武田薬品工業の経口オレキシン2受容体(OX2R)選択的作動薬oveporexton(TAK-861)はナルコレプシータイプ1(NT1)に対する第III相試験で有望な結果を示した。その結果は世界睡眠学会で発表された。また、同薬は国内では先駆的医薬品および希少疾病用医薬品に指定された。
NT1は、脳内のオレキシンニューロンが減少することで引き起こされる慢性かつまれな神経疾患であり、日常生活に支障を来すさまざまな症状を引き起こす。oveporextonはオレキシンの欠乏に対処することで、NT1の広範な症状を改善する。現在、NT1の原因となるオレキシン欠乏を標的とする治療薬はなく、認可されればoveporextonがファースト・イン・クラスとなる。
世界睡眠学会「World Sleep 2025」での第III相試験結果
2025年9月に行われた世界睡眠学会「World Sleep 2025」では、oveporextonに対する2つの国際共同第III相試験(FirstLightとRadiantLight試験)のデータが発表された。両試験には19ヵ国273例の被験者が登録されている。両試験の主要・副次すべての評価項目で統計学的に有意な改善が認められた。以下が主な項目の結果である。
日中の過度の眠気(EDS):12週時点の覚醒維持検査(MWT)による、平均睡眠潜時およびエプワース眠気尺度(ESS)スコアのベースラインからの変化とも、プラセボ群と比べoveporexton群で統計学的に有意な改善を示した。とくに2mg×2/日投与群においては、被験者の大多数で平均睡眠潜時が正常範囲内(≧20分)まで改善し、健康成人と同程度のESSスコア(≦10)を達成した被験者は85%近くであった。
カタプレキシー(情動脱力発作)発現率:1週間あたりのカタプレキシー発現率(WCR)はプラセボ群に比べ、oveporexton群で12週にわたり有意に低下した(ベースラインからの変化率の中央値は80%超)。oveporexton群におけるカタプレキシーが発現しない日の頻度は、ベースライン時の0日/週から12週時には4〜5日/週に改善した。
症状の重症度:ナルコレプシー重症度尺度(NSS-CT)の総スコアにおいて、プラセボ群に比べ、oveporexton群で統計学的に有意な変化を示した。70%を超える被験者が最低重症度(軽度、スコア0〜14)を示した。
安全性プロファイル:oveporextonの忍容性はおおむね良好であり、安全性プロファイルはこれまでの臨床試験と同様で、治験薬と関連のある重篤な有害事象の報告はなかった。
先駆的医薬品および希少疾病用医薬品に指定
oveporexton(TAK-861)は、2025年9月29日、NT1を予定される効能又は効果として厚生労働省より先駆的医薬品および希少疾病用医薬品に指定された。今回の指定は国際共同第IIb相臨床試験(TAK-861-2001試験)の結果に基づくものである。
なお、oveporextonは同国際共同第IIb相臨床試験のデータに基づき、米国食品医薬品局(FDA)および中国国家食品薬品監督管理局からも、NT1患者の日中の過度の眠気に対する治療薬としてブレークスルーセラピーに指定されている。
(ケアネット 細田 雅之)