新型コロナ、軽症でも精子に長期ダメージ

提供元:ケアネット

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公開日:2023/07/07

 

 欧州ヒト生殖医学会(European Society of Human Reproduction and Embryology:ESHRE)第39回年次総会で発表された新たな知見によると、COVID-19に感染した男性は、3ヵ月以上が経過しても精子の濃度が低下し、泳ぐことのできる精子も減少していたという。同学会が2023年6月26日付のプレスリリースで発表した。

 スペイン・IERA財団の生殖専門家であるRocio Nunez-Calonge氏は、COVID-19感染後、平均100日が経過しても精子の質と濃度に改善はみられなかった、と述べた。

 「COVID-19感染後、短期的に精液の質が影響を受けることを示した研究は過去にあるが、私たちが知る限り、長期間追跡調査した研究はなかった。新しい精子が生成されれば、精液の質は改善すると考えられていたがそうではなかった。精液の質が回復するのにどれくらい時間がかかるかは不明であり、たとえ軽症の感染であっても、永久的なダメージを受けた可能性もある。」

 Nunez-Calonge氏は、生殖補助医療のためにスペインのクリニックに通院している一部の男性において、COVID-19感染後に回復し、軽症であったにもかかわらず、精液の質が悪化している患者がいることを確認していた。そこで、COVID-19感染が精液の質の低下に影響しているかどうかを調査した。

 「新しい精子を作るまで 約78日かかるので、COVID-19から回復して少なくとも3ヵ月後に精液の質を評価するのが適切だと考えた」とNunez-Calonge氏は述べた

 2020年2月~2022年10月、スペインの6つの生殖クリニックに通う男性45例が組み入れられた。全員が軽症のCOVID-19と診断されており、クリニックには感染前に採取された精液サンプルの分析データがあった。感染後17~516日に別の精液サンプルを採取した。患者の平均年齢は31歳、感染前と感染後のサンプル採取の経過日数中央値は238日だった。研究者らは、感染後100日以内の全サンプルを分析し、その後100日以上が経過したサンプルのサブセットを分析した。

 その結果、精液量:2.5mL→2mL(20%減)、精子濃度:射精液1mLあたり6,800万→5,000万(26.5%減)、精子数:精液1mLあたり1億6,000万→1億(37.5%減)、総運動率:49%→45%(9.1%減)、生きた精子の数:80%→76%(5%減)に統計学的有意差を認めた。

 Nunez-Calonge氏によれば、運動性と総精子数が最も深刻な影響を受けたという。半数の男性の総精子数は、感染前後で57%減少していた。そして、感染後100日以上経過してサンプルを提供した男性グループを調査したところ、精子の濃度と運動性は依然として改善されていなかった。

 「軽度の感染であっても、ウイルスによる永続的なダメージが原因である可能性がある。臨床医はSARS-CoV-2が男性の生殖能力に及ぼす有害な影響について認識すべきだ。」

 SARS-CoV-2が睾丸や精子に影響を与えることは知られているが、そのメカニズムはまだわかっていない。Calonge氏によれば、Long COVID患者にみられる炎症や免疫系の損傷が関与している可能性があるという。

 本研究に関与していない、ESHRE委員長であるリスボン北部病院センターのCarlos Calhaz-Jorge 氏は「本研究はCOVID-19感染後の不妊患者の長期フォローアップの重要性を示している。しかし、感染後の患者の精液の質は、世界保健機関(WHO)が定める『正常な』精液と精子の基準内であることに注意する必要がある。COVID-19感染後の精液の質の低下が生殖能力の低下につながるかどうかは不明であり、さらなる研究の対象とすべきである」とコメントしている。

(ケアネット 杉崎 真名)

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