日本語でわかる最新の海外医学論文|page:3

対象者全員の検診受診で肺がんによる死亡は大幅に回避可能

 全ての肺がん検診対象者が検診を受ければ、5年間で回避可能な肺がんによる死亡は現状の1万4,970件から6万2,110件にまで大幅に増加する可能性のあることが、新たな大規模研究で示された。米国では、2024年に肺がん検診の対象となる成人のうち、実際に検診を受けたのは約5人中1人にとどまっていたことも明らかになった。米国がん協会(ACS)がんリスク因子・スクリーニング・サーベイランス・リサーチのサイエンティフィックディレクターであるPriti Bandi氏らによるこの研究の詳細は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に11月19日掲載された。  Bandi氏は、「肺がん検診の受診率がこれほどまでに低いままであるのは残念なことだ。より深刻なのは、この低い受診率が現実に命を救うチャンスの喪失につながっている点だ。対象者の全員が検診を受ければ、肺がんによる死亡を大幅に防げたはずだ」とニュースリリースの中で述べている。

心原性ショックへのlevosimendan、ECMO離脱を促進せず/JAMA

 静脈-動脈体外式膜型人工肺(VA-ECMO)による管理を受けている重篤だが可逆性の心原性ショック患者の治療において、強心血管拡張薬levosimendanの早期投与はプラセボと比較して、ECMO離脱までの時間を短縮せず、集中治療室(ICU)入室期間や60日死亡率に差はないが、心室性不整脈の頻度が高いことが、フランス・ソルボンヌ大学のAlain Combes氏らLEVOECMO Trial Group and the International ECMO Network(ECMONet)が実施した「LEVOECMO試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年12月1日号で報告された。

冠動脈リスク評価を巡る1つの問い(解説:野間重孝氏)

本論文は、無症候一般住民における初発冠動脈イベント予測に、冠動脈CT血管造影(CCTA)がどの程度寄与するのかを検証した大規模前向き研究である。本稿では、この論文を日本の循環器診療の文脈に引き寄せ、われわれがどのように理解し、どのように評価すべきかを整理してみたい。本研究は、心血管疾患既往のない一般住民を対象に、従来のリスク評価(PCE:Pooled Cohort Equation)および冠動脈石灰化スコア(CACS)に、CCTAによる解剖学的情報を追加することで、初発の冠動脈イベント(非致死性心筋梗塞または冠動脈死)の予測能が改善するか否かを検討したものである。

アテゾリズマブ、胸腺がんに対する適応追加/中外

 中外製薬は2025年12月22日、アテゾリズマブ(商品名:テセントリク)について、胸腺がんに対する適応追加の承認を取得したことを発表した。  本承認は、切除不能な胸腺がん患者48例を対象に、1次治療としてアテゾリズマブ+カルボプラチン+パクリタキセルの有効性および安全性を評価した医師主導国内第II相試験「MARBLE試験」の成績に基づくものである。  本試験における主要評価項目の独立中央判定に基づく奏効割合は56.3%(95%信頼区間:41.2~70.5)であり、副次評価項目の無増悪生存期間の中央値は9.6ヵ月であった。

フィネレノン、慢性心不全の適応追加/バイエル

 バイエル薬品は、非ステロイド性ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬フィネレノン(商品名:ケレンディア)への慢性心不全の適応追加を2025年12月22日に取得したことを発表した。  本適応追加は、日本人を含むLVEF40%以上の心不全患者約6,000例を対象とした国際共同第III相臨床試験FINEARTS-HFに基づき承認された。同試験でフィネレノンは、主要評価項目である心血管死およびすべて(初回および再発)の心不全イベント(心不全による入院または緊急受診)の相対リスクを統計学的有意に16%減少させた(rate ratio:0.84[95%信頼区間:0.74~0.95、p=0.0072])。また、フィネレノンの忍容性は良好で、既知の安全性プロファイルと一貫していた。

デュピルマブ、6~11歳の気管支喘息の用法・用量追加/サノフィ

 サノフィは2025年12月22日、デュピルマブ(商品名:デュピクセント)について、6~11歳の小児の気管支喘息(既存治療によっても喘息症状をコントロールできない重症または難治の患者に限る)に関し、製造販売承認事項一部変更承認を取得したことを発表した。  本承認は、既存治療でコントロール不良の中等症から重症の喘息を有する6~11歳の小児を対象とした海外第III相試験「LIBERTY ASTHMA VOYAGE(EFC14153試験)」、EFC14153試験を完了した患者を対象に実施した海外第III相試験「LTS14424試験(main study)」、国内第III相試験「LTS14424試験(Japan substudy)」の結果などに基づくものである。

ベンゾジアゼピン系薬中止に対する障壁とその要因とは

 高齢者におけるベンゾジアゼピン受容体作動薬(BZD)の中止では、さまざまな阻害要因が存在する。これら阻害因子を特定し、優先順位付けすることは、BZDを中止するための効率的な介入方法を作成するうえで不可欠である。ベルギー・Universite Catholique de LouvainのVladyslav Shapoval氏らは、高齢者におけるBZD中止の阻害因子およびBZDの減量または中止に対する意欲に関連する因子を特定するため、横断調査を実施した。Age and Ageing誌2025年11月28日号の報告。対象は、欧州6ヵ国の医療機関から募集した睡眠障害の治療のためBZDを使用している65歳以上の高齢者。BZD中止の阻害因子は、行動の個人的および状況的決定要因を体系的に特定する理論的領域フレームワーク(TDF)に基づく27項目の質問票を用いて特定した。

cT1-2N0乳がんにおけるSLNB省略、5年RRFSで非劣性(BOOG2013-08)/SABCS2025

 乳房温存療法(乳房温存手術および全乳房照射)を受けるcT1-2N0乳がんにおけるセンチネルリンパ節生検(SLNB)の省略を検討したBOOG2013-08試験で、SLNB非施行群が5年領域無再発生存(RRFS)率においてSLNB施行群に非劣性を示した。オランダ・Maastricht University Medical CenterのMarjolein L. Smidt氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2025、12月9~12日)で発表した。  BOOG2013-08試験は、2015~22年にオランダの25施設で実施された多施設共同非劣性無作為化第III相試験である。

血圧変動が大きいと認知症リスクが高い?

 日本の国民健康保険データベースを用いた大規模な後ろ向きコホート研究において、血圧変動が大きいことは、降圧薬治療の有無にかかわらず認知症発症リスクの上昇と関連していたことが示された。この関連は、降圧薬の種類や処方数、服薬アドヒアランスを考慮しても認められた。佐藤 倫広氏(東北医科薬科大学)らが、本研究結果をHypertension Research誌オンライン版2025年11月10日号で報告した。  研究グループは、DeSCヘルスケアが提供する日本の国民健康保険データベースを用いて、5回の特定健診データ(血圧値含む)が得られ、死亡情報(資格喪失情報より特定)が取得可能であった50歳超の30万1,448例を解析対象とした。5回の特定健診における収縮期血圧の変動係数(SBP-CV)を用いて健診ごとの血圧変動を評価し、認知症発症リスク(抗認知症薬の新規処方を代替指標として定義)との関連を検討した。解析には死亡を競合リスクとしたFine-Grayモデルを用いて、ベースライン前365日以内の降圧薬処方の有無により未治療群と治療群に分けて評価した。治療群においては、降圧薬の種類や処方数、Medication Possession Rate(MPR)で評価した服薬アドヒアランスも調整して解析した。

難治性下肢潰瘍治療の課題を解決するヒト羊膜製品/マイメディクス

 糖尿病患者数は全世界8億2,200万例に上り、日本国内でも約1,000万例に達している。東京医科大学形成外科学分野 松村 一氏は、「難治性足潰瘍治療の現状とアンメット・ニーズ」と題し講演した。  糖尿病合併症の1つであるDFUは血流障害と神経障害を背景に発症する。近年、患者数は増加し続けている。長期にわたるDFUは感染や組織障害を起こし足の切断に至る。生命予後も悪く、切断に至った場合の5年死亡率は全がんよりもさらに高い。従来はデブリードマン、オフローディング(免荷)、血行再建、感染制御などの治療が行われるが、約10%が切断に至り、治癒しても再発が多い。

中高年の慢性不眠症、太極拳は有効か/BMJ

 中国・香港大学のParco M. Siu氏らは、中高年者の慢性不眠症の管理において、太極拳は第1選択治療とされる「不眠症に対する認知行動療法(cognitive behavioural therapy for insomnia:CBT-I)」と比較して、3ヵ月の時点(介入終了時)では不眠症の改善効果が劣ったが、15ヵ月後には非劣性を達成することを示した。研究の成果は、BMJ誌2025年11月26日号に掲載された。香港の単施設の無作為化非劣性試験 本研究は、香港の単施設で実施した評価者盲検無作為化非劣性試験であり、2020年5月~2022年7月の期間に参加者を募集した(香港大学General Research Fund of Research Grants Councilの助成を受けた)。 『精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)』に基づき慢性不眠症と診断された年齢50歳以上の中国人を対象とした。

SGLT2阻害薬の投与により自己免疫性リウマチ性疾患の発症が抑制される?(解説:住谷哲氏)

糖尿病合併症に慢性炎症が深く関与していることはよく知られている。そこで、慢性炎症を抑制する作用のある血糖降下薬があれば、それを選択するのが合併症予防のためには有用と考えられる。SGLT2阻害薬が糖尿病合併症である腎症や心不全の予後を改善することは現在ではほぼ確立しているが、その想定されているメカニズムの1つにSGLT2阻害薬の抗炎症作用がある1)。慢性炎症の持続が自己免疫性リウマチ性疾患の発症につながるのかは不明であるが、著者らはSGLT2阻害薬の抗炎症作用に着目して、SGLT2阻害薬の投与が自己免疫性リウマチ性疾患の発症抑制と関連するか否かをSU薬を対照として検討した。

日本人統合失調症患者における抗精神病薬の治療パターンと機能アウトカムとの関係

 抗精神病薬の多剤併用や長時間作用型注射剤(LAI)の使用などの治療パターンは、統合失調症患者の機能アウトカムに影響を及ぼすのか。実臨床において、この課題に対する検討は、いまだ十分になされていない。福島県立医科大学の森 湧平氏らは、抗精神病薬の治療パターンと機能アウトカムとの縦断的な関係を明らかにするため、慢性期統合失調症患者を対象に10年間のレトロスペクティブ研究を実施した。Journal of Psychiatric Research誌オンライン版2025年11月22日号の報告。対象は、日本人慢性期統合失調症患者114例。1ヵ月当たりの全般的機能評価(GAF)スコア(122ヵ月以上)と抗精神病薬の治療パターン(多剤併用、LAI使用、クロルプロマジン[CP]換算量)との関係を評価した。

ER+/HER2-進行乳がんへのimlunestrant、OS中間解析時点の最新データ(EMBER-3)/SABCS2025

 エストロゲン受容体陽性HER2陰性(ER+/HER2-)の進行乳がんを対象とした経口選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)imlunestrantの第III相EMBER-3試験において、事前に規定された全生存期間(OS)中間解析時点(追跡期間中央値:28.5ヵ月)での各評価項目の最新データを、米国・Memorial Sloan Kettering Cancer CenterのKomal L. Jhaveri氏がサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS2025、12月9~12日)で発表した。  本試験の1次解析(追跡期間中央値:15.7ヵ月)では、ESR1変異を有する患者においてimlunestrant群が標準内分泌療法群に比べて無増悪生存期間(PFS)が有意に改善し、またESR1変異の有無にかかわらず全患者において、imlunestrant+アベマシクリブ群がimlunestrant群に比べPFSを有意に改善したことが報告されている。

IgA腎症は0.5~1.0g/日の低レベル蛋白尿でも腎予後不良~メタ解析/慈恵医大

 IgA腎症における蛋白尿の臨床的意義を検討した系統的レビューおよびメタ解析の結果、0.5~1.0g/日の低レベル蛋白尿であっても腎予後不良と関連していたことを、東京慈恵会医科大学の山口 裕也氏らが明らかにした。Clinical Journal of the American Society of Nephrology誌オンライン版2025年12月12日号掲載の報告。  IgA腎症では、1.0g/日を超える顕性蛋白尿が腎予後不良と関連することが広く知られている。しかし近年のエビデンスでは、0.5~1.0g/日の低レベルの蛋白尿でも腎予後不良と関連することが示唆されている。そこで研究グループは、IgA腎症における低レベル蛋白尿と腎予後不良との関連を評価することを目的として、系統的レビューおよびメタ解析を実施した。

「まずは金属除去」ではない? 金属アレルギー診療と管理の手引きを公開/日本アレルギー学会

 本邦では初となる金属アレルギーに特化した手引き『金属アレルギー診療と管理の手引き 2025』1)が、2025年9月26日に公開された。そこで、手引きの検討委員会の代表を務める矢上 晶子氏(藤田医科大学ばんたね病院 総合アレルギー科 教授)が、第74回日本アレルギー学会学術大会(10月24~26日)において、手引きの作成の背景と概要を紹介した。なお、手引きはアレルギーポータルの医療従事者向けページで公開されている。  本邦では「アレルギー疾患対策基本法」が定められており、喘息やアトピー性皮膚炎などの6疾患が重点的な対象疾患となっている。しかし、現状では金属アレルギーは対象疾患に含まれていない。この理由について、矢上氏は「若年で発症し、後年に金属製材料を使用するときに苦慮する方がいる」「患者は複数の診療科を受診するが連携した診療体制が不十分」「患者数が未知」といった背景があったと述べる。そこで「厚生労働科学研究事業で、それらを補う情報をまとめたほうが良いのではないかということで研究が始まり、疫学調査結果や検査法などをまとめて、手引きを作成する方向となった」とのことだ。これらの研究成果を集約した『金属アレルギー診療と管理の手引き2025』には、診療の流れや検査・管理の要点、多診療科・多職種が連携した診療体制の構築の重要性などが記載されている。

猛暑は高齢糖尿病患者にとって致命的となり得る

 極端に暑い日は、心臓病や糖尿病を持つ高齢者の死亡リスクが高くなることを示唆するデータが報告された。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デイビッド・ゲフィン医学部のEvan Shannon氏らが、同州の退役軍人の医療記録などを解析した研究の結果であり、詳細は「JAMA Network Open」に11月25日掲載された。  この研究の結果、猛暑による死亡リスクへの影響は、居住環境により大きく異なることも明らかになった。例えば、低所得地域に暮らす高齢の退役軍人は、猛暑日に死亡するリスクが涼しい日に比べて44%高くなることが示された。一方、高所得地域に居住する退役軍人の場合、涼しい日との死亡リスクの差は12%の上昇にとどまっていた。論文の筆頭著者であるShannon氏は、「本研究では退役軍人のみのデータを解析に用いたが、得られた結果は退役軍人以外にも当てはまるのではないか」と話している。

米国でアルファガル症候群による初の死亡例を確認

 米国で、ダニが媒介するまれな肉アレルギーであるアルファガル(α-gal)症候群による死亡例が初めて確認されたことを、米バージニア大学医学部のアレルギー専門医であるThomas Platts-Mills氏らが報告した。この症例報告は、「The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice」に11月12日掲載された。  Platts-Mills氏らによると、アルファガル症候群で死亡したのは、米ニュージャージー州在住の健康な47歳の男性である。この男性は、2024年夏、キャンプ先で夕飯に牛肉を食べた4時間後の深夜2時に、腹部に不快感を感じて目を覚ました。不快感はもがき苦しむほどの強さになり、下痢と嘔吐も生じたが、2時間後に容態は改善し、再び眠りについたという。翌朝、男性の体調は良く、5マイル(8km)歩いた後に朝食を食べた。夫婦でこの出来事について話し合い、医師に診てもらうことも考えたが、結局、受診しなかった。ただ、男性は息子の1人に「死ぬかと思った」と話したという。

シャーガス心筋症の心不全、サクビトリル・バルサルタンvs.エナラプリル/JAMA

 シャーガス心筋症により左室駆出率が低下した心不全(HF)患者において、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)サクビトリル・バルサルタンは、エナラプリルとの比較において臨床的アウトカムに関する有意差は認められなかったが、サクビトリル・バルサルタン投与患者では、12週時点でNT-proBNPの顕著な低下が認められた。米国・Duke Clinical Research InstituteのRenato D. Lopes氏らPrevention and Reduction of Adverse Outcomes in Chagasic Heart Failure Trial Evaluation(PARACHUTE-HF)Investigatorsが非盲検多施設共同無作為化試験の結果を報告した。HFに対してガイドラインで推奨される治療の有効性と安全性は、シャーガス心筋症患者におけるHFについては明らかになっていなかった。JAMA誌オンライン版2025年12月3日号掲載の報告。

Stage I~III膵管腺がんの術前療法、PAXG vs.mFOLFIRINOX(CASSANDRA)/Lancet

 切除可能または切除可能境界膵管腺がん(PDAC)において、PAXG療法(シスプラチン+nab-パクリタキセル+カペシタビン+ゲムシタビン)はmFOLFIRINOX療法(フルオロウラシル+ロイコボリン+イリノテカン+オキサリプラチン)と比較して無イベント生存期間(EFS)を有意に改善したことが、イタリア・IRCCS San Raffaele Scientific InstituteのMichele Reni氏らが行った第III相の無作為化非盲検2×2要因試験「PACT-21 CASSANDRA試験」の結果で示された。周術期化学療法は、切除可能または切除可能境界PDAC患者における標準治療の1つである。結果を踏まえて著者は、「PAXGは、術前療法の標準治療となりうることが示された。今後の試験では、術前PAXGを比較対照群として検討すべきであろう」とまとめている。Lancet誌オンライン版2025年11月20日号掲載の報告。