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血液検査でアルツハイマー病がわかる世界へ(解説:岡村毅氏)

 「将来、血液検査によってアルツハイマー病がわかるようになる」と、長い間言われ続けてきた。 10年ほど前まで、アルツハイマー型認知症の診断は、CTやMRIなどの形態画像、SPECTなどの機能画像、脳脊髄液検査、心理検査、そして臨床的な面接などを組み合わせて行われてきた。脳脊髄液検査とは、腰から針を刺して髄液を採取する侵襲的な検査である。検査する側にとっても、される側にとっても、なかなか大変だったのだ。 ところが、アルツハイマー病の神経病理が徐々に明らかになり、アミロイドPETなどの分子イメージングも臨床実装された。さらに現在では、認知症という臨床像だけではなく、アミロイドやタウといったバイオマーカーによってアルツハイマー「病」を捉える方向へと大きく動いている。 この先に、「それなら血液検査でわかれば、もっと楽ではないか」という未来を見るのは自然であろう。 ただし、血液検査で「認知症」がわかるわけではない。わかるのは、アルツハイマー病の「病理」である。 今回JAMA誌に報告された研究では、複数の高齢者コホートのデータを統合し、認知機能障害のない人でも、血漿リン酸化タウ217(p-tau217)が高いほど、その後、認知機能障害へ進行するリスクが高いことが示された。 科学が一歩一歩進んでいることを喜びつつ、精神科医の視点から、いくつか気になることも挙げておきたい。 第1に、p-tau217は、まだ「○○以上なら異常」という世界共通の物差しが完成しているわけではない。測定法によって絶対値が異なるため、今回の研究でも各コホート内で値を標準化している。とくに「5年間で認知機能障害へ進行するリスクが38%と推定された」very high群は、アミロイドPETでいえば、おおむね60 Centiloidsを超える、かなり強いアミロイド蓄積に相当する。そして裏返せば、これほど高い値を示していても、約6割は5年間では認知機能障害へ進行しなかった。 第2に、アルツハイマー病は精神疾患ではないが脳と心はかなり近い(寝室と夢くらい近い)。精神科医としては、ここに少し「ざわざわ」するものを感じる。精神医学には、血液検査、脳画像、眼球運動など、さまざまな生物学的指標から「将来、精神疾患を発症する人」を見つけようとしてきた長い、そして時に負の歴史がある。一方、臨床家は危険性についても考えてきた。「あなたは、もうすぐ精神病を発症する可能性が高い。だから、今からあなたを保護します」そんなディストピアを想像してみればよい。 もちろん、アルツハイマー病のバイオマーカー研究に差別の意図などない。しかし科学的な「リスク」が社会の中で「この人は実は認知症だ」と翻訳されれば、大きな権利侵害が起きる可能性がある。そして、血液検査が簡単になればなるほど、この問題はむしろ重要になる。 第3に、やがて血液検査でバイオマーカー陽性者を見つけ、抗体薬などによって、症状が現れる前から介入する時代が来るかもしれない。それ自体は素晴らしい医学の進歩である。 ただし、人生は1回きりである。臨床試験なら、「治療しなかった人」と「治療した人」を比較して、「認知機能が保たれる期間が延びた」と言える。しかし1人の人間は、「治療した人生」と「治療しなかった人生」の両方を生きることはできない。 将来、治療によって認知機能の低下を2年、3年と遅らせることができるようになったとしても、その人自身の主観的な人生は、「治療しなかった自分より3年間得をした」と経験されるわけではない。「少しずつ認知機能が低下し、やがて認知症になった」という、1回だけの連続した人生として経験されるだろう。 だからこそ、認知症になることを遅らせることと同時に、認知症があってもなくても、その人がよりよく生きられる社会をつくることが大事なのだ。血液検査でアルツハイマー病がわかる時代とは、医学が簡単になる時代ではない。むしろ、「脳内を覗きながら、私たちはどう生きるのか」という、少し難しい問いが始まるのだ。

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第72回 たった1試合のヘディングでも脳に「サイン」が。アマチュア選手の血液が語る神経ダメージ

サッカーの元プロ選手は、認知症などの神経変性疾患にかかるリスクが一般の人の2~3倍高いことが、これまでの大規模調査で報告されています1)。その原因の候補として疑われてきたのが、繰り返しの頭部への衝撃、つまりヘディングです。しかし、実際の試合中のヘディングが脳にどのような急性の影響を与えるのかは、これまでよくわかっていませんでした。従来の研究は実験的に非現実的な回数のボールを当てたり、運動そのものの影響を考慮していなかったりと、限界があったのです。今回オランダの研究チームは、上位アマチュアリーグの男性選手302人(平均24.6歳)を対象に、実際の公式戦11試合でこの問いを検証しました。試合前、試合直後(1時間以内)、そして24~48時間後に血液検査を行い、ビデオ解析でヘディングの回数や強さを1回ずつ記録。さらに運動強度の影響を補正した、これまでにない厳密なデザインの研究です2)。1試合のヘディングで血液マーカーが上昇結果として、選手の72%が試合中に少なくとも1回のヘディングをしており、平均は1人あたり2.0回でした。分析の結果、ヘディングをした選手は、しなかった選手に比べて試合直後の「S100B」(脳を支えるグリア細胞の傷害を示すタンパク質)の血中濃度が34.7%高く上昇していました。また、ヘディングの回数が多いほど、S100Bと「p-tau217」(神経細胞の軸索の傷害やアルツハイマー病の病理と関連するタンパク質)の上昇が大きくなる、いわゆる「量反応関係」も認められました。とくに注目されるのは、ボールが20メートル以上飛んできてから当たる「高衝撃ヘディング」の影響です。これを複数回受けた選手では、ヘディングをしなかった選手に比べ、p-tau217が51.4%、S100Bも51.4%と大幅に上昇していました。一方で、神経の傷害を示す他のマーカー(NfL、GFAPなど)には有意な変化はみられませんでした。数値は48時間で正常化、それでも残る懸念上昇したマーカーは、24~48時間後には元のレベルに戻っていました。ただし研究チームは、「血液中の数値が正常化しても、脳の組織が回復したことを意味するわけではない」と注意を促しています。1回1回は小さなダメージでも、長年繰り返されることで、神経変性疾患につながる病的なプロセスが積み重なる可能性は否定できないからです。一方で、この研究はあくまで観察研究であり、ヘディングが将来の認知症を引き起こすと証明したものではありません。対象も成人男性のアマチュア選手に限られており、女性や子供、プロ選手に同じ結果が当てはまるかは今後の検証が必要です。私たちが知っておきたいのは、プロではない普通の競技レベルでも、1試合のヘディングが脳に検出可能な急性の変化を起こしうるという事実です。とくに遠くから飛んでくるボールへのヘディングは影響が大きく、研究チームは「ヘディングの回数や強い衝撃を減らすルール作りが、脳への急性の影響を減らせる可能性がある」と指摘しています。実際、海外では子供のヘディングを制限する国も出てきています。サッカーに親しむ本人やお子さんを持つ方は、こうした議論が科学的データに基づいて進んでいることを知っておくとよいでしょう。1)Mackay DF, et al. Neurodegenerative disease mortality among former professional soccer players. N Engl J Med. 2019;381:1801-1808.2)Hoppen MI, et al. Amateur soccer heading and acute elevations in blood-based p-tau217 and S100B. JAMA Neurol. 2026;83:635-644.

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AIを用いたMRI解析で従来検出困難だった多発性硬化症の皮質病変を検出

 多発性硬化症(MS)では脳の皮質に生じる病変(皮質病変)が身体機能障害や認知機能低下と深く関連しているが、従来のMRI検査では皮質病変の可視化に限界があった。しかし、新しく開発されたAI(人工知能)を活用したMRI画像解析手法により複数のMRI画像の情報を組み合わせて解析することで、従来のMRI検査では見えなかった病変を検出できる可能性が示された。 論文の筆頭著者である米バッファロー大学神経学および生物医学情報学分野のMichael Dwyer氏は、「従来のMRI画像を見ても、通常は皮質病変を確認することはできない。しかし、AIは画像間のごくわずかな違いを検出できるため、非常に強力なツールとなる。AIはこうした小さな差異を捉えることで、その部位に異常が生じており、組織の機能が健常な組織とは異なることを明らかにする」とニュースリリースで述べている。この研究の詳細は、7月7日付で「Communications Medicine」に掲載された。 今回の研究でDwyer氏らは、MRI画像処理技術として、FLAIR画像とT2強調画像を組み合わせたFLAIR2画像、T1強調画像とT2強調画像の信号比を用いたT1/T2比画像、AIを用いて一般的なMRI画像からDIR(Double Inversion Recovery)画像を生成するAI-DIR画像を評価した。その上で、これらの手法を組み合わせた病変強調画像「MMCLE(Multi-Modal Cortical Lesion Enhanced)」を開発した。さらに、トランスフォーマーを基盤とするAIを用いて皮質病変を自動検出し、専門家がその結果を確認・修正した。これらの手法を用いた皮質病変検出の有用性は、732人の患者(平均年齢44.6歳)を対象としたMS治療薬に関する第3相ORATORIO試験で取得されたMRI画像を用いて評価した。 その結果、開発用データセット(80人、平均年齢46.6歳、平均罹病期間7.0年)では、この解析法により、これまで検出できなかった皮質病変が患者1人当たり平均14.8個特定された。専門家によるブラインド評価では、MMCLE画像単独での病変検出性能が最も高く、真陽性率86.0%、偽陽性率8.4%であった。データセット全体(732人)では、専門家による評価の結果、計1万366個、1人当たり平均14.4個の病変が検出された。 論文の上席著者であるバッファロー大学ジェイコブス医学・生物医学部のRobert Zivadinov氏は、「従来型のMRIでは可視化できなかった皮質病変を検出できることは、MS研究と臨床診療の双方に大きな意義を持つ。これまで隠れていた認知機能障害や身体機能障害と関連する病変も含めたMS進行の指標を初めて可視化できるようになったことは重要な前進だ」と述べている。 この技術を活用すれば、例えば、皮質病変の形成をどの程度抑制できるかを指標として、既存および新規のMS治療薬の有効性を評価できるようになる。これまでは、従来のMRIで確認可能な白質病変に対するMS治療薬の効果しか評価できなかった。Zivadinov氏は、「脳内にこれほど多くの見えない病変が存在することを明らかにした本研究は、過去の臨床試験データの再評価だけでなく、今後実施される臨床試験にも大きな影響を与えるだろう」とコメントしている。 なお、本研究は、製薬企業Genentech社から一部支援を受けて実施された。同社は、このシステムの検証に用いられたMRIデータを収集した臨床試験にも資金を提供している。

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心・脳血管疾患の既往やNSAIDs使用はパーキンソン病リスクを高めるか?

 心・脳血管疾患の既往はパーキンソン病(PD)のリスク増加と関連することが示されているが、逆の因果関係による可能性が疑われていた。一方、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はPDリスクを低減させると考えられてきたが、過去のエビデンスは一貫しておらず、背景にある血管疾患による交絡の可能性も懸念されていた。 英国・University of OxfordのClare Wotton氏らは、女性約82万例を対象とした大規模前向きコホート研究「Million Women Study」のデータを用いて解析を行った。その結果、虚血性心疾患および脳血管疾患の既往はPD発症リスクの有意な上昇と関連しており、逆の因果関係だけでは説明できないことが示された。一方、NSAIDsの使用とPD発症リスクとの関連はみられなかった。本結果はAnnals of Clinical and Translational Neurology誌オンライン版2026年7月24日号に掲載された。 本研究では、1996~2001年に募集された英国の「Million Women Study」のデータが用いられた。ベースライン時(中央値2001年)の質問票でNSAIDs(アスピリン、イブプロフェン)の過去4週間の大半における使用(定期的な使用)の有無に回答し、かつPDの既往がない女性81万9,575例を対象とした。ベースライン時の自己申告および入院記録から、虚血性心疾患および脳血管疾患の既往を特定した。主要評価項目は、PDの診断を伴う初回入院またはPDを原死因とする死亡とし、Cox比例ハザードモデルを用いて調整ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。なお、本研究における「逆の因果関係」とは、運動症状が顕在化する前のPD前駆期において、病態の初期発現として血管疾患が生じた可能性や、初期症状に反応してNSAIDsの使用状況が変化した可能性を指す。この逆の因果関係の影響を評価するため、ベースラインから10年未満と10年以上の追跡期間別にも解析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象者81万9,575例において、平均18.2年(SD 4.3)の追跡期間中に、1万364例(1.3%)のPD発症が確認された。・虚血性心疾患の既往がある人は、既往がない人と比較してPD発症リスクの有意な増加を示した(HR:1.45、95%CI:1.35~1.54)。・脳血管疾患の既往がある人も同様に、PD発症リスクの有意な増加を示した(HR:1.51、95%CI:1.32~1.73)。・これらの血管疾患とPD発症リスクの関連は、ベースラインから10年以上経過した期間においても依然として顕著であった(10年以上のHRは虚血性心疾患で1.39、脳血管疾患で1.35)。・アスピリンの定期的な使用は、未調整モデルではPDリスク上昇と関連していたが(HR:1.20、95%CI:1.14~1.27)、血管疾患の既往で調整するとその関連はほぼ消失した(aHR:1.06、95%CI:1.00~1.13)。・イブプロフェンの定期的な使用は、調整の前後にかかわらず、PD発症リスクとの関連を示さなかった(調整前HR:1.03、95%CI:0.96~1.10、aHR:1.04、95%CI:0.97~1.11)。 著者らは、10年以上の追跡調査でも血管疾患がPD発症リスクの大幅な増加と関連していたことから、これらは単なる逆の因果関係だけでは説明できないと指摘している。背景として、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、炎症の関与が示唆された。これらは血管疾患のリスクを高めるアテローム性動脈硬化症の発症・進行に寄与する一方で、PDの特徴であるレビー小体を形成するα-シヌクレインの凝集にも関与している可能性がある。また、アスピリンやイブプロフェンの使用はPD発症リスクと直接的な関連がないことも示された。

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認知症リスク低下と関連する野菜の種類は?

 野菜や果物の総摂取量および摂取する野菜や果物の種類と認知症との関連を示すエビデンスは、依然として限られている。中国・浙江大学のLiyan Huang氏らは、3つのプロスペクティブコホート研究およびメタ解析を用い、野菜や果物の総摂取量およびサブグループ別の摂取量と認知症リスクとの関連を検討した。The American Journal of Clinical Nutrition誌オンライン版2026年6月27日号の報告。 本研究は、Health and Retirement Study (HRS)、Framingham Heart Study Offspring Cohort (FOS)、Whitehall II Study (WHII)のデータを用いて実施した。1日平均の野菜や果物の総摂取量および7つのサブグループの摂取量は、食物摂取頻度調査票を用いて評価した。認知症発症は、各コホート独自の定義に基づき特定した。Cox回帰モデルを用いて、ハザード比(HR)および95%信頼区間(CI)を推定した。また、本研究の結果と過去の13件のコホート研究の知見を統合したメタ解析も実施した。 主な結果は以下のとおり。・45歳以上の参加者1万8,339人(HRS:6,750人、FOS:3,068人、WHII:8,521人)を対象とし、平均7~13年間のフォローアップ期間中に936例の認知症発症が確認された。・多変量調整後、野菜や果物の総摂取量において、摂取量が最も少ない群(第1三分位)と比較し、最も多い群(第3三分位)では、認知症リスクが低いことが示された(第3三分位vs.第1三分位のHR:0.74、95%CI:0.61~0.89、p-trend=0.165)。・さらに、緑黄色野菜の摂取において、予防的な関連が認められた(1サービング増加当たりの統合HR:0.82、95%CI:0.70~0.96、p-trend=0.015)。・その他の野菜または果物のサブグループについては、有意な統合関連は認められなかった。・22万2,108人の参加者を対象としたメタ解析の結果、野菜や果物の摂取量が多いことは、摂取量が少ない場合と比較し、認知症リスクの低下と関連していることが示された(摂取量最多群と最小群の比較における統合HR:0.80、95%CI:0.71~0.91)。・野菜の摂取量(統合HR:0.87、95%CI:0.82~0.92)および果物の摂取量(統合HR:0.90、95%CI:0.85~0.95)についても、同様に有意な負の関連が認められた。 著者らは「本研究結果は、野菜や果物の摂取と認知症リスクとの間に負の関連があることを裏付けるものである。今後、特定のサブグループを対象としたさらなる研究が求められる」としている。

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「右利き」か「左利き」かは何によって決まる?

 字を書く、ボールを投げる、道具を使うといった日常的な動作をするとき、右利きの人は右手、左利きの人は左手の方がはるかに上手に動かせるのはなぜだろうか。新たな研究で、利き手の優れた運動能力は練習の積み重ねによって形成されるものであり、人の利き手を決定付けるような生まれつき固定された大脳半球の優位性は存在しないことが示された。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デイヴィッド・ゲフィン医学部神経内科のAhmet Arac氏らによるこの研究の詳細は、「Proceedings of the National Academy of Sciences(PNAS)」に6月30日掲載された。 これまでの研究では、すでに胎児の段階で左右の四肢のどちらかを優先して動かす傾向が見られ、その傾向から出生後にどちら側が利き手になるのか予測できることが示されている。このことから、人では一方の脳半球が運動制御において優れているため、その半球が主に制御する手や腕も、もう片方より巧みに動かせると考えられてきた。しかし、今回の結果はこの説に異を唱えるものだ。研究を主導したArac氏は、「利き手の優位性は、単にその手や腕に関わる脳半球が運動をうまく制御できるからではない。道具の使用や文字を書くといった複雑な動作を生涯にわたって練習してきた結果なのだ」とニュースリリースの中で述べている。 今回の研究でArac氏らは、健康な成人を対象に利き手と非利き手の運動能力を比較する一連の実験を行い、利き手の運動制御が優れている理由は、脳の左右差による生まれつきの運動能力の差なのか、それとも長年の経験によって培われた技能なのかを検証した。 最初の実験では、モーションキャプチャーカメラを用いて、被験者が5つのターゲットに向かって腕を伸ばす際の3次元の動作を分析した。動作は、1)通常の状態、2)手首に約4ポンド(約1.8kg)の重りを装着した状態、3)道具使用を模倣するため、前腕に軽い棒を固定した状態の3条件で実施された。 その結果、通常条件では、利き手と非利き手の動きの精度はほぼ同等だった。また、重りを装着した状態でも、両腕の動きの精度は同程度だった。しかし、棒を固定した状態で手を伸ばすという、より高い運動制御能力と精密さが求められる条件では、利き手の方が明らかに高い精度を示した。 次の実験では、参加者に左右それぞれの手で文字や数字を書いてもらった。次いで、左右それぞれの肘にペンを固定して、文字や数字を書いてもらった。その結果、肘に固定したペンで書いたときには、通常見られる利き手の優位性は完全に消えていた。予想通りの結果ともいえるが、左右の肘で書かれた文字はいずれもひどいものだった。 Arac氏は、「筆記という動作を一度も行ったことのない身体部位である肘に切り替えると、練習によって得られた利き手の優位性は消えてしまう」と言う。さらに、練習を重ねると、左右どちらの肘も同程度に上達し、最終的には非利き手では達したことのないレベルまで向上したという。 研究グループは、今回の研究結果は運動技能を再学習する必要がある脳卒中やその他の脳損傷を負った患者を助ける上で、新たな視点をもたらす可能性があると述べている。また、この結果は、人がどのように技能を要する運動を学習し、それを脳がどのように処理しているのかを解明する一助になる可能性があるとしている。

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元プロサッカー選手、中年期から脳萎縮の可能性

 サッカーW杯の熱狂が米国を席巻する中、サッカーのもう一つの側面、すなわちサッカーが脳に及ぼす影響に光を当てた研究が報告された。中年期の元プロサッカー選手では、コンタクトスポーツの経験がない人と比べて、脳の重要な領域の萎縮がより顕著であることが明らかになった。また、元選手では、うつ症状や不安症状が多く見られ、計画や問題解決の困難を訴える傾向も認められたという。英インペリアル・カレッジ・ロンドン(ICL)のCaleigh Grace Lynch氏らによるこの研究結果は、アルツハイマー病協会国際会議(AAIC 2026、7月12~15日、英ロンドン)で発表された。 Lynch氏はニュースリリースで、「これらの結果は、元トップレベルのサッカー選手では、通常では神経変性疾患が臨床的に明らかになる以前の段階である中年から、脳の健康に測定可能な影響が生じている可能性を示唆している」と述べている。 サッカーでは、主に頭部でボールを扱うヘディングによって、頭部への反復的な衝撃が生じる。他のコンタクトスポーツでは、こうした反復的な頭部への衝撃は、反復する頭部外傷との関連が指摘されている神経変性疾患である慢性外傷性脳症(CTE)の発症に関与する可能性が報告されている。 今回の研究では、元プロサッカー選手142人と、コンタクトスポーツ経験のない同年代の健常者56人(男性43人)を比較した。元選手の内訳は、少なくとも3年間フルタイムのプロ契約を結んでいた男性126人と、英国でプロサッカープレイヤーとしてプレーしていた女性16人で、年齢はいずれも30~60歳であった。 その結果、臨床的に重要なうつ症状が認められた割合は、元プロサッカー選手で31%だったのに対し、対照群では9%であった。また、臨床的に重要な不安症状が認められた割合は、元選手で42%、対照群で25%であった。さらに元選手では、計画、集中、問題解決、日常業務の管理能力についても自己評価が著しく低いことが示された。 124人の元選手のMRI画像を用いた解析からは、記憶、注意、意思決定、感情の調節に重要な役割を果たす前頭葉、帯状回、視床などの複数の脳領域で灰白質の体積が減少していることが明らかになった。脳全体の体積も、対照群より小さかった。さらに、神経放射線科医がMRI画像を臨床的観点から評価したところ、約2%で神経変性疾患を示唆する臨床的に重要な脳萎縮が認められたという。 Lynch氏は、「客観的な認知機能検査では両群に有意な差は認められなかったものの、自覚症状や脳構造には重要な違いが観察された」と述べている。研究グループは、今後も元サッカー選手を追跡し、本研究で認められた脳の萎縮がCTEや認知症、アルツハイマー病の症状につながるかどうかを検証する予定である。 主任研究者であるICLのThomas Parker氏はニュースリリースで、「参加者を長期間追跡することで、頭部への反復的な衝撃が長期的な脳の健康や神経変性疾患にどのような影響を及ぼすのかをより深く理解し、将来の世代にとってスポーツをより安全なものにするための戦略づくりに役立てたい」と述べている。 一方、アルツハイマー病協会の最高科学責任者兼医療担当責任者で、本研究には関与していないMaria Carrillo氏は、「このような研究は、生涯を通じた脳の健康に影響する要因への理解を深めるとともに、けがの予防と継続的なモニタリングの重要性を改めて示すものだ。得られた知見は、選手、医師、スポーツ団体がコンタクトスポーツのリスクをより正しく理解し、安全に競技へ参加するための一助となる」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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卵円孔開存を伴う片頭痛、抗血栓療法が有効か/BMJ

 卵円孔開存(PFO)は片頭痛、とくに前兆を伴う片頭痛と関連し、微小塞栓メカニズムの関与の可能性が示されている。小規模な研究で抗血小板療法(アスピリン、P2Y12阻害薬)の有効性が示唆されているが、これらのエビデンスには一貫性がなく、多くは非比較研究だという。中国医学科学院・北京協和医学院のZiping Li氏らは「COMPETE試験」において、PFOおよび片頭痛を有する患者のレスポンダー率に関して、アスピリン、クロピドグレル、リバーロキサバンはメトプロロールに対し非劣性であり、このうちリバーロキサバンは大出血イベントを増加させずに、レスポンダー率が有意に優れることを示した。研究の成果は、BMJ誌2026年7月29日号で報告された。中国の無作為化実薬対照試験 COMPETE試験は、抗凝固薬や抗血小板薬を含む抗血栓療法が、PFOを有する患者における片頭痛の予防に有益かの評価を目的に、中国の39施設で実施した研究者主導型の非盲検(評価者盲検)無作為化実薬対照・仮説生成型臨床試験であり、2022年10月~2024年12月に参加者を登録した(CAMS Innovation Fund for Medical Sciencesなどの助成を受けた)。 対象は、年齢18~64歳、片頭痛の診断を受けてから1年以上が経過し、片頭痛が月に4日以上発現し、心エコー図検査でPFOが確認された患者であった。 最大の解析対象集団984例(年齢中央値38.5歳、女性75.1%)を、アスピリン(247例:300mg、1日1回)、クロピドグレル(244例:75mg、1日1回)、リバーロキサバン(245例:20mg、1日1回)、メトプロロール(対照、248例:25mg、1日2回)の投与を受ける群に無作為に割り付け、12週間投与した。 主要評価項目は、ベースラインから9~12週目における、月間の片頭痛の発生日数または発作回数が50%以上減少した参加者の割合(レスポンダー率)とした。片頭痛完全消失率、MSQ総スコアも良好、大出血の発現なし ベースラインにおいて前兆を伴う片頭痛は234例(23.8%)に認められた。右左シャントは、グレード3(>30マイクロバブル)が586例(59.6%)、グレード2(10~30マイクロバブル)が233例(23.7%)、グレード1(1~9マイクロバブル)が165例(16.8%)であった。 主要評価項目のレスポンダー率は、アスピリン群が61.7%(148/240例)、クロピドグレル群が66.8%(157/235例)、リバーロキサバン群が78.4%(185/236例)、メトプロロール群は61.8%(144/233例)であった。 メトプロロール群との率差は、アスピリン群が1.0%(98.33%信頼区間[CI]:-9.9~11.8)、クロピドグレル群が4.7%(98.33%CI:-5.9~15.2)、リバーロキサバン群は16.2%(98.33%CI:6.0~26.4)であり、いずれも非劣性が示された(すべての非劣性のp<0.001)。また、メトプロロール群に比べリバーロキサバン群は、レスポンダー率が有意に優れた(優越性のp<0.001)。 さらに、メトプロロール群と比較してリバーロキサバン群のみで改善を認めた副次評価項目として、片頭痛の発生日数の減少(群間差:1.0日、95%CI:0~2.0)と発作回数の減少(群間差:1.0回、95%CI:0~2.0)、12週時の片頭痛の完全消失率(率差:12.5%、95%CI:4.1~20.8)、片頭痛特異的な生活の質(QOL)質問票(MSQ)の総スコア(群間差:18.7点、95%CI:7.9~30.0)などが挙げられた。 有害事象による介入中止は、アスピリン群で0例、クロピドグレル群で1例、リバーロキサバン群で2例、メトプロロール群で7例にみられた。試験薬関連の有害事象は、それぞれ48例(19.4%)、23例(9.4%)、42例(17.1%)、38例(15.3%)に認められた。 重篤な有害事象は2件発生した。リバーロキサバン群の1件は試験薬関連、メトプロロール群の1件は関連なしと判定され、いずれも治療により回復した。大出血はいずれの群でも発現しなかった。消化器症状はアスピリン群で多かった(それぞれ11.7%、2.0%、2.4%、1.6%)。塞栓が主因となる片頭痛のマーカーの可能性 著者は、「全体として、抗血栓療法は、有害事象の明らかな増加を伴わずに、片頭痛関連のアウトカムにおいて臨床的比較可能性または意義のある改善と関連しており、良好なリスク・ベネフィットプロファイルが示唆される」「これらの知見は、PFOを有する患者における片頭痛の発症に、微小塞栓メカニズムが関与している可能性を示すもの」としている。 また、「リバーロキサバン群で認めた数値上の優位性は、第1選択の予防治療に取って代わるエビデンスとしてではなく、むしろ塞栓が主因となる片頭痛の表現型を示す患者の特定に役立つ可能性のあるマーカーとして解釈すべきである」と指摘している。

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【GET!ザ・トレンド】チーム医療で心臓も家族も診る、ジストロフィン異常症の最前線(前編)

2026年6月1日、仏セルヴィエ(Servier)が米エッジワイズ・セラピューティクス(Edgewise Therapeutics Inc.)の筋ジストロフィー事業を最大26.5億ドル(約4,100億円)で買収することを発表した1)。この買収の目玉は、現在ベッカー型筋ジストロフィー(BMD)を対象に臨床試験が進行中の経口速筋ミオシン阻害薬「sevasemten」である。これまで根本的な治療薬が乏しかったBMD領域において、大型の事業買収が行われたという事実は、この疾患のアンメット・メディカル・ニーズへの注目度が高まっていることを示している。臨床現場においてBMDは、DMD(Duchenne muscular dystrophy)遺伝子のコドンの読み枠(リーディングフレーム)が維持されるイン・フレーム欠失が多く、完全欠損のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に比べて進行が緩徐な「軽症型」と説明されることが多い。しかし、実際に現場でBMD患者を診る医師は、「軽症」の一言では決して片付けられない臨床像の多様さに直面していた。治療薬開発のタイムラインが現実味を帯びてきた今だからこそ、BMDに関わる、またはその可能性のあるすべての医師に、「軽症だから」という固定観念にとらわれない包括的なアプローチが求められている。ここで、BMDの病態解明にモデルマウス研究や自然歴調査などを通じて長年尽力してきた、独立行政法人国立病院機構まつもと医療センターの中村 昭則氏に、近年発表された5つの重要な研究報告を踏まえ、これまでの臨床常識を最新のエビデンスに基づいてアップデートする解説をいただいた。1. 自然歴の再定義:大規模コホートからみえた骨格筋・呼吸・心機能・中枢神経症状の「乖離」今回のテーマを紐解くうえで不可欠なエビデンスとなるのが、日本の22の医療施設が参加し、私も携わった、イン・フレーム欠失を持つ225例のBMD患者を対象とした大規模な全国マルチセンター共同研究である2)。冒頭に記載があるとおり、BMDが「軽症型」と説明される背景には、同原因遺伝子の完全欠損型であるDMDと比較して遺伝子の読み枠が維持されているという特徴がある。この両疾患の分子遺伝学的な違いを下図に整理した。画像を拡大するこの共同研究のデータ解析から、これまで一括りに「軽症」と語られがちであったBMDのリアルな自然歴が浮き彫りとなった。患者の平均年齢は31.5歳(1~81歳)であり、初発症状は骨格筋症状が60.0%を占めたが、無症候性高CK血症の存在から発見される例も32.4%に上っている。注目すべきは進行のタイムラインである。歩行障害は53.8%の患者で認められ、車椅子導入の平均年齢は36.5歳であった。また、生命予後に直結する人工呼吸器の導入率も6.7%(平均年齢36.6歳)という結果であった。一見すると、これらの数字(平均年齢30代半ばでの車椅子や人工呼吸器導入)は、BMDが「緩徐に進行する軽症型」であるという従来のイメージと相反するように思えるかもしれない。しかしここで重要なのは、このデータが示す臨床像の「幅の広さ(多様性)」である。本研究の対象年齢が1~81歳ときわめて広範囲に及んでいることが示すとおり、軽微な骨格筋症状のまま高齢に至る例がある一方で、30代という若さで車椅子や呼吸器管理が必要となる例も確実に存在する。つまり、「BMD」という疾患名で一括りにできないほど、患者ごとにまったく異なる経過をたどるリアルな自然歴が、この大規模データによって浮き彫りになったといえる。また、心症状に関しては、患者の30%以上で心電図異常がみられ、15.1%に心不全症状がみられた。中枢神経症状においては、てんかん発作の合併率が8.0%、知的障害や発達障害の合併率が16.9%であった。ここで臨床医が最も注意すべきは、臓器間で進行度が並行しない「臨床症状の乖離」である。たとえば、本研究においてDMD遺伝子の「exon 45-47欠失」や「exon 45-55欠失」の患者は人工呼吸器の導入を必要としておらず、呼吸器症状においては比較的緩徐な経過をたどる傾向がみられた。一方、「exon 45-49欠失」の患者では、重度の骨格筋および呼吸筋の機能障害がみられた。しかしながら、心機能においては、こうしたエクソンの欠失パターンによらず患者間できわめて大きなばらつきが確認された。つまり、「骨格筋症状が軽い」からといって、心臓の病態も連動して軽いとは限らない。中枢神経症状についても、中枢神経に発現しているジストロフィン・アイソフォームに影響する後半のエクソンの欠失との関連が示唆されているものの、骨格筋の重症度とは相関せず、症状や重症度は一様ではなかった。以前のインタビュー(『【GET!ザ・トレンド】 循環器内科医が救う、筋ジストロフィー患者の予後』)でも言及したが、「骨格筋が軽症にみえること自体が、致命的な心不全リスクを覆い隠す最大のピットフォール」である。今回の全国規模のデータは、私が日頃から臨床現場で抱いていたこの危機感が、数字として実証された形となった。「骨格筋症状が軽いから、心臓も大丈夫だろう」という予測はBMDには通用しない。すべてのBMD患者に対し、エクソンの欠失パターンを念頭に置きつつも、各臓器やシステム(骨格筋、呼吸器、心筋、中枢神経系)を独立して定期評価する重要性が、この大規模データから明らかになったといえる。2. 「イン・フレーム欠失」以外の盲点:微小変異・重複変異の重症化リスクBMDといえば「イン・フレーム欠失」が定説だが、実際には全体の数%~十数%に微小変異(Microvariants:ミスセンス、ナンセンス、スプライス部位変異など)や重複変異(Duplication)が存在する。私も含めた日本の筋疾患専門医療機関のチームが報告した研究は、この「非欠失型BMD」49例(微小変異33例、重複変異16例)の臨床像を明らかにしている3)。解析の結果、とくに微小変異を持つBMD患者の多くで、心電図異常の合併率が非常に高いことが判明した。変異タイプ別の心電図異常の合併率を比較すると、イン・フレーム欠失(59.5%)や重複変異(31.3%)に対して、微小変異では90.9%に達していたのである。さらに、「変異の種類(ミスセンスかナンセンスか)」よりも、「ジストロフィンのどのドメインに変異があるか」が予後を左右することが明らかになった。具体的には、ロッド(Rod)ドメインの変異に比べ、システインリッチ(Cysteine-rich)/C末端(C-terminal)ドメインに変異を持つ症例では、骨格筋機能の低下(車椅子導入など)および呼吸機能障害が有意に重篤であった。また、発達障害や知的障害などの中枢神経系症状の合併率については、これら変異ドメインの間で有意な差はみられず、変異部位にかかわらず一定の割合で生じる点にも注意を払う必要がある。さらに本研究では、通常のDNA検査(MLPA法など)をすり抜ける、ジストロフィン変異の最大7%に存在するとされる「ディープイントロン変異」の存在とその病態の複雑さも示された。驚くべきことに、同じディープイントロン変異(c.265-463A>G)を持ちながらも、ある症例はBMDと診断される一方で、その同胞(きょうだい)は14歳で歩行不能となりDMDと診断されていたのである。この「まったく同じ変異でありながら臨床像が分かれる」という事実は、ジストロフィン異常症が遺伝子の一次配列(DNA)だけで一律に規定できないことを示唆している。日常診療において、遺伝子検査の結果が「エクソン欠失なし」であっても、次世代シークエンサーなどで微小変異が検出され、それがC末端側に位置している場合は、「BMDだから進行は緩徐だろう」と判断せず、ときにはDMDに近い厳重なフォローアップが必要となることを、われわれ臨床医は肝に銘じておかねばならない。>>後編に続く 1) Servierプレスリリース(2026年6月1日公開) 2) Nakamura A, et al. Ann Clin Transl Neurol. 2023;10:2360-2372. 3) Nakamura A, et al. Neurol Genet. 2025;11:e200215.

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本当にCGRP関連抗体薬で片頭痛の高水準ケアは可能となったのか?

 国際頭痛学会は、より高い治療水準を確立するため、実臨床における片頭痛予防の新たな治療目標を提示した。スペイン・Vall d'Hebron HospitalのEdoardo Caronna氏らは、CGRP関連抗体薬による片頭痛特異的治療を6ヵ月間行った後に、これらの目標を達成した患者の割合を評価する初の研究として、欧州における多施設共同実臨床プロスペクティブコホート研究(EUREkAコホート研究)を実施した。Cephalalgia誌2026年6月号の報告。 対象は、CGRP関連抗体薬(エレヌマブ70mgまたは140mgを毎月、ガルカネズマブ120mgを毎月+240mgの負荷投与、フレマネズマブ225mgを毎月またはフレマネズマブ675mgを四半期ごと)による治療を行った成人片頭痛患者。治療開始6ヵ月後の時点で、各治療目標カテゴリー(片頭痛消失群:1ヵ月当たりの片頭痛日数[MMD]0日、至適コントロール群:MMD 4日未満、中等度コントロール群:MMD 4~6日、不十分なコントロール群:MMD 6日超)に該当する患者の割合を評価した。また、不十分なコントロール群におけるMMDが50%以上減少した患者の割合についても評価した。 主な結果は以下のとおり。・本コホートの対象者5,818例のうち、6ヵ月時点のデータが得られた患者は4,963例であった。・その内訳は、女性の割合が82.3%(4,086例)、年齢中央値は48.0歳(四分位範囲[IQR]:40.0~55.0歳)であった。・ベースライン時の1ヵ月当たりの中央値は、頭痛日数が20.0日(IQR:13.3~28.0日)、MMDが15.0日(IQR:10.0~20.0日)であった。・ベースライン時点では、すべての対象者が不十分なコントロール群に分類されていた。・6ヵ月時点での治療目標カテゴリーの内訳は、片頭痛消失群が6.9%(342例)、至適コントロール群が22.9%(1,137例)、中等度コントロール群が24.6%(1,223例)、不十分なコントロール群が45.6%(2,261例)であった。・不十分なコントロール群の27.1%(613例)において、MMDの50%以上の減少が認められた。 著者らは「片頭痛による負担が大きい患者に対しCGRP関連抗体薬を用いた治療を行うと、実臨床の現場でも約30%の患者において、疾患の最適化されたコントロールや片頭痛の消失といった高い治療目標が達成可能であった。これらの知見は、片頭痛に対する新たな治療法の世界的なアクセス拡大の必要性を示唆するものである。今後の研究において、片頭痛特異的な予防療法をより早期に開始することで、治療反応者における残存する片頭痛日数をさらに減らし、より多くの患者が疾患の最適化されたコントロールを達成できるようになるかどうかを検討すべきである」と結論付けている。

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第71回 脳の“ゴミ出し”は鼻の奥から? 加齢でつまる「排水路」は再生できるのか

私たちの脳には、老廃物を処理して捨てる仕組みが備わっています。脳の周囲を満たす脳脊髄液と呼ばれる流動的な液体が、アミロイドβやリン酸化タウ、αシヌクレインといった、アルツハイマー病やパーキンソン病に関わるとされるタンパク質など、老廃物を洗い流しているのです。これまでの研究で、この脳脊髄液のおよそ半分が、最終的に首のリンパ節(頸部リンパ節)へと運ばれて処理されることがわかっていました。しかし、脳を包む空間から、どのようにして脳の外のリンパ管へ老廃物が「出ていく」のか、その出口ははっきりしていませんでした。排水路の出口は嗅球のそばそこで、研究チームは、蛍光を発する微粒子をマウスの脳脊髄液に注入し、その流れを立体的に追跡しました。すると脳脊髄液は、嗅球(鼻の奥の上側、脳の前下部にあり、においの情報を最初に受け取る神経の一部)のそばにある小さな穴を通り抜けて、リンパ管へ入り込むことがわかりました1)。このリンパ管は、やがて鼻の中のリンパ管とつながり、最終的に首のリンパ節へと流れていました。同様の「小さな穴」はサルでも確認され、ヒトにも通じる仕組みである可能性が示されています。実際に、大きめの微粒子でこの穴をふさぐと、首のリンパ節への流れが減ることも確認されました。この経路が排水に本当に使われていることが裏付けられたのです。加齢でつまり、点鼻で若返る?さらに研究チームは、加齢の影響を調べました。すると、高齢のマウスでは、くも膜の穴が少なく小さくなり、リンパ管そのものも大きく萎縮していました。その結果、首のリンパ節への脳脊髄液の流れも低下していました。つまり、加齢とともに脳の「排水路」が全体的に目詰まりしていくのです。注目すべきは、この目詰まりが元に戻せた点です。リンパ管を増やす働きを持つ「VEGF-C」という因子を、遺伝子のかたちで鼻から投与したところ、萎縮していたリンパ管が若い個体並みに回復し、脳脊髄液の排出量も若いマウスと同じレベルまで戻りました。興味深いことに、くも膜の穴の数や大きさは元に戻らなかったにもかかわらず、排出量は回復しました。これは、リンパ管を増やすだけでも、排水機能を取り戻せる可能性を示しています。私たちが知っておきたいことこの研究は、脳の老廃物処理が「鼻の奥のリンパ管」という具体的な出口を通っていること、そしてそれが加齢で衰えるものの回復させうることを示した点で重要です。ただし、これはあくまでマウス(と一部のサル)を用いた基礎研究であり、ヒトの治療として薬がすぐに使えるという段階ではありません。とはいえ、認知症などの背景にあると考えられる「脳のゴミ出しの衰え」に対して、新しい対策の糸口を示した成果として注目すべき研究結果と言えるでしょう。今後の進展に期待です。1)Hong SP, Jin C, Yang MJ, et al. CSF clearance through arachnoid fenestrations to olfactory meningeal lymphatics. Cell. 2026 Jul 21. [Epub ahead of print]

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日本人高齢者、ゴルフと認知機能が関連

 ゴルフは身体的、認知的、社会的要求を伴う多面的な活動であるため、高齢者の身体的および認知的機能の維持に関連している可能性があるが、ゴルフの継続期間や頻度と認知機能との関係は明らかになっていない。そこで、国立長寿医療研究センター老年学・社会科学研究センターの島田 裕之氏らは、高齢者におけるゴルフと認知機能との関連、継続期間や練習パターンとの関連を検討した。その結果、高齢期にゴルフを継続することは認知機能低下リスクが低いことと関連しており、またゴルフ歴が長いほどリスクが低いことが示された。Acta Psychologica誌2026年8月号に掲載。 本研究は、愛知県大府市で募集された65歳以上の地域在住高齢者4,575人を対象にした横断研究である。参加者を現在のゴルフのプレー状況に基づき、「ゴルフをしている」「ゴルフをやめた」「ゴルフ経験がない」の3群に分類した。4つの認知機能テストのうち1つ以上で閾値を下回った参加者は、認知機能の低下があると判断した。 主な結果は以下のとおり。・参加者の平均年齢は72.8±5.4歳(範囲:65〜93歳)であった。・認知機能の低下は、ゴルフをしている群(509人)で14.1%、ゴルフをやめた群(571人)で20.1%、ゴルフ経験がない群(3,495人)で21.6%に認められた。・認知機能の低下については、ゴルフしている群はゴルフ経験がない群と比べてオッズ比(OR)が有意に低かった。ゴルフ歴が長いほどORが有意に低かった(p<0.01)が、ラウンド数や練習回数との間に関連は認められなかった。・記憶機能の低下については、ゴルフをやめた群およびゴルフをしている群ではゴルフ経験がない群と比べて、ORが有意に低かった。・実行機能の低下については、ゴルフしている群はゴルフ経験がない群と比べて、ORが有意に低かった。 本研究では、高齢期にゴルフを継続することは認知機能低下リスクが低いことと関連しており、ゴルフ歴が長いほどリスクが低かった。一方、ラウンド数や練習回数と認知機能には明らかな関連が認められなかったことから、著者らは「プレーや練習の頻度よりも継続することが、高齢者の認知機能に関連する可能性が示唆される」と考察している。

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実臨床におけるレカネマブとAChE阻害薬の有用性比較

 アセチルコリンエステラーゼ(AChE)阻害薬は、アルツハイマー病の症状を緩和する。一方、レカネマブは、アルツハイマー病の進行を修飾する可能性が示されている。しかし、レカネマブの安全性や臨床的影響に関するリアルワールド・エビデンスは、依然として限られている。台湾・Mackay Medical UniversityのChuo-Yu Lee氏らは、軽度認知障害(MCI)またはアルツハイマー病の患者を対象に、レカネマブ投与を開始した場合とAChE阻害薬を投与した場合の安全性および有効性を比較するため、本研究を実施した。Alzheimer's Research & Therapy誌オンライン版2026年6月22日号の報告。 2023年7月〜2025年9月にMCIまたはアルツハイマー病と診断された患者を対象に、米国の電子カルテネットワークであるTriNetXを用いて、レトロスペクティブコホート研究を実施した。標的試験エミュレーションの手法を用いて、傾向スコアマッチング(1:1)およびCox比例ハザードモデルによってリスクの比較を行った。 主な結果は以下のとおり。・レカネマブ群は、AChE阻害薬群と比較し、神経画像上の異常所見の発生率が5倍高いことが示された。しかし、治療継続率(1年間)は同程度であった(53.4%vs.52.5%)。・マッチング後、各コホートには589例が含まれた。・AChE阻害薬群と比較し、レカネマブ群は、認知症の行動・心理症状(BPSD)のリスク(ハザード比[HR]:0.52、95%信頼区間[CI]:0.36〜0.77)および救急受診のリスク(HR:0.66、95%CI:0.51〜0.85)が有意に低かった。一方、入院のリスクは高かった(HR:1.31、95%CI:1.03〜1.67)。・レカネマブの使用は、抗精神病薬(HR:0.47、95%CI:0.32〜0.70)、抗うつ薬(HR:0.60、95%CI:0.43〜0.85)、メラトニン受容体作動薬/オレキシン受容体拮抗薬(HR:0.61、95%CI:0.42〜0.88)、抗菌薬(HR:0.61、95%CI:0.44〜0.86)、抗真菌薬(HR:0.57、95%CI:0.37〜0.88)の使用頻度の低下と関連していた。一方、ステロイドの使用頻度は、レカネマブ使用者において高い傾向が認められた(HR:2.19、95%CI:1.55〜3.10)。 著者らは「レカネマブの投与開始は、AChE阻害薬を中心とした従来の治療戦略と比較し、同等の治療継続率を有していたほか、探索的解析において、BPSDや救急受診のリスク低下、精神神経用薬や感染症関連薬の使用減少が認められた。ただし、レカネマブに関連する神経画像上の異常所見の発生率が高かったことや入院およびコルチコステロイド使用のリスクが増加したことは、アミロイド関連画像異常(ARIA)に対する積極的な臨床モニタリングおよびマネジメントを反映している可能性が高い。残存交絡の可能性を排除できず、結果の解釈には慎重を期す必要があるものの、これらの探索的知見は、バイオマーカーで確認されたコホートや直接比較による無作為化試験により、さらなる検証に値するものである」としている。

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話せる言語数が多いほど脳年齢は若い?

 言語を学ぶことには思わぬメリットがあるかもしれない。新たな研究で、複数の言語を話す人は、1つの言語しか話さない人と比べてAIで推定された脳年齢が若い可能性があることが示唆された。バスク認知・脳・言語センター(スペイン)の副科学ディレクターであるLucia Amoruso氏らによるこの研究結果は、欧州神経科学会連合フォーラム(FENS Forum 2026、7月6~10日、スペイン・バルセロナ)で発表された。Amoruso氏は、「簡単に言えば、話せる言語数が多い人ほど、脳年齢が実年齢より若い傾向が見られた」と述べている。 この研究でAmoruso氏らは、728人の成人の脳磁図(MEG)データを用いてAIを学習させ、安静時の脳の結合性から脳年齢を推定する「脳老化時計」を作成した。MEGは脳の神経細胞の電気的活動に伴い生じる微弱な磁場を測定し、脳活動を画像化する技術である。その上で、1~4言語を話す144人を対象に、多言語経験と脳年齢との関連を調べた。 その結果、話せる言語数が増えるほど、AIで推定した脳年齢は実年齢より若い傾向が認められた。具体的には、1言語のみ話す人と比べて、2言語を話す人では脳年齢が約6歳、3言語を話す人では約7歳、4言語を話す人では約13歳若いと推定された。また、若いうちに第二言語を習得した人ほど、脳年齢が若い傾向が認められた。 Amoruso氏は、「この関連は、単に話せる言語数だけに関係しているわけではない。言語の習熟度が高いことや、第二言語を早い時期に習得したことも、脳の老化の遅れと関連していた。つまり、多言語経験は『話せるか話せないか』という二者択一ではなく、どれだけ深く、どれだけ長く言語を使ってきたかという積み重ねが重要であることを示唆している」と述べている。 研究チームは今後、こうした言語能力がアルツハイマー病などの脳疾患にも影響を及ぼすかどうかを調べる予定だとしている。 この研究には関与していない、アテネ大学(ギリシャ)のChristina Dalla氏は、「加齢に伴う脳の健康や認知機能には、さまざまな要因が影響し得る。例えば、禁煙、健康的な食生活、社会活動や芸術活動への参加、身体を動かすことなどが役立つことが分かっている。また、生涯を通じてどのように脳を使うかも重要で、とりわけ脳を積極的に働かせるような努力を要する学習は、良い影響をもたらす」とニュースリリースで述べている。 さらにDalla氏は、「今回の研究は、第二、第三、あるいは第四の言語を学ぶことが、脳をより長く若々しく保つ助けになる可能性を示している。学び始める時期が早いほど、効果は高くなるようだ。年齢に関係なく、社会的・文化的な理由に加え、脳の健康という観点からも、外国語を学ぶ理由は数多くある。難しいことであっても、学校教育や生涯学習を通じて外国語学習を支援していくべきだろう」とコメントしている。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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多発性硬化症の再発を抑制する新規経口薬「ブメリティカプセル231mg」【最新!DI情報】第68回

多発性硬化症の再発を抑制する新規経口薬「ブメリティカプセル231mg」今回は、多発性硬化症治療薬「ジロキシメルフマラート(商品名:ブメリティカプセル231mg、製造販売元:バイオジェン・ジャパン)」を紹介します。本剤は、既存薬の消化器系副作用を回避するためにアミノエチルエステル化したプロドラッグであり、多発性硬化症の新たな治療選択肢として期待されています。<効能・効果>再発寛解型多発性硬化症の再発予防および身体的障害の進行抑制の適応で、2026年6月19日に製造販売承認を取得しました。<用法・用量>通常、成人にはジロキシメルフマラートとして1回231mg 1日2回から投与を開始し、1週間後に1回462mg 1日2回に増量します。なお、潮紅、消化器系副作用などが認められた場合には、患者の状態を慎重に観察しながら1ヵ月程度の期間1回231mg 1日2回投与に減量することができます。1回462mg 1日2回投与への再増量に対して忍容性が認められない場合は、本剤の投与を中止します。<安全性>重大な副作用として、リンパ球減少症(10.5%)、白血球減少症(2.6%)、進行性多巣性白質脳症(PML)、感染症、急性腎障害、肝機能障害、アナフィラキシー(いずれも頻度不明)があります。その他の副作用として、潮紅(31.9%)、下痢(10%以上)、上咽頭炎、上気道感染、尿路感染、好中球減少症、灼熱感、浮動性めまい、頭痛、錯感覚、ほてり、腹部不快感、腹痛、下腹部痛、上腹部痛、便秘、消化不良、鼓腸、胃食道逆流性疾患、悪心、嘔吐(いずれも1~10%未満)、胃腸炎、鼻漏、呼吸困難、胃炎、胃腸障害(いずれも頻度不明)があります。<患者さんへの指導例>1.この薬は、再発寛解型多発性硬化症の再発予防および身体的障害の進行抑制に使用します。体内でフマル酸モノメチルに変換され、細胞の抗酸化に関わるNrf2と呼ばれる経路を活性化することにより免疫の働きを調節し、神経の炎症を抑えます。2.体調が良くなったと自己判断して使用を中止したり、量を加減したりすると病気が悪化することがあります。指示どおりに飲み続けることが重要です。3.この薬の使用中は定期的にリンパ球を含む血液検査、肝機能検査および腎機能検査が行われます。4.吐き気や嘔吐、下痢が現れた場合は、脱水となって腎臓の働きが悪くなることがあるので、できるだけ早く医師に連絡してください。5.この薬の使用初期に顔のほてりや赤みが現れることがあります。気になる場合は医師または薬剤師に相談してください。6.妊娠する可能性がある人は、この薬を使用している間は適切な避妊を行ってください。【ここがポイント!】多発性硬化症(MS)は、免疫系の異常により神経細胞の軸索を覆うミエリン鞘が脱髄する自己免疫疾患であり、指定難病に指定されています。病変は中枢神経系の広範囲にわたり、脱髄部位に応じて、感覚障害、運動・歩行障害、視力障害、排尿・排便障害などの症状を呈します。MSの病型は、急性増悪(再発)と寛解を繰り返す再発寛解型(RRMS)、当初はRRMSの経過をたどるもののその後は再発の有無にかかわらず身体的障害が進行する二次性進行型(SPMS)、発症時から再発を伴わず機能障害が進行する一次性進行型(PPMS)に分類されます。MS患者の80~90%はRRMSとして発症し、そのうち約半数が発症15~20年でSPMSに移行するとされています。一方、PPMSでMSを発症するのは約5%にとどまります。MSの急性増悪期の治療には、第1選択として高用量のメチルプレドニゾロン静注療法(ステロイドパルス療法)が用いられ、十分な改善が得られない場合は血液浄化療法が考慮されることもあります。再発予防および進行抑制には、疾患修飾薬(DMD)が使用され、インターフェロンβ製剤、グラチラマー酢酸塩、フィンゴリモド、フマル酸ジメチル(DMF)などが代表的な薬剤として挙げられます。とくにDMFはRRMSに対する経口治療薬として広く使用されていますが、10%以上の頻度で消化器症状(下痢、腹痛、嘔気)が副作用として現れ、治療継続が困難となる場合があります。本剤は、有効成分としてジロキシメルフマラートを含むRRMSに対する経口DMDです。本剤は、DMFの主要活性代謝物であるフマル酸モノメチル(MMF)をアミノエチルエステル化した薬剤であり、経口投与後、全身循環に移行する前にエステラーゼ酵素系により速やかに加水分解されてMMFを生成します。MMFの作用機序は十分に解明されていませんが、細胞の抗酸化応答を制御するマスター転写因子であるnuclear factor erythroid-derived 2-like 2(Nrf2)転写経路を活性化することで免疫系を調節し、炎症性メディエーターの発現を抑制し、炎症性傷害に対する細胞保護作用を示すものと考えられています。臨床用量において、本剤から生成されるMMFの曝露量はDMFと同程度となります。RRMS患者を対象とした海外第III相臨床試験(ALK8700-A301試験)において、探索的評価項目である投与96週時までのMS再発患者割合は、全体集団では17.57%、デノボ被験者(本剤またはDMFが初めて投与された患者:サブグループ解析)では17.66%であり、ARRはそれぞれ0.13および0.14でした。また、日本を含む国際共同第III相臨床試験(272MS303試験)において、全体集団では、ベースラインから投与24週時までの調整したARRが0.26(95%信頼区間[CI]:0.14~0.47)、投与24週~48週時の調整したARRが0.09(95%CI:0.03~0.26)、ベースラインから投与48週時までの調整したARRが0.19(95%CI:0.11~0.33)でした(負の二項回帰モデル)。日本人集団(サブグループ解析)では、ベースラインから投与24週時までの調整したARRが0.28(95%CI:0.13~0.60)、投与24週~48週時の調整したARRが0.09(95%CI:0.02~0.39)、ベースラインから投与48週時までの調整したARRが0.18(95%CI:0.09~0.38)でした(負の二項回帰モデル)。

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日本におけるVZV髄膜炎発生率、12年で3倍超に

 日本における水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)髄膜炎の発生率は、過去12年間で3倍超に増加していることが、東京大学の山形 直毅氏らによる研究で明らかになった。一方で、大多数の患者はアシクロビルの長期静注療法により治療され、退院時には転帰が良好であったことも示されている。Journal of the Neurological Sciences誌2026年9月15日号掲載の報告より。 本研究では、2011年4月~2023年3月にVZV髄膜炎と診断された1,680例を、日本の全国入院患者データベースであるDPCデータを用いて特定した。VZV髄膜炎の年間発生率は、VZV髄膜炎患者数を各年の人口で除算し、DPC対象となる急性期病院の割合を用いて補正することにより算出した。また、対象患者の治療レジメン(抗ウイルス薬を含む)および臨床的アウトカム(院内死亡率および退院時のBarthel Index)について検討した。 主な結果は以下のとおり。・VZV髄膜炎の年間平均発生率は10万人年当たり0.25であり、2011年の0.13から2022年の0.46へと増加した。・96.4%の患者が初期治療として高用量アシクロビル静注療法を受け、投与期間中央値は11日間であった。アシクロビル静注療法を受けた患者のうち、89.3%が長期投与(7日間以上)を受けていた。・院内死亡率は0.8%であり、退院時のBarthel Indexが90以上であった患者は87.4%であった。

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抗炎症作用のある食事、認知症の予防に有効か

 抗炎症作用のある食品が豊富な食事は認知症の予防に役立つ可能性があることが、新たな研究で示唆された。アルツハイマー病関連病理や神経変性に関連する血液バイオマーカーが高い人では、抗炎症作用のある食事パターンへの遵守度が高いほど認知症リスクが低いことが示されたという。リュブリャナ大学(スロベニア)のAnja Mrhar氏らによるこの研究結果は、「JAMA Network Open」に6月25日掲載された。Mrhar氏らは、「約15年間にわたる高齢者コホート研究において、健康的な食事パターンの遵守率が高いほど認知症リスクは低いことが示された。この関連は、アルツハイマー病関連病理や広範な神経生物学的リスクを有する参加者においても認められた」と結論付けている。 この研究では、スウェーデンの高齢者研究プロジェクトに参加した成人1,865人(平均年齢70.5歳、女性60.3%)のデータを用いて、食事の質と認知症リスクとの関連を、アルツハイマー病関連病理および神経変性に関連する血液バイオマーカーの血中レベル別に検討した。具体的なバイオマーカーは、p-tau217、ニューロフィラメント軽鎖(NfL)、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP)であり、ベースライン時に評価された。p-tau217は、アルツハイマー病に特徴的な異常リン酸化タウタンパク質の一種、NfLは神経細胞の軸索が損傷した際に血液中に増加するタンパク質、GFAPは神経細胞を支持するアストロサイト(星状膠細胞)の活性を反映するタンパク質である。 参加者は60歳以上で、2001年3月~2004年8月の研究登録時に認知症を発症しておらず、78歳以上は3年ごと、78歳未満は6年ごとに、2016年2月~2019年11月まで追跡された。追跡調査では、食事の質や認知機能の評価などが行われた。食事の質は、98項目から成る食事摂取頻度調査票の回答に基づき、代替地中海食(Alternate Mediterranean Diet;AMED)、代替健康食指数(Alternative Healthy Eating Index;AHEI)、および逆転経験的食事炎症指数(reversed Empirical Dietary Inflammatory Index;rEDII)の3つの食事パターンへの遵守度を指標として評価した。 平均8.4年間の追跡期間中に240人が認知症を発症した。解析の結果、より健康的な食事パターンへの遵守度が高い人では、アルツハイマー病関連病理や神経変性に関連する血液バイオマーカー値が高値の場合でも、認知症リスクが低い傾向が認められた。rEDIIのzスコアが1標準偏差高くなるごとに、認知症リスクは、p-tau217レベルが高い人で29%(ハザード比0.71、95%信頼区間0.58~0.88)、NfLレベルが高い人で21%(同0.79、0.66~0.95)、GFAPレベルが高い人で27%(同0.73、0.60~0.89)低かった。一方、AMEDおよびAHEIと認知症リスク低下との関連は、バイオマーカーレベルが低い人においてのみ認められた。 研究グループは、「これらの結果は、標的を絞った食事による認知症の予防戦略が、一般集団だけでなく、認知症リスクが高い人にとっても重要であることを強調するものだ」と結論付けている。 この研究には関与していない米ノースウェル・ヘルスの管理栄養士であるEmily Case氏は、「抗炎症食には、アルツハイマー病の予防や進行の抑制に有効だとするエビデンスが蓄積している」と述べた上で、「毎日、健康状態と栄養を適切に管理し、適度な身体活動量と十分な睡眠時間を確保することは、アルツハイマー病などの認知機能障害を予防するために本当に重要なことだ」と指摘している。 さらにCase氏は、「遺伝的素因そのものを完全に制御することはできないが、食事や生活習慣によって遺伝子発現に良い影響を与えることはできる。すでに現れている認知症の症状を完全に治すことは難しいかもしれないが、食事を改善することで、より急速な病状の進行を防ぐことはできる」と述べている。

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臨床医が見落としやすい認知症のタイプは?

 認知症の早期かつ適切な診断(タイムリーな診断)は、治療計画や支援において重要とされるが、実臨床での過少診断(見落としや診断の遅れ)は頻繁に発生している。米国・Rush University Medical Center Rush Alzheimer's Disease CenterのYi Chen氏らの研究グループは、認知症コホートとメディケアの医療保険請求データ、および死後病理解剖データを結合した大規模解析を行った。その結果、アルツハイマー病(AD)やADと類似した臨床像を呈する辺縁系優位型加齢性TDP-43脳症(LATE-NC)の病理像を持つ患者は医療機関でタイムリーに認知症と診断されやすい一方、血管性病変や新皮質レビー小体(LB)病理を持つ患者は見落とされやすいことを明らかにした。Neurology誌2026年8月11日号に掲載。 本研究では、Rush Alzheimer's Disease Centerが実施する5つの高齢者コホート研究の参加者のうち、(1)年次評価で認知症新規発症が確認され、(2)メディケア請求データと統合可能で、(3)死後に脳病理解剖が完了した500例(発症時平均年齢87.8歳[SD 6.6]、女性70.6%)を対象とした後ろ向き研究を実施した。病理組織学的検査により、AD病理(NIA-AA基準)、中等度/重度のLATE-NC、中等度/重度の血管性病変、新皮質LB病理の有無を特定した。メディケアの請求データにおいて、研究上の認知症発症日の「3年前から1年後」の4年間に認知症の診断コード(ICD-9/10)が存在した場合を「タイムリーな診断」と定義し、各病理マーカーとタイムリーな診断との関連を多変量ロジスティック回帰分析により検討した。 主な結果は以下のとおり。・解析対象者500例のうち、医療現場でタイムリーな認知症診断を受けていたのは54.4%(272例)であった。・多変量解析の結果、AD病理(調整オッズ比[aOR]:1.91、95%信頼区間[CI]:1.21~3.00)および中等度/重度のLATE-NC病理(aOR:1.83、95%CI:1.25~2.68)は、タイムリーな診断率の向上と独立して関連していた。・一方、中等度/重度の血管性病変(aOR:0.94、95%CI:0.55~1.59)および新皮質LB病理(aOR:1.00、95%CI:0.64~1.55)は、タイムリーな診断と有意な関連を示さなかった。・併発する病理の数で評価した別モデルでは、病理が0~1個の群と比較して、3~4個の重度の複合病理を有する群でタイムリーな診断を受けるオッズが2倍以上に増加した(aOR:2.24、95%CI:1.32~3.82)。・コホート発症時に測定したMMSEスコアが低い(重症度が高い)患者や、併存疾患負担(Elixhauser指数)が高い患者ほど、タイムリーに診断されている傾向が認められた。 著者らは、医療現場においては記憶障害を主症状とするADやLATE-NCのほうが、MMSEなどの認知症スクリーニングでタイムリーな診断につながりやすい可能性を指摘している。一方で、遂行機能障害や注意・視空間認知障害などを呈しやすい血管性病変やLB病変は見逃されている危険性がある。臨床医が記憶以外の認知領域の症状低下にも感度高く対応できるツールを導入することや、多様な病理背景を考慮した診療体制を構築する重要性が示唆された。

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高齢者では認知機能低下が心血管疾患イベントに先行か

 高齢者では、認知機能低下が心血管疾患(CVD)イベントに先立って認められるという研究結果が、「JAMA Network Open」に4月20日掲載された。 モナシュ大学(オーストラリア)のSwarna Vishwanath氏らは、ネステッドケースコントロール研究において、CVDイベント発生前の高齢者における認知機能の推移を、CVDイベントがない対照群と比較した。データは、Aspirin in Reducing Events in the Elderly(ASPREE)ランダム化比較試験およびその延長観察研究(ASPREE-XT)から抽出した。対象は、CVDの病歴がない、オーストラリアおよび米国の地域在住高齢者(65歳以上)から成る前向きコホートであった。 11年間で、参加者1万9,114人のうち1,934人にCVDイベントが発生した。症例群のうち、判定委員会により確認されたCVDイベントを有する1,887人が、対照群7,548人とマッチングされた。解析の結果、CVDイベントがなかった人と比較して、CVDイベントが発生した人では、イベント発生の3~8年前から認知機能が低下していたことが分かった。CVDイベント発生前の数年間には、対照群と比較して、全般的な認知機能、エピソード記憶、情報処理速度、言語流暢性のより急速な低下が見られた。全般的な認知機能の複合スコア、実行機能の複合スコアについても、より急速な低下が見られたが、記憶の複合スコアでは有意な差は見られなかった。致死的な冠動脈性心疾患、脳卒中、心不全による入院に関して、同様な認知機能の推移が見られたが、このようなパターンは非致死的心筋梗塞では見られなかった。 著者らは、「今回の知見は、高齢者における早期の認知機能モニタリングの重要性を強調するものであり、特に多様な集団におけるCVDイベント発生前の認知機能の推移について、さらなる研究の必要性を示唆するものである」と述べている。 なお、1人の著者がバイオ医薬品企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。

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認知症リスクを考慮した帯状疱疹ワクチン、最適なタイミングは

 これまでの観察研究において、帯状疱疹ワクチン接種と認知症との間に予防的な関連があることが報告されている。しかし、これらの研究には方法論的な限界がある、あるいは米国では現在利用できない生ワクチンが対象となっていた。米国・Brown UniversityのKaleen N. Hayes氏らは、亜急性期ケアまたは長期ケアを目的として専門看護施設に最近入所した高齢者を対象に、入所後12ヵ月以内または退所後の遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチン接種(RZV)と認知症との関連を推定するため、本研究を実施した。Annals of Internal Medicine誌7月号の報告。 対象は、2017~22年に専門看護施設に入所し、ナーシングホームの電子健康記録(EHR)データとの連結が可能で、認知症の診断がなく、RZV接種の対象となる66歳以上のMedicare fee-for-service受給者。施設内または退所した場合は入所後12ヵ月以内に1回以上のRZV接種を受けた群を介入群とし、RZV未接種者を対照群とした。EHRデータと連結されたMedicareの診療報酬請求データを使用し、ターゲット試験エミュレーションおよびclone-censor-weightアプローチを用いたコホート研究を実施した。対象者は、認知症の発症、Medicare資格の喪失、死亡のいずれかが生じるまで、最長4年間のフォローアップを行った。プールされたロジスティック回帰モデルによる効果の推定には、clone-censor-weightの逆確率を適用した。測定項目には、妥当性が確認された認知症診断、ベースライン時および経時的に変化する57項目の共変量を含めた。 主な結果は以下のとおり。・研究コホートには、50万9,926例(平均年齢:79歳)の参加者が含まれた。・入所後12ヵ月以内に1回以上のRZV接種を受けた患者の割合は1.73%(8,843例)、そのうち退所後にRZV接種を受けた患者の割合は87.0%であった。・RZV接種は、認知症リスクの5.8パーセントポイント低下(95%信頼区間[CI]:3.9~7.5パーセントポイント低下)と関連していた(リスク比:0.76[95%CI:0.69~0.84]、4年間のリスク:RZV接種群18.8%vs.非接種群24.6%)。・男性および過去に生帯状疱疹ワクチンの接種歴がある患者では、この関連は弱まった。・本研究の限界は、ネガティブコントロール解析の結果、何らかの残存交絡が存在する可能性が示唆された点である。 著者らは「専門看護施設への入所中または入所後12ヵ月以内のRZV接種は、認知症リスクの低下と関連している」としている。

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