高断熱・高気密および省エネ・創エネ性能を備えた新築マンション「ZEH-M(Net Zero Energy House Mansion)」への転居前後での冬季の家庭血圧について、同一被験者で前後比較を行った結果、高血圧治療中の患者や血圧高値者において、早朝収縮期血圧が最大で約7mmHg有意に低下した。本結果は大阪大学の中神 啓徳氏らの研究グループの研究によって明らかになり、Hypertension Research誌2026年7月13日号に掲載、第26回日本抗加齢医学会総会で報告された(2026年6月26〜28日開催)。
日本の多くの家屋は冬季の室温が低く、WHOが健康維持のために勧告している最低室温18℃を満たさない住宅が約9割に上る。早朝に血圧が急上昇するモーニングサージは、とくに冬季において脳卒中や心筋梗塞などの心血管イベントを引き起こす強力なトリガーとして知られており、室温を高く保つことがリスク低減に重要であると考えられている。
そこで同氏らは、近年の新築マンションにおいてZEH-Mの普及による室内環境の改善が急速に進んでいることに着目し、ZEH-Mへの転居が居住者の室内温熱環境および家庭血圧に及ぼす影響を明らかにすることを目的として検証を行った。
研究の詳細とその結果
本研究は、全国のZEH-M仕様の新築マンション(大京および穴吹工務店が供給・分譲)を契約した人を対象に実験モニターを募集。対象は、治療中の重大な疾患がない健康な複数人世帯とした。同一被験者において、転居前(一般的な旧居:2024年2〜3月)と転居後(新築ZEH-M:2025年2月)に、洗面所の室温測定および上腕式血圧計を用いた家庭血圧・脈拍の測定(1日4回:起床後30分以内2回、就寝前2回)を3週間実施した。このうち、14日以上の血圧測定データがそろった起床後データ179例分、就寝前データ178例分を最終解析対象とした。
主な結果は以下のとおり。
・被験者の平均年齢は42.5±11.4歳、このうち高血圧(降圧薬内服中)は16例(9%)、血圧高値(早朝収縮期血圧125mmHg以上)は32例(18%)であった。
・179例の早朝収縮期血圧の解析では、転居前後に有意な変化は認められなかった(転居前113.9mmHg vs. 転居後114.4mmHg、p=0.403)。
・高血圧(降圧薬内服)群では、早朝の収縮期血圧が転居前から転居後に約7mmHgの有意な低下を認め(130.3±13.0mmHg vs.122.9±11.9mmHg、p=0.018)、血圧高値(早朝収縮期血圧125mmHg以上)の群でも約5mmHgの有意な低下を認めた(135.9±9.9mmHg vs.131.3±14.4mmHg、p=0.020)。
・年齢別解析において、60歳以上のサブグループ(18例)では早朝収縮期血圧が有意に低下した(125.7±17.4mmHg vs.119.5±14.7mmHg、p=0.032)。ただし、BMI 25以上の肥満者(30例)では、血圧が高いにもかかわらず転居前後で血圧に有意な変化はみられなかった。
・高血圧群や血圧高値群において、早朝拡張期血圧(高血圧群で-5.4mmHg、p=0.003)および就寝前の収縮期血圧(高血圧群で-7.3mmHg、p=0.017)も転居後に有意な低下を認めた。
・転居後の実測洗面室温は、日中・夜間ともに多くの家庭で15℃以上を保っており、夜間でも室温が下がりにくい良好な温熱環境が確認された。
・アンケートによる主観的な寝室の温熱環境評価(寒さの感覚)も、高血圧群を中心に大幅に改善した一方で、肥満者では室温変化に対する主観的な影響が少ない傾向が示唆された。
居住空間の変化、7mmHgの降圧を実現
中神氏は、循環器内科の立場から冬季の血圧変動の危険性に触れ、「モーニングサージの時間帯、とくに冬の朝は危険だと昔から言われている。血圧にはさまざまな急性リスク因子があるが、それらが重積して血圧が跳ね上がったときに心血管イベントが発生する。だからこそ、室温を適温に保つことは非常に重要な要素になる」と説明。また、転居後の洗面室温のデータを示しながら、ZEH-M仕様のマンションでは、夜間であってもそれほど室温が下がることがなかったことに触れ、アンケート結果からも主観的な寒さが大幅に改善している点を強調した。
一方で、対象者全体の解析で有意差が出なかった点については、「新築マンション購入者を対象としたため、平均年齢が42.5歳と若く全体の平均血圧も低かった。本研究で(全体での)差が出なかった要因の1つはここにある」と分析。BMI 25以上の肥満者で血圧や主観的温感の変化がみられなかったことに対しては、「肥満傾向の人は寒さへの耐性があるのではないか」と言及した。
最後に、高血圧群で認められた約7mmHgという降圧効果の大きさについて、「高血圧ガイドラインの生活習慣修正において、体重を1kg減らすと血圧が約1mmHg下がると言われている。今回のように室温によって収縮期血圧を7mmHg下げようと思うと、7kgも減量しなければならない計算になる。そのように考えると、住環境の室温を高く保つことによる今回の降圧効果は、非常に大きなインパクトを与える結果だ」と締めくくった。
(ケアネット 土井 舞子)