急性膵炎の抗菌薬処方はもう古い!?最新治療とは―診療ガイドライン2021発刊

専門医でも抗菌薬や蛋白分解酵素阻害薬の投与が慣例となっている急性膵炎の治療。ところが、昨年12月に発刊された『急性膵炎診療ガイドライン2021年版(第5版)』で、遂に治療法へのメスが入ったのである。診断よりも治療法に重きを置いて今回の改訂がなされた理由ついて、本ガイドライン改訂出版責任者の高田 忠敬氏(帝京大学附属病院)にインタビューした。
今回6年ぶりに発刊された本ガイドライン第5版(以下、GL)では、「予防的抗菌薬の投与がほぼ全例で行われている」「発症48時間以内の早期の経腸栄養が開始されていない」点を専門医に向けて問題提起している。急性膵炎の治療において栄養摂取は時間勝負であり予後改善の分岐点ともなることから、いかに早期に食事を開始するか、その方法や意義などが盛り込まれた。
「予防的抗菌薬は投与しない」が前提
クリニカルクエスション(CQ13:予防的抗菌薬は急性膵炎の予後改善に有用か?)を見ると、予防的抗菌薬の投与について、軽症例の場合は「行わないことを推奨する」(強い推奨、エビデンスの確実性が高い)とされ、重症例もしくは壊死性膵炎の場合は「生命予後や感染性膵合併症発生に対する明らかな改善効果は証明されていない」(推奨なし)となった。ただし、胆石性膵炎で胆管炎を併発している場合のように予防的ではなく感染を伴った際には、治療薬として抗菌薬を使用する旨が記載されている。これについて高田氏は「現段階で重症例への予防投与も答えが出せない状況であるため、今後の研究が待たれる」と説明した。経腸栄養は48時間以内がターニングポイント
続いて、軽症例の経腸栄養の早期開始について、同氏は「以前は腸を空にすることが善とされてきたが、近年では蠕動運動を保つという目的はもちろん、腸内環境を整えるためにも早期に経腸栄養を始めることが感染予防対策としても重要と報告されている」と述べた。また、CQ16(重症急性膵炎に対する経腸栄養の至適開始時期はいつか?)が強い推奨、エビデンスの確実性高となっていることについて、「重症例の場合、通常の1.5倍ほどのカロリーが必要。それを補うためにも、腹痛や蠕動音が聴取できないなどの状態であっても禁忌条件に該当しない限りは静脈栄養に加えて経腸栄養を行うことが推奨される」とも説明した。*関連:CQ17 経腸栄養ではどこから何を投与するか?
CQ18 軽症膵炎ではどのように食事を再開するか?
重症例に対する、経腸栄養の禁忌条件や経腸栄養が可能な状態は以下のとおり。
<経腸栄養の禁忌条件>
1.高度の腸閉塞2.消化管閉塞
3.消化管穿孔
4.重篤な下痢
5.難治性嘔吐
6.活動性消化管出血
7.汎発性腹膜炎
8.膵性胸腹水
<経腸栄養が可能な症状・所見>
1.腹痛2.嘔気
3.血清膵酵素上昇
4.腸管蠕動音消失
5.胃内容逆流(経鼻胃管からの排出)
スマホアプリとして初登場、GL普及の工夫凝らす
一般的なGLではクリニカルクエスチョンに対し解説が記載されていることが多いが、本書ではそれらを裏付けるための参考資料などはQRコードを利用して確認する仕様になっており、GLのp13などにもQRコードが掲載されている。それを読み取り、必要なページに瞬時にアクセスすることができるので、通常のガイドラインより必要な情報に集中することができる。また、本GLはアプリにもなっているので、App storeにて書籍名を検索すれば誰でも無料で入手することができ、手軽に持ち歩くこともできる。この機能に加え、患者がガイドラインを閲覧したり、医師がガイドラインを用いて説明したりする状況を鑑み「やさしい解説」が付記されている点も大きなポイントで、患者に説明する際の使い勝手も良い仕様になっているので、まさに次世代GLとも言えるのではないだろうか。
最後に同氏は「抗菌薬投与も栄養管理も過去の経験則が代々引き継がれてきただけもので、エビデンスに基づく根拠がなかった。エビデンス重視の昨今において、ぜひ、本書もしくはアプリを活用いただき、最新の治療を理解いただくとともに悪しき慣習がなくなることを願う」と締めくくった。
なお、「日本消化器病学会誌」へ同氏の論文が、日本膵臓学会誌「膵臓」に『診療ガイドライン2021での巻頭言』が8月に掲載される予定だ。
(ケアネット 土井 舞子)
関連記事

重症急性膵炎〔Severe acute pancreatitis〕
希少疾病ライブラリ(2021/02/11)

急性重症胆石性膵炎、ERCPによる括約筋切開vs.保存療法/Lancet
ジャーナル四天王(2020/07/30)

重症の胆石性急性膵炎に対する緊急ERCPと保存的治療:多施設共同無作為化比較試験(解説:上村直実氏)-1277
CLEAR!ジャーナル四天王(2020/08/20)
[ 最新ニュース ]

新型コロナ入院患者へのバリシチニブ、死亡低減効果は?/Lancet(2022/08/12)

早期パーキンソン病へのcinpanemab、進行抑制効果は認められず/NEJM(2022/08/12)

LDL-コレステロール:Still “The lower, the better!”(解説:平山篤志氏)(2022/08/12)

医療者のブレークスルー感染率、3回vs.4回接種(2022/08/12)

外科医の手術経験数に男女格差/岐阜大(2022/08/12)

統合失調症患者の肥満治療~システマティックレビュー(2022/08/12)

高齢者の「目的意識」の鍵は社会的交流(2022/08/12)

新型コロナのパンデミックで薬剤耐性菌対策が後退(2022/08/12)
[ あわせて読みたい ]
「診療所、知人に売るから大丈夫」、それ本当に大丈夫??【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第40回(2022/06/06)
Dr.金井のCTクイズ 初級編(2022/05/17)
診療所の売れ行きに直結する「概要書」の大切さ【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第39回(2022/05/09)
医療マンガ大賞2021「たった一時間されど一時間」受賞者描き下ろし作品(ささき かずよ氏)(2022/04/18)
「急ぎ」のお宝承継をゲットできる医師は…?【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第38回(2022/04/11)
Dr.田中和豊の血液検査指南 電解質編(2022/04/10)
医療マンガ大賞2021「命のバトン」受賞者描き下ろし作品(ささき かずよ氏)(2022/03/17)
医業承継における「お宝物件」の探し方【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第37回(2022/03/14)
医療マンガ大賞2021「膵臓がんの母」受賞者描き下ろし作品(フクラアカリガエル氏)(2022/03/02)
転職では「選ぶ側」だったのに…【ひつじ・ヤギ先生と学ぶ 医業承継キソの基礎 】第36回(2022/02/28)