簡潔で読みやすい「脂質異常症診療ガイド2018年版」

提供元:ケアネット

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公開日:2018/07/18

 

 動脈硬化性疾患は、がんに次ぐ死亡原因であり、脂質異常症はその重要な危険因子である。昨年のガイドライン改訂に伴い、2018年7月5日、日本動脈硬化学会が「動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2018年版について」のプレスセミナーを開催した。今回、診療ガイド編集委員会委員長・日本動脈硬化学会副理事長の荒井 秀典氏(国立長寿医療研究センター病院長)が登壇し、診療ガイドの活用方法について語った。

脂質異常症診療ガイド2018年版は簡潔に読みやすく

 脂質異常症診療ガイドは脂質異常症患者の診療に必須の知識を理解するための、“簡潔で実用的なガイド”として発刊され、昨年改訂された「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」とは異なる役割をもつ。各章はポイントの箇条書きや図表でわかりやすく構成されており、各病態のメカニズムや組織像の写真などが掲載されているため、メディカルスタッフとの情報共有や診察時の説明にも有効である。

脂質異常症診療ガイドとガイドラインの違い

 同氏はまず、以下の3点を脂質異常症診療ガイドとガイドラインの大きな違いとして強調した。

1)脂質異常症の合併症として急性膵炎を動脈硬化性疾患に追加して記載
2)実際の身体所見の写真や食品の脂質含有量例など栄養に関する具体的掲載
3)新規薬剤の選択的PPARαモジュレーターが他の薬剤と別立てで追加

 さらに動脈硬化性疾患予防のためには 、 早期からの包括的管理が重要であることを踏まえ、同氏は「生活習慣の包括的管理による危険因子(肥満、高血圧、高血糖、脂質異常症、腎機能障害など)の改善を基本コンセプトとして包括的管理チャートが作成された」こと、包括的リスク評価・管理の変更点として「Step1 はa、b、cの3段階から2段階に簡略化した」ことを述べた。

 脂質異常症診療ガイドによると、脂質異常症を診断するうえで診断基準がポイントとなる。この診断基準の値は「動脈硬化発症リスクを判断するためのスクリーニング値であり、治療開始のための基準値ではない」と記載されており、この基準値を満たしても薬物療法が開始されるわけではない。そして、診断基準で必要なLDL-Cの計算方法は、Friedewaldの式、もしくは直接法で求めるよう記載されるようになった。

家族性高コレステロール血症に脂質異常症診療ガイドを活用

 FHは原発性脂質異常症の中でもっとも頻度の高い常染色体遺伝疾患であり、早期診断・治療がきわめて重要とされる。同氏は「このような遺伝子疾患をしっかり鑑別して診断してもらうためにも診療ガイドの活用を」とコメントした。

アプリやWebの活用も

 動脈硬化学会はアプリやWEB活用にも注力し、医療従事者向けアプリ「冠動脈疾患発症予測・脂質管理目標値設定」をホームページ上で提供している。Web版はパソコン上で利用可能であり、動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版に掲載している「吹田スコアによる冠動脈疾患発症確率と脂質管理目標値」を簡便に求めることが出来る。これに対応する一般向けアプリ「これりすくん」も提供しているので、患者が自身の疾患リスクを把握するためにも有効である。

 最後に、同氏は「自身の興味ある領域の内容を、簡単かつ短時間に把握・理解してもらい、臨床に役立てていただきたい」と、脂質異常症診療ガイドの啓発活動に対する意気込みを語った。

(ケアネット 土井 舞子)

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