肥満症治療に変革をもたらすチルゼパチドへの期待/リリー

提供元:ケアネット

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公開日:2025/07/08

 

 食事療法と運動療法が治療の主体である肥満症は、近年では肥満症治療薬が増えてさまざまな知見がリアルワールドで集積している。肥満症を適応とする持続性GIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチド(商品名:ゼップバウンド)を製造する日本イーライリリーは、都内でメディア向けのセミナーを開催し、わが国の肥満・肥満症の現況、医療費への影響、チルゼパチドの最新臨床試験データなどを説明した。

高度肥満は少数でも総医療費を押し上げる可能性

 「肥満症治療の社会的意義 ~最新の肥満症に関する研究結果を受けて~」をテーマに、同社の宗和 秀明氏(研究開発・メディカルアフェアーズ統括本部 ダイアベティス・オベシティ・心・腎領域バイスプレジデント/医師)が、肥満症に関係する情報を解説した。

 BMI25以上の肥満と定義される人は、わが国に約2,800万人いると推計され、40~50代での割合が高く、その数は増加している。肥満になる原因としては、遺伝、生理的、環境、社会文化、行動要因などさまざまな要因が交絡している。その一方で肥満は、個人の要因とされ、偏見や差別(スティグマ)の温床となっている。こうした心理的負担は、患者を消極的にさせて医療者に相談するまで約3年を要するという海外からの報告もある。

 わが国の日本肥満症学会の定義や国際的な定義でも「肥満」だけでは、病気とはいえないとしている。診療すべき肥満について、わが国では「肥満症」の定義をBMIが25以上、かつ、(1)肥満による11種の健康障害(耐糖能障害、脂質異常症、高血圧など)が1つ以上ある、または(2)健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合としている。また、BMI35以上は高度肥満とされ、この定義は国際的な基準ともおよそ合致しているとされる。

 そして、肥満症が医療費に与える影響について触れ、「総医療費」「外来医療費」「入院医療費」「薬剤費」の項目で肥満群に高い傾向がみられた。また、経年的に肥満群と非肥満群で差が広がる傾向も見受けられたほか、因子別に総医療費を解析した結果、BMI、年齢、外来受診の頻度で変化が大きく、BMIが高い群は少数でも医療費を大きく増加させていたことから、肥満人口の減少が医療費抑制につながる可能性が示唆された。

チルゼパチドのSURMOUNT-5試験結果では体重、腹囲をともに減少

 はじめに同社が行った「わが国の肥満症の疫学と疾病負担について」の研究結果について、その内容を説明した。本研究は、IMPACT-O STUDYとしてわが国の医療データベースを用いた後ろ向きコホート研究。解析の結果、わが国の肥満症の人では、BMIが高いほど健康障害を合併する割合が増加し、健康な肥満者と比較し、大きな併存疾患の負担になることがわかった。

 本研究では、肥満者6万8,567例と肥満症該当者4万3,278例を比較し、健康障害の有無などを調査・解析した。その結果、肥満症該当者についてベースライン時に2つ以上の肥満関連の健康障害を併存している割合は56.4%あり、BMIが高い群ほど高い傾向が示された。また、肥満症該当者において、併存割合が高かった肥満関連の健康障害は高血圧(54.9%)、2型糖尿病(39.5%)、脂質異常症(28.2%)の順で多く、BMIが高い群ほど2型糖尿病や耐糖能異常を併存する割合が高くなる傾向が認められた。そのほか、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の併存割合では、BMI35以上で高い傾向が認められたという。

 続いてこうした肥満症治療で使用されるチルゼパチドのSURMOUNT-5試験の最終結果が発表されたことに触れ、その内容を説明した。

 本試験は、米国など32施設の751例を無作為化し、72週にわたり行われた。その結果、ベースラインからの体重変化の直接比較試験で、チルゼパチド投与群で平均20.2%減少、セマグルチド投与群で13.7%減少し、セマグルチドに対する優越性を示した。また、目標の体重減少を達成した試験参加者の割合は、チルゼパチド投与群が31.6%に対して、セマグルチド投与群は16.1%だった。チルゼパチド投与群における腹囲の減少は平均18.4cmであり、セマグルチド投与群の13.0cmに対して優越性を示した。安全性に関しては、チルゼパチドとセマグルチドの両剤で最も多く報告された有害事象は、消化器関連のものであり、おおむね軽度~中等度だった1)

 宗和氏は「肥満症とともに生きる人の健康とケアの向上のために、当社は研究開発や関係する人々との活動を通じて、最善を尽くしていきたい」と今後の展望を述べ、説明を終えた。

(ケアネット 稲川 進)

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