ケタミンは、大うつ病性障害(以下、うつ病)の治療に効果がない可能性のあることが、臨床試験で明らかになった。うつ病で入院している患者に対する標準的な治療にケタミン点滴を追加しても効果が認められなかったという。ダブリン大学(アイルランド)トリニティ・カレッジ精神医学研究教授のDeclan McLoughlin氏らによるこの研究の詳細は、「JAMA Psychiatry」に10月22日掲載された。McLoughlin氏は、「われわれは本研究を行うにあたり、入院中のうつ病患者にケタミンを繰り返し投与することで気分が改善されるとの仮説を立てていた。しかし、実際にはそうではないことが判明した」と同大学のニュースリリースの中で述べている。
研究グループによると、うつ病患者の3分の1は、セロトニンやドパミン、アドレナリンなどの脳内の神経伝達物質を標的とする従来の抗うつ薬にあまり反応しない。そのため、うつ病の適応外治療薬としての利用が増加しているケタミンに大きな期待が寄せられている。
今回の臨床試験では、うつ病で入院中の18歳以上の患者65人(平均年齢53.5歳、男性59.7%)が、2週間に1回、最大8回にわたり、ケタミン(0.5mg/kg)またはベンゾジアゼピン系薬剤のミダゾラム(0.045mg/kg)のいずれかを、週2回、最大8回まで点滴で投与される群にランダムに割り付けられた。なお、本試験ではプラセボとしてミダゾラムが用いられる理由は、同薬が鎮静作用と精神活性作用を併せ持つため、患者がケタミンを投与されていないと推測しにくくなるように配慮したためだと説明している。
最終的に62人を対象に解析した結果、ケタミン群とミダゾラム群の間で、観察者がモンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS尺度)で評価した治療終了後のうつ病症状の重症度に有意な差は認められなかった。また、自己評価によるうつ病症状の重症度や、認知機能、費用対効果、生活の質(QOL)などの指標についても、両群間で有意な差は認められなかった。
McLoughlin氏は、「厳格な臨床試験の条件下では、うつ病の入院治療にケタミンを補助的に使用しても、治療の初期段階および6カ月間の追跡期間中において、標準治療以上の効果は得られなかった。これは、ケタミンの抗うつ効果に関するこれまでの推定値は過大評価されていた可能性があり、臨床現場における期待値を見直すべきことを浮き彫りにする結果だ」と述べている。
McLoughlin氏らは、ケタミンがうつ病治療に有効であることを示した過去の研究には欠陥があった可能性があると指摘している。具体的には、患者が自分に投与されたのはケタミンだと推測し、プラセボ効果による改善を経験した可能性があるというのだ。
実際に、今回の試験でも、投与薬を正しく推測した患者の割合は、ケタミン群で78〜85%、ミダゾラム群で46〜62%に上り、多くの患者が自分に投与された薬について正確に推測していたことが示された。こうしたことから研究グループは、「われわれは、盲検化を成立させるためにミダゾラムを用いたが、これは成功しなかった。観察された小さな効果は、特定の治療効果ではなく、患者の期待を反映している可能性がある」と述べている。
論文の筆頭著者であるダブリン大学トリニティ・カレッジのAna Jelovac氏は、「この研究は、臨床試験、特にケタミン、幻覚剤、脳刺激療法などの盲検化を維持するのが困難な治療法に関する臨床試験において、盲検化の成功、あるいは失敗を報告することの重要性を浮き彫りにしている。これらの問題は、プラセボ効果の増大や歪曲された結果につながり、実際の治療効果を誇張する可能性がある」と指摘している。
[2025年10月28日/HealthDayNews]Copyright (c) 2025 HealthDay. All rights reserved.利用規定はこちら