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睡眠不足の看護師は感染症に罹患しやすい

 夜間勤務(以下、夜勤)の影響で睡眠不足を感じている看護師は、風邪やその他の感染症への罹患リスクの高いことが新たな研究で明らかになった。研究グループは、「シフト勤務が睡眠の質に与える影響が看護師の免疫系に打撃を与え、感染症にかかりやすくさせている可能性がある」と述べている。Haukeland大学病院(ノルウェー)睡眠障害コンピテンスセンターのSiri Waage氏らによるこの研究結果は、「Chronobiology International」に3月9日掲載された。 この研究は、ノルウェーの看護師1,335人(女性90.4%、平均年齢41.9歳)を対象に、睡眠時間、睡眠負債、およびシフト勤務の特徴と自己報告による感染症の罹患頻度との関連を検討したもの。これらの看護師は、過去3カ月間における睡眠時間、睡眠負債、シフト勤務、および感染症(風邪、肺炎/気管支炎、副鼻腔炎、消化器感染症、泌尿器感染症)の罹患頻度について報告していた。 その結果、睡眠負債(1〜120分、または2時間超)が多いほど感染症の罹患リスクは上昇することが明らかになった。睡眠負債がない人と比べた睡眠負債がある人での感染症罹患の調整オッズ比は、睡眠負債が1〜120分、2時間超の順に、風邪で1.33(95%信頼区間1.00〜1.78)と2.32(同1.30〜4.13)、肺炎/気管支炎で2.29(同1.07~4.90)と3.88(同1.44~10.47)、副鼻腔炎で2.08(同1.22~3.54)と2.58(同1.19~5.59)、消化器感染症で1.45(同1.00~2.11)と2.45(同1.39~4.31)であった。 また、夜勤の有無や頻度(0回の場合と比べて1〜20回の場合)は、風邪のリスク増加と関連していた。風邪の調整オッズ比は、夜勤がない場合と比べてある場合では1.28(95%信頼区間1.00〜1.64)、夜勤が0回の場合と比べて1〜20回の場合では1.49(同1.08〜2.06)であった。一方、睡眠時間やクイックリターン(休息間隔が11時間未満)と感染症罹患との間に関連は認められなかった。 Waage氏は、「睡眠負債や、夜勤を含む不規則なシフトパターンは、看護師の免疫力を弱めるだけでなく、質の高い患者ケアを提供する能力にも影響を及ぼす可能性がある」と「Chronobiology International」の発行元であるTaylor & Francis社のニュースリリースの中で指摘している。 研究グループは、病院や医療システムは看護師が十分な睡眠を取れるようにすることで、患者により良いケアを提供できる可能性があると述べている。論文の共著者であるHaukeland大学病院のStale Pallesen氏は、「夜勤の連続勤務を制限し、シフト間に十分な回復時間を確保するなど、シフトパターンを最適化することで、看護師は恩恵を受けることができる」とニュースリリースで話している。同氏はさらに、「免疫系が正常に機能するには睡眠が重要であることに対する医療従事者の認識を高めるとともに、定期的な健康診断とワクチン接種を奨励することも役立つ可能性がある」と付言している。

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軽度認知障害の再考:MCIの時期までにやっておくべきこと【外来で役立つ!認知症Topics】第28回

MCIの現代的な意義誰しも加齢とともに物忘れをしやすくなるから、どこまでが生理現象でどこからが認知症なのかという問いは、ずっと以前からある。1962年にV. A. Kralが提唱した「良性健忘」と「悪性健忘」という概念は、このような疑問への初期の回答としてよく知られている。この後、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)が1990年代からRonald C. Petersenの定義を軸に着実に世界に浸透した。このMCIとは「認知症とはいえないが、記憶が悪くて日常生活に多少の障害があるのだが、なんとか自立しているレベル」を意味する。MCIの意義は、アルツハイマー病(AD)の早期発見と、当事者およびその介護者が将来への生活設計をする起点にあったと思う。またこの頃からADの新薬開発が加速し始め、そのターゲットとしてMCIが注目されるようになった。そして新薬はADになってからでは遅いとされ、このMCIが新薬の主たるターゲットになってきた。そしてレカネマブやドナネマブの登場により、MCIの意義が確かになった。とはいえ、従来のAD治療薬の効果が「天井から目薬」なら、筆者の実感ではこれらの薬の効果は「50センチ上から目薬」である。だから残念ながら、「早期発見」と「生活設計」が持つ意義は廃っていない。10年間で日本のMCIが1.4倍も増加さてMCI の予後に関しては、メタアナリシスで、4年で半分の人が認知症に進行することがほぼ定着している。一方で26%の人が、正常に戻ることも報告されている。わが国の認知症・MCIの疫学調査1)は、2012年と2022年に行われている。両時点の高齢者人口は3,079万人と3,603万人である。その結果概要として、認知症が462万人から443万に減少している。ところがMCIは400万人から559万人と、1.4倍も増加しているのである。画像を拡大する図. 認知症および軽度認知障害の有病率の推移(資料1より)この背景について、2つの私的推察をしてみた。まず前向きに捉えると、近年の欧米の報告と同様に、血管要因をはじめとする認知症の危険因子へ対応する人が増えてきたので認知症にはならずに、MCIでとどまる人が増えた可能性がある。つまり従来のMCI者は「4年で」半数が認知症になったのが、「5年、6年で」と変わったのかもしれない。反対も考えられる。2012年時点で認知症者の8割は80歳以上であった。Lancet誌のメタアナリシス2)によれば、認知症者は診断確定後の平均余命は5年前後である。すると2012~22年の10年間に2012年当時の認知症者の少なからぬ者が亡くなった可能性が高い。そうした死亡者数が新たに認知症になった人数より多かったから、2022年に認知症者は減少したのかもしれない。一方で2012~22年は、戦後のベビーブーマー世代が老年期に達し、さらに後期高齢者になった時代である。とすると、人数が多いこの世代におけるMCIの発生がMCI全体の数を増やしたとしても不思議でない。「太陽と死は直視できない」――エンディングノートを書けない理由ところで以前、本連載に「未来への連絡帳」くらいには言い換えて欲しいと書いたように「エンディングノート」の名は気を滅入らせる。リビングウィルに詳しい人と、その記述とMCIの関係を話し合ったことがある。エンディングノートは近年の隠れたベストセラーで、とくに敬老の日の前後は、多くの書店で山積みにされる。多くの人はこれを買っても最後まで書けないから、毎年9月になるとその売り上げは急増するのでベストセラーであり続ける由。ところでエンディングノートの難所は、介護の場、終末期医療、財産相続、そして葬儀関連の4つにあるそうだ。そしてなぜ書けないか?の「あるあるの理由」も知られる。「介護の場」では、在宅(家族)介護から施設介護にシフトすべき基準がわからないが最多だそうだ。「終末期医療」では延命治療の基本的なことも知らないし、子供たちに負担をかけたくないこと。財産相続では、子供たちが「争族」になったら困るので、財産の分け方を決めかねること。そして「葬儀関連」では、死に対する心理的抵抗が強くて考えられないとの由。要は「太陽と(自分の)死は直視できない」(ラ・ロシュフコー)ということか? だから「まあ何とかなるだろう。子供たちがどうにかやってくれるだろう」が多数派となる。「未来への連絡帳」に書き込めるのはMCIの時期までしかし認知症臨床の場では、当事者がターミナルに至った時に、また亡くなった後に、皆が困る事態に至る例が少なくない。エンディングノート(未来への連絡帳)を完成させるには、意思能力や合理的な判断能力が必要である。平たく言えば、精神活動の3要素とされる「知情意」(知は知能、情は情操、意は意志)がそろって健全でなくてはならない。しかし加齢と共に知のみならず、情・意のほころびも多くの人に忍び寄ってくる。「情」なら、腹立ち・イライラしやすくなる、お追従に弱くなりがちだ。「意」では、三日坊主、面倒臭いからやめておこう、といった具合である。私的な経験ながら、健全な情意の維持は、MCI期に至ると怪しくなると思う。だから「未来への連絡帳」に書き込めるのはMCIの時期までと意識したい。筆者自身も筆が止まる箇所がある。全部でなく「書けることは書いておく」だけでもいい。また書けない事項については、なぜそうかの箇条書きがあるだけでも、後に思いがけず役立つかもしれない。参考1)厚生労働省.認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計. 2)Liang CS, et al. Mortality rates in Alzheimer's disease and non-Alzheimer's dementias: a systematic review and meta-analysis. Lancet Healthy Longev. 2021;2:e479-e488.

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高齢者の治療抵抗性うつ病に対して最も効果的な治療は?〜メタ解析

 高齢者のうつ病は、十分に治療されていないことがある。2011年の高齢者治療抵抗性うつ病(TRD)の治療に関するシステマティックレビューでは、プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)が1件のみ特定された。英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のAlice Jane Larsen氏らは、高齢者のTRD治療に対する有効性に関するエビデンスを統合し、更新レビューを行うため、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。BMJ Mental Health誌2025年3月3日号の報告。 対象研究は、55歳以上のTRD患者に対する治療を調査したRCT。治療抵抗性の定義は、1回以上の治療失敗とした。2011年1月9日〜2023年12月10日(2024年1月7日に検索を更新)に公表された研究を、電子データベース(PubMed、Cochrane、Web of Science)よりシステマティックに検索した。メタ解析により、寛解率を評価した。バイアスリスクの評価には、Cochrane Risk of Bias(RoB)2ツールを用いた。エビデンスの評価には、GRADE(Grading of Recommendations Assessment, Development, and Evaluation)基準を用いた。 主な結果は以下のとおり。・14研究、1,196例(平均年齢:65.0歳、男性:548例、女性:648例)が包括基準を満たした。・10研究はプラセボ対照試験であり、4研究は低RoBであった。・介入群の寛解割合は0.35(17アーム、95%信頼区間[CI]:0.26〜0.45)。・対照群と比較し、介入群の寛解の可能性は高かった(9研究、OR:2.42、95%CI:1.49〜3.92)。・対照群と比較し、寛解率が良好であった治療は、ケタミンが優れており(3研究、OR:2.91、95%CI:1.11〜7.65)、経頭蓋磁気刺激(TMS)はその傾向がみられた(3研究、OR:1.99、95%CI:0.71〜5.61)。単一のプラセボ対照研究では、セレギリン、アリピプラゾール増強療法、薬理遺伝学的介入(PGP)、認知機能リハビリテーション介入の有用性が認められた。 著者らは「高齢者TRD患者の寛解率向上に対する治療として、ケタミン治療およびアリピプラゾール増強療法が有効であるとする弱いエビデンスとTMS、PGP、認知機能リハビリテーションが有効であるとする非常に弱いエビデンスが特定された。日常的に使用される抗うつ薬や心理社会的介入に関するエビデンスの欠如は問題であり、臨床医は、若年層からのエビデンスを拡大することが求められる」と結論付けている。

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高感度CRP、心不全の悪化予測に有用か/日本循環器学会

 日本人の高齢化に伴い、国内での心血管疾患(CVD)の発生が増加傾向にある。このCVD発生には全身性の炎症マーカーである高感度C反応性蛋白(hsCRP)の上昇が関連しており、これが将来の心血管イベントの発症予測にも有用とされている。しかし、その関連性は主に西洋人集団で研究されており1)、日本人でのデータは乏しい状況にある。そこで今回、小室 一成氏(国際医療福祉大学 副学長/東京大学大学院医学系研究科 先端循環器医科学講座 特任教授)が日本人集団における全身性炎症と心血管リスクの関係を評価し、3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Cohort Studies1において発表した。 本研究は、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)および心不全(HF)患者における全身性炎症に関連する長期健康アウトカム、ならびに医療費や医療資源の利活用にも注目してその特徴などを調査した観察研究である。メディカル・データ・ビジョンのデータベースの約5,000万例2)を基に、2008~23年にASCVDまたはHFと診断された18歳以上で、ASCVDまたはHF患者と診断され、hsCRP測定が適格と判断された約360万例を解析。主要評価項目は主要心血管イベント(MACE)とHF複合累積罹患率であった。 主な結果は以下のとおり。・ASCVDを有する患者集団をコホート1(10万7,807例)、HFを有する患者集団をコホート2(7万1,291例)とし、各コホートの患者をhsCRPで3群(正常低値:0.1mg/dL未満、正常高値:0.1~0.2mg/dL未満、高値:0.2~1.0mg/dL)に分類した。 ・コホート1について、hsCRPの上昇と関連する因子を特定するためにステップワイズ法を用いたロジスティクス回帰分析を実施したところ、高値群の患者特性として、男性、高齢、認知症、2型糖尿病、CKDなどがみられた。 ・コホート2も同様に解析したところ、脳卒中の既往歴を有する患者割合がコホート1よりも少ない一方で、高血圧症は約75%超の患者でみられ、COPD、2型糖尿病、心房細動、認知症と続いた。 ・HF複合累積罹患率として5年発症リスクを各群で分析したところ、正常低値群は17.6人年、正常高値群は24.0人年(調整ハザード比[HR]:1.31、95%信頼区間[CI]:1.25~1.38、p<0.0001)、高値群は27.3人年(HR:1.37、95%CI:1.32~1.44、p<0.0001)だった。 ・HF複合累積罹患率から各群の入院や全死亡を見ると、hsCRPが高くなるほどいずれも発生率が上昇した。 最後に小室氏は「本結果より、日本人のCVD患者の35%以上がhsCRP高値であった。とくに男性、高齢者、およびCKD、COPD、2型糖尿病、認知症などの特定の併存疾患が、両コホートにおいてhsCRP高値と関連していた。また、MACEやHF複合累積罹患率に影響することが明らかになったことから、炎症がASCVDだけでなくHFの悪化にも寄与する可能性が示唆された。この状態あるいは疾患における炎症関連の有害事象が、何らかの共通メカニズムを介しているのか、それともいくつかの異なるメカニズムによって引き起こされているのかは、今後の検討課題である」と締めくくった。(ケアネット 土井 舞子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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死亡リスクの高いPAH患者に対するsotaterceptの有効性/NEJM

 最大耐量の基礎療法を受けている死亡リスクの高い肺動脈性肺高血圧症(PAH)患者において、sotaterceptの上乗せはプラセボと比較し、全死因死亡、肺移植またはPAH悪化による24時間以上の入院の複合リスクを低下させることが、フランス・パリ・サクレー大学のMarc Humbert氏らによる第III相多施設共同無作為化二重盲検プラセボ対照比較試験「ZENITH試験」の結果で示された。sotaterceptは、世界保健機関(WHO)機能分類クラスIIまたはIIIのPAH患者の運動耐容能を改善し、臨床的悪化までの時間を遅らせるが、進行したPAHで死亡リスクの高い患者に対するsotaterceptの追加投与の有効性は不明であった。NEJM誌オンライン版2025年3月31日号掲載の報告。基礎療法へのsotatercept追加投与の有効性をプラセボと比較検証 研究グループは、安定した最大耐量のPAH基礎療法を受けているWHO機能分類IIIまたはIVのPAH成人患者で、REVEAL Lite 2リスクスコアが9以上、無作為化前6週間以内の肺血管抵抗が5 Wood単位(400 dyne・秒・cm-5)以上、肺動脈楔入圧または左室拡張末期圧が15mmHg以下の患者を、sotatercept群(3週間ごとに皮下投与、開始用量0.3mg/kg、0.7mg/kgまで増量)またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付け、それぞれ基礎療法に加えて投与した。 主要エンドポイントは、全死因死亡、肺移植またはPAH悪化による24時間以上の入院の複合とし、time-to-first-event解析で評価した。sotatercept追加で、複合リスクが有意に低下 2021年12月1日に登録が開始された。255例がスクリーニングを受け、172例がITT集団に組み入れられた(sotatercept群86例、プラセボ群86例)。本試験は、事前に規定された中間解析(データカットオフ日2024年7月26日)の有効性結果に基づき、早期に中止となった。 主要エンドポイントのイベントは、sotatercept群で15例(17.4%)、プラセボ群で47例(54.7%)に発生し、ハザード比は0.24(95%信頼区間:0.13~0.43、p<0.001)であった。 全死因死亡はsotatercept群7例(8.1%)、プラセボ群13例(15.1%)、肺移植はそれぞれ1例(1.2%)、6例(7.0%)、PAH悪化による入院8例(9.3%)、43例(50.0%)であった。 sotatercept群の主な有害事象は、鼻出血と毛細血管拡張症であった。

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大腸がん死亡率への効果、1回の大腸内視鏡検査vs.2年ごとの便潜血検査/Lancet

 大腸がん検診への参加率は、大腸内視鏡検査より免疫学的便潜血検査(FIT)のほうが高く、大腸がん関連死亡率について、本研究で観察された参加率に基づくとFITベースのプログラムは大腸内視鏡検査ベースのプログラムに対し非劣性であることが確認された。スペイン・バルセロナ大学のAntoni Castells氏らCOLONPREV study investigatorsが、スペインの8地域における3次医療機関15施設で実施したプラグマティックな無作為化比較非劣性試験「COLONPREV試験」の結果を報告した。大腸内視鏡検査とFITは、平均的なリスク集団(大腸がんの既往歴または家族歴のない50歳以上の人々)における一般的な大腸がんスクリーニング戦略である。中間解析でも、FIT群は大腸内視鏡検査群よりスクリーニング参加率が高いことが示されていた。Lancet誌オンライン版2025年3月27日号掲載の報告。10年時大腸がん死亡率を比較検証 研究グループが適格としたのは、大腸がん、腺腫、炎症性腸疾患の既往歴、遺伝性または家族性大腸がんの家族歴(第1度近親者が2人以上大腸がんと診断、または1人が60歳未満で大腸がんと診断)、重度の合併症、あるいは結腸切除術の既往歴がない、50~69歳の健康と推定される人であった。適格者はスクリーニングへの招待前に、1回の大腸内視鏡検査群、または2年ごとのFIT群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、10年時大腸がん死亡率、重要な副次エンドポイントは10年時大腸がん発生率などで、intention-to-screen集団で評価した。非劣性マージンは絶対差0.16%ポイント未満とした。10年時大腸がん死亡率FIT群0.24%、大腸内視鏡検査群0.22%で、FITは非劣性 2009年6月1日~2021年12月31日に、5万7,404例が大腸内視鏡検査群(2万8,708例)またはFIT群(2万8,696例)に無作為化された。intention-to-screen集団は、大腸内視鏡検査群が2万6,332例、FIT群が2万6,719例であった。intention-to-screen集団における何らかのスクリーニングへの参加率は、大腸内視鏡検査群31.8%、FIT群39.9%であった(リスク比:0.79、95%信頼区間[CI]:0.77~0.82)。 10年時大腸がん死亡リスクに関して、FITの大腸内視鏡検査に対する非劣性が認められた。大腸内視鏡検査群では0.22%(死亡55例)、FIT群では0.24%(死亡60例)であり、リスク差は-0.02(95%CI:-0.10~0.06)、リスク比は0.92(95%CI:0.64~1.32)であった(非劣性のp=0.0005)。

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鼻の軟骨で膝の損傷を修復できる可能性

 ランニングやスキーなどスポーツをしているときの転倒により生じた膝の損傷は、選手が一線から退かざるを得なくするだけでなく、将来的に関節炎のリスクを高める可能性がある。しかし新たな研究で、そのような転倒で損傷することはほとんどない鼻が、膝修復の鍵になる可能性を示唆する研究結果が報告された。研究グループは、鼻の中で左右の気道を隔てる壁となっている鼻中隔軟骨から作られた人工軟骨を、最も複雑な膝の損傷の修復にも使用できるとしている。バーゼル大学(スイス)生物医学部長のIvan Martin氏らによるこの研究の詳細は、「Science Translational Medicine」に3月5日掲載された。 膝の損傷した軟骨は自然治癒しないため、活動的な人に長期的な問題を引き起こす可能性がある。軟骨は骨と骨の間でクッションの役割を果たしており、軟骨の喪失は最終的に関節炎を引き起こす。Martin氏らが開発した膝の修復プロセスは、患者の鼻中隔の小さな断片から採取した軟骨細胞を柔らかい繊維でできた足場上で培養する。その後、新たにできた軟骨を必要な形に切断し、膝関節に移植するというもの。初期の研究では有望な結果が示されていた。Martin氏は、「鼻中隔軟骨細胞は、軟骨の再生に理想的な特性を持っている」とバーゼル大学のニュースリリースの中で述べている。例えば、鼻中隔軟骨細胞は関節の炎症を抑えることが示されているという。 今回の第2相臨床試験は、4カ国、5カ所のクリニックの膝軟骨全層欠損患者108人(30〜46歳)を対象に実施された。対象者は、実験室で2日間だけ培養した未成熟の軟骨を移植する群と、2週間かけて成熟させた軟骨を移植する群にランダムに割り付けられた。主要評価項目は、手術後24カ月時点の膝損傷と変形性関節症の転帰スコア(Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score;KOOS)とした。KOOSは0〜100点で算出され、スコアが高いほど膝の状態が良いことを意味する。 その結果、いずれの方法でも移植手術を受けた患者には明らかな改善が認められた。ただ、より長い期間をかけて成熟させた軟骨が移植された群の方が、未成熟の軟骨を移植された群よりも膝の状態は良好であり、24カ月時点のKOOSは、前者で85点、後者で79点であった。MRI検査からは、成熟期間が長かった軟骨移植片は、より良好な移植部位の組織構成をもたらすだけでなく、周囲の元からある軟骨にも良い影響を与えることが確認された。 研究グループのリーダーでバーゼル大学のAndrea Barbero氏は、「損傷が大きい患者が成熟期間の長い軟骨の移植によって効果を得られるという点は注目に値する」と同大学のニュースリリースの中で述べている。Barbero氏はまた、他の技術を用いた軟骨の治療が奏効しなかったケースにもこの方法は有効だとしている。 研究グループは今後、膝の軟骨の変性によって起こる変形性膝関節症に対するこの治療法の有効性を検証する予定である。「試験により有効性が裏付けられれば、この治療法が人工膝関節置換術の代替となり得る」と研究グループは話している。

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第6回 アルツハイマー病遠隔診療の可能性と落とし穴

米国の大手製薬企業イーライリリー(以下、リリー)が、アルツハイマー病患者を遠隔診療の医師につなぐ新たな取り組みを始めたことが報じられました1)。これは、従来から糖尿病や肥満などの疾患を対象にリリーが提供してきた患者向けプラットフォーム「LillyDirect」の一環として行われるもので、同社が販売している薬の服用機会を促すD to C(Direct-to-Consumer)のアプローチともいえます。ただし、今回のアルツハイマー病の場合には、実際に点滴を行う医療機関に患者を紹介する形をとっていて、患者本人がウェブ上で直接処方薬を購入する仕組みにはなっていません。しかし、リリーがアルツハイマー病の新薬ドナネマブをはじめとする治療薬を持つことから、患者との接点を増やし、診断から治療への流れを後押しする目的があるとみられています。この新しい取り組みでは、患者がアルツハイマー病専門の神経内科医に遠隔で診断を受けられる体制が注目されています。とくに地方や遠隔地に住む高齢者にとっては、通院負担の軽減というメリットが考えられる一方、老年科専門医の視点からは複数の懸念もあります。以下に、その要点を整理していきます。遠隔診療での早期診断と治療選択の可能性今回リリーが提携したのは、遠隔で神経内科医とつなぎ、必要に応じて脳の画像検査(MRIやPETなど)の手配、さらに点滴治療が可能な医療機関を紹介する企業「Synapticure」です。昨今早期診断が重視されるアルツハイマー病において、専門医が不足する地域でも、患者が遠隔で診療にアクセスできることは一定の意義があるでしょう。とくに新規抗アミロイド薬(脳内アミロイド斑を標的とする薬剤)は、早期の患者さんでの効果が示唆されていて、こうした治療機会に迅速につなげる意義は、否定はできません。また、Synapticure側も「遠隔診療での認知機能評価」「遺伝子検査(APOE4の有無など)」「点滴センターの紹介」を一元的にサポートすることを強調していて、患者家族の負担軽減や、専門医へのアクセスが困難な地域の課題解決を目指しています。すでに糖尿病や肥満などの領域で同プラットフォームが実績を積んでいることもあり、技術的な面や運用面での利便性が高いと期待されています。老年科専門医から見た遠隔診療の懸念一方、老年科専門医の立場からは、このニュースに関連していくつかの懸念を指摘できます。1)診断の複雑さまず、アルツハイマー病の診断には、長時間にわたる問診や認知機能検査、家族からの聞き取り、脳の画像検査、血液検査など多角的なアプローチが求められます。とりわけ高齢者の場合、合併症(心不全や腎機能低下、うつ病など)が認知機能に影響を与えることもあり、短時間のオンライン診療だけでは十分な評価が難しい場合が多いと思います。そのような点はどうカバーされるのでしょうか。遠隔でも専門医が対応するとはいえ、実際に対面での総合的な評価が必要になる場面は多いのではないかと考えられます。2)治療薬のリスク管理リリーを含め最近承認された抗アミロイド薬には、脳浮腫や脳出血などの副作用リスクが指摘されています。とくにAPOE4という遺伝子を持つ患者ではリスクが高まる可能性があり、投与後の定期的なMRIによるモニタリングや症状観察が欠かせません。遠隔診療で治療を開始する流れが加速すると、十分な副作用管理体制が整わないまま投薬が行われる懸念があります。3)利害関係の不透明さ患者がリリーの運営するプラットフォームを通じて専門医にアクセスし、最終的にリリーの薬を使用する流れが生じると、患者側としては「その治療選択が本当に中立的なのか」不安を覚えるかもしれません。会社側は「処方行為に対するインセンティブはない」と説明していますが、遠隔診療業者にとって製薬企業との連携が宣伝効果を高める構造的インセンティブが否定できない以上、処方バイアスのリスクはないとは言えないでしょう。これは大きな懸念点です。4)緊急対応や長期フォローの問題アルツハイマー病は長期的な経過観察が重要で、緊急時には認知症状以外の内科的問題や精神行動症状への対処も必要となります。遠隔で専門医にアクセスできるメリットはあるものの、高齢者の多様な問題に総合的に対応するには地域の医療・介護リソースとの連携が欠かせません。こうしたフォローアップの体制が不十分なまま遠隔診療が進むと、患者・家族の緊急時の混乱を増やす恐れもあります。今後の展開に注視をリリーの取り組みは、アルツハイマー病の早期発見・早期治療を支援するという一定の意義がある一方で、「複雑な認知症診療をどこまでオンラインでカバーできるか」「薬剤のリスク管理は十分か」「利益相反の透明性をどう担保するか」といった懸念もあります。遠隔医療の普及は、地域格差の是正や受診機会の拡大に貢献する期待がある反面、高齢者の多面的な健康問題や治療のリスクを考慮すると、そのリスクにもしっかりと目を向ける必要があるでしょうし、対面診療とのハイブリッド型のフォロー体制が不可欠でしょう。まして当該薬の効果が劇的なものではないと知られている中、ただ製薬会社や遠隔診療企業が利益を得るための過剰治療が行われるような構図にならないことを願うばかりです。また、こうした構図は将来的に日本でも構築される可能性があり、そうした意味でも注視していくべきプラットフォームではないかと思います。参考文献・参考サイト1)Chen E, et al. In a first, Eli Lilly to connect patients to telehealth providers of Alzheimer’s care. STAT. 2025 Mar 27.

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神経発達障害を併発する強迫症に関与する免疫学的メカニズム

 強迫症(OCD)は、有病率が2〜3%といわれている精神疾患である。OCD治療では、セロトニン再取り込み阻害薬などの抗うつ薬の有効性が示されているが、病因は依然としてよくわかっていない。最近の研究では、とくに自閉スペクトラム症、注意欠如多動症、トゥレット症などの神経発達障害を併発したOCD患者では、免疫学的メカニズムの関与が示唆されている。兵庫医科大学の櫻井 正彦氏らは、これらのメカニズムを明らかにするため、神経発達障害を併発したOCD患者と併発していないOCD患者における免疫学的因子を調査した。Psychiatric Research誌2025年4月号の報告。 対象は、兵庫医科大学病院で治療したOCD患者28例。神経発達障害を併発したOCD患者(OCD+NDD群)14例と併発していないOCD患者(OCD群)14例との比較を行った。血液サンプルからRNAを抽出し、RNAシーケンシングおよびIngenuity Pathway Analysis(IPA)を用いて分析した。IL11およびIL17Aの血漿レベルの測定には、ELISAを用いた。 主な結果は以下のとおり。・RNAシーケンシングでは、OCD+NDD群とOCD群との比較において、有意に異なる遺伝子が716個特定され、そのうち47個は免疫機能と関連していた。・IL11およびIL17Aが中心であり、IL11は好中球産生、IL17AはT細胞の遊走やサイトカイン分泌と関連が認められた。・パスウェイ解析では、これらの遺伝子間の複雑な相互作用が確認された。 著者らは「本結果は、神経発達障害を伴うOCD患者における免疫学的変化の重要性を示している。抗炎症性のIL11の減少、炎症誘発性のIL17Aの増加は、炎症へのシフトを示唆しており、神経発達の問題と関連していると考えられる」としたうえで、「神経発達障害を伴うOCDにおける免疫学的異常は、潜在的な治療ターゲットとなる可能性がある。治療抵抗性OCD患者、とくに神経発達障害を合併する患者に対する治療戦略を改善するためにも、免疫学的遺伝子の相互作用をさらに調査する必要がある」と結論付けている。

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「胃癌治療ガイドライン」改訂のポイント~薬物療法編~/日本胃癌学会

 2025年3月、「胃癌治療ガイドライン」(日本胃癌学会編)が改訂された。2021年から4年ぶりの改訂で、第7版となる。3月12~14日に行われた第97回日本胃癌学会では、「胃癌治療ガイドライン第7版 改訂のポイント」と題したシンポジウムが開催され、外科治療、内視鏡治療、薬物療法の3つのパートに分け、改訂ポイントが解説された。改訂点の多かった外科療法と薬物療法の主な改訂ポイントを2回に分けて紹介する。本稿では薬物療法に関する主な改訂点を取り上げる。「外科治療編」はこちら【薬物療法の改訂ポイント】原 浩樹氏(埼玉県立がんセンター 消化器内科) 内科系(薬物療法)については非常に多くの改訂があった。多くはガイドラインを一読すれば理解いただけると思うが、多くの方が関心を持っているであろうMSI、CPS、CLDN18、HER2といったバイオマーカーとそれに基づく治療選択と、今後避けて通れない高齢者診療に関する新たな推奨に絞って、改訂ポイントを紹介する。CQ12 切除不能進行・再発胃癌に対する一次化学療法CQ12 HER2陰性の切除不能進行・再発胃癌の一次治療において免疫チェックポイント阻害剤は推奨されるか?・HER2 陰性の切除不能な進行・再発胃癌/食道胃接合部癌において、一次治療として、化学療法+免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)併用療法を行うことを強く推奨する。バイオマーカー(PD-L1[CPS]、MSI/MMR、CLDN18)や患者の全身状態を考慮する。(合意率100%、エビデンスの強さA)CQ13 切除不能進行・再発胃癌におけるバイオマーカーCQ13-1 バイオマーカーに基づいて一次治療を選択することは推奨されるか?・切除不能進行・再発胃癌患者に対し、バイオマーカーに基づいて一次治療を選択することを強く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さA) HER2陰性切除不能進行・再発胃癌の一次治療として、「推奨される化学療法レジメン」として新たに承認された抗CLDN18.2抗体のゾルベツキシマブ、チェックポイント阻害薬(ICI)のニボルマブ・ペムブロリズマブ、それぞれの化学療法との併用レジメンが追加された。「条件付きで推奨される化学療法レジメン」としてはSOX+ペムブロリズマブが追加となった。各レジメンの推奨根拠となった試験を紹介する。・ニボルマブ+化学療法/CheckMate 649PD-L1 CPS≧5の患者群における全生存期間(OS)中央値は、ニボルマブ+化学療法群で14.4ヵ月、化学療法単独群で11.1ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.71であった。CPS≧1集団、全体集団でも改善傾向は見られたものの効果は低減する傾向だった。一方、MSI-H症例では強いOS延長効果が確認され、HRは0.34だった。ただし、MSI-Hは全体の3~4%という希少な集団である一方で、CPS<5の集団にもMSI-H症例が隠れていることに留意が必要だ。・ペムブロリズマブ+化学療法/KEYNOTE-859CPS≧1、CPS≧10、全体集団いずれにおいてもOSの有意な改善が示された。CheckMate 649試験と同様に、CPS値が高いほどHRが改善する傾向が見られた。CPS高値例にICIの効果が高いことは明らかだが、カットオフ値をどこに定めるべきかについては、引き続き議論が必要だろう。・ゾルベツキシマブ+化学療法/SPOTLIGHT・GLOW 両試験とも、ゾルベツキシマブ+化学療法群(mFOLFOX6またはCAPOX)は、主要評価項目である無増悪生存期間および重要な副次評価項目であるOSに対し統計的に有意な延長を示した。 昨年、日本胃癌学会から「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き」1)が発表された。この手引きでは一次薬物療法開始前に4つのバイオマーカー(HER2、PD-L1、MSI、CLDN18)をすべて測定することを強く推奨している。ただし、施設の状況や患者の状態によっては、すべての検査が実施できない場合もあるだろう。そうした場合は、一次療法開始に不可欠なバイオマーカーであるHER2とCLDN18検査を優先して実施することが推奨される。 HER2陰性の推奨レジメンは、CLDN18陽性の場合は6つ、陰性の場合は4つあり、この使い分けが論点となっている。ガイドライン作成委員会の中で一番議論となったのがHER2陰性+CLDN18陽性のケースだ。CPS<1では抗PD-1抗体による生存延長効果がほとんどないことを考慮すると、 ・CPS<1:ゾルベツキシマブを優先 ・CPS≧1:ゾルベツキシマブおよびICI2剤のいずれも選択肢と考えられる。ここからは私見になるが、CPS≧10はICI優先、1≦CPS<10はゾルベツキシマブがやや優先かと考えている。実臨床においてはバイオマーカーのみならず、年齢、PS、全身状態、患者希望などを総合的に考慮したうえで、治療方針を決定することになる。CQ10 高齢者CQ10-2 全身化学療法の適応を決める際に、年齢を考慮することは推奨されるか?・高齢の切除不能進行・再発胃癌症例では、患者の全身状態や意欲を慎重に評価したうえで、患者本人が状態良好(fit)かつ意思決定能力を有し治療意欲があれば、化学療法を計画するときに年齢を考慮することを弱く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さB) 日本の胃がん患者の85%が65歳以上という現状があるが、主要な臨床試験における65歳以上の参加者は3分の1程度である。一方、「一般的な若年者と同じ標準治療を受けることは難しいが、何らかの治療は受けられる」という「vulnerable」という多数派層が存在し、この層に向けた治療戦略が必要だ。この層を対象に減量投与の非劣性を報告する試験や、高齢者の状態を評価する「G8」スコア別に薬剤の有用性を評価する試験など、エビデンスも集積しつつある。高齢者の化学療法においては減量や薬剤選択による投与継続をはじめ、適切な個別化戦略が一層重要となる。

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「心不全診療ガイドライン」全面改訂、定義や診断・評価の変更点とは/日本循環器学会

 日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドラインである『2025年改訂版 心不全診療ガイドライン』が、2025年3月28日にオンライン上で公開された1)。2018年に『急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)』が発刊され、2021年にはフォーカスアップデート版が出された。今回は国内外の最新のエビデンスを反映し、7年ぶりの全面改訂となる。2025年3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会にて、本ガイドライン(GL)の合同研究班員である北井 豪氏(国立循環器病研究センター 心不全・移植部門 心不全部)が、GL改訂の要点を解説した。 本GLの改訂に当たって、高齢化の進行を考慮した高齢者心不全診療の課題や特異性に注目し、最新の知見・エビデンスを盛り込んで、実臨床に即した推奨が行われた。専門医だけでなく、一般医やすべての医療従事者に理解しやすく、実践的な内容とするため、図表を充実することが重視されている。また、エビデンスが十分ではない領域も、臨床上重要な課題や実際の診療に役立つ内容は積極的に取り上げられている。本GLは全16章で構成され、最後に3つのクリニカルクエスチョン(CQ)が記載された。本GLはオンライン版のほか、アプリ版も発表されている。また、本GLの英語版が、Circulation Journal誌とJournal of Cardiac Failure誌に同時掲載された2,3)。 北井氏が解説した重要な改訂点は以下のとおり。心不全の定義 日米欧の心不全学会3学会合同で策定された「Universal definition and classification of heart failure(UD)」4)に基づき、「心不全とは、心臓の構造・機能的な異常により、うっ血や心内圧上昇、およびあるいは心拍出量低下や組織低灌流をきたし、呼吸困難、浮腫、倦怠感などの症状や運動耐容能低下を呈する症候群」と定義が改訂された。心不全症状・徴候は、「ナトリウム利尿ペプチド(BNP/NT-proBNP)の上昇」あるいは「心臓由来の肺うっ血または体うっ血の客観的所見」のいずれかによって裏付けられるとしている。診断と経時的評価:BNP/NT-proBNPカットオフ値 心不全診断のプロセスがフローチャートで表示された。症状、身体所見、一般検査に加えて、「ナトリウム利尿ペプチド(BNP/NT-proBNP)」と「心エコー」が診断の中心となっている。身体所見としてのうっ血や、バイオマーカーが重要視され、診断だけでなく予後評価目的でも、BNP/NT-proBNPを測定することが推奨されている。BNP/NT-proBNPのカットオフ値は、2023年に日本心不全学会から発表されたステートメント5)に準拠し、以下のように設定された。・前心不全―心不全の可能性がある、外来でのカットオフ値BNP≧35pg/mLNT-proBNP≧125pg/mL・心不全の可能性が高い、入院/心不全増悪時のカットオフ値BNP≧100pg/mLNT-proBNP≧300pg/mL左室駆出率(LVEF)による分類 UDを参考に、左室駆出率(LVEF)による心不全の分類が、国際的な基準に合わせて統一された。・HFrEF(LVEFの低下した心不全):LVEF≦40%・HFmrEF(LVEFの軽度低下した心不全):LVEF 41~49%・HFpEF(LVEFの保たれた心不全):LVEF≧50% HFmrEFについて、2021年フォーカスアップデート版では、HF with mid-range EFと記載していたが、本GLではHF with mildly-reduced EFの呼称を採用している。上記のほか、HFrEFだった患者がLVEF40%超へ改善し、LVEFが10%以上向上した場合をHFimpEF(LVEFの回復した心不全)と定義している。心不全ステージと病の軌跡 心不全の進行について、A~Dのステージに分類している。・ステージA(心不全リスクあり):高血圧、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、肥満など・ステージB(前心不全):構造的/機能的心疾患はあるが、心不全の症状や徴候がない・ステージC(症候性心不全):ナトリウム利尿ペプチド上昇、うっ血などの症状が出現・ステージD(治療抵抗性心不全):薬物療法に反応せず、補助循環や移植が必要 前GLから踏襲し「心不全ステージの治療目標と病の軌跡」の図が掲載されている。従来は病状経過に伴うQOLの悪化の軌跡のみ示されていたが、今回のGLより、治療介入することでイベントやステージ移行を遅らせる改善した場合の軌跡が加えられた。遺伝学的検査 心不全・心筋症において遺伝学的検査が近年より重視されてきている。特徴的な臨床所見等により遺伝性心疾患が疑われる場合は、診断・治療・予後予測に役立てるために、発端者に対する遺伝学的検査を考慮することが推奨クラスIIa。また、遺伝学的検査を行う際には、遺伝カウンセリングを提供する、または紹介する体制を整えることが推奨クラスI。ADL/QOL評価、リスクスコア ADL(日常生活動作)・QOL(生活の質)の向上は、予後の改善と同様に心不全患者の重要な治療目標であり、臨床試験でもアウトカムとして採用されている。日常診療でも患者報告アウトカムを評価することを考慮することや、患者の予後を示すリスクスコアを使用して予後予測を行うことが推奨に挙げられている。心不全予防(ステージA・B) ステージA(心不全リスク)において、高血圧、糖尿病、肥満、動脈硬化性疾患、冠動脈疾患に加え、本GLにて慢性腎臓病(CKD)が新たなリスク因子に加えられた。ステージAへの介入として、2型糖尿病かつCKD患者に対して、心不全発症あるいは心血管死予防のために、SGLT2阻害薬あるいはフィネレノンの使用が推奨クラスIとされた。 ステージB(前心不全)について、「構造的心疾患および左室内圧上昇のカットオフ値の目安」が表にまとめられている。ステージBへの介入として、患者の状況によりACE阻害薬、ARB、β遮断薬、スタチンといった薬剤が推奨クラスIとなっている。心不全に対する治療(ステージC・D) 2021年のフォーカスアップデート版では、HFrEFに対してQuadruple Therapy(β遮断薬、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬[MRA]、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬[ARNI]、SGLT2阻害薬)の推奨が記載され、HFmrEF、HFpEFに関してはうっ血に対する利尿薬の使用のみにとどまっていたが、本GLでは、HFmrEF、HFpEFに対する薬物治療の新たなエビデンスが反映された。薬物治療の推奨について、各薬剤、EF、推奨クラスをまとめた図「心不全治療のアルゴリズム」を掲載している。・SGLT2阻害薬:HFmrEF、HFpEFに対して2つの大規模無作為化比較試験により、予後改善効果が相次いで報告されたため、HFrEF、HFmrEF、HFpEFのいずれの患者においても、エンパグリフロジン、ダパグリフロジンを推奨クラスI。・ARNI:HFrEFに対して推奨クラスI、HFmrEFに対して推奨クラスIIa、HFpEFに対して推奨クラスIIb。 ・MRA:HFrEFに対するスピロノラクトン、エプレレノンが推奨クラスI、HFmrEFとHFpEFに対して、新たな薬剤のフィネレノンが推奨クラスIIa、スピロノラクトン、エプレレノンが推奨クラスIIb。急性非代償性心不全 UDで「うっ血」の評価が非常に重視されているため、本GLでも、うっ血、低心拍出、組織低灌流に分けて血行動態の評価・治療していくことを強調している。「急性非代償性心不全患者におけるうっ血の評価と管理のフローチャート」と推奨、「心原性ショック患者の管理に関するフローチャート」と推奨を記載している。急性心不全の治療においては、入院中の治療だけでなく、退院後のケア(移行期ケア)の重要性が増している。本GLでは、新たに移行期間に関する項目が設けられ、推奨が示されている。治療抵抗性心不全(ステージD) 治療抵抗性心不全(ステージD)では、治療開始前に治療目標を設定することが非常に重要であり、それに関連する推奨が示されている。また、2021年に本邦でも保険適用となった移植を目的としない植込型補助人工心臓(LVAD)治療(Destination therapy:DT)が、本GLに初めて収載され、DTも含めたステージDの「重症心不全における補助循環治療アルゴリズム」がフローチャートで示されている。特別な病態・疾患 心不全に関連する9つの病態・疾患が取り上げられ、最新の知見に基づいて内容がアップデートされている。とくに、以下の疾患において、新たな治療薬や診断法に関する重要な情報が追記されている。・肥大型心筋症:閉塞性肥大型心筋症に対する圧較差軽減薬マバカムテンが承認され、推奨クラスIとして記載。・心アミロイドーシス:トランスサイレチン(ATTR)心アミロイドーシスに対するTTR四量体安定化薬としてアコラミジスが新たに承認された。タファミジスまたはアコラミジスの投与は、NYHA心機能分類I/II度の患者に対しては推奨クラスI。III度の患者に対しては推奨クラスIIa。I~III度の患者に対して、低分子干渉RNA製剤ブトリシランが推奨クラスIIa。・心臓サルコイドーシス:突然死予防としての植込み型除細動器(ICD)に関する推奨が、『2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版 不整脈治療』6)に準拠して記載。併存症 心不全診療で特に問題となる併存症として、CKD、肥満、貧血・鉄欠乏、抑うつ・認知機能障害が追加された。3つの項目について、詳しく説明された。・貧血・鉄欠乏:鉄欠乏を有するHFrEF/HFmrEF患者に対する心不全症状や運動耐容能改善を目的とした静注鉄剤の使用を考慮することが推奨クラスIIa。・高カリウム血症:高カリウム血症を合併したRAAS阻害薬(ARNI/ACE阻害薬/ARBおよびMRA)服用中の心不全患者に対して、RAAS阻害薬(特にMRA)による治療最適化のために、カリウム吸着薬の使用を考慮することが推奨クラスIIa。・肥満:肥満を合併する心不全患者に対する心血管死減少・再入院予防を目的としたGLP-1受容体作動薬セマグルチドあるいはチルゼパチドの投与を考慮することが推奨クラスIIa。心不全診療における質の評価 心不全診療は非常に多岐にわたるため、心不全診療の質の評価の統一化が課題となっている。AHA/ACCのPerformance Measures(PM)やQuality Indicators(QI)を参考に、心不全診療の質の評価に関する章が新設され、質指標が表にまとめられている。クリニカルクエスチョン(CQ) 今回の改訂では、CQが3つに絞られた。システマティックレビューを行い、解説と共に推奨とエビデンスレベルが示されている。・CQ1:eGFR 30mL/分/1.73m2未満の心不全患者へのSGLT2阻害薬の投与開始は推奨されるか?推奨:CKD合併心不全患者での有益性を示唆するエビデンスは認めるが、eGFR 20mL/分/1.73m2未満のRCTでのエビデンスはない。eGFR 20mL/分/1.73m2以上に限って条件付きで推奨する(エビデンスレベル:C[弱])。・CQ2:フレイル合併心不全患者へのSGLT2阻害薬の投与開始は推奨されるか?推奨:弱く推奨する(エビデンスレベル:C[弱])。・CQ3:代償期の心不全患者に対する水分制限を推奨すべきか?推奨:1日水分摂取量1~1.5Lを目標とした水分制限を弱く推奨する(エビデンスレベル:A[弱])。■参考文献1)日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン. 2025年改訂版 心不全診療ガイドライン.2)Kitai T, et al. Circ J. 2025 Mar 28. [Epub ahead of print]3)Kitai T, et al. J Card Fail. 2025 Mar 27. [Epub ahead of print]4)Bozkurt B, Coats AJS, Tsutsui H, et al. Eur J Heart Fail. 2021;23:352-380.5)日本心不全学会. 血中BNPやNT-proBNPを用いた心不全診療に関するステートメント2023年改訂版.6)日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同ガイドライン. 2024年JCS/JHRSガイドラインフォーカスアップデート版 不整脈治療.(ケアネット 古賀 公子)そのほかのJCS2025記事はこちら

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PADを有する2型DM、セマグルチドは歩行距離を改善/Lancet

 症候性末梢動脈疾患(PAD)を有する2型糖尿病(DM)患者において、セマグルチドはプラセボと比較して歩行距離の改善が大きかったことが示された。米国・コロラド大学のMarc P. Bonaca氏らSTRIDE Trial Investigatorsが、第IIIb相二重盲検無作為化プラセボ対照試験「STRIDE試験」の結果を報告した。PADは世界中で2億3,000万人超が罹患しており、有病率は高齢化により上昇していて、2型DMを含む心代謝性疾患の負担を増している。PAD患者に最も早期に発現し、最も多くみられ、最も支障を来す症状は機能低下と身体的障害であるが、機能や健康関連QOLを改善する治療法はほとんどなかった。Lancet誌オンライン版2025年3月29日号掲載の報告。52週時点の最大歩行距離の対ベースライン比を評価、セマグルチド群vs.プラセボ群 STRIDE試験は、PADを有する2型DM患者において、セマグルチドが歩行能力、症状、および自己報告に基づくアウトカムを改善するかどうかを評価するため、北米、アジア、欧州の20ヵ国における112の外来臨床試験施設で行われた。 18歳以上の2型DMで間欠性跛行を伴うPAD(Fontaine分類IIa度、歩行可能距離>200m)を有し、足関節上腕血圧比(ABI)≦0.90または足趾上腕血圧比(TBI)≦0.70の患者を適格とした。 被験者は、双方向ウェブ応答システムを用いて、セマグルチド1.0mgを週1回52週間皮下投与する群またはプラセボを投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。 主要エンドポイントは、全解析セットにおける定荷重トレッドミルで測定した52週時点の最大歩行距離の対ベースライン比であった。安全性は、安全性解析セットで評価した。推定治療群間比1.13で、セマグルチド群の歩行距離改善が有意に大きい 2020年10月1日~2024年7月12日に、1,363例が適格性のスクリーニングを受け、792例がセマグルチド群(396例)またはプラセボ群(396例)に無作為化された。被験者792例のベースライン特性は、195例(25%)が女性、597例(75%)が男性で、年齢中央値は68.0歳(四分位範囲[IQR]:61.0~73.0)、2型DM罹病期間が10年以上の患者が480例(61%)であり、ベースラインのABIの幾何平均値は0.75、同TBIは0.48、最大歩行距離中央値185.5m(IQR:130.0~267.0)などであった。 追跡期間中央値は、13.2ヵ月(IQR:13.2~13.3)。セマグルチド群57/396例(14%)、プラセボ群43/396例(11%)が、試験治療を中途で恒久的に中止した。 主要エンドポイントである52週時点の最大歩行距離の対ベースライン比中央値は、セマグルチド群(1.21[IQR:0.95~1.55])がプラセボ群(1.08[0.86~1.36])よりも有意に大きかった(推定治療群間比:1.13[95%信頼区間[CI]:1.06~1.21]、p=0.0004)。 探索的解析では、52週時点の最大歩行距離の絶対改善中央値は、セマグルチド群37m(IQR:-8~109.0)、プラセボ群13m(-26.5~70.0)であった。 重篤な有害事象の発現は、セマグルチド群は被験者74例(19%)で130件(100人年当たり32.5件)、プラセボ群は78例(20%)で111件(100人年当たり26.9件)が報告された。このうち試験薬に関連(possiblyまたはprobably)した重篤な有害事象は、セマグルチド群では被験者5例(1%)で6件、プラセボ群は同6例(2%)で9件が報告され、重篤な胃腸障害の頻度が最も高かった(セマグルチド群は2例[1%]で2件、プラセボ群は3例[1%]で5件が報告)。 治療に関連した死亡はなかった。 著者は、「これらの結果は、PADを有する2型DMへのセマグルチドの使用を支持するものであり、これら集団への治療ではセマグルチドを優先すべきであることが示唆された」とまとめている。同時に、「今回の研究結果がもたらす意義には、セマグルチドがもたらすベネフィットのメカニズムを明らかにするため、および2型DMを有さないPAD患者におけるセマグルチドの有効性と安全性を評価するための、さらなる研究が必要であることが含まれる」と述べている。

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鉄欠乏心不全、カルボキシマルトース第二鉄vs.プラセボ/JAMA

 鉄欠乏性貧血を伴う心不全患者において、カルボキシマルトース第二鉄はプラセボと比較して、心不全による初回入院または心血管死までの期間を有意に短縮せず、心不全による入院総数も低減しなかった。ドイツ・Deutsches Herzzentrum der ChariteのStefan D. Anker氏らが行った多施設共同無作為化試験「FAIR-HF2 DZHK05試験」で、試験全コホートまたはトランスフェリン飽和度(TSAT)<20%の患者集団いずれにおいても同様の結果が示された。JAMA誌オンライン版2025年3月30日号掲載の報告。欧州6ヵ国の診療施設70ヵ所で試験 研究グループは2017年3月~2023年11月に、欧州6ヵ国の診療施設70ヵ所で、鉄欠乏性貧血(血清フェリチン値<100ng/mLまたはTSAT<20%かつ血清フェリチン値100~299ng/mLと定義)を伴う心不全(左室駆出率≦45%と定義)患者におけるカルボキシマルトース第二鉄の有効性と安全性を評価した。 被験者は、カルボキシマルトース第二鉄の静脈内投与群またはプラセボ群に1対1の割合で無作為に割り付けられた。カルボキシマルトース第二鉄群は、当初の受診2回(ベースラインと4週時)に最大2,000mgの投与を受け、その後、投与中止の基準を満たさない限り4ヵ月ごとに500mgの投与を受けた。 主要エンドポイントは、(1)心不全による初回入院または心血管死までの期間、(2)心不全による入院総数、(3)TSAT<20%の患者における心不全による初回入院または心血管死までの期間であった。すべてのエンドポイントは、追跡期間を通して評価された。 エンドポイントの統計学的有意性は、Hochberg法による評価で、次の3つのうち少なくとも1つを満たしている場合とした。(1)3つのエンドポイントすべてでp≦0.05、(2)2つのエンドポイントでp≦0.025、(3)いずれかのエンドポイントでp≦0.0167。3つの主要アウトカムいずれも統計学的有意性を満たさず 1,105例(平均年齢70[SD 12]歳、女性33%)が無作為化された(カルボキシマルトース第二鉄群558例、プラセボ群547例)。追跡期間中央値は16.6ヵ月(四分位範囲:7.9~29.9)であった。 第1主要アウトカム(心不全による初回入院または心血管死)の発生は、カルボキシマルトース第二鉄群141例、プラセボ群166例であった(ハザード比[HR]:0.79[95%信頼区間[CI]:0.63~0.99]、p=0.04)。 第2主要アウトカム(心不全による入院総数)は、カルボキシマルトース第二鉄群264回、プラセボ群320回であった(率比:0.80[95%CI:0.60~1.06]、p=0.12)。 第3主要アウトカム(TSAT<20%の患者における心不全による初回入院または心血管死)の発生は、カルボキシマルトース第二鉄群103例、プラセボ群128例であった(HR:0.79[95%CI:0.61~1.02]、p=0.07)。 1回以上の重篤な有害事象を発現した患者数は、カルボキシマルトース第二鉄群(269例、48.2%)とプラセボ群(273例、49.9%)でほぼ同数であった。

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尿臭、尿色は尿路感染に関連するのか?【とことん極める!腎盂腎炎】第14回

尿臭、尿色は尿路感染に関連するのか?Teaching point(1)尿臭は尿路感染に対する診断特性は不十分であるが、一部の微生物・病態での尿路感染では特徴的な臭いのものがある(2)尿色の変化は体内変化を示唆するも、尿路感染での尿色変化はほとんどない。しかし、尿道留置カテーテルでの一部の細菌感染でのpurple urine bag syndrome はたまにみられ、滅多にみることはないが緑膿菌による緑色変化は特異性がある1.尿臭と尿路感染疾患の一部には特異的な尿臭があるものがあるが、尿路感染に関しては、特異的なものはほとんどない。尿中に細菌が存在し、その細菌がアンモニアを生成すると異常な刺激臭となるが、細菌の有無に関係なく尿pHによって尿中に多く含まれるアンモニアイオンがアンモニアとなる。これは感染を示唆するものではないため、その違いを判別することは難しい。また尿の通常の臭いはウリノイドと呼ばれ、濃縮された検体ではこの臭いが強くなることがあり、こちらとの判別も困難である。中国で行われた、高齢者の尿パッドの臭気と顕微鏡・培養検査とを比較した研究では、過剰診断にも見逃しにもなり、尿臭が尿路感染の診断にも除外にも寄与しづらいことが示唆されている1)。尿臭で尿路感染の原因診断に寄与するものは限られるが、知られているのは腐敗臭となる細菌尿関連の2病態である。1つが腸管からの腸内細菌が膀胱へ移行することで尿が便臭となる腸管膀胱瘻2)、もう1つが尿路感染症としては珍しいが、時として重要な病原体になり得るAerococcus urinaeである3)。細菌ではないが、真菌であるCandida尿路感染は、アルコール発酵によりbeer urineといわれるビール様の臭いがすることがある4)。以上から、尿臭で尿路感染を心配する家族や介護職員もいるが、細菌や真菌が尿路に存在する可能性を示唆するのみで、そもそも細菌や真菌が存在することと感染症が成立していることとは別であること、それらが存在すること以外にも尿臭の原因があることなどを説明することで安心を促し、尿路感染かどうかの判断は、尿臭以外の要素で行うことが肝要である。2.尿色と尿路感染正常の尿は透明で淡黄色である。そのため、尿の混濁化や色の変化は、体内の変化を示唆する徴候となり、食物、薬剤、代謝産物、感染症などが色調変化の原因となる。尿路感染そのものによる尿の色調変化は滅多にないが、比較的みられるのは、尿道留置カテーテルを使用している患者の細菌尿で、尿・バッグ・チューブが紫色に変化するpurple urine bag syndrome5)と呼ばれるものである(図1)。図1 purple urine bag syndrome画像を拡大する尿中のアルカリ環境と細菌の酵素によって形成された生化学反応の代謝産物によるもので、腸内細菌により摂取したトリプトファンがインドールに分解され、その後、門脈循環に吸収されてインドキシル硫酸塩に変換され、尿中に排泄される。尿中のアルカリ環境と細菌の酵素(インドキシルスルファターゼ、インドキシルホスファターゼ)が存在する場合、インドキシルに分解される。分解産物である青色のインジゴと赤色のインジルビンが合わさった結果、紫となる(図2)。その酵素を産生できる細菌は報告だけでも、Escherichia coli、Providencia属、Klebsiella pneumoniae、Proteus属など多岐にわたるため、起因菌の特定は困難である。図2 purple urine bag syndromeの原理画像を拡大するその他の色調変化は、まれながら緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)による緑色変化がある。色の変化ごとのアセスメント方法はあるが、感染にかかわらないものも多く、本項では省略し、色調変化の原因の一部を表2,6,7)に挙げる。感染症そのものによる変化とは異なるが、抗微生物薬など薬剤による尿色変化は、患者が驚いて自己中断することもあり、処方前の説明が必要となる。とくにリファンピシンによる赤色変化は有名で、中断による結核治療失敗や耐性化リスクもあるため重要である。表 尿の色調変化の原因画像を拡大する1)Midthun SJ, et al. J Gerontol Nurs. 2004;30:4-9.2)Simerville JA, et al. Am Fam Physician. 2005;71:1153-1162.3)Lenherr N, et al. Eur J Pediatr. 2014;173:1115-1117.4)Mulholland JH, Townsend FJ. Trans Am Clin Climatol Assoc. 1984;95:34-39.5)Plaçais L, Denier C. N Engl J Med. 2019;381:e33.6)Cavanaugh C, Perazella MA. Am J Kidney Dis. 2019;73:258-272.7)Echeverry G, et al. Methods Mol Biol. 2010;641:1-12.

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転倒予防に一番効果的な介入は?【論文から学ぶ看護の新常識】第10回

転倒予防に一番効果的な介入は?病院内での転倒予防介入の効果を調べた研究により、患者および医療従事者への教育介入のみが統計的有意に転倒を減少させる効果があることが示された。Meg E Morris氏らの研究で、Age and Ageing誌2022年5月06日号に掲載された。病院内転倒を減少させる介入:システマティックレビューとメタアナリシス研究グループは、転倒予防介入が病院内における転倒率および転倒リスクに与える影響を明らかにするため、システマティックレビューおよびメタアナリシスを実施した。分析対象となったのは、入院中の成人患者を対象に転倒予防介入を行った45件の研究であり、そのうち43件がシステマティックレビュー、23件がメタアナリシスに含まれた。介入方法は、患者および医療従事者向け教育、環境改善、補助用具の使用(アラーム、センサー、歩行補助具、低床ベッドなど)、転倒予防に関連する方針・システムなどの変更、リハビリテーション、薬剤管理(ビタミンDによる栄養補助を含む)が含まれた。評価指標には、転倒率比(RaR)と転倒リスク(オッズ比[OR])が用いられ、単独介入および複合的介入(2つ以上の介入の組み合わせ)の両方を評価した。主な結果は以下の通り。教育介入のみが統計的に有意な結果を示し、転倒率(RaR:0.70、95%信頼区間[CI]:0.51~0.96、p=0.03)および転倒リスク(OR:0.62、95%CI:0.47~0.83、p=0.001)を有意に低下させた。エビデンスの質は高いと評価された(GRADE評価)。転倒予防に関するシステムについての研究(9件)は、効果量が報告されていないためメタアナリシスに含まれなかった。1時間ごとの巡回、ベッドサイドでの申し送り、電子監視または患者安全管理者の配置を調べた5つの研究では、いずれも転倒率の有意な低下は示されなかった。医学的評価とそれに基づく介入を行った研究では、1000患者日あたりの転倒率が、対照群10.6に対し、介入群1.5と有意に低下(p<0.004)した。複合的介入は、転倒率(RaR:0.8、95%CI:0.63~1.01、Z=−1.88、p=0.06)に低下傾向がみられたが、統計的有意な低下は認められなかった。スコア化転倒リスクスクリーニングツール(FRAT)は、2つの大規模RCTの結果より、スコア化を行わなくても転倒率に影響がないことが示された(統計的有意性の記載なし)。システマティックレビューに含まれた個別研究の中で、医療従事者教育、一部の複合的介入、特定のリハビリテーション、システム関連介入では、特定の介入において効果を示唆するエビデンスが報告されたが、バイアスリスクは低~中程度と評価された。院内転倒率および転倒リスクを効果的に減少させるには、患者および医療従事者への教育が最も効果的であり、複合的介入はプラスの影響をもたらす傾向があった。アラーム、センサー、スコア化転倒リスク評価ツールの使用と転倒減少との関連は確認されなかった。転倒って恐ろしいですよね…。2022年のメタアナリシス(いろんな論文を組み合わせて評価した論文)では、患者とスタッフへの教育が転倒率と転倒リスクの減少に最も効果的であることが示されました。患者教育では、入院中の転倒リスクに対する認識を高めることが重要です。65歳以上や複数の併存疾患がある50歳以上の患者は特に高リスクであり、教育プログラムを通して自身の転倒リスクを理解することで、予防行動を取ることができます。一方、スタッフ教育も重要です。転倒リスクのアセスメント、予防策の実施、転倒発生時の対応などに加えて、とくに新人や中途採用者の方には、疾患特性による転倒リスクを理解してもらうための教育が必要です。教育によるスタッフのスキル向上が、効果的な転倒予防につながります。またそれ以外の介入を組み合わせることも重要です。例えば、環境整備、補助用具の活用、リハビリテーションなど、多面的なアプローチがあります。しかし、メタアナリシスの結果では、補助用具の使用やリハビリテーションの単独での効果は限定的であり、他の介入と組み合わせることが重要だと示唆されています。入院時の環境整備や補助用具の活用、リハビリテーションによる身体機能の改善などを組み合わせることで、より効果的な転倒リスクの軽減が期待できます。転倒転落の対策は教育を軸としつつ、環境整備、補助用具、リハビリテーションなど多角的な視点からのアプローチを組み合わせることが求められます。一つの介入方法にこだわらずに、広い視野を持ちながら転倒転落を予防していきましょう!論文はこちらMorris ME, et al. Age Ageing. 2022;51(5): afac077.

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白斑患者はがんリスクが高いのか?

 尋常性白斑患者におけるがんの発症率に関する研究では、一貫性のない結果が報告されている。イスラエル・テルアビブ大学のYochai Schonmann氏らは、約2万5千例の尋常性白斑患者を含む大規模コホートでがん発症リスクの評価を行い、結果をJournal of the American Academy of Dermatology誌2025年4月号に報告した。 研究者らは、イスラエルのClalit Health Servicesデータベース(2000~23年)を利用した人口ベースコホート研究を実施し、多変量Cox回帰モデルを用いて調整ハザード比(HR)を算出した。 主な結果は以下のとおり。・本研究には、尋常性白斑患者2万5,008例およびマッチさせた対照群24万5,550例が含まれた。尋常性白斑患者の平均年齢(SD)は35.96歳(22.39歳)、1万2,679例(50.70%)が男性であった。・がんの発症率は、尋常性白斑患者で10万人年当たり499例(95%信頼区間[CI]:468~532)、対照群で10万人年当たり487例(95%CI:476~497)であった(調整ハザード比[HR]:1.00、95%CI:0.93~1.07、p=0.999)。・尋常性白斑患者では、対照群と比較して悪性黒色腫(調整HR:0.70、95%CI:0.50~0.99、p=0.0337)、肺がん(調整HR:0.73、95%CI:0.57~0.93、p=0.007)、膀胱がん(調整HR:0.70、95%CI:0.52~0.94、p=0.0138)のリスクが低かった。 著者らは、尋常性白斑患者のがん発症率は上昇していないことが示されたとし、同患者に対するがん検診は、一般集団に推奨されている標準的なガイドラインに従って実施すべきとまとめている。

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ドパミンD2受容体ブロックが初発統合失調症患者の長期転機に及ぼす影響

 初回エピソード統合失調症において、持続的なドパミンD2受容体ブロックを行っているにもかかわらず再発してしまう患者の割合やD2受容体ブロック作用を有する抗精神病薬の長期使用によりブレイクスルー精神疾患を引き起こすかどうかについては、明らかになっていない。東フィンランド大学のJari Tiihonen氏らは、再発歴がなく、5年超の持続的なD2受容体ブロックによる治療を行った患者において、ブレイクスルー精神疾患の発生率が加速するとの仮説を検証するため、本研究を実施した。The American Journal of Psychiatry誌2025年4月1日号の報告。 フィンランド全国コホートのデータを用いて、1996〜2014年の45歳以下の初回エピソード統合失調症入院患者を特定した。主要アウトカムは、持続的に長時間作用型注射剤(LAI)抗精神病薬で治療を行った患者における入院につながる重度の再発とした。副次的アウトカムは、1年目を基準とした2〜10年目までの再発の発生率比(IRR)とした。主な結果は以下のとおり。・フォローアップ後30日間でLAI抗精神病薬の使用を開始した患者305例が特定された。 ・カプランマイヤー分析では、10年間のフォローアップ期間中の再発の累積発生率は45%(95%信頼区間[CI]:35〜57)であった。 ・1人年当たりの年間再発発生率は、1年目で0.26(95%CI:0.20〜0.35)であったが、5年目には0.05(95%CI:0.01〜0.19)まで減少し、IRRは0.18(95%CI:0.04〜0.74)であった。 ・6〜10年目には、128人年の再発は4件のみであり、1年目と比較したIRRは0.12(95%CI:0.03〜0.33)であった。 著者らは「初回エピソード統合失調症患者の約40〜50%は、持続的なD2受容体ブロックにもかかわらず再発する。これは、統合失調症の病態生理学における非ドパミン作動性の要因によるものであると考えられる。また、長期的なドパミンD2受容体ブロックは、ブレイクスルー精神疾患のリスク増加とは関連がないことが明らかとなった」と結論付けている。

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前立腺がんの生検、マイクロ超音波ガイド下vs.MRI/超音波融合ガイド下/JAMA

 臨床的に重要な前立腺がんの検出において、高解像度マイクロ超音波ガイド下生検はMRI/従来型超音波融合画像ガイド下生検に対し非劣性であり、画像ガイド下前立腺生検においてMRIの代替法となる可能性があることが、カナダ・アルバータ大学のAdam Kinnaird氏らOPTIMUM Investigatorsが実施した「OPTIMUM試験」で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2025年3月23日号に掲載された。8ヵ国20施設の無作為化非劣性試験 OPTIMUM試験は、前立腺がんの検出におけるマイクロ超音波ガイド下生検とMRI融合画像ガイド下生検の有用性の比較を目的とする第III相非盲検無作為化非劣性試験であり、2021年12月~2024年9月に8ヵ国20施設で患者を登録した(Exact Imagingの助成を受けた)。 年齢18歳以上、臨床的に前立腺がんが疑われ(前立腺特異抗原[PSA]上昇または直腸診で異常所見、あるいはこれら双方)、前立腺生検の適応とされ、生検を受けたことがない男性678例(年齢中央値65歳[四分位範囲[IQR]:59~70]、PSA中央値6.9ng/mL[IQR:5.2~9.8]、白人83%)を対象とした。 被験者を、マイクロ超音波ガイド下生検を受ける群(マイクロ超音波群、121例)、マイクロ超音波/MRI融合画像ガイド下生検を受ける群(マイクロ超音波/MRI群、226例、MRIを非盲検化する前にマイクロ超音波ガイド下生検を施行)、MRI/従来型超音波融合画像ガイド下生検を受ける群(MRI/従来型超音波群、331例)の3つの群に無作為に割り付けた。全例で、これらと同時に系統的生検が行われた。 主要評価項目は、マイクロ超音波ガイド下生検+系統的生検と、MRI/従来型超音波融合画像ガイド下生検+系統的生検を用いて検出された臨床的に重要な前立腺がん(Gleason Grade Group≧2と定義)の差とした。非劣性マージンは10%に設定した。マイクロ超音波/MRI群も非劣性 Gleason Grade Group≧2のがんは、マイクロ超音波群57例(47.1%)、マイクロ超音波/MRI群106例(46.9%)、MRI/従来型超音波群141例(42.6%)で検出された。 Gleason Grade Group≧2のがんの検出に関して、マイクロ超音波群はMRI/従来型超音波群に対し非劣性であった(群間差:3.52%[95%信頼区間[CI]:-3.95~10.92]、非劣性のp<0.001)。また、副次評価項目として、マイクロ超音波/MRI群もMRI/従来型超音波群に対し非劣性だった(群間差:4.29%[95%CI:-4.06~12.63]、非劣性のp<0.001)。とくにMRI禁忌例にとって利用しやすい新たな生検法 標的生検だけで診断されたGleason Grade Group≧2のがんは、マイクロ超音波群46例(38.0%)、マイクロ超音波/MRI群91例(40.3%)、MRI/従来型超音波群113例(34.1%)であり、これらの差は有意ではなかった。 著者は、「マイクロ超音波は、前立腺生検を検討している患者、とくにMRIが禁忌の患者にとって、より利用しやすい方法となる可能性がある新たな画像診断法、生検法である」「本試験の結果は、一方の画像技術でしか見えず、他方の画像技術では見えない腫瘍が存在するという、これまでの知見を裏付けるものである。マイクロ超音波で可視、MRIで不可視の腫瘍が、マイクロ超音波で不可視、MRIで可視の腫瘍と予後が異なるかは明らかにされていない」としている。

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健康行動変容支援システムは体重のリバウンド対策に有効か

 ダイエットでは体重のリバウンドが常に課題となる。では、減量した体重の維持には、認知行動療法(CBT)などを活用した健康行動変容支援システム(HBCSS)は有効だろうか。この課題に対し、フィンランドのオウル大学生体医学・内科学研究ユニットのEero Turkkila氏らの研究グループは、ウェブベースのHBCSSの長期的有効性評価を目的に、2年にわたり検証を行った。その結果、12ヵ月間のHBCSS介入では、5年後の体重減少について非HBCSSよりも良好に維持することはできなかった。この結果は、International Journal of Obesity誌2025年3月15日オンライン版で公開された。5年間の追跡では体重変化に群間差がなかった 研究グループは、合計532例の過体重または肥満(BMI27~35)の参加者を、CBTに基づくグループカウンセリング、自助ガイダンス(SHG)、通常ケアの介入強度の異なる3つのグループに分けた。これらの群はさらにHBCSS群と非HBCSS群に分けられ、HBCSSは52週間のプログラムとし、5年間追跡した。 主な結果は以下のとおり。・HBCSS群と非HBCSS群のベースラインからの平均体重変化率と95%信頼区間[CI]は、5年後にそれぞれ1.5%(-0.02~2.9、p=0.056)、1.9%(0.3~3.3、p=0.005)だった。・6群のうちHBCSSを用いなかったSHG群では、5年後の体重増加率が3.1%(95%CI:0.6~5.6、p=0.010)とベースラインから統計的に有意に増加したが、他の群では体重の有意な増加はみられなかった。・5年経過時点で体重変化では群間に有意差はなかった。・HBCSS群では、5年間で降圧薬の服用開始数が少なくなった(p=0.046)。 研究グループでは、これらの結果から「12ヵ月間のHBCSS介入群では、5年後の体重減少を非HBCSS群よりも良好に維持することはできなかった一方で、5年間を通じ有意な体重差はHBCSS群に有利であった。降圧薬の必要性が減少したことは、HBCSS群による早期からの有意な体重減少が、健康増進へレガシー効果を持ったことを示唆する」と結論付けている。

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オフポンプCABGの周術期管理、NIRS+血行動態モニタリングは有効か/BMJ

 オフポンプ冠動脈バイパス術(CABG)の周術期管理において、通常ケアと比較して、近赤外線分光法(NIRS)による組織酸素飽和度モニタリングと血行動態モニタリングのガイドに基づくケアは、組織酸素化をほぼベースラインの水準に維持するが、このアプローチは術後の主要な合併症の発生率を減少させないことが、中国・天津大学のJiange Han氏らBottomline-CS investigation groupが実施した「Bottomline-CS試験」で示された。研究の詳細は、BMJ誌2025年3月24日号で報告された。中国の単施設無作為化対照比較試験 Bottomline-CS試験は、NIRSによる組織酸素飽和度の測定と血行動態モニタリングによる周術期管理が、オフポンプCABGの術後合併症を減少させるかの評価を目的とする評価者盲検単施設無作為化対照比較試験であり、2021年6月~2023年12月に三次教育病院である天津市胸科医院で行われた(Tianjin Science and Technology Projectなどの助成を受けた)。 年齢60歳以上の待機的オフポンプCABGを予定している患者1,960例(平均年齢69歳、男性70%)を登録し、このうち修正ITT集団として1,941例をガイド下ケア群(967例)または通常ケア群(974例)に無作為に割り付けた。 全患者で、NIRSによる複数部位(左・右前額部と片側前腕の腕橈骨筋)の組織酸素飽和度モニタリングと血行動態モニタリングを行った。また、両群とも通常ケア(適応がある場合に、動脈圧、中心静脈圧、心電図、経食道心エコー図などの検査を行う)を受けた。 ガイド下ケア群では、麻酔開始から、抜管あるいは術後最長24時間まで、手術の24~48時間前に設定した術前ベースライン値の±10%以内の組織酸素化の維持を目標に、NIRSと血行動態モニタリングをガイドとしたケアを行った。通常ケア群では、治療医に組織酸素濃度測定値と血行動態データを隠蔽した状態で、通常のケアを行った。 主要アウトカムは、術後30日時点での術後合併症(脳、心臓、呼吸器、腎臓、感染症、死亡)の複合の発生率とした。組織酸素飽和度は改善、複合アウトカムに有益性はない 麻酔中に、ベースライン値の±10%の範囲を超える組織酸素飽和度測定値の曲線下面積は、通常ケア群に比べガイド下ケア群で有意に小さく(左前額部:32.4 vs.57.6%×分[p<0.001]、右前額部:37.9 vs.62.6[p<0.001]、前腕:14.8 vs.44.7[p<0.001])、ガイド下ケアによる組織酸素飽和度の改善を確認した。 これに対し、主要複合アウトカムの発生率はガイド下ケア群で47.3%(457/967例)、通常ケア群で47.8%(466/974例)と、両群間に有意な差を認めなかった(リスク比:0.99[95%信頼区間[CI]:0.90~1.08]、p=0.83)。副次アウトカムにも有意差はない 副次アウトカム(複合アウトカムの個々の項目、初発の心房細動、入院期間)にも、両群間に有意差はなかった。最も差が大きかったのは肺炎の発生率で、通常ケア群(12.4%[121/974例])よりもガイド下ケア群(9.1%[88/967例])で低く、未補正では有意差(リスク比:0.73[95%CI:0.56~0.95]、p=0.02)を認めたものの、多重比較で補正すると有意ではなくなった(p=0.60)。 著者は、「これらの知見は、オフポンプCABG中に組織酸素化を維持するためにNIRSと血行動態モニタリングをルーチンに使用することを支持しない」「主要複合アウトカムの相対リスクは95%CIの範囲が狭く(幅0.18)、これはこの偏りのない所見の頑健性を強調するものであり、本試験の検出力に不足はないことを示している」としている。

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