SGLT2阻害薬は、外来での心不全治療において心血管死または心不全増悪のリスク低減に寄与するが、心不全による入院での投与開始データは限定的である。今回、ダパグリフロジンによるさまざまな臨床研究を行っているTIMI Study GroupがDAPA ACT HF-TIMI 68試験を実施。その結果、ダパグリフロジンを入院中に開始してもプラセボと比較して2ヵ月にわたる心血管死または心不全悪化リスクを有意に低下させなかった。ただし、3試験のメタ解析からSGLT2阻害薬が心血管死または心不全悪化の早期リスクと全死亡リスクを有意に低下させることが明らかになった。本研究結果は米国・ブリガム&ウィメンズ病院のDavid D. Berg氏らが8月29日~9月1日にスペイン・マドリードで開催されたEuropean Society of Cardiology 2025(ESC2025、欧州心臓病学会)のホットラインで発表し、Circulation誌オンライン版2025年8月29日号に同時掲載された。
DAPA ACT HF-TIMI 68試験は、米国、カナダ、ポーランド、ハンガリー、チェコ共和国の210施設で実施された二重盲検プラセボ対照無作為化試験。今回、心不全入院患者におけるダパグリフロジンの院内投与開始の有効性と安全性を評価する目的で実施された。対象患者は心不全を主訴として入院した18歳以上で、体液貯留の徴候や症状が認められた。試験への組み入れ条件は、初回入院時点でのBNP上昇であった。対象者はダパグリフロジン10mgを1日1回投与する群とプラセボ群に1対1で無作為に割り付けられた。主要有効性アウトカムは2ヵ月間における心血管死または心不全悪化の複合で、安全性アウトカムは症候性低血圧および腎機能低下であった。
なお、入院中の心不全患者に対するSGLT2阻害薬開始の評価において、本試験に加えエンパグリフロジンのEMPULSE試験、sotagliflozin(国内未承認)のSOLOIST-WHF試験を組み入れ、事前に規定されたメタ解析を実施した。
主な結果は以下のとおり。
・対象者2,401例の内訳は、年齢中央値69歳(Q1~Q3の範囲:58~77歳)、女性815例(33.9%)、黒人448例(18.7%)、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)1,717例(71.5%)であった。
・入院から無作為化までの期間中央値は3.6日であった。
・主要有効性アウトカムはダパグリフロジン群で133例(10.9%)、プラセボ群で150例(12.7%)に発生した(ハザード比[HR]:0.86、95%信頼区間[CI]:0.68~1.08、p=0.20)。
・心血管死は、ダパグリフロジン群30例(2.5%)、プラセボ群37例(3.1%)に認められ(HR:0.78、95%CI:0.48~1.27)、心不全の悪化は、ダパグリフロジン群115例(9.4%)、プラセボ群122例(10.3%)に認められた(HR:0.91、95%CI:0.71~1.18)。
・全死因死亡は、ダパグリフロジン群36例(3.0%)、プラセボ群53例(4.5%)に認められた(HR:0.66、95%CI:0.43~1.00)。
・症候性低血圧はダパグリフロジン群で3.6%、プラセボ群で2.2%、腎機能低下はそれぞれ5.9%、4.7%であった。
・事前に規定されたメタ解析の結果、SGLT2阻害薬は心血管死または心不全悪化の早期リスク(HR:0.71、95%CI:0.54~0.93、p=0.012)および全死因死亡(HR:0.57、95%CI:0.41~0.80、p=0.001)を低下させた。
(ケアネット 土井 舞子)