける可能性が低いことが示された。こうした違いは世界中の多くの国で確認されている」とニュースリリースの中で述べている。

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GLP-1RAで飲酒量が3分の1に減る

 肥満症治療における減量目的でも処方されることのあるGLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体作動薬(GLP-1RA)の使用によって、アルコール摂取量が大きく減少するとする研究結果が報告された。ダブリン大学(アイルランド)のCarel le Roux氏らの研究によるもので、「Diabetes, Obesity and Metabolism」に論文が1月2日掲載され、また欧州肥満学会議(ECO2025、5月11~14日、スペイン・マラガ)でも発表された。習慣的飲酒者では、GLP-1RA使用開始後約4カ月で飲酒量がほぼ3分の1に減少したという。 GLP-1は、血糖降下作用のほかに、食欲を抑えたり、胃の内容物の排出を遅延させたりする消化管ホルモン。Le Roux氏によると、GLP-1による食欲抑制作用の一部は脳への直接的な働きかけによるものと考えられていて、その作用はアルコールへの欲求を抑えるようにも働く可能性があるという。このような作用を有するため、「本研究に参加し飲酒量が減った肥満患者の多くは節酒をほとんど意識することなく、『楽に』飲酒量を減らせたと報告した」と同氏は述べている。 世界中で飲酒は死亡原因の約4.7%を占めている。問題のある飲酒に対する治療介入は、短期的には高い効果を期待できるが、患者の約70%は1年以内に再発する。一方、これまでにも動物実験などから、GLP-1のアナログ製剤(類似薬)であるGLP-1RAが、アルコールへの渇望を抑える効果のあることが示唆されてきている。しかし、ヒトを対象とした研究は「まだ緒に就いたばかり」だと、研究者らは述べている。 この研究は、BMI27以上でGLP-1RA(セマグルチドまたはリラグルチド)による肥満治療を受けている成人患者262人(平均年齢46歳、女性79%)を対象に実施された。治療開始前の自己申告により、全体の11.8%が非飲酒者、19.8%が機会飲酒者、68.3%が習慣的飲酒者に分類された。 262人中188人が3~6カ月(平均112日)後の追跡調査にも参加した。この約4カ月の間に飲酒量が増加した患者はなく、習慣的飲酒者の場合、飲酒量が68%減少していた。研究者らはこの減少幅を、「アルコール依存症の治療目的で使用される薬剤(ナルメフェン)の効果に匹敵する」としている。 Le Roux氏は、「GLP-1RAは肥満治療に有効であり、肥満に関連するさまざまな合併症のリスクを低減することが示されている。さらに今回の研究では、アルコール摂取量の抑制という、肥満改善とは異なる面での有益な側面についても有望な結果が得られた」と解説。ただし一方で、本研究は参加者数が少数であること、GLP-1RAを使用しない比較対照群を設けていないことなどを、解釈上の留意事項として挙げている。

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