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日本感染症学会(理事長:松本 哲哉氏)、日本呼吸器学会(同:高橋 和久氏)、日本ワクチン学会(同:中野 貴司氏)の3学会は合同で、「成人のRSウイルスワクチンに関する見解」を12月9日に発表した。 Respiratory syncytial virus(RSV)感染症は、新生児期から感染が始まり、2歳を迎えるまでにほとんどの人が感染するウイルスによる感染症。生涯獲得免疫はなく、成人では鼻風邪のような症状、乳幼児では多量の鼻みずと喘鳴などの症状が現れる。治療薬はなく、対症療法のみとなるが、ワクチンで予防ができる感染症である。 RSV感染症は、基礎疾患を有する成人ではインフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられており、高齢者などはワクチンの任意接種対象となっている。2026年4月からは妊婦に対しRSVワクチンが定期接種になることもあり、今後、RSV感染症の予防対策の重要性はますます高まると考えられている。 3学会では、今般の見解について、「現時点でのRSVワクチンの科学的な情報であり、また接種の必要性を考える際の参考としていただきたい」と述べている。高齢者のRSV感染症の疾患負荷をワクチンで防ぐ1)主旨 RSV感染症は、国内外の研究報告をふまえると、高齢者、慢性呼吸器疾患、慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人には、インフルエンザと同程度の重症化リスクを持つと考えられている。高齢者施設やハイリスク病棟での集団感染も報告されており、公衆衛生危機管理上の重点感染症にも分類されるRSV感染症の感染対策として、高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨する。 今後、わが国でも死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。2)主なワクチン 現在、わが国で接種できるワクチンは任意接種として2つの組換えタンパク質ワクチンとmRNA(2025年5月承認、今後発売)がある。3)国内の高齢者における疾病負荷 2022年9月~2024年8月の2年間にわたり国内の4つの2次医療圏の急性期医療機関で実施された積極的サーベイランス研究で、RSV感染症による入院率は65歳以上人口10万人年当たり1年目29例、2年目36例、18歳以上のRSV感染症の院内死亡率は7.1%と報告されている。 わが国の2015~18年の医療保険データベースMedical Data Vision(MDV)を用いたRSV流行期と非流行期の時系列モデリング解析によって、全国のRSV関連入院率を推定した研究によると、65歳以上のRSV関連呼吸器疾患の入院率は10万人当たり96~157例と示されている。また、RSV感染症の文献をシステマティックレビューした報告によると、わが国の60歳以上の年間のRSVによる急性呼吸器感染症患者数は約69.8万人、入院患者数は約6.3万人、院内死亡者数は約4,500人と推定されている。4)慢性心肺疾患患者ではRSV感染症の重症化リスクが高まる 慢性心肺疾患を有する患者では、RSV感染症は重症化リスクが高まることが知られている。米国・ニューヨーク州のサーベイランス研究では、65歳以上のRSV入院率は1.37~2.56/1,000例であり、慢性閉塞性肺疾患、喘息、うっ血性心不全患者の入院率は、これらのない患者と比較して、それぞれ3.5~13.4倍、2.3~2.5倍、5.9~7.6倍高いことが報告されている1)。5)RSV感染症はインフルエンザと同程度の疾病負荷がある わが国の1,038例の呼吸器症状を有する救急入院患者を対象とした2023年7~12月に行われた前向き研究では、RSV感染症は22例が報告され、院内死亡率は13.6%(3/22)であったのに対して、インフルエンザは28例が報告され、院内死亡例はなかった2)。呼吸器症状を有しPCR検査を実施した外来および入院患者541例を対象に2022年11月~2023年11月の期間に実施された後ろ向き研究では、RSV感染症とインフルエンザの割合はそれぞれ3.3%と1.8%だった3)。また、30日間死亡率は、RSV感染症が5.6%(1/18)、インフルエンザでの死亡例はなかった。4つの2次医療圏における積極的サーベイランスの研究でも、18歳以上の肺炎または急性呼吸器感染症の入院患者におけるRSVとインフルエンザウイルスの陽性率は、それぞれ2.8%と3.3%であり、院内死亡率はそれぞれ7.1%と2.0%だった4)。6)高齢者施設ではRSVの集団感染が発生している 高齢者の介護施設などからRSVの集団感染の発生が複数報告され、重要な課題となっている。RSV感染症の小児における全国流行の時期に、高知県の老人保健施設の入所者110例中49例が発熱し、31例でRSV迅速検査が陽性を示し、基礎疾患を有する4例の高齢者がRSV感染を機に死亡した5)。また、富山県の介護老人保健施設では、入所者と職員あわせて49例に発熱や鼻汁などの症状がみられ、3人のPCR検査および遺伝子系統樹解析で同一のRSVが検出され集団感染と確定された6)。7)高齢者へのRSVワクチンの接種を推奨 RSV感染症は、高齢者および慢性呼吸器疾患・慢性心疾患などの基礎疾患を有する成人において、国内外でインフルエンザと同程度の重症化リスク(入院率や死亡率)があることが報告されている。RSVは、高齢者および基礎疾患を有する成人において、呼吸器感染症の主要な原因ウイルスと考えられるが、成人のRSV感染症には、インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のような抗ウイルス薬は存在しない。現在、複数のRSVワクチンが承認されているが、いずれも高い有効性と良好な忍容性を示しており、予防接種のベネフィットはリスクを上回ると考えられる。公衆衛生危機管理上の重点感染症7)に指定されているRSV感染症の感染対策として、RSVワクチンの接種を推奨する。なお、わが国ではRSV感染症による死亡者数をはじめ全国的な疫学データが十分ではないことから、今後わが国でも、死亡転帰など重症化に関する高齢者のRSV感染症の疫学情報のさらなる蓄積が望まれる。■参考文献1)Branche AR, et al. Clin Infect Dis. 2022;74:1004-1011.2)Nakamura T, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1085-1087.3)Asai N, et al. J Infect Chemother. 2024;30:1156-1161.4)Maeda H, et al. medRxiv. 2025 Jun 20. [Preprint]5)武内可尚、他. 臨床とウイルス. 2022;50:139-142.6)米田哲也、他. 病原微生物検出情報月報(IASR). 2018;39:126-127.7)第94回 厚生科学審議会感染症部会. 重点感染症リストの見直しについて(2025年3月26日)■参考成人のRSウイルスワクチンに関する見解