2025年3月、「胃癌治療ガイドライン」(日本胃癌学会編)が改訂された。2021年から4年ぶりの改訂で、第7版となる。3月12~14日に行われた第97回日本胃癌学会では、「胃癌治療ガイドライン第7版 改訂のポイント」と題したシンポジウムが開催され、外科治療、内視鏡治療、薬物療法の3つのパートに分け、改訂ポイントが解説された。改訂点の多かった外科療法と薬物療法の主な改訂ポイントを2回に分けて紹介する。本稿では薬物療法に関する主な改訂点を取り上げる。
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【薬物療法の改訂ポイント】原 浩樹氏(埼玉県立がんセンター 消化器内科)
内科系(薬物療法)については非常に多くの改訂があった。多くはガイドラインを一読すれば理解いただけると思うが、多くの方が関心を持っているであろうMSI、CPS、CLDN18、HER2といったバイオマーカーとそれに基づく治療選択と、今後避けて通れない高齢者診療に関する新たな推奨に絞って、改訂ポイントを紹介する。
CQ12 切除不能進行・再発胃癌に対する一次化学療法
CQ12 HER2陰性の切除不能進行・再発胃癌の一次治療において免疫チェックポイント阻害剤は推奨されるか?
・HER2 陰性の切除不能な進行・再発胃癌/食道胃接合部癌において、一次治療として、化学療法+免疫チェックポイント阻害剤(ニボルマブまたはペムブロリズマブ)併用療法を行うことを
強く推奨する。バイオマーカー(PD-L1[CPS]、MSI/MMR、CLDN18)や患者の全身状態を考慮する。(合意率100%、エビデンスの強さA)
CQ13 切除不能進行・再発胃癌におけるバイオマーカー
CQ13-1 バイオマーカーに基づいて一次治療を選択することは推奨されるか?
・切除不能進行・再発胃癌患者に対し、バイオマーカーに基づいて一次治療を選択することを
強く推奨する。(合意率100%、エビデンスの強さA)
HER2陰性切除不能進行・再発胃癌の一次治療として、「推奨される化学療法レジメン」として新たに承認された抗CLDN18.2抗体のゾルベツキシマブ、チェックポイント阻害薬(ICI)のニボルマブ・ペムブロリズマブ、それぞれの化学療法との併用レジメンが追加された。「条件付きで推奨される化学療法レジメン」としてはSOX+ペムブロリズマブが追加となった。各レジメンの推奨根拠となった試験を紹介する。
・ニボルマブ+化学療法/CheckMate 649
PD-L1 CPS≧5の患者群における全生存期間(OS)中央値は、ニボルマブ+化学療法群で14.4ヵ月、化学療法単独群で11.1ヵ月であり、ハザード比(HR)は0.71であった。CPS≧1集団、全体集団でも改善傾向は見られたものの効果は低減する傾向だった。一方、MSI-H症例では強いOS延長効果が確認され、HRは0.34だった。ただし、MSI-Hは全体の3~4%という希少な集団である一方で、CPS<5の集団にもMSI-H症例が隠れていることに留意が必要だ。
・ペムブロリズマブ+化学療法/KEYNOTE-859
CPS≧1、CPS≧10、全体集団いずれにおいてもOSの有意な改善が示された。CheckMate 649試験と同様に、CPS値が高いほどHRが改善する傾向が見られた。CPS高値例にICIの効果が高いことは明らかだが、カットオフ値をどこに定めるべきかについては、引き続き議論が必要だろう。
・ゾルベツキシマブ+化学療法/SPOTLIGHT・GLOW
両試験とも、ゾルベツキシマブ+化学療法群(mFOLFOX6またはCAPOX)は、主要評価項目である無増悪生存期間および重要な副次評価項目であるOSに対し統計的に有意な延長を示した。
昨年、日本胃癌学会から「切除不能進行・再発胃癌バイオマーカー検査の手引き」
1)が発表された。この手引きでは一次薬物療法開始前に4つのバイオマーカー(HER2、PD-L1、MSI、CLDN18)をすべて測定することを強く推奨している。ただし、施設の状況や患者の状態によっては、すべての検査が実施できない場合もあるだろう。そうした場合は、一次療法開始に不可欠なバイオマーカーであるHER2とCLDN18検査を優先して実施することが推奨される。
HER2陰性の推奨レジメンは、CLDN18陽性の場合は6つ、陰性の場合は4つあり、この使い分けが論点となっている。ガイドライン作成委員会の中で一番議論となったのがHER2陰性+CLDN18陽性のケースだ。CPS<1では抗PD-1抗体による生存延長効果がほとんどないことを考慮すると、
・CPS<1:ゾルベツキシマブを優先
・CPS≧1:ゾルベツキシマブおよびICI2剤のいずれも選択肢
と考えられる。ここからは私見になるが、CPS≧10はICI優先、1≦CPS<10はゾルベツキシマブがやや優先かと考えている。実臨床においてはバイオマーカーのみならず、年齢、PS、全身状態、患者希望などを総合的に考慮したうえで、治療方針を決定することになる。
CQ10 高齢者
CQ10-2 全身化学療法の適応を決める際に、年齢を考慮することは推奨されるか?
・高齢の切除不能進行・再発胃癌症例では、患者の全身状態や意欲を慎重に評価したうえで、患者本人が状態良好(fit)かつ意思決定能力を有し治療意欲があれば、化学療法を計画するときに年齢を考慮することを
弱く推奨する。
(合意率100%、エビデンスの強さB)
日本の胃がん患者の65歳以上が85%という現状があるが、主要な臨床試験における65歳以上の参加者は3分の1程度である。一方、「一般的な若年者と同じ標準治療を受けることは難しいが、何らかの治療は受けられる」という「vulnerable」という多数派層が存在し、この層に向けた治療戦略が必要だ。この層を対象に減量投与の非劣性を報告する試験や、高齢者の状態を評価する「G8」スコア別に薬剤の有用性を評価する試験など、エビデンスも集積しつつある。高齢者の化学療法においては減量や薬剤選択による投与継続をはじめ、適切な個別化戦略が一層重要となる。
(ケアネット 杉崎 真名)