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たとえ少量でも飲酒は認知症リスクを高める

 どんな量であっても飲酒は認知症リスクを高める可能性のあることが、新たな研究で明らかになった。予防効果がある可能性が指摘されていた少量のアルコール摂取でさえ、認知症リスクを下げる可能性は低く、リスクは摂取量に応じて増加することが示されたという。英オックスフォード大学のAnya Topiwala氏らによるこの研究結果は、「BMJ Evidence Based Medicine」に9月23日掲載された。 研究グループは、「この研究結果は、軽度の飲酒が認知症予防に効果的である可能性を示した過去の研究に疑問を投げかけるものだ。われわれの研究結果は、種類を問わず、飲酒が認知症リスクに有害な影響を及ぼすことを裏付けており、これまで示唆されていた適度な飲酒の予防効果を裏付けるエビデンスは認められなかった」と述べている。 この研究では、米国(US Million Veteran Programme)と英国(UKバイオバンク)で行われた2つの大規模研究に参加した総計55万9,559人(試験開始時の年齢56〜72歳)のデータを用いて、飲酒と認知症との関連が検討された。平均追跡期間は、米国コホートで4年、英国コホートで12年であった。 追跡期間中に1万4,540人が認知症を発症し、4万8,034人が死亡していた。まず、対象者のアルコール摂取量と認知症との関連を見たところ、U字型の関連が認められた。具体的には、アルコールを摂取しない人、大量摂取者(1杯=エタノール約14gとした場合、週40杯以上)、およびアルコール使用障害のある人は、軽度摂取者と比べて認知症リスクが有意に高く、大量摂取者ではリスクが41%、アルコール使用障害のある人では51%、それぞれ増加していた。 しかし、対象者の認知症とアルコール摂取に関する遺伝的リスクを考慮すると、アルコール摂取量に関係なく、摂取量が増えるにつれてリスクは着実に上昇することが示された。具体的には、対数変換した1週間当たりのアルコール摂取量が1標準偏差増えるごとに、認知症リスクは15%増加し、遺伝的にアルコール使用障害になるリスクが2倍の人では認知症リスクは16%増加していた。 研究グループは、「アルコール使用障害の人口罹患率を半減させることで、認知症の症例を最大16%減らすことができる可能性がある。この結果は、認知症予防政策においてアルコール摂取量の削減が戦略となり得ることを明示している」と記している。 さらに、認知症を発症した人では、診断前の数年間はアルコール摂取量が少なかったことも明らかになった。このことから研究グループは、過去の研究では、適度な飲酒に認知症の予防効果があることが示唆されていたが、実際には、早期の脳機能低下がアルコール摂取量の減少につながっていたのであり、観察された効果は因果の逆転に陥っていた可能性が高いとの見方を示している。 こうしたことを踏まえて研究グループは、「本研究で観察された認知症診断前のアルコール摂取量の減少パターンは、特に高齢者集団において、観察データから因果関係を推測することの複雑さを強調している」と記している。この研究結果は、アルコール摂取と認知症に関する研究では逆因果関係と残余交絡を考慮することの重要性を浮き彫りにしており、アルコール摂取量を減らすことが認知症予防の重要な戦略となる可能性があることを示唆している」と結論付けている。

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片頭痛発作の急性期治療と発症抑制の両方に有効な経口薬「ナルティークOD錠75mg」【最新!DI情報】第49回

片頭痛発作の急性期治療と発症抑制の両方に有効な経口薬「ナルティークOD錠75mg」今回は、経口カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬「リメゲパント(商品名:ナルティークOD錠75mg、製造販売元:ファイザー)」を紹介します。本剤は、わが国で初めての片頭痛の急性期治療および発症抑制の両方を適応とする治療薬です。<効能・効果>片頭痛発作の急性期治療および発症抑制の適応で、2025年9月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>片頭痛発作の急性期治療:通常、成人にはリメゲパントとして1回75mgを片頭痛発作時に経口投与します。片頭痛発作の発症抑制:通常、成人にはリメゲパントとして75mgを隔日経口投与します。<安全性>重大な副作用として、過敏症(頻度不明)があります。その他の副作用として、便秘(1%以上)、浮動性めまい、悪心、下痢、アラニンアミノトランスフェラーゼ増加(いずれも0.5~1%未満)、上気道感染、尿路感染、単純ヘルペス、前庭神経炎、白血球減少症、好中球減少症、鉄欠乏性貧血、貧血、食欲亢進、うつ病、不眠症、易刺激性、異常な夢、錯乱状態、不安、傾眠、片頭痛、頭痛、錯感覚、頭部不快感、味覚不全、ドライアイ、回転性めまい、動悸、高血圧、潮紅、呼吸困難、腹痛、嘔吐、腹部不快感、胃食道逆流性疾患、肝機能異常、脂肪肝、発疹、そう痒症、ざ瘡、多汗症、蕁麻疹、頚部痛、背部痛、頻尿、疲労、倦怠感、口渇、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ増加、血中クレアチンホスホキナーゼ増加、体重増加、肝酵素上昇、血中クレアチニン増加、糸球体濾過率減少、肝機能検査値上昇、血圧上昇、心電図QT延長、サンバーン(いずれも0.5%未満)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、片頭痛発作の急性期治療および発症抑制に用いられます。「前兆のない片頭痛」および「前兆のある片頭痛」のどちらにも使用できます。2.発作時には、頓用で服用します。ただし、1日に1錠を超えての服用はできません。3.発症を予防するには、隔日(2日に1回)、決まった時間に服用します。この薬を服用した日は、急性期治療として追加服用はできません。服用前であれば、急性期治療のために頓用で服用できますが、同日中に発症予防のための追加服用はできません。服用日以外の日に発作が生じた場合は、1日1錠まで服用ができます。<ここがポイント!>片頭痛は代表的な一次性頭痛の1つで、本邦における年間有病率は約8%(前兆のない片頭痛が5.8%、前兆のある片頭痛が2.6%)と報告されています。片頭痛は、日常生活に大きな支障を来す疾患であり、多くの患者が家事や仕事の生産性低下に悩まされています。片頭痛の主な誘因としてはストレスが最も多く、その他に女性ホルモンの変動、空腹、天候の変化、睡眠不足または過眠、特定の香水やにおいなどが挙げられます。片頭痛の発症機序は完全には解明されていませんが、「三叉神経血管説」が広く受け入れられています。この説では、何らかの原因で三叉神経を構成する無髄線維(C線維)からカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が放出され、脳血管の拡張や神経の炎症を引き起こすことで痛みが生じると考えられています。リメゲパントは、CGRP受容体拮抗薬であり、CGRPによる血管拡張や神経原性炎症の誘導を阻害することで、片頭痛に伴う痛みや諸症状を軽減します。本剤の特徴は、わが国で初めて片頭痛発作の急性期治療および発症抑制の両方に適応を有する点です。急性期治療には片頭痛発作時に頓服で服用し、発症抑制には隔日で服用します。また、本剤は薬剤の使用過多による頭痛(薬物乱用頭痛:MOH)を誘発する可能性が低いと考えられているため、MOHの発症リスクを有する患者、またはMOHの既往のある患者について、添付文書上で特別な注意喚起をしていません。急性期治療に関しては、中等度または重度の片頭痛を有する日本人患者を対象とした国内第II/III相試験(BHV3000-313/C4951022試験)において、主要評価項目である投与2時間後の疼痛消失割合は、本剤75mg群で32.4%、プラセボ群で13.0%でした。群間差(本剤群-プラセボ群)は、19.4%(95%信頼区間[CI]:12.0~26.8)で本剤群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(p<0.0001、Mantel-Haenszel検定)。一方、発症抑制に関しては、日本人患者を対象に片頭痛の予防療法を評価した国内第III相試験(BHV3000-309/4951021試験)において、主要評価項目である二重盲検期の最後の4週間(Week 9~12)での1ヵ月当たりの片頭痛日数のベースラインからの平均変化量は、本剤群で-2.4日(95%CI:-2.93~-1.96)、プラセボ群で-1.4日(95%CI:-1.87~-0.91)でした。両群間の差は-1.1日(95%CI:-1.73~-0.38)であり、本剤群のプラセボ群に対する優越性が検証されました(p=0.0021、反復測定線形混合効果モデル)。

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アルツハイマー病の隠れた危険因子、「てんかん」との密接な関係【外来で役立つ!認知症Topics】第34回

アルツハイマー病(AD)や認知症の予防因子、とくに介入可能性のあるものについては、近年のLancet誌の特集が最も有名であることは、本連載ですでに紹介した。その作業部会では、危険因子に関する論文を蓄積してレビューし、重要因子を確認する作業を行い、最新情報が発信されている。さて筆者は、介入可能な危険因子として、「てんかん」が遠からず注目されるのではないかと思う。今回は、この「てんかん」とADの関係を述べる。高齢者のてんかんは見過ごされやすいてんかんは長年、子供の病気と思われてきた。また、高齢者のてんかんでは、痙攣を伴わないことも多いので、それと気付かれにくい。最も多い「焦点意識減損発作(旧名:複雑部分発作)」では、以下のような症状がみられる。心ここにあらずといった様子で、ぼーっとしている口をもごもごさせる奇妙な動作を繰り返すこのようなてんかん発作や、発作後もうろう状態下でも、ある程度複雑な行動ができることは記憶に留めたい。たとえば、赤信号では止まって、青になると歩き出せる。入浴中の発作なら、風呂を出て服を着ることもある。誰かと会話中の発作なら、会話内容がとんちんかんになっても続く。こうしたてんかんでは、意識が完全に回復するまで数十分程度かかる。そして、その間のことを覚えていない。なお臨床研究からは、こうしたてんかんを伴うAD患者では、認知機能低下が加速することがわかっている。互いに影響し合うADとてんかん高齢者のてんかんとADの関係に注目する最大の理由は、併発率が非常に高いことにある。AD患者は、健康成人に比べて、てんかんのリスクが3.1倍高まり、逆にてんかん患者におけるADの発症率は1.8倍高いことが、メタ解析から示されている1)。また、病理学的にADと確定診断された446例のうち17%が、AD診断後に新たなてんかん発作を生じ、その89%が全般性強直間代発作だったとされる2)。さらに、長期に繰り返した脳波測定からは、ADの前臨床期という早い段階で、意識障害を伴う局所性のてんかんが高頻度にみられることも報告されている3)。一方、子供の頃に発症したてんかんとADに関しては、動物実験から、認知機能低下やアミロイドの沈着がまだみられない若い時期でも、神経回路の過剰な興奮と「てんかんの準備状態」を確認した報告がある。またヒトの研究でも、常染色体顕性のAD遺伝子を持つ者、APOE4遺伝子を持つ者、晩発性ADの危険性の高い者では、無症状期であっても、認知課題を負荷した時、てんかんとの関係が深い「海馬」の過剰活動を認めることが知られる。実験レベルでは、アミロイドβとタウは、神経の過剰活動を起こすことで、てんかん性の活動を惹起する。逆に、てんかんに関わる神経ネットワークの過剰興奮は、アミロイドβとタウの比率を崩し、AD病理の端緒になるとされる。以上のように、基礎研究と疫学研究の両面から、ADとてんかんとの双方向関係が示唆されている。診断の鍵は「脳波」にありてんかんの診断根拠は、「発作間欠期てんかん性放電(IED)」の確認にある。24時間連続脳波計の記録によれば、AD患者の22~53%が臨床的な発作はないにもかかわらず、こうしたてんかん性放電を示したとされる。この存在率は一般の健康成人よりも明らかに高い。このような脳波の異常は、実際のてんかん発作を引き起こさないが、一過性の認知機能障害につながると考えられている。既述のように、近年、脳波上のてんかん活動は、ADによくみられる併存症でありながら、しばしば見過ごされてきたと強調されている4)。なお、以上に述べた臨床的、基礎的知見は、レビー小体型認知症(DLB)でも同様の傾向がみられる。臨床現場でみられる特徴的な「物忘れ」筆者は、認知症を心配して受診された新規患者では、原則として脳波検査を施行する。個人的な経験として、全患者の約5%でてんかん性の異常脳波所見と臨床症状を確認し、治療をしている。こうした患者さんの物忘れに関する訴えは特徴的なので、診断にとても役立つ。訴えには2種類ある。記憶が「プツン」と途切れて、まったく思い出せないこの多くは焦点意識減損発作など、発作そのものだろう。「プツン」がない時でも、本来10あった記憶能力が8か9に下がっているという自覚があるこの訴えは興味深い。実はIEDは、認知機能に対して慢性の悪影響を及ぼすが、動物実験によれば、この放電は海馬と大脳皮質との間の情報伝達を阻害し、記憶障害をもたらす。この現象が「記憶力が8か9に下がっている」という主観的表現になるのだろう。治療に関しては、てんかんと認知症との合併例では、抗てんかん薬により多くのてんかん発作は消失する。それに伴い、少なからぬ例でQOLの改善が自覚される。もっとも、認知機能の改善については、経験上、てんかんが治ると良くなるケースもあるが、メタアナリシスレベルの評価では、まだ肯定的な結論は示されていない。なお、新世代の抗てんかん薬には、こうした合併例での認知機能低下を抑える効果が期待されている。終わりに、ADやDLBが疑われる患者で脳波検査が行われることは少ないようだ。しかし、診断の精度を高め、治療の効率を上げるためにも、脳波は取っておきたい。また、若い頃に発症したてんかんのある人が、認知機能の評価を受ける機会も多くない。若い頃からてんかんのある人が50代以降になられた際には、一度は認知機能のチェックをすることをお勧めしたい。参考文献1)Dun C, et al. Bi-directional associations of epilepsy with dementia and Alzheimer's disease: a systematic review and meta-analysis of longitudinal studies. Age Ageing. 2022;51:afac010.2)Mendez MF, et al. Seizures in Alzheimer's disease: clinicopathologic study. J Geriatr Psychiatry Neurol. 1994;7:230-233.3)Vossel KA, et al. Seizures and epileptiform activity in the early stages of Alzheimer disease. JAMA Neurol. 2013;70:1158.4)Chen TS, et al. .The Role of Epileptic Activity in Alzheimer's Disease. Am J Alzheimers Dis Other Demen. 2024;39:15333175241303569.

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ノーベル賞をとる秘訣【Dr. 中島の 新・徒然草】(602)

六百二の段 ノーベル賞をとる秘訣とうとう関西万博が終わってしまいましたね。私はついぞ行かずじまいでした。後で考えてみると、職場から電車1本で行けたのに惜しいことをしたものです。風に吹かれながら夜の海の上の大屋根リングを歩いたらどんなに気持ち良かっただろう、と思わずにはいられません。せめてYouTubeの映像を見て行った気になることにしましょう。さて、2025年の秋、日本から2人ものノーベル賞受賞者が誕生しました。これで日本出身かつ日本国籍の受賞者は通算27人となります。国別では、アメリカ(410人)、イギリス(133人)、ドイツ(85人)、フランス(68人)、スウェーデン(34人)に次ぐ第6位!「ノーベル賞大国」と言っても過言ではありません。ちなみに、愛媛県出身の中村 修二氏(青色LED)は米国籍のためアメリカに、長崎生まれのカズオ・イシグロ氏も英国籍のためイギリスにカウントしています。ノーベル賞で思い出すのは1990年代前半のこと。放射線科にいた私はMRI装置を操作しながら、当時ノーベル賞を受賞したばかりのPCRについて研修医に質問しました。 中島 「PCRってどんな原理なわけ?」 研修医 「温度の上げ下げだけで微量のDNAを大量コピーできる技術ですよ」 中島 「もう少し詳しく教えてくれるかな」 研修医 「ざっくり言えば、温度を上げて2本鎖DNAを1本鎖に分け、温度を下げてそれぞれから再び2本鎖を作る。それを繰り返して倍々に増やすんです」 中島 「なるほど。2本が4本に、4本が8本に……という具合か」 研修医 「ええ。ポイントは、高温でも失活しない酵素を使ったことです。イエローストーン国立公園の高温環境に棲む微生物から採ってきたそうですよ」 中島 「あそこは熱湯の中でも生きている奴がいるらしいからな」 研修医 「この技術のおかげでDNA研究が一気に進みましたから。本当にすごすぎます」 一口に研修医といっても前職はいろいろなので、PCRのことをよく知っていても不思議ではありません。でも、彼が詳しいのはPCRだけでなく画像診断機器も!ちょうどわれわれが扱っていたのがMRIだったこともあり、話題はCTへ移りました。 研修医 「1970年代にノーベル賞をとったCTも、実はうまい裏技が使われているんです」 中島 「へえー」 研修医 「CTの原理はご存じですよね」 中島 「被写体にさまざまな角度からX線を照射し、透過量から内部構造を逆算するってやつでしょ」 研修医 「そのとおり。でも当時のコンピュータには、そんな複雑な計算をするパワーがなかったんです」 中島 「じゃあ、どうしたわけ?」 研修医 「発明者のハウンズフィールドは、正確な計算を捨てて近似解を使ったんです」 そう言って彼は手近な紙に図を描いてみせてくれました。中央の物体に、いろいろな方向から直線を引いたものです。後で調べてみると、それは逆投影法と呼ばれる手法でした。 研修医 「こうすると計算量が一気に減るんですよ」 中島 「なるほどねえ」 研修医 「その後のCTの活躍は言うまでもありません」 中島 「確かに」 当時の脳外科医たちが「神様からの贈り物だ!」と言ったとか。その気持ちはよくわかります。暗闇を手探りで歩いていたところに、突然懐中電灯を渡されたようなもの。世界の見え方が一変したことでしょう。 研修医 「僕が本当に言いたいのはここからなんです」 中島 「は?」 研修医 「PCRにしてもCTにしても、新発見そのものだけでなく、その後の社会へのインパクトがすごかったということです」 まだ話の先が見えん。 研修医 「だから中島先生。もしノーベル賞を狙うなら、新規性だけでなく、世の中への影響も必要なんですよ」 なるほど、なるほど。 中島 「ありがとう。今の話、すごくタメになったよ」 研修医 「先生に喜んでもらえて良かったです。ぜひ頑張ってください」 中島 「よっしゃあああ!」 そのときの私は感動したものの、その後に何か画期的な成果を上げたわけではありません。正確に言えば、彼のアドバイスが役に立たなかったのではなく、私が役立てることができなかったということです、すみません。それでも、こうして何十年後かにケアネットを通じて皆さんに伝えているわけですから。誰かが彼の言葉を役に立ててくれたら、もうそれで十分!研究の新規性と、その社会的インパクト。それこそが、ノーベル賞をとるための秘訣ですね。読者の皆さま、ぜひ、あの研修医のアドバイスをお役立てください。最後に1句 万博が 終われば次は ノーベル賞

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嚥下障害を起こしやすい薬剤と誤嚥性肺炎リスク

 飲食物を飲み込む機能障害である嚥下障害は、さまざまな疾患や薬物の副作用により引き起こされる可能性があり、誤嚥性肺炎のリスク因子となっている。しかし、嚥下障害を引き起こす特定の薬剤やその発現率については、これまで十分に解明されていなかった。慶應義塾大学の林 直子氏らは、添付文書の情報に基づき、嚥下障害に関連する薬剤およびその発現率、これらの薬剤を服用している患者における誤嚥性肺炎のリスク因子を特定するため、日本のレセプトデータベースの横断的分析を行った。Drugs-Real World Outcomes誌オンライン版2025年9月19日号の報告。 本研究では、嚥下障害誘発薬剤の候補(candidate dysphagia-inducing drug:CDID)を、副作用として嚥下障害が記載されている日本の添付文書より特定した。CDIDを服用している患者の年齢、性別、服用薬、併存疾患について、ジャムネットのJammNet保険データベースを用いて分析した。 主な結果は以下のとおり。・54成分がCDIDとして特定された。・CDIDを服用している2万4,276例のうち、嚥下障害は146例(0.6%)、誤嚥性肺炎は76例(0.3%)で認められた。・誤嚥性肺炎と診断された患者のうち、23例(30%)は嚥下障害を併発していた。・対象となった54成分のうち28成分(52%)を服用している患者で、嚥下障害または誤嚥性肺炎が発現した。・さらに13成分は、嚥下障害または誤嚥性肺炎のいずれかの副作用発現率が1%以上であった。・各診断における発現率が最も高かった上位5つのCDIDは、クロバザム、バクロフェン、ゾニサミド、チアプリド塩酸塩、トピラマートであった。・複数のCDID服用は単剤のCDID服用と比較し、嚥下障害および誤嚥性肺炎の発現率が有意に高かった(p<0.05)。・ロジスティック回帰分析では、誤嚥性肺炎の発現は、男性、後期高齢者、嚥下障害の診断、便秘と有意に関連していることが示された。 著者らは「本研究結果は、CDIDを処方する際には、とくに高齢の男性患者の場合、誤嚥性肺炎のリスクに細心の注意を払う必要があることを示唆している」と結論付けている。

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シンバスタチン、二次性進行型多発性硬化症への効果は?/Lancet

 先行の疫学研究により、多発性硬化症(MS)の重症度と血管合併症の関連が指摘され、第IIb相のMS-STAT試験では、HMG-CoA還元酵素阻害薬シンバスタチンはプラセボに比べ、二次性進行型多発性硬化症(SPMS)患者の脳萎縮率を年間43%低減するととともに、総合障害度評価尺度(EDSS)の有意な改善が報告されている。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのJeremy Chataway氏らMS-STAT2 Investigatorsは、第III相の「MS-STAT2試験」において、SPMS患者の障害進行の抑制に関して、シンバスタチンは有意な効果をもたらさないことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年10月1日号で発表された。英国の無作為化プラセボ対照比較試験 MS-STAT2試験は、英国の31施設で実施した二重盲検無作為化プラセボ対照比較試験であり、2018年5月~2021年9月に参加者の適格性を評価した(英国国立医療・社会福祉研究所[NIHR]医療技術評価プログラムなどの助成を受けた)。 McDonald診断基準でMSと確定され、EDSSのスコアが4.0~6.5であり、過去2年間に身体障害の継続的な進行がみられるためSPMSと診断された患者964例(平均年齢[±SD]54±7歳、女性704例[73%])を登録した。 被験者を、シンバスタチン80mgを経口投与する群(482例)、またはプラセボ群(482例)に無作為に割り付け、3~4.5年間投与した。 主要アウトカムは、6ヵ月後にEDSSで確定された身体障害の進行(ベースラインのEDSSスコアが6.0未満の場合は1点以上の増加、6.0以上の場合は0.5点の増加)とし、ITT解析を行った。副次アウトカムにも差はない 主要アウトカムのイベントは、シンバスタチン群で173例(36%)、プラセボ群で192例(40%)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(補正後ハザード比:1.13、95%信頼区間[CI]:0.91~1.39、p=0.26)。主要アウトカムの感度分析およびper-protocol解析でも、両群間に有意差はみられなかった。 5つの臨床的副次アウトカム(multicomponent disability progression、multiple sclerosis functional composite[MSFC]、Sloan low contrast visual acuity[SLCVA]、修正Rankinスケール[mRS]、brief international cognitive assessment for multiple sclerosis[BICAMS])については、シンバスタチン群の有益性を示すエビデンスは得られなかった。一方、multicomponent disability progressionの3つの構成要素のうち、上肢機能の指標である9-hole peg test(9HPT)はシンバスタチン群で優れた(補正後オッズ比:1.68、95%CI:1.05~2.69、p=0.031)。 4つの患者報告による副次アウトカム(multiple sclerosis impact scale-29 version 2[MSIS-29v2]、multiple sclerosis walking scale 12[MSWS-12v2]、modified fatigue impact scale 21[MFIS-21]、Chalder Fatigue Questionnaire[CFQ])は、いずれも両群間に差はなかった。 また、再発率はシンバスタチン群で有意に高かった(0.05 vs.0.07/人年、補正後発生率比:1.43、95%CI:1.01~2.01、p=0.044)が、数値そのものは低かった。SPMSの進行抑制に実質的な効果はない 追跡期間中に79例が疾患修飾薬による治療を開始した(シンバスタチン群43例[9%]、プラセボ群36例[7%])。このうち73例がシポニモドを使用した。 安全性に関する緊急の問題や、予期せぬ重篤な有害反応を疑わせる事例の報告はなかった。シンバスタチン群の1例で、重篤な有害反応が発現した(治療開始から56日後に横紋筋融解症で入院、続発症の発現なく回復)。心血管系の重篤な有害事象は、シンバスタチン群で5例(1%)、プラセボ群で12例(2%)に発生した。 著者は、「シンバスタチンは、SPMSの進行抑制において実質的な治療効果はないことが明らかとなった」「MSの疾患修飾薬としてのシンバスタチンの位置付けは確立していないが、スタチンは引き続きMS患者の血管合併症の1次および2次予防において重要な役割を担うと考えられる」としている。

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アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾール〜RCTメタ解析

 アジテーションは、苦痛を伴う神経精神症状であり、アルツハイマー病の約半数にみられる。また、アルツハイマー病に伴うアジテーションは、認知機能の低下を促進し、介護者の負担を増大させる一因となっている。セロトニンおよびドーパミンを調節するブレクスピプラゾールは、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対する有効性が示されている薬剤であるが、高齢者における有効性、安全性、適切な使用については、依然として不確実な点が残っている。ブラジル・Federal University of PernambucoのAnderson Matheus Pereira da Silva氏らは、アルツハイマー病高齢者のアジテーションに対するブレクスピプラゾールの有効性および安全性を評価するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびメタ解析を実施した。CNS Drugs誌オンライン版2025年8月31日号の報告。 本研究は、PRISMA 2020ガイドラインおよびコクランハンドブックに従い、実施した。分析対象には、臨床的にアルツハイマー病と診断された高齢者を対象に、ブレクスピプラゾール(0.5〜3mg/日)とプラセボを比較したRCTを組み入れた。主要アウトカムは、アジテーションの重症度、臨床的重症度、精神神経症状、有害事象とした。アジテーションの重症度、臨床的重症度、精神神経症状の評価には、それぞれCohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)、臨床全般印象度-重症度(CGI-S)、Neuropsychiatric Inventory Questionnaire(NPI)を用いた。リスク比(RR)、平均差(MD)、95%信頼区間(CI)は、ランダム効果モデルを用いて統合した。ランダム効果メタ解析は、頻度主義モデルおよびベイズモデルver.4.3.0を用いて実施した。 主な結果は以下のとおり。・5件のRCT、1,770例を分析に含めた。・ブレクスピプラゾール治療は、CMAIのアジテーション(MD:-5.79、95%CI:-9.55〜-2.04、予測区間:-14.07〜-2.49)の減少、CGI-Sスコア(MD:-0.23、95%CI:-0.32〜-0.13、予測区間:-0.39〜-0.06)の改善との関連が認められた。・NPIスコアに有意な差は認められなかった。・錐体外路症状や日中の眠気などの有害事象は、ブレクスピプラゾール群でより多く発現したが、その範囲は広く、有意ではなかった。・メタ回帰分析では、用量または投与期間は、効果修飾因子として同定されなかった。 著者らは「ブレクスピプラゾールは、認知機能の悪化を伴わずに、アルツハイマー病に伴うアジテーションに対し、短期的に中程度の効果をもたらす可能性があるが、安全性に関するシグナルは依然として不明確な部分が残っている。しかし、予測区間には相当の不確実性があり、ブレクスピプラゾール使用は個別化され、綿密にモニタリングすべきであることが示唆された。今後の試験では、長期的なアウトカムや患者中心の指標を優先的に評価すべきである」と結論付けている。

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ナルコレプシー治療にパラダイムシフト、oveporextonが第III相試験の評価項目をすべて改善、先駆的医薬品にも指定/武田

 武田薬品工業の経口オレキシン2受容体(OX2R)選択的作動薬oveporexton(TAK-861)はナルコレプシータイプ1(NT1)に対する第III相試験で有望な結果を示した。その結果は世界睡眠学会で発表された。また、同薬は国内では先駆的医薬品および希少疾病用医薬品に指定された。 NT1は、脳内のオレキシンニューロンが減少することで引き起こされる慢性かつまれな神経疾患であり、日常生活に支障を来すさまざまな症状を引き起こす。oveporextonはオレキシンの欠乏に対処することで、NT1の広範な症状を改善する。現在、NT1の原因となるオレキシン欠乏を標的とする治療薬はなく、認可されればoveporextonがファースト・イン・クラスとなる。世界睡眠学会「World Sleep 2025」での第III相試験結果 2025年9月に行われた世界睡眠学会「World Sleep 2025」では、oveporextonに対する2つの国際共同第III相試験(FirstLightとRadiantLight試験)のデータが発表された。両試験には19ヵ国273例の被験者が登録されている。両試験の主要・副次すべての評価項目で統計学的に有意な改善が認められた。以下が主な項目の結果である。 日中の過度の眠気(EDS):12週時点の覚醒維持検査(MWT)による、平均睡眠潜時およびエプワース眠気尺度(ESS)スコアのベースラインからの変化とも、プラセボ群と比べoveporexton群で統計学的に有意な改善を示した。とくに2mg×2/日投与群においては、被験者の大多数で平均睡眠潜時が正常範囲内(≧20分)まで改善し、健康成人と同程度のESSスコア(≦10)を達成した被験者は85%近くであった。 カタプレキシー(情動脱力発作)発現率:1週間あたりのカタプレキシー発現率(WCR)はプラセボ群に比べ、oveporexton群で12週にわたり有意に低下した(ベースラインからの変化率の中央値は80%超)。oveporexton群におけるカタプレキシーが発現しない日の頻度は、ベースライン時の0日/週から12週時には4〜5日/週に改善した。 症状の重症度:ナルコレプシー重症度尺度(NSS-CT)の総スコアにおいて、プラセボ群に比べ、oveporexton群で統計学的に有意な変化を示した。70%を超える被験者が最低重症度(軽度、スコア0〜14)を示した。 安全性プロファイル:oveporextonの忍容性はおおむね良好であり、安全性プロファイルはこれまでの臨床試験と同様で、治験薬と関連のある重篤な有害事象の報告はなかった。先駆的医薬品および希少疾病用医薬品に指定 oveporexton(TAK-861)は、2025年9月29日、NT1を予定される効能又は効果として厚生労働省より先駆的医薬品および希少疾病用医薬品に指定された。今回の指定は国際共同第IIb相臨床試験(TAK-861-2001試験)の結果に基づくものである。 なお、oveporextonは同国際共同第IIb相臨床試験のデータに基づき、米国食品医薬品局(FDA)および中国国家食品薬品監督管理局からも、NT1患者の日中の過度の眠気に対する治療薬としてブレークスルーセラピーに指定されている。

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低カロリー甘味料が脳の老化を促進する可能性

 カロリーがない、または低カロリーの甘味料が脳の老化を促進する可能性を示唆するデータが報告された。特に糖尿病患者では、より強い関連が見られるという。サンパウロ大学(ブラジル)のClaudia Kimie Suemoto氏らの研究の結果であり、詳細は「Neurology」に9月3日掲載された。 アスパルテーム、サッカリン、エリスリトール、キシリトール、ソルビトールなどの低カロリーまたはノンカロリーの甘味料(low- and no-calorie sweeteners;LNCS)は、摂取エネルギー量の抑制に役立つ。しかし論文の上席著者であるSuemoto氏は、「われわれの研究結果は、一部のLNCSは脳の健康に悪影響を及ぼす可能性があることを示唆している」と話している。 この研究では、ブラジルの35歳以上の公務員対象の縦断的観察研究のデータが解析された。食物摂取頻度質問票を用いて、7種類のLNCSの摂取量を推定。記憶力、言語能力、思考力など、6種類の認知機能の指標のzスコアとの関連性を検討した。 摂取エネルギー量が極端な人(1パーセンタイル未満または99パーセンタイル超)や、データ欠落者を除外し、1万2,772人(平均年齢51.9±9.0歳、女性54.8%)を解析対象とした。ベースライン時点のLNCSの摂取量は92.1±90.1mg/日であり、平均追跡期間は約8年だった。 認知機能に影響を及ぼし得る因子(年齢や性別、高血圧、心血管疾患など)を調整後の解析で、LNCS摂取量の第1三分位群(摂取量が少ない下位3分の1の集団)に比べて、第3三分位群(摂取量が多い上位3分の1の集団)は、認知機能(思考力や記憶力)の低下速度が62%速く、これは約1.6年分の脳の老化に相当すると計算された。また、第2三分位群(摂取量が平均的な3分の1の集団)でも第1三分位群に比べると、低下速度が35%速く、これは約1.3年分の脳の老化に相当すると計算された。 年齢60歳未満/以上で二分すると、60歳未満ではLNCS摂取量が多い群で認知機能の低下が速いという有意な関連が見られた一方、60歳以上ではこの関連が非有意だった。他方、糖尿病の有無で二分すると、糖尿病のある群ではLNCS摂取量が多い群で、認知機能指標の一部がより速く低下することが示唆された。この点についてSuemoto氏は、「糖尿病の有無にかかわらず、中年層においてはLNCS摂取量の多さと認知機能低下との関連が明らかになった。また、糖尿病患者は砂糖の代替としてLNCSを使用することが多い傾向がある」との考察を付け加えている。 LNCSの摂取と認知機能低下との関連のメカニズムについて研究者らは、LNCSが体内で分解されて、脳にダメージを及ぼすような物質に変化したり、炎症を引き起こしたりするのではないかと推測している。ただし、この研究は観察研究であるため、LNCS摂取と認知機能低下との直接的な因果関係を証明するものではないことを、著者らは研究の限界として挙げている。 「われわれの研究の追試が必要である。さらに、本研究で検討しなかった、アップルソース、ハチミツ、メープルシロップ、ココナッツシュガーなど、他の代替甘味料では認知機能にどのような影響があるのかを調査する研究も求められる」とSuemoto氏は述べている。

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ケサンラ、新しい用量でARIA-Eの発症リスクが有意に減少/リリー

 日本イーライリリーは2025年9月18日、「認知症の治療現場の今とケサンラの最新使用法に関するメディアセミナー ~新しい投与スケジュールによりARIA-Eの発現割合が低下~」を開催した。「ケサンラ点滴静注液350mg」(一般名:ドナネマブ)は、2024年9月に「アルツハイマー病による軽度認知障害および軽度の認知症の進行抑制」を効能または効果として国内における承認を取得し、同年11月26日に発売された。 ケサンラの従来の用法および用量は、初回から700mgを4週間隔で3回、その後は1,400mgを4週間隔で少なくとも30分かけて点滴静注するスケジュールであった。一方、抗アミロイドβ抗体薬の投与ではARIA(アミロイド関連画像異常)の発現が懸念される。ARIAは抗アミロイドβ抗体薬の投与に伴って起こるMRIの異常所見の総称で、ARIA-E(浮腫/滲出液貯留)とARIA-H(微小出血/脳表ヘモジデリン沈着)に大別される。このARIA発現のリスク低減を目的に、2025年8月、用法および用量について「通常、成人にはドナネマブ(遺伝子組換え)として初回は350mg、2回目は700mg、3回目は1,050mg、その後は1回1,400mgを4週間隔で、少なくとも30分かけて点滴静注する」と投与量を漸増していくスケジュールへの変更承認を取得した。 本セミナーの冒頭で、日本イーライリリーの片桐 秀晃氏(研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 本部長)は、「国内の65歳以上の高齢者のうち、2022年時点で認知症または軽度認知障害(MCI)に該当する人は約1,000万人、有病率は27.8%と推計され、日本は超高齢化社会に直面している」と述べたうえで、同社の取り組みとして認知症と共生する社会に貢献すべくまい進する姿勢を見せた。認知症は早期の治療開始が鍵 続いて、患者や家族にとっての進行抑制の価値や早期発見・診断の重要性などについて、岩田 淳氏(東京都健康長寿医療センター 副院長)が解説した。まず、一部の患者や家族にある「点滴治療=重症者向け」という認識が、診断・治療開始の遅れを招く原因となることを指摘した。これに対し、専門医の立場ではMCIの段階で速やかにケサンラの投与を開始することが重要とされており、先送りは将来的に投与の適応外となる可能性があるため、MCIを疑う所見があればHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)やMMSE(ミニメンタルステート検査)の結果にかかわらず、早期に受診・専門医への紹介につなげる必要があるとした。そのうえで、こうした早期介入の目的は治療自体ではなく、患者の治療後のQOLを高めることにあると述べた。薬剤負荷を抑える用量漸増によりARIA-Eが有意に減少 ケサンラの新しい用法・用量の承認の根拠となった「TRAILBLAZER-ALZ 6試験」の結果や、副作用としてのARIAの発症機序について、猪原 匡史氏(国立循環器病研究センター 副院長・脳神経内科部長)が解説した。TRAILBLAZER-ALZ 6試験とは、アミロイドPET検査により脳内にアミロイドβプラーク沈着が認められた早期アルツハイマー型認知症患者(843例)を対象に、沈着量の変化やARIAの発現割合を検討した多施設共同無作為化二重盲検第III相試験である。被験者を350mg開始群(212例)、700mg開始群(208例)、投与スキップ群(210例)、頻回投与群(213例)の4つの群に無作為に割り付け、同じ総投与量を異なる方法で投与した。 主要評価項目は24週時までのARIA-E関連事象の発現割合で、700mg開始群と比較して投与24週時のARIA-E関連事象の相対リスクが20%減少する事後確率を算出し、これが事前に規定した閾値(80%)を超えるか否かを検討した。結果、24週時のARIA-E関連事象の発現割合は、350mg開始群で13.7%、700mg開始群で23.7%であり、相対リスク減少率は40.5%、相対リスクが20%減少する事後確率は94.1%と、事前に規定した閾値を上回った。 副次評価項目について、76週時のMRI検査に基づくARIA-E関連事象の重症度は、700mg開始群と比較して350mg開始群では軽度であり、有意差が認められた(p=0.015、CMH検定)。ベースラインから76週時までの脳内アミロイドβプラークの減少量は、350mg開始群で70.92センチロイド、700mg開始群で72.14センチロイドと同程度であった。 安全性について、治療開始76週時までの有害事象の発現割合は、350mg開始群で93.9%(199/212例)、700mg開始群で92.3%(191/207例)であった。副作用の発現割合は、350mg開始群で53.8%(114/212例)、700mg開始群で53.1%(110/207例)であった。その中でARIA-Eの発現割合は、700mg開始群が23.2%(48例/207例)であったのに対し、350mg開始群は15.1%(32例/212例)と有意に減少していた。 ARIAは、血管周囲の排泄経路障害や血液脳関門の破綻によりアミロイドβが蓄積し、そこに抗アミロイドβ抗体薬が投与されるとアミロイドβのクリアランスに伴い一過性に血管外漏出を引き起こすことで発症する。TRAILBLAZER-ALZ 6試験の結果について同氏は、「投与初期の薬剤負荷を抑える漸増法によってアミロイドβのクリアランス経路に見合った段階的な除去が促され、過度な蓄積を避けることでARIAリスク低減に寄与する可能性を示唆している」と述べた。さらに、抗アミロイドβ抗体薬の治療対象者の多くは高齢者であるため、既存の脳微小出血や抗血栓薬の併用などのARIAのリスク因子について理解し、定期的なMRI検査などで処方医と読影医が連携することが重要であるとした。最後に同氏は、MRI検査によりARIAを早期に捉え、高血圧などの血管障害リスクとなりうる生活習慣病のマネジメントを行っていく必要性を強調した。

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家事をしない人は認知症リスクが高い?米国65歳以上の10年間調査

 身体活動レベルは、アルツハイマー病およびその他の認知症発症リスクに影響を及ぼす。米国・カリフォルニア大学のNan Wang氏らは、65歳以上の米国人を対象に、家事頻度の変化が認知機能に及ぼす影響を評価するため、10年間にわたる家事頻度の変化と認知機能との相関を調査した。The Permanente Journal誌オンライン版2025年9月10日号の報告。 Health and Retirement Studyに参加した65歳以上の米国人8,141例のデータを分析した。2008~10年の家事頻度の変化を「一貫して高い」「低から高へ変化」「高から低へ変化」「一貫して低い」の4つに分類し、評価した。認知機能は、2010~18年に複合スコア(範囲:0~35)を用いて測定し、混合効果線形回帰モデルを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の年齢中央値は75±6.6歳、女性の割合は59.3%であった。・家事頻度が「高から低へ変化」「一貫して低い」と回答した人は、「一貫して高い」と回答した人と比較し、認知機能低下との関連が認められた(各々、0.079[95%信頼区間[CI]:-0.117~−0.042]、0.090[95%CI:-0.126~-0.054])。・家事頻度が「低から高へ変化」と回答した人と「一貫して高い」と回答した人との認知機能低下は、統計的に有意な差が認められなかった(β=-0.027[95%CI:−0.074~0.019]、p=0.252)。・この関連性は、女性と男性で同様であり(Pinteraction=0.765)、80歳以上と65~79歳でも同様であった(Pinteraction=0.069)。 著者らは「高齢期に家事への関与が低い状態から高い状態に移行するか、一貫して高い状態を維持することは、性別や年齢にかかわらず、認知機能の低下を遅らせる可能性が示唆された」としている。

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てんかん患者の突然死、発作期無呼吸がリスクマーカーに/Lancet

 「てんかんにおける予期せぬ突然死(sudden unexpected death in epilepsy:SUDEP)」はてんかん関連死の主要な原因であり、後ろ向き研究によってそのリスク因子は、全般けいれん発作(とくに夜間)、罹患期間の長いてんかん、独居が知られている。米国・University of Texas Health Science Center at HoustonのManuela Ochoa-Urrea氏らは、これらのリスク因子を支持するエビデンスと共に、発作に伴う無呼吸がSUDEPリスクの指標となる可能性を示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2025年9月17日号で発表された。米国と英国の前向きコホート研究 研究チームは、SUDEPのリスク因子を前向きに検討する目的で、9施設(米国8、英国1)が参加した多施設共同コホート研究を実施した(米国国立衛生研究所[NIH]の助成を受けた)。 2011年9月17日~2021年12月30日に、生後2ヵ月以上で、参加施設のてんかん監視室(EMU)に入室してビデオ脳波(EEG)モニタリングを受け、少なくとも6ヵ月間の追跡調査を完了したてんかん(薬剤抵抗性の有無は問わない)患者2,468例(発症時年齢中央値15歳[四分位範囲[IQR]:7~27]、女性1,382例[56%]、罹患期間中央値12年[IQR:4~22])を登録した。 主要エンドポイントは、SUDEP発生までの期間であった。SUDEPによる死亡率は4.76件/1,000人年 追跡期間中央値35ヵ月(IQR:18~54)の時点で、2,468例のうち38例(1.54%)がSUDEP(definite SUDEP:12例、probable SUDEP:18例、possible SUDEP:8例)で死亡し、2例がnear SUDEPであった。7,982人年の前向きコホートにおけるSUDEPによる死亡率は4.76件(95%信頼区間[CI]:3.37~6.53)/1,000人年だった。 また、SUDEPリスク増加の有意な予測因子として次の4つを認めた。(1)独居(同居者ありと比較したハザード比[HR]:7.62、95%CI:3.94~14.71、p<0.0001)、(2)過去1年間の全般てんかん発作の発現が3回以上(3回未満と比較したHR:3.10、1.64~5.87、p=0.0005)、(3)発作時中枢性無呼吸の発現時間(10秒延長ごとのHR:1.11、1.05~1.18、p=0.0001)、(4)発作後中枢性無呼吸の発現時間(10秒延長ごとのHR:1.32、1.14~1.54、p=0.0002)。 possible SUDEPとnear SUDEPを除外したサブ解析では、発作時中枢性無呼吸が有意ではなくなった。推定5年SUDEP発生率は2.2% Kapan-Meier法による全体の推定5年SUDEP発生率は2.2%であった。また、5年SUDEPリスクは、同居者あり(2.1%)に比べ独居(14.9%)、過去1年間の全般てんかん発作の発現3回未満(1.4%)に比べ3回以上(4.3%)、発作時中枢性無呼吸の発現時間中央値17秒以下(3.7%)に比べ17秒超(7.4%)、発作後中枢性無呼吸の発現時間中央値14秒以下(3.6%)に比べ14秒超(13.4%)で、それぞれ有意に高かった。 著者は、「これらの知見は、死亡に先立つ発作に伴う無呼吸とSUDEPリスク上昇との関連を示唆しており、発作中の心肺モニタリングがてんかん死のリスク評価に有益となる可能性がある」「独居やけいれん発作の頻度と共に、発作に伴う無呼吸(17秒を超える発作時中枢性無呼吸、および14秒を超える発作後中枢性無呼吸)は、検証可能なSUDEPリスク指標の開発に役立つ可能性がある」としている。

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アルツハイマー病に伴うアジテーションに対するブレクスピプラゾールの有効性と安全性

 米国・Ohio State University Wexner Medical CenterのJared Stroud氏らは、アルツハイマー型認知症患者に伴うアジテーションの治療に対するブレクスピプラゾールの有効性および安全性を検討するため、2つの臨床試験を統合し、事後解析を実施した。Current Medical Research and Opinion誌2025年9月5日号の報告。 軽度から重度の認知機能低下およびアジテーションを有するアルツハイマー病患者を対象とした2つの国際共同無作為化二重盲検試験において、ブレクスピプラゾール(2mg/日または3mg/日)およびプラセボによる治療のデータを統合した。12週間にわたるアジテーション頻度の変化は、Cohen-Mansfield Agitation Inventory(CMAI)を用いて測定した。安全性評価には、治療中に発現した有害事象(TEAE)を含めた。本事後解析では、ケア環境(施設入所、非施設入所)、認知機能低下の重症度(軽度/中等度、重度)、併発する行動症状(精神病、うつ病、不安症、易刺激性、睡眠障害)、認知症治療薬(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬、メマンチン)、精神疾患治療薬(抗うつ薬、ベンゾジアゼピン系薬剤)の併用の有無に基づき、臨床的に関連する13のサブグループについて調査した。 主な結果は以下のとおり。・ランダム化サンプル621例の平均年齢は74歳(範囲:55~90歳)、女性は344例(55.4%)、男性は277例(44.6%)であった。・13のサブグループのうち12において、ブレクスピプラゾールは、プラセボと比較し、12週間にわたるアジテーション頻度の減少率において有意な有効性を示した。・ベンゾジアゼピン系薬剤の併用のサブグループは唯一の例外であったが、本結果は症例数が少なかった(71例)。なお、2次解析では、ブレクスピプラゾールの有効性が示された。・ブレクスピプラゾールとプラセボを比較した場合の最も大きな差が認められたサブグループは、抗うつ薬の併用、睡眠障害の併発、精神疾患の併発であった。・TEAEの全体的な発現率は、サブグループ間でおおむね一貫していた。 著者らは「本探索的解析において、ブレクスピプラゾールは、アルツハイマー型認知症に伴うアジテーションに対し有効であることが、あらためて示唆された」としている。

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肺炎は認知症リスクを高めるか~メタ解析

 肺炎が認知症や認知機能低下のリスクの上昇と関連するかいまだ不明である。今回、中国・Hangzhou Geriatric HospitalのZhen Yan氏らが系統的レビューとメタ解析で検討した結果、肺炎と認知症リスクの関連が示唆され、高齢者でより顕著であった。Annals of Medicine誌2025年12月号に掲載。 本研究は、MEDLINE(PubMed経由)、EMBASE(Excerpta Medica Database)、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、Web of Science、Scopus、ClinicalTrials.gov、World Health Organization International Clinical Trials Registry Platform(WHO ICTRP)データベースを用いて、2024年2月29日までに発表され、成人肺炎患者における認知症または認知機能低下に関するアウトカムを報告した研究を対象とした。統合ハザード比(HR)およびオッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)は、ランダム効果モデルを用いて算出した。年齢、地域、研究デザイン、肺炎のタイプによるサブグループ解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・さまざまな母集団を対象とした10研究が含まれた。・プール解析により、肺炎と認知症リスク増加との間に有意な相関が示された(HR:1.738、95%CI:1.358~2.225)が、研究間でかなりの異質性が認められた(I2=97.1%)。・サブグループ解析では、この関連は高齢者においてより顕著であり、地域や研究デザインによって若干異なることが示された。細菌性肺炎と非定型肺炎でリスクに有意差はなかった。 著者らは、「これらの結果は、肺炎から回復した患者、とくに高齢者において、潜在的な認知機能低下を軽減するための注意深いモニタリングと予防戦略の必要性を強調するもの」と結論している。

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超音波ヘルメットによって手術なしで脳刺激療法が可能に

 脳深部刺激療法(deep brain stimulation;DBS)は、てんかんやパーキンソン病から群発頭痛、うつ病、統合失調症に至るまで、さまざまな疾患の治療に有望であることが示されている。しかし残念ながら、DBSでは医師が患者の頭蓋骨に穴をあけ、微弱な電気パルスを送る小さなデバイスを埋め込むための手術が必要になる。こうした中、新たな超音波ヘルメットによって、手術を行わずに脳の深部を正確に刺激できる可能性のあることが示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のBradley Treeby氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications」に9月5日掲載された。 Treeby氏らによると、このヘルメットは従来の超音波装置と比べて約1,000分の1、またDBS用に設計されたこれまでの超音波装置と比べて30分の1の領域を標的にすることができるという。Treeby氏は、「臨床的には、この新技術はパーキンソン病、うつ病、本態性振戦といった神経・精神疾患において重要な役割を果たしている特定の脳回路を、これまでにない精度で標的にすることができることから、これらの疾患に対する治療を一変させる可能性がある」とニュースリリースの中で説明している。 経頭蓋超音波刺激(transcranial ultrasound stimulation;TUS)では、頭部に置いた電気信号を超音波振動に変換する装置(トランスデューサー)から発生させた超音波のパルスを集結させて、脳の標的部位を刺激する。TUSは非侵襲的であり、また従来の脳刺激法では難しかった脳の深部領域にも刺激を送ることが可能という利点を持つ。ただし、その精度は装置や周波数によって異なる。 今回の研究でTreeby氏らは、MRスキャナー内で深部脳構造を高精度に刺激するための超音波システムを設計した。この試験的なヘルメットには、個別にコントロールできる256個のトランスデューサーが搭載されており、脳の特定部位に焦点を合わせて超音波ビームを送ることができる。これらのビームによってニューロンの活動を高めたり、抑えたりすることが可能だという。Treeby氏らによると、患者は仰向けに横たわり、頭をヘルメットに差し入れる。装置には柔らかいプラスチック製のフェイスマスクが付いており、超音波による治療中に頭部が動かないよう固定する役割を果たす。 Treeby氏らは、7人を対象にこの超音波ヘルメットを使った実験を行った。標的は、視床の一部で視覚情報の処理を助ける役割を担っている外側膝状体と呼ばれる領域であった。 脳スキャンの結果、この超音波ヘルメットは試験参加者の視覚野の活動を有意に増減させることができ、治療後もその状態が少なくとも40分間持続することが示された。参加者は、自分の見ているものに変化があったとは認識していなかったが、脳スキャンでは神経活動に明確な変化が認められたという。Treeby氏は、「手術なしで脳の深部構造を精密に調節する能力は、脳機能の解明や標的治療の開発を目指す取り組みにおいて、安全で可逆的かつ繰り返し実施可能な方法を提供し、神経科学におけるパラダイムシフトにつながる」と述べている。 この技術の臨床的可能性を踏まえ、最近、研究グループの複数のメンバーによってUCL発のスピンアウト企業NeuroHarmonics社が設立され、携帯可能な着用型のシステムの開発が進められている。論文の共著者である、英オックスフォード大学のIoana Grigoras氏は、「この新たな脳刺激装置は、これまで非侵襲的には到達不可能だった脳深部構造を正確に標的とする能力を手に入れるための取り組みにおいて、ブレークスルーとなるものだ。われわれは、特に脳深部領域が影響を受けるパーキンソン病などの神経疾患における臨床応用の可能性に期待している」と話している。

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生後1週間以内の侵襲性感染症が小児てんかんリスクと関連

 てんかんは小児期に発症することの多い神経疾患で、健康や生活への影響が生涯にわたることも少なくないため、予防可能なリスク因子の探索が続けられている。オーフス大学病院(デンマーク)のMads Andersen氏らは、新生児期の侵襲性感染症罹患に伴う炎症が脳損傷を引き起こし、てんかんリスクを押し上げる可能性を想定し、全国規模のコホート研究により検証。結果の詳細が「JAMA Network Open」に7月7日掲載された。 この研究では、1997~2013年にデンマーク国内で、在胎35週以上の単胎児で重篤な先天異常がなく出生した全新生児を対象とし、2021年まで、または18歳になるまで追跡した。生後1週間以内に診断された敗血症または髄膜炎を「出生早期の侵襲性細菌感染症」と定義し、そのうち血液または脳脊髄液の培養で細菌性病原体が確認された症例を「培養陽性感染症」とした。てんかんは、診断の記録、または抗てんかん薬が2回以上処方されていた場合で定義した。 解析対象となった新生児は98万1,869人で、在胎週数は中央値40週(四分位範囲39~41)、男児51%であり、このうち敗血症と診断された新生児が8,154人(0.8%)、培養陽性敗血症は257人、髄膜炎と診断された新生児は152人(0.1%未満)、培養陽性髄膜炎は32人だった。追跡期間中に、1万2,228人(1.2%)がてんかんを発症していた。 出生早期の侵襲性細菌感染症がない子どもの追跡期間中のてんかん発症率は、1,000人年当り0.9であった。それに対して出生早期に敗血症と診断されていた子どもは同1.6であり、発症率比(IRR)は1.89(95%信頼区間1.63~2.18)だった。一方、出生早期に髄膜炎と診断されていた子どもは発症率が8.6(4.2~5.21)で、IRRは9.85(5.52~16.27)だった。 性別、在胎週数、出生体重、母親の年齢・民族・喫煙・教育歴・糖尿病などを調整したCox回帰分析の結果、出生早期に敗血症と診断されていた子どもは、追跡期間中のてんかん発症リスクが有意に高いことが示された(調整ハザード比1.85〔1.60~2.13〕)。 Andersen氏らは、「この結果は出生後早期の細菌感染の予防と治療が、小児てんかんのリスク抑制につながる可能性を示唆している」と述べている。なお、著者の1人がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を開示している。

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第282回 なかなか実用化にこぎつけられないiPS細胞治療、神戸アイセンター病院の網膜細胞治療について「先進医療」とするのは「不適」の判断

神戸アイセンター病院のiPS細胞治療、「先進医療」とするのは「不適」と判断こんにちは。医療ジャーナリストの萬田 桃です。医師や医療機関に起こった、あるいは医師や医療機関が起こした事件や、医療現場のフシギな出来事などについて、あれやこれや書いていきたいと思います。自民党総裁選が告示されました。昨年の総裁選と似たようなメンツ、似たようなパフォーマンスにデジャブ感が拭えません。連日のマスコミ報道も壮大なムダに感じるのは私だけでしょうか。自民党の新総裁が誕生した後、いわゆる「ご祝儀相場」を活かして年内に解散・総選挙となる可能性もあります。そうなれば、年内一杯、実際の政治は二の次の、政治ショーばかりを国民は見せられることになります。まったく、「やれやれ」としか言う言葉が見つかりません。ノーベル賞の季節も近づいてきた今回は、iPS細胞治療について書いてみたいと思います。厚生労働省の先進医療技術審査部会は8月21日、神戸市立神戸アイセンター病院(栗本 康夫院長)が申請していた、人工多能性幹細胞(iPS細胞)からつくった網膜細胞を目の難病、網膜色素上皮(RPE)が萎縮するRPE不全症の患者に移植する計画(網膜色素上皮不全症を対象とした他家iPS細胞由来RPE細胞凝集紐の移植)について、一部に公的な医療保険が適用される「先進医療」とするのは「不適」であると判断しました。部会は主な理由として、症状の改善効果を十分に評価できないこと、高額な患者負担が妥当なのかを判断できないことを挙げました。この治療法は今年1月に申請が行われ、厚労省は「先進医療B」(実施に当たって実施環境や技術の効果等について特に重点的な観察・評価が必要とされるもの)に振り分けて議論を行ってきました。4月の部会の審査では有効性の評価方法などの再考を求められ「継続審議」となり、今回の最終判断に至ったものです。先進医療は、治療そのものの費用は患者負担となる一方、保険適用の検査や薬、入院料などに公的な保険が適用されるもので、認められればiPS細胞を使う治療としては初めてのケースになるはずでした。iPS細胞による治療については、山中 伸弥氏のノーベル医学・生理学賞受賞から13年が経っています。臨床研究段階にあるものはたくさんありますが、保険適用となり実用化されているものはまだありません。今回の神戸アイセンター病院の治療法はいったい何がダメだったのでしょうか。主要評価項目が視力や視野の維持ではない点と、「明らかな治療効果を期待するものではない」のに高額な治療費などを問題視申請資料などによると、対象はRPE不全症のうち、加齢黄斑変性と遺伝性網膜ジストロフィーの患者。光を感知する機能の維持に関係するRPE細胞をiPS細胞から作製し、髪の毛くらいの太さで長さ2センチのひも状にし、最大4本を患者の目に移植するという治療法です。2033年1月まで15人の患者へ移植し、効果が確認されれば、公的な医療保険の適用を目指す計画でした。この治療法は、2014年に当時の理化学研究所チームリーダーだった高橋 政代氏(現、ビジョンケア社長)が中心になって、世界で初めてiPS細胞を使った治療法を臨床研究として実施したもので、その後、神戸アイセンター病院が臨床研究として、実用化を目指して治療法の検証を進めてきました。先進医療技術審査部会の資料によれば、先進医療Bに「不適」と判断した主な理由は、主要評価項目が視力や視野の維持ではなく、RPE異常領域の面積に設定されていた点でした。日経バイオテクやNHKなどの報道によれば、委員からは「計画では移植によって異常な組織の面積が減るかをみるとしているが、視力や視野の改善といった治療の有用性を十分評価できない」といった意見が出されたとのことです。主要評価項目を変更すべきとの指摘は以前からありましたが、神戸アイセンター病院側は「視機能の改善の確認には長期間かかる」、「RPEの解剖学的評価をエンドポイントとすることは専門家の間でもコンセンサスが得られつつある」などして、変更していませんでした。「不適」の理由としては費用の問題も指摘されました。治療費は計約1,500万円と高額で、うち1,436万円が保険外の費用(いわゆる自費)です。相当な高額ですが、患者向けの説明文で「明らかな治療効果を期待するものではない」と説明されており、部会の総評では「患者の受けるベネフィットと患者負担を含むリスク・不利益のバランスが取れているかどうかについての十分な説明が必要」と指摘されました。先進医療技術審査部会における議論の中で対象疾患も変更に同部会における議論の中で、「他家iPS細胞由来RPE細胞凝集紐移植」の対象疾患もRPE不全症から変更になっています。RPE不全症はRPE細胞が機能不全に陥ることで視細胞の保護や維持ができなくなり、視細胞が障害される疾患群として神戸アイセンター病院が提唱している疾患概念ですが、8月21日の部会では「RPE不全症の疾患概念がいまだ確立されていない状況にあっては認めがたい。遺伝性網膜ジストロフィーは指定難病として記載すべきだ」等の指摘がありました。神戸アイセンター病院側はこれに対応、予定する適応症から「RPE不全症」の記載を削除し、「網膜変性疾患(網膜色素変性、黄斑ジストロフィー、加齢黄斑変性)に変更することになりました。これらの修正点を踏まえ、総評には「対象疾患の変更があったことから、再生医療に関するしかるべき審議体(再生医療等評価部会)で再度の審査を受けたのちに上記の点に留意された研究計画を提出されることを期待する」とされました。「先進医療と合わせて、自由診療としての実施を申請することも検討」この審査結果を受けて、8月22日、神戸アイセンター病院は同病のWebサイトで「先進医療技術審査部会の結果を受けて当院からのお知らせ」を掲載しました。そこでは、今回、承認されなかったことを報告するとともに、「これまで当院が進めてきた研究体制や安全性への配慮については高く評価され、審査の過程において、評価委員からは『申請医療機関におけるこれまでの実績が世界的に見ても群を抜いている』とのコメントもいただきました。その一方で、臨床効果の評価方法や患者さんへの説明、費用の考え方など、今後改善すべき点も示されました。これらは、計画をさらに発展させるための建設的な指摘と受け止めています。(中略)私たちは、今回の審査結果を糧に改善を加え、改めて計画を提出する準備を進めてまいります」と、再申請に向けて動き出す旨が述べられています。もっとも、本音は少々異なるようで、日経バイオテクが8月27日に配信した「厚労省先進医療技術審査部会、神戸アイセンター病院の他家iPS細胞由来RPE細胞凝集紐移植を差し戻し」と題する記事は、同紙の取材に対する栗本院長の、「今後、また申請を行うが、どの程度時間がかかることになるのかは分からない状態で、無駄が多いと感じている」、「先進医療として再度申請するつもりだが、手続きの流れは不透明だ。先進医療と合わせて、インバウンドを対象に含めた再生医療等安全性確保法下での自由診療としての実施を申請することも検討することになるだろう」というコメントを紹介しています。iPS細胞治療の実用化に向けては、まだまだ長くて険しい茨の道が今回の「先進医療」とするのは「不適」という判断は、要するに「治っているかどうか患者が実感できない高額な治療法に、先進医療とは言え、保険診療を併用させることはNG」ということなのでしょう。このiPS治療が、最終的に公的保険適用につながっていく「先進医療」としてはそぐわないと判断されたと見る識者もいます。栗本院長が自由診療として実施する可能性を示唆しているのも、そうした理由からと言えそうです。iPS細胞治療で実用化が近いとされている技術としては、このほか、大阪大学発のベンチャー企業クオリプスがiPS細胞から作成した心筋細胞をシート状に加工した「心筋細胞シート」や、住友ファーマと京都大学のグループが開発したパーキンソン病を対象疾患とする「非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」があります。前者は今年4月に、後者は今年8月に厚生労働省に製造・販売の承認申請を行っています。「心筋細胞シート」は大阪・関西万博の展示でも話題になっている技術です。審査期間は通常1年程度なので、承認可否の判断は2026年春~夏頃になる予定です。治験症例数が少ない(わずか8例)ため、承認可否や保険適用については審査会で慎重な議論が行われるとみられています。「非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞」も治験症例数が少なく(6例)、こちらの議論も慎重に行われることでしょう。iPS細胞治療の実用化に向けては、まだまだ長くて険しい道が待っていそうです。

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前頭側頭型認知症患者はてんかん有病率が高い

 これまでの研究で、てんかんと前頭側頭型認知症(FTD)との関連性が示唆されてきているが、体系的なデータの裏付けは少ない。東フィンランド大学のAnnemari Kilpelainen氏らは、FTD患者のてんかん有病率を、健常対照者(HC)やアルツハイマー病(AD)患者と比較する症例対照研究を実施。結果が「JAMA Neurology」に6月2日掲載された。 この研究では、フィンランドの認知症専門医療機関2施設の外来FTD患者と、年齢、性別、地理的条件をマッチングさせたHC群、およびAD患者群のてんかんの有病率、抗てんかん発作薬(ASM)の処方受取率が4時点で比較された。各群の該当者数と年齢(FTD群とAD群は疾患診断時年齢)、女性の割合は以下のとおり。FTD群245人(65.2±8.7歳、49.4%)、HC群2,416人(65.0±8.5歳、49.3%)、AD群1,326人(71.7±9.8歳、58.6%)。 解析の結果、FTD群においてFTD診断の10年前のてんかん有病率は3.3%であり、同時点におけるHC群の有病率は0.8%、AD群では1.4%だった。FTD群のてんかん有病率は、HC群(群間差2.5パーセントポイント〔ppt〕、P<0.001)、およびAD群(同1.9ppt、P=0.03)より有意に高かった。同様に、FTD診断の5年前の有病率は、FTD群4.9%、HC群1.3%、AD群1.7%であり、FTD群はHC群(3.6ppt、P<0.001)、AD群(3.2ppt、P=0.002)より有意に高かった。 FTDを診断された年のてんかん有病率は、前記と同順に6.5%、1.8%、5.0%であり、FTD群の有病率はHC群より有意に高く(4.7ppt、P<0.001)、AD群との比較では有意差がなかった(1.6ppt、P=0.32)。FTD診断の5年後は有病率が11.2%、2.2%、6.9%であり、HC群との比較で有意に高く(9.0ppt、P<0.001)、AD群との差の有意性は統計学的に境界値だった(4.2ppt、P=0.05)。 ASMの処方受取率については、FTD群ではFTD診断10年前に11.4%、診断5年前に16.7%、診断の年に28.6%、診断5年後に40.0%だった。それに対してHC群では同時点の処方受取率が5.0%、9.1%、14.6%、18.8%、AD群では5.6%、10.3%、17.8%、23.8%だった。FTD群の処方受取率は全ての時点で他の2群より有意に高かった。 論文の共著者の1人である同大学のEino Solje氏は、「この研究結果は、てんかんとFTDの関連性に関する新たな研究課題を提起している。すなわち、これら両疾患が何らかの病態生理学的メカニズムを共有しているのか、またはFTDが脳内神経回路の電気活動を変化させてんかんを惹起するのかという問題だ」と述べている。 なお、一部の著者が医薬品関連企業との利益相反(COI)の存在を開示している。

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フレマネズマブ24ヵ月投与中止後の片頭痛悪化と投与再開後の治療反応

 ギリシャ・Agios Andreas General Hospital of PatrasのAndreas A. Argyriou氏らは、フレマネズマブで治療反応が認められた片頭痛患者における2年間投与後の治療中止の影響、片頭痛悪化後およびフレマネズマブ治療再開後の治療反応の違いを評価した。European Journal of Neurology誌2025年8月号の報告。 本研究は、Greek Research Alliance for Studying headache and Pain(GRASP)研究グループによるプロスペクティブ多施設共同リアルワールド試験である。フレマネズマブの24ヵ月投与を完了後に休薬し、その後片頭痛悪化に伴いフレマネズマブを再開した高頻度エピソード性片頭痛(HFEM)または慢性片頭痛(CM)患者149例を解析対象とした。1ヵ月当たりの片頭痛日数(MMD/MHD)およびその他の有効性における縦断的な変化を評価するため、ベースライン(T0)、3ヵ月目(T1)、24ヵ月目(T2)、治療休止期間(T3)、フレマネズマブ再開後3ヵ月目(T4)に面接調査を行った。主要評価項目は、T4における50%以上および75%以上の奏効率をT3とT2間での比較とした。 主な結果は以下のとおり。・過去にフレマネズマブで治療反応を示した患者において、T3で片頭痛が再発した。フレマネズマブ再開は過去の治療時と同等の効果を示さず、とくにCMにおいて50%以上の奏効率の低下が認められた。・T4では、過去に治療反応を示したHFEM患者6例(9.7%)およびCM患者27例(31%)は、T3と比較して50%以上のMMD/MHD減少を達成できなかった。・T3で75%以上の反応を示したHFEM患者およびCM患者のスーパーレスポンダーの割合もT4では低下した。 著者らは「フレマネズマブを24ヵ月以降に中止すると、MMD/MHDが上昇することが明らかとなった。また、フレマネズマブを再開しても、最初の3ヵ月間は、フレマネズマブ中止前と比較して、効果が相対的に低下する可能性が示唆された」とし「今回の結果は、片頭痛予防において抗CGRP抗体による治療を中断することを義務付ける根拠に疑問を投げかけるものである」としている。

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