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超音波ヘルメットによって手術なしで脳刺激療法が可能に

 脳深部刺激療法(deep brain stimulation;DBS)は、てんかんやパーキンソン病から群発頭痛、うつ病統合失調症に至るまで、さまざまな疾患の治療に有望であることが示されている。しかし残念ながら、DBSでは医師が患者の頭蓋骨に穴をあけ、微弱な電気パルスを送る小さなデバイスを埋め込むための手術が必要になる。こうした中、新たな超音波ヘルメットによって、手術を行わずに脳の深部を正確に刺激できる可能性のあることが示された。英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)のBradley Treeby氏らによるこの研究の詳細は、「Nature Communications」に9月5日掲載された。 Treeby氏らによると、このヘルメットは従来の超音波装置と比べて約1,000分の1、またDBS用に設計されたこれまでの超音波装置と比べて30分の1の領域を標的にすることができるという。Treeby氏は、「臨床的には、この新技術はパーキンソン病、うつ病、本態性振戦といった神経・精神疾患において重要な役割を果たしている特定の脳回路を、これまでにない精度で標的にすることができることから、これらの疾患に対する治療を一変させる可能性がある」とニュースリリースの中で説明している。 経頭蓋超音波刺激(transcranial ultrasound stimulation;TUS)では、頭部に置いた電気信号を超音波振動に変換する装置(トランスデューサー)から発生させた超音波のパルスを集結させて、脳の標的部位を刺激する。TUSは非侵襲的であり、また従来の脳刺激法では難しかった脳の深部領域にも刺激を送ることが可能という利点を持つ。ただし、その精度は装置や周波数によって異なる。 今回の研究でTreeby氏らは、MRスキャナー内で深部脳構造を高精度に刺激するための超音波システムを設計した。この試験的なヘルメットには、個別にコントロールできる256個のトランスデューサーが搭載されており、脳の特定部位に焦点を合わせて超音波ビームを送ることができる。これらのビームによってニューロンの活動を高めたり、抑えたりすることが可能だという。Treeby氏らによると、患者は仰向けに横たわり、頭をヘルメットに差し入れる。装置には柔らかいプラスチック製のフェイスマスクが付いており、超音波による治療中に頭部が動かないよう固定する役割を果たす。 Treeby氏らは、7人を対象にこの超音波ヘルメットを使った実験を行った。標的は、視床の一部で視覚情報の処理を助ける役割を担っている外側膝状体と呼ばれる領域であった。 脳スキャンの結果、この超音波ヘルメットは試験参加者の視覚野の活動を有意に増減させることができ、治療後もその状態が少なくとも40分間持続することが示された。参加者は、自分の見ているものに変化があったとは認識していなかったが、脳スキャンでは神経活動に明確な変化が認められたという。Treeby氏は、「手術なしで脳の深部構造を精密に調節する能力は、脳機能の解明や標的治療の開発を目指す取り組みにおいて、安全で可逆的かつ繰り返し実施可能な方法を提供し、神経科学におけるパラダイムシフトにつながる」と述べている。 この技術の臨床的可能性を踏まえ、最近、研究グループの複数のメンバーによってUCL発のスピンアウト企業NeuroHarmonics社が設立され、携帯可能な着用型のシステムの開発が進められている。論文の共著者である、英オックスフォード大学のIoana Grigoras氏は、「この新たな脳刺激装置は、これまで非侵襲的には到達不可能だった脳深部構造を正確に標的とする能力を手に入れるための取り組みにおいて、ブレークスルーとなるものだ。われわれは、特に脳深部領域が影響を受けるパーキンソン病などの神経疾患における臨床応用の可能性に期待している」と話している。

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睡眠障害を有するうつ病に対するブレクスピプラゾール補助療法の有効性

 うつ病患者では、睡眠障害を伴うことが多い。デンマーク・H. Lundbeck A/SのFerhat Ardic氏らは、うつ病および睡眠障害患者におけるブレクスピプラゾール併用療法の有効性を評価するため、3つのランダム化比較試験(RCT)の事後解析を実施した。Frontiers in Psychiatry誌2025年8月7日号の報告。 抗うつ薬治療で効果不十分なうつ病患者を対象とした、ブレクスピプラゾール併用療法に関する3つのプラセボ対照RCTのデータを統合した。ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)の睡眠障害因子(SDF、不眠症に関する3項目の合計)を用いて、対象患者をベースラインの睡眠障害レベルにより高SDF群(SDF:4以上)と低SDF群(SDF:4未満)に分類した。Montgomery Asbergうつ病評価尺度(MADRS)合計スコア、SDFスコア、その他の有効性スコアの変化について、抗うつ薬治療にブレクスピプラゾール2mgまたは3mgを併用した群(ブレクスピプラゾール併用群)と抗うつ薬治療にプラセボを併用した群(プラセボ群)との比較を行った。安全性は、治療関連有害事象(TEAE)の発現率により評価した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン(1,160例)では、高SDF群が689例(59.4%)、低SDF群が471例(40.6%)であった。・6週目において、ブレクスピプラゾール併用群は、プラセボ群と比較し、両サブグループにおいてMADRS合計スコアの改善がより大きく(高SDF:p<0.0001、低SDF:p=0.0058)、高SDFサブグループではSDFスコアの改善がより大きかった(p=0.021)。・TEAEの発現率は、高SDF群および低SDF群のいずれにおいて、ブレクスピプラゾール併用群のほうがプラセボ群よりも高かった。【高SDF群】ブレクスピプラゾール併用群:59.8%、プラセボ群:51.6%【低SDF群】ブレクスピプラゾール併用群:62.4%、プラセボ群:40.9% 著者らは「ベースラインの睡眠障害の有無にかかわらず、6週間にわたりブレクスピプラゾール併用群はプラセボ群と比較し、うつ病の重症度の改善と関連していた。ベースラインの睡眠障害がより重度な患者においては、ブレクスピプラゾール併用群はプラセボ群と比較し、睡眠障害の改善が良好であり、日中の過鎮静を伴うことは少なかった。また、新たな安全性上の懸念も見当たらなかった」としている。

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全身だるくて食後に眠い【漢方カンファレンス2】第6回

全身だるくて食後に眠い以下の症例で考えられる処方をお答えください。(経過の項の「???」にあてはまる漢方薬を考えてみましょう)【今回の症例】50代後半女性主訴全身倦怠感、不眠既往腹圧性尿失禁、アレルギー性鼻炎生活歴仕事:事務職(人手不足で忙しい)、入退院を繰り返す母の介護中。病歴2〜3年前から不眠に悩んでいる。午前中から眠気がつらくて体がだるく仕事がはかどらない。12月に漢方治療を希望して受診。現症身長157cm、体重49kg。体温36.3℃、血圧119/80mmHg、脈拍60回/分 整。経過初診時「???」エキス3包 分3を処方。(解答は本ページ下部をチェック!)1ヵ月後寝つきがよくなった。全身倦怠感は変わらない。2ヵ月後夜中に目が覚めなくなった。仕事中も眠くならない。4ヵ月後忙しいが体調はよい。よく眠れている。問診・診察漢方医は以下に示す漢方診療のポイントに基づいて、今回の症例を以下のように考えます。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?(冷えがあるか、温まると症状は改善するか、倦怠感は強いか、など)(2)虚実はどうか(症状の程度、脈・腹の力)(3)気血水の異常を考える(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む問診<陰陽の問診>寒がりですか? 暑がりですか?体の冷えを自覚しますか?横になりたいほどの倦怠感はありませんか?寒がりの暑がりです。冷えの自覚はありません。倦怠感はありますがいつも横になりたいほどではありません。入浴は長くお湯に浸かるのが好きですか?冷房は苦手ですか?入浴で温まると体は楽になりますか?入浴時間は短いほうです。冷房は好きです。入浴してもとくに倦怠感の変化はありません。のどは渇きますか?飲み物は温かい物と冷たい物のどちらを好みますか?のどは渇きません。温かい飲み物を飲んでいます。<飲水・食事>1日どれくらい飲み物を摂っていますか?食欲はありますか?胃は丈夫ですか?だいたい1日1L程度です。食欲はあります。胃は弱くてすぐにもたれます。<汗・排尿・排便>汗はよくかくほうですか?尿は1日何回出ますか?夜、布団に入ってからは尿に何回行きますか?便秘や下痢はありませんか?汗はよくかきます。尿は1日7〜8回です。夜は尿に1回行きます。便は2日に1回で、便秘です。便秘するとお腹が張りますか?お腹は張りません。<ほかの随伴症状>全身倦怠感はとくにいつが悪いですか?朝がとくにきついですか?食後に眠くなりませんか?朝はそこまできつくありません。朝は比較的元気なのですが、午後がきついです。昼食後と夕食後は眠たいです。睡眠について教えてください。悪夢はありませんか?毎晩0時頃に就寝しますが1時間以上寝つけません。午前3時くらいに目が覚めて朝まで眠れない日が多いです。悪夢はありません。動悸はしませんか?抜け毛は多いですか?集中力がなかったりしませんか?皮膚は乾燥しますか?動悸はありません。抜け毛は多くありません。集中はできています。皮膚の乾燥はありません。イライラしたりやる気がなかったりすることはありませんか?そんなことはありません。そのほかに困っていることはありませんか?風邪をひきやすくて困っています。年に5〜6回風邪をひいてしまいます。診察顔色は正常。眼に力がなく声も小さい。脈診ではやや浮で弱の脈。また、舌は淡紅色で腫大・歯痕、湿潤した薄い白苔をまだら状に認める。腹診では腹力は軟弱、軽度の胸脇苦満(きょうきょうくまん)、心下痞鞕(しんかひこう)、小腹不仁(しょうふくふじん)あり、腹部大動脈の拍動は触知せず。四肢の触診では冷感なし。カンファレンス今回は50代女性の全身倦怠感、不眠の症例です。全身倦怠感を訴える患者さんは多いですね。感染症、内分泌疾患、悪性腫瘍、薬物の副作用、うつ病など、鑑別すべき疾患が多いので苦手です。発症から持続時間を1ヵ月以内、1〜6ヵ月、6ヵ月以上と分けると絞り込みが容易になりますよ。急性では感染症、慢性の場合では抑うつや不安などの精神疾患の割合が高くなります。とくに結核、甲状腺疾患、肝炎などは要注意と学びました。しかし検査を行っても異常がないケースが1/3ほどあるといわれます。原因が特定できない、かつ精神的な不調も目立たないケース、全身倦怠感が高度で日常生活に支障をきたしている症例もあって悩ましいですね。今回の症例は不眠があって仕事や介護の負担が背景にありそうですね。うつ病の除外は必要ですね。当科が初診時に行っている漢方医学的な問診票のなかには、気持ちが沈みがちである、気力がない、物事に興味がわかない、朝調子が悪い、集中力の低下など、精神症状に関する項目が複数あります。それでは、漢方診療のポイントの順番にみていきましょう。温かい飲み物を好む、寒がりのほかは、暑がり、冷えの自覚なし、冷房を好む、他覚的な四肢の冷感なしということで陽証を示唆する所見のほうが多いです。そうですね。全体としては陽証ですね。寒がりの暑がりはどう考えるかな?陰陽の判断はつかないということでしょうか?寒がりかつ暑がりは、陰陽の判断ではなく、虚証を示唆します。体力がなくて環境の変化についていけないイメージです。六病位ではどうだろう?太陽病ではなく、陽明病の強い熱感や腹満はないので少陽病です。そうですね。漢方診療のポイント(2)虚実はどうでしょう?脈の力は弱、腹力も軟弱で闘病反応の乏しい虚証です。陽証・虚証でいいようだね。(3)気血水の異常はどうだろう?本症例は、仕事や介護の負担で疲弊しているようですね。そうだね。生体のエネルギー量が不足した状態を気虚とよぶよ(気虚については本ページ下部の「今回のポイント」の項参照)。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられるんだ。本症例にみられる「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状だね。本症例は全身倦怠感とともに食後の眠気があるので気虚ですね。気虚以外にも全身倦怠感が生じることを覚えていますか?気鬱や水毒などでも全身倦怠感が生じるのでした。気鬱の全身倦怠感は、朝調子が悪い、抑うつ傾向、膨満感などが出現します。そのとおり。水毒の全身倦怠感は雨降り前に体が重く感じるよ。本症例ではそのほかの気虚の所見はわかるかな?風邪をひきやすいも気虚ですね。ほかには舌苔にも着目しましょう。本症例のような舌苔がまだら状になっている場合は気虚を示唆します。舌苔は消化機能を反映していると考えます。そのほかにも診察で、眼に力がない、声が小さいということも気虚を示唆するよ。江戸時代には、眼勢無力(がんせいむりょく)、語言軽微(ごげんけいび)と記されているよ。たしかに眼力があって、声が大きい人は元気ですね。漢方の診察は、五感をフルに使って行わないといけないのだ。また、本症例のように不眠がある場合は、漢方薬の鑑別のために気逆の有無を確認しています。気鬱でなく気逆ですか?ドキドキして眠れないというイメージです。どこを確認するかわかりますか?自覚症状で動悸があるかどうかでしょうか?自覚症状の動悸に加え、腹診での腹部大動脈の拍動を確認します。また悪夢が多いことも気逆になります。本症例では悪夢や腹部の動悸はありません。それでは気以外の異常はどうでしょう?気虚以外は目立ちません。脱毛、集中力の低下、皮膚の乾燥を問診していますが、血虚の症候はありません。気虚と血虚が同時にある場合は気血両虚(きけつりょうきょ)といいますが、それはなさそうですね。では本症例をまとめよう。【漢方診療のポイント】(1)病態は寒が主体(陰証)か、熱が主体(陽証)か?冷えの自覚なし、冷房好き、入浴は短い、脈:やや浮→陽証(少陽病)(2)虚実はどうか寒がり・暑がり 脈:弱、腹:軟弱→虚証(3)気血水の異常を考える全身倦怠感、食後の眠気、風邪をひきやすい、地図状の舌苔→気虚(動悸や悪夢など気逆はなし)(脱毛や集中力の低下など血虚はなし)(4)主症状や病名などのキーワードを手掛かりに絞り込む眼勢無力、語言軽微解答・解説【解答】本症例は、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で治療しました。【解説】補中益気湯は、中(ちゅう:消化吸収能という意味)を補って、気(き)を益(ま)すという意味です。補中益気湯は人参(にんじん)、黄耆(おうぎ)、白朮(びゃくじゅつ)、甘草(かんぞう)の補気作用のある生薬に加え、弛緩した筋トーヌスを引き締める作用(升堤[しょうてい]作用)をもつ生薬(柴胡[さいこ]・升麻[しょうま])が含まれることがポイントです。そのため、補中益気湯は、筋肉が弛緩傾向を示すサイン、四肢がだるい、眼に力がない、声が小さいなどが使用目標になります。最近ではあまり使われませんが内臓下垂、胃下垂といわれるような病態や子宮下垂、脱肛なども筋の弛緩傾向により生じることから、補中益気湯の適応とされています。また柴胡・升麻は抗炎症作用を併せ持ち、風邪や肺炎や尿路感染などの急性感染症が治癒した後、微熱があってなんとなく活気がない、食欲がないといった場合に良い適応になります。江戸時代の漢方医・津田玄仙は補中益気湯の8徴候として、四肢倦怠、眼勢無力、語言軽微、食失味、口中白沫、熱湯を好む、脈散大無力、臍動悸を挙げており、このうち2〜3該当すれば用いてよいと述べています。補中益気湯を投与すると、COPD患者の感冒罹患回数を減少させ、体重増加をもたらしたという報告1)があります。また、女性腹圧性尿失禁患者に対して補中益気湯の4週間の投与で尿失禁の回数が減少傾向、QOLのパラメーターや患者満足度が改善したという報告2)があり、女性下部尿路症状ガイドラインの腹圧性尿失禁に推奨グレードC1として掲載されています。今回のポイント「気虚」の解説漢方では生体内を循環する「気・血・水」の変調として病気を捉えます。気血水は陰陽・六病位とは別のパラメーターで、経度と緯度の関係にも例えられます。気血水のうち身体を巡る液体成分は血と水ですが、気は目に見えない、形がない、生命活動を営む根源的なエネルギーです。現在でも「活気がある」、「気が滅入る」などと日常で使われます。気の異常のうち、気の量的な不足、または作用力の不足を気虚といいます。気虚の主な症状として、全身倦怠感、疲れやすい、食欲がない、風邪をひきやすいなどが挙げられます。また食後は食事により少ないエネルギーが消化管に集中してしまうと考えられるため、「食後の眠気」は気虚に特徴的な症状です。気虚に対する基本となる漢方薬が四君子湯(しくんしとう)です。四君子湯は、茯苓、人参、白朮、甘草の4つの生薬を中心に構成されます。また気虚に対する漢方薬は人参とともに黄耆を含むことから参耆剤(じんぎざい)とよびます。補中益気湯や十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)がその代表です。今回の鑑別処方人参と黄耆が含まれる漢方薬を参耆剤とよびます。人参は消化管から、黄耆は体表面から気を補うイメージです。補中益気湯は全身倦怠感・食後の眠気などの気虚に加え、四肢がだるい、声が小さい、眼力がないといった筋トーヌスの低下した徴候がある際に用います。気虚に血(けつ)が不足した状態(血虚)を合併している場合、具体的には皮膚の乾燥、脱毛が多い、目が疲れる、集中力がない、爪がもろい、頭がぼーっとするなどの症状を伴う場合は、気血両虚に対する漢方薬が適応になり、十全大補湯がその代表です。十全大補湯と類似の漢方薬に人参養栄湯(にんじんようえいとう)があります。人参養栄湯には、遠志(おんじ)、陳皮(ちんぴ)、五味子(ごみし)といった喀痰、咳嗽などの呼吸器症状に対応する生薬が含まれることが特徴です。非定型抗酸菌症に対して人参養栄湯が有効であったという報告3)があるように、慢性の感染症で体力低下に加え、呼吸器症状があるのが典型で、近年ではフレイルに対する漢方薬として注目されています。大防風湯(だいぼうふうとう)は十全大補湯に附子(ぶし)と鎮痛作用のある生薬が加わった構成で、冷えと関節痛を伴う場合に用います。疲労感を伴う関節リウマチなどの膠原病の患者にしばしば用います。帰脾湯(きひとう)、加味帰脾湯は気虚に加え、くよくよ思い悩んでしまう(思慮過度)、不眠、抑うつがある場合に用います。全身倦怠感が投与目標というよりも不眠や抑うつなどの精神心理症状を主体に訴える場合に用いることが多いです。加味帰脾湯は帰脾湯に柴胡、山梔子(さんしし)が加わって熱感やイライラといった症状にも対応します。その他、人参と黄耆をともに含む参耆剤には、清暑益気湯(せいしょえっきとう)、半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)、当帰湯(とうきとう)、清心蓮子飲(せいしんれんしいん)があります。最後に気虚に冷えを合併している場合は、第5回で解説したように陰証と診断して、太陰病の人参湯(にんじんとう)や少陰病〜厥陰病(けついんびょう)の茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう:人参湯エキス+真武湯エキス)による治療が最優先であることにご注意ください。参考文献1)杉山幸比古. 日本胸部臨床. 1997;56:105-109.2)井上雅ほか. 日東医誌. 2010;61:853-855.3)Nogami T. J Family Med Prima Care. 2019;8:3025-3027.

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多様化する社会における精神医療(解説:岡村毅氏)

 移民に対する風当たりが強い。事実としては、移民は増え続けている。交通機関が発達し、情報量が増えているのだから、当然だろう。 米国では外国生まれの人が占める割合が9.2%(1990年)から15.2%(2024年)に増えている。英国は6.4%から17.1%に、スペインは2.1%から18.5%に、サウジアラビアでは労働者はほぼ外国生まれなので42.1%から40.3%と高止まりしている。一方で日本は0.9%から2.8%、中国は0%から0.1%、韓国は0%から3.5%である。 世界的には、アフリカや南米から欧州や北米に大きな流れがあるようだ。一方で東アジアは、端っこにあるためか、文化的・制度的障壁が高いためか、いいとか悪いとかは別にして移民はきわめて少ない。たとえば移民ではなく金づる(?)であるはずの「観光客」が増えたことで、これほどネガティブな話題になる日本はおそらく移民障壁は高いのだろう。 本稿は移民が良いとか悪いとか主張するものではない。 この論文は米国で中程度から重度のうつ病や不安症の人を対象にして、(1)対象者と同じ言語を話し、地域で生活している人が、訓練を受けたうえで文化的に適切に支援する、(2)通常の公式パンフレットを渡す、に分けたところ、前者のほうがアウトカムは良かったというものである。精神症状は文化や言語の影響を大いに受けるので、患者の多様な背景に配慮した支援が効果的なことは明らかであろう。このようなアプローチは、効果が高いのであるから、事実として多様化する欧州や北米では有望なアプローチだろう。 では日本ではどうだろうか? 精神科の外来でも、とてもゆっくりと海外にルーツがある人が増えている。医療資源がますます逼迫する中で、文化や言語のために治療がうまくいかずに治療者・患者双方が疲弊するくらいなら、このような多様性アプローチを取ったほうが得な気もするし、いやいやまだ3%くらいなのだからむしろ非効率だろうという意見もあるかもしれない。ただし、今後移民率が上昇するのであれば備えておくのも合理的だ。 最後に私の個人的な経験だが、外国の人の診察は大変でしょうと言われるので付記する。実は海外にルーツを持つ人の診療であまり困ったことはない。というのは、海外では日本のように医療が公平でなく、病院に行けない人のほうが多い。そもそも、海外では患者をお客さまとして扱ってくれないことがほとんどだ。なので、初めから感謝していることが多い。むしろ、なぜ治らないのだとか、言うことを聞け、といった無理なことを言ってくるのは、バブル期の万能感を経験している日本人が多いような気がする。あくまで個人的な体験なので一般化には慎重を要するが、同じ文化を持つものとしては「自分もそうなっているかも」と自己反省を込めて指摘したい。 移民は2025年の日本においては政治的話題であり、本稿は慎重に記載した。筆者の立場は賛成でも反対でもなく、事実を提示して、今後の医療提供体制について考えるきっかけになればよいというものである。本稿の内容には所属組織は一切関係なく、個人的なものだ。 本稿のデータは国連のものである1)。

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手薄な科目はまず王道に忠実な解法を会得!【研修医ケンスケのM6カレンダー】第6回

手薄な科目はまず王道に忠実な解法を会得!さて、お待たせしました「研修医ケンスケのM6カレンダー」。この連載は、普段は初期臨床研修医として走り回っている私、杉田研介が月に1回配信しています。私が医学部6年生当時の1年間をどう過ごしていたのか、月ごとに振り返りながら、皆さんと医師国家試験までの1年をともに駆け抜ける、をテーマにお送りして参ります。この原稿を書いているただいまは2025年9月14日で、秋雨前線の影響で雨雲が散在する中、猛暑を感じる時間も徐々に少なくなってきました。 皆さまいかがお過ごしでしょうか。夏休み、1次マッチングが終わり、今年度もいよいよ後半戦です。卒業試験の1回目が終わった、という方もいらっしゃるかと思います。4月から連載させていただいているこの連載も折り返しですが、後半戦の闘い方について今回は重要な回です! 当時を懐かしみながら、あの時の自分へ何を話しかけるのか。皆さんの6年生としての1年間が少しでも良い思い出になる、そんなお力添えができるように頑張って参りますので、ぜひ応援のほどよろしくお願い申し上げます。9月にやること:現状把握と、仕上がっていない科目を着手せよ!(万博は10月まで!行きましたか?)受験レースもいよいよ後半戦。前半の勢いのままにという方も、もう一度ここからという方も兜の緒を締めるそんな9月です。先月は「模擬試験を軸に、学習計画を立て、修正する」をテーマにしました。メックやテコム模試を受験した皆さま大変お疲れ様でした。結果はともあれ、皆さんがまず着手すべきは現状把握です。模擬試験は目標を持って受験してほしいと綴りましたが、対策に対してどれほどできたのか、何が現時点で足りている、足りていないのか。成績表をよく分析しましょう。自身の思考プロセスを振り返って、何が原因で誤答したのかもきちんと分析すべきです。例年の受験生のパターンからするとメジャー科がある程度完成している方が多いと思います。判断力が問われる、得点差がつくような問題はさて置き、基本的なメジャー科の問題ではもう差がほぼつかなくなってきているのではないでしょうか。一方で産婦小児、マイナー科、公衆衛生を後回しにしている受験生が多いはずです。もちろんメジャー科を優先する、という戦略を取っているので今できないことは許容しましょう。次の試験までに仕上げるにはどのようなペース配分で行くか今日から戦略を練ればいい話です。先月は公衆衛生対策について触れたので、今月はその続きとして産婦人科・小児科・マイナー科の攻略について述べていきます。産婦人科攻略産婦人科ですが、産科領域と婦人科領域があるので実質2科目のように感じ、専門用語や概念に苦手意識を感じる受験生は少なくありません。かく言う私もそのうちの1人でした。個人的な産婦人科攻略のおすすめはまずは下記分野から取り組むことです。産科正常分娩、妊娠高血圧症候群婦人科子宮頸癌1科目当たりの範囲が広いのでどこから着手したら良いかが難しいところですが、知識がゼロではない(=CBT突破しているなら大丈夫)ことを前提に着手するなら頻出かつ得点差が付く上記の3つが思い浮かびます。そして攻略にはちょっとしたコツがあります。それは該当するビデオ講義と臨床問題の解説を読み込むことです。CBTや卒業試験、実習で履修していない、なんてことはないはずです。「一度学習したことがあるのに得点できない」この状況を手際よく打破するには解法の王道をマスターすることが先決です。のちに紹介する小児科やマイナー科でも同様ですが、頻出項目は問題自体も例年練り上げられ、お決まりの出題パターンやポイントがあります。試験で得点することが目的ではありますが、そのポイントを押さえることが疾患や概念の理解に結びつくキッカケになり得ます。ここは1つ、我流を貫かず、まずはプロの解法に忠実であってほしいと思います。ビデオ講義や解説から、何がキーワード・キーフレーズなのか、どのような思考プロセスが必要で、鑑別は何か。王道に忠実な解法を会得しましょう。枝葉の知識は後からついてきます。小児科(大阪万博にて。渡航困難な国を気軽に体験できるのがいいですよね!)小児科も同様に頻出項目をマスターしましょう。成長と発達、川崎病、新生児黄疸関係、予防接種…など「など」で逃げましたが、小児科は産婦人科以上に満遍なく出題される傾向に感じます。さて、小児科の臨床問題を解く時にキーワードがあるので紹介します。それは「ぐったり」「経口摂取不良」です。近年の臨床問題では診断まで辿り着かなくとも何をすべきか判断力を問うものが多いです。実臨床もそうですが、この2つのキーワードがあるとそれだけでアラートレベルを上げましょう。マイナー科攻略1:精神科公衆衛生、産婦人科、小児科、の次はマイナー科目です。本題とは逸れますが、私は「メジャー」「マイナー」の概念はあまり好きでないです。試験範囲の都合に伴う呼称に過ぎず、きちんとした学問・診療科として学習に励んで欲しいと願います。眼科や整形外科、泌尿器科などが該当するマイナー科ですが、試験対策において手薄であるなら精神科および皮膚科から着手することをオススメします。他の科目と比べて、出題範囲が比較的多く、かつ得点差がつきやすい2科目だからです。とくに精神科はコストパフォーマンスがいいです。精神科は、臨床知識はもちろん、公衆衛生のブラッシュアップにも役立ちます(精神科入院や都道府県が担当する精神保健についてなど)。臨床知識ではまず下記から学ぶのがオススメです。精神科特有の症候統合失調症四字熟語で表現される精神科特有の症候は精神科疾患の特徴を学び直すのに便利で、かつそれらの違いが直接試験問題になります。学習する際は辞書的な解説はもちろんですが、実際の会話例も併せて理解するようにしてください。また精神科疾患の代表といえば統合失調症です。「統合失調症を示唆する所見は何か」は鉄板ですが、近年では抗精神病薬の副作用についても見かける頻度が多くなりました。専門用語が多く、1つ1つを的確に把握する必要があります。マイナー科攻略2:皮膚科さて最後は皮膚科です。他の科目と比してとくに皮膚科は内科的背景を見落とさないことが重要です。皮膚科も精神科と同様に専門用語が多く、特有の疾患が多いですが、その背景に内科で頻出疾患が隠れていることがあります(壊疽性膿皮症に潰瘍性大腸炎が背景など)。試験でも皮膚科と内科のそれぞれの観点から出題されることが多々あります。皮膚科ではとくに「粘膜疹」「掻痒感」がある疾患に敏感になりましょう。一般問題・臨床問題ともに頻出で、かつ得点差がつきます。最後に(大阪万博の大屋根リングから。花火はみんなの顔が上がりますよね。)いかがだったでしょうか。後半戦に向けて何から着手すべきか路頭に迷う受験生は意外と珍しくありません。最も大切なことは現状を把握して、試験範囲を見直すことなのです。今回は恐らく多くの受験生に当てはまるであろうパターンとして、対策すべき科目とそのコツを述べました。さて、最後に1つ。今回学び直した知識はぜひグループ学習で共有してください。私だけ知らなかった、なんて恥ずかしがることはありません。あなたが共有してくれた知識が、本番でふとみんなを助けることになるかもしれませんから。

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統合失調症の不安症状に対するブレクスピプラゾールの短期・長期試験の統合解析

 不安症状は、統合失調症患者やその介護者が効果的な治療を望む主な症状の1つである。カナダ・Hotchkiss Brain InstituteのZahinoor Ismail氏らは、成人統合失調症患者の不安症状に対するブレクスピプラゾールの有効性、安全性、忍容性を明らかにし、不安症状、生活機能、患者の生活への関与との関係を調査するため、5つの臨床試験の統合解析を実施した。Current Medical Research and Opinion誌オンライン版2025年9月11日号の報告。 統合失調症の成人入院患者を対象として実施された次の5つの臨床試験のデータを統合した。ブレクスピプラゾール2~4mg/日投与群およびプラセボ投与群を比較した6週間のランダム化二重盲検試験3件、ブレクスピプラゾール1~4mg/日投与群について検討した52週間の非盲検継続試験2件。不安症を合併した患者は登録されなかった。本事後解析では、不安症状は陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)の単一項目(G2)で測定、機能は個人的・社会的機能遂行度尺度(PSP)で測定、患者の生活へのエンゲージメントはPANSSの14項目のサブセットで測定した。ベースラインからの最小二乗平均の変化は、反復測定混合モデルを用いて算出した。不安反応の定義には、次の2つを用いた。定義1は、ベースラインから6週目までのPANSS G2スコアが1ポイント以上改善すること(臨床的に解釈可能なスコア変化)、定義2は、ベースラインで不安があったサブグループ(G2スコアが3以上)において、6週目におけるPANSS G2スコアが3ポイント未満であること(不安症状が最小限または消失まで減少すること)とした。多重比較の補正を行わない探索的仮説生成解析を行った。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン時の不安(G2スコア3以上)は、ブレクスピプラゾール群では868例中763例(87.9%)、プラセボ群では517例中449例(86.8%)に認められた。・6週目におけるG2スコアのベースラインからの最小二乗平均値の変化は、ブレクスピプラゾール群がプラセボ群よりも優れていた(平均差:-0.19、95%信頼区間:-0.33~-0.06、p=0.005、Cohen's dエフェクトサイズ:0.19)。・ブレクスピプラゾールおよびプラセボに対する不安反応は、定義1ではそれぞれ863例中547例(63.4%)および515例中291例(56.5%)(p=0.012)、定義2ではそれぞれ541例中283例(52.3%)および303例中135例(44.6%)(p=0.036)で認められた。・不安の改善の有無にかかわらず、生活機能および患者生活への関与は改善した。・長期データにおいて治療効果の維持が示された。・有害事象は、これまでの解析結果と一致していた。 著者らは「探索的解析の結果、ブレクスピプラゾールは、統合失調症患者にとって重要なアウトカムである不安症状、生活機能、患者生活への関与のマネジメントに役立つ可能性が示唆された」としている。

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朝食抜きがうつ病リスクに及ぼす影響〜メタ解析

 うつ病は世界的に重要な公衆衛生上の問題であり、うつ病の発症には朝食習慣が関連している可能性がある。中国・成都中医薬大学のJunwen Tan氏らは、朝食とうつ病の相関関係を分析するため、先行研究のメタアナリシスを実施し、朝食抜きとうつ病リスクとの関連性を包括的に評価し、異質性の潜在的な因子を調査した。Frontiers in Psychiatry誌2025年8月5日号の報告。 2024年9月1日までに英語で公表された観察研究を、PubMed、Embase、Web of Scienceのデータベースより検索した。選択された研究のデータ解析は、ニューカッスル・オタワ尺度(NOS)を用いて評価した。PRISMA、Prospero Registration Agreementのガイドラインに従い実施した。混合効果モデルは、最大調整推定値を組み合わせ、I2統計量を用いて異質性を評価した。感度分析により分析の堅牢性を検証し、出版バイアスを評価した。 主な結果は以下のとおり。・12件の研究を対象としたメタ解析では、朝食抜きとうつ病発症率との間に正の相関が示唆された(相対リスク=1.83、95%信頼区間:1.52〜2.20、τ2:0.09、I2:96.37%)。・朝食抜きとうつ病の関係についてEgger検定を行ったところ、p=0.067で0.05超となり、有意な出版バイアスは認められなかった。・サブグループ解析では、異なる地域で実施されている現在の研究には依然として欠陥があることが示された。・うつ病発症は、性別および研究のサンプルサイズと関連していることが示唆された。 著者らは「食文化や評価方法の違いによる異質性の高さが示唆された」としながらも「朝食抜きはうつ病リスクを高める可能性がある。うつ病リスクを軽減するためには、規則正しい標準化された朝食を摂ることに注意を払う必要がある」と結論付けている。

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統合失調症の陰性症状に有効な運動介入は〜RCTネットワークメタ解析

 統合失調症の陰性症状は、抗精神病薬への治療反応性が低く、生活の質を著しく低下させる。統合失調症に対する運動介入は、非薬物療法的な補助的戦略となりうる可能性があるが、異なる種類の運動の相対的な有効性は依然として不明である。中国・Hunan Applied Technology UniversityのZixia Wang氏らは、成人統合失調症患者における陰性症状の改善に対する有酸素運動(AE)、レジスタンス運動(RE)、有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせた運動(AE+RE)、心身運動、ヨガの有効性を比較するため、ランダム化比較試験(RCT)のシステマティックレビューおよびネットワークメタ解析を実施した。Psychiatry Research誌オンライン版2025年8月7日号の報告。 メタ解析の対象とした研究は、成人統合失調症患者に対して、さまざまな構造化運動介入と対照群(運動なし/最小限)またはその他の運動介入を比較したRCTとした。2024年9月までに報告された研究を5つのデータベースよりシステマティックに検索した。主要アウトカムは、陰性症状スコア(PANSS陰性症状尺度、SANS、BNSS)の変化とした。2人のレビュアーが独立して研究の選択、データ抽出を行い、バイアスリスクを評価した。ランダム効果ペアワイズメタ解析およびネットワークメタ解析において、標準化平均差(SMD)、95%信頼区間(CI)を算出した。SUCRA確率を用いて各介入のランク付けを行った。エビデンスの確実性の評価にはGRADEを用いた。 主な結果は以下のとおり。・32件のRCT(アジア:23件、欧州:6件、北米:2件、南米:1件)、1,773例を解析に含めた。・運動介入の期間は、4〜24週間(中央値:12週間)であった。・すべての運動介入において、対照群と比較し、陰性症状の改善が認められた。【ヨガ】SMD=-1.14、95%CI:-1.54〜-0.75【レジスタンス運動】SMD=-1.15、95%CI:-1.96〜-0.34【有酸素運動】SMD=-0.79、95%CI:-1.13〜-0.46【心身運動】SMD=-0.53、95%CI:-1.02〜-0.03【AE+RE】SMD=-0.57、95%CI:-1.17〜0.04・SUCRAによるランキングでは、ヨガが最も効果的な運動介入であることが示唆された。【ヨガ】87.1%【レジスタンス運動】82.1%【有酸素運動】56.9%【AE+RE】38.5%【心身運動】34.4%・サブグループ解析では、31〜40歳の統合失調症患者およびアジアで実施された研究において、より大きなベネフィットが示された(各々、p=0.022)。・ネットワーク構造は良好に連結しており、有意な矛盾や小規模研究の影響は認められなかった。・GRADE確実性による評価では、ほとんどの直接比較および間接比較において低く、SUCRAに基づくランキングにおいては中程度であった。 著者らは「統合失調症の陰性症状改善に対し、ヨガとレジスタンス運動が有効であることが、低〜中程度の確実性のエビデンスレベルで明らかとなった。年齢と地理的状況は治療効果に影響を及ぼすため、個別化された運動介入の必要性が示唆された。これらの知見を確認するためにも、より大規模で質の高いRCTが求められる」とまとめている。

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産業医に求められる「巻き込み力」とは【実践!産業医のしごと】

産業医の仕事は、働く人の健康と職場の環境を理解し、両者を調整することです。病気かどうかを判断する医学的な判断も大切ですが、それだけでは不十分なときがあります。実際の現場では、上司・人事・労働者本人など、さまざまな立場の人が関わります。それぞれが違う考えや不安を持っているため、産業医には、話し合いを通じて意見を調整する力が求められます。1.安全衛生委員会では「巻き込み力」を安全衛生委員会とは、労働安全衛生法に基づき、職場の安全と健康を守り、快適な労働環境を形成するために設置が義務付けられている組織です。安全委員会と衛生委員会の機能を統合したもので、事業場の統括管理者、衛生管理者、産業医、労働者が集まり、労働災害や健康障害の防止策などについて話し合います。本来は、組織全体で職場環境をよりよくするための協議の場ですが、ただの「報告会」になってしまうことが少なくありません。産業医は多くの権限はありませんが、話題を「個人の課題」ではなく「組織の課題」に変えることで参加者を巻き込み、前向きな議論につなげる役割を担うことができます。一例として「直近のストレスチェックの受検率は70%でした」と報告されたケースを考えてみましょう。この数字だけでは議論は続きません。しかし「残り30%はなぜ受けなかったのでしょうか。忙しさのせいかもしれないし、意義を理解していないのかもしれません。どうすれば受けてもらえるか、考えてみませんか?」と投げ掛けることで、参加者は「自分ごと」として議論に加わりやすくなります。同様に「残業時間が80時間を超えている人が多くいる」という過重労働の報告に対し、「忙しい職場ですね」で終わっては何も変わりません。「過重労働が続いているが、人手不足なのか、業務の進め方の問題なのか、健康へのリスクはどうか」など、原因究明と対策を提案することで、職場改善につながる話し合いになります。活性化しない安全衛生委員会は、産業医の「巻き込み力」が足りないことが多いのではないでしょうか。2.復職支援では「合意形成力」をうつ病などを理由とした休職者が復職する場面では、本人と職場の思いがすれ違うことが珍しくありません。本人は「早く復職したい」と考えても、会社は「本当に出社できるのか」と慎重になることがあります。休職を繰り返す事例では、関係者の利害が対立することもあり、このような場面では産業医が関係者間の調整役として、課題点を整理しつつ合意を探る役割が求められます。たとえば、「すぐに復帰したい」という本人の希望に対し職場が不安を示す場合、「通勤の練習から始め、体調を確認しながら段階的に復職していく」といった方法を提案すれば、本人の意欲を尊重しながら、職場の懸念も和らげることができます。復帰後にも、本人が「フルで働けます」と主張しても、職場側は過去にうまくいかなかった経験を持ち、懸念を示すケースがあります。こうした場合は、職場が求める職務内容を具体化してもらい、本人と意識合わせをする場が必要となります。こうした工夫は、本人の理解を深めるだけでなく、職場の受け入れ態勢を改善するきっかけにもなります。本来こうした調整は人事や上司の役割ですが、経験や知識不足で十分に対応できないことも多いのが実情です。だからこそ、医学的な裏付けと中立的な立場を持つ産業医が関わることで、スムーズな合意形成が実現しやすくなるのです。3.職場をつなぐ実践力として産業医の役割は、職場において医学的な判断をするだけにとどまりません。経営者・管理職・労働者・人事といった立場の異なる人をつなぎ、組織全体の理解と協力を引き出す存在になることが大切です。安全衛生委員会での「巻き込み力」と復職支援での「合意形成力」は、その代表的な場面ですが、共通しているのは、関わる人の考えを丁寧に聞き取り、整理し、建設的な方向へと導く力です。産業医がそうした役割を担うことで、個人が安心して働き続けられる環境と、組織全体の健全な成長の両方が守られるのです。

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食事の頻度とうつ病との関係

 これまでの研究において、1日の食事回数および夜間の絶食期間がうつ病と関連していることが示唆されているが、一定の限界や矛盾も示されていた。中国・ハルビン医科大学のYan Chen氏らは、1日の食事回数や夜間の絶食期間とうつ病との関連を検証するため、本研究を実施した。Journal of Affective Disorders誌2025年12月15日号の報告。 対象は、2005〜18年の米国国民健康栄養調査(NHANES)より抽出した2万9,035人。うつ病の定義は、こころとからだの質問票(PHQ-9)総スコア10以上とした。1日の食事回数で定量化し、夜間の絶食期間は1日の最後の食事と最初の食事を調査することで評価した。重み付けロジスティック回帰モデル、制限付き3次スプライン(RCS)、媒介分析を実施した。 主な結果は以下のとおり。・1日の食事回数が3.6〜4.0回の場合と比較し、3回以下の場合(オッズ比[OR]:1.28、95%信頼区間[CI]:1.11〜1.49)および4.6回以上の場合(OR:1.17、95%CI:1.01〜1.34)において、うつ病リスクの上昇が認められた。・夜間の絶食期間が12.1〜13.3時間の場合と比較し、10.8時間以下の場合(OR:1.32、95%CI:1.14〜1.52)および14.9時間以上の場合(OR:1.37、95%CI:1.19〜1.59)において、うつ病リスクの上昇が認められた。・関連性を示すU字型の平滑化曲線により、これらの知見はさらに裏付けられた。・この関連性において、血中尿素窒素とグロブリンが媒介的な役割を果たしていることが示唆された。・1日のエネルギー摂取量が少ない人は、1日の食事回数および夜間の絶食期間がうつ病に及ぼす影響がより有意であった(pinteraction<0.05)。 著者らは「1日の食事回数が3回以下および4.6回以上、夜間の絶食期間が10.8時間以下および14.9時間以上は、うつ病の独立したリスク因子であることが示唆された」と結論付けている。

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レビー小体型認知症のMCI期の特徴は?【外来で役立つ!認知症Topics】第33回

レビー小体型認知症のMCI期の特徴は?認知症には70以上もの原因疾患があるが、レビー小体型知症(DLB)はアルツハイマー病(AD)、血管性認知症に次ぎ3番目に多い。ADのMCI(軽度認知障害)の特徴はわかっていても、「MCIレベルのDLBの特徴は?」と問われると、筆者は最近まで「はて?」という状態であった。DLB研究の元祖である小阪 憲治先生の名言に「DLBを知れば知るほど、その幅広さがわかってくる」というものがある。臨床の場でこの病気の患者さんを診ていると、一言でDLBといっても、見られる症候は実にさまざまであり、この言葉はまさに至言である。また、この病気の大脳病理について経験豊かな友人が次のように教えてくれた。「レビー小体病といっても、さまざまな病変分布や病理の程度にグラデーションがあって、検査前の見込みと検査結果はしょっちゅう乖離する。ADのほうがずっと簡単」と。DLBの診断では、激しい寝ぼけ(レム睡眠行動障害)、幻視、パーキンソン症候、そして認知機能などの変動が大きいことが軸である。DLBの権威であるIan G. McKeith氏らによれば、MCIレベルのDLBには3つの表現型がある。まず「精神症状初発型」、次に「せん妄初発型」、さらに認知機能障害パターンから分類される「MCI-LB」タイプである。今回は、この3つについてまとめてみたい。1)精神症状初発型他の認知症性疾患と比べたとき、DLBの初発症状として、老年期になって初発する大うつ病や精神病は、とても際立っている。代表的な症状としては、人の姿が見えるといった幻視、家族を偽物だと思い込むような妄想や誤認がある。また、アパシー(無気力)、不安がある。こうした症状で初発する認知症性疾患は他にまずないため、これらの症状はDLBを疑う大きなヒントになる。レム睡眠行動障害(RBD)も有用な着眼点になるが、抗うつ薬を使うことによってRBDが生じることもあるので、ここは要注意である。また、DLB を疑ううえで、パーキンソン症状の中で、動作緩慢よりも振戦や筋硬直のほうが、より有用である。なお、精神病発症型のDLB発症時では、パーキンソン症候、認知機能の変動、幻視、RBDという典型症候がみられたのは、わずか3.8%にすぎなかったという報告がある1)。この数字が語るのは、目の前の患者さんは「精神疾患に間違いない、まさかDLBとは!」と誰もが思ってしまう落とし穴だろう。2)せん妄初発型認知機能の変動、意識の清明度・覚醒度の変化は、DLBの中核症状である。そのため、せん妄で初発する人も多い。これまで認知機能障害がなかった人で、いきなりせん妄が生じるのはなぜだろうか? まずDLBという病態はせん妄を来しやすい素地を持っているのかもしれないし、あるいは曇りを伴う重篤な意識の変動をせん妄とみている可能性もある。さらにはこれら両者なのかもしれないが、答えはわからない。ところで、せん妄初発のDLBの存在に留意することには別の意義もある。というのは、一般的なせん妄に対する第1選択薬は抗精神病薬とされるが、もしこの型のDLBにこうした薬剤を投与したら、症状が悪化する可能性が高いからである。なお、せん妄や意識変動はDLB患者の介護者の43%が報告するほど多く、4人に1人のDLB患者がせん妄を繰り返し、累積の回数はAD患者のそれの約4倍といわれる。また、DLBが診断される前にみられるせん妄は、ADに比べて6倍近く高い。高齢患者においてせん妄が長引く場合、実は背後にDLBが隠れていると考えるべきとされる。つまり、「病歴にせん妄が多ければDLBを想起!」である。3)MCI-LBMCIの概念は、1990年代のRonald C. Petersen氏による提唱で有名になったが、それは「アルツハイマー病前駆状態では、他の認知機能は保たれているのに記憶のみが障害される」というものであった。このオリジナルの概念に改変がなされ、現在では「記憶障害」対「非記憶の認知機能障害」、障害される認知領域が「単数」対「複数」という基準で4つのMCI亜型に分類されるようになった。Petersen氏の提唱したオリジナルMCIは、ADの予備軍における「記憶障害」+「単数」である。しかし、レビー小体型認知症の前駆状態であるMCI-LBは、「非記憶障害」が基本で、障害領域は「単数」も「複数」もある。とくに最初期には、本人も介護者も記憶障害を訴えないことが珍しくない。つまり記憶障害は比較的軽い一方で、主に注意や遂行機能障害といった前頭葉の機能障害がみられる。また錯視など、視覚認知に障害を認める例もある。いずれにせよ、記憶障害単独型MCIのADコンバートに対して、「非記憶型」のMCI-LBがADになることはまれで、その10倍もDLBになりやすい。4)その他の留意点DLBにおけるRBDの意味RBD(レム睡眠行動障害)はDLB診断において重要である。ある12年間の追跡調査では、RBDを持つ人の73.5%が、 DLBなど神経変性疾患にコンバートしたという報告もある2)。悪夢は周囲の人によって気付かれ、RBD診断の手がかりになるが、鑑別すべきものに睡眠時無呼吸症候群、睡眠中のてんかん発作などがある。確実な診断には、ポリソムノグラフィによる測定が望まれる。どんなタイプのMCIであれ、RBDを伴うときはDLBを想起すべきである。自律神経症状などDLB患者で、初診時に自律神経障害を認めることもまれではない。便秘、立ちくらみ、尿失禁、勃起障害、発汗増加、唾液増加などのどれか1つ以上が、25~50%の患者で見つかる3)。しかし、こうした症状は他のさまざまな疾患でも見られるため、それらがあるからといって必ずしもDLBだと思う必要もない。なお、無嗅覚症もDLBのMCI期によくみられるが、その原因は数多あるため(たとえば新型コロナウイルス感染症など)、診断的価値がとくに高いわけではない。1)Gunawardana CW, et al. The clinical phenotype of psychiatric-onset prodromal dementia with Lewy bodies: a scoping review. J Neurol. 2024;271:606-617.2)Postuma RB, et al. Risk and predictors of dementia and parkinsonism in idiopathic REM sleep behaviour disorder: a multicentre study. 2019;142:744-759.3)McKeith IG, et al. Research criteria for the diagnosis of prodromal dementia with Lewy bodies. 2020;94:743-755.

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老年医学のトビラ

何となくではなく そろそろちゃんと勉強したい皆さん 5Mでひらく高齢者診療へようこそ目の前には常に高齢の患者さんがいます。老年医学の「トビラ」は、現在の高齢者診療の複雑な問題の象徴です。本書はこのトビラを開く鍵となる「5つのM」に沿って解説しています。5つのMとは、Mobility(身体機能)、Mind(認知機能・精神的側面)、Medications(薬剤)、Multicomplexity(複雑性・多疾患併存)、Matters Most(最も大切なこと)。これを軸に、転倒やせん妄、認知症、うつ病・不眠、薬剤、フレイル、尿失禁・便秘、さらに高齢者の「見えない」「聞こえない」「においがわからない」「食べられない」の訴えにアプローチしていきます。スクリーニング・予防,事前指示、ケアのゴール設定も含めて1冊で勉強できる、これが老年医学入門の「新定番」です。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する老年医学のトビラ定価4,840円(税込)判型A5版頁数276頁発行2025年8月監修山田 悠史ご購入はこちらご購入はこちら電子版はこちら医書.jpでの電子版の購入方法はこちら紙の書籍の購入はこちら

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精神科医が教える 休みベタさんの休み方

本当は疲れているのに、「いつのまにか、休みたくても休めなくなってしまった」、すべての人へサラリーマン時代、社内外や年次を問わず発生するメンタル問題に多数遭遇した著者。解決に向けて付き添う中で目にした産業医の現状に落胆するも、とあるクリニックの精神科医の働き方に感銘を受け、精神科医となった著者が「休みベタさん」に伝えたいヒントが詰まった1冊。今どきの、一見働きやすそうでいて、なかなか働きづらい職場。ついつい頑張りすぎて、心のバランスを崩してしまう人は後を絶たちません。休み方のノウハウをどれだけ知っても、やっぱり休む気になれない。そんな「休みベタさん」の、不安や焦りをなくして、休み上手になるコツを紹介。画像をクリックすると、内容の一部をご覧いただけます。※ご使用のブラウザによりPDFが読み込めない場合がございます。PDFはAdobe Readerでの閲覧をお願いいたします。目次を見るPDFで拡大する目次を見るPDFで拡大する精神科医が教える 休みベタさんの休み方定価1,650円(税込)判型四六判頁数214頁発行2025年8月著者尾林 誉史ご購入はこちらご購入はこちらAmazonでご購入の場合はこちら

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日本人の不眠症患者に対するデジタルCBT-I、症状はどの程度改善するか

 不眠症に対する認知行動療法(CBT-I)は、不眠症状だけでなく抑うつ症状の改善にも大きな可能性を秘めている。しかし、その効果により健康者と同等レベルまで症状が改善するかは不明である。東京家政大学の岡島 義氏らは、日本人の不眠症患者に対するデジタルCBT-Iにより、不眠症状および抑うつ症状が健康者レベルまで改善するかを検証するため、本研究を実施した。BioPsychoSocial Medicine誌2025年7月21日号の報告。 対象は、日本人労働者752例。不眠症およびうつ病尺度のカットオフスコアを用いて、不眠症群、うつ病群、不眠症/うつ病併存群、健康群の4群に分類した。すべての群に対してデジタルCBT-Iを2週間実施し、治療後、1ヵ月後、3ヵ月後の追跡調査でスコア変化を比較した。 主な結果は以下のとおり。・治療後から3ヵ月後の追跡調査において、不眠症群および不眠症/うつ病併存群における不眠症状の有意な減少が認められた。【不眠症群】Hedges'g:1.07〜1.52【不眠症/うつ病併存群】Hedges'g:1.17〜1.41・不眠症/うつ病併存群では、抑うつ症状の有意な改善も認められた(g:0.38〜0.70)。・治療後、1ヵ月後、3ヵ月後の追跡調査において、不眠症群と健康群の間で不眠症状に有意な差が認められ、不眠症/うつ病併存群と健康群の間でも抑うつ症状に有意な差が認められた。 著者らは「デジタルCBT-Iは、日本人労働者の不眠症状および抑うつ症状を効果的に軽減することが確認されたが、3ヵ月以内に健康者レベルまで改善することはなかった」と結論付けている。

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治療抵抗性うつ病に対するアリピプラゾール併用vs.rTMS併用vs.SNRI切り替え

 米国・ハーバード大学のClotilde Guidetti氏らは、治療抵抗性うつ病患者を対象に、アリピプラゾールまたは反復経頭蓋磁気刺激(rTMS)による抗うつ薬の増強とベンラファキシン徐放性/デュロキセチンへの切り替えが生活の質(QOL)に及ぼす影響を比較するため、多施設共同非盲検有効性比較試験であるASCERTAIN-TRD研究の副次解析を実施した。The Journal of Clinical Psychiatry誌2025年8月11日号の報告。 事前に指定した副次解析において、治療抵抗性うつ病患者をアリピプラゾール増強群、rTMS増強群、ベンラファキシン徐放性/デュロキセチンへの切り替え群に1:1:1でランダムに割り付け、8週間の治療を行った。治療抵抗性うつ病の定義は、マサチューセッツ総合病院の抗うつ薬治療反応質問票に基づき、適切な用量および期間の抗うつ薬治療を2回以上実施しても十分な治療反応が得られなかった場合とした。QOL評価は、本研究の主要な副次的評価項目として事前に設定されており、Quality of Life Enjoyment and Satisfaction Questionnaire(Q-LES-Q-SF)短縮版を用いて評価した。反復測定を用いた混合効果モデルにより分析した。本研究は、2017年7月13日〜2021年12月22日に実施した。 主な結果は以下のとおり。・ベースライン後の1回以上のQ-LES-Q-SF測定を行った治療抵抗性うつ病患者258例において、アリピプラゾール増強群は、切り替え群と比較し、QOLの優位性が認められたが(p=0.002)、rTMS増強群では認められなかった(p=0.326)。・エンドポイントにおけるQ-LES-Q-SFスコアのベースラインからの変化は、アリピプラゾール増強群で10.61±1.0、rTMS増強療法で11.59±1.1、切り替え群で8.68±0.9であった。 著者らは「rTMS群のサンプル数が予想よりも少なかったため、統計学的に有意な差が認められなかった可能性がある」としながらも「治療抵抗性うつ病患者に対するアリピプラゾール増強療法は、rTMS増強療法と異なり、ベンラファキシン徐放性/デュロキセチンへの切り替えよりもQOLを有意に改善することが示された」と結論付けている。

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第27回 なぜ経済界トップは辞任したのか?新浪氏報道から考える、日本と世界「大麻をめぐる断絶」

経済同友会代表幹事という日本経済の中枢を担う一人、サントリーホールディングスの新浪 剛史氏が会長職を辞任したというニュースは、多くの人に衝撃を与えました1)。警察の捜査を受けたと報じられる一方、本人は記者会見で「法を犯しておらず潔白だ」と強く主張しています。ではなぜ、潔白を訴えながらも、日本を代表する企業のトップは辞任という道を選ばざるを得なかったのでしょうか。この一件は、単なる個人のスキャンダルでは片付けられません。日本の厳格な法律と、大麻に対する世界の常識との間に生じた「巨大なズレ」を浮き彫りにしているかもしれません。また、私たち日本人が「大麻」という言葉に抱く漠然としたイメージと、科学的な実像がいかにかけ離れているかをも示唆しているようにも感じます。本記事では、この騒動の深層を探るとともに、科学の光を当て、医療、社会、法律の各側面から、この複雑な問題の核心に迫ります。事件の深層 ― 「知らなかった」では済まされない世界の現実今回の騒動の発端は、新浪氏が今年4月にアメリカで購入したサプリメントにあります。氏が訪れたニューヨーク州では2021年に嗜好用大麻が合法化され、今や街の至る所で大麻製品を販売する店を目にします。アルコールやタバコのように、大麻成分を含むクッキーやオイル、チョコレートやサプリメントなどが合法的に、そしてごく普通に流通しています。新浪氏は「時差ボケが多い」ため、健康管理の相談をしていた知人から強く勧められ、現地では合法であるという認識のもと、このサプリメントを購入したと説明しています。ここで重要になるのが、大麻に含まれる2つの主要な成分、「THC」と「CBD」の違いです。THC(テトラヒドロカンナビノール)いわゆる「ハイ」になる精神活性作用を持つ主要成分です。日本では麻薬及び向精神薬取締法で厳しく規制されており、これを含む製品の所持や使用は違法となります。THCには多幸感をもたらす作用がある一方、不安や恐怖感、短期的な記憶障害や幻覚作用などを引き起こすこともあります。CBD(カンナビジオール)THCのような精神作用はなく、リラックス効果や抗炎症作用、不安や緊張感を和らげる作用などが注目されています。ただし、臨床的に確立されたエビデンスはなく、愛好家にはエビデンスを過大解釈されている側面は否めません。「時差ボケ」を改善するというエビデンスも確立していません。日本では、大麻草の成熟した茎や種子から抽出され、THCを含まないCBD製品は合法的に販売・使用が可能です。新浪氏自身は「CBDサプリメントを購入した」という認識だったと述べていますが、問題はここに潜んでいます。アメリカで合法的に販売されているCBD製品の中には、日本の法律では違法となるTHCが含まれているケースが少なくありません。厚生労働省も、海外製のCBD製品に規制対象のTHCが混入している例があるとして注意を呼びかけています2)。まさにこの「合法」と「違法」の境界線こそが、今回の問題の核心です。潔白を訴えても辞任、なぜ? 日本社会の厳しい目記者会見での新浪氏の説明や報道によると、警察が氏の自宅を家宅捜索したものの違法な製品は見つからず、尿検査でも薬物成分は検出されなかったとされています。また、福岡で逮捕された知人の弟から自身にサプリメントが送られようとしていた事実も知らなかったと主張しています。法的には有罪が確定したわけでもなく、本人は潔白を強く訴えている。にもかかわらず、なぜ辞任に至ったのでしょうか。その理由は、サントリーホールディングス側の判断にありました。会社側は「国内での合法性に疑いを持たれるようなサプリメントを購入したことは不注意であり、役職に堪えない」と判断し、新浪氏も会社の判断に従った、と説明されています。これは、法的な有罪・無罪とは別の次元にある、日本社会や企業における「コンプライアンス」と「社会的信用」の厳しさを物語っているのかもしれません。とくにサントリーは人々の生活に密着した商品を扱う大企業です。そのトップが、たとえ海外で合法であったとしても、日本で違法と見なされかねない製品に関わったという「疑惑」が生じたこと自体が、企業のブランドイメージを著しく損なうリスクとなります。結果的に違法でなかったとしても、「違法薬物の疑いで警察の捜査を受けた」という事実だけで、社会的・経済的な制裁が下されてしまう。これが、日本社会の現実です。科学は「大麻」をどう見ているのか?この一件を機に、私たちは「大麻」そのものについて、科学的な視点からも冷静に見つめ直す必要があるでしょう。世界中で医療大麻が注目される理由は、THCやCBDといった「カンナビノイド」が、私たちの体内にもともと存在する「エンドカンナビノイド・システム(ECS)」に作用するためです3)。ECSは、痛み、食欲、免疫、感情、記憶など、体の恒常性を維持する重要な役割を担っています。この作用を利用し、既存の薬では効果が不十分なさまざまな疾患への応用が進んでいます4)。がん治療の副作用緩和抗がん剤による悪心や嘔吐、食欲不振を和らげる効果。アメリカではTHCを主成分とする医薬品(ドロナビノールなど)がFDAに承認されています。難治性てんかんとくに小児の難治性てんかんにCBDが効果を示し、多くの国で医薬品として承認されています。その他多発性硬化症の痙縮、神経性の痛み、PTSD(心的外傷後ストレス障害)など、幅広い疾患への有効性が研究・報告されています。このように、科学の視点で見れば、大麻はさまざまな病気の患者を救う可能性を秘めた「薬」としての側面を持っています。「酒・タバコより安全」は本当か? リスクの科学的比較「大麻は酒やタバコより安全」という言説を耳にすることもあります。リスクという側面から、これは本当なのでしょうか。単純な比較はできませんが、科学的なデータはいくつかの客観的な視点を提供してくれます。依存性生涯使用者のうち依存症に至る割合は、タバコ(ニコチン)が約68%、アルコールが約23%に対し、大麻は約9%と報告されており、比較的低いとされます5)。しかし、ゼロではなく、使用頻度や期間が長くなるほど「大麻使用障害」のリスクは高まります。致死量アルコールのように急性中毒で直接死亡するリスクは、大麻には報告されていません6)。長期的な健康への影響精神への影響大麻の長期使用、とくに若年層からの使用は、統合失調症などの精神疾患のリスクを高める可能性が複数の研究で示されています。とくに高THC濃度の製品を頻繁に使用する場合、そのリスクは増大すると考えられています7)。また、うつ病や双極性障害との関連も指摘されていますが、研究結果は一貫していません。身体への影響煙を吸う方法は、タバコと同様に咳や痰などの呼吸器症状と関連します。心血管系への影響(心筋梗塞や脳卒中など)も議論されていますが、結論は出ていません8)。一方で、運転能力への影響は明確で、使用後の数時間は自動車事故のリスクが有意に高まることが示されています6)。国際的な専門家の中には、依存性や社会への害を総合的に評価すると、アルコールやタバコの有害性は、大麻よりも大きいと結論付けている人もいます。しかし、これは大麻が「安全」だという意味ではなく、それぞれ異なる種類のリスクを持っていると理解するべきでしょう。世界の潮流と日本のこれからかつて大麻は、より危険な薬物への「入り口」になるという「ゲートウェイ・ドラッグ理論」が主流でした。しかし近年の研究では、もともと薬物全般に手を出しやすい遺伝的・環境的な素因がある人が複数の薬物を使用する傾向がある、という「共通脆弱性モデル」のほうが有力だと考えられています9)。アメリカでは多くの州で合法化が進みましたが、社会的なコンセンサスは得られていません。賛成派は莫大な税収や犯罪組織の弱体化を主張する一方、反対派は若者の使用増加や公衆衛生への悪影響を懸念しています。合法化による長期的な影響はまだ評価の途上にあり、世界もまた「答え」を探している最中です。ただし、新浪氏の問題は、決して他人事ではないと思います。今後、海外で生活したり、旅行したりする日本人が、意図せず同様の事態に陥る可能性は誰にでもあります。また、この一件は、私たちに大きな問いを投げかけています。世界が大きく変わる中で、日本は「違法だからダメ」という思考停止に陥ってはいないでしょうか。もちろん、法律を遵守することは大前提。しかし同時に、大麻が持つ医療的な可能性、アルコールやタバコと比較した際のリスクの性質、そして世界の潮流といった科学的・社会的な事実から目を背けるべきではありません。今回の騒動をきっかけに、私たち一人ひとりが固定観念を一度リセットし、科学に基づいた冷静な知識を持つこと。そして社会全体で、この複雑な問題について、感情論ではなく建設的な議論を始めていくこと。それこそが、日本が世界の「ズレ」から取り残されないために、今まさに求められていることなのかもしれません。 1) NHK. サントリーHD 新浪会長が辞任 サプリメント購入めぐる捜査受け. 2025年9月2日 2) 厚生労働省 地方厚生局 麻薬取締部. CBDオイル等のCBD関連製品の輸入について. 3) Testai FD, et al. Use of Marijuana: Effect on Brain Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Stroke. 2022;53:e176-e187. 4) Page RL 2nd, et al. Medical Marijuana, Recreational Cannabis, and Cardiovascular Health: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2020;142:e131-e152. 5) Lopez-Quintero C, et al. Probability and predictors of transition from first use to dependence on nicotine, alcohol, cannabis, and cocaine: results of the National Epidemiologic Survey on Alcohol and Related Conditions (NESARC). Drug Alcohol Depend. 2011;115:120-130. 6) Gorelick DA. Cannabis-Related Disorders and Toxic Effects. N Engl J Med. 2023;389:2267-2275. 7) Hines LA, et al. Association of High-Potency Cannabis Use With Mental Health and Substance Use in Adolescence. JAMA Psychiatry. 2020;77:1044-1051. 8) Rezkalla SH, et al. A Review of Cardiovascular Effects of Marijuana Use. J Cardiopulm Rehabil Prev. 2025;45:2-7. 9) Vanyukov MM, et al. Common liability to addiction and “gateway hypothesis”: theoretical, empirical and evolutionary perspective. Drug Alcohol Depend. 2012;123 Suppl 1:S3-17.

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うつ病治療において有酸素運動と組み合わせるべき最適な治療は

 非薬理学的介入としての有酸素運動は、これまでのうつ病治療における有効な補助療法であるといわれている。しかし、有酸素運動による介入に関する包括的な評価は依然として不十分である。中国・海南師範大学のLei Chen氏らは、うつ病患者における有酸素運動と併用したさまざまな治療介入の有効性をシステマティックに評価するため、ネットワークメタ解析を実施した。Frontiers in Psychiatry誌2025年7月25日号の報告。 PICOSフレームワークに基づき、2024年6月までに公表されたランダム化比較試験(RCT)をPubMed、Web of Science、Cochrane Library、Embase、Scopus、CNKI、Wanfang、CBMより検索した。スクリーニングおよびデータ抽出は、独立して実施した。ネットワークメタ解析はStata 15.0およびR 4.4.1、バイアスリスクはCochrane Risk of Biasツール、エビデンスの質はCINeMAを用いて評価した。 主な結果は以下のとおり。・RCT合計37件(うつ病患者3,362例)をメタ解析に含めた。・5つの有酸素運動との併用治療(電気痙攣療法[ECT]、反復経頭蓋磁気刺激療法[rTMS]、中国伝統医学[TCM]、選択的セロトニン再取り込み阻害薬[SSRI]治療、認知行動療法[CBT])を評価した。・累積順位曲線下面積(AUC)に基づく結果は、次のとおりであった。【ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)】ECT併用>rTMS併用>TCM併用>SSRI併用>CBT併用>理学療法>運動療法>CBT単独>TCM単独>対照療法【ベックうつ病評価尺度(BDI)】SSRI併用>ECT併用>CBT併用>運動療法>CBT単独>対照療法>理学療法【うつ性自己評価尺度(SDS)】TCM併用>CBT併用>対照療法>CBT単独 著者らは「現在のエビデンスでは、うつ病治療における有酸素運動介入の併用は、単独療法よりも優れていることが示唆されている。なかでも、SSRI併用による有酸素運動介入は、強いRCTエビデンスおよび高品質のエビデンスにより評価されており、最も推奨される併用療法であると考えられる。その他の併用療法については、今後の大規模かつ高品質の試験による検証が求められる」と結論付けている。

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心理教育的介入で、地域社会の精神保健ケア構築は可能か/Lancet

 医療提供者の不足と文化的に適合したケアの欠如が、世界中で多文化集団への精神保健サービスの提供の妨げになっているとされる。米国・マサチューセッツ総合病院のMargarita Alegria氏らは、人種/民族的、言語的に少数派の集団における抑うつや不安への地域社会の対処能力の構築を目指す心理教育的介入(Strong Minds-Strong Communities[SM-SC]と呼ばれる)の有効性を評価するために、6ヵ月間の研究者主導型多施設共同無作為化臨床試験「SM-SC試験」を実施。SM-SCによる文化的に適合した介入が黒人、ラテン系、アジア系の住民に抑うつ、不安症状の改善をもたらすことが示唆され、これによって地域社会の対処能力を構築することで、精神保健ケアの不足を補う選択肢の提供が可能であることが示されたという。研究の成果は、Lancet誌2025年8月23日号に掲載された。2州の37ヵ所で参加者を募集 本研究では、2019年9月~2023年3月に米国の2州(マサチューセッツ州とノースカロライナ州)の20の地域共同体を基盤とする組織と17の診療施設で参加者を募集した(米国国立精神衛生研究所[NIMH]の助成を受けた)。 年齢18歳以上の英語、スペイン語、標準中国語、広東語の話者で、「精神保健分野のコンピューター適応型テスト(CAT-MH)」を用いた評価で中等度から重度の抑うつまたは不安の症状を呈する患者を対象とした。被験者を、文化的背景を踏まえ、適切な言語の使用が可能で臨床的な指導を受けた地域保健師によるSM-SCを受ける群、または通常ケア(対照)を受ける群に無作為に割り付けた。 SM-SCは、エビデンスに基づく文化的な個別化介入で、認知行動療法(CBT)、マインドフルネス訓練、健康的な習慣に関する心理教育、動機付けのための面接、心地良いい活動(pleasant activity)や支持的関係(supportive relationship)を通じた行動の活性化などのアプローチで構成される。通常ケアでは、参加者に米国国立衛生研究所(NIH)が作成した不安と抑うつに関する小冊子が配布された。 有効性の主要アウトカムは、ITT集団における次の3項目のベースラインから6ヵ月後(介入終了時)および12ヵ月後までの変化量とした。(1)自己報告による抑うつ・不安症状(Hopkins Symptom Checklist-25[HSCL-25]のスコア[1~4点、高点数ほど抑うつ・不安症状が悪化]で評価)。(2)機能水準(WHO障害評価スケジュール2.0[WHODAS 2.0]のスコア[12~60点、高点数ほど機能が低下]で評価)。(3)ケアの質に関する認識(Perceptions of Care Outpatient Survey[PoC-OP]のGlobal Evaluation of Careドメインのスコア[0~100点、高点数ほどケアの質が高いと認識]で評価)。6ヵ月時に3項目とも改善 1,044例を登録し、524例をSM-SC群、520例を通常ケア群に割り付けた。全体の平均年齢は42.6(SD 13.3)歳で、女性875例(83.8%)、男性165例(15.8%)、その他4例(0.4%)であった。人種別では、ラテン系654例(62.6%)、非ラテン系黒人149例(14.3%)、非ラテン系アジア人137例(13.1%)、非ラテン系白人92例(8.8%)であり、704例(67.4%)が外国生まれだった。 ベースラインから6ヵ月後までに、HSCL-25スコアは通常ケア群で0.24低下したのに対し、SM-SC群では0.44の低下と抑うつ・不安症状が有意に改善した(群間差:0.20[95%信頼区間[CI]:0.14~0.26]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.39[95%CI:0.27~0.52])。 また、機能水準(WHODAS 2.0スコア低下の群間差:2.39[95%CI:1.38~3.40]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.28[95%CI:0.16~0.39])およびケアの質の認識(PoC-OPスコア上昇の群間差:8.75[5.87~11.63]、標準化効果量[Cohen’s d]:0.47[0.31~0.62])についてもSM-SC群で有意な改善を示し、とくに後者における効果が顕著に高かった。12ヵ月後も有意差を保持 介入終了後、介入の効果は減衰した(標準化効果量が約30%低下)が、ベースラインから12ヵ月(介入終了後6ヵ月)の時点で3項目とも通常ケア群との比較で有意差を保持しており(標準化効果量[Cohen’s d]:抑うつ・不安症状0.28[95%CI:0.16~0.40]、機能水準0.21[0.08~0.33]、ケアの質の認識0.33[0.16~0.50])、SM-SCの有効性が示された。 著者は、「今後の研究では、このモデルへの投資が、実臨床や保健システム上のさまざまな課題にどのように対処できるかを検討する必要がある」としている。

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日本人急性期統合失調症患者の長期予後に最も影響する早期ターゲット症状は?

 急性期統合失調症における早期治療反応の予測は重要であるが、困難である。福島県立医科大学の小林 有里氏らは、アリピプラゾールまたはブレクスピプラゾール治療を行った患者において、2週間後の特定の症状領域改善が、6週間後の全体的な治療反応を予測するかどうかを明らかにするため、観察研究を実施した。Journal of Clinical Psychopharmacology誌2025年9・10月号の報告。 対象は、アリピプラゾールまたはブレクスピプラゾール治療を行った患者65例(抗精神病薬未使用患者:34例、抗精神病薬未使用再発患者:31例)。ベンゾジアゼピン使用患者は41例(64.1%)であった。治療反応の評価には、陽性・陰性症状評価尺度(PANSS)および臨床全般印象改善度(CGI-I)を用いた。 主な結果は以下のとおり。・受信者動作特性(ROC)分析の結果、曲線下面積(AUC)は、PANSS総スコアで0.788、陰性症状スコアで0.783、興奮症状スコアで0.603、認知機能スコアで0.746、陽性症状スコアで0.738、抑うつ/不安症状スコアで0.735であった。・Kendall's tau相関係数とCramer's V係数では、PANSS総スコア(0.413、p<0.001)、陰性症状スコア(0.411、p<0.001)、両スコアで二分した治療反応(0.573、p<0.001)、認知機能スコア(0.364、p<0.001)、陽性症状スコア(0.344、p<0.001)、抑うつ/不安症状スコア(0.344、p=0.001)について有意な予測関係が認められたが、興奮症状スコア(0.15、p=0.151)については有意な予測関係は認められなかった。・ベンゾジアゼピン使用は、これらの予測関係に有意な影響を及ぼさなかった。 著者らは「本研究は、アリピプラゾールまたはブレクスピプラゾール治療を行った急性統合失調症患者におけるPANSSの5因子モデルの予測妥当性を評価した初めての研究である。早期の症状改善、とくに陰性症状の改善は、全体的な治療反応のより強い予測因子である一方で、興奮症状の改善は関連性が弱いことが示唆された。これらの知見は、急性期統合失調症の治療戦略を最適化するために、早期の症状特異的な評価の重要性を強調している。これらの結果を検証するためにも、より大規模なサンプルを用いたさらなる研究が求められる」と結論付けている。

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治療抵抗性再発単極性うつ病と治療抵抗性双極性うつ病との違い

 重度かつ持続的な精神疾患は、英国人の約3%に影響を及ぼしており、重大な障害および平均寿命の有意な低下と関連している。これには、主に治療抵抗性再発単極性うつ病や治療抵抗性双極性うつ病の2つのタイプがある。両疾患おける表現型の違いや抗うつ薬に対する治療反応の違いは、神経異常の違いを示唆している。双極性うつ病は、単極性うつ病との臨床的鑑別が困難な場合もあるが、両疾患で治療法が異なるため、これらを客観的に鑑別する方法の開発は重要である。英国・ダンディー大学のSzabolcs Suveges氏らは、強化学習ドリフト拡散モデルを用いた意思決定および報酬獲得・損失回避タスク中に取得した事象関連fMRIを用いて、治療抵抗性再発単極性うつ病と双極性うつ病患者の一般成人精神医学において長期フォローアップ調査を行った。Brain誌オンライン版2025年8月4日号の報告。 単極性うつ病と双極性うつ病の両方において、報酬学習シグナルが同様に鈍化し、損失回避学習シグナルが増加し、同様の精神運動遅延がみられるとの帰無仮説を検証した。 主な内容は以下のとおり。・帰無仮説と一致し、両疾患タイプにおいて、意思決定の異常な遅延が認められ、個々の患者における強化学習ドリフト拡散モデルのパラメータ推定値は、うつ病の重症度と相関していた。・単極性うつ病では、ポジティブなフィードバックの結果と価値のシグナルが鈍化し、ネガティブなフィードバックのシグナルが増加することが示唆された。・しかし、帰無仮説とは対照的に、双極性うつ病は線条体の報酬予測誤差シグナル伝達が維持され、単極性うつ病でみられた海馬および外側眼窩前頭葉における損失事象の強化符号化が欠如していた。・全体として、治療抵抗性再発単極性うつ病と治療抵抗性双極性うつ病は、外側眼窩前頭皮質の報酬価値シグナルと扁桃体の損失価値シグナルに関して、対照群と比較し、同様の神経異常パターンを示した。・しかし、両疾患は、とくに海馬、線条体、外側眼窩前頭葉の機能に有意な違いがみられ、客観的な鑑別が可能であることが示唆された。・神経画像解析の結果とサポートベクターマシンを用いた場合、精度74.3%で両疾患を鑑別可能であった。 著者らは「本結果を確認するためにも、重度かつ持続的な治療抵抗性再発単極性うつ病および治療抵抗性双極性うつ病患者を対象としたさらなる研究が求められる」としている。

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