1型糖尿病でのSGLT2阻害薬使用の注意

提供元:ケアネット

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公開日:2019/07/31

 

 2019年7月25日、日本糖尿病学会(理事長:門脇 孝)は、2014年に策定され、過去3度のアップデートを行っている「SGLT2阻害薬適正使用に関するRecommendation」のアップデート版を公開した。現在、同学会のホームページ上で公開され、学会員などへの周知が図られている。

 SGLT2阻害薬は、現在6成分7製剤が臨床使用され、なかには1型糖尿病患者でインスリン製剤との併用療法としての適応を取得した製剤もある。しかし、ケトアシドーシスのリスクの増加が報告され、海外では、SGLT2阻害薬の成人1型糖尿病への適応が慎重にされていることもあり、1型糖尿病患者への使用に際し、十分な注意と対策が必要であるとしている。そのため、同学会の「SGLT2阻害薬の適正使用に関する委員会」では、「これらの情報をさらに広く共有することにより、副作用や有害事象が可能な限り防止され、適正使用が推進されるよう、Recommendationをアップデートする」と今回の目的を述べている。また、今回のアップデートでは、今までに副作用情報や高齢者の特定使用成績調査の結果を踏まえた、使用上での重要な注意点についても追加されている。

 委員会では、「本薬剤は適応やエビデンスを十分に考慮した上で、添付文書に示されている安全性情報に十分な注意を払い、また本Recommendationを十分に踏まえて、適正使用されるべきである」としている。

 今回のアップデートは次の通り。

1型糖尿病患者の治療の態様に注意を向ける

 “Recommendation”では、次の3点のアップデートが行われた。

1.1型糖尿病患者の使用には一定のリスクが伴うことを十分に認識すべきであり、使用する場合は、十分に臨床経験を積んだ専門医の指導のもと、患者自身が適切かつ積極的にインスリン治療に取り組んでおり、それでも血糖コントロールが不十分な場合にのみ使用を検討すべきである。

6.全身倦怠・悪心嘔吐・腹痛などを伴う場合には、血糖値が正常に近くてもケトアシドーシス(euglycemic ketoacidosis:正常血糖ケトアシドーシス)の可能性があるので、血中ケトン体(即時にできない場合は尿ケトン体)を確認するとともに専門医にコンサルテーションすること。特に1型糖尿病患者では、インスリンポンプ使用者やインスリンの中止や過度の減量によりケトアシドーシスが増加していることに留意すべきである。

7.本剤投与後、薬疹を疑わせる紅斑などの皮膚症状が認められた場合には速やかに投与を中止し、皮膚科にコンサルテーションすること。また、外陰部と会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)を疑わせる症状にも注意を払うこと。さらに、必ず副作用報告を行うこと。

1型糖尿病患者のSGLT2阻害薬併用時のインスリン減量法が詳細に

 副作用の事例と対策では、主に追加記載として以下のアップデートが行われた。

・重症低血糖
 1型糖尿病患者では、インスリンの過度の減量によりケトアシドーシスリスクが高まる可能性に留意し、慎重に減量する(方法については下記参照)。

[方法]
1-a 血糖コントロール良好(HbA1c<7.5%)な場合、開始時に基礎および追加インスリンを10~20%前後を目安に減量することを検討する。

1-b 血糖コントロール良好でない(HbA1c≧7.5%)場合、服薬開始時の基礎および追加インスリンは減量しないかあるいはわずかな減量にとどめる。

2-a 経過中、血糖コントロールが改善し低血糖が顕在化した場合は、血糖自己測定や持続血糖モニタリングの結果に応じ、患者自身で責任インスリン量をすみやかに減量できるよう指導する。

2-b ただし、上記の場合でも患者にはインスリンを極端に減量することは控えるよう指導する。特に基礎インスリンの減量は治療前の20%を越えることは避け、慎重に減量すべきである。

・ケトアシドーシス
 1型糖尿病ではインスリンポンプ使用者のポンプトラブルや予測低血糖マネージメント(PLGM)機能による基礎インスリンの中断が原因として重要であり注意を要する。臨床試験の報告では、アルコール多飲者、感染症や脱水など、女性、非肥満・やせ(BMI<25)などでのケトアシドーシスの増加が報告されている。SGLT2阻害薬を服用していると、インスリンが中断されても血糖上昇を伴わないままケトアシドーシスへと進行するため発見が遅れ、重症化させてしまう。また、通常の糖尿病性ケトアシドーシスと異なり、治療初期より十分なブドウ糖補充が必須である。患者には全身倦怠感・悪心嘔吐・腹痛などの症状を十分に教育した上で、ケトアシドーシスが疑われる場合はすみやかに専門医を受診するよう指導する。

・脱水・脳梗塞等
 これまでの大規模臨床試験や市販後調査の結果からは、SGLT2阻害薬が脳梗塞の発症数を増加させるエビデンスはないが、SGLT2阻害薬投与により初期には通常体液量が減少するので、適度な水分補給を行うよう指導すること、脱水が脳梗塞など血栓・塞栓症の発現に至りうることに改めて注意を喚起する。急性腎障害を引き起こすことがあり、特に利尿薬、ACE阻害薬、ARB、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)を併用する場合には注意が必要である。

・皮膚症状
 海外ではSGLT2阻害薬と外陰部と会陰部の壊死性筋膜炎(フルニエ壊疽)との関連性が指摘され、死亡例も報告されている。フルニエ壊疽の進行は早いため、早急に外科的治療および抗生剤治療を開始する必要がある。診断が遅れると死に至るリスクがあるため、外陰部、会陰部、肛門周囲の発赤、腫脹、疼痛には注意を払い、フルニエ壊疽が疑われる場合には、外科的な対応が可能な皮膚科医などに可及的速やかにコンサルテーションするべきである。

・尿路・性器感染症
 治験の時からSGLT2阻害薬使用との関連が認められており、1型糖尿病の治験においても、性器感染症の明らかな増加が報告されている。これまで、多数例の尿路感染症、性器感染症が報告されている。尿路感染症は腎盂腎炎、膀胱炎など、性器感染症は外陰部膣カンジダ症などである。

(ケアネット 稲川 進)