自閉スペクトラム症に対する非定型抗精神病薬の有効性〜ネットワークメタ解析

提供元:ケアネット

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公開日:2025/06/27

 

 自閉スペクトラム症(ASD)患者は、社会的な交流や行動に関連する多様な症状を呈する。非定型抗精神病薬は、小児および成人ASD患者の易刺激性、攻撃性、強迫観念、反復行動などの苦痛を伴う症状の治療に広く用いられてきた。しかし、その効果と相対的な有効性は依然として明らかではなかった。チリ・Universidad de ValparaisoのNicolas Meza氏らは、ASDに対する非定型抗精神病薬の有効性を明らかにするため、ネットワークメタ解析を実施した。The Cochrane Database of Systematic Reviews誌2025年5月21日号の報告。

 小児および成人ASD患者を対象とした短期フォローアップ調査において、易刺激性に対する非定型抗精神病薬の相対的ベネフィットを評価するため、ネットワークメタ解析を実施した。さらに、短期、中期、長期フォローアップにおける、小児および成人ASD患者のさまざまな症状(攻撃性、強迫行動、不適切な発言など)と副作用(錐体外路症状、体重増加、代謝性副作用など)に対する非定型抗精神病薬のベネフィット/リスクについて、プラセボ群または他の非定型精神病薬との比較を行い、評価した。CENTRAL、MEDLINEおよびその他10のデータベース、2つのトライアルレジストリーを検索し、リファレンスの確認、引用文献の検索、研究著者への連絡を行い、対象研究を選定した(最終検索:2024年1月3日)。ASDと診断された小児および成人を対象に、非定型抗精神病薬とプラセボまたは他の非定型抗精神病薬と比較したランダム化比較試験(RCT)を対象に含めた。重要なアウトカムは、易刺激性、攻撃性、体重増加、錐体外路症状、強迫行動、不適切な発言とした。バイアスリスクの評価には、Cochrane RoB 2ツールを用いた。易刺激性の複合推定値には頻度主義ネットワークメタ解析、その他のアウトカムにはランダム効果モデルを用いて、対比較統計解析を実施した。エビデンスの確実性の評価には、GRADEを用いた。

 主な結果は以下のとおり。

・17研究、1,027例をネットワークメタ解析に含めた。成人対象は1研究(31例)、残りの16研究(996例)は小児対象であった。非定型抗精神病薬には、リスペリドン、アリピプラゾール、ルラシドン、オランザピンが含まれた。
・易刺激性についてのネットワークメタ解析では、小児ASDに対してリスペリドンとアリピプラゾールは、プラセボ群と比較し、短期的に易刺激性の症状軽減に有効である可能性が示唆された。ルラシドンはプラセボと比較し、短期的な易刺激性に対する効果に、ほとんどまたはまったく差はないと考えられる。
【リスペリドン】平均差(MD):-7.89、95%信頼区間(CI):-9.37〜-6.42、13研究、906例、エビデンスの確実性:低
【アリピプラゾール】MD:-6.26、95%CI:-7.62〜-4.91、13研究、906例、エビデンスの確実性:低
【ルラシドン】MD:-1.30、95%CI:-5.46〜2.86、13研究、906例、エビデンスの確実性:中
・その他のアウトカムについては、小児ASDにおける短期フォローアップ調査において、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較し、攻撃性に及ぼす影響が、非常に不確実であることが示唆された(リスク比[RR]:1.06、95%CI:0.96〜1.17、1研究、66例、エビデンスの確実性:非常に低)。バイアスリスクと重大な不正確さの懸念から、エビデンスの確実性は非常に低いと考えられる。
・小児ASDにおける短期フォローアップ調査において、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較し、体重増加の発生に及ぼす影響が、非常に不確実であることが示唆された(RR:2.40、95%CI:1.25〜4.60、7研究、434例、エビデンスの確実性:非常に低)。短期的な体重増加についても、非常に不確実であった(MD:1.22kg、95%CI:0.55〜1.88、3研究、297例、エビデンスの確実性:非常に低)。いずれの研究においても、バイアスリスクと重大な不正確さの懸念から、エビデンスの確実性は非常に低いと考えられる。
・小児ASDにおける短期的な錐体外路症状の発生に対する非定型抗精神病薬の及ぼす影響は、プラセボと比較し、非常に不確実であった(RR:2.36、95%CI:1.22〜4.59、6研究、511例、エビデンスの確実性:非常に低)。バイアスリスクと重大な不正確さの懸念から、エビデンスの確実性は非常に低いと考えられる。
・小児ASDにおいて、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較、短期的に強迫行動を改善する可能性が示唆された(MD:-1.36、95%CI:-2.45〜-0.27、5研究、467例、エビデンスの確実性:低)。バイアスリスクと異質性への懸念から、エビデンスの確実性は低い。
・小児ASDにおいて、非定型抗精神病薬は、プラセボと比較、短期的に不適切な発言を減少させる可能性が示唆された(MD:-1.44、95%CI:-2.11〜-0.77、8研究、676例、エビデンスの確実性:低)。バイアスリスクと異質性への懸念から、エビデンスの確実性は低い。
・他の非定型抗精神病薬の効果は評価不能であった。
・利用可能な研究が不足していたため、成人ASDに関する知見は得られなかった。

 著者らは「リスペリドンおよびアリピプラゾールは、プラセボと比較し、短期的に小児ASDの易刺激性の症状を改善する可能性が示唆されたが、ルラシドンは、ほとんどまたはまったくないと考えられる。その他の有効性および潜在的な安全性に関しては、中〜非常に低い確実性のエビデンスとなっていた。現在利用可能なデータでは、包括的なサブグループ解析を行うことはできなかった。非定型抗精神病薬による介入の有効性および安全性を十分な確実性をもってバランスを取るためには、より大規模なサンプルによる新たなRCTが必要である。とくに成人ASDを対象とした研究が求められる。また、研究著者は、対象集団と介入の特性を透明化し、可能な場合には患者別、個別のデータを提供する必要があり、さらにデータの統合プロセスにおける問題を回避するためにも、各アウトカムについての一貫した測定方法を確立する必要がある」と結論付けている。

(鷹野 敦夫)