CSLベーリングは、5月16日の「HAE DAY(遺伝性血管性浮腫の日)」を記念し、「HAE DAYメディアセミナー 遺伝性血管性浮腫(HAE)~救急現場と患者さんの声から考える診断と治療の課題~」を開催した。遺伝性血管性浮腫(HAE)は、国の指定難病の1つで、皮膚や腹部などに突然むくみ(浮腫)が生じる疾患で、咽頭に発作が起きた場合、気道が閉塞し呼吸困難に陥り、患者の生命に関わる危険性もある。わが国には、未診断の患者も含め約2,500人の患者が推定されている。
セミナーでは、救急医療の観点からHAEと疑い診断をつけるポイントや患者会の活動と患者・患者家族の声などが語られた。なお、同社はHAEの治療薬としてヒト抗活性化第XII因子モノクローナル抗体製剤ガラダシマブ(商品名:アナエブリ)を4月18日に発売している。
HAEの気道発作では発症から20分で生命が危険に
「HAE診断率向上は救命への道標」をテーマに自身も救急現場でHAE患者に遭遇し、診療経験もある薬師寺 泰匡氏(薬師寺慈恵病院 院長)が、HAEの救急現場での診療の流れやノウハウ、今後の展望などを説明した。
HAEは、薬剤や自己免疫などを原因とする血管浮腫と異なり、多くは血管中のC1蛋白分解酵素阻害因子(C1-INH)が低下し、ブラジキニンが上昇することで生じる限局性の浮腫。患者は1~5万人に1人(推定患者数は約2,500人)とまれな疾患であり、主に10代で発症する。
浮腫の症状としては「皮下」「消化管」「咽頭周囲」が多く、その特徴を個別に示した。
「皮下」では、四肢、顔面、生殖器の皮膚が膨張し、痒みはないが、腫脹による痛みがあるケースもある。
「消化管」では、本症の70~80%が腹部症状であり、悪心、嘔吐、疼痛などを引き起こす。過去には、症状が急性腹症に類似していることから不必要な手術などが行われたこともあったという。現在では、エコー検査、内視鏡検査で器質的な所見を見つけることもできるようになった。
「咽頭周囲」は、本症で最も致死的な症状であり、患者の2人に1人は咽頭発作を起こし、11~45歳の患者で最も頻度が高い。咽頭浮腫では、初期症状として嚥下困難、声のトーンの変化(嗄声など)から始まり、発症から約20分程度で気道が閉塞し、窒息に至る。過去、30%の患者が窒息で死亡しており、咽頭浮腫の発生は平均26歳頃に始まるという報告がある
1)。また、窒息で亡くなった患者70例の平均年齢は40.6±14.3歳という報告もある
2)。そして、救急科に不幸にも気道閉塞で搬送された場合、気道確保が行われるが、口からの確保ができない場合、鼻から器官チューブを入れて気道を確保する処置が行われている。
2000年以降、HAEでは発作予防としてC1-INH濃縮製剤や急性期のイカチバントなど治療薬が発売されたことで、救急現場では対症療法から「気道確保、呼吸管理、循環管理」と「アナフィラキシーか血管性浮腫などの鑑別診断」の後に、「診断」とオンデマンド治療への流れができるようになった。さらに長期予防投与のベロトラルスタットやラナデルマブの登場によりHAEと確定診断のついた患者では、救急搬送がなくなる可能性も出てきた。
ただ、救急対応後の課題として、「フォローアップ外来が見つけにくいこと」があるほか、「医療者の疾患への認知度不足により、診断や治療につながらない」、「未診断の患者のリスクが高いこと」などが残る。
そこで、薬師寺氏は「診療のstrategy」として4つのステップを提案する。
1)HAEを疑う(皮膚・粘膜の浮腫に気が付く)
皮膚科、消化器科、耳鼻科、泌尿器科、循環器科、救急科などに啓発がさらに必要
2)HAEを診断する(C1-INHを測定する)
早期発見のためにも血液検査を実施する
3)HAEをフォローする
長期発作抑制の種々の薬剤を選ぶ、オンデマンド治療、かかりつけ医に相談できる環境
4)HAE safety netを張る
気道閉塞などの緊急時の対応、腹痛などでの入院先
おわりに薬師寺氏は、HAEの診療について、
(1)繰り返す腫れ、腹痛はまず医師に相談
(2)血液検査はどの医療機関でも実施可能
(3)発作時の治療では長期発作抑制薬もある
(4)救急搬送先の確保が必要
とまとめ、「今後、患者が過ごしやすい社会の構築作りが課題」と指摘し、レクチャーを終えた。
病気が個性と言える日が来ることを願う
「患者家族が抱える診断・治療・生活の課題~患者家族、患者会代表の視点から~」をテーマに患者会HAEJ 代表理事の松山 真樹子氏が、患者家族の経験談や患者会の活動内容、現在の課題などを語った。
HAEJは、2014年に設立され、松山氏は2023年より理事長を務めている。松山氏は、夫をHAEの発作で亡くされ、自身の子供も遺伝子検査でHAEと診断されている。
HAEJの活動としては、疾患の認知拡大や診断率の向上などのため、海外の患者会と連携してさまざまな活動を実施している。具体的には、ウェブサイトによる情報配信、医学会への参加、メディアへの露出などを行い、医師・医療従事者へ本症の啓発を行っている。
患者・家族の日常生活について、予防治療もでき生活が安全になったものの、患者は発作再燃があるのを忘れてしまうこともあり、「発作時の対応が今も大変だ」と語る。また、医師とのコミュニケーションでは、「医師に説明してもわかってもらえない」「医師との病状対話が緊張してできないなど」の課題があるが、最近では診療時にアプリの記録やスコアチェックシートを介して説明することで解決されつつある。診療でのハードルは、「遺伝病のイメージが独り歩きしている」ために「患者は知られないように不安を感じるなどの悩みがある」という。そのほかにも、疾患の知識と理解のアップデートが医師も患者も追い付いていないという課題もあるという。
まとめとして松山氏は、「患者の希望は、普通の生活ではなく、望む生活を送ることができることであり、積極的に発作の予防・対応に治療薬を使用し、QOLを上げてほしい」と患者家族からみた思いを語り、「病気は個性といえる日が来るように願う」と患者である子供の言葉を述べ、説明を終えた。
(ケアネット 稲川 進)