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睡眠データから130種類の疾患リスクを予測可能か

 眠っている間に体はさまざまな「メッセージ」を発しており、それを読み取ることで将来の重大な病気のリスクを予測できる可能性のあることが、新たな研究で示された。「SleepFM」と呼ばれる人工知能(AI)を用いた実験的な睡眠基盤モデルは、ポリソムノグラフィー(PSG)データを用いて、約130種類の疾患・健康状態の将来のリスクを予測できるという。米スタンフォード大学医学部生物医学データサイエンス分野のJames Zou氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に1月6日掲載された。研究グループは、「SleepFMは、がん、妊娠合併症、心疾患、精神疾患など、非常に幅広い疾患の予測において高い性能を示した。また、全死亡リスクの予測も可能だった」と述べている。 PSGは睡眠解析で用いられる検査であり、睡眠中の人の脳波(EEG)、心電図(ECG)、心拍、眼球運動などを測定する。PSGは、多様な生理学的信号を取得できる一方で、標準化や汎用性の確保、また複数の生理学的信号を統合する難しさから十分に活用されてこなかった。 今回、この課題を克服するために研究グループは、PSGを構成する生理学的信号のうちの1つを意図的に隠し、隠された信号と整合する情報を残りの信号から推測するように訓練するleave-one-out contrastive learningと呼ばれる新たな学習方法を開発した。SleepFMは、睡眠センターでPSG検査を受けた約6万5,000人の合計58万5,000時間以上に及ぶ睡眠データを用いて訓練された。睡眠データは5秒単位に分割されている。これは、ChatGPTなどの大規模言語モデルの学習に用いられる「単語」に相当する単位である。Zou氏は、「SleepFMは、本質的には『睡眠の言語』を学習していると言える」とニュースリリースで述べている。また同氏は、「この研究における技術的進歩の一つは、全ての異なるデータ様式を調和させ、それらが一緒になって同じ言語を学習できるようにする方法を見つけ出したことだ」と説明している。 モデルの調整後、研究グループはまず、睡眠段階(レム睡眠、ノンレム睡眠など)の分類や睡眠時無呼吸の重症度診断を実施した。その結果、SleepFMは、現行の最先端モデルと同等以上の性能を示した。そこで、2〜96歳の患者3万5,052人を最長で25年間追跡したスタンフォード睡眠医学センターの長期データを用いて、睡眠データと健康リスクとの関連を解析した。予測性能の評価には、C統計量と呼ばれる指標が用いられた。C統計量は、0.8以上であれば高い予測精度を持つとされる。 電子カルテ内に記録されていた1,000以上の疾患カテゴリーを解析した結果、130種類の疾患・健康アウトカムについては、PSGデータから妥当な精度で予測可能であることが判明した。特に予測精度が高かった疾患は、パーキンソン病(C統計量0.89)、認知症(同0.85)、高血圧性心疾患(同0.84)、心筋梗塞(同0.81)、前立腺がん(同0.89)、乳がん(同0.87)、死亡(同0.84)であった。 こうした結果を受けてZou氏は、「これほど多様な疾患について、モデルが有用な予測を行えることは、私たちにとっても嬉しい驚きだった」と述べている。 研究グループは、「本研究では、心疾患の予測においては心臓の信号が、精神疾患の予測においては脳信号がより重要な要素であった。その一方で、最も正確な予測を達成したのは、全てのデータ様式を組み合わせた場合であった」と指摘。論文の責任著者の1人であるスタンフォード大学クレイグ・レイノルズ睡眠医学教授のEmmanuel Mignot氏は、「疾患予測において最も多くの情報が得られたのは、異なるチャネルを対比させたときだった。例えば、脳は眠っているように見えるのに、心臓は起きているように見えるなどの同期の乱れは、健康上の問題を示唆している可能性がある」と述べている。 研究グループは現在、ウェアラブルデバイスなどの他のデバイスからのデータを追加することで、SleepFMの予測性能をさらに高める方法を模索している。また、SleepFMが実際にどのような特徴に注目して予測を行っているのかを解明する研究も進めている。

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自損事故の15S【Dr. 中島の 新・徒然草】(616)

六百十六の段 自損事故の15Sなにしろ寒い!大阪でも、時に雪がチラホラ。さすがに滅多に積もることはありません。道が白くなることがあったとしても、年に1~2回くらい。とはいえ、雪国では受験や選挙にも大きく影響しそうですね。さて、先日のニュース。2026年1月22日の夕方の出来事。内閣府の公用車が赤信号の交差点に進入し、自身を含めて6台の車が巻き込まれる事故が起こってしまいました。この事故で1人死亡、8人が重軽傷とのことです。現場には目立ったブレーキ痕がなかったのだとか。このことから、公用車の運転手が交差点進入時に意識を失っていた可能性が述べられています。これ、ありそうな話ですね。運転中に意識を失って事故を起こすというもの。昔、ある学会で「自損事故の6S」という発表がありました。つまり、自損事故を見たら原因となるものを6つ考えよ、というものです。その原因の頭文字をとって6Sとされていました。Sake酒Sleep居眠りSugar低血糖Syncope失神Suicide自殺企図Seizureけいれん発作なるほど、なるほど。いかにも原因となりそうなものばかり。ただ、酒をSakeとするのは、ちょっとカッコ悪いので、似た意味のSpiritとしておきましょう。その発表を聴いた後、私は自損事故に遭遇するたびに、この6Sを当てはめてきました。ところが、この6Sに収まりきらない事故に出くわすこともあります。たとえば運転中に脳卒中を起こしたとか、違法薬物を使っていたとか。こういった新たな原因を6Sに加えていくと、増えていく一方です。いつのまにか13Sになってしまったので、覚えておくのも大変。でも、せっかくなのでここに披露しましょう。Stroke脳卒中Sedative鎮静薬Stimulant覚醒剤Surface路面凍結Status無免許運転Speedスピード違反Structure車両の故障さきほどの6Sと合わせて13Sになります。ちょうど不吉な数の13なので納まりがいいと思っていたら、心疾患の存在を忘れていました。しかしながら、突然発症の心疾患名をSで始めようと思うとかなり苦しい。STEMIST上昇型心筋梗塞Stanford classification : 大動脈解離13Sのつもりが15Sになってしまった!本事件を振り返ると、さすがに公用車の運転手なので飲酒や無免許はないと思いますが、内因性の原因だけでも7つは考えられます。運転手本人も、けがをして入院したとのこと。いずれ事故の原因が突き止められてほしいものです。それにしても、失神や脳卒中はよくある疾患なので、運転中に発症しても不思議ではありません。医師としては、そういった緊急事態に、自動的に減速したり停止したりする車が開発されてほしいと願っています。最後に1句 大寒の 事故見て思う 原因を

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コロナ禍で新規診断が増えた疾患・減った疾患/BMJ

 英国・キングス・カレッジ・ロンドンのMark D. Russell氏らによる、OpenSAFELY-TPPを用いたコホート研究の結果、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、うつ病、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、乾癬、骨粗鬆症の新規診断は予測値を下回ったのに対し、慢性腎臓病は2022年以降に診断数が急増し、サブグループ解析ではとくに認知症に関して民族および社会経済的状況により新規診断数の回復パターンに差があることが示された。著者は、「本研究は、日常診療で収集される医療データを用いた疾病疫学のほぼリアルタイムのモニタリングの可能性を示すとともに、症例発見の改善や医療の不平等を検討するための戦略立案に寄与する」とまとめている。BMJ誌2026年1月21日号掲載の報告。イングランドの約3千万例対象、COVID-19パンデミック前後の慢性疾患の新規診断と有病率を解析 研究グループは、2016年4月1日~2024年11月30日に、OpenSAFELY-TPPプラットフォームにデータを提供している一般診療所に登録され、かつ診療所に対して直接の医療に関与しない組織への個人データの共有を希望しない旨の登録をしていない患者2,999万5,025例を対象として、19の慢性疾患について年齢・性別標準化発症(新規診断)率および有病率の経時推移を検討した。 19の慢性疾患は、喘息、アトピー性皮膚炎、冠動脈心疾患、慢性腎臓病(ステージ3~5)、セリアック病、COPD、クローン病、認知症、うつ病、2型糖尿病、てんかん、心不全、多発性硬化症、骨粗鬆症、リウマチ性多発筋痛症、乾癬、関節リウマチ、脳卒中/一過性脳虚血発作、潰瘍性大腸炎。 COVID-19パンデミックが、これら慢性疾患の診断に与えた影響を評価する目的で、パンデミック前のパターンから予測された期待診断率に基づく季節変動自己回帰和分移動平均(seasonal autoregressive integrated moving average:SARIMA)モデルを用い、パンデミック発生後の予測診断率と実際の観察診断率の差を比較した。パンデミック初年度に新規診断が急減、4年後もうつ病などは減少したまま パンデミック発生後の新規診断率はパンデミック前と比較し、初年度(2020年3月~2021年2月)に19疾患のすべてで急減した。ただし、その後の回復傾向は疾患ごとに異なった。 2024年11月時点でも、いくつかの疾患では新規診断数が予測値を下回っており、とくにうつ病(予測より-73万4,800件[-27.7%]、95%予測区間[PI]:-76万6,400~-70万3,100)で減少幅が最も大きく、喘息(-15万2,900件[-16.4%]、95%PI:-16万8,300~-13万7,500)、COPD(-9万100件[-15.8%]、-9万8,900~-8万1,400)、乾癬(-5万4,700件[-17.1%]、-5万9,200~-5万100)、骨粗鬆症(-5万4,100件[-11.5%]、-6万1,100~-4万7,100)も大きく減少した。 一方、慢性腎臓病の診断数は、パンデミック初期に減少したものの、2022年以降はパンデミック前の水準を上回る増加を示した(予測より35万9,000件[34.8%、95%PI:33万3,500~38万4,500]増加)。 人種および社会経済的状況で層別化したサブグループ解析の結果、パンデミック初期の減少後、白人および社会経済的困窮度が低い地域では、認知症の診断率がパンデミック前の水準を上回って増加したが、他の人種および困窮度が高い地域では増加しなかった。

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睡眠障害やうつ病は急性冠症候群リスクと関連するか?~メタ解析

 精神疾患と急性冠症候群との関連を評価したシステマティックレビューおよびメタ解析により、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安障害、睡眠障害、うつ病が急性冠症候群のリスク増加と関連し、PTSDと睡眠障害は睡眠の質が心血管疾患アウトカムに潜在的に関与する可能性があることが、カナダ・カルガリー大学のArnav Gupta氏らによって示された。JAMA Psychiatry誌オンライン版2026年1月14日号掲載の報告。 これまでの研究により、精神疾患は従来の心血管リスク因子と関連し、それらを介して急性冠症候群のリスクを高める可能性が示唆されているが、精神疾患ごとのリスクについては十分明らかにはなっていなかった。そこで研究グループは、精神疾患のない患者と比較して、精神疾患を有する患者における急性冠症候群との関連性を評価するためにシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。MEDLINE、EmbaseおよびPubMedを用いて、精神疾患と急性冠症候群との関連性を調査した観察研究またはランダム化試験を抽出した。データはランダム効果メタ解析で統合した。 主な結果は以下のとおり。●25件の研究が包含基準を満たした。参加者は2,204万8,504例で、年齢中央値は48.0歳、男性は1,301万9,897例(59.1%)であった。●PTSD、不安障害、睡眠障害、うつ病は急性冠症候群のリスク増加と関連していた。ハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)は以下のとおり。 ・PTSD HR:2.73、95%CI:1.94~3.84、p<0.001、エビデンスの確実性:中  ・不安障害 HR:1.63、95%CI:1.40~1.89、p<0.001、エビデンスの確実性:低 ・睡眠障害 HR:1.60、95%CI:1.22~2.10、p<0.001、エビデンスの確実性:低 ・うつ病 HR:1.40、95%CI:1.11~1.78、p=0.01、エビデンスの確実性:非常に低●双極症および精神病性障害は、急性冠症候群のリスク増加との有意な関連は認められなかった。 ・双極症 HR:1.48、95%CI:0.47~4.61、p=0.28、エビデンスの確実性:非常に低 ・精神病性障害 HR:0.97、95%CI:0.01~178.30、p=0.06、エビデンスの確実性:非常に低 研究グループは「本システマティックレビューとメタ解析の結果は、うつ病、不安障害、PTSD、睡眠障害が急性冠症候群のリスク増加と関連していることを示唆している。とくに、PTSDと睡眠障害は急性冠症候群の重要なリスク因子として浮上し、睡眠の質が心血管疾患のアウトカムに潜在的に関与する可能性がある」とまとめた。

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アルコールは認知症を予防するのか?~メタ解析

 アルコール摂取と認知症リスクとの関連を明らかにするため、中国・黒龍江中医薬大学附属第一医院のRen Zhang氏らは、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Internal Medicine Journal誌オンライン版2025年12月10日号の報告。 2024年7月22日までに公表された研究をPubMed、Embase、Cochrane Library、Web of Scienceのデータベースより網羅的に検索した。対象研究は、アルコール摂取と認知症リスクとの関連を評価した研究とした。研究の質の評価には、ニューカッスル・オタワ尺度(NOS)を用いた。アルコール摂取と認知症リスクの関連性は、相対リスク(RR)および95%信頼区間(CI)を用いて評価した。アルコール摂取量、地域、年齢に基づいてサブグループ解析を実施した。すべての統計解析は、Stata 15.0を用いて行った。 主な結果は以下のとおり。・メタ解析では、アルコール摂取とすべての原因による認知症(ACD)リスク、アルツハイマー病(AD)リスク、血管性認知症(VD)リスク、その他の認知症リスクとの間に有意な関連は認められなかった。【ACD】RR:1.03、95%CI:0.84~1.27【AD】RR:0.97、95%CI:0.86~1.08【VD】RR:1.09、95%CI:0.95~1.26【その他の認知症】RR:0.62、95%CI:0.33~1.15・飲酒量別のサブグループ解析では、軽度から中程度の飲酒は、ACD(RR:0.88、95%CI:0.81~0.96)およびAD(RR:0.88、95%CI:0.79~0.97)のリスク低下と関連していた。・しかし、多量の飲酒は、すべての認知症タイプのリスク増加と有意な関連が認められた。【ACD】RR:1.18、95%CI:1.02~1.36【AD】RR:1.29、95%CI:1.21~1.36【VD】RR:1.25、95%CI:1.11~1.40・さらにサブグループ解析を行った結果、軽度から中程度の飲酒による認知症予防効果は、欧州および60~69歳の年齢層でより強いことが示唆された。 著者らは「軽度から中程度の飲酒は認知症を予防することが示唆された。しかし、大量飲酒やアルコール使用障害は認知症のリスクを高める可能性がある」と結論付けている。

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指先からの採血による血液検査でアルツハイマー病の兆候を正確に評価

 指先から採取した血液を郵送して行う血液検査によって、アルツハイマー病に関連するマーカーを正確に検出できることが、新たな研究で示された。これによって脳の変性疾患であるアルツハイマー病の診断や研究がより容易になる可能性があるという。米バナー・ヘルス、フルイド・バイオマーカー・プログラムのシニアディレクターであるNicholas Ashton氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Medicine」に1月5日掲載された。 この検査は、指先に針を刺して少量の血液を採取するフィンガー・プリック・テストと呼ばれるもので、リン酸化タウタンパク質(p-tau217)やグリア線維性酸性タンパク質(GFAP)、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)の血中濃度を正確に測定できるという。これらはいずれもアルツハイマー病に関連する脳損傷の指標である。p-tau217は、アルツハイマー病に特徴的なタウ病理を反映するリン酸化タウタンパク質の一種、GFAPは、中枢神経系の支持細胞であるアストロサイトに由来し、脳損傷や神経疾患の指標となるタンパク質、NfLは脳神経細胞軸索に由来し、神経細胞の損傷や神経変性を反映するタンパク質である。 Ashton氏らは、7つのコホートに属する337人を対象に、指先から採取した少量の血液をカード上で乾燥させたサンプルの解析を行い、そのうちの304人については静脈血漿サンプルを用いた測定結果と比較した。その結果、指先採血サンプル中のp-tau217値は静脈血漿サンプル中のp-tau217値と強く相関し、疾患重症度の進行や脳脊髄液バイオマーカー陽性を良好に反映していた。また、GFAPおよびNfLについても、指先採血サンプルと静脈血漿サンプルの測定値との間に強い相関が認められた。 Ashton氏らは、この簡便な検査法によって遠隔地からも研究に参加できるようになり、大規模なアルツハイマー病研究を実施しやすくなる可能性があるとの期待を示している。同氏らは、この検査が一般の患者に対して臨床で使用できるようになるのは、まだ何年も先のことではあるが、現時点でも、アルツハイマー病研究を加速させる一助になる可能性はあると話している。Ashton氏は、「最終的にわれわれは、症状が現れる前段階でアルツハイマー病を治療する方向へと移行しつつある。この流れが続くのであれば、定期的に医療機関を受診しない適格者を特定するための革新的な方法が必要になるだろう。今回の研究は、その方向性における一つのアプローチを示すものであり、さらなる検証が必要だ」とニュースリリースの中で述べている。 共著者の1人である英エクセター大学のAnne Corbett氏は、「私にとっても最も楽しみなのは、この技術によってバイオマーカー研究の民主化が可能になることだ。誰でも、どこにいても、脳疾患の解明に貢献できる未来に向かって、われわれは進んでいる。これは単なる技術的な進歩ではなく、神経科学研究のあり方を変えるパラダイムシフトである」とニュースリリースの中で話している。 研究グループによると、この方法はパーキンソン病や多発性硬化症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脳損傷などアルツハイマー病以外の脳疾患に関する研究にも役立つ可能性があるという。

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第303回 がん細胞が作るアルツハイマー病予防タンパク質を発見

中国の研究者らによる10年を優に超える研究が実を結び、がん細胞が放つタンパク質のシスタチンC(Cyst-C)がどうやらアルツハイマー病を阻止する効果を担うことが突き止められました1,2)。がんとアルツハイマー病の併発がまれなことは長く知られており、そのどちらかがもう片方を防ぐ仕組みがあるのかもしれないと考えられてきました。イタリア北部の100万人超を調べた2013年の報告では、アルツハイマー病患者のがんのリスクは50%低く、がん患者のアルツハイマー病のリスクは35%低いことが示されています3)。米国でのFramingham Heart試験も同様で、がん生存者のアルツハイマー病のリスクががんでない人に比べて33%低いという結果となっています4)。最近のメタ解析でもやはりがん患者はアルツハイマー病をより免れていました。2020年9月2日までの22の観察試験の960万例超が解析され、がんと診断された人のアルツハイマー病発生率はがんではない人より11%低いことが示されます5)。アルツハイマー病の病変を抑制するがんの効果を示唆する報告もあります。785例を死ぬまで追跡した試験では、アルツハイマー病のアミロイドやタウ病変の程度ががんと診断された人では低くて済んでいました6,7)。それらの裏付けの数々に背中を押され、中国の武漢市の華中科技大学(Huazhong University of Science and Technology)の神経学者Youming Lu氏らはがんがアルツハイマー病を生じにくくする仕組みを調べることを思い立ちます2)。まずLu氏らは研究に最適なマウス作りに取り掛かります。実に6年の歳月を費やした後に、アルツハイマー病を模すマウスに3種類(肺、前立腺、大腸)の腫瘍を移植する手段に行き着きます。それらのマウスはアルツハイマー病に特有の脳のアミロイド病変を生じずに済みます。続いてがん細胞が放つタンパク質の数々を解析し、血液脳関門を通過して脳に浸透しうるタンパク質が探索されました。6年を超える取り組みの甲斐あって、Lu氏らはとうとうCyst-Cにたどり着きます。Cyst-Cは脳のアミロイド重合体に結合し、続いて脳の免疫細胞のマイクログリアの受容体TREM2を活性化します。そうしてマイクログリアがアミロイド病変を分解できるようにします。水に濡れずに済む抜け道をマウスに覚えさせる迷路実験でCyst-Cの記憶改善効果も確認されました。アルツハイマー病マウスはその抜け道を探すのに苦労しますが、Cyst-Cやがん細胞の分泌タンパク質一揃いを与えたところ手際が良くなり、抜け道をより早く見つけられるようになりました8)。アルツハイマー病の薬といえば大抵が脳の新たな障害の予防が焦点ですが、Cyst-Cはすでに生じてしまったアミロイド病変の除去を促す効果があります。ヒトでもマウスと同様の効果があるなら、認知症の新たな治療法へと通じる道が開けそうです。参考1)Li X, et al. Cell. 2026 Jan 22. [Epub ahead of print] 2)Cancer might protect against Alzheimer’s - this protein helps explain why / Nature3)Musicco M, et al. Neurology. 2013;81:322-328.4)Driver JA, et al. BMJ. 2012;344:e1442.5)Ospina-Romero M, et al. JAMA Netw Open. 2020;3:e2025515.6)Karanth SD, et al. Brain. 2022;145:2518-2527.7)Cancer Tied to Reduced Risk of Alzheimer’s Disease / TheScientist8)Cancer tumors may protect against Alzheimer's by cleaning out protein clumps / Medical Xpress

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小児片頭痛、起立性調節障害を伴わない場合は亜鉛欠乏か?

 片頭痛は学童期の子供の約10%にみられ、起立性調節障害を併存していることが多い。成人では血清亜鉛レベルの低下と片頭痛の関連が報告されているが、小児におけるエビデンスはこれまで限られていた。兵庫医科大学の徳永 沙知氏らの研究によると、小児片頭痛患者のうち、起立性調節障害を併存していない群では併存群に比べて血清亜鉛レベルが有意に低く、両者の病態生理が異なる可能性が示唆された。Nutrients誌2025年11月28日号に掲載。 本研究では、2017年12月~2022年3月に片頭痛と診断された小児患者57例を対象に、初診時の血清亜鉛、鉄、銅、フェリチン濃度および起立性調節障害併存の有無を後ろ向きに調査した。亜鉛欠乏は血清濃度80μg/dL未満と定義し、起立性調節障害の診断は日本の診断基準に基づき、立ちくらみ、悪心、動悸や呼吸困難、朝起きるのが困難などの主要症状のうち2つ以上ある場合とした。 主な結果は以下のとおり。・解析対象の57例(男児26例、女児31例、年齢中央値13歳[範囲:7~19])において、血清亜鉛濃度の中央値は80.7μg/dL(範囲:57.8~113.3)であり、全体の40%に亜鉛欠乏が認められた。・起立性調節障害を併存していないのは31例(54.4%)、併存しているのは26例(45.6%)であった。・起立性調節障害を併存していない群の血清亜鉛濃度中央値は77.5μg/dL(範囲:57.8~102.9)であり、併存群の86μg/dL(74.4~113.3)と比較して有意に低かった(p<0.001)。・亜鉛欠乏の割合は、起立性調節障害の非併存群で67.7%(21/31例)であったのに対し、併存群では7.7%(2/26例)であった(p<0.001)。・線形混合モデル(LMM)解析の結果、年齢、性別、BMI、鉄、銅、フェリチンなどの要因を調整した後も、起立性調節障害の併存の有無のみが血清亜鉛濃度と有意に関連する因子であった(p=0.019)。・鉄、銅、フェリチンの各レベルについては、起立性調節障害併存の有無による有意な差は認められなかった。 本研究により、片頭痛と診断される小児患者であっても、起立性調節障害の併存の有無によって亜鉛の栄養状態が大きく異なることが示された。著者らは、起立性調節障害を伴わない片頭痛患者では亜鉛欠乏が病態に関与している可能性を指摘しており、血清亜鉛レベルを考慮することが、これら2つの病態を鑑別するための有用な指標になる可能性があるとし、今後の課題として、健康対照群を用いた大規模な前向き研究が必要だとまとめている。

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体内時計の乱れが認知症リスクの上昇に関連

 概日リズムの乱れは認知症の初期兆候である可能性が新たな研究で示された。概日リズムの相対振幅(最も活動的な時間帯と最も活動が少ない時間帯の差)が低く、リズムの断片化が進んでいることは、認知症リスクの上昇につながることが明らかになったという。米テキサス大学サウスウェスタン医療センター疫学・内科学分野のWendy Wang氏らによるこの研究の詳細は、「Neurology」に12月29日掲載された。 Wang氏は、「概日リズムの変化は加齢に伴い起こる。また、概日リズムの乱れは、認知症のような神経変性疾患のリスク因子になり得ることを示すエビデンスがある。今回の研究で、休息・活動リズムのメリハリが弱く、断片化している人や、1日の遅い時間に活動量がピークに達する人では、認知症リスクの高いことが明らかになった」とニュースリリースの中で述べている。 体内時計とも呼ばれる概日リズムは、24時間周期の睡眠サイクルを調整している。脳によって制御され、光への曝露からも影響を受ける概日リズムは、ホルモンの分泌や消化、体温などの身体機能の調整にも関わっている。Wang氏らによると、概日リズムが明瞭な人では、体内時計が24時間周期にうまく同調し、身体のさまざまな機能に明確なシグナルが送られるだけでなく、スケジュール変更や季節による日照時間の変化があっても、規則正しい睡眠サイクルが維持される傾向にある。一方、概日リズムの相対振幅が低い人は、季節の変化やスケジュール変更によって体内時計が乱れやすいという。 Wang氏らは今回の研究で、平均年齢79歳の男女2,183人の追跡データを分析した。研究開始時点では、認知症を発症していた参加者はいなかった。全ての参加者に胸に貼り付けるタイプの小型の心臓モニターを平均で12日間装着してもらい、概日リズムに関するデータを収集した。その後、参加者を中央値で3年間追跡した。その間に176人(8%)が認知症と診断された。モニターの測定データから、昼と夜の活動のメリハリを示す相対振幅、生活リズムの断片化(乱れ)を示す日内変動、日々のリズムの一貫性(規則性)を示す日間安定性を算出し、参加者の休息―活動リズムを評価した。 その結果、相対振幅の1標準偏差(SD)の減少および日内変動の1SDの増加は、それぞれ認知症リスクの54%(95%信頼区間32~78%)、および19%(95%信頼区間2~38%)の増加と関連していた。また、相対振幅を三群に分けて解析したところ、相対振幅が低い群では727人中106人が認知症を発症していたのに対し、高い群では728人中31人にとどまっていた。年齢や血圧、心疾患などを調整した解析では、低い群の認知症リスクが高い群に比べて約2.5倍高いことが示された。さらに、概日リズムのピークが午後の遅い時間に現れる人も、認知症のリスクが高かった。具体的には、活動量のピークが午後2時15分以降に現れる人では、ピークが午後1時11分から2時14分の間の人と比べて認知症のリスクが45%高かった。活動量のピークが遅いことは、体内時計が季節による光の変化と同調できていない可能性があることを意味している。 Wang氏は、「概日リズムの乱れは炎症などの生体プロセスの変化を招いたり、睡眠を妨げたりする可能性がある。さらに、認知症に関連するアミロイド斑の増加、あるいは脳内のアミロイド除去の減少につながる可能性が考えられる」と述べている。その上で、「光療法や生活習慣の改善といった概日リズムへの介入が認知症リスクの低下に役立つかどうかを検討するため、今後さらなる研究が必要だ」と付け加えている。

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妊娠中のアセトアミノフェン、神経発達症と関連なし

 アセトアミノフェンは、妊娠中の解熱・鎮痛の第1選択薬であり、非ステロイド性抗炎症薬やオピオイドより安全性が高いとされる一方で、近年自閉スペクトラム症(ASD)などの神経発達症への影響が議論され、注目を集めた。そこで、イタリア・University of ChietiのFrancesco D'Antonio氏らは、妊娠中のアセトアミノフェン使用と児のASD、注意欠如・多動症(ADHD)、知的障害(ID)リスクの関連を検討するため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。その結果、妊婦のアセトアミノフェン使用とこれらの神経発達症のリスクとの間に関連はみられなかった。本研究結果は、The Lancet Obstetrics, Gynaecology, & Women's Health誌オンライン版2026年1月16日号に掲載された。 研究グループは、MEDLINE、Embase、ClinicalTrials.gov、Cochrane Libraryを用いて、2025年9月30日までに発表されたコホート研究を検索した。対象の研究は、妊娠中のアセトアミノフェン使用と小児アウトカム(ASD/ADHD/ID)を評価し、調整済み推定値が示されているものとした。本研究の主要解析では、きょうだい比較を用いた研究に限定して、妊娠中のアセトアミノフェン使用とASD、ADHD、IDの関連を評価した。また、バイアスリスクが低い研究や追跡期間が5年以上の研究についても解析した。 主な結果は以下のとおり。・システマティックレビューには43件の文献が抽出され、そのうち17件がメタ解析の対象となった。・きょうだい間比較を用いた研究において、妊娠中のアセトアミノフェン使用は、児のASD、ADHD、IDのいずれとも関連がみられなかった。オッズ比(OR)、95%信頼区間(CI)、p値、I2値は以下のとおり。 ASD:0.98、0.93~1.03、p=0.45、I2=0% ADHD:0.95、0.86~1.05、p=0.31、I2=18% ID:0.93、0.69~1.24、p=0.63、I2=48%・バイアスリスクが低い研究のみに限定した解析でも、児のASD、ADHD、IDのいずれとも関連はみられなかった。OR、95%CI、p値、I2値は以下のとおり。 ASD:1.03、0.86~1.23、p=0.78、I2=75% ADHD:0.97、0.89~1.05、p=0.49、I2=10% ID:1.11、0.92~1.34、p=0.28、I2=57%・調整済み推定値を報告したすべての研究を含めた解析や、5年以上の追跡期間を有する研究に限定した解析においても、一貫して関連はみられなかった。 本研究結果について、著者らは「現在のエビデンスでは、用法・用量どおりにアセトアミノフェンを使用した妊婦の児において、ASD、ADHD、IDが臨床的に重要な程度で増加することは示されなかった。これらの知見は、妊娠中のアセトアミノフェンの安全な使用に関する現在の推奨を支持するものである」とまとめている。

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アルツハイマー病に伴うアジテーション、最適なブレクスピプラゾールの投与量は?

 アルツハイマー病に伴うアジテーションは、患者の転帰と介護者の負担に重大な影響を及ぼす。ブレクスピプラゾールは有望な治療選択肢と考えられている。しかし、至適用量は依然として不明であった。サウジアラビア・King Faisal UniversityのMahmoud Kandeel氏らは、アルツハイマー病に伴うアジテーションの治療におけるブレクスピプラゾールの異なる用量の有効性と安全性を比較するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Journal of Alzheimer's Disease誌オンライン版2025年12月8日号の報告。 PRISMAガイドラインに従い、2025年1月までに公表された研究をPubMed、Embase、Web of Science、Scopusより検索した。ブレクスピプラゾールの異なる用量(0.5~3mg/日)とプラセボを比較した4件のランダム化比較試験(1,451例)を解析に含めた。主要アウトカムは、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、Clinical Global Impression-Severity Scale(CGI-S)、Neuropsychiatric Inventory-Nursing Home Version(NPI-NH)スコアの変化と安全性評価とした。 主な結果は以下のとおり。・ブレクスピプラゾール2mgは、プラセボと比較し、CMAIスコア(平均差[MD]:-5.88、95%信頼区間[CI]:-8.13~-3.63)、CGI-Sスコア(MD:-0.48、95%CI:-0.95~-0.01)の有意な改善が認められた。・複数回投与においてNPI-NHスコアの有意な改善が認められ、高用量(2~3mg)投与で最も効果が高かった(MD:-4.60、95%CI:-7.54~-1.66)。・高用量(2~3mg)では、治療下で発現した有害事象が増加した(リスク比:1.20~1.33)。しかし、重篤な有害事象についてはプラセボと比較して有意な差は認められなかった。 著者らは「アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾール2mgによる治療は、良好な安全性プロファイルを維持しながら、最適な治療効果をもたらすことが明らかとなった。これらの知見は、個々の反応と忍容性に基づき、低用量から治療を開始しながら2mgまで慎重に漸増することを支持している」とし「今後の研究では、長期的なアウトカムと実臨床における有効性に焦点を当てるべきである」としている。

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中年期のうつ病の6つの症状が将来の認知症と関連

 中年期のうつ病は、これまで認知症リスクの増加と関連付けられてきた。しかし、新たな研究で、認知症と関連するのはうつ病全体ではなく、6つの特定の症状から成るクラスターである可能性が示唆された。研究グループは、これら6つの症状に焦点を当てることで、中年期に抑うつ症状に苦しんでいる人が将来、認知症を発症するのを回避できる可能性があると述べている。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のPhilipp Frank氏らによるこの研究結果は、「The Lancet Psychiatry」に12月15日掲載された。 Frank氏は、「認知症リスクは、うつ病全体ではなく、限られた数の抑うつ症状と関連している。症状レベルでのアプローチにより、認知症が発症する何十年も前から、認知症を発症しやすい人をこれまでよりも明確に把握できるはずだ」と述べている。 この研究では、英国の長期健康研究(Whitehall II研究)に参加した45〜69歳の成人5,811人(ベースライン時の平均年齢55.7歳、女性28.3%)を対象に解析が行われた。参加者の抑うつ症状は、ベースライン時の1997~1999年に30項目から成るGeneral Health Questionnaire(GHQ-30)により評価された。 平均22.6年間の追跡期間中に、586人(10.1%)が認知症を発症していた。GHQ-30の30項目を個別に検討したところ、6つの症状が認知症リスクと有意に関連することが明らかになった。それらは、1)自信を失っている(ハザード比1.51)、2)問題に立ち向かえない(同1.49)、3)他人に対するやさしさや愛情を感じない(同1.44)、4)常に緊張や不安を感じている(同1.34)、5)仕事や作業の進め方に満足できない(同1.33)、6)集中できない(同1.29)、である。一方で、睡眠障害、自殺念慮、抑うつ気分といった他の症状は、認知症リスクと有意な関連を示さなかった。 研究グループは、これらの6つの症状は、社会的関わりの減少や、脳を刺激する経験の減少につながる可能性があり、その結果、損傷や疾患の影響を受けた場合でも脳が正常な思考を維持する能力が低下する可能性があると指摘している。 論文の上席著者であるUCLの社会疫学教授のMika Kivimaki氏は、「うつ病には単一の形があるわけではない。症状は多様で、不安と重なり合うことも多い。われわれは、こうした微妙な症状パターンにより、認知症の発症リスクが高い人を明らかにできることを示した。この知見は、より個別化され、効果的なメンタルヘルス治療へとわれわれを1歩近付ける」と述べている。ただし、研究チームは、これらの結果を確認するためにはさらなる研究が必要だとしている。 英アルツハイマー病協会の研究・イノベーション部門アソシエイトディレクターであるRichard Oakley氏は、認知症とうつ病の関係は複雑だと指摘する。同氏は、「この新たな観察研究が、認知症とうつ病の関連を解きほぐし始めている点は心強い。それでも、うつ病の人の全てが認知症を発症するわけではなく、また、認知症の人の全てがうつ病を発症するわけでもないことを忘れるべきではない」と話している。

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第45回 「その抗菌薬投与は患者の益になるか?」重度認知症・肺炎診療の常識を問う

高齢化率が世界最高水準の日本において、重度認知症患者の肺炎診療はいわば日常的な光景です。「肺炎だから入院」「とりあえず抗菌薬」というフローは、多くの医療機関で標準的な対応として定着しているでしょう。しかし、NEJM Evidence誌に掲載された論考1)は、この「当たり前」の診療行為に対し、生存期間、QOL、そして患者の快適さという観点から鋭い問いを投げかけています。 本稿では、同誌の“Tomorrow's Trial”(将来行われるべき臨床試験の提案)として発表された記事1)を基に、重度認知症患者に対する肺炎治療の現在地と、われわれが直面している倫理的・臨床的ジレンマについて解説します。抗菌薬は「死」を10日先送りするだけ? この記事で紹介されるのは、87歳の重度認知症女性の症例です。寝たきりで会話ができず、家族の認識もできない状態で、発熱と呼吸器症状を呈して搬送されました。胸部X線で浸潤影を認め、臨床的には細菌性肺炎が疑われます。 ここで日本の臨床現場でもよくある葛藤が生じます。娘は、「母が苦しまず、現状の生活を維持できるなら生きていてほしい」と願っています。しかし、果たして抗菌薬投与はこの願いをかなえるのでしょうか? 残念ながら、重度認知症患者の肺炎に対して、抗菌薬投与が生存期間、QOL、患者の快適さを改善させるかどうかを比較したランダム化比較試験は、現時点では存在しません。 そのため、根拠とできるのは観察研究の結果のみですが、そのデータは衝撃的です。ある研究では、抗菌薬投与群は非投与群に比べて最初の10日間の死亡率の低下傾向が見られるものの(非投与群76%vs.投与群39%)、10日以降の死亡リスクには差がないことが示されています。これは、抗菌薬による治療が「死を約10日間遅らせる」可能性を示す一方、同時に「死にゆくプロセスを延長させているだけ」である可能性も示唆しています。「治療」がもたらす侵襲と不利益 「とりあえず抗菌薬を入れておこう」という判断が、患者にとって無害であれば問題は少ないかもしれません。しかし、重度認知症患者、とくに人生の最終段階に近い深刻なフレイルの患者にとって、抗菌薬治療が大きな負担となりうることも強調されるべきでしょう。 点滴確保による身体的苦痛、不慣れな急性期病院への搬送、環境の変化による混乱、そして知らない医療スタッフに囲まれるストレスは、認知症患者にとって計り知れない苦痛です。さらに、薬剤耐性菌の出現や、致死的になりうるClostridioides difficile感染症のリスク、下痢や腎機能障害といった副作用も無視できません。 また、米国の介護施設における観察研究では、呼吸器感染症が疑われた認知症患者の約70%に抗菌薬が処方されていましたが、実際に臨床的な細菌感染の基準を満たしていたのはそのうちの約33%にすぎなかったという報告もあります。診断の不確実性と「念のための投与」が、過剰医療と患者の負担を招いている現状が浮き彫りになっています。世界の潮流と日本の立ち位置 重度認知症患者の肺炎に対するアプローチには、地域によって大きな差があります。記事では、オランダと米国ミズーリ州の比較が紹介されています。 オランダでは、重度認知症患者の肺炎に対し、23%が抗菌薬なしで管理されていました。これは、治療方針が明示的に「緩和」に向けられており、あえて抗菌薬を差し控えるという選択がなされているためです。一方、ミズーリ州では重症度が高いほど抗菌薬が使用される傾向にあり、非投与率は15%にとどまりました。 日本はおそらく米国ミズーリ州に近い、あるいはそれ以上に「肺炎=治療」の文化が根強いといえるかもしれません。しかし、患者の予後が数ヵ月単位である場合、その治療が「治癒」を目指しているのか、それとも症状緩和を目指しているのか、その境界線は曖昧です。われわれには「答え」が必要である 本記事の著者らは、こうした長年の疑問に決着をつけるため、重度認知症の肺炎患者を対象とした、抗菌薬静注群とプラセボ静注群を比較する二重盲検RCTの実施を提案しています。主要評価項目は30日生存率だけでなく、QOLや患者の快適さといった「患者・家族中心の指標」が含まれる必要があるでしょう。 「肺炎に抗菌薬を使わない(プラセボを使う)」という試験デザインは、一見倫理的に許容されないように感じられるかもしれません。しかし、抗菌薬治療に確実な有益性のエビデンスがなく、むしろ害の可能性がある以上、この比較試験は倫理的に正当化されるものとなるでしょう。 日本の臨床現場において、すぐにオランダのような「あえて治療しない」選択肢を組み込むことはなかなか難しいでしょう。しかし、われわれが漫然と行っている抗菌薬投与が、本当に患者の「快適さ」や「望ましい最期」に寄与しているのか、一度立ち止まって考えるべき時が来ているのかもしれません。 次回の診療で、重度認知症患者の肺炎に直面した際、少し自問してみるのもいいのではないでしょうか。「この点滴は、患者の苦痛を取り除いているのか、それとも死の過程を引き延ばしているだけなのか」と。そんなことを考えてみるだけでも、慣例に流されがちな日々の処方に、「患者の尊厳」という重みを問い直し、静かな一石を投じることになるはずです。 1) Ahmad A, et al. Do Antibiotics Improve Survival, Quality of Life, and Comfort in Patients with Advanced Dementia and Pneumonia? NEJM Evid. 2026;5:EVIDtt2400447.

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アルツハイマー病、発症から診断までは2.2年/新潟大学ら

 アルツハイマー病(AD)では、治療・ケア方針の決定において早期診断が極めて重要となるが、日本における診断までの実際の経過は明らかではなかった。新潟大学の春日 健作氏らは、日本国内の複数施設を対象に、症状出現からAD診断に至るまでの期間とその過程で最も時間を要する段階を明らかにする後ろ向き観察研究を実施した。本試験の結果はAlzheimer's & Dementia誌オンライン版2025年12月25日号に掲載された。 本研究には、2011年4月~2023年3月に「ADによる軽度認知障害(MCI)」または「AD型認知症」と診断された18~79歳の患者138例が含まれた。発症年齢65歳未満を若年発症AD、65歳以上を高齢発症ADと定義し、初診日で1対1にマッチングした上で解析した。 主な結果は以下のとおり。・平均発症年齢±標準偏差は62.8±9.3歳、女性が62%(85例)、69%(95例)がかかりつけ医を有し、62%(86例)が症状出現時点で何らかの併存疾患の治療を受けていた。・症状出現からAD診断までの平均期間は121.8±88.9週(約2.2年)であった。内訳を見ると、最も長かったのは「症状出現から最初の医療機関受診まで」の期間で、77.0±74.4週と全体の大半を占めていた。・一方で、初診から認知症専門医への紹介までは34.9±49.2週、専門医受診から診断確定までは10.5±18.8週と比較的短期間であった。 研究者らは「これらの結果は、日本におけるAD診断遅延の最大のボトルネックが、医療機関受診以前の段階、すなわち患者本人や家族が症状を認知してから受診行動に至るまでの期間にあることを示している。早期診断が新規治療や適切な介入につながる時代において、一般市民や非専門医に対する啓発、初期症状への気付きを促す仕組みづくりが、診断までの時間短縮に不可欠であることが改めて示唆された」とした。

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片頭痛へのフレマネズマブ、小児・思春期児にも有益/NEJM

 反復性片頭痛を有する6~17歳の小児・思春期児において、フレマネズマブはプラセボと比較して、片頭痛および頭痛の日数を減少させたことが、米国・シンシナティ小児病院医療センターのAndrew D. Hershey氏らが行った3ヵ月間の海外第III相多施設共同無作為化プラセボ対照二重盲検試験の結果で示された。フレマネズマブ群で最も多くみられた有害事象は、注射部位紅斑であった。フレマネズマブは、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)に選択的に結合するヒト化モノクローナル抗体で、成人の片頭痛予防について承認されている。小児・思春期児について、無作為化試験のエビデンスが求められていた。結果を踏まえて著者は、「小児・思春期児におけるフレマネズマブの有効性と安全性をさらに調べるため、長期の追跡調査を行う必要がある」とまとめている。NEJM誌2026年1月15日号掲載の報告。プラセボと比較、3ヵ月投与の有効性と安全性を評価 試験は2020年8月20日~2024年3月13日に、9ヵ国89施設で被験者を募り行われた(74施設で少なくとも被験者1例が登録された)。 研究グループは、反復性片頭痛(片頭痛が6ヵ月以上持続かつ月当たりの頭痛日数が14日以下と定義)と診断された6~17歳の患児を、フレマネズマブ(体重45kg未満は120mg、45kg以上は225mgを月1回)皮下投与群または適合プラセボ投与群に無作為に割り付けて3ヵ月投与し、有効性と安全性を評価した。被験者は、急性頭痛の治療に、片頭痛に特異的な治療薬を用いることが許容された。 主要エンドポイントは、月当たりの平均片頭痛日数のベースラインからの変化量。重要な副次エンドポイントは、月当たりの中等度以上の頭痛日数の変化量、月当たりの片頭痛日数の50%以上低減などであった。月当たりの平均片頭痛日数減少、-2.5日vs.-1.4日で有意差 237例が無作為化され、234例が全解析集団に包含された。フレマネズマブ群が123例(120mg群36例、225mg群87例)、プラセボ群が111例であった。3ヵ月の二重盲検試験期間を完了したのは、フレマネズマブ群96.7%、プラセボ群94.6%であった。ベースラインの人口統計学的および臨床的特性は両群で類似しており、月当たり平均片頭痛日数(±SD)はフレマネズマブ群7.8±3.1日、プラセボ群7.5±2.8日であった。 主要エンドポイントについて、月当たりの平均片頭痛日数は、フレマネズマブ群(-2.5日、95%信頼区間[CI]:-3.2~-1.7)がプラセボ群(-1.4日、95%CI:-2.2~-0.7)と比べて有意に減少した(群間差:1.1日、p=0.02)。 月当たりの中等度以上の頭痛日数は、フレマネズマブ群(-2.6日)がプラセボ群(-1.5日)と比べて有意に減少した(群間差:1.1日、p=0.02)。また、月当たりの片頭痛日数が50%以上低減した被験者は、フレマネズマブ群47.2%、プラセボ群27.0%であった(群間差:20.1%、p=0.002)。 安全性について、少なくとも1つの有害事象を有したのはフレマネズマブ群68/123例(55.3%)、プラセボ群55/112例(49.1%)であったが、ほとんどが重篤ではなく、軽度~中程度の有害事象であった。 フレマネズマブ群で最も多く見られた有害事象は、注射部位紅斑(9.8%)であった(プラセボ群5.4%)。

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ムコ多糖症II型、新たな酵素補充療法が有望な可能性/NEJM

 ムコ多糖症II型(MPS II、ハンター症候群)は、イズロン酸-2-スルファターゼ活性の欠損によって発生する進行性のX染色体連鎖型のライソゾーム病で、神経系を含む臓器機能障害や早期死亡をもたらす。tividenofusp alfaは、イズロン酸-2-スルファターゼと改変トランスフェリン受容体(TfR)結合Fcドメインから成る、血液脳関門の通過が可能な融合タンパク質で、MPS IIの神経学的および末梢症状の治療を目的に開発が進められている新たな酵素補充療法(ERT)である。米国・University of North Carolina School of MedicineのJoseph Muenzer氏らは、小児男性患者を対象に行った、本薬のヒト初回投与の臨床試験の結果を報告した。NEJM誌2026年1月1日号掲載の報告。国際的な非盲検第I/II相試験 研究グループは、tividenofusp alfaの安全性および中枢神経系、末梢症状に対する効果の評価を目的に、国際的な非盲検第I/II相試験を実施した(Denali Therapeuticsの助成を受けた)。年齢18歳までのMPS IIの男性患者を対象とした。 tividenofusp alfa(週1回、静脈内投与)を24週間投与した後、80週間の安全性に関する延長試験と157週間の非盲検延長試験を行った(全261週)。 47例(用量設定コホート20例、15mg/kg投与コホート27例)を登録した。年齢中央値は5歳(四分位範囲:0.3~13)だった。44例(94%)が神経症状を伴うMPS IIで、3例(6%)は神経症状を伴わないMPS IIであり、15例(32%)がERTを受けた経験があった。注入反応の頻度が高いが管理可能 47例の全例で、3段階の試験期間中に少なくとも1件の有害事象を認め、最も高い重症度は、中等度が68%、重度が28%であった。死亡例の報告はなかった。治療関連の重篤な有害事象は3例(注入反応[infusion-related reaction]2例、貧血1例)に認めたが、これらの患者はすべて治療を継続した。 41例(87%)で、試験期間中に少なくとも1件の注入反応が発現し、最も頻度の高い有害事象であった。中等度が55%、重度が6%だった。注入反応の症状では、発熱、蕁麻疹、嘔吐の頻度が高く、ルーチンに前投薬を行ったにもかかわらず40%以上の参加者に発現した。 注入反応は全般に、担当医の判断による前投薬、注入速度の減速、減量によって管理可能であった。注入反応の発生は時間の経過とともに減少し、グルココルチコイドを含む前投薬も試験の進行に伴い減少した。ヘパラン硫酸値が低下、適応行動、肝臓容積も改善 その他の一般的な有害事象として、上気道感染症(60%)、発熱(55%)、咳嗽(47%)、嘔吐(43%)、下痢(40%)、発疹(40%)、貧血(38%)、新型コロナウイルス感染症(38%)、鼻漏(38%)を認めた。ベースライン時に19%(47例中9例)で貧血がみられたが、貧血を理由に試験を中止した参加者はいなかった。また、尿中総グリコサミノグリカン(GAG)値が悪化することはなく、改善の傾向を示した。 バイオマーカーについては、ベースラインと比較した24週時の脳脊髄液(CSF)中および尿中のヘパラン硫酸が、それぞれ91%および88%減少した。ヘパラン硫酸濃度の低下は153週目まで持続し、適応行動は安定化または改善した。ベースライン時に、24%(21例中5例)で肝臓容積に異常を認めたが、24週時には、これらを含む全例(18例中18例)で正常化または正常を維持していた。 著者は、「MPS II小児男性患者に対する週1回15mg/kgの静脈内投与によるtividenofusp alfa治療では、ERTの既知のリスクである注入反応を含む有害事象が高頻度に発現した」「中央値で2年間の治療により、基質の蓄積および神経細胞損傷の、中枢神経系および末梢のバイオマーカーが減少傾向を示し、臨床エンドポイント改善の可能性が示唆された」としている。

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早期から症状改善が期待できるうつ病治療薬「ザズベイカプセル30mg」【最新!DI情報】第55回

早期から症状改善が期待できるうつ病治療薬「ザズベイカプセル30mg」今回は、うつ病治療薬「ズラノロン(商品名:ザズベイカプセル30mg、製造販売元:塩野義製薬)」を紹介します。本剤は既存の抗うつ薬とは異なる作用機序を有するアロプレグナノロン様GABAA受容体機能賦活薬であり、投与開始後早期からの症状改善が期待されています。<効能・効果>うつ病・うつ状態の適応で、2025年12月22日に製造販売承認を取得しました。本剤は抑うつ症状が認められる患者の急性期治療に用いる薬剤であり、抑うつ症状が寛解または回復した患者における再燃・再発の予防を目的とした投与は行いません。<用法・用量>通常、成人にはズラノロンとして30mgを1日1回14日間夕食後に経口投与します。なお、本剤による治療を再度行う場合は、投与終了から6週間以上の間隔を空けます。<安全性>重大な副作用として、錯乱状態(頻度不明)があります。その他の副作用として、傾眠(20.0%)、めまい(12.6%)、頭痛、悪心、下痢、口渇・口内乾燥、ALT上昇、浮遊感、倦怠感(いずれも1~5%未満)、発疹、振戦、鎮静、注意力障害、健忘、嘔吐、腹部不快感、腹痛、AST上昇、γ-GTP上昇、歩行障害、酩酊感(いずれも1%未満)、嗜眠(頻度不明)があります。薬物依存を生じる恐れがあるので、用法・用量を遵守するとともに、本剤による治療を再度行う場合には、治療上の必要性を十分に検討する必要があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、脳内の神経伝達物質の働きを高め、情報伝達を活性化することで、うつ症状を改善します。2.薬物依存を生じる恐れがあるので、用法・用量を必ず守ってください。3.アルコールはこの薬の作用に影響するため、飲酒は控えてください。4.眠気やめまいなどの副作用が現れることがあります。自動車の運転や危険を伴う機械の操作は避けてください。5.うつ病やうつ状態の人は死んでしまいたいと感じることがあります。不安感が強くなったり、死にたいと思ったりする症状が悪化する場合があるので、このような症状が現れた場合には、医師または薬剤師に相談してください。<ここがポイント!>うつ病は、抑うつ気分や不安、睡眠障害、意欲低下などにより日常の生活に支障を来す精神疾患です。疫学調査によれば、日本におけるうつ病の患者数は約500万例と推測されています。薬物治療には主に抗うつ薬が用いられますが、効果発現までに数週間を要し、継続的な服用が必要となるため、即効性のある治療薬が求められてきました。本剤は、既存の抗うつ薬とは異なる作用機序を有するアロプレグナノロン様GABAA受容体機能賦活薬です。ポストシナプス領域内外のGABAA受容体にポジティブアロステリックモジュレーター(PAM)として作用し、GABAA受容体機能を増強します。これにより、うつ病態でみられる気分、不安、睡眠に関与する神経の興奮と抑制の均衡や協調的な神経ネットワーク活動の調節不全を改善します。本剤は、抑制系神経細胞に直接作用すると考えられているので、従来の抗うつ薬よりも迅速な効果発現が期待され、うつ症状が強く現れる急性期治療を目的に使用されます。本剤の用法・用量は1日1回14日間の経口投与です。十分な効果を得るとともに、副作用の日中に及ぼす影響を考慮して夕食後に30mg(1カプセル)を経口投与します。なお、本剤は再発・再燃予防を目的とした寛解後の維持期治療には使用できません。本剤による再治療を行う場合は、前回の投与終了から6週間以上の間隔を空ける必要があります。海外では、産後うつ病に対する治療薬として2023年8月に米国、2025年8月に英国、2025年9月に欧州で承認されています。日本人大うつ病性障害患者を対象とした国内第III相単剤検証試験(A3734試験)において、主要評価項目である15日時のハミルトンうつ病評価尺度17項目版(HAM-D17)合計スコアのベースラインからの変化量は、本剤30mg群で-7.43±0.40、プラセボ群で-6.23±0.41であり、2群間の調整平均値の差は-1.20(95%信頼区間:-2.32~-0.08)でした。本剤30mg群の15日時のHAM-D17合計スコアは、プラセボ群よりも統計学的に有意にベースラインから減少しました(p=0.0365)。

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夜勤と日勤の頭痛有病率、ストレスや睡眠の影響は?

 夜勤は、主に概日リズムの乱れや睡眠障害により、頭痛リスクを高めることが示唆されている。これまでの多くの研究において夜勤者と日勤者が比較されているが、両群間の職務特性や業務内容の違いがバイアスをもたらす可能性がある。デンマーク・The National Research Centre for the Working EnvironmentのRikke Harmsen氏らは、この潜在的なバイアスを最小限にする目的で、同一被験者における異なる労働条件(夜勤と日勤)が頭痛の発症に及ぼす影響を検討した。Headache誌2025年10月号の報告。 Danish hospital sectorの女性雇用者を含む「1001 nights-cohort」において、14日間の反復測定データを用いた解析を行った。データは、2022年9月〜2024年4月に収集された。参加者は、労働時間、睡眠、仕事関連の心理社会的ストレス要因、身体的職務負担、頭痛の発生(あり/なし)に関する毎日の情報を14日間連続で記入し提出した。1回以上の日勤と1回以上の夜勤のデータを有する参加者を解析対象とした。522人の参加者より3,348日の測定(日勤:1,926日、夜勤:1,422日)について回答が得られた。参加した個人内の反復測定を考慮し、可能性のある交絡因子を調整したうえで、頭痛の有病率比(PR)を推定した(調整有病率比:aPR)。 主な結果は以下のとおり。・頭痛は、日勤では21.5%、夜勤では27.9%で報告された。・仕事関連の心理社会的ストレス要因、身体的職務負担、睡眠時間および睡眠の質で調整した場合、夜勤は日勤と比較し、頭痛の有病率が有意に高かった(aPR:1.31、95%信頼区間[CI]:1.13〜1.52)。・連続夜勤では、同様に調整した頭痛の有病率は、最初の夜勤を基準とした場合、2回目の夜勤で最も高かった(aPR:1.20、95%CI:1.02〜1.42)。 著者らは「本研究は、仕事関連の心理社会的ストレス要因と身体的職務負担を考慮し、夜勤の頭痛有病率を日勤の頭痛有病率と比較した初めての研究である。これらの要因(心理社会的ストレス、身体的職務負担)、睡眠時間の短さ、睡眠の質の低下は、夜勤で観察された頭痛有病率の増加を説明できなかった。したがって、夜勤に関連する概日リズムの乱れの連鎖的な影響および根底にあるメカニズムが、夜勤者の頭痛の主な原因である可能性がある」と述べている。

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医師はパーキンソン病リスクが高い!?~日本の多施設研究

 職種とパーキンソン病リスクとの関連と発症後の職種の変更に関して、東海大学の中澤 祥子氏らが全国多施設におけるケースコントロール研究で調べたところ、サービス産業とホワイトカラー産業の専門職、とくに医師などの医療専門職においてパーキンソン病リスクが高いことが示唆された。BMJ Open誌2025年12月23日号に掲載。 本研究は、わが国の労働者健康安全機構労災病院が構築している入院患者病職歴データベース(Inpatient Clinico-Occupational Database of Rosai Hospital Group:ICOD-R)を使用したマッチドケースコントロール研究。2005~21年の入院患者データから、パーキンソン病と診断された2,205例をケース群、年齢・性別・入院年・病院が一致するパーキンソン病以外の1万436例をコントロール群とした。主要評価項目は、産業(ブルーカラー、サービス、ホワイトカラー)および職業階級(ブルーカラー労働者、サービス労働者、専門職、管理職)で分類した職種(最も長く従事した職種)とパーキンソン病リスクとの関連とした。副次評価項目は、パーキンソン病リスクが高い職種および産業、60歳未満における診断前後の職種の変化、化学物質曝露・喫煙状況・性別とパーキンソン病リスクとの関連とした。 主な結果は以下のとおり。・喫煙と飲酒による調整後、サービス産業(オッズ比[OR]:2.01、95%信頼区間[CI]:1.24~3.25)およびホワイトカラー産業(OR:1.33、95%CI:1.10~1.61)の専門職は、サービス労働者よりパーキンソン病リスクが高かった。医師、歯科医師、獣医師、薬剤師は、パーキンソン病リスクが高かった。・パーキンソン病患者160例のうち、47%が無職、20%が自主退職、30%が仕事を継続していた。・多重比較による調整後、化学物質曝露はパーキンソン病リスクとの関連は認められなかった。一因として曝露を受けた被験者数が少なかった可能性がある。・ブルーカラー産業のブルーカラー労働者およびサービス労働者では、過去または現在喫煙者はパーキンソン病リスクが低かった。

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第44回 進行したアルツハイマー病が「元に戻る」? 驚きの最新研究で見えた治療の新たな光

「進行したアルツハイマー病は『不可逆』である」。 長年、一度失われた認知機能は元には戻らないというのが定説でした。しかし、2025年12月にCell Reports Medicine誌に発表された研究は、その常識を覆す可能性を秘めています1)。 今回は、進行したアルツハイマー病の状態から認知機能を「回復」させたという最新の研究成果と、その鍵を握る「NAD+」という物質について解説していきます。「手遅れ」の状態から記憶力が復活? アルツハイマー病の治療薬といえば、最近話題のレカネマブやドナネマブのように、脳に溜まった「アミロイドβ」というゴミを取り除くことで、病気の進行を「遅らせる」ものが主流です。しかし、今回の研究チームが報告したのは、進行を遅らせるだけでなく、進行した症状を「逆転」させたという衝撃的なデータでした。 研究チームが使用したのは、遺伝子操作によって重度のアルツハイマー病を発症するようにしたマウスです。このマウスに対し、人間で言えばすでに認知症がかなり進行し、脳内の炎症や神経細胞の損傷が進んでいる「進行期」にあたる段階から、「P7C3-A20」という化合物を投与し始めました。 通常であれば、この段階のマウスは記憶力や学習能力が著しく低下しています。しかし、この化合物を投与されたマウスたちは、驚くべき回復を見せました。 たとえば、新しい物体を見分けるテストや、プールの中で逃げ場所を探すテストにおいて、健康なマウスと変わらないレベルまで成績が回復したのです。 さらに、脳の内部を詳しく調べると、以下のような変化が起きていました。 血液脳関門の修復: 脳を有害物質から守るバリア機能(血液脳関門)が壊れていたのが、修復されていました。 炎症と酸化ストレスの減少: 脳内の慢性的な炎症や、細胞を錆びつかせる酸化ストレスが劇的に抑えられていました。 神経細胞の保護: 新しい神経細胞が生まれる機能が回復し、既存の神経細胞の死滅も防がれていました。 これは、単に「進行が止まった」だけでは説明がつかない、脳機能の「再生」に近い現象が起きたことを示唆しています。鍵を握る「NAD+」:脳のエネルギー通貨 では、この「P7C3-A20」という化合物は、一体何をしたのでしょうか? その答えは、「NAD+」という物質の調整にあります。 NAD+は、私たちのすべての細胞の中に存在し、エネルギーを生み出したり、傷ついたDNAを修復したりするために不可欠な「燃料」のようなものです。研究チームは、アルツハイマー病のマウスや、実際の人間の患者さんの脳内でも、このNAD+のバランス(恒常性)が崩れ、枯渇していることを突き止めました。 つまり、脳がダメージを受けたとき、それを修復するための「エネルギー(NAD+)」が足りず、防御システムが崩壊しているのがアルツハイマー病の進行に深く関わっているようなのです。 今回使用された「P7C3-A20」は、このNAD+を作る酵素を活性化させることで、脳内のNAD+レベルを正常に戻す働きをしました。重要なのは、NAD+を過剰に増やすのではなく、「正常なレベルに戻した」という点です。「アミロイドβがあっても発症しない人」の謎 さらにこの研究が興味深いのは、マウスだけでなく、人間のデータともリンクしている点です。 実は、亡くなった高齢者の脳の解剖を行うと、脳内ではアミロイドβの蓄積など、アルツハイマー病の特徴がはっきりと見られるにもかかわらず、生前は認知症を発症していなかった人が一定数存在します。 「なぜ彼らは、脳にゴミが溜まっていても認知症にならなかったのか?」 この長年の謎に対し、今回の研究は一つの答えを提案しています。研究チームが認知症にならなかった人の脳を調べたところ、彼らの脳内ではNAD+を作り出すシステムが正常に保たれていたのです。 つまり、アミロイドβなどのゴミがあっても、NAD+という「燃料」が十分にあり、脳の修復システム(レジリエンス=回復力)が正常に働いていれば、認知症の発症を防げる可能性があるというわけです。ただし、ぬか喜びは禁物 ここまで読むと、「NAD+のサプリを飲めばいいのでは?」「もうアルツハイマー病は治る病気になったのか?」と期待してしまうかもしれません。しかし、冷静になるべきいくつかの重要な「壁」があります。 まず、今回使われたのは、遺伝子操作によって強制的にアルツハイマー病を発症させたマウスです。人間のアルツハイマー病は、遺伝要因だけでなく、生活習慣や加齢など複雑な要因が絡み合って発症するため、マウスで効いた薬が人間でも同じように効くとは限りません。 また、「NAD+を増やせばいい」と単純に考えるのは危険です。過去の研究では、NAD+の前駆体(材料となる物質)を過剰に摂取すると、NAD+レベルが異常に高くなりすぎてしまい、たとえばがん細胞の増殖を助けてしまうリスクなどが指摘されています。今回のP7C3-A20という薬剤は、NAD+を「正常範囲」に留める特性があったため成功しましたが、市販のサプリメントで同様の安全で精密なコントロールができるかは不明です。 さらに、このP7C3-A20という化合物も、まだ人間での臨床試験の結果が出ているわけではありません。人間でも効果が見られるか、安全に使えるかを確認するには、それ相応のプロセスが必要です。私たちが知っておくべきこと それでも、この研究が示した「希望」は色褪せないでしょう。これまでアルツハイマー病の治療は「原因と思わしき物質(アミロイドβなど)を取り除く」ことに主眼が置かれてきました。しかし今回の研究は、「脳の回復力(レジリエンス)を高める」という新しいアプローチが、すでに進行してしまった病気に対しても有効である可能性を示しました。 「死んでしまった神経細胞は元には戻らない」というこれまでの常識に対し、実は細胞が死滅するずっと手前の段階で、エネルギー不足によって機能不全に陥っているだけの細胞が多くあり、それらは救済可能かもしれないのです。 ただし、今の私たちができることは、怪しいサプリメントに飛びつくことではなく、この「脳の回復力」に着目した新しい治療開発の行方に注目し続けることでしょう。そして、規則正しい生活や運動が、このNAD+レベルを含む脳の代謝システムを維持するのに良い影響を与える可能性についても、改めて検討されるべきかもしれません。 1) Chaubey K, et al. Pharmacologic reversal of advanced Alzheimer's disease in mice and identification of potential therapeutic nodes in human brain. Cell Rep Med. 2025 Dec 22. [Epub ahead of print]

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