高感度CRP、心不全の悪化予測に有用か/日本循環器学会

日本人の高齢化に伴い、国内での心血管疾患(CVD)の発生が増加傾向にある。このCVD発生には全身性の炎症マーカーである高感度C反応性蛋白(hsCRP)の上昇が関連しており、これが将来の心血管イベントの発症予測にも有用とされている。しかし、その関連性は主に西洋人集団で研究されており1)、日本人でのデータは乏しい状況にある。そこで今回、小室 一成氏(国際医療福祉大学 副学長/東京大学大学院医学系研究科 先端循環器医科学講座 特任教授)が日本人集団における全身性炎症と心血管リスクの関係を評価し、3月28~30日に開催された第89回日本循環器学会学術集会のLate Breaking Cohort Studies1において発表した。
本研究は、動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)および心不全(HF)患者における全身性炎症に関連する長期健康アウトカム、ならびに医療費や医療資源の利活用にも注目してその特徴などを調査した観察研究である。メディカル・データ・ビジョンのデータベースの約5,000万例2)を基に、2008~23年にASCVDまたはHFと診断された18歳以上で、ASCVDまたはHF患者と診断され、hsCRP測定が適格と判断された約360万例を解析。主要評価項目は主要心血管イベント(MACE)とHF複合累積罹患率であった。
主な結果は以下のとおり。
・ASCVDを有する患者集団をコホート1(10万7,807例)、HFを有する患者集団をコホート2(7万1,291例)とし、各コホートの患者をhsCRPで3群(正常低値:0.1mg/dL未満、正常高値:0.1~0.2mg/dL未満、高値:0.2~1.0mg/dL)に分類した。
・コホート1について、hsCRPの上昇と関連する因子を特定するためにステップワイズ法を用いたロジスティクス回帰分析を実施したところ、高値群の患者特性として、男性、高齢、認知症、2型糖尿病、CKDなどがみられた。
・コホート2も同様に解析したところ、脳卒中の既往歴を有する患者割合がコホート1よりも少ない一方で、高血圧症は約75%超の患者でみられ、COPD、2型糖尿病、心房細動、認知症と続いた。
・HF複合累積罹患率として5年発症リスクを各群で分析したところ、正常低値群は17.6人年、正常高値群は24.0人年(調整ハザード比[HR]:1.31、95%信頼区間[CI]:1.25~1.38、p<0.0001)、高値群は27.3人年(HR:1.37、95%CI:1.32~1.44、p<0.0001)だった。
・HF複合累積罹患率から各群の入院や全死亡を見ると、hsCRPが高くなるほどいずれも発生率が上昇した。
最後に小室氏は「本結果より、日本人のCVD患者の35%以上がhsCRP高値であった。とくに男性、高齢者、およびCKD、COPD、2型糖尿病、認知症などの特定の併存疾患が、両コホートにおいてhsCRP高値と関連していた。また、MACEやHF複合累積罹患率に影響することが明らかになったことから、炎症がASCVDだけでなくHFの悪化にも寄与する可能性が示唆された。この状態あるいは疾患における炎症関連の有害事象が、何らかの共通メカニズムを介しているのか、それともいくつかの異なるメカニズムによって引き起こされているのかは、今後の検討課題である」と締めくくった。
(ケアネット 土井 舞子)
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