心臓再同期療法後、神経体液性因子抑制薬の中止は可能か?【Dr.河田pick up】

提供元:ケアネット

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公開日:2020/05/11

 

 左脚ブロックを伴う心不全患者において、神経体液性因子抑制薬による左室駆出率(LVEF)の改善は2%程度にとどまる。一方、心室再同期療法(CRT)は、心室同期不全を伴う心筋症において、進行したケースにおいても劇的に左室駆出率を改善することがある。これは、左脚ブロックなどの伝導障害が、一部の心筋症において大きな要因となっていることを意味する。一方で、CRTの植込み後に心機能が正常化した心不全患者に対し、神経体液性因子抑制薬を継続する必要性ついてはいまだに不明である。本研究では、CRT植込み後に左室駆出率が正常化した患者において、神経体液因子抑制薬を中止することが安全かつ可能かどうかが評価されている。ベルギー・Ziekenhuis Oost-Limburg病院のPetra Nijst氏らによる報告で、Journal of the American College of Cardiology誌3月号に掲載。

左脚ブロックを有する非虚血性心筋症が対象、RAA系およびβ遮断薬を中止もしくは継続で4群に無作為化

 本研究は、プロスペクティブランダム化オープンラベルの2X2クロスオーバー試験で行われた。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系阻害剤(RAA阻害剤)を中断した群、RAA阻害剤に加えてβ遮断薬も中断した群、RAA阻害剤の代わりにβ遮断薬を中断した群、そして双方を継続する群の4つに分け、連続した患者80例を各々20例ずつ無作為に割り付けた。

 一次エンドポイントは、「24ヵ月後における左室収縮末期容積係数の15%以上の増加」と定義されたネガティブリモデリングの再発。二次エンドポイントでは、24ヵ月における全死亡および心不全に関連した入院、そして持続性心室性不整脈を組み合わせ、複合した安全性の評価を行った。

3分の2の症例では神経体液性因子抑制薬を中止しても、心不全は悪化せず

 全症例中62%で、RAA阻害剤とβ遮断薬もしくはその両方を2年間中止しても、臨床症状、エコーでの心室のサイズ、NT-Pro BNPのレベルに変化は認められなかった。しかしながら、17例(2割)において高血圧や上室性不整脈のために神経体液性因子抑制薬の再開が必要となった。

一次エンドポイントの発生は少ないが、それらの患者では神経体液性因子抑制薬の再開で左室駆出率と径は正常化した

 2年のフォローアップ期間中、80例のうち6例(7.5%)が一次エンドポイントに達し、4例(5%)が二次エンドポイントに達した。一次エンドポイントに達した6例の患者では、神経体液性因子抑制薬がすぐに再開され、左室駆出率と左室径は6ヵ月以内に正常化した。

 本研究は、あくまでも左脚ブロックを有する非虚血性心筋症で、CRT後に左室駆出率が大幅に改善した患者(試験開始時の平均LVEF:55%)が対象である。つまり、左脚ブロックが心室駆出率の低下の原因と考えられる患者群と言える。それらの患者でも、一部では神経体液性因子抑制薬の中止が、心機能の増悪と関連していることをこの研究は示唆している。また、その他の多くの心不全患者においては、たとえLVEFが改善したとしても、神経体液性因子抑制薬は継続すべきである。

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(Oregon Heart and Vascular Institute 河田 宏)