抗CD20抗体ocrelizumab、多発性硬化症の進行抑制/NEJM

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2017/01/30

 

 ヒト化抗CD20モノクローナル抗体ocrelizumabは、一次性進行型多発性硬化症の臨床的および画像上の疾患進行を抑制することが、スペイン・バルデブロン大学病院のXavier Montalban氏らが実施したORATORIO試験で示された。研究の成果は、NEJM誌2017年1月19日号(オンライン版2016年12月21日号)に掲載された。多発性硬化症の組織傷害のメカニズムは不明であるが、B細胞が抗原の発現や自己抗体の産生、サイトカインの分泌を介する機序に関与しており、B細胞の除去が治療に有効である可能性が示唆されている。ocrelizumabは、CD20陽性B細胞を選択的に除去するが、B細胞の再構築能および既存の液性免疫は保持されるという。

治療効果をプラセボ対照比較試験で評価
 ORATORIOは、一次性進行型多発性硬化症の治療におけるocrelizumabの有効性と安全性を評価する、二重盲検無作為化プラセボ対照並行群間比較第III相試験(F. Hoffmann-La Roche社の助成による)。

 対象は、年齢18~55歳、McDonald診断基準(2005年改訂版)で一次性進行型多発性硬化症と診断され、総合障害度評価尺度(EDSS)スコアが3.0~6.5(0~10、点数が高いほど機能障害が重度)、機能別障害度評価尺度の錐体路機能スコアが2(0~6、点数が高いほど機能障害が重度)以上の患者であった。

 被験者は、ocrelizumab(600mg)またはプラセボを24週ごとに静脈内投与する群に2対1の割合で無作為に割り付けられた。治療期間は120週以上とし、事前に規定された件数の機能障害の進行イベントが発生するまで継続することとした。

 主要評価項目は、time-to-event分析で12週時の機能障害進行が確定された患者の割合であった。障害進行は、ベースラインのEDSSスコアが5.5以下の患者は、ベースラインから1.0以上の上昇、5.5以上の患者は0.5以上の上昇と定義した。

 2011年3月3日~2012年12月27日に732例(ITT集団)が登録され、ocrelizumab群に488例、プラセボ群には244例が割り付けられた。120週の治療に到達したのは、ocrelizumab群が402例(82%)、プラセボ群は174例(71%)であった。試験期間中央値は、それぞれ2.9年、2.8年だった。

12週時進行割合:32.9% vs.39.3%、MRI脳病変総体積:-3.4% vs.7.4%
 ベースラインの平均年齢は、ocrelizumab群が44.7±7.9歳、プラセボ群は44.4±8.3歳、女性がそれぞれ48.6%、50.8%含まれた。症状発現からの平均経過期間は6.7±4.0年、6.1±3.6年、診断からの平均経過期間は2.9±3.2年、2.8±3.3年、平均EDSSスコアは4.7±1.2、4.7±1.2だった。

 12週時に機能障害進行が確定された患者の割合は、ocrelizumab群が32.9%と、プラセボ群の39.3%に比べ有意に良好であった(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.59~0.98、p=0.03)。

 24週時に機能障害進行が確定された患者の割合は、ocrelizumab群が29.6%であり、プラセボ群の35.7%と比較して有意に優れた(HR:0.75、95%CI:0.58~0.98、p=0.04)。

 ベースラインから120週時までの、25フィート時間制限性歩行試験(T25FW)の悪化の割合は、ocrelizumab群が38.9%と、プラセボ群の55.1%よりも有意に低かった(p=0.04)。

 T2強調MRI上の脳病変の総体積は、ocrelizumab群が3.4%減少したのに対し、プラセボ群は7.4%増加した(p<0.001)。また、脳体積は、ocrelizumab群が0.90%減少したのに対し,プラセボ群の減少は1.09%であった(p=0.02)。

 SF-36の身体機能サマリースコアの変化には、有意な差はみられなかった(補正平均変化量=ocrelizumab群:-0.7 vs.-1.1、p=0.60)。

 ocrelizumab群は、注射部位反応(39.9% vs.25.5%)、上気道感染症(10.9% vs.5.9%)、口腔ヘルペス感染症(2.3% vs.0.4%)の頻度が、プラセボ群に比べ高かった。腫瘍は、ocrelizumab群の2.3%、プラセボ群の0.8%に認められた。また、重篤な有害事象(20.4% vs.22.2%)および重篤な感染症(6.2% vs.5.9%)の発生率は、両群間に臨床的に有意な差はみられなかった。

 著者は、「長期の安全性と有効性を明らかにするには、拡大試験による観察を要する」としている。

(医学ライター 菅野 守)