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外来診療のドタバタ【Dr. 中島の 新・徒然草】(610)

六百十の段 外来診療のドタバタようやく年賀状の印刷を発注することができました。12月9日までだと印刷代が25%引きになるということで発奮した結果です。あとは一言メッセージを書いて投函するだけ。その一方で、今年も喪中はがきを多く受け取りました。よくある文面が「母 ○○が○○歳にて永眠いたしました」というもの。昭和の頃はこの○○歳が70代なら普通だと思っていましたが、今は「ちょっと若いかも」と思ってしまいます。2025年の現在、日本人の平均寿命は男性が81歳、女性が87歳ですが、前回の万博が行われた1970年は男性が69歳、女性が75歳だったので、そう感じるのも無理はないのかもしれません。さて、今回は高次脳機能障害の「あるある」について語りたいと思います。先日の脳外科外来にやって来た40代の男性。頭部外傷による高次脳機能障害があります。そのせいか、働いていると無茶苦茶疲れるのだとか。記憶障害があるため、何でも忘れてしまいがち。だから、職場では彼に何かを頼むときは「紙に書いて渡す」というルールになっているそうです。が、奥さんにそのルールは通じません。「帰りに牛乳とマヨネーズを買ってきて」と簡単に頼んでしまいます。もちろん、彼はすっかり忘れて手ぶらで帰り、夫婦喧嘩になってしまうとのこと。 患者 「買い物リストをラインで送ってくれたときには、忘れずに済むんですけどね」 と彼は私にこぼしました。なるほど、それなら完璧!でも、予想外の落とし穴がありました。 患者 「ラインの後に電話で『卵もお願い!』とか付け加えられたら、卵だけ忘れてしまうんですよ」 ということなのだとか。 中島 「なるほど、そういうときは追加の卵もラインで送ってほしいですよね。できたらリストもアップデートして『牛乳、マヨネーズ、卵』という形で」 患者 「そうそう! でも、いくらそれを言っても嫁は理解しようとしないんです」 奥さん、口頭指示は間違いのもとですよ。似たような話がもう1つあります。こちらはアラフィフの女性患者さん。職場での労災事故で、高次脳機能障害を来してしまったもの。普段しゃべっている分には目立ちませんが、大切なことがいろいろと抜けてしまいます。先日も娘さんと一悶着あったのだとか。久しぶりに実家に帰ってきた娘さん、自分の服が見当たりません。翌日の友人の結婚式に着て行こうと思っていたものです。母親である患者さんにクリーニングを頼んでいたものの、頼まれたほうは、それをクリーニングに出したか否か、そして回収したか否かも覚えていません。ダメ元でクリーニング店に行ってみたら、すでにつぶれてしまって、跡形もありませんでした。結局は、母親が若い頃に着ていた服で間に合わせたのだそうです。 中島 「そんな大事な服を母親に頼むのが間違っていますよ。何かと記憶が抜けてしまうんだから」 と私が言うと、「そうなのよ、先生!」と患者さんに激しく同意されました。 患者 「でもね、あの子も私に頼んだら、クリーニング代を節約できると思ったんじゃないかな」 とも。なるほど、言われてみればそのとおり!これは気が付きませんでした。というわけで外来診療のドタバタ。高次脳機能障害に対しては、ご家族をはじめとした周囲の人たちの理解が大切だ、というお話でした。最後に1句 喪中来て 思い出したり 忘れたり

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認知症リスク低減効果が高い糖尿病治療薬は?~メタ解析

 糖尿病治療薬の中には、血糖値を下げるだけでなく認知機能の低下を抑える可能性が示唆されている薬剤がある一方、認知症の発症・進展は抑制しないという報告もある。今回、国立病院機構京都医療センターの加藤 さやか氏らは、システマティックレビュー・ネットワークメタアナリシスにより、9種類の糖尿病治療薬について2型糖尿病患者の認知症リスクの低減効果があるのかどうか、あるのであればどの薬剤がより効果が高いのかを解析した。その結果、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬が認知症リスクの低減効果を示し、その効果はこの順に高い可能性が示唆された。Diabetes, Obesity and Metabolism誌オンライン版2025年10月22日号に掲載(2026年1月号に掲載予定)。 本研究では、PubMed、Cochrane Library、医中誌Webを開始時から2023年12月31日まで検索し、糖尿病治療薬の認知症への効果を評価した英語または日本語で報告された試験を選定した。 主な結果は以下のとおり。・67試験(408万8,683例)が対象となり、単剤療法と対照群(糖尿病治療薬の使用なし、プラセボ)の比較が3試験、単剤療法と追加療法の比較が1試験、リアルワールドデータベース研究が63試験であった。・解析の結果、SGLT2阻害薬、GLP-1受容体作動薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬が、対照群(プラセボ、糖尿病治療薬の使用なし、他の糖尿病治療薬)と比較して認知症リスクが低減し、その効果はこの順で高い可能性が示唆された。・インスリンは認知症リスクの上昇と関連していた。・メトホルミン、SU薬、グリニド薬、α-グルコシダーゼ阻害薬は、認知症リスクとの有意な関連は認められなかった。

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日本の精神科外来における頭痛患者の特徴とそのマネジメントの現状

 頭痛は、精神科診療において最も頻繁に訴えられる身体的愁訴の1つであり、しばしば根底にある精神疾患に起因するものと考えられている。1次性頭痛、とくに片頭痛と緊張型頭痛は、精神疾患と併存することが少なくない。しかし、精神科外来診療におけるこれらのエビデンスは依然として限られていた。兵庫県・加古川中央市民病院の大谷 恭平氏らは、日本の総合病院の精神科外来患者における頭痛の特徴とそのマネジメントの現状を明らかにするため、レトロスペクティブに解析を行った。PCN Reports誌2025年10月30日号の報告。 2023年4月〜2024年3月に、600床の地域総合病院を受診したすべての精神科外来患者を対象に、レトロスペクティブカルテレビューを実施した。全対象患者2,525例のうち、頭痛関連の保険診断を受けた360例(14.3%)を特定し、頭痛のラベル、治療科、処方薬に関するデータを抽出した。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)を標的としたモノクローナル抗体について、追加の処方を含む探索的症例集積を行うため、観察期間を2025年3月まで延長した。 主な結果は以下のとおり。・頭痛関連の保険診断を受けた360例において、頻度の高い病名は、頭痛(203例、56.4%)、片頭痛(92例、25.6%)、緊張型頭痛(46例、12.8%)であった。群発頭痛と薬物乱用性頭痛はそれぞれ1例(0.3%)であった。・頭痛治療は、精神科(153例、42.5%)で最も多く行われており、次いで神経内科(42例、11.7%)、脳神経外科(40例、11.1%)、一般内科(28例、7.8%)、リウマチ科/膠原病科(15例、4.2%)の順であった。・使用された薬剤クラスは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(40例、11.1%)、アセトアミノフェン(38例、10.6%)、トリプタン系薬剤(23例、6.4%)、漢方薬(16例、4.4%)、抗CGRPモノクローナル抗体(6例、1.7%)などであった。・薬剤レベルでは、アセトアミノフェン(38例)が最も多く、次いでロキソプロフェン(33例)、ゾルミトリプタン(14例)、五苓散(8例)、スマトリプタン(6例)、葛根湯(6例)、ジクロフェナク(4例)、バルプロ酸(4例)、ナラトリプタン(3例)の順であった。・2025年3月までの患者7例を対象とした探索的CGRP解析では、6例が女性で、平均年齢は48.4±9.2歳であった。・精神疾患の併存疾患は多様であり、摂食障害、双極症、心的外傷後ストレス障害、社会不安障害を伴う気分変調症、統合失調症、自閉スペクトラム症、神経症性うつ病などが併存疾患として挙げられた。・すべての症例において頭痛の改善が認められた。2例は再発性発作のため、他の抗CGRPモノクローナル抗体への切り替えを必要としたが、その効果は維持された。1例は発疹のため一時的に投与を中止したが、その後、他の抗CGRPモノクローナル抗体を再開した。なお、気分/不安の中期的変化は限定的であった。 著者らは「精神科外来において、1次性頭痛は一般的であり、精神科で頻繁にマネジメントされていることが明らかとなった。抗CGRPモノクローナル抗体は、精神疾患が併存している患者においても頭痛の緩和をもたらすが、精神症状は改善したわけではなく、頭痛に特化したケアと並行してメンタルヘルス介入を行う必要性が示唆された。精神科における専門分野横断的な連携と早期の頭痛評価を強化することが重要であると考えられる」と結論付けている。

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日常生活のルーティンの乱れが片頭痛を誘発か

 片頭痛を回避したいなら、退屈な日常生活のルーティンを守る方が良いようだ。新たな研究で、日々のルーティンを大きく乱す予想外の出来事(サプライザル)は、その後12〜24時間以内の片頭痛の発生リスクの上昇に強く関連していることが明らかになった。食べ過ぎや飲み過ぎ、夜更かし、ストレスフルな出来事、予想外のニュース、急激な気分の変化などは、身体に予想外の負荷を与え、片頭痛を引き起こす可能性があるという。米ハーバード大学医学大学院麻酔・救急・疼痛医学分野のDana Turner氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に11月11日掲載された。 今回の研究では、2021年4月から2024年12月にかけて登録された片頭痛患者109人(年齢中央値35歳、女性93.5%)のデータが分析された。研究参加者は、片頭痛の発作と考えられる誘因を日記に記録した。Turner氏らは、参加者ごとに片頭痛の行動・感情・環境的誘因の平均値を算出し、そこから予想外のずれが見られた日を調べた。 その結果、サプライザルの程度が大きい出来事は、その他の要因や個人差を調整した後でも、12時間以内の片頭痛リスクを56%、24時間以内のリスクを88%高めることが示された。 こうした結果を受けてTurner氏らは、「この研究結果は、個人の経験が通常のパターンからどの程度逸脱しているかが、近い将来の片頭痛リスクを予測する指標となり得ることを示している。この研究結果は、片頭痛の治療では、考えられる一連の原因にとどまらず、日常生活の予測不可能で状況依存的な特徴を考慮したパーソン・センタード・アプローチが重要であることを支持している」と結論付けている。 米ノースウェル頭痛センター所長のNoah Rosen氏は、この結果について、「その大部分が私も含めた多くの人々が抱いている片頭痛のイメージ、すなわち刺激の変化に対する過剰な反応として現れることが多いというイメージに一致している」とニュースリリースの中で述べている。また、同氏は「われわれの身体は、適切な量の食事、睡眠、水分補給により恒常性(ホメオスタシス)を維持している。片頭痛はその一部が乱れたときに作動する警報システムのようなものかもしれない」と付け加えている。 このことは、片頭痛患者のうち特定の誘因を特定できている人の割合が70%にとどまる理由かもしれないとRosen氏は言う。片頭痛患者は通常からのずれではなく、特定の要因を見つけようとしているのだ。同氏は、「サプライザルとは、日常の活動から外れていたり、普段とは異なる反応が求められたりすることと言えるだろう。突然のストレスフルな出来事には、トラウマになる経験や喧嘩、予想外の悪いニュース、あるいは良いニュースも含まれる。仕事、学校、家庭での日常の活動が他の出来事によって中断されるような状況もこれに該当する」と説明している。 Turner氏らは今後の研究で、「予想外の出来事を調査するためのより精度の高い方法を探るべきである」と述べている。また、こうした方法が見つかれば、片頭痛患者が発作に備える助けになる可能性があるとの見方を示している。

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ヌシネルセンの高用量処方はSMA患者のQOLをさらに改善する/バイオジェン

 バイオジェン・ジャパンは、2025年9月19日に脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬ヌシネルセン(商品名:スピンラザ)の高用量投与レジメンでの剤型(28mg製剤、50mg製剤)について、新用量医薬品/剤形追加の承認を取得した。わが国は世界初の両剤型の承認・販売国となり、この承認を受け、都内でメディアセミナーを開催した。セミナーでは、SMAの疾患概要、治療の変遷、患者のニーズなどに関する講演などが行われた。高用量ヌシネルセンで筋力維持などができる可能性へ 「脊髄性筋萎縮症の治療 スピンラザ高用量投与を迎えて」をテーマに、長年本疾患の研究に携わってきた齋藤 加代子 氏(東京女子医科大学名誉教授/瀬川記念小児神経学クリニック)が、SMAの疾患概要と治療の課題などを解説した。 SMAは、脊髄における前角細胞(運動神経細胞)の変性による筋萎縮と進行性筋力低下を特徴とする下位運動ニューロン病であり、発症年齢などの区分により0~IV型まで5つの型がある。 わが国の発生率は出生1万人当たり0.51例、有病率は人口10万人当たり1例とされ、8割以上の患者が2歳までに発症しているために新生児マススクリーニングが早期発見のために重要と齋藤氏は指摘する1)。 SMAの治療で使用されるヌシネルセンは、体内で生成される完全長Survival Motor Neuron(SMN)タンパクの量を継続的に増やすことで、運動ニューロン喪失の根本原因を標的にするアンチセンス・オリゴヌクレオチド(ASO)であり、運動ニューロンが存在する中枢神経系に直接投与される。 治療では開始時期により運動機能の改善効果もみられ2)、早期診断と早期治療が重要であり、現在では国の実証事業として新生児のマススクリーニング検査がほぼ全国で行われている。 こうした診療環境の中でSMAの全病型で最も多く報告されたアンメットニーズは「筋力の改善」であり、「呼吸機能と球機能(bulbar function)に関する項目(呼吸機能の改善、嚥下機能の改善など)では、I/II型のほうがIII型よりも重要である可能性が高い」と報告されている3)。また、PK/PDモデルを用いた予測では、脳脊髄液中のヌシネルセン濃度に対しニューロフィラメントの減少をはじめとする用量依存的な治療反応が示唆されていたことから高用量製剤の開発が待たれている。 そこで、高用量製剤の製品化に向け50/28mgの有効性および安全性を検討するため、3部構成のDEVOTE試験が行われた。とくにパートBでは、未治療の乳児型SMA患者(75例)および乳児型以外のSMA患者(25例)について国際共同第III相、二重盲検、並行群間比較試験が行われた。 その結果、乳児型SMA患者におけるフィラデルフィア小児病院乳児神経筋疾患検査(CHOP INTEND)総スコアについて183日目のベースラインからの変化量の最小二乗(LS)平均値は、50/28mg群15.1(95%信頼区間:12.4~17.8)、マッチングシャム処置群ー11.1(95%信頼区間:ー15.9~ー6.2)であり、LS平均値の差は26.2(95%信頼区間:20.7~31.7、p<0.0001、共分散分析および多重補完法)であったことから、優越性が検証された。 乳児型SMA患者における死亡または永続的換気までの期間について、カプランマイヤー法に基づいた期間の中央値は、50/28mg群では推定できず、12/12mg群で24.7週(95%信頼区間:14.4~NA、名目上のp=0.2775、罹患期間で層別したlog rank検定)だった。 302日目における乳児神経学的検査(HINE)第1項 哺乳/嚥下能力の低下がみられた患者の割合は、50/28mg群で6%(2/35例)、12/12mg群で33%(4/12例)であり、改善がみられた患者の割合は、50/28mg群で26%(9/35例)、12/12mg群で8%(1/12例)だった。 パートCでは日本人を含む乳児型SMA患者(2例)および乳児型以外のSMA患者18歳未満(14例)と18歳以上(24例)について、302日目における拡大Hammersmith運動機能評価スケール(HFMSE)、上肢機能モジュール改訂版(RULM)のベースラインからの変化量について評価がなされ、その結果変化量の平均値(標準誤差)は、HFMSEで1.8点(3.99点)、RULMで1.2点(2.14点)だった。 安全性は、50/28mg群では3/50例(6.0%)、12/12mg群では1/25例(4.0%)に副作用が認められ、貧血や発熱、不快などの発現が報告された一方で、本試験での死亡および投与中止に至った副作用は認められなかった。 齋藤氏はまとめとして、SMAにおいて疾患修飾治療薬3種の臨床試験が成功して実臨床で使える時代となったこと、発症抑制のための新生児マススクリーニングを拡充・推進する方針で実証事業開始されたことに触れ、最後に「ヌシネルセン高用量投与という新たな時代が今始まった」と期待を寄せた。患者の希望は「筋力アップ」 続いて「SMA家族の会」の理事長である大山 有子氏が、患者・患者家族のリアルな声と「SMA患者さん治療ニーズに関する調査結果」をテーマに講演を行った。 自身の子供がSMAI型であり、子供の日常生活を疾患介護の苦労とともに画像・動画で説明し、ヌシネルセンなどの治療薬の乳幼児期における劇的な症状改善の効果を紹介した。 次に家族会とバイオジェンが共同で行った患者・患者家族などへのアンケート内容を説明した。アンケートは、2025年9月3~14日にかけてSMA患者21人、介護者63人(計84人)に行ったもの。・「薬による治療」は96%が受けており、「治療でできるようになったこと」は「座位」、「寝返り」などの回答が多かった。・「リハビリテーション」については、「病院で実施」が69%、「自宅で実施」が76%だった。・「患者がもっとできるようになりたいこと」では、「トイレ」、「移動」などの回答が多く、「そのために必要な機能」について、「筋力」、「体幹」などの回答が多かった。

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日本におけるアルツハイマー病診断の時間短縮フロー〜東京大学

 アルツハイマー病の診断において、血液バイオマーカーによる検査が注目されており、日本でも保険適用が待ち望まれている。東京大学の五十嵐 中氏らは、日本でのレカネマブ治療について、異なるワークフローにおける現在の診断検査の状況を推定するため、本研究を実施した。Alzheimer's & Dementia誌2025年10・11月号の報告。 ダイナミックシミュレーションを用いて、4つのシナリオ(現在の診断ワークフロー、トリアージツールとしての血液バイオマーカー[BBM]検査、確認診断のためのBBM検査およびこれらの併用)に関して、待ち時間と治療対象患者数を推定した。検査の需要を推定するため、オンライン調査により支払意思額(WTP)と無形費用を評価した。主な結果は以下のとおり。・現在のワークフロー下における最大平均待ち時間は6.4ヵ月と推定され、BBMの導入により待ち時間の減少が認められた。・BBMに基づく確認診断により、治療対象患者数が大幅に増加した。・BBMによるトリアージ検査は、待ち時間の短縮をもたらしたが、一時的に治療対象患者数を増加させた。 著者らは「PETや脳脊髄液検査をBBMに基づく診断に置き換えることで、コスト削減による治療対象患者数の増加が期待され、検査需要の増加につながる可能性がある」としている。

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第296回 脳の水はけをよくする手術がアルツハイマー病患者に有効

脳の水はけをよくする手術がアルツハイマー病患者に有効脳全域の水流を生み出す細道が10年以上前に見つかり、以来、その謎めいた水路がアルツハイマー病などの神経変性疾患に寄与しているかどうかが検討されるようになりました。今や時代は進み、その流れを改善する方法が実際にヒトで試験されるに至っています。米国・サンディエゴでの先月11月中旬のSociety for Neuroscience(SfN)学会では、脳の水流を改善する薬やその他の手段の手始めの検討の有望な成果をいくつかのチームが発表しています。動物やヒトの脳から有毒なタンパク質を除去しうることや、神経変性疾患を模すマウスの症状を回復するなどの効果が得られています1)。とくに中国での取り組みは随分と先を行っており、アルツハイマー病の特徴のタンパク質を洗い流すのを後押しする手術をヒトに施した成果がこの10月初めに報告されました。その成功の宣言を心配する向きがある一方で歓迎もされました。その有望な成果に触発された米国の外科医のチームは、よりしっかりとした臨床試験を計画しており、早ければ来年早々にアルツハイマー病患者の組み入れを始めるつもりです。手術の試みはとても信じられないとワシントン大学の神経科学者Jeffrey Iliff氏はScience誌に話しています。しかし、13年前には知る由もなかった脳の水路が見つかったように、手術は効かないといういわれはないと同氏は言っています。さかのぼること13年ほど前の2012年に、他でもないIliff氏とその同僚が脳の細胞のアストロサイトによって形成される脳の水路一帯を初めて報告しました2)。Iliff氏らはそれをグリンパティック経路と名付けました。グリンパティック経路は脳の血管の周りに形成され、収縮と弛緩を繰り返すことで脳脊髄液(CSF)を押し出します。そうして血管に沿って流れていく間に脳の奥深くからの老廃物が回収され、髄膜リンパ管を経由して首のリンパ節に至り、やがては血流に排出されます。グリンパティック経路の活動は就寝中に最も盛んで、不眠、外傷性脳損傷(TBI)、脳血管疾患で妨げられます。そのような何らかの要因で脳の洗浄が滞ることと認知症を生じやすくなることの関連が調べられるようになっており、たとえばIliff氏らがmedRxiv誌に最近掲載した研究成果では、ヒトのグリンパティック経路がアルツハイマー病を特徴づける2つのタンパク質、ベータアミロイドとタウを睡眠中に脳の外に排出することが示されています3)。中国で開発された脳を洗い流す外科処置はリンパ浮腫の一般的な治療手段に似たもので、dcLVA(deep cervical lymphovenous anastomosis)と呼ばれます。dcLVAは首のリンパ節やリンパ管を頸静脈に繋いで脳の排水の向上を目指します。2020年に中国の形成外科医のQingping Xie氏がアルツハイマー病患者にdcLVAを初めて施しました。今やXie氏はその治療を中国やその他の国に向けて宣伝しています。他にも熱心な研究者は多いらしく、最近の報告によると今年7月1日時点で30弱の臨床試験の登録があり、アルツハイマー病患者およそ1,300例が組み入れられたか組み入れ予定となっています4)。先に触れたとおり、この10月初めには中国の鄭州大学のJianping Ye氏らが最もまとまった症例数のdcLVA手術の成績を報告しました。同国の軽~中等度のアルツハイマー病患者41例にdcLVAが施され、脳の排水の指標とされたAβやタウの血液やCSFの値の改善が3ヵ月時点の検査でおよそ3例に2例以上にみられました5)。また、病院での3ヵ月時点の認知機能検査で18例中9例のアルツハイマー病は進行が止まってむしろ回復傾向にありました。Ye氏らの報告には批判の声もあり、その中には中国の神経外科医からのものも含まれます。アルツハイマー病を脳のリンパ浮腫の一種とみなすYe氏らの考えを疑う研究者もいます。グリンパティック経路の不調の多くはアストロサイトの内側を発端としており1)、詰まりを取り除けば済むという話ではなさそうだからです。一方、Ye氏らの試験がだいぶ拙いとは知りつつもその有望な成績に見入ってしまった研究者もいます。米国のエール大学の形成外科医のBohdan Pomahac氏はdcLVAをさらに突っ込んで研究すべく、ワシントン大学のチームと組んで動物実験を行っています。すべてうまくいって今月の資金集めが済んだら、慎重に選定した初期アルツハイマー病患者にdcLVAを施す臨床試験をPomahac氏は開始するつもりです1)。手術ではなく薬で脳の水はけをよくする試みも研究されており、家の配管を定期的に掃除するように脳のグリンパティック経路を定期的または日常的に手入れする手段がやがては実現するかもしれません。参考1)Brain’s ‘plumbing’ inspires new Alzheimer’s strategies-and controversial surgeries / Science 2)Iliff JJ, et al. Sci Transl Med. 2012;4:147ra111.3)Dagum P, et al. The glymphatic system clears amyloid beta and tau from brain to plasma in humans. medRxiv. 2025 Oct 16.4)Lahmar T, et al. J Prev Alzheimers Dis. 2026;13:100335.5)Ma X, et al. J Alzheimers Dis Rep. 2025;9:25424823251384244.

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中年期の高感度トロポニンI高値が認知症と関連/Eur Heart J

 中年期の高感度心筋トロポニンI(hs-cTnI)高値は、その後の認知症発症リスクの上昇、認知機能低下の加速、脳容積の減少と関連していたことが示された。本結果は、英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのYuntao Chen氏らが実施した前向きコホート研究「Whitehall II研究」で示され、European Heart Journal誌オンライン版2025年11月6日号で報告された。 研究グループは、Whitehall II研究の参加者のうち、ベースライン時(1997~99年)に45~69歳で、認知症および心血管疾患の既往がなく、hs-cTnI値が得られた5,985例を対象として解析を行った。hs-cTnI値に基づき、参加者を4群(2.5ng/L未満[定量下限未満:参照群]、2.5~3.4ng/L、3.5~5.2ng/L、5.2ng/L超)に分類した。主要評価項目は認知症の発症とした。認知機能の推移および脳MRI画像指標(2012~16年のサブ解析:641例)についても評価した。また、認知症発症例と非発症例(年齢、性別、教育歴でマッチング)を1:4の割合でマッチングさせたコホート内症例対照研究により、認知症診断前のhs-cTnI値の長期的推移を検討した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の参加者の平均年齢は56歳であった。・追跡期間中央値24.8年時点において、606例(10.1%)が認知症を発症した。・年齢、性別、心血管リスク因子などを調整したCox比例ハザードモデルを用いた解析において、ベースライン時のhs-cTnI値(log2変換値)が2倍になるごとに、認知症発症リスクが10%上昇した(ハザード比[HR]:1.10、95%信頼区間[CI]:1.03~1.17)。・hs-cTnI値別に解析した結果、高値(5.2ng/L超)群は、低値(2.5ng/L未満)群と比較して、認知症発症リスクが有意に高かった(HR:1.38、95%CI:1.09~1.74)。・ベースライン時のhs-cTnI値が高いほど、加齢に伴う認知機能低下が速い傾向にあった。・90歳時点において、hs-cTnI高値(5.2ng/L超)群は、低値(2.5ng/L未満)群と比較して、標準化された全体的認知機能スコアが低く(群間差:-0.19、95%CI:-0.35~-0.03)、これは約2年の加齢に相当する低下であった。・コホート内症例対照研究では、認知症診断の25年前から7年前にかけて、認知症発症群は非発症群よりhs-cTnI値が一貫して高い値で推移していた。・MRIサブ解析(ベースラインから平均15年後に測定)において、hs-cTnI高値(5.2ng/L超)群は低値(2.5ng/L未満)群と比較して、灰白質容積が小さく(群間差:-0.64%、95%CI:-1.05~-0.24)、海馬萎縮スコアが高かった(スコア比:1.18、95%CI:1.00~1.40)。これらはそれぞれ2.7年および3.0年の加齢の影響に相当した。なお、白質高信号域(white matter hyperintensities)との有意な関連は認められなかった。 本研究結果について、著者らは「中年期における無症候性心筋障害(hs-cTnI高値)は、晩年の認知症リスク上昇と関連していた。中年期にhs-cTnIを測定することは、認知機能低下や認知症のリスクがある集団を早期に特定するために有用である可能性がある」とまとめている。

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気象関連疼痛に期待される食事性フラボノイドの有用性

 悪天候や気象変動は健康に悪影響を及ぼし、気象関連疼痛と呼ばれる症状を引き起こす可能性がある。症状の緩和には、鎮痛薬などによる薬物療法が一般的に用いられているが、副作用を引き起こす可能性がある。そのため、非薬物療法や食事療法への関心が高まっている。大塚製薬の池田 泰隆氏らは、気象関連疼痛に対する食事性フラボノイドであるケンフェロールの有効性を評価するため、オープンラベルパイロット研究を実施した。International Journal of Biometeorology誌2025年10月号の報告。 従来、気象関連疼痛は、気圧変動に対する内耳の感受性(交感神経系の活性化)が主なメカニズムと考えられてきたが、低気圧下での末梢低酸素症による酸素利用の低下も重要な要因であると考えられている。食事性フラボノイドであるケンフェロールは、これまでの研究において酸素利用を促進し、副交感神経系の優位性を促すことが示されていた。ケンフェロールを毎日摂取することで、酸素利用と自律神経バランスが改善され、気象関連の不快感が軽減されるという仮説を立て、本研究を実施した。本パイロット研究では、中等度の気象関連症状を有する458例を対象に、1日10mgのケンフェロールを4週間投与した。対象患者には、介入前後にアンケート調査を実施した。 主な結果は以下のとおり。・アドヒアランスが80%超であった患者387例のデータを分析した。・症状の頻度、持続時間、重症度の有意な減少が認められた。【症状の頻度】頭痛の場合:Cohen’s d=0.61、p<0.001【症状の持続時間】rank-biserial correlation=0.64、p<0.001【症状の重症度】Cohen’s d=0.57、p<0.001・介入終了時には、対象患者の80%超において症状の改善が認められた。 著者らは「ケンフェロールは、酸素利用と自律神経調節をターゲットとすることで、気象に関連した身体的および精神的症状を管理するための有望な非薬理学的戦略であることが示唆された」としている。

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断続的断食は成人の認知機能に影響しない

 食事を摂取する時間と断食する時間を定期的に繰り返す断続的断食(インターミッテントファスティング)を行っても、成人の思考力、記憶力、問題解決能力などの知的機能が鈍ることはないことが、新たな研究で明らかになった。オークランド大学(ニュージーランド)心理学准教授のDavid Moreau氏とザルツブルク大学(オーストリア)生理学部のChristoph Bamberg氏によるこの研究結果は、「Psychological Bulletin」に11月3日掲載された。 Moreau氏は、「本研究により、全体的には、短期間の断食が知的機能を低下させるという一貫したエビデンスは存在しないことが明らかになった。断食を行った人の認知機能の成績は、直前に食事をした人と驚くほど似通っていた。これは、食物を摂取していない状態でも認知機能は安定していることを示唆している」と米国心理学会(APA)のニュースリリースで述べている。 Moreau氏はまた、「ここ数年、断食が流行しているが、『空腹になると本来の自分ではなくなる』などの頻繁に耳にする言葉に言い表されているように、食事を摂取しないことで頭脳の明晰さが大きく損なわれるのではないかという懸念が広がっている」と言う。 この研究でMoreau氏らは、空腹時と満腹時の認知機能を比較した63件の研究データを統合して解析した。これらの研究の対象者数は総計3,484人、効果量(比較対象となった指標の件数)は222件、断食の時間の中央値は12時間であった。解析の結果、断食群と満腹群との間で認知機能について意味のある差は認められなかった。 この結果についてMoreau氏は、「断食は、本質的に思考力を低下させるという広く信じられている仮説に反する結果であり、ある意味、驚きではあった」と話す。同氏は、「多岐にわたるさまざまな課題において、認知機能は驚くほど安定していた。食事を抜くとすぐに思考力が低下すると思っている人は多いが、われわれが得たエビデンスを総合すると、その考え方は支持されないようだ」とコメントしている。 ただし、12時間を超える長時間の断食では認知機能がやや低下する傾向が認められ、また、成人と比べて子どもでは短時間でも認知機能の低下が顕著であった。Moreau氏は、「年齢は強力かつ顕著な調整因子であり、断食中に子どもの成績は顕著な低下を示した。これは朝食を取ることが若年層の認知機能に有益であることを示した過去の研究結果と一致する」と話している。同氏はさらに、「この研究結果は、発達中の脳はエネルギー不足に対して非常に脆弱であり、小児において断食による介入を評価する際には特別な配慮が必要であることを示唆している」と付け加えている。 それでも研究グループは、全体的には、断続的断食の活用を支持する結果であったとの見方を示している。Moreau氏は、「最も重要なのは、この結果が含意する、安心感をもたらすメッセージだ。つまり、短期間の断食中でも認知機能は安定しており、健康な成人であれば、一時的な断食が頭脳の明晰さや日常の作業をこなす能力に影響を与えることを心配する必要はまずないということだ」と述べている。

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注射で脳まで届く微小チップが脳障害治療の新たな希望に

 手術で頭蓋骨を開くことなく、腕に注射するだけで埋め込むことができる脳インプラントを想像してみてほしい。血流に乗って移動し、標的とする脳の特定領域に自ら到達してそのまま埋め込まれるワイヤレス電子チップの開発に取り組んでいる米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが、マウスを使った実験で、厚さ0.2μm、直径5〜20μmというサブセルラーサイズのチップが、人の手を介さずに脳の特定領域を認識し、そこに移動できることを確認したとする研究成果を報告した。詳細は、「Nature Biotechnology」に11月5日掲載された。 このチップが標的部位に到達すると、医師は電磁波を使ってチップを起動させ、パーキンソン病や多発性硬化症、てんかん、うつ病などの治療に用いられているタイプの電気刺激を神経細胞に与えることができる。こうした電気や磁気などにより神経を刺激する治療法は、ニューロモデュレーションと呼ばれる。このチップはサイズが極めて小さいため、従来の脳インプラントよりもはるかに高い精度で刺激を与えることができると研究グループは説明している。 論文の上席著者であるMITメディアラボおよびMIT神経生物工学センターのDeblina Sarkar氏は、「この超小型電子デバイスは、脳の神経細胞とシームレスに一体化し、ともに生き、ともに存在することで、他に例のない脳とコンピューターの共生を実現する」と言う。同氏は、「われわれは、薬剤あるいは標準治療では効果が得られない神経疾患の治療にこの技術を利用することで、患者の苦しみを軽減するとともに、人類が病気や生物学的な限界を超えられる未来の実現に向けて全力で取り組んでいる」とニュースリリースの中で述べている。 この微小チップは、静脈注射前に生きた生体細胞と融合させておくことで免疫系の攻撃を受けることなく血液脳関門を通過できる。また、治療対象となる疾患に応じて、異なる種類の細胞を使うことで脳の特定領域を標的に定めることも可能であるという。 Sarkar氏は、「この細胞と電子機器のハイブリッドは、電子機器の汎用性と、生きた細胞が持つ生体内輸送能力や生化学的な検知力が融合されたものだ。生きた細胞が電子機器をカモフラージュすることで、免疫システムの攻撃を受けることなく血流中をスムーズに移動することができ、さらには侵襲的な処置なしに血液脳関門を通過することも可能になる」と言う。なお、研究グループによると、従来の脳インプラントは、手術のリスクに加えて数十万ドルもの医療費がかかるのが一般的だという。 Sarkar氏は、「これはプラットフォーム技術であり、複数の脳疾患や精神疾患の治療に使える可能性がある」と述べるとともに「この技術は脳だけに限定されるものではなく、将来的には身体の他の部位にも適用を広げることができる可能性がある」と期待を示している。

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第295回 注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せず

注目の試験でGLP-1薬のアルツハイマー病治療効果示せずGLP-1受容体作動薬(GLP-1薬)は肥満、糖尿病、それらと密接に関わる心血管疾患や腎疾患の治療を進歩させました。また、GLP-1薬が他の数々の疾患治療にも有益なことを示唆する研究成果が続々と発表されています。とくに、アルツハイマー病などの神経変性疾患の治療はGLP-1薬の新たな用途として有望視されていましたが、Novo Nordisk社が先週月曜日に速報した2つの第III相試験結果はその期待に沿うものではありませんでした。evokeとevoke+という名称のそれら2試験のどちらでも残念なことにセマグルチド経口投与のアルツハイマー病進展を遅らせる効果がみられなかったのです1)。セマグルチドなどのGLP-1薬が神経変性疾患を予防しうることは示唆されていたものの、すでにそうなってしまってからでは手遅れと多くの研究者は感じていたようです2)。Novo Nordisk社でさえ試験が成功する見込みは薄い(low likelihood of success)と悟っていました1)。しかしそれでもアルツハイマー病へのセマグルチドの可能性の検討は責務と感じていたと同社の最高科学責任者(CSO)のMartin Holst Lange氏は言っています。過去何十年もアルツハイマー病は多岐にわたり研究されてきましたが、如何せん飛躍的な進歩には至っていません。救いの手がまったく間に合っていないアルツハイマー病のそのような状況をNovo Nordisk社は見過ごすことはできなかったのです。アルツハイマー病にGLP-1が有益そうな報告が増えていることにも背中を押され、さかのぼること5年前の2020年12月にNovo Nordisk社はその責任を果たすための第III相試験の決定を発表します3)。明けて翌春2021年5月にevoke試験とevoke+試験が始まり4,5)、初期段階のアルツハイマー病患者のべ4千例弱(3,808例)が組み入れられ、2試験とも被験者は最大14 mg/日のセマグルチドを連日服用する群かプラセボ群に1対1の比で割り振られました。2試験とも約2年間(104週間)の主要な治療期間とその後の約1年間(52週間)の延長期間の経過を調べる算段となっていました。しかし、今回速報された2年間の経過の解析結果で両試験ともアルツハイマー病進展の有意な抑制効果が示せず、1年間の延長は中止となりました。発表によると、セマグルチドはアルツハイマー病と関連する生理指標一揃いを改善しましたが、その作用はどちらの試験でもアルツハイマー病の進展を遅らせる効果には繋がりませんでした。具体的には、知能や身のこなしを検査する臨床認知症評価尺度(CDR-SB)の104週時点の点数のベースラインとの差の比較で、セマグルチドがプラセボより優越なことが示せませんでした。目当ての効果は認められなかったとはいえ、evoke/evoke+試験からは貴重な情報の数々が得られそうです。たとえばその1つは脳での抗炎症作用です。先立つ試験で示唆されているような体重減少とは独立した手広い抗炎症作用がセマグルチドにあるかどうかが、糖尿病や肥満ではない多数の被験者が参加したそれら2つの大規模試験で明らかになりそうです2)。それに、試験には脆弱な患者が多く参加しており、脂肪に加えて筋肉も減らすセマグルチドなどのGLP-1薬がそういう患者に安全かどうかも知ることができそうです。evoke/evoke +試験のより詳しい結果一揃いが今週3日に米国サンディエゴでのClinical Trials on Alzheimer’s Disease(CTAD)の学会で発表されます1)。また、結果の全容が来春2026年3月のAlzheimer’s and Parkinson’s Diseases Conferences(AD/PD)で報告される予定です。 参考 1) Evoke phase 3 trials did not demonstrate a statistically significant reduction in Alzheimer's disease progression / Novo Nordisk 2) Popular obesity drug fails in hotly anticipated Alzheimer’s trials / Science 3) Novo Nordisk to enter phase 3 development in Alzheimer’s disease with oral semaglutide / Novo Nordisk 4) EVOKE試験(ClinicalTrials.gov) 5) EVOKE Plus試験(ClinicalTrials.gov)

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軽微な難聴で認知症リスク上昇、APOE ε4保有者で顕著

 加齢に伴う難聴は、認知症の修正可能なリスク因子の1つとされるが、脳構造の変化や遺伝的背景との相互作用については不明な点が多かった。米国・テキサス大学サンアントニオ校のFrancis B. Kolo氏らの研究によると、中年期以降の軽微ないし軽度の難聴であっても、脳容積の減少、白質高信号量の増加、認知症発症リスクの上昇と有意に関連していることが明らかになった。とくにアルツハイマー病のリスク遺伝子であるAPOE ε4アレル保有者において、正常聴力者よりも、軽微以上の難聴者のほうが、認知症発症リスクが約3倍も高いことが示された。JAMA Network Open誌2025年11月5日号に掲載。 本研究では、Framingham Offspring Study参加者を対象に、第6回検査(1995~98年)で実施された純音聴力検査のデータをベースラインとして解析を行った。解析は目的に応じて以下の2つの重複するサンプルを用いて行われた。・サンプル1(脳構造・認知機能解析群):1,656例(平均年齢58.1歳[範囲 29.7~85.6])。聴力検査後の第7~8回検査でMRIおよび神経心理学的検査を実施し、脳の構造的変化と認知機能の推移を評価した。・サンプル2(認知症発症リスク解析群):935例(平均年齢67.6歳[60.0~85.6])。聴力検査時点で60歳以上の参加者を対象に、最長15年間にわたる認知症発症の有無を追跡した。 難聴の定義は、良聴耳の平均聴力レベルに基づき、正常(0~16dB)、軽微(16~26dB)、軽度(26~40dB)、中等度以上(>40dB)とした。 主な結果は以下のとおり。【サンプル1の解析結果】・軽度以上の難聴がある群は、正常~軽微の難聴がある群と比較して、全脳容積が有意に小さく(β:-4.10[標準誤差[SE] 1.76]、p=0.02)、遂行機能も低下していた(β:-0.04[SE 0.01]、p=0.009)。・軽微以上の難聴がある群では、正常聴力群と比較して、白質高信号量の増加が有意に高かった(β:0.03[SE 0.01]、p=0.03)。【サンプル2の解析結果】・15年間の追跡期間中に118例(12.7%)が認知症を発症した。軽微以上の難聴がある群は、正常聴力群と比較して、認知症の発症リスクが高かった(ハザード比[HR]:1.71、95%信頼区間[CI]:1.01~2.90、p=0.045)。・APOE ε4アレルを1つ以上保有する人における解析では、軽微以上の難聴がある群は、正常聴力群と比較して、認知症発症リスクが高かった(HR:2.86、95%CI:1.12~7.28、p=0.03)。一方、APOE ε4非保有者では、難聴による有意なリスク上昇は認められなかった。・軽微以上の難聴がある人において、補聴器を使用していない群では、正常聴力群と比較して、認知症リスクが有意に高かった(HR:1.72、95%CI:1.02~2.91、p=0.043)。補聴器を使用している群ではリスクの有意な上昇は認められなかった。とくにAPOE ε4保有者において、補聴器を使用していない群では、正常聴力群と比較して、認知症リスクの有意な上昇が認められた(HR:2.82、95%CI:1.11~7.16、p=0.03)。 本研究により、中年期以降の難聴は、たとえ軽度であっても脳容積の減少および認知症リスクと関連していることが示された。とくにAPOE ε4保有者においてその影響が大きいことから、著者らは、遺伝的リスクの高い集団に対する早期の聴覚スクリーニングと、補聴器による介入が認知症予防戦略として重要であると結論付けている。

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認知症になりやすい遺伝的背景のある糖尿病患者も生活習慣次第でリスクが著明に低下

 2型糖尿病患者が心臓や血管に良い生活習慣を続けた場合、認知機能の低下を防ぐことができる可能性が報告された。特に、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、この効果がより大きいという。米テュレーン大学のYilin Yoshida氏らの研究によるもので、詳細は米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。 AHA発行のリリースの中でYoshida氏は、「2型糖尿病患者は認知機能低下のリスクが高く、これには複数の因子が関連している。例えば、肥満、高血圧、インスリン抵抗性などが認知機能低下に関連していると考えられる。そして、それらの因子をコントロールすることは、心臓や血管の健康状態を維持・改善することにもつながる」と述べている。 この研究では、英国の一般住民を対象とした大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者のうち、認知症でない4万人以上の成人2型糖尿病患者を対象に、認知症の遺伝的リスクと、心臓や血管の健康状態を調査した。後者の「心臓や血管の健康状態」の調査では、AHAが提唱している「Life’s Essential 8(健康に欠かせない8項目)」の遵守状況を調べた。具体的には、Life’s Essential 8に含まれている4項目の生活習慣と4項目の検査値をそれぞれスコア化した上で、不良、中程度、良好という3群に分類した。なお、Life’s Essential 8の8項目は以下のとおり。1. 健康に良い食習慣2. 積極的な身体活動3. タバコを吸わない4. 健康的な睡眠5. 適正体重の維持6. コレステロールのコントロール7. 血糖値のコントロール8. 血圧のコントロール この研究参加者の健康状態を13年間にわたって追跡したところ、840人が軽度認知障害となり、1,013人が認知症を発症していた。心臓や血管の健康状態が中程度または良好な人は不良の人に比べて、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが15%低かった。また、心臓や血管の健康状態は、認知機能にとって重要な脳の灰白質という部分の体積と強い関連があった。 これらの関連は、対象者の遺伝的な認知症リスクを考慮に入れた解析により、いっそう明確に示された。つまり、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、そのリスクが低い、または中程度の人に比べて、心臓や血管の健康状態が良好であることで、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが顕著に抑制されていた。より具体的には、心臓や血管の健康状態が不良の同世代の人に比べた場合に、軽度認知障害のリスクは27%低く、認知症のリスクは23%低かった。 研究グループの一員である同大学のXiu Wu氏は、「運命は遺伝子で規定されるものではない。心臓と血管の健康を最適な状態に維持することで、遺伝的に認知症リスクが高い2型糖尿病患者であっても、脳の健康を守ることができる」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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医師が選ぶ「2025年の漢字」TOP10を発表!【CareNet.com会員アンケート】

2025年も残りあと1ヵ月。医療現場にも社会にもさまざまな出来事がありましたが、皆さまにとって今年はどのような1年でしたでしょうか。CareNet.comでは、医師会員1,031人を対象に「今年の漢字」アンケートを実施し、医療現場や社会における出来事、そして日々の暮らしの中で感じた思いを漢字1字に込めて表現していただきました。多く挙げられた漢字TOP10を発表します。第1位「高」(108票)2025年の今年の漢字の第1位には「高」が選ばれました。物価、株価、金、不動産、米、気温など、何かと高いことが話題になった1年でした。コメントでは、物価高で財布のひもが固くなるなど、生活への影響が浮き彫りになりました。また、今年を象徴するもう1つの「高」は何といっても日本史上初の女性として内閣総理大臣に就任した高市 早苗氏です。高市氏について言及する1文字としては「高」のほかにも、「早」「苗」「新」「初」「女」「花」「華」「変」「代」「明」「快」「進」「驚」など多岐にわたりました。「高」を選んだ理由(コメント抜粋)日経平均が最高値を更新したから(産婦人科 50代/北海道)物価高、コスト高など(循環器内科 50代/静岡)すべてが高くなる。低くなったのは購買意欲のみ…(精神科 50代/東京)物価高騰でお金がたまらない(腎臓内科 60代/東京)食料品も米も何もかもが値上がりして高くなっているから(消化器外科 50代/北海道)高齢化の進行加速、高インフレ率、高市首相の誕生(内科 40代/徳島)高市首相になり日経平均株価も最高値をつけたから(形成外科 60代/茨城)物価高、株高、不動産高、新総理高市だから(精神科 50代/東京)物価高と高市早苗総理誕生(内科 60代/奈良)高市政権への期待、米高騰(精神科 40代/東京)高市早苗さんの総理大臣就任(内科 60代/愛知)第2位「熊」(91票)第2位は、これまでランクインしたことのない「熊」でした。各地で熊による深刻な人的被害や目撃情報が相次ぎ、連日のように報道が続いた2025年。本年度の熊による死者数は過去最多を更新し、人身被害者数も過去最多ペースで増加しています。山間部だけでなく住宅地や都市近郊にも出没し、人と野生動物との共存のあり方が改めて問われる1年となりました。フリーコメントでは北海道や東北地方などの医師を中心に不安の声が多く寄せられました。 「熊」を選んだ理由(コメント抜粋)とにかく当地は熊被害に悩まされているので(麻酔科 50代/北海道)今年の後半は熊との戦いがずっとニュースになっていた(外科 60代/北海道)現在は一番の不安の種(精神科 50代/青森)九州・四国を除き、全国規模での対策を余儀なくされているため(整形外科 40代/秋田)全国各地で熊の出没が話題となり、人と自然の距離、共生のあり方を考えさせられた(消化器内科 60代/大阪)■第3位「変」(57票)第3位は「変」。2025年は世界的にも国内的にも社会の変化が著しい1年となりました。コメントでは政治に関する意見が多く寄せられ、女性総理大臣の誕生や政権交代など政治の変化に注目する声が目立ちました。そのほか、気候変動や私生活の変化に触れるコメントも見られました。皆さまにとっての変化はどのようなものがあったでしょうか? 「変」を選んだ理由(コメント抜粋)首相が代わり、政策内容も大きく変わったため(糖尿病・代謝・内分泌内科 30代/静岡)自公政権から自維政権への連立変更、高市政権への変化(循環器内科 30代/神奈川)世界情勢の潮目の変化、女性総理の誕生などあり、医療の面では廃業する医療機関がいよいよ増加してきた印象を受けた(精神科 30代/福岡)アメリカでトランプ政権に代わってから、世界の経済、生活、価値観などが変わってきた(外科 70代以上/大阪)気候変動、物価上昇などの変化(眼科 50代/大分)第4位「米」(41票)第4位は「米」でした。昨年から米の供給がひっ迫し、「令和の米騒動」と呼ばれる状況が発生しました。備蓄米の放出などの対策が講じられたものの、価格の高止まりが続き、家計への負担は依然として大きくなっています。また、米国の「米」の意味でも票が多く集まりました。トランプ政権による関税強化が世界経済に波紋を広げ、貿易・安全保障・産業分野で米国の動向に注目が集まった1年となりました。 「米」を選んだ理由(コメント抜粋)米価が異常に高止まりで失望したので(泌尿器科 50代/東京都)今年は、米不足や米の価格が上昇するなど庶民の生活に大きな影響を与えた(消化器外科 50代/新潟)今年の米価格の高騰はつらかった。ごはん食いなのでお米が高いのはつらい。農家さんが正当に評価されて潤うのならばよいのだが中抜きされているようなので納得がいかない(外科 50代/東京)米の高騰、アメリカの関税合戦(消化器内科 30代/熊本)アメリカにも米価にも振り回された1年だったと思う(呼吸器内科 60代/熊本)第5位「女」(38票)第5位は「女」でした。ほぼすべてのコメントが総理大臣の高市氏に言及しており、わが国初の女性総理大臣の誕生はやはり大きなインパクトを残したようです。コメントでは、高市氏に期待する声が多く寄せられました。なお、これまでに女性が政府のトップを務めたことがある国は、国連加盟国193ヵ国のうち60ヵ国で3割を超えています。 「女」を選んだ理由(コメント抜粋)高市早苗首相が初めての女性首相になったから(麻酔科 40代/長崎)女性総理大臣が就任したので(神経内科 50代/神奈川)高市早苗総理大臣誕生に象徴されるように女性が活躍する時代・社会の真の到来と感じ、「女」を選択(脳神経外科 60代/岡山)高市総理になって何かが変わっていく予感を感じる(リハビリ科 30代/東京)女性初の総理大臣誕生、女性アスリートの活躍(皮膚科 50代/福岡)第6~10位第6位:「新」(25票)第7位:「暑」(24票)第8位:「金」(22票)第9位:「乱」(21票)第10位:「万」(18票) アンケート概要アンケート名2025年の「今年の漢字」をお聞かせください。実施日   2025年11月5日調査方法  インターネット対象    CareNet.com医師会員有効回答数 1,031件

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解熱鎮痛薬による頭痛誘発、その原因成分とは

 日本のテレビコマーシャルでお馴染みの解熱鎮痛薬「イブ」に含有されている成分が、韓国では2025年4月に違法薬物に指定されて持ち込み禁止となった。その成分は、日本人医師や薬剤師にはさほど認知度が高くないものの、近年の頭痛外来患者の増加の原因の1つになっている可能性があるという。今回、頭痛専門外来患者の市販薬(OTC医薬品)の服用状況などを研究する佐野 博美氏(京都大学大学院医学研究科 社会医学系専攻健康情報学)と共同研究者の平 憲二氏(プラメドプラス)が、日本社会薬学会第43年会にて「薬剤の使用過多による頭痛(medication-overuse headache:MOH、薬物乱用頭痛)」に関する報告をしたことから、解熱鎮痛薬に含まれる依存性成分や頭痛患者が増える実態について話を聞いた。解熱鎮痛薬に配合されている依存性成分の正体 海外での規制に至った原因成分とは、鎮静催眠成分のアリルイソプロピルアセチル尿素(ア尿素)である。OTC解熱鎮痛薬は、解熱鎮痛成分(アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)、制酸成分(乾燥水酸化アルミニウムゲル、酸化マグネシウムなど)、生薬成分、無水カフェイン、その他成分、そして鎮静催眠成分(ア尿素、ブロモバレリル尿素[ブ尿素])などで構成される。今回問題とされたア尿素に焦点を当てた場合、イブシリーズでは5製品中4製品に配合されている。もちろんOTC 解熱鎮痛薬の成分として厚生労働省から認可を受けており、その前提で使用されているので国内の規制上は問題ない。 一方で、『頭痛の診療ガイドライン2021』のCQI-13(OTC医薬品による頭痛治療をどのように指導するか)では、OTC医薬品の不適切使用によるMOHを問題視しているものの、その具体的な要因は明らかにされていない1)。患者支持ダントツ、依存性成分が満足度の底上げか そこで佐野氏らは、「頭痛専門外来患者における市販薬の鎮痛薬服用状況:問診票を用いた記述疫学研究」において、片頭痛や緊張型頭痛のような一次性頭痛患者のOTC医薬品の利用率増加と医療機関受診率低下の原因を“OTC医薬品に含まれる依存性成分”と仮定し、3つの依存性成分(カフェイン、ア尿素、ブ尿素)が含まれている解熱鎮痛薬の使用状況を頭痛専門外来2施設で調査、初診患者の市販薬服用状況を明らかにした。 解析対象者は、普段使用している頭痛治療薬の種類を問診票に記載し、適格基準を満たした15歳以上の6,756例で、そのうち市販薬のみを服用し、商品名を明記していた1,128例をサブ解析した。その結果、約6割強がイブシリーズ(イブA錠EX、イブクイック頭痛薬DX、イブA錠、イブクイック頭痛薬、どのシリーズかは不明)を使用していたことが示された。なお、イブシリーズの場合、依存性成分を含まない『イブ』は2023年に販売中止されているため、「イブを使用=依存性成分を摂取」と判断された。使用されていたOTC医薬品の依存性成分の内訳については、カフェイン&ア尿素が最も多く(8割弱)、続いてカフェイン&ブ尿素、依存性3成分なし、カフェインのみ、依存性3成分すべてであった。医療にアクセスするも適正薬剤届かず 本集団の特徴として、佐野氏は「病院にアクセスしづらい働き世代で、とくに40代以上の女性が多かった。驚いたことに、対象者は重症度が高い患者であるにもかかわらず、その約2割が市販薬のみでコントロールしていた。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体製剤などの新薬にたどりつくべき患者がたどり着けずに市販薬を手にしている可能性がある」と片頭痛治療の実際に危機感を抱いた。これについて平氏は、「依存性成分が処方箋医薬品とは異なる配合(比率)で含まれるOTC医薬品に“効果がある”と考えている患者は一定数存在する。患者自身がいろいろ試した結果、効果を実感してOTC医薬品に依存していくのではないか」と指摘し「通院しているが、“治療は市販薬”という患者も少なくない」と現状を説明した。 本調査の限界として、「ロキソニンやバファリンは処方薬との区別ができなかったため、集計結果の信頼性が低い」と説明し、「依存性成分は処方箋医薬品にも含まれているため、実際には本研究結果より多くの患者が依存性成分を摂取している可能性がある。さらに、鎮静作用のある成分とカフェインを同時摂取することは薬理作用が強化され、依存リスクが高まる可能性があるにもかかわらず、本対象者の使用薬剤の約9割にはそれらが一緒に含有されていた」と述べた。「今後は処方箋医薬品も含めた解析を実施していきたい」としながら、「医師・薬剤師をはじめ、医療者にはこのような実態を理解したうえで、患者に接してほしい」ともコメントした。

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レカネマブ承認後に明らかとなった日本におけるアルツハイマー病診療の課題

 2023年、日本で早期アルツハイマー病の治療薬として抗Aβ抗体薬レカネマブが承認された。本剤は、承認後1年間で約6,000例に処方されている。東京大学の佐藤 謙一郎氏らは、レカネマブ導入後の実際の診療とその課題、そして潜在的な解決策を明らかにするため、認知症専門医を対象にアンケート調査を実施し、その結果を公表した。Alzheimer's & Dementia誌2025年10月号の報告。 レカネマブを処方可能な認知症専門医を対象に、匿名のオンライン調査を実施した。回答した認知症専門医311人が1年間でレカネマブによる治療を行った患者数は3,259例であった。 主な結果は以下のとおり。・初回診察から初回点滴までの待ち時間が3ヵ月以内であると回答した専門医の割合は79%であった。・回答者の4分の1が、外来診療スペースおよび人員が逼迫しており、想定よりも治療能力が大幅に低いと回答した。・安全性に関する懸念は限定的であり、アミロイド関連画像異常(ARIA)による中断は3.5%であった。・回答者の半数以上が、点滴関連サービスへの追加的な診療報酬およびアポリポ蛋白E(APOE)遺伝子検査の保険適用を強く支持した。 著者らは「抗Aβ抗体薬への早期アクセスは実現可能であると考えられるものの、インフラ整備と財政面でのハードルが依然として高いことが明らかとなった」とし「日本において、抗Aβ抗体薬による認知症治療をより安全で、よりアクセスしやすく、持続的に行うためにも、APOE遺伝子検査の保険適用が不可欠である可能性が示唆された」としている。

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肺炎の抗菌薬治療を拒否する患者、どう対応する?【こんなときどうする?高齢者診療】第16回

CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」から、高齢者診療に役立つトピックをお届けします。今回は救急や日常診療で頻繁に遭遇する意思決定能力評価について、実践的なツール「CURVES」を使って学んでいきます。ではケースを見てみましょう。70歳女性。軽度認知症の既往あり。発熱・呼吸困難で救急搬送された。「うーうー」とうなっており、若干傾眠傾向。肺炎と診断し、抗菌薬を点滴投与すると本人に説明したところ、抗菌薬を拒否。「点滴はいやだ、抗菌薬はいやだ」と繰り返すのみ。その理由を聞いてもうなるだけで答えが返ってこないこの患者の言葉を鵜呑みにするべきでないことは、直感的におわかりかと思います。高齢者は認知症や抑うつ、せん妄といった認知機能の障害による意思決定能力の低下や喪失リスクが高く、救急だけでなくさまざまな場面で意思決定能力の評価が必要です。まず、意思決定能力をあらためて定義するところから始めましょう。意思決定能力(キャパシティ)とは?意思決定能力(キャパシティ)とは、「自分の医療について理解し、選択できる能力」です。そして「何」についての理解、選択なのかを明確にする必要があります。現場では、これらを覚えやすく実践的にした「CURVES」というツールを使います。CURVESは本人の意思決定能力を評価する4項目と、本人の意思決定能力がないと判断した場合に評価すべき2項目に分かれています。具体的な質問とともに見てみましょう。意思決定能力を評価するCURVESC-U-R-V:患者本人の意思決定能力を評価する4項目画像を拡大するE-S:能力がない場合の対応を決める2項目画像を拡大する必ず確認すべき「V(Value)」CURVESの中で最も見落とされやすいのが、この「価値観との一致」です。病状の進行や、生活環境の変化、重大な出来事があって本人の価値観が変わったなど、価値観の非連続性を裏付ける理由があれば問題はありません。合理的理由なく価値観が変わっている場合 は 認知症進行や隠れた抑うつを疑うことが重要です。ここまで意思決定能力の定義と評価すべき項目を整理してきました。もうひとつ重要な視点が、「何について」の意思決定なのかを明確にすることです。すべての医療行為に厳格なキャパシティ評価が必要?「日々生じるすべての意思決定について、厳格な意思決定能力の評価が必要なのか?」という疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。この質問の答えはNOです。理由は、それが「何について」の意思決定なのかによって、必要なキャパシティは異なるからです。たとえば、肺炎の治療選択肢を決めるというタスクと、代理意思決定人を決めるというタスクでは、必要な認知機能や意思決定能力は異なります。意思決定能力評価の要否を判断するスライディング・スケール・アプローチ意思決定能力評価の要否を判断するポイントは、「利益とリスクのバランス」×「患者の反応」です。2つの例を挙げてみてみましょう。例1:脱水への点滴(利益 > リスク)脱水症に点滴補液をするというタスクは利益がリスクを上回りますから、対応はこのようになります。同意する患者「わかりました、お願いします」→ 通常の会話で確認のみ拒否する患者「点滴はいやだ」→ CURVESで評価例2:終末期がんへの化学療法(リスク > 利益)寝たきりの末期がん患者への化学療法はリスクが利益を上回るタスクですから、以下の対応になります。拒否する患者「もう治療は結構です」→ 意思を尊重(簡易評価)希望する患者「何でもやってほしい」→ CURVESで評価(理解しているか?)余談ですが、こうした治療を家族が希望する場合は、患者と家族の価値観のすり合わせなどの意思決定能力の評価とは別のACPが必要かもしれません。今回のケースに戻りましょう。肺炎と診断し、抗菌薬点滴による治療で回復見込みが高いという判断のもと、治療を提案していました。利益がリスクを上回るタスクを患者が拒否しているので、厳格なキャパシティが必要と考えます。患者の様子から考えると、理解・認識・論理の3つについて、すくなくともこの時点で判断能力がないと判断して妥当です。過去のカルテがあれば、CURVESのうち過去の価値観と一致しているか確認するとこの患者の選択に整合性があるかもしれません。過去の価値観との整合性について確認できない場合でも、代理意思決定者が確認できれば、その人とのコミュニケーションで治療方針を決めるといったステップが見えてきます。Step 1:スライディング・スケールで判断治療内容抗菌薬点滴(利益 > リスク)患者の反応拒否判断厳格な評価が必要 → CURVESを使うStep 2:CURVESで評価| CURVESの項目 | 評価 | 根拠 || C (選択表明) | × | 「いやだ」と繰り返すのみ || U (理解) | × | 説明を自分の言葉で言えない || R (論理) | × | 理由を説明できない || V (価値観) | ? | 過去の情報が必要 || E (緊急性) | ○ | 肺炎は治療遅延で悪化 || S (代理人) | ? | 家族の確認が必要 |評価結果:現時点で意思決定能力なしこのように、スライディング・スケールを用いると、キャパシティ評価を行うべきケースを絞り、すばやく次のステップに進めるとおわかりいただけたのではないかと思います。認知症なら意思決定能力はない?最後に、高齢者の意思決定能力について、必ず心にとめていただきたい項目があります。それは、認知症がある=意思決定能力がないではないということです。「認知症があると意思決定能力がない」あるいは「認知症がないなら意思決定能力がある」と捉えている人が少なからずおられますが、それはどちらも間違いです。認知症があっても、あるタスクについて意思決定能力を保有しているというケースはありますし、逆に認知症がなくても、特定の医療行為やタスクについて選択・決定する能力がない場合もあります。認知症は意思決定能力に関連はしますが、必ずしも意思決定能力の有無を決定するわけではないということを頭の片隅において、日常の診療・ケアにキャパシティ評価を取り入れてください。 ※今回のトピックは、2022年9月度、2024年度11月度の講義・ディスカッションをまとめたものです。CareNeTVスクール「Dr.樋口の老年医学オンラインサロンアーカイブズ」でより詳しい解説やディスカッションをご覧ください。

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