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軽微な難聴で認知症リスク上昇、APOE ε4保有者で顕著

 加齢に伴う難聴は、認知症の修正可能なリスク因子の1つとされるが、脳構造の変化や遺伝的背景との相互作用については不明な点が多かった。米国・テキサス大学サンアントニオ校のFrancis B. Kolo氏らの研究によると、中年期以降の軽微ないし軽度の難聴であっても、脳容積の減少、白質高信号量の増加、認知症発症リスクの上昇と有意に関連していることが明らかになった。とくにアルツハイマー病のリスク遺伝子であるAPOE ε4アレル保有者において、正常聴力者よりも、軽微以上の難聴者のほうが、認知症発症リスクが約3倍も高いことが示された。JAMA Network Open誌2025年11月5日号に掲載。 本研究では、Framingham Offspring Study参加者を対象に、第6回検査(1995~98年)で実施された純音聴力検査のデータをベースラインとして解析を行った。解析は目的に応じて以下の2つの重複するサンプルを用いて行われた。・サンプル1(脳構造・認知機能解析群):1,656例(平均年齢58.1歳[範囲 29.7~85.6])。聴力検査後の第7~8回検査でMRIおよび神経心理学的検査を実施し、脳の構造的変化と認知機能の推移を評価した。・サンプル2(認知症発症リスク解析群):935例(平均年齢67.6歳[60.0~85.6])。聴力検査時点で60歳以上の参加者を対象に、最長15年間にわたる認知症発症の有無を追跡した。 難聴の定義は、良聴耳の平均聴力レベルに基づき、正常(0~16dB)、軽微(16~26dB)、軽度(26~40dB)、中等度以上(>40dB)とした。 主な結果は以下のとおり。【サンプル1の解析結果】・軽度以上の難聴がある群は、正常~軽微の難聴がある群と比較して、全脳容積が有意に小さく(β:-4.10[標準誤差[SE] 1.76]、p=0.02)、遂行機能も低下していた(β:-0.04[SE 0.01]、p=0.009)。・軽微以上の難聴がある群では、正常聴力群と比較して、白質高信号量の増加が有意に高かった(β:0.03[SE 0.01]、p=0.03)。【サンプル2の解析結果】・15年間の追跡期間中に118例(12.7%)が認知症を発症した。軽微以上の難聴がある群は、正常聴力群と比較して、認知症の発症リスクが高かった(ハザード比[HR]:1.71、95%信頼区間[CI]:1.01~2.90、p=0.045)。・APOE ε4アレルを1つ以上保有する人における解析では、軽微以上の難聴がある群は、正常聴力群と比較して、認知症発症リスクが高かった(HR:2.86、95%CI:1.12~7.28、p=0.03)。一方、APOE ε4非保有者では、難聴による有意なリスク上昇は認められなかった。・軽微以上の難聴がある人において、補聴器を使用していない群では、正常聴力群と比較して、認知症リスクが有意に高かった(HR:1.72、95%CI:1.02~2.91、p=0.043)。補聴器を使用している群ではリスクの有意な上昇は認められなかった。とくにAPOE ε4保有者において、補聴器を使用していない群では、正常聴力群と比較して、認知症リスクの有意な上昇が認められた(HR:2.82、95%CI:1.11~7.16、p=0.03)。 本研究により、中年期以降の難聴は、たとえ軽度であっても脳容積の減少および認知症リスクと関連していることが示された。とくにAPOE ε4保有者においてその影響が大きいことから、著者らは、遺伝的リスクの高い集団に対する早期の聴覚スクリーニングと、補聴器による介入が認知症予防戦略として重要であると結論付けている。

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認知症になりやすい遺伝的背景のある糖尿病患者も生活習慣次第でリスクが著明に低下

 2型糖尿病患者が心臓や血管に良い生活習慣を続けた場合、認知機能の低下を防ぐことができる可能性が報告された。特に、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、この効果がより大きいという。米テュレーン大学のYilin Yoshida氏らの研究によるもので、詳細は米国心臓協会(AHA)年次学術集会(AHA Scientific Sessions 2025、11月7~10日、ニューオーリンズ)で発表された。 AHA発行のリリースの中でYoshida氏は、「2型糖尿病患者は認知機能低下のリスクが高く、これには複数の因子が関連している。例えば、肥満、高血圧、インスリン抵抗性などが認知機能低下に関連していると考えられる。そして、それらの因子をコントロールすることは、心臓や血管の健康状態を維持・改善することにもつながる」と述べている。 この研究では、英国の一般住民を対象とした大規模疫学研究「UKバイオバンク」の参加者のうち、認知症でない4万人以上の成人2型糖尿病患者を対象に、認知症の遺伝的リスクと、心臓や血管の健康状態を調査した。後者の「心臓や血管の健康状態」の調査では、AHAが提唱している「Life’s Essential 8(健康に欠かせない8項目)」の遵守状況を調べた。具体的には、Life’s Essential 8に含まれている4項目の生活習慣と4項目の検査値をそれぞれスコア化した上で、不良、中程度、良好という3群に分類した。なお、Life’s Essential 8の8項目は以下のとおり。1. 健康に良い食習慣2. 積極的な身体活動3. タバコを吸わない4. 健康的な睡眠5. 適正体重の維持6. コレステロールのコントロール7. 血糖値のコントロール8. 血圧のコントロール この研究参加者の健康状態を13年間にわたって追跡したところ、840人が軽度認知障害となり、1,013人が認知症を発症していた。心臓や血管の健康状態が中程度または良好な人は不良の人に比べて、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが15%低かった。また、心臓や血管の健康状態は、認知機能にとって重要な脳の灰白質という部分の体積と強い関連があった。 これらの関連は、対象者の遺伝的な認知症リスクを考慮に入れた解析により、いっそう明確に示された。つまり、認知症リスクが高い遺伝的な背景を持つ人では、そのリスクが低い、または中程度の人に比べて、心臓や血管の健康状態が良好であることで、軽度認知障害または認知症を発症するリスクが顕著に抑制されていた。より具体的には、心臓や血管の健康状態が不良の同世代の人に比べた場合に、軽度認知障害のリスクは27%低く、認知症のリスクは23%低かった。 研究グループの一員である同大学のXiu Wu氏は、「運命は遺伝子で規定されるものではない。心臓と血管の健康を最適な状態に維持することで、遺伝的に認知症リスクが高い2型糖尿病患者であっても、脳の健康を守ることができる」と話している。 なお、学会発表された研究結果は、査読を受けて医学誌に掲載されるまでは一般に予備的なものと見なされる。

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がん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版 第3版

がん診療の現場で役立つ、せん妄に関する指針を3年ぶりに改訂!せん妄はがん医療の現場において高頻度で認められる病態であり、超高齢社会を迎えた日本では今後さらに、せん妄の予防と対策が重要となる。今版では、予防ではラメルテオンとオレキシン受容体拮抗薬に関する臨床疑問を、症状緩和では抗精神病薬とベンゾジアゼピン系薬・抗ヒスタミン薬の併用に関する臨床疑問を追加した。また総論の章には、臨床現場で重要となるアルコール離脱せん妄や術後せん妄をはじめとした7項目の解説が新たに追加されている。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大するがん患者におけるせん妄ガイドライン 2025年版 第3版定価3,300円(税込)判型B5判頁数264頁発行2025年9月編集日本サイコオンコロジー学会/日本がんサポーティブケア学会ご購入(電子版)はこちらご購入(電子版)はこちら紙の書籍の購入はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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解熱鎮痛薬による頭痛誘発、その原因成分とは

 日本のテレビコマーシャルでお馴染みの解熱鎮痛薬「イブ」に含有されている成分が、韓国では2025年4月に違法薬物に指定されて持ち込み禁止となった。その成分は、日本人医師や薬剤師にはさほど認知度が高くないものの、近年の頭痛外来患者の増加の原因の1つになっている可能性があるという。今回、頭痛専門外来患者の市販薬(OTC医薬品)の服用状況などを研究する佐野 博美氏(京都大学大学院医学研究科 社会医学系専攻健康情報学)と共同研究者の平 憲二氏(プラメドプラス)が、日本社会薬学会第43年会にて「薬剤の使用過多による頭痛(medication-overuse headache:MOH、薬物乱用頭痛)」に関する報告をしたことから、解熱鎮痛薬に含まれる依存性成分や頭痛患者が増える実態について話を聞いた。解熱鎮痛薬に配合されている依存性成分の正体 海外での規制に至った原因成分とは、鎮静催眠成分のアリルイソプロピルアセチル尿素(ア尿素)である。OTC解熱鎮痛薬は、解熱鎮痛成分(アスピリン、アセトアミノフェン、イブプロフェンなど)、制酸成分(乾燥水酸化アルミニウムゲル、酸化マグネシウムなど)、生薬成分、無水カフェイン、その他成分、そして鎮静催眠成分(ア尿素、ブロモバレリル尿素[ブ尿素])などで構成される。今回問題とされたア尿素に焦点を当てた場合、イブシリーズでは5製品中4製品に配合されている。もちろんOTC 解熱鎮痛薬の成分として厚生労働省から認可を受けており、その前提で使用されているので国内の規制上は問題ない。 一方で、『頭痛の診療ガイドライン2021』のCQI-13(OTC医薬品による頭痛治療をどのように指導するか)では、OTC医薬品の不適切使用によるMOHを問題視しているものの、その具体的な要因は明らかにされていない1)。患者支持ダントツ、依存性成分が満足度の底上げか そこで佐野氏らは、「頭痛専門外来患者における市販薬の鎮痛薬服用状況:問診票を用いた記述疫学研究」において、片頭痛や緊張型頭痛のような一次性頭痛患者のOTC医薬品の利用率増加と医療機関受診率低下の原因を“OTC医薬品に含まれる依存性成分”と仮定し、3つの依存性成分(カフェイン、ア尿素、ブ尿素)が含まれている解熱鎮痛薬の使用状況を頭痛専門外来2施設で調査、初診患者の市販薬服用状況を明らかにした。 解析対象者は、普段使用している頭痛治療薬の種類を問診票に記載し、適格基準を満たした15歳以上の6,756例で、そのうち市販薬のみを服用し、商品名を明記していた1,128例をサブ解析した。その結果、約6割強がイブシリーズ(イブA錠EX、イブクイック頭痛薬DX、イブA錠、イブクイック頭痛薬、どのシリーズかは不明)を使用していたことが示された。なお、イブシリーズの場合、依存性成分を含まない『イブ』は2023年に販売中止されているため、「イブを使用=依存性成分を摂取」と判断された。使用されていたOTC医薬品の依存性成分の内訳については、カフェイン&ア尿素が最も多く(8割弱)、続いてカフェイン&ブ尿素、依存性3成分なし、カフェインのみ、依存性3成分すべてであった。医療にアクセスするも適正薬剤届かず 本集団の特徴として、佐野氏は「病院にアクセスしづらい働き世代で、とくに40代以上の女性が多かった。驚いたことに、対象者は重症度が高い患者であるにもかかわらず、その約2割が市販薬のみでコントロールしていた。カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体製剤などの新薬にたどりつくべき患者がたどり着けずに市販薬を手にしている可能性がある」と片頭痛治療の実際に危機感を抱いた。これについて平氏は、「依存性成分が処方箋医薬品とは異なる配合(比率)で含まれるOTC医薬品に“効果がある”と考えている患者は一定数存在する。患者自身がいろいろ試した結果、効果を実感してOTC医薬品に依存していくのではないか」と指摘し「通院しているが、“治療は市販薬”という患者も少なくない」と現状を説明した。 本調査の限界として、「ロキソニンやバファリンは処方薬との区別ができなかったため、集計結果の信頼性が低い」と説明し、「依存性成分は処方箋医薬品にも含まれているため、実際には本研究結果より多くの患者が依存性成分を摂取している可能性がある。さらに、鎮静作用のある成分とカフェインを同時摂取することは薬理作用が強化され、依存リスクが高まる可能性があるにもかかわらず、本対象者の使用薬剤の約9割にはそれらが一緒に含有されていた」と述べた。「今後は処方箋医薬品も含めた解析を実施していきたい」としながら、「医師・薬剤師をはじめ、医療者にはこのような実態を理解したうえで、患者に接してほしい」ともコメントした。

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レカネマブ承認後に明らかとなった日本におけるアルツハイマー病診療の課題

 2023年、日本で早期アルツハイマー病の治療薬として抗Aβ抗体薬レカネマブが承認された。本剤は、承認後1年間で約6,000例に処方されている。東京大学の佐藤 謙一郎氏らは、レカネマブ導入後の実際の診療とその課題、そして潜在的な解決策を明らかにするため、認知症専門医を対象にアンケート調査を実施し、その結果を公表した。Alzheimer's & Dementia誌2025年10月号の報告。 レカネマブを処方可能な認知症専門医を対象に、匿名のオンライン調査を実施した。回答した認知症専門医311人が1年間でレカネマブによる治療を行った患者数は3,259例であった。 主な結果は以下のとおり。・初回診察から初回点滴までの待ち時間が3ヵ月以内であると回答した専門医の割合は79%であった。・回答者の4分の1が、外来診療スペースおよび人員が逼迫しており、想定よりも治療能力が大幅に低いと回答した。・安全性に関する懸念は限定的であり、アミロイド関連画像異常(ARIA)による中断は3.5%であった。・回答者の半数以上が、点滴関連サービスへの追加的な診療報酬およびアポリポ蛋白E(APOE)遺伝子検査の保険適用を強く支持した。 著者らは「抗Aβ抗体薬への早期アクセスは実現可能であると考えられるものの、インフラ整備と財政面でのハードルが依然として高いことが明らかとなった」とし「日本において、抗Aβ抗体薬による認知症治療をより安全で、よりアクセスしやすく、持続的に行うためにも、APOE遺伝子検査の保険適用が不可欠である可能性が示唆された」としている。

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日本人不眠症におけるBZDからDORAへの切り替え方法

 デュアルオレキシン受容体拮抗薬(DORA)は、不眠症に対する効果的な薬物療法であるにもかかわらず、臨床現場では依然として多くの患者にベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZD)が不眠症治療薬として使用されている。不眠症治療において、BZDからDORAへの適切な切り替え方法を確立することは重要である。千葉大学の金原 信久氏らは、不眠症治療におけるBZDからDORAへの切り替えに関する成功事例について報告した。Clinical Psychopharmacology and Neuroscience誌2025年11月30日号の報告。 長期にわたりBZDを服用している210例の不眠症患者を対象とした、DORA(スボレキサントまたはレンボレキサント)導入後3ヵ月時点でのDORA継続率に関する先行研究の2次解析を実施した。半減期に基づき分類したBZDの種類がDORA継続率およびBZD減量率に及ぼす影響も検討した。 主な結果は以下のとおり。・超短時間作用型/短時間作用型BZDを服用していた患者では、DORAへの切り替え失敗率が有意に低いことが明らかとなった。・DORAへの切り替え成功に関する2つのロジスティック回帰分析では、DORAの3ヵ月継続を予測する因子として、次の3つが特定された。●ベースライン時のBZD高用量(Exp[B]:1.570、95%信頼区間[CI]:1.090〜2.262)●BZD服用期間の短さ(Exp[B]:0.991、95%CI:0.985〜0.997)●超短時間作用型/短時間作用型BZDの使用(Exp[B]:7.335、95%CI:2.054〜26.188)・また、ベースライン時のBZD高用量は、DORA継続とBZD減量の両方を予測する因子であることが示唆された(Exp[B]:1.801、95%CI:1.008〜3.216)。 著者らは「BZD高用量を服用している患者においては、不眠症治療薬をDORAに切り替える際に、超短時間作用型/短時間作用型BZDの減量を行うことで、DORAへの切り替えが成功する可能性が高いことが示唆された。一方、長期にわたりBZDを服用している患者においては、慎重な切り替えが必要となる」と結論付けている。

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家族の録音メッセージがICU入室患者のせん妄を防ぐ

 人工呼吸器を装着している集中治療室(ICU)入室患者では、5人中4人にせん妄が生じる。せん妄とは、治療による体への負担が原因で生じる異常な精神状態のことをいい、パニック、動揺、怒りなどの症状が現れる。新たな研究で、ICU入室患者に家族からの録音メッセージを聞かせることで、患者の意識を安定させ、せん妄を予防できる可能性のあることが明らかになった。米マイアミ大学看護健康学部のCindy Munro氏らによるこの研究結果は、「American Journal of Critical Care」に11月1日掲載された。 この研究でMunro氏らは、2018年4月から2020年11月にかけて(ただし、新型コロナウイルス感染症パンデミック中の3カ月間は中断)、南フロリダの2カ所の大規模病院の9つのICUで、人工呼吸器を装着している178人の患者を対象に、せん妄予防のための非薬理学的介入の有効性を検討した。 対象者は、家族からの録音メッセージを聞く群(89人)と通常のケアを受ける群(89人)にランダムに割り付けられた。計10種類の録音メッセージはいずれも2分間の長さで、午前9時から午後4時までの時間帯に、1時間ごとに再生された。内容は、医療従事者と家族が定期的に患者の様子を見に来ていることを思い出させることを意図したもので、患者の名前を呼び、今いる場所を思い出させ、人工呼吸器を装着していることや、回復を助けるためにワイヤーやチューブ類が設置されている可能性があることが伝えられた。 Munro氏は、「家族の関与がせん妄の予防と介入において重要な要素であることは、以前よりエビデンスによって示されている。しかし、家族がケアに全面的に関わるには、しばしば困難を伴うのが現状だ。そこでわれわれは、家族がそばにいなくても患者が家族の声を聞けるようにし、家族の存在感を補うための介入を考案した」と話している。 介入の結果、録音メッセージを聞いた群では通常のケアを受けた群と比べて、せん妄のない日数が有意に多いことが明らかになった。また、患者がメッセージを聞く頻度が高ければ高いほど、せん妄のない日数が有意に増えた(P<0.001)。 こうした結果を受けて研究グループは、「台本を使って家族が録音した音声メッセージは、人工呼吸器を装着しているICU入室患者のせん妄予防に役立つ、潜在的に効果が高く低コストの非薬理学的介入であることが明らかになった」と結論付けている。

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物忘れ対策あれこれ【Dr. 中島の 新・徒然草】(608)

六百八の段 物忘れ対策あれこれ寒くなりました。部屋の中でも寒いくらいなので、外はもっと寒い。いつの間にか、日課にしていた散歩もサボってしまっています。とはいえ、患者さんには「運動しましょう、散歩しましょう」などと言っているわけですけどね。さて、脳外科外来で尋ねられる質問の多くに「物忘れがひどい。何を食べたら治るのか?」というものがあります。食べて治すとか、それは無茶というもの。そもそも他人様にアドバイスするどころか、こちらも記憶力が心許なくなっています。さらに聞かれるのは「脳トレをしたらいいのか、数独をやったらいいのか」ということ。そりゃあ、やらないよりはマシだと思いますけど。結局、「公共交通機関を使って1人で外来通院できている間は大丈夫ですよ」とか何とか、適当にお茶を濁しています。実際のところ、年を取るほど覚えておかなくてはならないことが増えるし、一方で記憶力のほうは落ちていくし。いまさら脳を鍛えて記憶力を向上させようというのも無謀な話。なので、私は記憶力に頼らない方法を伝授しています。自分自身が日々実行している工夫の数々。 中島 「何でも覚えようとせずに、文明の利器を使いましょう。たとえば私は出先の広い駐車場に車を停めたときには、必ずスマホで写真を撮っています」 地下3階まである大きな駐車場になると、そもそも何階に停めたかも忘れてしまいがちです。そんなときにはスマホの写真が便利。「地下2階のB-56か」とすぐに確認ができます。 中島 「また何か込み入った話をしたら、その直後にスマホに要点を録音していますよ。たとえば生命保険の説明とか、その場ではわかったつもりになっていても、1週間もしたら忘れてしまっているでしょ」 生命保険に限らず、聞いたときには理解したはずなのに後で「何だったかな?」と思うことなんかたくさんありますよね。でも、直後に自分の声で5分ほどの録音を残しておけば、たとえ半年後であっても再生するだけで「なるほど、そうだったわい」と簡単に思い出すことができます。その他、私自身が実行している物忘れ対策の数々。・役所や職場の書類は、写真を撮ってから提出するiPhoneに元から入っている「メモ」というアプリを長押しすると「書類をスキャン」という機能があるので、それを使うと何枚かの書類を「カチャン、カチャン、カチャン、カチャン」と連続で記録し、写真フォルダに残してくれます。他人様に教えてもらったライフハックですが、人生が変わりました!・物の置き場所を固定する鍵とかフックとか小銭とか、私はいつも同じ場所に置いています。こうしておくと、必要なときはいつでも使用可能。片付けるときも迷わずにすみます。・物を減らす物がたくさんあるから探してばかりいるわけで、そもそも物が少なければ何でもすぐに出てきます。このことを患者さんにお勧めしても抵抗する人が多いのが現実。そんなときは「物を捨てられなくなるのが認知症の初期症状ですよ。認知症になりたくなかったら物を捨てましょう」と因果関係不明の説教をしています。・雑用こそ朝のうちに行う片付けたり掃除したりという雑用は思ったより頭を使うもの。なので、疲れる前に取り掛かるほうが効率的です。・使いかけのノートをメモとして使う掃除していると、その昔に最初の2~3枚だけ使ったノートがたくさん出てきます。そんなときは、使ったページを破り捨てれば残りの部分をメモ用紙として活用可能。私はオンライン英会話の予習復習や買い物メモなどに使っています。小さなメモ用紙だとすぐに使い切ってしまいますが、ノートならそんなことはありません。そもそもが廃物利用なので、殴り書きしようが余白ができようが自由自在。終わりのページまで行ったら、達成感に浸りつつ次のノートに取り掛かることができます。・アラームを利用するスマホを使えば、むこう24時間の予定のアラームを複数設定することができます。出掛ける時刻などに鳴るようにしておくと忘れることがありません。以前、ある会合の途中に抜ける必要があったので、アラームを設定しておきました。ちょうど話が盛り上がっている最中に鳴りだして助かったのですが、もし設定していなかったら忘れていたことでしょう。・エアタグを使う私自身は使った経験はないのですが、記憶障害のある高次脳機能障害の患者さんに、愛用のエアタグを見せてもらいました。これを財布に入れておくと、どこかに置き忘れてもすぐに見つけることができるそうです。使い始めてから、財布をなくすことがすっかりなくなったのだとか。というわけで、自ら実行している物忘れ対策の数々。こういった工夫を楽しむのもまた面白いですね。自分自身の経験を外来患者さんにアドバイスする日々を送っています。最後に1句 冬が来て 頭の中も 寒くなる

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認知症リスクを低下させるコーヒー、紅茶の摂取量は1日何杯?

 コーヒーと紅茶の摂取量と認知症の長期リスクとの関連性は、これまで十分に解明されていなかった。さらに、これらの関連性における循環炎症バイオマーカーの潜在的な媒介的役割についても、ほとんど研究されていない。中国・浙江大学のMinqing Yan氏らは、コーヒーと紅茶の摂取量と循環炎症バイオマーカーおよび認知症の長期リスクとの関連を明らかにするため、2つの縦断的研究を評価した。European Journal of Epidemiology誌オンライン版2025年10月27日号の報告。 対象は、Health and Retirement Study(HRS、2013~20年、6,001例)およびFramingham Heart Study Offspringコホート(FOS、1998~2018年、2,650例)に参加したベースライン時点で認知症でない人。コーヒーと紅茶の摂取量は、両コホートにおいて半定量的な食物摂取頻度調査票を用いて評価した。認知症の診断は、検証済みのアルゴリズムと臨床審査パネルを用いて確定した。コーヒーと紅茶の摂取量と認知症との関連性を評価するために、Cox比例ハザードモデルを用いた。循環炎症バイオマーカーがこれらの関連性を媒介しているかどうかを検討するため、媒介分析を実施した。 主な内容は以下のとおり。・フォローアップ期間中央値は、HRSで7.0年、FOSで11.1年。認知症を発症した人は、HRSで231例、FOSで204例であった。・コーヒー摂取が1日2杯以上の場合は、1日1杯未満と比較し、認知症リスクの28~37%低下が認められた。【HRS】ハザード比(HR):0.72、95%信頼区間(CI):0.52~0.99、p-trend=0.045【FOS】HR:0.63、95%CI:0.45~0.90、p-trend=0.015・適度な紅茶摂取は、非摂取者と比較して、HRSにおいて認知症リスクの低下と関連していたが、FOSでは有意な関連性は認められなかった。【HRS:1日0~1杯未満】HR:0.65、95%CI:0.48~0.89【HRS:1日1~2杯未満】HR:0.53、95%CI:0.30~0.94・媒介分析の結果、コーヒー摂取量と認知症との関連性は、インターロイキン-10(IL-10、29.30%)、シスタチンC(24.45%)、C-反応性蛋白(CRP、16.54%)、インターロイキン-1受容体拮抗薬(IL-1RA、11.06%)、可溶性腫瘍壊死因子受容体-1(sTNFR-1、10.78%)によって部分的に媒介されていることが示唆された。 著者らは「コーヒーの摂取量が多いほど、認知症リスクの低さに関連しており、この関連性は一連の炎症性バイオマーカーによって部分的に媒介されていると考えられる。適量の紅茶摂取も、認知症のリスク低下と関連している可能性がある。これらの知見を検証するためにも、今後さらに大規模な観察研究および介入研究が求められる」と結論付けている。

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双極症予防にメトホルミンが有効な可能性

 2型糖尿病治療薬であるメトホルミンは、メンタルヘルスに良い影響を与えることが示唆されている。中国・福建医科大学のZhitao Li氏らは、メトホルミン使用と双極症リスクとの間の潜在的な因果関係を評価するため、メンデルランダム化(MR)解析を実施した。Medicine誌2025年10月24日号の報告。 メトホルミンに対する遺伝的感受性と双極症リスクとの間の因果関係を明らかにするため、公開されているゲノムワイド関連解析(GWAS)の統計データを用いて、2標本双方向MR解析を実施した。メトホルミン使用に関連するゲノムワイドの有意な一塩基多型(SNP)を操作変数とした。メトホルミン使用と双極症との間の因果関係を決定するため、操作変数重み付けなどの手法を用いてMR解析を行った。水平的多面発現の影響を検出および補正するために、加重中央値、加重モード、単純モード、MR-Egger回帰、MR-pleiotropy残差平方和および外れ値などの補完的な手法を適用した。操作変数の異質性の評価にはCochran Q統計量、感度分析にはleave-one-out法を用いた。 主な内容は以下のとおり。・操作変数重み付け分析では、メトホルミン使用と双極症リスクとの間に有意な因果関係が認められた。【GWAS ID:ebi-a-GCST003724】オッズ比(OR):0.032、95%信頼区間(CI):0.002~0.593、p=0.021【GWAS ID:ieu-a-800】OR:1.452E-04、95%CI:1.442E-07~1.463E-01、p=0.012【GWAS ID:ieu-a-808】OR:0.33、95%CI:0.270~0.404、p=0.000・感度分析では、個々の結果に異質性は認められず(p>0.05)、有意な出版バイアスも認められなかった。 著者らは「この結果は、メトホルミンが双極症の予防因子となる可能性を示唆しており、精神疾患の予防と治療における代謝介入の応用に新たな理論的根拠を提供するものである」としている。

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ケタミンはうつ病の症状軽減に効果なし?

 ケタミンは、大うつ病性障害(以下、うつ病)の治療に効果がない可能性のあることが、臨床試験で明らかになった。うつ病で入院している患者に対する標準的な治療にケタミン点滴を追加しても効果が認められなかったという。ダブリン大学(アイルランド)トリニティ・カレッジ精神医学研究教授のDeclan McLoughlin氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Psychiatry」に10月22日掲載された。McLoughlin氏は、「われわれは本研究を行うにあたり、入院中のうつ病患者にケタミンを繰り返し投与することで気分が改善されるとの仮説を立てていた。しかし、実際にはそうではないことが判明した」と同大学のニュースリリースの中で述べている。 研究グループによると、うつ病患者の3分の1は、セロトニンやドパミン、アドレナリンなどの脳内の神経伝達物質を標的とする従来の抗うつ薬にあまり反応しない。そのため、うつ病の適応外治療薬としての利用が増加しているケタミンに大きな期待が寄せられている。 今回の臨床試験では、うつ病で入院中の18歳以上の患者65人(平均年齢53.5歳、男性59.7%)が、2週間に1回、最大8回にわたり、ケタミン(0.5mg/kg)またはベンゾジアゼピン系薬剤のミダゾラム(0.045mg/kg)のいずれかを、週2回、最大8回まで点滴で投与される群にランダムに割り付けられた。なお、本試験ではプラセボとしてミダゾラムが用いられる理由は、同薬が鎮静作用と精神活性作用を併せ持つため、患者がケタミンを投与されていないと推測しにくくなるように配慮したためだと説明している。 最終的に62人を対象に解析した結果、ケタミン群とミダゾラム群の間で、観察者がモンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS尺度)で評価した治療終了後のうつ病症状の重症度に有意な差は認められなかった。また、自己評価によるうつ病症状の重症度や、認知機能、費用対効果、生活の質(QOL)などの指標についても、両群間で有意な差は認められなかった。 McLoughlin氏は、「厳格な臨床試験の条件下では、うつ病の入院治療にケタミンを補助的に使用しても、治療の初期段階および6カ月間の追跡期間中において、標準治療以上の効果は得られなかった。これは、ケタミンの抗うつ効果に関するこれまでの推定値は過大評価されていた可能性があり、臨床現場における期待値を見直すべきことを浮き彫りにする結果だ」と述べている。 McLoughlin氏らは、ケタミンがうつ病治療に有効であることを示した過去の研究には欠陥があった可能性があると指摘している。具体的には、患者が自分に投与されたのはケタミンだと推測し、プラセボ効果による改善を経験した可能性があるというのだ。 実際に、今回の試験でも、投与薬を正しく推測した患者の割合は、ケタミン群で78〜85%、ミダゾラム群で46〜62%に上り、多くの患者が自分に投与された薬について正確に推測していたことが示された。こうしたことから研究グループは、「われわれは、盲検化を成立させるためにミダゾラムを用いたが、これは成功しなかった。観察された小さな効果は、特定の治療効果ではなく、患者の期待を反映している可能性がある」と述べている。 論文の筆頭著者であるダブリン大学トリニティ・カレッジのAna Jelovac氏は、「この研究は、臨床試験、特にケタミン、幻覚剤、脳刺激療法などの盲検化を維持するのが困難な治療法に関する臨床試験において、盲検化の成功、あるいは失敗を報告することの重要性を浮き彫りにしている。これらの問題は、プラセボ効果の増大や歪曲された結果につながり、実際の治療効果を誇張する可能性がある」と指摘している。

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睡眠薬の血圧コントロールに対する有効性、そのリスクとベネフィットは

 高血圧と睡眠障害を併発している患者における睡眠薬の有効性とリスクについては、依然として不明な点が多い。中国・First Affiliated Hospital of Jinan UniversityのZerui You氏らは、高血圧合併不眠症患者における睡眠薬の潜在的な有効性とリスクを調査した。BMC Cardiovascular Disorders誌2025年10月24日号の報告。 本研究は、米国成人を対象としたプロスペクティブコホート研究として、国民健康栄養調査(NHANES)の高血圧および薬剤使用データを用いて、分析を行った。睡眠薬の血圧コントロールにおける有効性を評価するため、線形回帰分析を用いた。Cox回帰分析により、睡眠薬と死亡率との関連性を検討した。 主な結果は以下のとおり。・対象は、降圧薬を服用している不眠症患者4,836例。・睡眠薬非使用患者と比較し、ベンゾジアゼピン系薬剤使用患者は、調整後の収縮期血圧(SBP)が2.22mmHg低かった(95%信頼区間[CI]:-3.70~-0.74、p=0.003)。・一方、ベンゾジアゼピン類似薬であるZ薬使用患者では、より顕著な低下(-3.33mmHg、95%CI:-5.85~-0.81、p=0.010)を示し、ジアゼパム、クロナゼパム、ゾルピデムでは、有意な降圧効果が認められた。・フォローアップ期間中央値は82.3ヵ月、すべての原因による死亡は809件みられた。・睡眠薬全体の使用(ハザード比[HR]:1.14、95%CI:0.97~1.33、p=0.120)およびベンゾジアゼピン系薬剤使用(HR:1.05、95%CI:0.87~1.26、p=0.639)は、すべての原因による死亡リスクの増加と有意な関連が認められなかった。・一方、Z薬使用患者は、非使用者と比較し、すべての原因による死亡リスクが高いことが示唆された(HR:1.39、95%CI:1.04~1.85、p=0.025)。・心血管疾患による死亡との有意な関連性は認められなかった。 著者らは「高血圧と睡眠障害を併発している患者に対する睡眠薬の使用は、血圧低下と関連しており、死亡リスクの有意な増加との関連は認められなかった」としている。

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統合失調症の陰性症状に対する補助的抗うつ薬の有効性~ネットワークメタ解析

 統合失調症の陰性症状に対する治療反応は必ずしも十分ではない。また、陰性症状に対する抗うつ薬の効果については、依然として議論の余地がある。中国・Affiliated Hospital of Southwest Medical UniversityのYuting Li氏らは、厳格な選択基準に基づき、統合失調症の陰性症状に対する補助療法としての抗うつ薬の有効性を評価するため、システマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Psychological Medicine誌2025年10月24日号の報告。 2025年4月16日までに公表され、統合失調症の陰性症状に対する補助療法として抗うつ薬とプラセボを比較したランダム化二重盲検比較試験をPubMed、Web of Scienceよりシステマティックに検索した。主要アウトカムは陰性症状とした。対象研究よりデータを抽出し、標準化平均差(SMD)を用いて全体的なエフェクトサイズを算出した。 主な結果は以下のとおり。・合計15件の研究(655例)を本レビューに含めた。・プラセボと比較し、陰性症状に対して有意に優れた効果を示した抗うつ薬は、ミルタザピン(2研究、48例、SMD:-1.73、95%信頼区間[CI]:-2.60~-0.87)およびデュロキセチン(1研究、64例、SMD:-1.19、95%CI:-2.17~-0.21)であった。・抗うつ薬間での直接比較では、ミルタザピンはreboxetine、エスシタロプラム、bupropionと比較し、統計学的に有意な差が認められたが、その他の抗うつ薬間あるいは抗うつ薬とプラセボの間に有意な差は認められなかった。・有病率に関する出版バイアスは認められなかった。 著者らは「抗精神病薬治療を受ける安定期統合失調症患者において、ミルタザピンまたはデュロキセチンの併用が陰性症状の改善に有効である可能性が示唆された。統合失調症の陰性症状に対する今後の治療計画に抗うつ薬を組み込むことは、さらなる検討に値する有望な戦略と考えられる」としている。

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糖尿病治療薬がアルツハイマー病初期の進行を抑制する可能性

 糖尿病治療薬がアルツハイマー病の初期段階の進行を抑制する可能性のあることが報告された。米ウェイクフォレスト大学アルツハイマー病研究センターのSuzanne Craft氏らの研究によるもので、詳細は「Alzheimer’s & Dementia」に10月7日掲載された。この研究では、既に広く使われているSGLT2阻害薬(SGLT2-i)のエンパグリフロジンと、開発が続けられているインスリン点鼻スプレー(経鼻インスリン)という2種類の薬剤が、記憶力や脳への血流、および脳機能の検査値などの点で、有望な結果を示したという。 論文の上席著者であるCraft氏は、「糖尿病や心臓病の治療薬としての役割が確立されているエンパグリフロジンが、脳の重要な領域の血流を回復させ、かつ、脳のダメージを意味する検査指標の値を低下させることを初めて見いだした。われわれのこの研究の成果は、代謝に対する治療によって、アルツハイマー病の進行速度を変えることができることを示唆している」と解説。また経鼻インスリンについては、「新開発の機器を用いてインスリンを鼻から投与することで、インスリンが脳に直接的に送り届けられ、認知機能、神経血管の健康状態、そして免疫機能が向上することも確認された」と述べ、「これらの知見を合わせて考えると、代謝への働きかけという視点が、アルツハイマー病治療における、有力な新しい展開につながり得るのではないか」と期待を表している。 この研究で示された結果が、今後の研究でも確認されたとしたら、アルツハイマー病の進行抑制に効果的な治療法がないという現状の打開につながる可能性がある。最近、アルツハイマー病の原因と目されている、脳内に蓄積するタンパク質(アミロイドβ)を除去する薬が登場したものの、研究者らによると、その効果は限定的だという。また、副作用のためにその薬を服用できない人も少なくなく、さらに、アミロイドβの蓄積以外のアルツハイマー病進行のメカニズムとされている、代謝異常や血流低下の問題は残されたままだとしている。 報告された研究では、軽度認知障害または初期のアルツハイマー病の高齢者47人(平均年齢70歳)を無作為に、インスリン点鼻スプレー、エンパグリフロジン、それらの併用、およびプラセボのいずれかの群に割り付けた。なお、エンパグリフロジンはSGLT2-iの一種で、腎臓での血糖の吸収を阻害して尿の中に排泄することで血糖値を下げる薬。 研究参加者の97%が、4週間の試験期間を通じて、割り付けられた通りに薬を使用した。解析の結果、インスリン点鼻スプレーを使用した群では、記憶や思考の検査指標の改善が見られ、画像検査からは、脳の白質という部分の構造を保ったり、認知機能にとって重要な領域への血流低下を防いだりする効果が示唆された。またエンパグリフロジンを服用した群でも、アルツハイマー病に関連するアミロイドβとは別のタンパク質(タウ)が減少し、病気の進行を反映する神経・血管関連の指標も低下して、さらに脳の主要な領域の血流が変化し、善玉コレステロールが上昇した。 全体として、両薬剤によって生じる変化は炎症の軽減と免疫反応の活性化につながることを示唆しており、どちらも脳の健康をサポートする可能性が考えられた。Craft氏は、「これらの有望な結果に基づき、より大規模で長期にわたる臨床試験を実施していきたい」と述べている。

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1日5,000〜7,500歩の歩行がアルツハイマー病から脳を守る?

 アルツハイマー病に関連する初期の脳の変化を遅らせたい人は、毎日の歩数を増やすと良いかもしれない。300人近い高齢者を最大14年間追跡調査した研究で、アルツハイマー病の早期兆候とされるアミロイドβ(Aβ)のレベルがすでに高い人でも、身体活動を行っている人では、記憶力や思考力の低下が遅いことが示された。このような身体活動の効果は、毎日の運動レベルが少量または中程度であっても認められ、1日の歩数が5,000〜7,500歩である人の思考力の低下率は、ほとんど活動していない人の半分程度であったという。米Mass General BrighamのWendy Yau氏らによるこの研究は、「Nature Medicine」に11月3日掲載された。 米国のアルツハイマー病患者数は現在約700万人とされるが、2060年までに倍増することが予想されている。現在、病気の進行を遅らせる薬としてレカネマブ(商品名レケンビ)とドナネマブ(商品名キスンラ)の2種類が利用可能だが、医師らは、進行を抑制する上では身体活動などの生活習慣が依然として重要であると述べている。 今回の研究では、米ハーバード加齢脳研究(Harvard Aging Brain Study;HABS)のデータを用い、認知機能の正常な高齢者296人を対象に、歩数計で測定した身体活動量がAβおよびタウタンパク質の蓄積速度の違いを介して、認知機能や日常生活機能の低下に関連するかを検討した。認知機能は最長14年にわたって毎年、追跡調査された。 その結果、試験開始時の身体活動量とAβ蓄積の進行速度との間に有意な関連は認められなかった。一方で、身体活動量が多い人ほど、認知機能や日常生活機能の低下速度が緩やかになる傾向が確認された。高い身体活動量と認知機能の低下速度の鈍化との間には独立した関連も認められた。 次に、身体活動と認知機能および日常生活機能の低下との関連がタウ病理に媒介されているかを検討した。その結果、高い身体活動量は、Aβ負荷が高い人におけるタウ蓄積速度の上昇を抑制していることが明らかになった。また、高い身体活動量とタウ蓄積速度の鈍化との間には独立した関連も認められた。 さらに、身体活動量とタウ蓄積、認知機能および日常生活機能の低下との関連について検討した。対象者は1日の歩数に応じて、非活動的(3,000歩以下)、低活動量(3,001〜5,000歩)、中活動量(5,001〜7,500歩)、高活動量(7,501歩以上)の4群に分類された。経時的な変化に関する解析では、非活動的な群に比べて、低・中・高活動量の全ての群で、Aβが多い人におけるタウ蓄積、認知機能、日常生活機能の低下速度は有意に遅いことが示された。量反応関係の解析からは、活動量を増やすほどタウ蓄積、認知機能、日常生活機能の低下速度が有意に鈍化するものの、それは1日の歩数が7,500歩までであり、7,501歩以上の歩数では改善効果は頭打ちとなった。 Yau氏は、「われわれは、より良い治療法やより良い薬の開発に取り組んでいるが、脳の健康を守るために自分で実践できるこれらの生活習慣要因の価値を過小評価することはできない」とSTAT Newsに語っている。  ただし、この研究は観察研究であるため、運動がアルツハイマー病を直接予防することを証明するものではない。それでも専門家らは、運動は「修正可能なリスク因子」であり、脳の健康増進のために変えることができることを示す研究が増えていることを裏付ける研究成果だとの見方を示している。

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実臨床における片頭痛予防薬フレマネズマブの有用性評価

 片頭痛は、社会的、経済的、機能的な負担を伴う疾患である。とくに慢性片頭痛(CM)または高頻度発作性片頭痛(HFEM)の患者において、その負担は顕著となる。イタリア・ローマ大学のFabrizio Vernieri氏らは、PEARL試験に登録されたイタリア人CMおよびHFEM患者を対象とした第2回中間サブ解析の結果として、イタリアの臨床現場における抗CGRPモノクローナル抗体フレマネズマブの使用に関する、最長12ヵ月間の治療期間における最新の実臨床データを報告した。Neurological Sciences誌オンライン版2025年10月17日号の報告。 第2回中間サブ解析では、PEARL試験に登録され、イタリアの頭痛専門施設で治療を受け、12ヵ月間のフレマネズマブ治療を完了した片頭痛患者のサブグループからデータを収集した(データカットオフ日:2023年6月15日)。主要エンドポイントは、フレマネズマブ投与開始後6ヵ月間における1ヵ月当たりの片頭痛日数(MMD)が50%以上減少した患者の割合とした。副次エンドポイントには、12ヵ月目まで評価されたベースラインからの平均MMDの変化量などを含めた。安全性の評価は、報告された有害事象に基づき行った。 主な結果は以下のとおり。・イタリアの頭痛専門施設に登録された片頭痛患者354例のうち、343例(CM:63.8%、HFEM:36.2%)を有効性解析対象に含めた。・データが利用可能な対象患者のうち、フレマネズマブ投与開始後6ヵ月間で平均MMDが50%以上減少した患者の割合は、61.2%であった。・ベースラインからの平均MMDの変化量は、1ヵ月目で-8.2±7.4、12ヵ月目で-8.9±6.9であった。・本試験において、新たな安全性に関する懸念は認められなかった。 著者らは「イタリアの片頭痛治療における臨床現場において、フレマネズマブは有効かつ忍容性が良好な治療選択肢であることが示された。この結果は、フレマネズマブに関するこれまでの実臨床における結果と一致している」としている。

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映画「エクソシスト」【その2】だから憑依は「ある」んだ!-進化精神医学から迫る憑依トランス症の起源

今回のキーワード演技性退行同調性ストックホルム症候群被暗示性祈祷性精神病[目次]1.なんで憑依は「ある」の?2.憑依とは?前回(その1)、憑依するメカニズムを、脳科学の視点から仮説を使って解き明かしました。しかし、暗示の影響程度で特定のニューラルネットワークが分離する根本的な原因については説明していませんでした。つまり、そもそもなぜ憑依は「ある」のかということです。この謎の答えに迫るために、今回も引き続き、映画「エクソシスト」を踏まえて、進化精神医学の視点から、憑依の起源に迫ります。なお、憑依の正式名称は憑依トランス症です。ただ、この記事では、わかりやすさを優先して、そのまま「憑依」で表記します。なんで憑依は「ある」の?ここで、進化精神医学の視点から、3つの心理の進化に注目して、憑依の起源を掘り下げてみましょう。(1)演じる心理-演技性約700万年前に人類が誕生し、約300万年前に部族集団をつくるようになりました。まだ言葉を話せないなか、けがをして動けないから運んでほしいことなどを何とか身振り手振りや表情などの非言語的コミュニケーションで演じて伝えていたでしょう。そして、大げさに演じたほうが、より助けてもらえたでしょう。1つ目は、演じる心理、演技性です。これは、相手にどう見られるかを想像する能力(心の理論)によって、「困ったふり」で生き延びることです。なお、演じる心理の起源の詳細については、関連記事1をご覧ください。この「困ったふり」を無意識に演じるように進化した心理現象としては、いわゆる「幼児返り」「赤ちゃん返り」(退行)、そして拘禁反応(ガンザー症候群)が挙げられます。拘禁反応とは、刑務所の独房や精神科病院の隔離室に長時間閉じ込められたり縛られたりした結果、まるでふざけたように的外れな返事をするようになること(的はずれ応答)です。両方とも小さな子供のように振る舞っており、一見奇妙な現象であると思われますが、この「困ったふり」という解離のメカニズムから説明することができます。ちなみに、「困ったふり」は、米国ドラマ「24」を題材として説明した腰抜け(解離性神経学的症状症の脱力発作)と同じ生存戦略であると考えることができます。この起源の詳細については、関連記事2をご覧ください。(2)合わせる心理―同調性約300万年前以降、人類は部族集団を維持するために、周りとうまくやっていこうとする心理が進化しました(社会脳)。そのために、周りと同じような見た目や動きをすると、心地良くなるようになったでしょう。また、相手が強ければ従い、弱ければ従えていたでしょう。2つ目は、周りに合わせる心理、同調性です。これは、先ほどの「困ったふり」で生き延びるのとは対照的に、「合わせるふり」で生き延びることです。なお、この同調によって、従う心理が極端になってしまったのがストックホルム症候群とマインドコントロール、従える心理が極端になったのがモラルハラスメントです。ちなみに、ストックホルム症候群とマインドコントロールは、解離症のその他として分類されていますが、モラルハラスメントは解離症を含め精神障害には分類されていません。進化精神医学的に考えれば、ストックホルム症候群やマインドコントロールと相互作用するモラルハラスメントも同じく解離症に分類されても良さそうなのにです。そのわけは、モラルハラスメントを病気として認定してしまうと法的にある程度許容しなければならなくなるからです。いくら病的な要素があっても、病気認定をしてしまうと被害者感情を逆なでしたり、犯罪抑止の観点からは逆効果になる可能性があります。このようなことから病的な要素を考慮しない(考慮するべきではない?)という社会的な「事情」が影響していることがうかがえます。ストックホルム症候群とモラルハラスメントの起源の詳細については、関連記事3をご覧ください。ちなみに、いわゆる「こっくりさん遊び」も、集団で無意識に同じ答えを導いてしまうなどの一見奇妙な現象に思われます。また、いわゆる「後追い自殺」(ウェルテル効果)も、生物としての生存本能に反していて不自然に思われます。しかしこれらも、この「合わせるふり」という解離のメカニズムから説明することができます。(3)なりきる心理―被暗示性約20万年前に、現在の人類(ホモサピエンス)が誕生してから、言葉を話すようになりました。そして、10万年前に、抽象的思考(概念化)ができるようになりました。この時、ようやく神の存在や死後の世界を想像できるようになったでしょう。そして、そのような超越的な存在を説明する人が必要になったでしょう。そんななか、神の声が聞こえる人は崇められたでしょう。これは、統合失調症の起源であると考えられます。この詳細については、関連記事4をご覧ください。統合失調症の人によって原始宗教が誕生したわけですが、統合失調症ほど継続して神の声を聞くことはできなくても、宗教儀式によって一時的にでも神の声を聞いたり、神や死者の霊になりきることができれば、その人も尊ばれたでしょう。しかし同時に、周りの人たちの思い入れや思い込みの影響で、悪魔にもなりきってしまったでしょう。3つ目は、周りが暗示したものになりきる心理、被暗示性です。これは、先ほどの「困ったふり」「合わせるふり」で生き延びるのと同じように、「なりきるふり」で生き延びることです。そして、これが憑依の起源と考えられます。その後、しばらくは、統合失調症と同じく、憑依はシャーマンや霊媒師という宗教的職能者として社会に溶け込んでいたでしょう。一方で、悪魔になってしまう憑依については、まさにこの映画のようなエクソシスト(祈祷師)たちが、悪霊は退散しろという暗示を再びかけて憑依を解くなどして活躍したでしょう。しかし、約200年前の産業革命以降、人格は1つであり変わらないという合理主義や個人主義の価値観が広がり、憑依は非科学的とされ、病気として認識(病理化)されるようになったのでした。なお、現在の精神医学の診断基準(ICD-11)において、「文化、宗教的な体験として受容されるトランス状態には、これらの診断を下すべきではない」「集団的文化や宗教の一部として受容されず、個人や社会にとって著しい苦痛や不利益を生じるときに診断の対象となる」と明記されており、現在でもトラブルを起こさなければ、病気認定しないという配慮がなされています。ちなみに、祈祷などの宗教的な影響(暗示)によって、憑依を含め、神の声を聴く(幻聴)、罰当たりを確信する(被害妄想)などの症状がある場合は、従来から祈祷性精神病と呼ばれていました1)。また、そのような症状がある人の影響(暗示)によって、近しい人が同じ幻聴や被害妄想などの症状が出てくる場合は、従来から感応精神病と呼ばれていました2)。これらは、「なりきるふり」という解離のメカニズムから説明することができます。憑依とは?「困ったふり」(演技性)、「合わせるふり」(同調性)、そして「なりきるふり」(被暗示性)という憑依の心理の進化を俯瞰すると、憑依とは神や死者の霊、時に悪魔になりきることで、周りの人々に超越的な存在を実感させて、まとまって助け合う気持ちを促したでしょう。預言者としてリーダーを担っていた統合失調症ほどではないにしても、憑依は、宗教的職能者の1人としてサブリーダー的な役割があったのではないでしょうか? そして、統合失調症と並んで、憑依は、人類が助け合って生き残るための、壮大なフィクションを演出する機能であったと言えるのではないでしょうか? 1) 祈祷性精神病 憑依研究の成立と展開、p7:大宮司信、日本評論社、2022 2) ICD-10 精神および行動の障害、p114:医学書院、2003 ■関連記事NHKドラマ「心の傷を癒すということ」【その2】地震ごっこは人類進化の産物だったの!? だから楽しむのがいいんだ!-プレイセラピー米国ドラマ「24」【その2】なんで腰抜けや記憶喪失は「ある」の?-進化精神医学から迫る解離症の起源美女と野獣【実はモラハラしていた!?なぜされるの?どうすれば?(従う心理)】映画「ミスト」 ドラマ「ザ・ミスト」(後編・その2)【なんで統合失調症は「ある」の?(統合失調症の機能)】

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第37回 「これは偽薬です」と伝えても効く? 「正直なプラセボ」が切り開く医療の未来

「プラセボ(偽薬)」と聞いて、あなたは何を思い浮かべますか。おそらく多くの人が、新薬の臨床試験で使われる「効果のないニセモノの薬」といったイメージを持つでしょう。そして、「プラセボ効果」は、患者さんが「本物の薬だ」と信じ込むことで生じる、つまり、「騙すこと」がその効果の前提条件だと、長年考えられてきました。しかし、もし医師が患者さんに「これは砂糖玉で、薬としての成分は一切入っていません」と正直に伝えたうえで投与したら?この素朴でありながら常識破りの疑問に挑んだのが、米国・ハーバード大学医学部のTed J. Kaptchuk氏です。彼が15年前に行った研究は、医療界の常識を揺るがす驚くべき結果を示しました。なんと、偽薬だと知らされて飲んだ患者さんでさえ、症状の改善が見られたのです。この「正直なプラセボ(オープンラベル・プラセボ)」と呼ばれるアプローチは今、慢性的な痛みやうつ症状の治療において、従来の医療を補完する新たな可能性として、大きな注目を集めています1)。「秘密」は不要だった? 「正直なプラセボ」の衝撃Kaptchuk氏が2010年に発表した画期的な研究は、過敏性腸症候群(IBS)の患者さんを対象に行われました。一方のグループには何も治療を行わず、もう一方のグループには「これはプラセボ(ただの砂糖玉)です」と正直に説明したうえで、偽薬を処方しました2)。常識的に考えれば、効果があるはずがありません。しかし結果は予想を裏切るものでした。偽薬だと知らされたうえで飲んだグループは、何も治療を受けなかったグループに比べて、IBSの症状が有意に改善したのです。この研究は、「プラセボ効果に『騙す』というプロセスは必ずしも必要ではない」という衝撃の事実を明らかにしました。もちろん、1つの研究だけで結論は出せません。しかし、この研究を皮切りに、世界中で「正直なプラセボ」の研究が進められました。ドイツ・フライブルク大学のStefan Schmidt氏らによる最新のメタ分析(複数の研究データを統合して分析する手法)では、60件の研究、4,500例以上のデータを分析した結果、「正直なプラセボ」の効果は確かにあり、とくに慢性的な痛み、うつ、不安、疲労感といった「患者さん自身が感じる症状(自己申告の症状)」で見られ、その効果は幻想ではないと結論付けられています3)。なぜ「偽薬」と知っても効くのか? 脳内の“薬局”と“儀式”では、なぜ「ニセモノ」だとわかっていても私たちの身体は反応するのでしょうか。その完全なメカニズムはまだ完全には解明されていませんが、いくつかの有力な説が浮上しています。Kaptchuk氏は、この現象を「身体の中には“薬局”が備わっている」と比喩表現しています。つまり、プラセボは、脳内にもともと備わったエンドルフィンやカンナビノイドといった「脳内鎮痛物質」の放出を促すと考えられています。言い換えれば、プラセボはそれ自体が効くのではなく、自分自身の脳が持つ鎮痛システム(薬局)を作動させるスイッチの役割を果たしているのです。このスイッチを押すために、とくに重要だとKaptchuk氏が強調するのが、「思いやりのある医師と患者の関係性」です。単に砂糖玉を渡すのではなく、医師が患者さんの苦しみに耳を傾け、「この治療があなたの自然治癒力を助けるかもしれません」と丁寧に説明し、信頼関係の中で行われること自体が、治療的な効果を生むというのです。Schmidt氏はこれを「治癒の儀式」という言葉で説明しています。「薬を飲む」という行為自体が、強力な「儀式」だというわけです。たとえ中身が砂糖だと知っていても、専門家である医師から処方され、期待を込めて服用するという「儀式」そのものが、脳にポジティブな変化をもたらすのではないか、と考えられています。この仮説を裏付ける強力な証拠もあります。イタリアの神経科学者Fabrizio Benedetti氏の研究では、プラセボで鎮痛効果が得られた人に、オピオイド拮抗薬(モルヒネなどの鎮痛効果を打ち消す薬)であるナロキソンを注射すると、その鎮痛効果が消えてしまうことが示されました。これは、プラセボが、実際に脳内のオピオイドシステム(脳内の薬局)を働かせていたことを意味します。Benedetti氏は、この現象を「ホラー映画」に例えます4)。私たちは映画に出てくる怪物が作り物だと知っていても、恐怖を感じ、心拍数が上がります。それと同じように、たとえ偽薬だとわかっていても、私たちの脳と身体は、治療という文脈や儀式に対して、無意識に反応してしまうのです。期待と倫理的ジレンマ:本当に医療に使えるのか?プラセボの研究が進むにつれ、これを実際の臨床現場で使おうという動きも出てきています。たとえば、米国ではオピオイド(医療用麻薬)の依存症が深刻な社会問題となっていますが、慢性的な痛みに苦しむ患者さんへの新たな選択肢として期待されています。米国・ノースウェスタン病院の医師らは、脊柱側弯症の術後という強い痛みを伴う青少年の患者に対し、オピオイドとプラセボを併用することで、オピオイドの使用量を減らせないかという臨床試験を計画しています。副作用や依存リスクのない治療として、その応用に期待が集まります。しかし、この「正直なプラセボ」の臨床応用には、大きな倫理的ジレンマが伴います。最大の懸念は、Benedetti氏らが指摘するように、プラセボが「エセ医療」を正当化する口実として悪用されるリスクです。科学的根拠のない治療法を提供する人々が、「これはプラセボ効果だから安全で効果がある」と主張し始めるかもしれません。スイス・バーゼル大学のMelina Richard氏が行った倫理的なレビューでも、この懸念が最も大きな問題として挙げられています5)。さらに、治療において「ポジティブシンキング(前向きな思考)」が過大評価されることで、医学的に証明された有効な治療法を患者さんが避けてしまう危険性も指摘されています。また、Richard氏は、この分野の研究者がまだ特定のグループに限られており、エコーチェンバーに陥っているリスクも指摘しています。彼女は、より多様な視点からの議論が必要であり、「プラセボの臨床応用は時期尚早である」というのが、現時点での一般的な科学的コンセンサスだと述べています。この慎重論に対し、Kaptchuk氏は「インチキ療法師は自らの治療をプラセボとは言わない。彼らは『気』や『未知のエネルギー』が効くと言うのだ」と反論します(皮肉にも「正直なプラセボ」の効果は、エセ医療の効果すら裏づけているとも言えなくもありませんが)。そして、米国でオピオイド危機により何百万人もの人々が苦しんでいる現実を前に、「時期尚早だと言っている人々は、その苦しみを知らないのか? 決めるのは患者自身であるべきだ」と強く訴えています。「正直なプラセボ」の研究は、まだ始まったばかりです。しかし、その効果が本物であるならば、それは単に「偽薬が効いた」という話にとどまりません。医師と患者の信頼関係、治療という行為自体が持つ「意味」、そして私たち自身が持つ「治癒力」の重要性を、科学が改めて解き明かそうとしているのかもしれません。 参考文献・参考サイト 1) Webster P. The mind-bending power of placebo. Nat Med. 2025;31:3575-3578. 2) Kaptchuk TJ, et al. Placebos without deception: a randomized controlled trial in irritable bowel syndrome. PLoS One. 2010;5:e15591. 3) Fendel JC, et al. Effects of open-label placebos across populations and outcomes: an updated systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Sci Rep. 2025;15:29940. 4) Benedetti F, et al. Placebos and Movies: What Do They Have in Common? Curr Dir Psychol Sci. 2021 Jun;30(3):202-210. 5) Richard M, et al. A systematic qualitative review of ethical issues in open label placebo in published research. Sci Rep. 2025;15:12268.

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MCIからアルツハイマー病に移行する修正可能なリスク因子とは

 軽度認知障害(MCI)は、アルツハイマー病の前段階に当たる前認知症期である。MCIからアルツハイマー病へ移行するリスク因子を検討した研究は、これまで数多くあるが、その結果は一貫していない。韓国・高麗大学のKyoungwon Baik氏らは、韓国のMCI患者におけるMCIからアルツハイマー病への移行率およびそれに寄与するリスク因子を調査するため、本研究を実施した。Scientific Reports誌2025年10月10日号の報告。 韓国において12年間の全国規模のレトロスペクティブコホート研究を実施した。2009〜15年の間に40歳以上のMCI患者を登録し、2020年までフォローアップ調査を行った。MCI診断時の年齢に基づき、アルツハイマー病への移行率およびそのリスク因子を分析した。解析には、Cox比例ハザード回帰分析を用いた。 主な内容は以下のとおり。・MCI患者におけるアルツハイマー病への移行率は70〜90歳にかけて増加し、100歳近くでプラトーに達した。・アルツハイマー病への移行リスク上昇と関連していた因子は、低体重(ハザード比[HR]:1.279、95%信頼区間[CI]:1.223〜1.338)であった。・心血管代謝疾患の中で、糖尿病(HR:1.373、95%CI:1.342〜1.406)、冠動脈疾患(HR:1.047、95%CI:1.015〜1.079)、出血性脳卒中(HR:1.342、95%CI:1.296〜1.390)はアルツハイマー病への移行リスクを増加させたが、高血圧、虚血性脳卒中、脂質異常症との関連は認められなかった。・うつ病(HR:1.736、95%CI:1.700〜1.773)および身体活動不足(HR:1.193、95%CI:1.161〜1.227)はリスク上昇と関連していた。・軽度(HR:0.860、95%CI:0.830〜0.891)から中等度(HR:0.880、95%CI:0.837〜0.926)のアルコール摂取、高所得(HR:0.947、95%CI:0.925〜0.970)、都市部居住(HR:0.889、95%CI:0.872〜0.907)は、アルツハイマー病への移行リスクの低下と関連が認められた。 著者らは「いくつかの修正可能なリスク因子は、MCIからアルツハイマー病への移行リスクの増加と密接に関連していることが明らかとなった。本研究の結果は、MCI患者におけるアルツハイマー病への移行リスクを軽減するための予防戦略の策定に役立つ可能性がある」としている。

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脳内の老廃物を排出する機能の障害が認知症に関連

 脳内の老廃物の排出機能の不具合が、認知症の一因となっている可能性のあることが、新たな研究で示された。脳の保護と洗浄の役割を果たしている透明な液体である脳脊髄液(CSF)の流れの障害が、将来的な認知症リスクを予測する指標となることが示されたという。英ケンブリッジ大学のYutong Chen氏らによるこの研究結果は、「Alzheimer’s & Dementia」に10月23日掲載された。Chen氏らは、「このような老廃物の排出機能の問題は、脳内の血管に損傷を与える心血管のリスク因子と関連している可能性がある」と指摘している。 Chen氏らが今回の研究で着目したのは、「グリンパティックシステム」と呼ばれる仕組みだ。グリンパティックシステムは、脳内の小血管を取り囲む微細な経路を通してCSFを循環させ、脳内から毒素や老廃物を排出して洗浄するシステムである。排出される老廃物の中には、アルツハイマー病の特徴的な要素と考えられているアミロイドβやタウタンパク質なども含まれている。 研究では、UKバイオバンク参加者4万4,384人の成人のMRI画像を分析した。その結果、グリンパティックシステムの機能低下に関連する以下の3つのマーカー(指標)に、その後10年間の認知症リスクの予測能があることが明らかになった。1)DTI-ALPSの低下:DTI-ALPSはMRIの一種である拡散テンソル画像(DTI)から計算される指標で、グリンパティックシステムの微細な経路に沿った水分子の動きを表す。2)脈絡叢の拡大:脈絡叢はCSFを産生する脳領域であり、その拡大はCSF産生および老廃物除去量の減少と関連している。3)血中酸素濃度依存(BOLD)信号とCSFの同期低下:BOLD信号とCSFの同期が強いほど、CSFの流れが良好であることを意味する。 さらにChen氏らは、高血圧や糖尿病、喫煙、飲酒といった心血管リスク因子がグリンパティックシステムの機能を低下させ、その結果として認知症リスクを高めることも突き止めた。心血管リスク因子は脳内の血管に損傷を与え、その血管の周囲のグリンパティックシステムにも影響が及ぶとChen氏らは説明している。 Chen氏は、「極めて大規模な集団を対象にした今回の研究から、グリンパティックシステムの障害が認知症の発症に関与しているという有力なエビデンスが得られた。これは、このシステムの障害をどう改善できるのかという新たな疑問につながるため、素晴らしいことである」とニュースリリースの中で述べている。 一方、論文の上席著者であるケンブリッジ大学脳卒中研究グループ長のHugh Markus氏は、「認知症リスクのうち、少なくとも4分の1は高血圧や喫煙などの一般的なリスク因子によって説明できる。もし、これらがグリンパティックシステムの機能を低下させるのであれば、介入が可能だ。高血圧を治療したり禁煙を促したりすることは、グリンパティックシステムの働きを改善する達成可能な方法になるだろう」と指摘している。 研究グループは、グリンパティックシステムの働きには睡眠が重要であるため、良質な睡眠が老廃物の排出を促進する可能性があるとの見方を示している。また、薬剤によってこのシステムの効率を高められる可能性も考えられるとしている。研究グループはさらに、心血管リスク因子への対策が、グリンパティックシステムの機能に保護的に働く可能性にも言及している。これまでに報告されている臨床試験では、血圧を厳格にコントロールすることで認知機能低下や認知症のリスクが20%低下することが示されている。

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