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第306回 脳のこれまでに見ない密なリンパ管様構造を発見

脳全域に張り巡らされたリンパ管様の細管をハーバード大学の研究者らが発見しました1,2)。主に血液とリンパが体内の循環を担います。血液系はどの臓器にも通っており、一方通行のリンパは皮膚、肝臓、肺、心臓、腎臓などの大ぶりな器官のほとんどで血液系と並走して組織の液を静脈に戻す役割を担います。脳、眼、脊髄などの器官のいくつかは免疫が及ばないようにして炎症を防ぐ仕組みがあり、リンパが通っていないとかつては考えられていました。しかしその考えは最近の一連の研究で覆されつつあります。たとえば、それまでの潮目を変えた2012年の報告では、脳内の動脈の周りの血管周囲腔を通る脳脊髄液の循環があり、グリア細胞の一種の星状細胞のアクアポリン4(AQP-4)チャネルによって推進されることが示されました3)。初めて裏付けられた脳のそのリンパ系はグリア細胞の機能に依って立つことからグリンパティック系と名付けられています。それから3年後の2015年には脳を囲む硬膜を巡る髄膜リンパ管の発見が報告され、脳脊髄液や老廃物を脳外の末梢リンパ節へと排出しうる役割が示されました4,5)。さらに時が進んで2020年の報告では網膜もグリンパティック系を備えることが突き止められています6)。大血管と毛細血管のような小血管で構成される血液系と同様に、脳の外の末梢リンパ系も大きな管と毛細管の両方を有します。一方、脳での毛細管くらい小さいリンパ管の報告はごくまれで、脳実質の高密度のリンパ管の報告はほぼ皆無です。皮質や海馬などの脳の奥まったところの直径5~14μmほどのリンパ管が2023年の報告に記されていますが7)、高密度ではなくまばらに散見されるのみでした。ゆえに脳が末梢の器官と同様に毛細管様のリンパ管を豊富に備えるかどうかはこれまでわからず仕舞いでした。ハーバード大学のShiju Gu氏らは、アルツハイマー病を模すマウスの脳切片のベータアミロイド(Aβ)を調べているときに、小さなリンパ管様の細管を思いがけず発見しました。繰り返し検討したところ、Gu氏らがナノスケールリンパ管様管(nanoscale lymphatic-like vessel:NLV)と呼ぶその構造は、アルツハイマー病であるかどうかにかかわらずマウスの脳に一貫して認められました。NLVはリンパ管を示すタンパク質一揃いと関連し、豊富で、皮質、海馬、視床下部を含む脳全域に網目状に張り巡らされていました。NLVはほとんどが直径1,000nmに満たず、しばしば血管に巻き付いており、血管とどうやら連絡することを示す特徴が見て取れました。また、髄膜にも存在し、髄膜リンパ管は古典的なリンパ管とNLVの混成で出来ているようです。NLVは脳内の液(neurofluid)の輸送や老廃物の排出のための通路の役割を担うのかもしれません。NLVが実在するならとてつもないことで、あらゆる神経変性疾患、脳卒中や外傷性脳損傷、果ては脳機能の理解を根底から覆しうると今回の研究の一員ではないオスロ大学の神経科学者のPer Kristian Eide氏は述べています2)。今後の研究に大きな影響を及ぼしそうなNLVですが、当然ながらさらなる検証で確かに存在することを確認する必要があります。もしかしたらGu氏らが今回捉えたNLVは実験の過程で生じた人為的な産物かもしれません。たとえば検体がいびつに膨らむと管様の構造が生じることがあります。Gu氏らは近々その疑いを晴らすための検討を行う予定です。先立つ研究ではNLVを神経が伸ばす長い軸索と見間違えていたのかもしれないとGu氏は言っています2)。参考1)Gu S, et al. bioRxiv. 2026 Jan 14. [Epub ahead of print]2)Accidental discovery hints at mystery structures within our brain / NewScientist3)Iliff JJ, et al. Sci Transl Med. 2012;4:147ra111.4)Louveau A, et al. Nature. 2015;523:337-341.5)Aspelund A, et al. J Exp Med. 2015;212:991-999.6)Wang X, et al. Sci Transl Med. 2020;12:eaaw3210.7)Chang J, et al. Research(Wash DC). 2023;6:0120.

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若手医師は帰属意識が高い?首都圏出身者も移住希望?/医師1,000人アンケート

 厚生労働省が2025年12月23日、『令和6(2024)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況』1)を公表し、都道府県別にみた人口10万人当たりの医師数などが明らかになった(参考:「医師数公表、人口当たり医師数が最も多い県・少ない県/厚労省」)。厚生労働省ではこれを基盤として医師偏在をさらに客観的に把握するため、2018年度より「医師偏在指数」*も公表している。また、2025年11月に行われた医師偏在対策に関する検討会では、労働時間などの違い、地域ごとの医療需要(医療ニーズ)などといった考慮すべき5つの要素が示され、2027年度からの次期医師確保計画に向けて必要な見直しが検討されるという2)。*計算式は、標準化医師数÷[地域の人口(10万×地域の標準化受療率比)]で、数値が低いほど医師不足を表す。現行は「医師の性別・年齢分布」が考慮されているが、2027年度より5つの要素(医療需要[ニーズ]及び将来の人口・人口構成の変化、患者の流出入等、へき地等の地理的条件、医師の性別・年齢分布、医師偏在の種別[区域、診療科、入院/外来])が考慮される予定。 そこで、このような状況を踏まえ、ケアネットでは医師が勤務地選択の際にどのような条件を重視するのかなどを調査。20~60代の会員医師1,018名を対象に、移住(Iターン・Jターン・Uターン)3)希望の有無、将来的に希望する勤務地・定住先とその理由、勤務地を決定したタイミングについて、アンケートを行った。若手の地方出身者は帰属意識が高い?首都圏出身者は? まず、回答者の出身エリアと主な勤務エリアは以下のとおりであった。―――――――――――――――――――<出身エリア>北海道:5.8%  東北:7.2%  関東:22.3%  中部:16.7%  近畿:21.3%  中国:8.3%   四国:4.3%  九州・沖縄:12.8%  海外:0.6%<現在の主な勤務エリア>北海道:5.3%  東北:6.1%  関東:30.1%  中部:16.1%  近畿:19.6%中国:8.3%   四国:3.9%  九州・沖縄:10.3%  海外:0.2%――――――――――――――――――― 将来的な勤務希望地(出身地や実家[義実家を含む]のある地域での勤務希望)について、全体の60%超が「はい(いつか戻りたい)」「現在、出身地・実家のある地域で働いている」と回答。また、すでに地元などで勤務している医師は40代以上では4割を超えていた。 今回、本アンケート結果のp.12では、参考までに年代・出身地別の移住意向率も示した。現在、県外に勤務し将来的に移住を希望する割合は20代で高く(47.7%)、首都圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)を除外した場合にも高い傾向であった。また、驚いたことに、首都圏出身者(263人)のうち85人が首都圏外で勤務していたが、そのうちの7割は戻る意向を示さなかった。一方で、東北エリア、中国エリア出身者の県外勤務者の移住意向は低かった(それぞれ9.1%、7.4%)。 なお、診療科別(内科・外科・その他)での希望有無の違いを比較すると、外科系医師の移住希望はやや少ない傾向であった。希望地の選択理由、20代と60代で共通する理由 本結果から各年代での勤務地選択理由の傾向が明らかになった。20代は「地域/へき地医療への貢献」(18.5%)、30~40代は「子育て・教育環境」(各25.0%、14.9%)を重視する傾向にあった。50代以降では、「親の介護/実家管理」などの問題もやや増加した。60代以降でも約2割の医師は「地域/へき地医療への貢献」を選択していた。 各年代の選択理由については、以下のようなコメントも寄せられた。<20代>・地域枠(山梨県出身/山梨県勤務・糖尿病・代謝・内分泌内科)・出世するためにどこへでも行きたいから(兵庫県出身/千葉県勤務・病理診断科)・家賃が高い(大阪府出身/東京都勤務・眼科)<30代>・義務だったため(新潟県出身/新潟県勤務・内科)・医局を辞め新しい居住地を探す際に、地元が便利なため(神奈川県出身/兵庫県勤務・神経内科)<40代>該当コメントなし<50代>・子を保育園に預けられないとき(感染症など)、実家にみてもらうため。教授から「実家がないと復帰は無理」と言われ、辞めることを暗に勧められた(岩手県出身/岩手県勤務・心療内科)・需要と供給、利便性、将来性などのバランス(東京都出身/山口県勤務・精神科)<60代>長女だから仕方ない(大阪府出身/大阪府勤務・小児科)将来の勤務先、20~30代が意識する時期は… 将来の勤務地を意識する/した時期については、各年代ともに「意識したことがない」医師が最も多かったものの、その傾向は若手になるほど減少に転じている。年代別でみると、20~30代は「前期研修時」(各25.0%、16.2 %)、40代は「医学部入学時」(10.9%)、50代は「親の健康状態の変化」(9.3%)、60代は「入局時」(12.6%)という結果であった。 このほかのアンケート結果の詳細は以下のページに掲載中。『将来の希望勤務地は?いつ決めた?/医師1,000人アンケート』

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日本における経口片頭痛予防薬の有効性、atogepant vs.リメゲパント

 片頭痛は、日本の成人において3.2~8.4%が罹患していると推定されている。近年、片頭痛予防の新たな選択肢として、経口のカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)受容体拮抗薬(ゲパント系薬剤)が登場している。慶應義塾大学の滝沢 翼氏らが実施した日本人患者を対象としたアンカーマッチング調整間接比較試験の結果、atogepantはリメゲパントと比較して、月間片頭痛日数の減少やQOLの改善において、より高い有効性を示すことが判明した。Expert Review of Neurotherapeutics誌2026年1月号に掲載。 日本における経口CGRP受容体拮抗薬の承認状況は、リメゲパントが2025年9月に、急性期治療と発症抑制の両方を適応として日本で初めて承認され、同年12月16日に発売された。一方、atogepantについては、2025年3月に発症抑制に関する承認申請が行われ、同年12月には急性期治療に関しても製造販売承認が申請されている。 本研究では、直接比較試験が存在しないatogepantとリメゲパントの有効性と安全性を比較するため、3つのプラセボ対照試験(RELEASE試験、PROGRESS試験、BHV3000-309試験)のデータを用いたアンカーマッチング調整間接比較試験が実施された。解析対象は、日本人片頭痛患者(反復性片頭痛、または月間頭痛日数[MHD]が18日以下の慢性片頭痛)で、atogepant群147例(平均年齢42.6歳、男性18.4%、ベースラインの月間片頭痛日数[MMD]7.8日)と、リメゲパント群240例(平均年齢44.8歳、男性8.3%、MMD 9.3日)であった。有効性の評価項目は、12週間におけるMMDおよび月間急性期治療薬使用日数(MUD)のベースラインからの変化量などであった。 主な結果は以下のとおり。・12週間におけるMMDの減少量は、atogepant群がリメゲパント群と比較して有意に大きかった(平均差[MD]:-1.33日、95%信頼区間[CI]:-2.48~-0.18、p=0.024)。・MUDにおいても、atogepant群で有意な減少が認められた(MD:-1.97日、95%CI:-3.06~-0.87、p<0.001)。・片頭痛特異的QOL質問票(MSQ ver.2.1 RFRドメインスコア)における改善は、atogepant群が有意に優れていた(MD:4.80、95%CI:0.15~9.45、p=0.043)。この差は、臨床的に意味のある最小差(3.2)を上回るものであった。・安全性および忍容性については、両薬剤間で有意な差は認められなかった。 本研究の結果、atogepantは、リメゲパントと同等の安全性を有し、日本人片頭痛患者の症状軽減とQOL向上においてより高い効果を示す可能性が示唆された。著者らは、本結果の背景として、投与スケジュールの違い(atogepant 60mgの1日1回投与、リメゲパント 75mgの隔日投与)や、分子レベルでの受容体阻害能の違いが影響している可能性を指摘している。一方で、本研究は臨床試験の間接比較による限界があるため、今後はリアルワールドデータを用いたさらなる検証が必要だとしている。

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タンジール病〔Tangier disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義タンジール病は、高比重リポ蛋白(HDL)コレステロール(HDL-C)、アポリポ蛋白(アポ)A-I濃度が著しく低下し、オレンジ色の咽頭扁桃腫大、肝脾腫、角膜混濁、末梢神経障害などの種々の臓器にコレステロールエステルが蓄積することに伴う臨床症状を特徴とする常染色体潜性(劣性)遺伝疾患である。なお、血清脂質値は常染色体共優性遺伝。1961年に米国バージニア州タンジール島の5歳の少年から摘出されたオレンジ色の異常扁桃の病理所見で、多数の泡沫細胞が存在し、この少年と姉の血清HDL-Cが極端な低値を示すことが、Fredricksonらによって報告され「タンジール病」と命名された1)。アポA-Iによる細胞からのコレステロール引き抜きに関与するATP-binding cassette transporter A1(ABCA1)の遺伝子異常に起因する極めてまれな疾患で、早発性冠動脈疾患を来すため早期診断が重要である。■ 疫学極めてまれな難病で、世界全体でこれまで約130例程度しか報告がなく2)、有病率はおよそ100万分の1と推定されている。わが国でも報告例は十数家系程度であるが、未診断例も存在する可能性がある。HDL-C値の下位1%未満の集団の10%にABCA1変異が同定されている。■ 病因ABCA1遺伝子は染色体9q31に位置し、その機能喪失型変異によりタンジール病が生じる3)。ABCA1は細胞膜上のコレステロール輸送体で、血中の遊離アポA-IがABCA1に結合し、ABCA1は細胞内から余剰のコレステロールとリン脂質を細胞外へ排出し、アポA-Iに受け渡し、原始HDLである円盤状のpreβ-HDL粒子を形成する役割を担う。本症では、ABCA1の機能喪失によりpreβ-HDL粒子が形成されず、HDL産生が著しく低下する。また、細胞内からのコレステロール搬出が障害された結果、コレステロールエステルが網内系、皮膚、粘膜、末梢神経のシュワン細胞などの細胞内に異常蓄積し、多臓器で泡沫細胞が出現して機能障害や細胞死を引き起こす。骨髄、肝、脾、リンパ節、皮膚、大腸粘膜、平滑筋などに泡沫細胞が認められ、その結果種々の症状を来す。■ 症状1)臓器腫大と機能障害コレステロールエステルの異常沈着は全身の網内系臓器や粘膜に及ぶため、多彩な臓器腫大・障害が生じる。主な所見は以下のとおりである。(1)オレンジ色扁桃腫大:扁桃は分葉・腫大し、明らかなオレンジ色または黄~灰色の表面を持つ。再発性扁桃炎や扁桃摘出の病歴がしばしば認められる(図1)。(2)肝脾腫:肝腫大は約3分の1に認めるが、肝機能障害は通常軽微である。脾腫は約半数で認められ、軽度の血小板低下症と網状赤血球増加を伴う。脾臓・肝臓への脂質沈着により腹部膨満や肝脾腫が身体診察で認められる。(3)その他臓器へのコレステロールエステル蓄積:リンパ節、胸腺、腸管粘膜、皮膚などで、組織学的には泡沫細胞浸潤として確認される。大腸粘膜沈着に起因する難治性の慢性下痢を呈したまれな症例もある。(4)眼病変:角膜へのコレステロール沈着により角膜混濁(角膜の乳白色の濁り)を来す。多くは軽度で視力障害は生じないが、進行すると視力低下を来す可能性がある。網膜にも色素変性様所見(斑点状の色素沈着)が報告されている。(5)血液・骨髄:血中HDL欠損に伴い赤血球形態異常(棘状赤血球や口裂赤血球など)が報告されており、軽度の溶血性貧血を伴う例もある。骨髄生検では泡沫化マクロファージの貯留像を認める。図1 タンジール病患者のオレンジ色扁桃A:舌扁桃 B:咽頭扁桃(文献2より引用)画像を拡大する2)末梢神経障害軽度から重症までさまざまな末梢神経障害が報告されている。知覚障害、運動障害または混合障害が、一過性または持続性に出現する。小児~若年期から発症し、シュワン細胞内へのコレステロール沈着により髄鞘脱落を起こし、多彩な神経症候を呈する。深部知覚や腱反射の低下はまれで、脳神経を含む末梢神経の再発性非対称性障害や下肢に強い対称性の末梢神経障害や脊髄空洞症様の末梢神経障害として出現する。3)早発性の動脈硬化性疾患タンジール病(ABCA1遺伝子変異ホモ接合体)中の20%で狭心症・心筋梗塞などの動脈硬化性心血管病変の症状が認められる。さらに35~65歳の本症患者では約44%と対照群(男性6.5%、女性3.2%)と比較すると著しく高頻度である。ただ、ABCA1のミスセンス変異の機能障害の違いにより、動脈硬化の程度は個々の症例により異なる。したがって、各患者での動脈硬化のリスク評価と画像診断が必要である。血管内超音波法(IVUS:intravascular ultrasound)による冠動脈の観察で、強度のびまん性の石灰化病変を認めた報告4)や、全身性の重症の動脈硬化病変を合併した症例の報告2)がある。4)耐糖能異常・2型糖尿病膵β細胞におけるABCA1欠損はインスリン分泌障害を引き起こすことが示されており、本症の患者で耐糖能異常や2型糖尿病を合併しやすい一因と考えられる。ABCA1欠損により、膵島(とくにβ細胞)へのコレステロール蓄積によるインスリン初期分泌能低下が機序と考えられる5)。耐糖能異常や2型糖尿病の管理は心血管リスク低減のためにも重要である。■ 予後タンジール病そのものは先天的代謝異常であり、生涯にわたりHDL欠損状態が続くため、長期療養と経過観察が必要である。適切な管理により小児~成人期まで比較的良好に経過する症例もあるが、若年~中年期での冠動脈疾患発症や脳卒中により生命予後が短縮するケースもある。予後改善には動脈硬化性合併症の予防と早期介入が最も重要であり、患者のQOL維持のためには症状コントロールと包括的なリスク管理を続ける必要がある。とくに、狭心症、心筋梗塞などの早発性冠動脈疾患の発症に留意し、定期的な動脈硬化性疾患のチェックが重要である。2 診断 (検査・鑑別診断も含む)■ 一般検査血液検査で脾機能亢進による血小板減少症(巨大血小板性血小板低下症)や溶血性貧血(間接ビリルビンや網状赤血球増加)が見られることがある。空腹時血糖上昇、経口糖負荷試験(OGTT)で耐糖能異常やインスリン初期分泌能の指標であるinsulinogenic index を評価し、インスリン初期分泌低下が認められることがある。■ 特殊検査1)脂質検査タンジール病(変異ABCA1遺伝子ホモ接合体または複合ヘテロ接合体)患者では、血中HDL-Cは通常5mg/dL以下(同定された症例の平均3±3mg/dL)と正常の約6%に低下しており、アポA-I値も10mg/dL以下に低下する。LDLコレステロール(LDL-C)も平均正常値の約37%に低下している。これはABCA1欠損により末梢から肝へのコレステロール逆転送が低下し、肝細胞のコレステロール不足からLDL受容体発現が亢進してLDL-Cが低下するためと考えられる。軽度の高TG血症を認めることが多く、TGに富むレムナントリポ蛋白の増加を認める。近年の研究で、ABCA1欠損が肝臓由来のangiopoietin-like protein 3(ANGPTL3)の分泌増加を招き、これが本症患者でみられる高TG血症に関与する可能性が報告されている。一方、変異ABCA1遺伝子ヘテロ接合体(キャリア)では血中HDL-CおよびアポA-I値は正常者の約50%程度に低下する。2)眼科検査コレステロール蓄積による角膜混濁を認めることがあり、眼科で角膜検査が必須である。3)耳鼻科検査本症に特徴的なオレンジ色の扁桃腫大を認めることがあり、耳鼻科での目視検査が必要となる。幼少~青年期に扁桃の著明な腫大と黄色~橙色調への変色がしばしば最初の兆候として現れる。扁桃は分葉状に肥大し、独特のオレンジ~黄灰色を呈するため「オレンジ色扁桃」と呼ばれる。小児期に反復する扁桃炎や扁桃摘出術の既往を有する患者も少なくない。4)画像・生検所見腹部超音波検査で肝脾腫を検査する。オレンジ色扁桃や肝脾腫、角膜混濁などの身体所見から本症を疑った場合、組織生検で泡沫細胞沈着を確認する。とくに直腸粘膜生検は侵襲が比較的低く有用とされ、粘膜固有層にコレステロールエステルを蓄積して泡沫化したマクロファージの集積像が認められれば支持所見となる。同様の所見は骨髄、生検可能な皮膚、肝・脾、生検可能なリンパ節などでも検出される。5)神経内科的検査末梢神経障害精査のため神経伝導速度や筋電図検査で神経障害の分布・程度を評価する。6)早発性動脈硬化性疾患の有無の評価早発性動脈硬化性疾患の有無の精査のため、運動負荷心電図、経胸壁心臓超音波検査、頸動脈エコーや冠動脈CTスキャン検査などで、動脈硬化病変のスクリーニングを行う。無症状でも思春期以降は定期的に心血管評価を実施し、動脈硬化性疾患の発症防止と早期発見に努める。家族内発症が疑われる場合は保因者(ヘテロ接合体)に対する脂質検査によるスクリーニングも重要である。■ 確定診断遺伝子診断でABCA1(ATP-binding cassette transporter A1)遺伝子変異(ホモ接合または複合ヘテロ接合体)を認める。常染色体優性遺伝でHDL-Cが著減するfamilial HDL deficiency(ABCA1遺伝子変異のヘテロ接合体やアポA-I遺伝子変異で起こり、早発冠動脈疾患を合併し、タンジール病のような全身性のコレステロール沈着[オレンジ扁桃・肝脾腫・神経障害]は伴わない)との鑑別が必要である。以下に、厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究班」による本症の診断基準を示す。難病情報センターのホームページ「タンジール病」より引用した(2026年1月20日)。最新の情報については、当該ホームページまたは厚生労働省「原発性脂質異常症に関する調査研究班」のホームページで確認いただきたい。【タンジール病の診断基準】Definite、Probableを対象とする。A.必須項目1)血清HDLコレステロールが25mg/dL未満2)血中アポA-I濃度20mg/dL未満B.症状1.オレンジ色の特徴的な扁桃腫大2.肝腫大または脾腫3.角膜混濁4.末梢神経障害5.動脈硬化性心血管病変C.鑑別診断以下の疾患を鑑別する。レシチンコレステロールアシルトランスフェラーゼ(LCAT)欠損症、アポリポタンパクA-I欠損症、二次性低HDLコレステロール血症*1*1:外科手術後、肝障害(とくに肝硬変や重症肝炎、回復期を含む)、全身性炎症疾患の急性期、がんなどの消耗性疾患など、過去6ヵ月のプロブコールの内服歴、プロブコールとフィブラートの併用(プロブコール服用中止後の処方も含む)HDL-C<25mg/dLの場合、低HDL-C血症の診断フローチャート(図2)6)に従って、二次性低HDL血症を除外し、他の原発性低HDL血症である、古典的LCAT欠損症、魚眼病、アポA-I欠損症を鑑別して診断する(表)6)。遊離コレステロールは増加しておらず、アポA-Iが20mg/dL未満であるが検出限界以下ではない場合、タンジール病が強く疑われる。D.遺伝子検査ABCA1遺伝子変異の同定。ABCA1遺伝子解析が2021年4月に保険収載されている。<診断のカテゴリー>Definite必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの1項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外し、Dを満たすもの。Probable必須項目の2項目をすべて満たす例のうち、Bの2項目以上を満たし、Cの鑑別すべき疾患を除外したもの。図2 遺伝性HDL欠損症の診断フローチャート(文献6より引用)表 遺伝性HDL欠損症の臨床所見の比較(文献6より引用)画像を拡大する3 治療HDL-C低値そのものを直接是正する薬剤は存在しない。また、現在のところ、遺伝子治療によるABCA1の補充などの根本的な治療はなく、臨床で利用可能な特異的治療薬は存在しない。過去にナイアシン(ニコチン酸)薬やフィブラート系薬がHDL-C上昇の目的で試みられたが、タンジール病ではABCA1欠損が根本原因のため薬物でのHDL-C正常化は困難であり、有効性を支持する明確なエビデンスはない。粥状動脈硬化性疾患の著しい増加が問題となるので、心血管リスクを下げる目的でHDL-Cを可能な範囲で増加させるための生活習慣の改善が推奨される。具体的には、有酸素運動、適正体重の維持、禁煙に加え、食事では飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換える(地中海食的なアプローチ)ことなどが推奨される。これらによりHDL-Cが僅かに上昇し得るほか、末梢神経症状の改善が報告されている。高TG血症を伴う場合にはフィブラート系薬、選択的PPARαモジュレーターのペマフィブラート(商品名:パルモディア)や魚油製剤の使用を検討する。本症の血清LDL-C値は一般に低いが、もしそうでない場合はスタチンあるいはそのほかの薬でLDL-C値を低下させる。治療目標は症状軽減と動脈硬化危険因子の管理に置かれ、高血圧があれば厳格な降圧、喫煙者には禁煙指導を行い、すべての心血管リスク因子を包括的に管理する。血糖コントロールのための食事・運動療法(必要に応じ経口血糖降下薬やインスリンなど)も糖尿病合併例では重要となる。さらに、合併する早発性動脈硬化性疾患の早期発見と治療も行う。一方、タンジール病に伴う各臓器・組織の症状には、必要に応じて対症的・外科的介入を行う場合がある。扁桃肥大による呼吸・嚥下障害や反復炎症がある場合、扁桃摘出術を検討する。オレンジ色扁桃そのものは病的ではないが、大きさにより気道狭窄や感染温床となる場合がある。角膜混濁が進行し、視力障害を来した場合には角膜移植が考慮されるが、タンジール病の角膜混濁は軽度で視機能に問題はない例が多く、定期フォローに留めることもある。末梢神経障害に対してはリハビリテーションと支持療法を行う。筋力低下や足下垂に対しては装具装着(足関節装具など)や理学療法による歩行補助を行う。痛みやしびれが強い場合は、プレガバリンやデュロキセチンといった神経障害性疼痛の薬物療法を用いることもあるが、エビデンスは症例報告レベルである。なお、本症は2015年から「指定難病 261」として、医療費給付の対象となっている。4 今後の展望(治験中・研究中の診断法や治療薬剤など)将来的な治療法として遺伝子治療が期待されている。たとえば、肝臓におけるABCA1発現をウイルスベクターなどで補充し、HDL産生を回復させる試みが提案されている。ただし、HDL代謝は全身の細胞で営まれるため、肝細胞への遺伝子導入だけでどこまで臨床効果が得られるかは不明である。また、アポA-Iや合成HDLの補充療法、肝X受容体(LXR)作動薬による残存ABCA1の発現誘導なども理論上考えられるが、いずれも現時点では成功していない。総じて現時点では対症療法と合併症予防が中心であり、新規治療法の実現には今後の研究の進歩が必要である。5 主たる診療科(紹介すべき診療科) 患者の予後は主に動脈硬化性疾患の発症に左右されるため、長期的には主に循環器内科で心血管イベント予防に重点を置きつつ、管理を行う。神経障害やその他臓器合併症への対策を継続するために多職種チーム医療が重要であり、循環器内科医、脳神経内科医、眼科医、消化器科医、遺伝カウンセラーなどが連携して患者を包括的にケアする。また、定期フォローアップでは以下の点に留意する。1)早発性動脈硬化性疾患のモニタリング若年期より定期的な循環器内科的評価を行う。具体的には詳細な問診・診察に加え、必要に応じて心電図や心エコー、運動負荷試験、頸動脈エコー、冠動脈CTなどで無症候性の動脈硬化病変のスクリーニングを行う。血清脂質、血糖、血圧、喫煙の有無のチェックも継続し、LDL-C、TGや血圧が管理目標を逸脱していれば治療を行う。2)末梢神経障害の管理神経症状は進行したり寛解したりするため、脳神経内科医による神経学的評価を定期的に行い、筋力低下や感覚障害の変化をモニタリングする。必要に応じてリハビリ計画を見直し、装具の調整や痛みのコントロールを図る。重度の神経障害に対しては日常生活動作のサポート(理学療法士・作業療法士の介入、補助具導入など)も検討する。3)眼合併症の管理眼科検査を定期施行し、角膜混濁の進展や視力変化を評価する。角膜混濁による視力障害が生じれば眼科的介入のタイミングを検討する。4)脾腫・感染症対策脾摘を施行した場合は感染症予防を徹底する。脾腫を温存している場合も、脾臓破裂を防ぐため、激しいスポーツ時のプロテクター装着や事故防止策について指導する。5)家族検査とカウンセリング患者の血縁者に対しては遺伝カウンセリングを提供し、希望があれば保因者検査(ABCA1遺伝子検査や脂質検査)を実施する。ヘテロ接合体では動脈硬化リスクがやや高い可能性もあるため、生活習慣指導を行う。※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報、主要な研究グループ、その他参考となるサイト)診療、研究に関する情報厚生労働省難治性疾患政策研究事業「原発性脂質異常症に関する調査研究」(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター タンジール病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)日本動脈硬化学会(編):動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版 「低脂血症の診断と治療」 日本動脈硬化学会(2023年6月30日発行)(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)大阪大学医学部附属病院循環器内科(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)りんくう総合医療センター循環器内科  (一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Fredrickson DS, et al. Ann Intern Med. 1961;55:1016-1031. 2) Muratsu J, et al. J Atheroscler Thromb. 2018;25:1076-1085. 3) Brooks-Wilson A, et al. Nat Genet. 1999;22:336-345. 4) Komuro R, et al. Circulation. 2000;101:2446-2448. 5) Koseki M, et al. J Atheroscler Thromb. 2009;16:292-296. 6) 日本動脈硬化学会(編). 動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド 2023年版. 低脂血症の診断と治療. 日本動脈硬化学会. 2023. 公開履歴初回2026年2月16日

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認知症の修正可能な14因子、日本人で影響が大きいのは?

 Lancet委員会では、2017年より認知症の修正可能なリスク因子に関する研究結果を報告しており、最新の研究結果は2024年に公開されている。そこでは、修正可能なリスク因子として14因子が挙げられ、難聴と高LDLコレステロール(LDL-C)が最も影響の大きな因子とされた1)。では、これらの因子の日本人における影響はどうだろうか。その疑問に答える研究結果が、和佐野 浩一郎氏(東海大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科 教授)らによって、The Lancet Regional Health – Western Pacific誌2026年1月号で報告された。本研究では、日本人は難聴が最も影響が大きく、14因子を合計すると最大で38.9%(グローバル研究は45%)が理論上予防可能であることが示された。 研究グループは2024年のLancet委員会の報告に基づき、14の修正可能なリスク因子(教育歴の低さ、難聴、高LDL-C、うつ、外傷性脳損傷、身体不活動、糖尿病、喫煙、高血圧、肥満、過度の飲酒、社会的孤立、大気汚染、未治療の視力低下)を調査対象とした。日本の国民健康・栄養調査や大規模コホート研究などのデータを用いて、各リスク因子の日本国内での該当割合を推定し、集団寄与危険割合(PAF)※1 および潜在的影響割合(PIF)※2 を算出した。これにより、本邦における認知症予防の潜在的規模を定量的に評価した。※1:あるリスク因子が存在しなかったと仮定した場合に、どれだけの割合で疾患発生が予防できた可能性があるかを示す指標※2:あるリスク因子を一定割合減らしたと仮定した場合に、どれだけの割合で疾患発生が減少する可能性があるかを示す指標 主な結果は以下のとおり。・全14因子を考慮した場合、認知症の38.9%が理論上予防可能であると推計された。影響が大きい因子(PAFが大きい因子)は、難聴、身体不活動、高LDL-Cであった。詳細は以下のとおり(括弧内はグローバル研究の数値を示す)。<早期(early life)>教育歴の低さ:1.5%(5%)<中年期(midlife)>難聴:6.7%(7%)身体不活動:6.0%(2%)高LDL-C:4.5%(7%)糖尿病:3.0%(2%)高血圧:2.9%(2%)うつ:2.6%(3%)喫煙:2.2%(2%)過度の飲酒:1.3%(1%)外傷性脳損傷:0.8%(3%)肥満:0.7%(1%)<老年期(late life)>社会的孤立:3.5%(5%)大気汚染:2.5%(3%)未治療の視力低下:0.6%(2%)・PIFについて、危険因子を一律に10%低減させた場合は4.7%(約20.8万人)の認知症が予防され、20%低減の場合は9.2%(約40.8万人)予防されると推計された。 本研究結果について、著者らは「日本における認知症予防戦略として、とくに聴覚ケア、身体活動の促進、代謝関連疾患の管理を優先すべきであることを示唆している。2024年に施行された認知症基本法や今後の認知症施策の具体化に向けて、これらの知見が科学的根拠として活用されることが期待される」とまとめている。

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パーキンソン病〔PD:Parkinson's disease〕

1 疾患概要■ 概念・定義1817年、英国の外科医であり地質学者であったJames Parkinsonは“Essay on The Shaking Palsy”として6症例のパーキンソン病患者の症状を詳細に報告した。その後、神経学の祖であるJean-Martin Charcotがこのエッセイに着目し「パーキンソン病」と名付け、疾患概念が確立された。本疾患はドパミン神経細胞が脱落するため、動作緩慢、振戦、筋強剛などが出現する。進行すると姿勢保持障害、歩行障害なども顕著になり、転倒のリスクが高まる。さらに、運動症状以外にも睡眠障害、嗅覚低下、自律神経障害、認知症、精神症状など多彩な非運動症状を合併する。そのため日常生活動作が低下し、介護度が高くなり、患者本人の生活の質を悪化させるのみならず、介護者にも多大な影響が及ぶ疾患である。病理学的所見としては、黒質緻密部を中心としたドパミン神経細胞の変性・脱落とレビー小体の形成が特徴である。■ 疫学有病率は10万人当たり100~180人とされているが、65歳以上では1,000人程度存在するといわれている。海外で行われた年齢別有病率を調査した研究では、40~49歳では10万人当たり約40人であるのに対し、80歳以上では約1,900人と報告されており、加齢に伴い急激に増加することがわかる。発症頻度には地域差があり、欧州や北米では高く、アジアやアフリカでは低い傾向がある。また、海外では男性に多いとされる一方で、わが国では女性の有病率が高いと報告されている。■ 病因本疾患の病因は長らく不明とされてきたが、近年の分子病理学的・遺伝学的研究の進展により、その中核にはαシヌクレインの異常凝集と蓄積があることが明らかとなっている。αシヌクレインは、本来シナプス前終末に豊富に存在する可溶性タンパク質であるが、異常構造へ変化するとオリゴマー、プロトフィブリル、フィブリルへと段階的に凝集し、神経毒性を獲得する。これらの凝集体は、神経細胞内でレビー小体やレビー神経突起を形成し、ドパミン神経を中心とした神経変性を引き起こすと考えられている。さらに、病的αシヌクレインは細胞間を伝播する性質を有し、特定の神経回路に沿って病理が拡大することが示唆されている。その一方で、パーキンソン病は単一の原因で発症する疾患ではなく、遺伝的要因と環境要因が複雑に絡む多因子疾患である。αシヌクレインをコードするSNCAは最初に発見された家族性パーキンソン病の原因遺伝子である。さらに常染色体顕性遺伝性パーキンソン病に頻度が高いLRRK2、重大なリスク遺伝子であるGBAなどが同定されており、これらはαシヌクレインの凝集に関与している。また、孤発例においても、複数の感受性遺伝子が発症リスクに寄与することが明らかとなっており、遺伝的背景が病態形成に重要な役割を果たす。そのほか農薬曝露、頭部外傷、腸内細菌叢などの環境因子も発症リスクとして報告されており、遺伝要因と環境要因の相互作用が発症の引き金となる可能性が考えられている。さらに近年では、ミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、神経炎症、タンパク質分解系の破綻など、複数の細胞内異常が相互に関連しながら神経変性を進行させることが示唆されている。とくにリソソーム・オートファジー系の障害は、異常αシヌクレインの蓄積を促進し、分解不能になるという悪循環を形成する重要な病態基盤と考えられている。このようにパーキンソン病の病因は、αシヌクレイン凝集を中心とした分子病態を軸に、多層的・連続的な異常が重なり合うことで発症すると考えられる。2 診断臨床診断は主に症候学的所見に基づいて行われる。2015年に国際パーキンソン病・運動障害学会が診断基準を策定した(表)。この診断基準では、寡動を中心に、振戦と筋強剛のどちらか1つがあるとパーキンソン症状があると判断し、特異的な所見である、レボドパ製剤に対する良好な反応性、レボドパ誘発性ジスキネジア、四肢の静止時振戦、嗅覚低下および123I-MIBG心筋シンチグラフィによる心臓交感神経脱落の証明を支持的診断基準としている。除外基準のみならず、パーキンソン病でも認められるが非典型的な症状や経過をレッドフラッグとして挙げている。支持的基準を2つ以上満たし、除外基準およびレッドフラッグが認められない場合は“clinically established”であり、支持的基準を満たしていてもレッドフラッグを認める場合や、レッドフラッグがなくても十分に支持的基準を満たさない場合は“probable”と診断される。診断基準の特異度は高いが感度は低く、類縁疾患である多系統萎縮症や進行性核上性麻痺といったParkinson-like disorderとの鑑別は難しい。また、運動症状が発症する前より、便秘、嗅覚低下、レム睡眠行動異常症が認められる場合がある。ビデオ睡眠ポリグラフでレム睡眠行動異常障害認められる場合、パーキンソン病を発症するリスクが高まる。採血や画像診断は補助的な診断である。採血では特異的な変化はないが、パーキンソン症状を来す疾患(甲状腺機能亢進症や低下症、ウィルソン病、抗リン脂質抗体症候群など)の鑑別は必要である。神経画像は診断に有用であり、頭部MRIやCTなどの構造画像は除外診断目的で行われる。とくにMRIは被殻の萎縮と被殻外側のスリット、脳梁の萎縮、中脳背側(中脳被蓋部)の萎縮、上/中小脳脚の萎縮、橋の萎縮などに注目し、Parkinson-like disorderと鑑別する。また、DATスキャンを行うことで、パーキンソン症状が黒質線条体のドパミン機能障害により引き起こされていることが確認できる。薬剤性パーキンソニズム、本態性振戦、ジストニア、錐体路障害などによるパーキンソン様症状は正常であり除外できる。123I-MIBG心筋シンチグラフィは心臓交感神経の脱落を確認できるが、認める場合はパーキンソン病に特異的な所見であり、重要な診断の手掛かりとなる。最近、髄液に存在する微量な凝集型αシヌクレインを増幅することで診断できる可能性が示されているが、研究レベルであり実用化はされていない。表 国際パーキンソン病・運動障害学会の診断基準画像を拡大する診断のフローを以下に示す。【パーキンソン病の診断基準(MDS)】■臨床的に確実なパーキンソン病(clinically established Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在し、さらに、1)絶対的な除外基準に抵触しない。2)少なくとも2つの支持的基準に合致する。3)相対的除外基準に抵触しない。■臨床的にほぼ確実なパーキンソン病(clinically probable Parkinson's Disease)パーキンソニズムが存在しさらに、1)絶対的除外基準に抵触しない。2)相対的除外基準と同数以上の支持基準がみられる。ただし、2つを超える相対的除外基準がみられてはならない。■支持的基準(Supportive criteria)1)明白で劇的なドパミン補充療法に対する反応性がみられる。この場合、初期治療の段階では正常かそれに近いレベルまで改善がみられる必要がある。もし、初期治療に対する反応性が評価できない場合は以下のいずれかで判断する。用量の増減により、顕著な症状の変動(UPDRS partIIIでのスコアが30%を超える)がみられる。または患者または介護者より治療により顕著な改善がみられたことが確認できる明らかに顕著なオン/オフ現象がみられる2)L-ドパ誘発性のジスキネジアがみられる。3)四肢の静止時振戦が診察上確認できる。4)ほかのパーキンソニズムを示す疾患との鑑別診断上、80%を超える特異度を示す検査法が陽性である。現在この基準を満たす検査として以下の2つが挙げられる。嗅覚喪失または年齢・性を考慮したうえで明らかな嗅覚低下の存在MIBG心筋シンチグラフィによる心筋交感神経系の脱神経所見■絶対的除外基準(Absolute exclusion criteria)1)小脳症候がみられる。2)下方への核上性眼球運動障害がみられる。3)発症5年以内に前頭側頭型認知症や原発性進行性失語症の診断基準を満たす症状がみられる。4)下肢に限局したパーキンソニズムが3年を超えてみられる。5)薬剤性パーキンソニズムとして矛盾のないドパミン遮断薬の使用歴がある。6)中等度以上の重症度にもかかわらず、高用量(>600mg)のL-ドパによる症状の改善がみられない。7)明らかな皮質性感覚障害、肢節観念運動失行や進行性失語がみられる。8)シナプス前性のドパミン系が機能画像検査により正常と評価される。9)パーキンソニズムを来す可能性のある他疾患の可能性が高いと考えられる。■相対的除外基準(Red flags)1)5年以内に車椅子利用となるような急速な歩行障害の進展がみられる。2)5年以上の経過で運動症状の増悪がみられない。3)発症5年以内に重度の構音障害や嚥下障害などの球症状がみられる。4)日中または夜間の吸気性喘鳴や頻繁に生じる深い吸気*注など、吸気性の呼吸障害がみられる。5)発症から5年以内に以下のような重度の自律神経障害がみられる。起立性低血圧:立位3分以内に少なくとも収縮期で30mmHgまたは拡張期で15mmHgの血圧低下がみられる発症から5年以内に重度の尿失禁や尿閉がみられる6)年1回を超える頻度で繰り返す発症3年以内の転倒。7)発症から10年以内に、顕著な首下がり(anterocollis)や手足の関節拘縮がみられる。8)5年の罹病期間の中で以下のようなよくみられる非運動症候を認めない。睡眠障害:睡眠の維持障害による不眠、日中の過剰な傾眠、レム睡眠行動障害の症状自律神経障害:便秘、日中の頻尿、症状を伴う起立性低血圧嗅覚障害精神症状:うつ状態、不安、幻覚9)他では説明のできない錐体路症状がみられる。10)経過中一貫して左右対称性のパーキンソニズムがみられる。*注:inspiratory sighs;多系統萎縮症で時にみられる呼吸障害の1つで、しばしば突然不規則に生じる深いため息様の吸気。(文献1より引用)3 治療本疾患はドパミン神経変性により運動症状および多彩な非運動症状を呈するため、ドパミン補充療法が治療の中心である。L-ドパ製剤は最も有効性が高く中心的薬剤であるが、吸収に食事の影響を受けやすいこと、phasicな刺激によりL-ドパ誘発性ジスキネジアが生じやすく、半減期が短いためウェアリングオフを誘発することが課題となる。MAO-B阻害薬はドパミン分解を抑制することで効果を発揮する。すくみ足に効果があることが示されている。ドパミン受容体作動薬は半減期が長く、continuous dopaminergic stimulation(CDS)に近い刺激が可能で、ジスキネジア発現を遅らせる一方、眠気、衝動制御障害、精神症状に注意を要する。ウェアリングオフ出現時には、L-ドパ頻回投与やCOMT阻害薬併用により血中濃度の安定化を図る。また、アマンタジンを早期から始めることで、ジスキネジアの発現抑制が可能であることが示されている。経口治療で調整困難な場合にはデバイス補助療法を考慮する。経腸的L-ドパ持続療法や皮下持続投与製剤はオフ時間を短縮し、運動の日内変動を大きく改善する。さらに、L-ドパ製剤への反応性を有し、重度の認知症や精神症状を伴わない症例では脳深部刺激療法(DBS)も考慮される。主なターゲットは視床下核(STN)と淡蒼球内節(GPi)であり、STN刺激は薬剤減量効果が期待できる一方、GPi刺激はL-ドパ誘発性ジスキネジアの抑制に有効である。効果は同等とされるが、薬剤減量ができるSTNがfirst choiceである。強い振戦が主体の場合には視床Vim核が選択される。DBSは運動症状を安定化させ、薬物治療の限界を補完する治療オプションであり、適応がある症例の場合、必ず考慮すべきである。4 今後の展望近年、分子病理学的研究やバイオマーカー研究の進展により、パーキンソン病は従来の臨床症候に基づく疾患概念から、αシヌクレイン病理を中核とした生物学的疾患概念へと大きく変容しつつある。とくに、微量な病的αシヌクレインを検出可能とする種増幅アッセイ(seed amplification assay:SAA)は、発症前・前駆期から疾患を同定しうる技術として注目されている。また、脳に蓄積するαシヌクレインを可視化するPET検査も開発されている。これらのバイオマーカーの確立は、早期診断のみならず、疾患の生物学的病期分類や層別化を可能とし、疾患修飾療法(disease-modifying therapy:DMT)の研究を推進する際に適切な対象集団の選定に直結する。現在までに、αシヌクレイン病理、神経変性、遺伝背景を統合した新たな分類・病期分類の枠組みが提唱されており、今後の臨床試験や治療戦略の基盤となることが期待される。5 主たる診療科脳神経内科脳深部刺激療法を行う場合は脳神経外科※ 医療機関によって診療科目の区分は異なることがあります。6 参考になるサイト(公的助成情報、患者会情報など)診療、研究に関する情報日本神経学会 パーキンソン病診療ガイドライン2018(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報)難病情報センター パーキンソン病(一般利用者向けと医療従事者向けのまとまった情報) 1) Bloem BR, et al. Lancet. 2021;397:2284-2303. 2) Armstrong MJ, et al. JAMA. 2020;323:548-560. 3) Ben-Shlomo Y, et al. Lancet. 2024;403:283-292. 4) Hatano T, et al. J Mov Disord. 2024;17:127-137. 5) Postuma RB, et al. Mov Disord. 2015;30:1591-1601. 公開履歴初回2026年2月13日

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てんかん重積状態に対するジアゼパム点鼻液の利点

 てんかん重積状態(status epilepticus:SE)においては迅速な対応が予後を左右する。新たに登場したジアゼパム点鼻液(商品名:スピジア)が病院前治療にいかなる変革をもたらすのか、3人の専門家が紹介。迅速な発作終息がもたらす神経学的予後の改善と、患者・家族のQOL向上に向けた新たな可能性が示された。薬剤抵抗性てんかんの危険性 日本のてんかん患者は42万例と推定されるが、文献などによれば100万例にのぼる可能性がある。その中で、抗てんかん薬でも発作をコントロールできない薬剤抵抗性患者は20~30%いるとされる。てんかん発作の中でもSEは、「発作がある程度の長さ以上に続くか、または、短い発作でも反復し、その間の意識の回復がないもの」と定義される。SEの中でも5分以上持続するケースは治療対象となり、30分以上持続するSEでは高次脳機能障害、運動障害など深刻な後遺障害のリスクがきわめて高くなる。小児における重積化阻止と早期終息の重要性 国立精神神経医療センターの中川 栄二氏は、SEへの移行を未然に防ぎ、発作を早期に終息させることが、神経学的予後を改善するための最重要戦略であると述べた。 消防庁の報告では入電から医師への引継ぎまでに30分以上要した例は8割。 SEによる後遺症を回避するうえでも、医療機関に着く前の介入(病院前治療)は必要だ。小児てんかん重積状態・けいれん重積状態治療ガイドライン2023においても病院前治療の必要性が明記されている。 病院前治療としてのレスキュー薬の現状は満足できるものではない。現在のレスキュー薬はジアゼパム坐剤、ミダゾラム口腔用剤、抱水クロラールの坐剤/注腸である。しかし、発作時すぐに使えないなどの問題があり、使用後に救急搬送が必要になる場合も少なくない。簡便に投与でき、効果発現が早く、副作用が少なく、長時間作用を有するレスキュー薬が求められていた。 そのような背景の中、ジアゼパム点鼻液が承認された。点鼻液という特性から発作時にも投与しやすい。同剤は点鼻投与でありながら97%という生体利用効率を示し、非侵襲的で確実な血中濃度の立ち上がりを実現している。 小児患者における臨床試験では良好な成績も示されている。抗てんかん薬使用中も発作を発症した、あるいはジアゼパムによる発作抑制が必要な患者において、初回投与時の奏効率(発作抑制割合)は62.5%、1週以降24週後までの奏効率は80.2%にのぼった。けいれん発作消失までの時間中央値は1.5分で、5〜10分という坐剤の効果発現を考えると臨床的意義は大きい。ジアゼパム点鼻液の治療患者におけるSEの再発抑制は9割を超えていた。有害事象についても口腔用液で懸念される呼吸抑制のような重篤なものは認められておらず、医療機関外での使用における安全性も示されている。 近年、SE移行リスクのある発作に対する迅速介入の治療概念として「FAST(First Aid Seizure Termination)」が提唱されている。「迅速な効果発現と長時間持続を併せ持つジアゼパム点鼻液は新たなFAST治療薬」と中川氏は期待を寄せる。成人のSEにおけるジアゼパム点鼻液の可能性 獨協医科大学の藤本 礼尚氏は、成人てんかん患者のSE治療においてジアゼパム点鼻液の早期介入の可能性を訴えた。 てんかんは小児だけでなく成人にも多い。SEによる死亡率は成人でも高く、日本では8.5%、米国では20%を超えるという報告もある。前述のように現状の救急搬送は30分を超えており、てんかん治療ガイドラインによる5分以内のSE治療開始は困難だ。この「空白の時間に脳損傷が進行してしまうリスクがある」と藤本氏は警鐘を鳴らす。 成人のSEについても日本のレスキュー薬は十分とは言えない。海外ではSEに対する病院前治療の選択肢は豊富だが、日本の成人に対する保険適用は坐剤のみであった。成人の衣服を脱がせて坐剤を投与することはきわめて困難であり、成人SEに対するレスキュー治療の新たな選択肢が求められていた。 ジアゼパム点鼻液は成人にも使用可能であり、臨床試験でも有望な成績を示す。海外の成人を含む臨床試験の結果、作用発現までの時間は2分、発作停止までの時間は4分(いずれも中央値)であった。患者調査では約8割が2時間以内に普段の状態に戻ったと回答している。 「成人てんかんも救急搬送に頼らないで発作対応を目指すべき。将来は海外と同様に救急救命士がレスキュー薬を使用できることが望まれる」と藤本氏は述べる。患者・家族の視点から見たジアゼパム点鼻液の可能性 ドラベ症候群患者家族会の黒岩 ルビー氏は、ジアゼパム点鼻液による早期の発作終息は、不必要な救急搬送を回避し、患者とその家族のQOLを改善すると期待を示した。 ドラベ症候群は乳幼児期からてんかん重積発作を繰り返す希少・難治性のてんかんである。同家族会のアンケートでは、SEによる救急要請の回数は、11~20回が3割弱、31回以上は2割という結果であった。SE後の急性脳症発症を経験した割合は17%、その72%は後遺症を有している。 「元気だった子が、突然一生残る重度の障害を負うリスクがある」と黒岩氏は懸念する。また、頻繁な救急搬送や夜間発作が家族の慢性的な不安やうつ状態を招いてしまう。 ジアゼパム点鼻液により、てんかん発作の遷延を防ぐことができる。 さらに救急搬送が回避できることで、病院から離れられない生活から解放される可能性がある。とはいえ、発作はいつどこで起きるか予測ができない。家族と離れている保育園、学校、施設などにおいても点鼻薬のような簡便な手段があれば、職員の手で迅速な救護が可能となる。「そういった環境を整備していくことが重要だ」と黒岩氏は訴えた。

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日本における認知症有病率、2012年から変化〜久山町研究

 2010年代以降、アジア地域における認知症の有病率、発症率、生存率がどのように変化したかを調査した集団ベースの研究は、これまでほとんどなかった。九州大学の小原 知之氏らは、日本のコミュニティにおける37年間の疫学データを用いて、認知症の有病率、発症率、生存率の変化を調査した。Alzheimer's Research & Therapy誌2025年12月29日号の報告。 65歳以上の日本の地域住民を対象に、認知症に関する横断調査を7回実施した(1985、1992、1998、2005、2012、2017、2022年)。また、1988年(803例)、2002年(1,231例)、2012年(1,519例)に、認知症を発症していない65歳以上の住民を対象とした3つのコホートを設定し、それぞれ10年間フォローアップ調査を行った。認知症有病率の傾向は、ロジスティック回帰モデルを用いて検証した。年齢と性別で調整した後、コホート間で認知症発症率と認知症発症後の生存率を比較するため、Cox比例ハザードモデルを用いた。 主な結果は以下のとおり。・認知症の粗有病率は、1985〜2012年にかけて有意な増加が認められた(1985年:6.7%、1992年:5.7%、1998年:7.1%、2005年:12.5%、2012年:17.9%、p for trend<0.01)。その後、2012〜22年にかけて有意な減少が認められた(2017年:15.8%、2022年:12.1%、p for trend<0.01)。・年齢と性別を調整した後でも、同様の傾向が認められた。・さらに、年齢および性別で調整した認知症発症率は、1988〜2002年のコホートで有意な増加が認められた(調整ハザード比[aHR]:1.68、95%信頼区間[CI]:1.38〜2.06)。その後、2002〜12年のコホートでは有意な減少が認められた(aHR:0.60、95%CI:0.51〜0.70)。・認知症発症後の年齢および性別で調整した5年生存率は、1988〜2002年のコホートでは有意な増加が認められた(47.3%→65.2%、p<0.01)が、2002〜12年のコホートでは有意な変化は認められなかった(65.2→58.9%、p=0.42)。 著者らは「2012年以降、日本における認知症の有病率と発症率は、減少傾向が観察された。認知症の発症率の低下は、高血圧や糖尿病といった生活習慣病の予防とマネジメントの改善、そして健康的な生活習慣行動への意識向上と促進によるものと考えられる」と結論付けている。

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気圧の変化は片頭痛の重症度や頻度に関係しているのか?~メタ解析

 片頭痛は、最も一般的な神経疾患の1つであり、悪心・嘔吐、羞明、音恐怖、感覚・視覚障害などの症状を伴う頭痛発作を特徴とする疾患である。気象条件などのさまざまな因子が潜在的な片頭痛の誘発因子であると考えられている。グレナダ・St. George's UniversityのAbduraheem Farah氏らは、気圧変化が片頭痛の重症度、頻度、持続時間に及ぼす影響を調査した既存エビデンスを評価し、統合することを目的として、システマティックレビューおよびメタ解析を実施した。Cureus誌2025年11月14日号の報告。 本システマティックレビューは、PRISMAガイドラインに準拠し、実施した。適格基準を定め、PubMed、SCOPUS、EMBASE、CINAHLより包括的に検索した。関連研究をスクリーニングし、事前に定義されたスプレッドシートを用いてデータを抽出した。研究の質とバイアスのリスクは、NIHの観察研究、コホート研究、横断研究のための品質評価ツールを用いて評価した。 主な内容は以下のとおり。・特定された研究979件のうち、包含基準を満たした14件(1.4%)の2,696例(11〜70歳)を分析に含めた・対象者の2,372例(87.9%)は女性であった。・多くの研究は成人を対象としており、特定の地域で実施されていた。・すべての研究で主要な曝露として気圧が検討されていた。しかし、気圧変化の測定方法、片頭痛の重症度、時期、データソースは、各研究により大きく異なっていた。・結果の一貫性は認められなかった。しかし、いくつかの研究では、気圧の低下または急激な変動と片頭痛の頻度増加との有意な関連が報告されていた。ただし、重症度との関連を認めた研究は少なく、片頭痛の持続期間との関連を特定した研究はなかった。・既存のエビデンスの全体的な質は、測定方法、対象集団の特性、研究デザインにおける異質性など、方法論的な問題や潜在的なバイアスによって制限されていた。 著者らは「気圧の低下または変動と片頭痛の頻度増加との関連を示唆するエビデンスもいくつかあったが、片頭痛の重症度との関連は依然として不明であり、発作持続時間との関連を裏付けるエビデンスも存在しない。気圧の変化と片頭痛の特徴との関係を明らかにするためには、標準化された評価ツールや、より多様性に富んだ大規模な対象集団を用いた質の高い研究が求められる」としている。

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認知症予防に「エビデンス」はあるか? Lancetの14の危険因子を読み解く(前編)【外来で役立つ!認知症Topics】第38回

認知症を「予防」できるのか?認知症基本法の2つの軸は、予防と共生だとされる。この法律の成立過程では「認知症を予防できるのか? できもしないものを法律の目玉にするのはいかがなものか」という厳しい意見が相次いだ。背景には、家族が懸命に予防に努めながらも発症を防げなかったという、切実なケースが少なくなかったからだ。「主人はアルツハイマー病予防に良いとされる運動も脳トレも十分やった。睡眠もしっかり取り、栄養面では私が地中海式の食事作りに励んだ。だけどアルツハイマー病になり、最後は何もわからなくなって亡くなった。私たちが予防を怠けていたからこうなったと言うの?」確かに臨床の場においてこのような例は少なくない。血管性認知症なら血圧や血糖管理に一定の予防効果が期待できるだろう。しかし、アルツハイマー型認知症については、少なくとも近年までは「これ!」という手応えのある予防法はなかった。だからこそLancet誌では、2017年からGill Livingston氏を中心に認知症の真の危険因子を特定する試みを始め、2020年、2024年に改訂版が出された1,2,3)。最新の2024年版では「14の因子」が示され、これらに対応することで認知症発症を45%抑制できると述べられている。危険因子の定義と分類そもそも「危険因子(リスクファクター)」とは何か? どんな疾患も、とくに認知症のような生活習慣病においては、科学的根拠に基づき、疾患の発生と関連するとされる個々の因子を指す。科学的根拠があるとは因果関係が証明されていることである。危険因子は以下の5つのカテゴリーに分類される。1)行動危険因子:喫煙・飲酒、運動習慣などライフスタイル。2)生理学的危険因子:高血圧、肥満など主に生活習慣病に関連するもの。3)人口統計学的危険因子:年齢や性別など基本属性。4)環境危険因子:大気汚染や温暖化など。5)遺伝的危険因子:アルツハイマー病ならAPOE遺伝子など。Lancet誌が示したリスク因子は、これら5つのうち、1)行動危険因子、2)生理学的危険因子、4)環境危険因子に関わるものである。3)人口統計学的危険因子と5)遺伝的危険因子といった、個人の努力で修正不可能な因子は除外されている。画像を拡大するLancet誌のリスク因子は、1)として教育、運動、肥満、飲酒、喫煙、孤独、うつ、2)では糖尿病、高血圧、高LDL、難聴、視力低下、頭部外傷、4)として大気汚染に分けられる。アルツハイマー病理の変遷と「リスク」の正体アルツハイマー病研究の源流は、老人斑の主成分アミロイドβ、神経原線維の主成分タウにある。ところが、近年の抗アミロイドβ抗体薬の治験等を通じて、これらを減らしてもアルツハイマー型認知症は進行することが明らかになった。そこで近年では、神経炎症、酸化ストレス、さらに血液脳関門(BBB)などを介して病勢が進むと考えられ、その方向に沿った新薬も開発されつつある。ある要因をアルツハイマー病など認知症の「リスク」と呼ぶ以上、その要因がなぜ認知症の病理を生じさせるのか合理的説明が必要だ。その考え方に沿って、報告されたリスクに関する文献をたどってみた。ほとんどの要因について、アミロイドβやタウといった「伝統的」なものに働きかけるメカニズムだけでなく、神経炎症、酸化ストレス、さらにBBBを介する「新顔」のメカニズムにも言及されていた。以上の、いわばリスク総論に基づいて、これから14の危険因子の特徴を簡潔にまとめていく。今回は、これらのうち発症への寄与率がいずれも7%と最も高い「中年期からの難聴」と「高LDL」について、その具体的なメカニズムを整理したい。1.難聴がもたらす影響難聴については、「社会的孤立」「認知負荷の増大」「脳の構造的変化」という3つの考え方が主流になっている。まず「社会的孤立」は、聞こえにくくなると他人との交わりを避けるようになり、それが脳への刺激を減らし認知機能の低下を招く。次に「認知負荷の増大」は、難聴になると会話を理解するうえで大きな処理能力が必要になり、その負担が本来なら記憶や思考に使われるべき脳のリソースを損なうとする、いわばエネルギー保存の法則である。さらに「脳の構造的変化」は、長期間にわたる聴覚刺激の減少により、脳の聴覚野が萎縮し始め、この変化が脳全体の萎縮や神経回路の変性を促進する。2.高LDLが脳に与えるダメージ高LDLについては、まず「脳血管障害説」がある。脂質プラークが血管壁に蓄積し、血管を狭窄させて脳への血液灌流を減少させるという。またこれは、脳内でアミロイド前駆体タンパク質の分解酵素を活性化してアミロイドβ生成を高める。さらに、高LDLに関連する酸化LDL(Ox-LDL)がミクログリアを活性化することでサイトカイン放出を増加させ、脳内の慢性的な炎症状態が続き、神経細胞死を促進させる。残りの危険因子については、次回に取り上げる。参考文献1)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care. Lancet. 2017;390:2673-2734.2)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission. Lancet. 2020;396:413-446.3)Livingston G, et al. Dementia prevention, intervention, and care: 2024 report of the Lancet standing Commission. Lancet. 2024;404:572-628.

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第305回 パーキンソン病の多様な症状に携わるらしい脳回路狙いの治療が有効

運動の計画を実行へと移すことに携わる身体認知行動ネットワーク(somato-cognitive action network:SCAN)と呼ばれる脳の神経回路を標的とする治療が、パーキンソン病患者の症状を大幅に改善しました1,2)。世界で1,000万例超が罹患するパーキンソン病(PD)はもともと体を動かしにくくする運動障害の類いとされてきましたが、自律神経障害、睡眠障害、自発性の低下などのさまざまな非運動症状も伴います。PDを特徴付ける病変は、脳の黒質のドーパミン放出神経が変性して皮質-基底核-視床の回路が故障することです。皮質と皮質下を繋ぐその回路はドーパミンを供給する薬のレボドパで最初は治療でき、PDの初期段階の運動症状を抑えることができます。しかし時とともに治療効果は弱まるか運動症状日内変動や不随意運動に邪魔され、神経の電気刺激などの追加治療が必要になってきます。視床下核や淡蒼球内節への脳深部刺激療法(DBS)がPDの種々の運動症状、視床中間腹側核へのDBSが震えの治療に承認されています。DBSの効果は手法の進歩で改善していますが、レボドパが効かないすくみ足への効果はいまひとつで、認知機能障害などの有害事象を招く恐れがあります。それに、脳に電極を差し込む大掛かりな手術が必要なことや高額であることからDBSの普及は限定的です。DBSとは違って外科処置が不要な経頭蓋磁気刺激療法(TMS)などの脳の外からの神経刺激の効果も示されていますが検討は不十分です。標的が明白なDBSとは対照的に、脳の狙い所が定まっていないことがTMSの検討を滞らせているのかもしれません。ワシントン大学のNico Dosenbach氏らの2023年の報告3)に初めて記されたSCANは、覚醒、臓器の状態、全身の動かし方と行動の動機をすり合わせて活動の遂行を調節するようです。運動のみならず動機付けなどの認知も害する多岐に渡るPDの症状に、認知と運動を繋ぐSCANの障害が寄与しているかもしれません。もしそうであるならSCAN狙いの神経刺激でPD症状一揃いを治療できる可能性があります。中国のChangping Laboratoryの研究者らは、米国のDosenbach氏らと協力してその仮説を検討することにしました。研究ではDBS、TMS、集束超音波、服薬などの種々の治療を受ける患者、健康な人、PD以外の運動疾患の患者を含む800例超の脳の写真が解析されました。その結果、SCANと皮質下領域の繋がりがPD患者では強すぎることが判明します。皮質下領域は情緒、記憶、運動の制御に携わります。患者が受けている治療の効果はその過剰な連携を抑制して回路の正常化をもたらしている場合に最も高いことも見てとれました。それらの発見に基づき、研究チームはミリメートル単位の正確さでSCANを非侵襲的に狙えるTMS手段を開発します。患者18例に使ってみたところ、SCANと皮質下の過剰連携が減じ、SCAN狙いではないTMSを受けた別の18例に比べて症状がより早く、より大幅に緩和しました。Dosenbach氏は同氏らが設立したTuring Medical社と協力してSCAN狙いの非侵襲性治療の臨床試験を計画しています2)。試験はパーキンソン病患者の歩行障害の治療を目的とします。Dosenbach氏は集束超音波との組み合わせの効果も検討するつもりです。参考1)Ren J, et al. Nature. 2026 Feb 4. [Epub ahead of print]2)Brain network responsible for Parkinson’s disease identified / Eurekalert3)Gordon EM, et al. Nature. 2023;617:351-359.

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希少疾病の入院患者はパーキンソン病が最も多い/MDV

 2月最終日の「世界希少・難治性疾患の日(Rare Disease Day:RDD)」を前に、メディカルデータビジョン(MDV)は、希少疾病・難病の入院患者推移を発表した。 データは、厚生労働省の「指定難病病名及び臨床調査個人票一覧表」から抽出し、2023年4月以降の同社のDPCデータを用い、入院患者数の年度別推移を分析したものである(対象期間:2023年4月~2025年9月、445施設)。 わが国の希少疾病を含む指定難病は、「原因不明、治療法の未確立、希少性および長期療養性を要件として厚生労働大臣が指定する疾病」であり、2025年4月時点で348疾病が対象となっている。 現在、課題として確定診断までの時間の長さや治療薬の未開発、臨床治験患者などの獲得の困難さなどが指摘されている。新しい治療薬は受療行動に変化をもたらす1)DPCデータに基づく指定難病の入院患者数ランキング(上位3疾患) 1位:パーキンソン病(1万49例) 2位:潰瘍性大腸炎(3,635例) 3位:全身性エリテマトーデス(SLE)(2,662例) 傾向として上位10疾患すべてで実患者数が増加傾向にあり、上位10疾患のうち4疾患を「免疫系疾患」が占め、当該領域の入院患者数増加が目立った。 経年の推移では、後縦靱帯骨化症や顕微鏡的多発血管炎(MPA)など、2023年度から2024年度にかけて入院患者数が約6~14%増加している疾患が複数確認でき、DPC病院における難病診療の受け入れは着実に拡大していた。2)神経・筋疾患領域の入院患者数ランキング(上位3疾患) 1位:パーキンソン病(1万49例) 2位:重症筋無力症(MG)(1,462例) 3位:筋萎縮側索硬化症(ALS)(1,138例) 神経・筋疾患領域の年度別の推移では、慢性炎症性脱髄性多発神経炎/多巣性運動ニューロパチーが約17%増(205→240例)、大脳皮質基底核変性症が約18%増(136→161例)と大幅な増加となった。3)免疫系疾患領域の入院患者数ランキング(上位3疾患) 1位:SLE(2,662例) 2位:皮膚筋炎/多発性筋炎(1,611例) 3位:MPA(1,541例) 2023年度と24年度を比較すると、MPA(690→792例)や好酸球性副鼻腔炎(264→348例)において、前年度比10~30%程度の増加が確認された。診断技術の向上や新規治療薬の浸透が、DPCデータ上の患者数増に寄与している可能性がある。 2023~24年度に承認された薬剤の対象疾患では、ALS(1,138例)、免疫性血小板減少症(1,250例)やMG(1,462例)の入院患者数が突出して多い。その一方で、遠位型ミオパチー(7例)やレノックス・ガストー症候群(20例)などは入院患者数が極めて少数であった。また、2024年度に新薬が承認された肺動脈性肺高血圧症が、前年度比約39%増(163→227例)と急増していた。これは新薬の登場が専門施設への受診を後押しした結果と考えられ、新薬承認が患者の受療行動に変化を及ぼしたと考えられる。

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がんと認知症の発症率は相関している?

 がんと認知症は、高齢化と社会経済の変遷の影響を受ける、主要な世界的健康課題である。いずれも大きな負担を強いるものの、人口レベルでの両者の関係は、これまで十分には検討されていなかった。オーストラリア・アデレード大学のWenpeng You氏らは、発達、人口動態、医療関連因子を考慮したうえで、がんと認知症の発生率の世界的な関連性を調査した。Future Science OA誌2026年12月号の報告。 保健指標評価研究所(IHME)より入手したデータを用いて検討を行った。共変量には、経済的豊かさ、都市化、選択機会の減少、60歳の平均寿命を含めた。204ヵ国を対象とした分析では、相関係数、偏相関係数、主成分分析、重回帰分析(エントロピー法とステップワイズ法)を用いた。サブグループ解析では、所得水準、発展途上国、WHO加盟地域、地政学的グループにより層別化した。 主な結果は以下のとおり。・がんの発生率は、世界全体で認知症の発生率と強い相関を示した(r=0.873、ρ=0.938、p<0.001)。・この関連は地域間で一貫しており、とくに上位中所得国および発展途上国で顕著であった。・偏相関では、調整後もこの関係が持続することが示され、がんは認知症の分散の59.8%であった。・回帰モデルでは、社会経済的および人口統計学的因子は、分散の51.7%であり、がんを含めると80.1%に上昇することが明らかになった。 著者らは「がんの発生率は、世界的に認知症の発症率の主な独立予測因子であり、従来の因子を上回っている。調査結果は、共通の決定因子を浮き彫りにしており、とくにリソースの少ない環境における統合的な慢性疾患戦略の重要性を示唆している」としている。

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てんかん患者向けAIチャットボット「えぴろぼ」との会話解析でわかったこと

 人工知能(AI)搭載チャットボットは、患者教育やメンタルヘルス支援での活用が広がっている。今回、てんかん患者や家族を支援する目的で開発されたAIチャットボット「えぴろぼ」との会話を解析した結果、相談内容によって利用者の気持ちの動きが異なることが分かった。医療相談ではポジティブな感情の強度が高まる傾向が示された一方、内省的な会話ではポジティブな感情の変化が小さい傾向がみられたという。研究は、埼玉大学大学院理工学研究科/先端産業国際ラボラトリーの綿貫啓一氏、国立精神・神経医療研究センターの倉持泉氏によるもので、詳細は12月11日付で「Epilepsia Open」に掲載された。 てんかん患者は、発作だけでなく、誤解や偏見に伴う心理社会的な困難にも直面している。こうした背景から、正確な医療情報と心理的支援を、気兼ねなく受けられる新たな支援手段が求められている。近年、AIチャットボットは匿名性や常時利用可能といった特長から、患者教育やメンタルヘルス支援への活用が進んでいる。てんかん向けに開発されたAIチャットボット「えぴろぼ」は、こうしたニーズに応えるツールであり、会話には医学的質問から感情を伴う内容まで多様な要素が含まれる。本研究では、高度な自然言語処理技術を用いて、AIチャットボット「えぴろぼ」の利用パターンを識別することと、会話を通じて利用者の気持ちがどのように変化するかを明らかにすることを目的とした。 チャットボットのプレテスト段階におけるテキスト上のやり取りを分析対象とした。参加者は埼玉医科大学総合医療センターからリクルートされた計23名で、内訳はてんかん患者10名、介護者10名、医療従事者3名であった。会話内容の分類には、日本語の医療文献で事前学習された自然言語処理モデルであるJMedRoBERTaを用い、ユーザーのメッセージを内容クラスターに分類した。感情の変化の解析にはDeBERTaを用いた。感情分析は、「えぴろぼ」とのやり取りが80回以上あったてんかん患者5名を対象とした。内容分析ではUMAP(Uniform Manifold Approximation and Projection)およびk-means法クラスタリングを用い、客観的な医療相談と主観的で緊急性の低い相談を区別した。さらに、感情分析により、チャットボットとの会話が感情的関与に与える影響を検討した。 解析には、「えぴろぼ」利用者23名によるメッセージのうち、意味のある600件のメッセージを用いた。さらにメッセージの長さによる影響を避けるため、50文字以下の492件を最終的な解析対象とした。 会話内容の解析から、解析内容となったメッセージは主に2つの内容クラスターに分類された。JMedRoBERTaで抽出した特徴量をUMAPとk-means法で解析した結果、てんかん治療薬の調整や管理方法など、客観的な医療情報を求める質問が中心の「医療相談クラスター」と、意味の解釈や気持ちの整理など、主観的・内省的な問いが多い「探索的利用クラスター」が同定された。医療相談クラスターは332件、探索的利用クラスターは160件と、医療相談に関するやり取りが多くを占めていた。 さらに、DeBERTaを用いた感情分析では、メッセージごとにポジティブ・中立・ネガティブの3つの感情強度が算出された。その結果、前向きな学習や気分の安定を目的としたやり取りでは、ポジティブな感情の強度が高まる傾向が確認された。一方で、他者からの見え方や自己評価に関する内省的な問いでは、ポジティブな感情の変化は小さい傾向がみられた。 著者らは、「本解析よりAIチャットボットが単なる情報提供にとどまらず、利用者の感情面においても一定の利益をもたらす可能性が示唆された。一方で、今後はより共感的なAI応答や、利用者の状況に応じた個別化支援の強化が課題になるだろう」と述べている。

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相手の顔が「悪魔」に見える疾患【Dr. 倉原の“おどろき”医学論文】第299回

相手の顔が「悪魔」に見える疾患図. prosopometamorphopsiaが見た人の顔(生成AIにて作成)他人の顔がまるで「悪魔」のように見える疾患をご存じでしょうか。2024年にLancet誌に掲載されたため、ご存じの読者も多いかもしれません。顔貌変形視(prosopometamorphopsia)という疾患があります。顔の形状、質感、位置、あるいは色が歪んで知覚される視覚障害であり、世界的にも報告例が限られています。Mello A, et al. Visualising facial distortions in prosopometamorphopsia. Lancet. 2024 Mar 23;403(10432):1176.患者は58歳の男性です。31ヵ月にわたり「人の顔が歪んで見える」という症状が持続しており、精査目的で受診されました。患者の訴えは非常に具体的でした。顔の各パーツが強く引き伸ばされ、額・頬・顎に深い溝が刻まれるように見えるというのです。本人はこの見え方を「悪魔のような顔」と表現しました。この歪みは、患者が出会うすべての人の顔に認められました。家族であろうと、友人であろうと、初対面の人であろうと、例外なく顔が歪んで見えるのです。興味深いことに、この歪みには明確な選択性がありました。家や車などの物体を見たときには、歪みを自覚しないというのです。つまり、この知覚異常は顔に特異的であり、物体認識には影響を及ぼしていませんでした。さらに注目すべき点があります。患者は、顔が歪んで見えていても、相手が誰であるかは認識できたと述べています。これは、顔の同一性認識(誰の顔であるかを判断する機能)が比較的保たれていたことを示唆しています。相貌失認(prosopagnosia)では顔の同一性認識そのものが障害されますが、本症例ではそうではありませんでした。また、「歪んで見える人物が実は別人である」といった妄想的な症状も伴っていませんでした。そして、本症例の最も特異な点は、画面上あるいは紙面上の顔画像を見た場合には歪みが生じないということでした。目の前にいる人の顔は悪魔のように歪んで見えるのに、その同じ人をスマートフォンで撮影した写真を見ると、正常に見えるのです。患者の既往歴を確認すると、双極性障害と心的外傷後ストレス障害(PTSD)がありました。さらに重要な既往として、43歳時に入院を要する重度の頭部外傷がありました。また、55歳時には一酸化炭素中毒の可能性があり、これは顔の歪み症状が出現する4ヵ月前のことでした。受診時点で処方薬の内服はなく、違法薬物の使用も否定されました。頭部外傷と一酸化炭素中毒という二つの脳への侵襲が、本症例の病因として関与している可能性が考えられました。脳のT1強調およびT2強調MRIでは、興味深い所見が認められました。円形の病変が確認され、T1強調像で低信号、T2強調像で高信号を呈していました。最大径は約1cmでした。左海馬頭部の上方に位置しており、左海馬を約3mm下方へ圧排していました。ただし、左海馬の内部構造自体は保たれていました。神経内科医の評価では、この病変はクモ膜嚢胞である可能性が高いとされました。前述のとおり、患者は「画面上や紙面上の顔画像では歪みが起こらない」と述べていました。この特異な現象学を利用して、研究チームは独創的なアプローチを試みました。まず、同一室内で同一の照明条件下に顔写真を撮影しました。そして患者に、その場で直接見る顔(対面の顔)と、コンピュータ画面上に表示された顔写真を交互に観察するよう依頼しました。これにより、顔貌変形視は本当に「悪魔の顔に見える」ことが示されたと言えます。実際の画像は著作権的に提示できませんが、生成AIで作成した冒頭の図のように、目・口・耳などが横長に伸びて見えるらしいです。

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不思議の国のアリス症候群、特定の薬剤が関連か

 不思議の国のアリス症候群(Alice in Wonderland syndrome:AIWS)は、物体や人の大きさが変わって見える、体が宙に浮くような感覚、時間の歪みなどの視覚的・知覚的歪みを伴う神経疾患である。従来から片頭痛やてんかん発作との関連が指摘され、その後、腫瘍や感染症、さらには薬物との関連も報告されている。フランス・ニース大学病院のDiane A. Merino氏らによる研究グループは、世界保健機関(WHO)の医薬品安全性データベースを解析した結果、モンテルカストやアリピプラゾールなどの特定の薬剤がAIWSの発現に関与している可能性を明らかにした。Psychiatry Research誌2026年2月号に掲載。 本研究では、1967年~2024年12月15日までにWHO医薬品安全性データベースVigiBaseに登録されたAIWS症例を抽出し、小児(0〜17歳)と成人(18歳以上)に分けて不均衡分析を実施した。AIWSと薬剤の関連性は、シグナル指標としてInformation Component(IC)と95%信頼区間(CI)を算出し、95%CIの下限値(IC025)が正の値を示す場合をシグナルが検出されたとみなした。 主な結果は以下のとおり。・抽出されたAIWS 87例のうち、小児は26例(29.9%)で平均年齢7.1歳(標準偏差[SD] 4.0)、成人は45例(51.7%)で40.6歳(SD 13.0)であった。・56例(64.4%)が重篤と判断された。転帰が判明している症例のうち43例(79.6%)が回復または回復中であることが確認された。・小児群では、喘息・アレルギー治療薬のモンテルカスト(IC:3.2、95%CI:1.7~4.2)および注意欠如・多動症(ADHD)治療薬のメチルフェニデート(IC:2.3、95%CI:0.3~3.5)において有意なシグナルが検出された。・成人群では、抗うつ薬のセルトラリン(IC:3.4、95%CI:2.1~4.4)、抗てんかん薬のトピラマート(IC:3.1、95%CI:1.3~4.2)、抗精神病薬のアリピプラゾール(IC:3.6、95%CI:2.5~4.4)、およびモンテルカスト(IC:2.7、95%CI:0.7~3.9)に有意な関連が認められた。・新型コロナウイルスワクチンも頻繁に報告されていたが(17例、19.5%)、統計的に有意なシグナルは検出されなかった(IC:0.63、95%CI:-0.26~1.31)。一方で、髄膜炎菌ワクチンについては有意なシグナルが認められた(IC:2.7、95%CI:1.2~3.7)。 本研究により、メチルフェニデートやモンテルカストといった特定の薬剤が年齢層に応じてAIWSを引き起こすトリガーとなる可能性が示唆された。著者らは、AIWSは通常、薬剤の投与中止により回復するが、視覚的・知覚的歪みの症状が患者に混乱をもたらす可能性があるため、慎重なリスク・ベネフィット評価が必要であり、本研究は自発報告データベースに基づくため、今後さらに大規模な集団ベースの調査が必要だとまとめている。

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パーキンソン病で「痩せる理由」、体重減少の背景にあるエネルギー代謝の変化

 パーキンソン病(PD)は、手足の震えや動作の遅れなどの運動症状で知られる神経変性疾患だが、体重減少も重要な非運動症状の一つとされている。今回、PD患者では糖を使うエネルギー代謝が低下し、脂質やアミノ酸を利用する代謝へとシフトしている可能性が示され、体重減少が疾患特異的な代謝変化と関係していることが明らかになった。研究は、藤田医科大学医学部脳神経内科学教室の東篤宏氏、水谷泰彰氏らによるもので、詳細は11月30日付で「Journal of Neurology, Neurosurgery and Psychiatry(JNNP)」に掲載された。 PDにおける体重減少は、疾患進行や予後と関連する重要な非運動症状であり、体脂肪量の低下が主であることは知られていた。しかし、その背景でエネルギー代謝がどのように変化しているのか、糖・脂質・アミノ酸の利用経路がどう再編されているのかは明らかでなかった。本研究では、PD患者の体組成と血漿中のエネルギー代謝に関連する物質を包括的に解析し、体重減少が単なる栄養不足ではなく、エネルギー利用のシフトを伴う代謝異常と関連する可能性を検討した。 本研究では、藤田医科大学病院脳神経内科においてPDと診断された91名の患者と、対照として年齢・性別をマッチさせた健常人47名が登録された。体組成は生体電気インピーダンス法を用いて評価した。血漿代謝物は、質量分析法により、解糖系およびクエン酸回路に関連する代謝物、脂質やアミノ酸代謝に由来する代謝物など、計17種類の代謝物を測定した。これらのデータを用いて、PDにおける体組成の変化と血漿代謝物との関連を解析した。PD患者と健常対照の体重、BMI、体脂肪量、血漿代謝物濃度などの比較には、Wilcoxon順位和検定を使用した。体組成成分と血漿代謝物濃度との関連については、Spearmanの順位相関係数により相関解析を行った。多重検定の影響を考慮し、血漿代謝物解析では偽発見率(FDR)補正も併用して統計学的有意性を評価した。 PD患者では、健常対照と比べて体重(P=0.003)、BMI(P=0.001)、体脂肪量(P

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第47回 脅威の致死率「ニパウイルス」について、私たちが知っておくべきこと

南アジアを中心に、散発的ながらも深刻な被害をもたらし続けている「ニパウイルス」。高い致死率とパンデミックを引き起こす潜在的なリスクから、世界保健機関(WHO)も「最優先で対策すべき病原体」の一つに指定しています1)。日本とニューヨークの医療現場ではもちろん出会ったことのない感染症ではありますが、最近になりインドで感染者が確認され、話題となっています。今回は、このウイルスの正体や感染の仕組み、そして希望の光となりうるワクチン開発状況について、これまで報告されている論文に基づいて解説します。「最優先病原体」ニパウイルスの正体とは ニパウイルスは、1998年にマレーシアで初めて確認されたウイルスで、オオコウモリを自然宿主としています1)。当初はブタを介してヒトへ感染しましたが、その後のバングラデシュやインドでの流行では、ウイルスに汚染されたナツメヤシの樹液を摂取することによる感染や、ヒトからヒトへの直接感染も確認されています2)。 このウイルスが恐れられている最大の理由は、その高い致死率にあります。流行の場所やウイルスの変異などによっても異なりますが、致死率は40%から、高い場合では75〜100%にも達すると報告されています1, 2)。ただし、新興感染症が生じた場合の常ですが、軽症者や無症状の患者は検出されていない可能性があり、実際の致死率は報告されている数値よりも低くなる可能性が高いと考えられます。しかしいずれにしても、新型コロナウイルスと比較すると、感染した場合の重症度は桁違いでしょう。 感染すると、発熱、頭痛、筋肉痛といった風邪のような症状から始まり、多くの場合は急速に悪化して重篤な脳炎を引き起こします2)。けいれんや意識障害が現れ、発症からわずか24〜48時間で昏睡状態に陥ることもまれではありません1, 2)。また、回復した場合でも、約20%の人に神経学的な後遺症が残るとされており、長期的な生活の質への影響も甚大とされています1)。ヒトからヒトへはどう広がるのか? 一般的にニパウイルスのヒトからヒトへの感染伝播(基本再生産数)は起こりにくいとされていますが、特定の条件下では「スーパースプレッダー」のような現象が起こりうることも指摘されています。この点について、バングラデシュでの14年間にわたる調査データがNew England Journal of Medicine誌に掲載されているのでご紹介します3)。 この研究によれば、ヒトからヒトへの感染リスクを高める要因として、呼吸器症状、年齢、濃厚接触かどうかといった点が指摘されています。 呼吸困難などの呼吸器症状がある患者は、そうでない患者に比べて、他者に感染させるリスクが劇的に高いようです。この研究では、呼吸器症状のない患者からの感染拡大は、きわめてまれであったのに対し、呼吸困難を伴う患者は感染源になりやすいことが示されています3)。これは、咳などによる飛沫が感染の主要なルートとなりうることを裏付けています。 また、患者の年齢が高い場合や、看病などで長時間(とくに48時間以上)患者と接した場合、または患者の体液に直接触れた場合に、感染リスクが有意に増加するようです。実際、配偶者への感染率は他の親族よりも高いという結果が報告されています3)。 こうしたデータは、私たちが住む地域で万が一感染者が発生した場合にどう行動すべきかを教えてくれます。つまり、呼吸器症状のある患者との接触には飛沫感染予防策を含む最大限の警戒が必要で、体液への曝露を防ぐための厳重な感染防御策も不可欠だということです。進むワクチン開発 現在、ニパウイルス感染症に対して承認された特効薬やワクチンは残念ながら存在しません1)。治療はあくまで症状を和らげる対症療法に限られており、これが高い致死率が報告される一因となっています。リバビリンなどの抗ウイルス薬が試されたこともありますが、その効果は限定的あるいは不明確のようです1)。 しかし、希望がまったくないわけではありません。すでに、ニパウイルスワクチンの第I相臨床試験の結果が発表されています4)。 この試験で用いられたのはサブユニットワクチン。これは、ニパウイルスと非常に似た構造を持つヘンドラウイルスのタンパク質(G糖タンパク質)を利用したもので、交差免疫(似たウイルスに対する免疫反応)によってニパウイルスも防ごうという戦略です。 この試験は18~49歳の健康な成人を対象に行われていますが、深刻な副反応や死亡例は報告されず、主な副反応は注射部位の痛みなどの軽度なものでした。 また、100μgのワクチンを28日間隔で2回接種したグループで最も高い効果が得られ、2回目の接種から7日後には、ニパウイルスに対する中和抗体(ウイルスを無力化する抗体)が劇的に上昇しました4)。 この結果は、まだ初期段階の試験ではあるものの、将来的にこのワクチンが実用化されれば、流行地域で感染拡大を防ぎ医療従事者を守る予防接種として使える可能性を示唆しています。今、どう向き合うか ニパウイルスは、現時点ではヒトからヒトへの感染伝播が起こりにくい以上、日本国内で大規模な感染流行が起こったり、世界的なパンデミックを起こすリスクは低いと考えられます。そこは冷静に捉えておくべきでしょう。しかし、グローバル化が進む現代において「対岸の火事」と決めつけることもできません。 同時に、私たち人間は無力でもありません。ワクチンのような科学の進歩が、着実に解決への道を切り開きつつもあります。今私たちに必要なのは、「ただ恐れる」ことではなく「解像度の高い理解」でしょう。病原体が身近になればなるほど、誤情報も増加します。データが示す科学的根拠とともに、今後の動向を冷静に見つめていく必要があります。 1) Madhukalya R, et al. Nipah virus: pathogenesis, genome, diagnosis, and treatment. Appl Microbiol Biotechnol. 2025;109:158. 2) Ganguly A, et al. The rising threat of Nipah virus: a highly contagious and deadly zoonotic pathogen. Virol J. 2025;22:139. 3) Nikolay B, et al. Transmission of Nipah Virus - 14 Years of Investigations in Bangladesh. N Engl J Med. 2019;380:1804-1814. 4) Frenck RW Jr, et al. Safety and immunogenicity of a Nipah virus vaccine (HeV-sG-V) in adults: a single-centre, randomised, observer-blind, placebo-controlled, phase 1 study. Lancet. 2025;406:2792-2803.

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認知症患者の4人に1人に脳に悪影響を及ぼす薬が処方

 認知症のあるメディケア加入高齢者の4人に1人が、抗精神病薬、バルビツール酸系薬、ベンゾジアゼピン系薬などの脳機能に影響を及ぼす薬剤によって危険にさらされていることが、新たな研究で明らかにされた。これらの高リスクの中枢神経系(CNS)活性薬は、転倒やせん妄、入院のリスクを上昇させ、特に、認知機能障害のある高齢患者においてはその影響が顕著であることから、ガイドラインでは使用を控えることが推奨されている。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)デイヴィッド・ゲフィン医科大学院のJohn Mafi氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に1月12日掲載された。 Mafi氏は、「正常な認知機能を持つ患者と比較して、有害事象のリスクがより高い認知機能障害のある高齢者で、これらの薬剤の処方頻度が高いことが分かった」とニュースリリースで述べている。 本研究では、米連邦政府の健康・退職研究(Health and Retirement Study;HRS)のデータとメディケア請求データをリンクさせ、2013年1月1日から2021年12月31日の間に、メディケアパートA・B・Dに連続2年以上加入している65歳以上の患者4,842人を対象に、処方パターンを調べた。対象患者は、正常、認知症ではない認知機能障害(CIND)、認知症の3群に分類された。また、CNS活性薬は、1)抗コリン作用の強い抗うつ薬、2)抗精神病薬、3)バルビツール酸系薬、4)ベンゾジアゼピン系薬、5)非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を対象とし、これらの薬剤を1種類以上、28日以上処方されていた患者の割合を調べた。さらに、各処方の臨床的適応の有無についても判定した。 その結果、潜在的に不適切なCNS活性薬を処方された対象者の割合は、認知機能が正常な人で17.0%、CINDのある人で21.7%、認知症のある人で25.1%と推定され、認知機能の状態が悪いほどこのタイプの薬剤を処方されやすいことが示唆された。潜在的に不適切なCNS活性薬を処方された対象者の割合は、2013年の19.9%から2021年には16.2%へと3.7パーセントポイント有意に低下していた。臨床的に適切な処方は、2013年の6.0%から2021年には5.5%へとわずかに減少したが、統計学的な有意差はなかった。一方、臨床的に不適切な処方は15.7%から11.4%へと有意に減少していた。 Mafi氏は、「この減少は心強いものの、2021年時点で、これらの処方を受けていた患者の3分の2以上に、臨床的に正当化できる記録がなかった。これは、不適切で有害となり得る処方が依然として多いことを示している」と述べている。 対象とした薬剤の種類別に分析すると、2013年から2021年にかけて、以下のような傾向が認められた。・ベンゾジアゼピン系薬は11.4%から9.1%に有意に減少。・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は7.4%から2.9%に有意に減少。・抗精神病薬は2.6%から3.6%へと増加したが、統計学的な有意差なし。・抗コリン作用の強い抗うつ薬は2.6%のままで変化なし。・バルビツール酸系薬は0.4%から0.3%にわずかに減少したが、統計学的な有意差なし。 論文の筆頭著者であるUCLA内科レジデントであるAnnie Yang氏は、「高齢患者やその介護者は、これらの薬剤が本当に適切かどうかを医師と密に相談することが重要だ。不適切と判断された場合には代替治療を検討し、リスクを抑えながら薬剤の減量や中止が可能かどうかをケアチームとともに考えるべきだ」とニュースリリースの中で述べている。

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認知症に対する抗精神病薬中止に伴うBPSD再発リスクは?

 認知症の行動・心理症状(BPSD)の治療には、抗精神病薬が使用される。しかし、治療は有害な転帰と関連している。2018年のコクランレビューにおいて、治療群間の試験未完了者数の差を比較した結果、抗精神病薬の中止がBPSDにほとんど影響を及ぼさない可能性を示唆する質の低いエビデンスが示された。また、再発リスクの統合エフェクトサイズは報告されていなかった。英国・St Pancras HospitalのSophie Roche氏らは、認知症患者における抗精神病薬中止後のBPSD再発の統合リスク比(RR)についてメタ解析を実施した。Alzheimer's & Dementia誌2025年12月15日号の報告。 本研究では、BPSDの再発リスクに試験デザイン(エンリッチド・レスポンダー・サンプルvs.長期離脱患者)、治療期間、フォローアップ期間、離脱速度、性別が影響を及ぼすという仮説を立てた。2018年1月~2024年6月に公表された研究について、PsycINFO、EMBASE、PubMed、ClinicalTrials.govのデータベースよりシステマティックに検索した。2018年のコクランレビューで特定された研究8件もメタ解析に含めた。 主な結果は以下のとおり。・解析対象研究は9件、観察結果682件およびイベント135件が報告された。・再発の定義には、BPSD悪化による参加者の除外または抗精神病薬/救急薬の定期処方開始を含めた。・ランダム効果モデルでは、抗精神病薬の中止による再発のプール相対リスクは1.52(95%信頼区間:1.18~1.95、p=0.005)であった。・メタ回帰分析の結果、試験の種類、離脱速度、フォローアップ期間、性別は再発リスクに影響を及ぼさないことが示された。 著者らは「抗精神病薬が不要と判断された患者においては、慎重な処方や減量または中止することが重要であるが、服薬を継続すべき患者も存在する。再発の相対リスクは、試験デザインに影響されず、処方を減らして有効性を証明することを目的とした両試験でエフェクトサイズが同等であったことは、とくに驚くべきことであった。抗精神病薬中止の成功に関連する因子を特定するには、さらなる研究が必要である」とまとめている。

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