終末期には患者家族との意思疎通に訓練が必要

提供元:ケアネット

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公開日:2019/10/22

 

 2010年10月2日~4日の3日間、都内において「第47回 日本救急医学総会・学術集会」(会長:田中 裕[順天堂大学大学院医学研究科救急災害医学 教授])が、「不断前進、救命救急 今、ふたたび『仁』」をテーマに開催された。

 学会では、「病院前診療」「心肺蘇生」「外傷診療」「敗血症診療」などをテーマに特別講演、シンポジウム、パネルディスカッションをはじめ、さまざまな企画が開催されたほか、市民向けには敗血症の説明講座やAEDを使用した実技講習会などが開催された。

 本稿では、終末期の現場で患者や残された家族にどのように医療者がコミュニケーションをとるか、救急現場で要望の高いテーマについてお届けする。

遅れている日本の事前指示書の作成
 「高齢者救急」の口演の中で「VitalTalkを用いた救急・集中治療領域End-of-Life Discussionトレーニング:米国での経験から」をテーマに、伊藤 香氏(帝京大学医学部救急医学講座)が、自己の米国での研修体験から終末期の現場で必要とされる医師のコミュニケーショントレーニングについて講演した。

 超高齢化社会の進展に伴い、終末期診療での自己決定は大切な課題となっている。しかし、事前指示書の所有率は、米国では40%であるのに対し、わが国ではわずか5%と進んでいない現状である。厚生労働省の意識調査でも「事前指示書の作成に賛成」が70%近くにも上っているにも関わらず、実際に作成した人は8%程度であると同氏は「日本でのアドバンスケアプランニング(ACP)の不足」を指摘する。

 一例として帝京大学附属病院の救命センターの例を挙げ、75歳以上の高齢者の受診率が40%を超え、そのうちの60%近くが初療室や翌日に亡くなっている。わが国では、死の直前まで、侵襲的な集中治療を受け、亡くなるケースが多いことを報告。こうした医療の遠因には、ACPの不足もあると同氏は指摘した。

“VitalTalk”を日本で普及させるために
 米国と日本の違いとして、救急の現場では、死というデリケートな問題に近いことから、患者家族へのコミュニケーションスキルの向上が望まれ、新任の外科・外科集中治療の修練を受けた際に、End-of-Life(EOL)discussionコース(VitalTalk)の受講が米国では必須だったという。

 “VitalTalk”とは、あらゆる重症疾患患者とその家族が対象となり、医療者と患者・患者家族のよりよいコミュニケーションを目指して、アメリカで作られた対話訓練法である。同氏が受講したカリキュラムでは、集中治療室入室中の患者家族に模した役者を相手に、延命治療終了などの意思決定にまつわる話し合いの仕方をトレーニングしたという。具体的には、相手の感情を読み取り、理解可能な手段(イラストなどへの落とし込み)などで、的確に伝えることを訓練するものであり、その効果として、患者の疾患への理解度の向上、より良い医療の提供や訴訟リスクの低下がみられるとされる。

 コースでは、深刻なニュースを患者家族に伝える方法の「Ask-Tell-Ask」や感情を言語化する「NURSE」、診療のゴールについて話し合う「REMAP」などを学ぶという。具体的に「NURSE」とは、突然の悪い知らせに直面し、戸惑う患者家族の感情に寄り添うための会話スキルで、家族の様子を観察しながら、抱いていると予想される感情に名前を付けて(Name)、理解を示し(Understand)、尊重し(Respect)、支援(Support)、探索(Explore)する共感力養成のトレーニングである。トレーニングは、半日または1日コースがあり、医師、看護師などが受講をしている。

 同氏は、現在“VitalTalk”の日本語版開発に携わっており、「総合診療や緩和ケアのみならず、集中治療や救急に携わる医療者にも広げていきたい」と今後の展望を語り、講演を終えた。

 2020年の「日本救急医学総会・学術集会」は、11月18日~20日の会期で岐阜県にて開催される。

(ケアネット 稲川 進)

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